俺は、世界の半分(女性)を手に入れてみせる! 作:キャプテンキャップ
さて、回想も終わったところで改めて店内を見てみる。中高生が何人か立ち読みしているくらいであとはガランだ。お陰で楽だけど。
「新人、そろそろ飲み物の補充にいってくれ」
「うぃっす……って、だから新人っていうのやめてくださいよ、アキさん」
うっせ。と返してくるバイトの先輩。まあ、いつものやり取りだ。そんな俺たちの会話を聞いて、隣でクスクスと笑うのは同じバイト仲間である
160センチ(本人の談だが、どう見てももう少し小さい)の低身長に、可愛らしい童顔な琴歌さんはよく中学生に間違われるらしいが、こう見えて
胸のこと? そんなの口に出したらセクハラじゃないか。
ここには春から通っているとバイト初日に教えてもらった。まあ、これは前から知ってたけど。なんせ近所のコンビニだからな。
ちなみに琴歌さんはこの店の従業員の中で一番可愛かったりする。
「ふふ。相変わらず仲が良いね、2人とも。だけどアキさん、あまり
「あーはいはい。琴歌は新人には甘いなぁ。ったく」
「ふふ、だってこの子、可愛いじゃないですか」
溜め息を吐くアキさんに、琴歌さんが俺の頭を撫でながら言う。ちなみに琴歌さんはつま先立ちだ。低身長の彼女はそうしないと俺の頭に手が届かないからな。そこがまた可愛いんだけど。
「良かったなあ、新人。こんな可愛いお姉さんに気に入って貰えて」
「全くです」
「……お前、少しは否定しろよ」
半眼で見てくるアキさんに、「そこが可愛いんじゃないですか♪」と琴歌さんがさらに頭を撫でてくる。まあ、琴歌さんが俺の事を気に入っているのは間違いなく『フェロモン』のスキルの効力だろう。
アキさんが面白くなさそうに「はいはい、そうですか」と顔を背ける。
今の態度を見ると、アキさんが琴歌さんに気があるんじゃないかと思うかもしれないけど、それはない。この人、彼女がいるらしいからな。ただ、遠距離恋愛らしいので、こうやって異性同士が楽しそうにしているのを見ると面白くないらしい。
「おら新人、琴歌。いつまでも油売ってないで仕事しろ」
「了解です。それじゃ、俺は飲み物の補充に行ってきますねっと」
いってらっしゃい。との琴歌さんの声を聞きながら冷蔵庫の裏へ回るのだった。
☆
コンビニのバイトといえばレジ業務の印象が強いが、意外とやることは多い。
商品の検品や品出し、肉まんやチキンなどの調理、賞味期限のチェック、店内の清掃など多岐に渡る。だけどまあ、どれもマニュアル化されているので覚えてしまえば割と楽だ。
というわけで、店内一番奥にある冷蔵庫(ウォークイン冷蔵庫というらしい)の
この作業、飲み物を後ろから置いていくだけなのだけど、たまにお客さんと目が合うのが難点なんだよなあ。
とか思っていると、まさにそれが発生した。
目の前の扉を開けた女性客とバッチリ目が合ったのだ。
不意を喰らって驚く俺。当然、相手も驚く。そして固まり見つめ合う。
すぐに目を逸らすなり謝るのが店員の対応として正しいのだろうが、彼女の容姿が俺にそうさせなかった。
純情系とも言える美人さんが目の前にいたのだ。
年の頃は
長い睫毛に柔和な弧を描く目。すっと通った鼻梁。艶のある桜色の唇はグロスの入った口紅だろうか。
服は白色のワンピースとこれまた清楚さを感じさせる。麦藁帽子でも被ってればどこぞの深窓の令嬢かと錯覚するかもしれない。
しかも、だ。
彼女は飲み物を取ろうと屈んでいるので、重力に引かれた襟元からは刺繍の入った白のブラと深い肉の谷間が丸見えだった。
こんなの見たらそりゃあ、硬直するよね、ハハッ。……ってバカ! いつまでガン見してるんだ俺!
「あ、ご、ごめんなさい!」
しかも俺が謝るよりも再起動するよりも早く、向こうが再起動して謝ってしまった。
「ああ、いえ。こっちこそすみません。……えっと、補充終わったんで、どうぞ?」
「あ、ありがとうございます……」
棚越しに会話する俺たち。
俺のぎこちない言葉に、女性客もぎこちない声と動作でペットボトルのお茶を1本取ると、冷蔵庫の扉を閉めて小走りで離れていったのち…………ああ気まずかったー! 俺もようやく再起動した。
ていうか、超綺麗な人だったー!
