俺は、世界の半分(女性)を手に入れてみせる! 作:キャプテンキャップ
歩きながら、空を見上げる。
突き抜けるように高く、それでいてどこまでも深く、澄んだ青い空。
髪を撫でる風からは潮の香りが漂い、空を飛ぶ海鳥の鳴き声が耳を通り抜け、遠くからの波の音をBGMに、ここが港町なんだと改めて認識させられる。
……なぁ~んちゃって。
歩いているだけだとあまりに暇なんで状況描写してみたけど、キャラじゃないな。
俺は今、コンビニに向かっている途中である。なぜかといえば、暇だから。あと、じいちゃん家にジュースやお菓子の類が何もなかったらだ。正確に言えば、昨日のうちにノリのアホが1人で全部飲み食いしたから。なので買いに行く羽目になった。父さんがいれば車で連れてってとお願いもできたんだけど、生憎と知り合いと車で釣りに出ていなかったのだ。そういやじいちゃんも付いてってたな。
ノリは
母さんは新鮮な魚介類を求めて、ばあちゃんと一緒にスーパーなどを物色中のはずである。従妹の
ぃやあ、うちの家族はバイタリティ溢れてるね(里姉除く)。特に俺の妹と弟。毎年来てるとはいえ、見知らぬ土地で友達作るとか。どんだけコミュ力強いんだって話だ。俺も人並みのコミュ力はあると思うけど、真似できないなあ。
……というかコンビニ行くだけなのに、なんで俺こんなに歩いているの? もう10分以上は歩いてるぞ? まあ、毎年思っていることなんだけど。流石は田舎。町に1軒しかコンビニがないだけある。ジュースと菓子が欲しかっただけなんだけどなあ。じいちゃんの家からコンビニまで徒歩で約半時間も掛かる。かといってじいちゃん家に自転車はない。余りの不便さに溜め息が漏れた。まあ、これも毎年思っていることだけど。
というか、今日も暑い。暑すぎる。帰りのことを考えたら飲み物は数本買っといたほうがいいな。うん。
俺は額を流れる汗を拭いつつ、コンビニを目指すのだった。
「ありぁっとござぃあしたぁ」
もはや言葉を呈していない店員の声に背中を押されつつ、コンビニを出る。冷房の効いた店内からサウナのような店外へ。……マジあちぃ。早くも汗が噴きだしてきた。時刻は正午を過ぎたあたり。太陽の攻撃が一番堪える時間帯。
こっから帰ると考えただけで
そうと決まればさっさと帰りますかね。
歩き始めて数分後。
「――っぷはぁ~。やっぱジュース数本買っといて正解だったな」
買ったばかりのペットボトルを開けてさっそく飲みながら住宅地を歩いている俺がいた。いやだって暑いし。そう考えたら道順も変えて正解だったよ。家々が作る日陰を歩いているのにも関わらず、この汗だもの。海沿い歩いてたら死んでたね、マジで。自分の慧眼に賞賛を贈りたい。
それからしばらく歩いていると、セーラー服を着た数人の子達とすれ違った。
幼い顔立ちや膝丈のスカートを見るに地元の中学生なのだろう。
この町には小学校、中学校まではあるけど高校はないからな。……というか夏休みなのになぜに制服? 係りか何かで学校にでも行ってたのかね? まあそれはともかく、制服姿のJCに一瞬ムラッとするも、我慢我慢。
ただでさえ子供が少なくなっていると聞く町だ。貴重な処女(だと思う)のJCを俺の一瞬の肉欲に任せて奪うというのも、地元の青少年に悪い。
遠ざかっていく少女たちの背中を少し名残惜しみながら見送った俺は、再び歩き出した。
それからしばらく……さっきの中学生たちを最後に、誰とも出会わない。おいおい。ここ住宅密集地だぞ? ほんとに人が住んでるの? と疑いたくなるレベルで誰とも会わない。いやまあ、そこらの家からはテレビの音とか話し声が聞こえてくるから居るんだろうけど。ここまで出会わないとなんだかなぁ。
気味の悪さを感じながら小さな公園の前を通ったその時、
「んん?」
ふと視界の隅に留まった物があった。
それは本当に偶然に、目に留まった物――ランドセルだ。
赤いランドセル。それが、公園の
このまま無視しても良かったのだけど、なんだか気になった俺は公園へと入り、薮の中からランドセルを引っ張り出した。
「うお、けっこう汚れてんな」
あちこち泥やら土やらで汚れている。角などは擦り切れてるし。まるで長いこと放置されていたみたいだ。
さて、気になって引っ張り出したは良いものの……コレ、どうしよう。
汚れ具合からして捨てられたっぽくもあるから、やっぱり見なかったことにして元の場所に戻しても良いんだけど……イジメとかで隠された可能性もある。あとでそうだと知ったらきっと目覚めが悪いよなあ。
「……届けるとするか」
結局、そう決めた。
持ち主の名前が書かれてないか探してみる。……あった。ランドセルの横に名札ケースがあって、そこに書かれていた。
(えーっと……『3年2組 なかじま かおる』ね)
名前の横に住所も書かれているのは幸いだ。ふむ、この住所なら何となく分かる。伊達に毎年訪れているわけじゃないので。
幸いというか時間はある。有り余っているといっても過言ではない。住所の場所も大体ではあるけど分かる。なので届けよう。
本当は汚れとかを落としてあげたいけど、
というわけで、俺は拾ったランドセルを手に歩き出した。
気紛れで起こしたこの行動が、まさかあんなことになるとは、未来を予知できない俺には予想だにできなかった。
それからさらに1時間余り。
「……お、あったあった。ここだな」
少し道に迷いながらも、どうにかランドセルに書かれていた住所を見つけ出した。表札を見れば『中島』と書かれているから間違いないだろう。探し出せた自分を褒めてあげたいね。ちなみにここまでの1時間、誰とも会わなかった。道を聞ければもっと早くつけただろうに、運悪く誰とも会わなかったのだからしょうがない。……本当にどうなってるの、この町。こんなに人と会わないもんだっけな?
