俺は、世界の半分(女性)を手に入れてみせる! 作:キャプテンキャップ
01:約束のコスプレイベント
01:約束のコスプレイベント
「こっち視線下さーい」
「はーい♪」
「得意のポーズ、お願いします」
「こうですかー?」
「一枚いいですか?」
「はい♪ 可愛く撮って下さいね♪」
多種多様な衣装に身を包んだ女性たちの周りに群がる、カメラをもった男たち!
「田中氏、ぽけっとしてないで我らも行きますよ」
周りの光景に圧倒されていると、佐々木に声を掛けられ我に返る。
「お、おう」
「では、参りましょう!」
肩で風を切り、
そう、俺はかねてより佐々木と約束していたコスプレイベントへと来ていたのだった。
☆
「……はー、コスプレイベントってすげーな」
歩きながら、辺りを見渡して呟く。
広大な敷地の中央に建つ巨大な建物の周囲全てがイベント会場だというのも驚きだが、どこを見ても、人、人、人。聞こえてくるのはセミの声を圧倒する男たちの野太い声と、レイヤーさんたちの可愛らしい声。そして大量のシャッター音。おまけに屋台なども出ており、ちょっとした祭りといった感じだ。
「ふふ、そうでしょうそうでしょう。この熱気こそがコスプレイベントの醍醐味というやつです」
ドヤ顔で語る佐々木。……それはいいけど、お前が持ってるそのプロの写真家とかが持ってそうなゴッツイカメラ、なんなのそれ?
佐々木が首から下げているのは一眼レフ仕様のデジカメだ。それはまあいいんだけど、これまたゴツイレンズにストロボ(というのか?)装備、ファインダーのところには箱みたいなものが取り付けられていた。何だその重装備。全部で幾らしたんだよと聞きたくなる。
いくらなんでもやりすぎだろうと思ったけど……すれ違う人たちも似たような装備のカメラを持っていた。え? これが普通なの?
「ええ、これくらいは普通です」
疑問に思って佐々木に訊ねてみれば、頷きが返ってきた。マジか。
「そういえば田中氏はカメラを持ってきていないようですが?」
今度は佐々木が訊ねてくるも、
「あ、もしかしてコンパクトタイプの奴ですか? 最近はそのタイプのデジカメも性能が上がりましたからね、コンパクトだからと
俺が答える前に1人で納得したように手を打ち、
「勝手に納得するな。そもそも俺、カメラなんて持ってきてないぞ」
佐々木の言葉を
「持ってきてない!? ではどうやって撮るつもりですか!?」
「いや普通にスマホで」
俺がズボンのポケットから取り出したスマホを見て、さらに驚愕で目をひん剥く佐々木。いや驚きすぎだろ。というか写真なんてスマホで十分だろ。最近のは解像度が凄いんだぞ? よく分からんけど。
「……まあ、田中氏がそれで良いのなら」
何か言いたげだった佐々木だが、その言葉を飲み込んだっぽく、一応は納得してくれた。
「それにしても人多いなあ」
「毎年こんなものですよ」
……マジか。
「ああ、でも、今日は随分とすいすい歩けますね。初参加でこれは運が良いですよ、田中氏」
笑みを浮かべる佐々木だったけれど、それは違う。
よくよく見れば、周りの人たちが俺を避けて――というか道を譲って――いるのが分かるだろう。
それは多分、『フェロモン』のスキルのお陰なんだろうなあ。佐々木はそれに便乗している形で、だからこそ俺たちはこんな人ごみの中でも比較的スムーズに歩けるのだ。ほんと、スキル様々である。まあ、それでもちょくちょく肩がぶつかったりするけど、それくらい混んでいる証拠だろう。
「それでは田中氏、そろそろ自分たちも撮影をしましょうか」
「ん? 今日は
確かそんな話だったはず。
ちなみに佐々木の話では、『RUN】っていうレイヤーさんはこの界隈ではとっても有名らしい。前に画像(撮影:佐々木)を見せてもらったけど、確かに美人だった。
「自分が入手した情報だと、RUN様は午後から参加するそうです」
右目を隠す前髪をかき上げながら、自慢げに語る佐々木。いやそれどこ情報だよ。……まあ普通にそのRUNって人のSNSからの情報なんだろうけどさ。
「ともあれ、それまでは自分が気に入ったレイヤーの写真を撮りましょう」
「おう」
「田中氏は初参加ですし、最初は自分と一緒に行きましょうか。撮るさいの礼儀や注意事項もお教えしますよ」
「お、それは助かるな。頼りにさせてもらおう」
「ええ、同志のためならば」
俺が笑いながら佐々木の肩を叩けば、佐々木がふっと笑い返してくる。それを見ていた近くの2人組みのレイヤーさん(女性)が「おお、眼福光景」「ktkr!」「どっちが受けだと思う?」「普通なら前髪長い子がそうだけど――ここはやっぱもう1人の子が総受けで!」「きゃーっ、リツ鬼畜ー! でも分かるー!」とかよく分からん盛り上がりを見せていた。……受けってなんだ?
