俺は、世界の半分(女性)を手に入れてみせる! 作:キャプテンキャップ
正義のJSヒーローを撃退しおえた俺は、スポーツドリンク片手に再びコスプレ会場を散策していた。
大勢のカメコさんのファインダーに納まっていくコスプレイヤー達。
レイヤーさんの数だけコスプレがあって、同じ数だけカラフルな髪があった。……うぅ~ん、こう言ったら失礼なのかもしれないけど、頭だけ見てたらまるでカラーひよこみたいだ。
ともあれ、こんな光景をみてたら、まるで異次元に迷い込んだような錯覚を覚える。が、遠くの公道を走っているらしい選挙カーから垂れ流されている演説が微かに聞こえてくるので、間違いなくここは現実だ。
それにしても、本当に色んなコスプレがあるなあと感心する。余りアニメやマンガに詳しくないので大半の元ネタは分からないけど、それでも見てて楽しいし、分かるコスプレなどを発見したときは「おお、クオリティ高っ」と驚いたり、あえてモブのコスプレをするという尖ったチョイスに「なんでそのキャラを選んだ」とウケたりと十分に楽しめる。
「……にしても、まだ
来たら連絡を寄こすと言って別れた佐々木からはまだ連絡こないし。屋台で買った焼き鳥を頬張りながらスマホを眺めていると、当の佐々木からタイミングよく『
それによると、どうやらRUNが会場に現れたようだ。合流場所も書かれている。
「ようやくか。さて、人気レイヤーさんを拝みにいきますかね」
近くのゴミ箱に焼き鳥の串やらを捨て、佐々木の待つ合流場所へと足を向けた。
んで、着いたはいいけれども……佐々木はどこだ? こうも人が多いと探すのも苦労しそうだな。っていうか、なんでここだけ人がこんなに多いんだ?
しばらくキョロキョロしながら辺りを歩いていると、
「こっちです、田中氏」
先についていたらしい佐々木が手を上げて呼びかけてくれたので、どうにか合流できた。
「それにしても凄い混みようだな。もしかしてこの人たちみんなRUN――様を見にきたとか?」
RUNと呼び捨てにしようとしたら隣(佐々木)から凄い目で見られたので慌てて様をつけて訊ねると、「そうでしょうね」と返ってきた。マジか。
「マジです。それだけRUN様の人気が高い証拠ですね」となぜか自慢げの佐々木。対しては俺はドン引き。
ざっと周りを見ただけでも数十人はいるぞ。みんなどんだけRUNってレイヤーさんが好きなんだよ。
そんな感想を抱いていると、集団の一角から歓声がおき、次いでシャッターを切る大量の音がけたたましく鳴り響いてきた。
「どうやらRUN様が向こうに降臨されたようです!」
佐々木が叫ぶ。どうやらそれは当たりのようで、周りの人が一斉に歓声がおきた方角へと移動していく。
「くっ、ここからだと少し距離がありますが、諦めるわけにはいきません! 田中氏、我らも往きますよ!!」
佐々木が今一度叫ぶ。その顔は鬼気迫っており、妙な迫力を醸し出していた。
そんな友人の雰囲気に押されるように、俺たちは酷い人ごみの中を掻き分けるように進んでいく。……とはいえ、歩くだけで周囲の人たちを『フェロモン』のスキルの有効範囲に巻き込んでいくから、誰もがみな、俺たちに道を譲ってくれるので多少は歩きやすいんだけどさ。それでも時折り肩がぶつかるのは、それくらい混んでいる証拠でもあるわけで。
んで、あるていど近づいたわけだけど……――全然RUN様とやらは見えなかった。
立ち塞がる人の山。幾重にも築かれた人垣は難攻不落の要塞のように、本丸(RUN)を俺たちから覆い隠す。
だからどんだけ人多いんだよ!