それはともかく。俺は目の前の家を眺める。
この町ではよく見かけるタイプの木造2階建て……なんだけど、なんか雰囲気あるなあ。他の家と違って圧迫感があるというか。
まあ眺めてても仕方ない。
俺は肩を竦めてインターホンを押した。ピンポーンと軽快な音が聞こえ――ない。あれ? インターホン壊れてる?
首を傾げた次の瞬間、玄関の扉がゆっくりと開き、女性が顔を覗かせた。おぉう、ちょっとビックリしたー。壊れていると思っていたインターホンはちゃんと動いていたらしい。
気を取り直した俺は、女性を眺める。
身につけているのは、少し古く感じるデザインの膝丈ワンピース。そして艶のある長い黒髪。美人といっても差し支えない顔に、線の細いほっそりとした体。
そして何より目を惹くのが――病的なまでに白い肌。
「……どちらさまでしょうか?」
女性が尋ねてくる。俺ははっと我に返り、ここに来た理由を告げた。
「えっと、ここに、かおるという小学生のお子さんはいらっしゃいますか?」
「ええ……かおるはうちの子ですけど」
良かった、ちゃんと合ってた。ほっと胸を撫で下ろす。
ならこの女性はかおるちゃんの母親なんだろう。すんごい若く見える。外見は20代前半。とても小3になる子供がいるようには見えない。
ただ……なんだろう、かおるちゃんのことを聞いたら母親のほうから妙な圧力みたいなものを感じるんだけど。目つきも恐い。……まあ、知らない男が突然来て娘の名前を出したら警戒もするか。ここはさっさとランドセルを渡したほうが良さそうだ。
「えっと、近くの公園でこのランドセルを拾って、名札にあった住所を頼りに来たんですけど。かおるちゃんの物で間違いないですかね?」
ランドセルを見せると、母親は驚いた顔で俺からひったくるようにしてランドセルを取る。
「ええ、ええ! かおるのランドセルです! ずっと探しても見つからなかったのに。ずっと、ずっと!」
「……あ、ごめんなさい。私ったらお礼も言わないで……本当にありがとうございます」
「ああ、いえいえ、お気になさらないで下さい。たまたま見つけただけですし!」
目尻に溜まった涙を指で拭い、深々と頭を下げる母親に俺は慌てて頭を上げるよう頼んだ。
「そうだ。良かったら中に入って休んでくださいな。お外は暑いでしょう?」
頭を上げた母親がそう言ってくる。確かに暑いし……お邪魔しようかな?
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「ええ、どうぞどうぞ」
女性に促されるまま、玄関の扉をくぐる。ひんやりとした空気が出迎えてくれた。冷房が玄関まで効いているみたいだ。……というか薄暗いな。
玄関はおろか、続く廊下まで薄暗い。差し込むのは後ろの扉から差し込む光のみ。それも今、扉が閉まったことで途絶えた。あとは薄暗い闇だけが残り、その中にぽつんと、かおるちゃんのランドセルを抱えた母親が立ち、俺が上がるのを待っている。その姿がなんだか……薄気味悪い。
知らず知らずのうちにゴクリと唾を飲み込む。いや、気のせい気のせい。こんな美人な人妻を薄気味悪いだなんて失礼にも程がある。
頭を振って気を取り直し、「おじゃまします」と靴を脱いで家に上がった。
「こちらへどうぞ」
通されたのは、廊下を少し進んだところにある扉。そこは六畳ほどの居間だった。ただやっぱり薄暗い。
窓という窓は締め切られ、分厚いカーテンも引かれている。……陽の光が苦手なのかね?