「む、今のやりとりが腐女子のセンサーに引っかかったようですね。これはいけません」
腐女子? センサー?
「一刻も早くこの場から撤退しましょう田中氏。早くしないと彼女たちの頭の中で掛け算されてしまいます!」
掛け算?
首を傾げつつ、早歩き(イベント会場で走るのは禁止らしい)で盛り上がるレイヤーさんたちから離れる佐々木を追う。
「「きゃーっ、禁断の逃避行ー!」」
後ろからの黄色い声に、よく分からんが背筋に悪寒が走った。
……コスプレイベントには俺の分からない単語がいっぱいだ。
☆
10メートルほど離れたところで立ち止まる佐々木。
「ふー、ここまで離れれば大丈夫でしょう」
「さっきのはなんだったんだ?」
腐女子やら掛け算やら。何かの専門用語か?
「……まあ、専門用語といえばそうですが、田中氏は知らなくても良いことです」
ふっ、と遠い目をする佐々木。……うん、聞かないほうが良さそうだ。
「では気を取り直しまして。田中氏、誰か撮ってみたいレイヤーさんは近くにいますか?」
「そうだなぁ……」
佐々木の言葉に辺りを見渡す。男女問わず、色々な格好をしたレイヤーさんたちが目に入る。
露出過多な派手な衣装。
逆にかちっとしたお堅い衣装。
ほかにも制服や鎧姿なんてのも見えるし、それらに合わせてネコミミや銃器などのアクセサリーを組み合わせている人などもいる。
これらは全てが全て、ゲームやアニメ、漫画といった作品のキャラなんだろう。……元々こういった知識がないだけに、彼ら彼女らのコスプレの元ネタが殆ど分からんけど。
にしても――現代日本の日常の光景に溶け込む、非日常的な光景だな、これは。
これは見ているだけでも結構楽しい。とはいえ今日の目的は写真を撮ることだ。なので自分好みの被写体を探す。もちろん男のレイヤーさんは除外だ。
「……おっ」
向こうのあの女性の衣装、見覚えがあるな。
刺繍入りの丈の短いミニスカ風の赤い着物に、ハイソックス、ショートブーツの組み合わせ。ド派手なピンクの長髪。……あれは流石にカツラだろうけど。
あれは確か、前に佐々木から借りた漫画、『
『
んでもってメインヒロインは戦国時代からタイムスリップしてきた、某国のお姫様。天然キャラで性におおらか。スタイルも抜群で、一目ぼれした主人公に猛アタックをかけてた。そして荒ぶるモードに入った主人公の餌食となるまでがパターン。
あと変なカラクリ道具を作るのが趣味なんだけど、作っては毎回の如く失敗してたっけ。
レイヤーさんも綺麗だし、スタイルもキャラほどではないが良い。ミニスカ風の着物も素人目ながら原作通りに見えるし、手に持っているこけし風の小道具の出来も良い。うん、キャラにピッタリって感じだな。
「目を引かれるレイヤーさんがいましたか?」
「おお、あの人あの人」
俺はさっきの女性を指し示した。彼女の衣装を一目見て、佐々木も納得がいったようだ。
「なるほど、前に貸した『
流石は同志。お目が高い。と手放しで褒めてくる。
そりゃどうも。でも同志って言うな。
「そういや、ああいう衣装ってどこで買ってるんだろうな?」
「買う場合もあるそうですが、大抵は自作らしいですよ」
自作!? と驚く俺に、佐々木は「自分の体格に合わせないといけませんし、既製品は高いみたいですから」と教えてくれた。それで自作とは……レイヤーさんすげーな。
「では被写体も決まったことですし、行きましょうか田中氏。実際に撮りながら、撮影の作法をお教えしましょう」
佐々木に引きつられる形でレイヤーさんの元へ行くも、彼女を中心にして多数の男たちが何重にもなって周りを取り囲んでいて、近くへ寄れそうにはない。
どうすんのこれ? と初心者の俺は玄人の佐々木を見る。
「まずは近くまでいきます。ベストポジションの確保こそが基本にして最大の難所です」
なるほど。目の前の男どもの壁を見て納得。これを越えて最前列に行くのは大変そうだ。
「むりやり掻き分けて行くのか?」
「禁止こそされてませんが、あまりオススメできませんね」
「何で?」
「不興を買ったカメコの人が悪質だったら、ネットに画像つきで最悪さらされますよ?」
……こわっ!