「んぎぎ……初動の遅れが致命的でした。これでは当分、自分たちに撮影の機会は回ってきそうにありません!」
歯ぎしりしつつ前方の人垣を睨み、待機モードに入る佐々木。だけど、俺はこの炎天下の中で待つつもりはない。
折角の便利スキル『フェロモン』があるわけだしな。使わない手はない。
というわけで、さっそく前の人たちへと声をかける。
「すみません、俺とコイツ、通っていいですか? あ、オッケーです? どうもどうも」
案の定、俺に声を掛けられたカメコさんが、仕方ねえなぁといった感じでスペースを開けてくれた。
「ほれ、佐々木。とっとと行くぞ」
「あ、はい」
ぽかんとしていた佐々木を促し、空いたスペースへと身をねじ込む。だけどすぐに人垣にぶつかる。そしたらまた声をかけて場所を譲ってもらう。
それを何度も繰り返し、少しずつ、だけど着実に前へと進んでいき――
「ぷぁ、ようやく出れた」
「出れましたね」
厚い人垣を越えて、ようやく最前列へと到着。どんだけだよ。
どれ、この険しい道のりを作った当人を拝むとしますか。
汗を拭いつつ、お目当てのRUNに目を向けた。眼前でカメコさんたちの要望に応えてポーズを決めている少女がそうだろう。
ぱっちりと開いたアーモンド形の目は自信に満ち溢れ。小さな唇が描く弧は挑発的。
スラッとした細腕が見事にくびれた腰に置かれ、これまたスラッと長い足が適度に開かれていて。
ほどよい大きさの胸を張る様は、美しいの一言。
前に一度、佐々木が撮った写真を見せてもらって知ってたけど、やっぱ凄い美人だな。まあ、志紀(俺の彼女)には負けるけど。ってこれは単に彼氏
それは置いといて。
RUNが着ている衣装は、ミニスカメイド衣装と制服を合わせた感じ。
胸を強調するように締められたコルセット状の白いスカートがなんとも良い。胸が押し上げているブラウスの黒と相まってなんだか卑猥だ。
腰まであるやや碧(みどり)がかった青い髪(恐らくカツラ)。サイドにちょこんとある小さなツインテールが可愛さを演出している。
「ほぅ……今回は『ますます』のネトリときましたか。これは……ぃぃ……」
隣で呟く佐々木。どうやらRUNがしているのは『ネトリ』というキャラのコスプレらしい。『ますます』ってのは分からんけど、多分タイトルなんだろう。変なタイトル。
恍惚とした表情の佐々木は放っておいて、もう一度RUNを見やる。
カメコさんの要望に応えてポーズを決めるたびに、彼女を囲む人垣から大量のシャッターとフラッシュが瞬く。
一挙手一投足に自然と目を奪われる。
場が彼女に支配されていくのが分かる。
こういうのを、圧倒的なまでのカリスマ性というのだろう。
……っと、いつまでも見惚れている場合じゃないな。撮らないと譲ってくれた人たちに場所を譲れないし。
「すみませーん!」
俺も声をかけて適当にポーズを撮ってもらい、スマホで写真を撮っていく。
画面越しに、彼女と目が合う。交じり合う視線。俺にクスリと微笑むと、RUNはすぐに他のカメコさんへと向き直った。……あードキッとした。今まで色んな女性とエッチィことしてきたけど、未だに美人に微笑まれると胸が高まるなあ。もっと余裕を持ちたいとも思うけど、この高まりを感じなくなったら終わりのような気もする。
さて、RUNを『フェロモン』の射程に収めて性的な目で見たから、多分スキルが効いたはず。あとは人がはけるなりして、RUNが1人になるのを気長に待ちますかね。この人だかりだと時間がかかりそうだし。近くの木陰に移動して休憩するか。
その
顔を上げてみれば、いつの間にか空は
さらにポツリポツリと雨粒が間断なく降ってきた。さっき頭に当たったのはこれかと思う暇もなく、急速に雨足が強く、激しくなって、あっという間にどしゃ降りに。視界が乳白色に染まる。
「うおあ!」
慌てて移動を開始するカメコさんやレイヤーさんに押し流されるように、俺と佐々木も近くの建物に強制移動。できればRUNと同じ方向へ行きたかったが、この人ごみでは彼女がどこにいるかなど最早分かるはずもなかった。残念。
「ふぅ~……すっかり濡れちまったなぁ。……ってあれ? 佐々木?」
屋内に入ったところで、一緒に移動していたはずの佐々木がいないことに気付いた。近くを見渡すが、やっぱりいない。どうやら移動中にはぐれてしまったようだ。……まあいいか。
『
俺が居るのは広々とした玄関ロビー。なんだけど、今は俺と同じように雨宿りしてきた人でごったがえしている。……それにしても人が多すぎない?