☆
「清楚系な美人? ……ああ、さっきの客か。あの女性なら2、3日のペースで来るが、新人は初めて見たのか」
バイトの間では美人な客だと結構有名だぞ。と、料理用の流しを洗っているアキさんが教えてくれた。なるほど、有名な人なのか。確かにあれほど綺麗な人だったら有名にもなるよなあ。きっと狙っている奴とかもいるはず。俺みたいにな! あんな綺麗な人なんだ、お近づきになりたいと思うのが男の
「……って、あれ? アキさんは興味なさげ?」
俺が納得している間も、我関せずとばかりに流しの清掃を続けているアキさんを不審に思っていると、琴歌さんが茶化すように「ムフフ♪」と笑う。
「アキさんは彼女一筋なんですよねー?」
「……悪いかよ」
ぶっきらぼうに答えるアキさん。……おー、見た目チャラ男なのに意外だ。
「お前、今絶対失礼なこと考えただろ」
チャラ男(真面目)が睨んでくるが、もちろんすっとぼけた。
「んで、あの人の名前とかは――」
「知るか」
そりゃそうだ。でもまあ、2、3日間隔で来るってんならまだ機会はあるだろうし。扉越しだったからばっちし『フェロモン』を浴びてるだろうからな。驚いて性的な目で見れなかったのは痛いが。
相手を性的興奮に落とすには、俺が性的な目で見る必要があるのだ。ま、これも今度会った時でいいだろう。
「ふぅん。洋君ってああいう女性が好みなんだ?」
なんだか面白くなさそうに琴歌さんが言うので「もちろん琴歌さんも好みですよ?」と返す。
「そう? なんだか催促したみたいで悪いなあ。でも、洋君のそういう正直なところが可愛いぞ♪」
今度は機嫌よくほっぺたを
どうせなら新しく手に入れたスキル『シチュエーションプレイ』を試したいからな。
琴歌さんにも、あの綺麗な女性客にも。……まあ、どっちもまだ、どんなシチュ内容にするか決めてないんだけど。
「お前らバイト中にじゃれあうな。立ち読みしてるガキどもしか居ないとはいえ、あいつらも一応客なんだからよ」
おっと、アキさんに怒られた。見た目チャラ男だけど本当に真面目なのだ、この人は。
頷く俺たちに、アキさんは声を潜めて続ける。
「最近はこの辺の店で万引きも多発してるって話だし。目は光らせておけよ」
そして顎でしゃくるのは立ち読みしている数人の中高生たち。……そういやオーナーがそんな話してたっけ。幸い、この店はまだ被害にあってないけど、これからもそうとは限らない。アキさんが警戒を促すのも分かる。
もう一度頷く俺たちを見て満足げな顔をしたアキさんは、レジを俺たちに任せて商品棚の整理に向かった。……見た目チャラ男だけど、本当の本当に真面目なのだ、あの人は。
それにしても万引き、ねぇ。
万引きといえばテレビとかでたまに見る万引きGメンを思い出すな。店を出てから捕まえ、事務所で持ち物検査――って、持ち物検査? ……持ち物検査か。
それで閃いたね。あの女性客にするシチュエーションの内容が。
万引き容疑で身体検査。これだ。
☆
それから2日後の午後2時過ぎ――。
現在のシフトは俺とアキさんのみ。
今日も今日とてバイトに精を出している(といっても殆ど客がいないが)と、自動ドアが開いてお客さんが入ってきたのでカウンターの内側から挨拶する。
「いらっしゃいませー。……っ!」
入ってきたのはお目当ての彼女だ。
ついにこの時が来たかと唾を飲み込みながら、『シチュエーションプレイ』のスキルをオンにして、
スキルの説明では俺の行動
「……どうした新入り? 何をそんな熱心に見――ああ、あの女性客か」
アキさんが訊ねてきたけど、俺が見ている人物を確認した途端「程々にしとけよ」と興味をなくしたようだ。
その間も、俺は彼女のことを目で追う。
彼女は冷蔵庫から何かしらの飲み物を取ると、今度はお菓子コーナーへ行き、なにやら熱心に棚の端から端まで何度も往復しながら選んでいる様子。……行くなら今だな。
「アキさん。あの人、様子がちょっと変かも。……もしかしたら何か盗られたかもしんない」
「……何? 確かに挙動不審にも見えるが……」