「まあ、撮った人から
それならいいけど。……でもこの炎天下の中、順番が来るまで待つってのもなぁ。俺は手でひさしを作りながら頭上を見上げた。高い青空には夏の代名詞である入道雲を従えて灼熱の太陽が
ちょっと気が引けるけど、仕方ない。
佐々木に尋ねる。
「なあ、周りの人に断って前に行くのは良いんだよな?」
「ええ、了承を得られるのであれば問題ありませんよ。……了承を得られればの話ですが」
うし、だったら問題ないな。俺は佐々木に頷くと目の前の肉壁と化した人たちに声をかけた。
「すみません、前の方に行きたいので通ってもいいですか?」
「ちょ、田中氏。そんなこと言っても無駄で……ええ!?」
佐々木が俺の行動を止めようとするが、人垣が割れるのを見て目を丸くする。誰もが俺を見ると、一様に「まあしょうがないか」という顔で道を譲ってくれたのだ。
「これは、どういう……」
「みんな親切な人ばっかりだったんだろ」
嘘だけど。本当は『フェロモン』のスキルのお陰である。このスキルに当てられた人は俺の言葉を無視できなくなるからな。
つまりは、俺が頼めば大抵のことは聞いてくれるってわけだ。ほんと、便利なスキルだ。
「ほれ、せっかく譲ってもらえたんだ。早く前に行こうぜ」
ぽかーんと口を開いている佐々木に声をかけ、俺たちは割れた人垣を通って悠々と前へと出たのだった。
最前列まで来たのでレイヤーさんがよく見えるようになった。
整った小顔に均整のとれたスタイル。ボン、キュ、ボン。うん、この人本当に美人だ。特にオッパイが大きいのが良いと思います。ボンの部分が!
んでもって、この人の名前は……『えばー もあ』というらしい。
隣に置かれたトランクケース(佐々木によると着替えやほかの衣装、小物類が入っているらしい)に立てかけれているホワイトボードにそう書かれている。もちろん本名ではないんだろうけど。あと、言いにくいので
ホワイトボードには名前のほかにSNSの一種である『ツリッター』のアドレスも書かれていた。……いちおうメモメモっと。スマホのメモ帳に打ち込む。あとで確認しよう。画像とかもアップされてるかもしれないからな! 隣を見れば佐々木もメモっていた。
「さて田中氏、撮りかたをお教えしましょう。準備はいいですか?」
「おう、よろしく頼む」
スマホのカメラを起動して佐々木に頷く。
「まずはカメラを向ける前に、レイヤーさんに一言声をかけます」
こんな風にです。と佐々木は大きく息を吸い込むと、
「すみませーんっ、一枚いいですかー!」
周りの声に負けないくらい、声を張り上げた。いつも声が小さい佐々木が大声を出した……だと!?
「はぁーい♪ かわいく撮ってくださいね♪」
もあさんがポーズを撮りながら佐々木に向かってウィンクを飛ばす。すかさず連写する佐々木。カメラからけたたましいシャッター音が鳴る。パシャシャシャシャシャシャ! 一枚って言ってたのに連射だと!?