不思議に思い、首を伸ばして周囲を見てみれば、どうやらここはアニメ会社などが公式グッズを販売している企業ブースだったようで。
なるほど、元からここ目的で訪れていた人に、俺たちが加わったからこの密度なわけね。納っと――くしゅん!
それはそうと、この濡れた服をどうにかしたい。いくら夏とはいっても濡れたままでは寒いし、なにより肌に張り付いて不快だ。
かといって脱ぐわけにもいかないしなあ。……お、あのブース、Tシャツ売ってる! 適当に買って着替えよう。
混雑した中を縫って、ブース前へ到着。長机の上にはアニメやマンガのキャラがプリントされた何種類ものTシャツが並んでいた。……う、けっこうデカデカとプリントされてる。
これを着るのはけっこう勇気がいるな。まあ帰るまでの我慢だと思えばいいか。それに周りを見ればけっこう着ている人も多いし。朱に交わればなんとやら、だ。
よし、買おう。買うぞ。……でも出来れば余りデカデカとプリントされてないのがいいなあ。…………お?
見つけたのはメイドっぽい衣装に身を包んだキャラが描かれたシャツ。
これってRUNがコスプレしてたネトリってキャラか?
髪型や衣装もそっくりだし、多分そうだろう。へー、こうして見ると、彼女のコスプレって再現率高かったんだなあ。
「千円になります!」
「ほへ?」
手にとって見ていたら、店員に買うと勘違いされた。……まあいいか。千円札と引き換えに、俺はネトリTシャツを手に入れた。
さて、どこで着替えよう? トイレは混んでるみたいだし。どっか人気のないところはないものかと建物内をウロウロしてたら、二階の奥にちょうど人気のない通路を発見。通行止めのチェーンがされているが、構わないだろう。……良い子は真似しないように。
ひょいとチェーンを
新しく着たシャツを引っ張り、前面に大きく書かれた『ネトリ』とやらを見下ろす。……これは中々…………恥ずいな。
帰るときは生乾きでもいいから絶対に着替えよう。うん。流石にこれで帰る勇気は持ち合わせていない。
「へぇ……『今週末なにしてますか? 寝取ってもらっていいですか?』のヒロイン、ネトリのシャツ、か。なるほど、キミの
突然、誰かに横から声を掛けられた。……へぇ、このキャラがヒロインの名前ってのは知っていたけど、これってそういうタイトルのアニメだったのか。そこから察するに寝取りモノっぽい。ってか、ヒロインの名前も直球だなぁ…………って誰だ!?
声のしたほうに身体を向けてみれば、そこにいたのは――先ほどまで大勢のカメコさんたちに囲まれていた人気コスプレイヤーのRUNだった。
濡れ鼠、というほど濡れてはいないようだけど、張り付いた衣装が彼女のボディラインを露わにしていて、何とも艶美だ。
彼女は俺の視線を受け止めると、ニヤリと笑い――
「ボクのしているコスプレの元ネタを敢えて選んで買う。ますます気に入ったよ――『蒼の魔眼使い』」
彼女は腰に右手を置き、さらに左手を胸に当てつつそう言った。そんな仕草ひとつとっても様になってる。……いや、それよか『蒼の魔眼使い』って俺のこと? なにその佐々木が喜びそうな中二ネーム。……ああ、なるほど。この娘も中二なのね。それにしても『蒼の魔眼使い』て。こっ恥ぱずかしいだけなんだが。
俺が嫌そうに眉間に皺をよせるのを別の意味にとらえたのか、RUNが「ああ、そういえばまだ名乗っていなかったね」と肩を竦めると、気取った言い回しで名乗った。
「ボクはノア。神崎ノア」
ノア? RUNの本名だろうか?
「ああ、
やっぱり本名らしい。
「では改めて。初めまして、魔眼を持つ少年」
「……魔眼?」
「隠してもムダさ。キミがさっき、ボクの周りにいた大勢のヒトたちを難なく掻い潜って前へ出てきたのを見ている。……いや、アレは掻い潜ってきたなんて生易しい
迷いもなくそう言い切るRUNに、俺の体は雷に打たれたように硬直した。彼女が言うように、確かに俺は『フェロモン』のスキルを使って道を譲ってもらったからだ。
まさかコイツ……俺と同じようなスキルを使えるのか!?