「狭い家ですみません。適当なところへどうぞ座って休んでください」
「あ、はい」
突っ立ってても失礼なので、部屋の中央にあるちゃぶ台の前に俺が腰を下ろすと、女性も腰を下ろし、抱えていたランドセルを手元に置いた。
「そういえば、かおるちゃんは?」
「かおるは……今でかけております」
そう答える女性の表情には、どこかもの悲しげな色があった。……出かけているだけでする表情じゃないよコレ。思いっきり何かあったっぽいなぁ……これ以上は踏み込まないでおこう。うん。
「ですので、良ければかおるが帰ってくるのを待って頂けますか? すぐに帰ってくると思いますので」
あれえ? 本当に出かけてるだけ? だったらさっきの思わせぶりな表情はなんだったんだ?
「あの子も無くしたと思っていたランドセルが戻ってきたと知ったら喜ぶと思いますし、お礼も言わせてあげたいのですが……」
「はあ……」
俺の返事を不安そうな顔で待つ女性。……まあ、すぐに帰って来るというんだったら待ってもいいかな。特にやることはないし。……決してこの美人な奥さんと一緒にいたいとかそんな不純な動機じゃないぞ?
「分かりました。かおるちゃんが帰ってくるのを待ちます」
「そうですか、ありがとうございます」
俺の返事に笑顔を見せる女性。その姿になぜか、背筋に悪寒が走った。答えてはいけない問いに答えてしまったかのような感覚。……いやいや、だから気のせいだって。
「あらやだ。私ったらお茶も出さずに。ごめんなさい、すぐに何か持ってくるわね」
「あ、お構いなく。飲み物ならほら、持ってますので」
立ち上がろうとする女性を引きとめ、脇に置いていたコンビニの袋からまだ空けてないジュースのペットボトルを取り出してみせる。
「そう、本当に気がつかなくてごめんなさいね。……これでよく主人にも怒られるの」
悲しげに顔を伏せるかおるちゃんの母親。その時のことを思い出しているのか、右腕を左手でぎゅっと抱く姿が痛々しい。……というかこんな美人をこんな風に悲しませるほど怒るとか。なんて旦那だ。まったくもってけしからん。美人な奥さんがいる時点で勝ち組だろうに。美人がドジを踏むなど愛嬌以外のなんでもない。ほんと許せん。
「……あの、やっぱり怒ってますか」
俺の怒りが伝わったのか、女性が不安げな顔で尋ねてくる。
「へ? ああっ、いえいえ! 俺が怒ってるのは、かおるちゃんのお母さんにではなく、旦那のほうに――って、あ」
誤解を解こうとつい本音が。旦那をディスってどうするよ。見ろ、かおるちゃんのお母さんも目をまん丸にして驚いているじゃないか。これは……気まずい。
そう思っていたのだが、
「……ふふ」
「?」
驚きの表情から一転、嬉しそうに噴き出す女性に首を傾げる。
「こんな私のために怒ってくださり、ありがとうございます。あなたは優しい方なのですね」
「へ? あ、どう――も?」
何だか良く分からんが好感触だ。……いや、とっくに『フェロモン』の範囲内なのだから、この反応も当然か。
「良く良く考えてみれば、結婚してからというもの、誰かに優しくされたことなどなかったように思えます……」
「…………」
何か重い話キタ!
「主人には毎日のように気が利かない女だと怒られ、
思った以上に重い! なんだその昼ドラみたいな環境は! 聞いてるこっちが暗くなるわ! えぇっと……こういう時、なんて言葉を掛ければいいんでしょう?
「えっと……大変だったんですね。でも、それは奥さんが悪いんじゃなくて、周りが勝手なだけだったんだと思いますよ……って何言ってんでしょうね、俺」
一介の高校生にはこういうの荷が重いんじゃないだろうか。それでも声をかけたんだから、むしろ良くがんばったよ俺。
「ふふ……本当に優しい方」
目を細め、慈愛に満ちた表情を向けてくる、かおるちゃんのお母さん。
「そんな優しいあなたに、お礼をしても宜しいでしょうか?」
「お礼、ですか?」
ええ。と返しながら、座ったまま
「娘のランドセルを見つけ、届けてくださったお礼と――」
「と?」
徐々に距離が狭まるにつれ、彼女の潤んだ瞳や上気した頬が、薄暗い部屋の中でも見て取れる。
「――私に優しくしてくださったお礼です」
さらに近づき、女性の匂いが嗅ぎ取れる。それは明確な
「