「あんなのは挨拶ですよ。別に本当に一枚だけってわけではないってことくらい、向こうも分かっていることです」
驚く俺にしたり顔で答える佐々木だった。……そ、そういうものなのか。
「声をかけて、向こうが
まあそりゃそうだ。
「あと、ローアングルからの撮影は禁止ですから、気をつけてくださいね」
それも普通はそうだろう。いちいち注意されるようなことではない気もするけど、こうやって注意してくるということは、やる人がいるってことなんだろうなぁ。それとも俺がやりそうな人間に見えるってことか? だとしたらちょっとばかし話し合いが必要だ。
ほかにも
「さて、以上のことを心に留め置いてもらえたところで、田中氏も声をかけてみてください」
え? 撮り方のコツとかはないの? と聞いたら「スマホのカメラなんてどう撮っても同じですよ」と返された。……この野郎、スマホ舐めすぎだろう。と言おうとしたが、コイツが首から下げているゴツイ装備の一眼レフを見たあとだと口から出るのは唸り声だけだった。ぐぬぬぬっ。
……まぁいいや。習うより慣れろ、だよな。んじゃま、声をかけますかね。
「すみませーん、こっちもいいですか?」
「はーい、どうぞー♪」
早くも別のほうを向いていた
たしかあれ、作中ではウィンウィン動いて肩とかを叩くと気持ちよくなるんだったか。ようは電動マッサージ器だ。名前はえっと……『こりがとれーる君・初号機』だっけ? まあ、作中では違う使い方をされてたけど。どんな使い方されたかは察してくれ。……ってか良く見たら、もあさんが持ってるのも動いてるじゃないか。ほんと再現率高いな。
ではでは、撮影させてもらおう。
スマホを構え、佐々木みたく撮りまくる。バストアップで撮り、全身が入るようにスマホを縦に構えて撮り、こっそり胸や太もものアップを撮る。けっこう胸元が開いているデザインなので胸の谷間がね、こう……うぅ~ん、エロイ。それにもともと丈が短いデザインの衣装なので白い太ももが眩しいなぁ。
などと思ってたら、俺に向けられる
「ありがとうございましたー」
撮り終えたので礼を言って撮影を終えると、もあさんが声をかけてきた。
「可愛く撮ってくれましたかー?」
「ばっちしです」
さっきチラっと確認したけど、初めてにしては上手く撮れたんじゃないだろうかと自画自賛。
「ありがとーございまーす♪」
いえいえこちらこそ。
別のカメコに呼ばれた
さて、これからどうしようか。ちょっとやりたいことができたので佐々木とは別行動をとりたいんだけど、どうやって切り出そう。などと思ってたら、佐々木が声をかけてきた。
「どうですか、田中氏。撮影の仕方は理解できましたか?」
「ああ、大丈夫だ」
「ではこれからどうしましょう? RUN様がお目見えするまで一緒に行動しますか? それとも別行動にしますか?」
お、願ってもない提案。『フェロモン』に当てられた
それがさっき言ったちょっとやりたいこと、だ。なので佐々木の提案は渡りに船だった俺は、適当な理由をつけて別行動することにした。
「そうだな……俺と佐々木じゃ好みのレイヤーさんとか違うだろうし、なにより初参加の俺が一緒だとお前の足手まといになるだろうから、ここは一旦、別行動にしようか」
「分かりました。何か分からないことや困ったことがあれば遠慮なく連絡を下さい。あと、RUN様が会場入りした時はこちらから連絡を入れますので」
喉が渇いた場合は近くの自販機か屋台を利用してください。それと気分が悪くなった時はスタッフか近くの人に声を掛けてください。
などなど、佐々木から小言を貰う。お前は俺の母親か。まあ親切心からの忠告だろうからありがたく受け取るけどさ。
では。と手を振って歩いていく佐々木の背中を見送った俺は、イベント会場の中央に建つ巨大な建物をちらりと見る。……あそこが使えるな。
次に、
相変わらず大勢のカメコたちに囲まれながら次々とポーズを決めていく彼女だけど、ときおり俺の方に視線を向けてくるのが分かる。
そんな彼女を意識しながら、わざとゆっくりその場から離れ、建物へと向かって歩き始める。ゆっくりなのは、もあさんに俺がどこに向かっているか見せるためだ。
少しして、後ろから彼女とカメコたちのやり取りが
「あ、えっと、それじゃ、ここら辺でちょっと休憩にしたいと思いまーす」
「お疲れー」「残念」
「良かったらあとでまた見に来てくださいねー♪」
恐らく