見極めようとしているのか、アキさんの目が細まる。もちろん、俺が言ったのは全て嘘だ。だけど、シチュプレイの為の状況を作り出すには必要な嘘だ。
「確かなのか?」と確認してくるアキさんに「よく見えなかったけど、多分」と返す。
「多分てお前……確証がないと捕まえられないだろうが」
チッと舌打ちしつつ、アキさんがちらりと防犯カメラを見る。あれに映っていないかと思ったんだろうけど、あいにくと防犯カメラに記録された映像を確認できるのは原則オーナーのみだ。俺たちに権限はない。
……まあ、そのことを知ってるからデマカセ言えるんだけどね。映像を確認できたら彼女が万引きしてないのバレちゃうし。
「俺、直接あの人に持ち物を確かめてさせてもらえるように頼んできます。なので、スタッフルーム借りますね」
俺の提案に、アキさんがギョッと目を見開いた。
「ばっ、おまっ! 間違ってたらどうする!?」
クビもんだぞ!? と。だけど俺は「大丈夫です」と力強く頷く。
「……本当に大丈夫なんだな?」
また、頷く。
「ちっ、わーったよ。行って来い。スタッフルームも好きに使え。……ただ」
「?」
「もしお前の見間違いだったり勘違いだったら、俺も一緒に謝ってやるよ。それで許してもらえるか分からねぇがな」
「……アキさん」
見た目チャラ男だけど、真面目なのだ、この人は。
「おら、とっとと行って来い」
「……」
こくりと頷き、カウンターを出る。
……まあ、アキさんがまさかの男気を見せてくれたのはいいんだけど、一緒に謝るような展開にはならないと思うんだけどね。
だってあの女性客にはすでに『フェロモン』当ててるし。このスキルを当てられた人は、俺のいう事を無視できない。
俺の勘違いだったと言えば、彼女は無条件で許してくれるのだから。
☆
未だお菓子コーナーで悩んでいる女性客のほうへ近づき、声を掛ける。
「あの、お客様、ちょっとすみません」
「はい!?」
よほど真剣に悩んでいたのか、俺の声にビクッと一瞬体を強張らせながら振り向く。彼女を性的な目で見るが、顔を赤らめたり息を乱れさせたりと性的な興奮が見えない。これは『フェロモン』が効いてないのではなく、『シチュエーションプレイ』――長いから『シチュプレイ』でいいか――のスキルが働いているせいだろう。ここで彼女が性的な興奮を覚えたらシチュも何もあったもんじゃないからな。
とりあえず、『シチュプレイ』のスキルが働いているらしいことが分かったんだ。
……さあ、始めようか。
「大変失礼ですが、先ほどからカウンターのほうでお客様を見ていたのですけれど、少しばかり不審な点が見られたのでお声がけさせて頂いたのですが……」
「え? ……ああっ、す、すみません!」
慣れない敬語で話しかけると、思い当たる節があったのか、がばっと頭を下げながら謝ってくる女性。……え、何で謝られてるの俺? え、あれ? もしかして本当に万引きしてたの、この人?
「探しているお菓子が見つからなかったので、つい同じ場所を何度もウロウロしてしまいました……」
顔を真っ赤にしながら事情を説明され「ああ、なるほど」と納得。……っていやいや。納得したら駄目だろ。万引き容疑でスタッフルームに連れ込まないといけないんだから、彼女の言い分も利用しないとな。
「お客様の事情は分かりましたが、とりあえずスタッフルームまで来てもらえますか? そこで簡単にお荷物を確かめさせてもらいたいのです」
「あ、はい。……ええっ!?」
一度は頷いたものの、驚いた女性が肩から提げていた鞄をぎゅっと抱く。まあ、鞄の中なんて見られたくないよなぁ。……だけどその行動は余計に怪しまれると思うんだ。
「すみません。一応規則なので」
ぺこりと頭を下げながら言い切ると、「き、規則ですか。なら仕方ないですね」と了承してくれた。あ、この人押しに弱そう。それかこれも『シチュプレイ』スキルの効果なのか。……見た感じただ押しに弱いだけのような気がする。
とりあえず了承は貰ったのだから、さっさとスタッフルームへ移るか。