仮にそうだとすれば、目の前の少女のあのカリスマ性も納得できる。
ゴクリと唾を飲み込んだ。
確かめなければいけない。これは単に同胞がいるかどうかの確認じゃあない。
もし他にもスキルを扱える人がいたとすれば、俺にとってそれは脅威となりうるからだ。
だってそうだろう? 自分と同じ『フェロモン』のスキルが使えるのであれば、俺もまた、相手の『フェロモン』の餌食となりうる可能性があるってことなのだから。
俺だけじゃない。
同じスキルを持つ同士なら相殺されて効果がない――なんて都合の良い可能性は、捨てておいたほうがいい。
だからこそ確かめる必要があるのだ。
俺はもう一度、唾を飲み込み、確信へと踏み込む。
「お前も……
「無論さ」
やっぱりそうだった! ど、どうする!? RUNの『フェロモン』の効果範囲がどのくらいか分からないが、距離を取るべきか!? それとも自覚がないだけで、俺はもう目の前の少女の『フェロモン』に絡めとられているのか!?
困惑する脳。断裂する思考。混乱の渦に落ちかける俺に、RUNが自分を指で差しながら宣言する。
「ああ、そうさ。ボクもキミと同じ、セカイの呪縛から解き放たれた『
「………………はい?」
え? なに? オデュ……なに?
今の一言で混乱から立ち直ったはいいけど、今度は困惑する俺を放っておいて、独り語りを始めるRUN。
「もう気付いているかもしれないが、ボクのRUNっていう名前はね、ルーン文字のルーンからきてるのさ」
いや知らんけど。
「『ルーン』。そこから長音符を抜いて、
……いや、全然これっぽっちもわかんないんですけど。
ただ1つ分かったことがあるとすれば、この娘、俺と同じスキルを使える人じゃないわ。断言できるね。だってこの娘、ただの中二だもの。
あー良かった! こんなエロくて便利なスキルを使えるのは俺一人で十分!
どっと疲れた俺は思いっきり脱力し、重い溜め息を吐いた。
それを見て苦笑を浮かべるRUN。
「解からないって顔だね。だけど無理もない。今キミに語ったのは、ボクの物語りであって、キミの
いやもう、本当に意味が分からない。ってかこの語り、いつまで続くんだろう?
「だけど――」
RUNがこれまでとは違った声質で、語りかけてきた。雰囲気も心なしか
「だけど、もしキミが望むのなら、盟約の秘儀を通して、ボクはキミの物語を共有しても良いと思っている。どうだい? キミにその覚悟はあるかな?」
挑発的にニヤリと笑い、手を差し出してくるRUN。
そんな彼女が放った言葉に、俺は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
…………いやだって、声質や雰囲気が変わったところで、結局は言っている意味が分からなかったからな。
盟約の秘儀ってなんだよ。それが分からないと覚悟を問われてもその手を取れないっての。いやそれ以前に物語の共有とかなんだ。
あー、もう! ツッコミが追いつかない! これだから中二病は! もっと分かりやすく言って!
「あー……えっと、つまり、何?」
「おっと、ボクとしたことが、あまりに
「ようするに、だ――ボクとまぐわおう。それが秘儀さ」
まぐわおう? ……ああ、まぐわう、か…………まぐわう!?
一瞬、また中二的な言葉かと思ったが、すぐに意味を悟った。まぐわうの意味は性交。
つまり、セックスしようってことか!? いきなり何言ってんのこの娘!?
「古来より、性交は特別なイミを持ってきた。契り、と表現されるようにね」
左手を右腕の肘に置き、立てた人差し指で自分の頬をぺちぺちと叩きながら、
「男のモノを女性の深い所で受け止める。しかも純潔であれば、血の盟約も兼ねる。これ以上の契りは存在しないだろう?」
ちなみにボクはお察しのとおり、処女だよ。と、締めくくるRUN。
いやそんなぶっちゃけされても…………興奮してしまうじゃないか。
それにしてもセックスしよう、ねぇ。
中二病というのはちょっと厄介だけど、個性と考えればアリだろう。そう思えるのも、彼女が美人だからなんだろうけど。これが並みの女性ならノーサンキュー。美人は得だね。
そんな彼女からのお誘い。うん、悪くない。というか元から望んでいたことだ。だからこそ『フェロモン』を当てたんだしな。
「それでどうだい? キミの答えを聞かせてくれるかな?」
RUNの問いかけ。
そんなの、答えは決まりきっている。
「望むところだ。RUN、君と盟約を交わそう」
キリッとした顔で、中二的な返事を返したのだった。