俺は、世界の半分(女性)を手に入れてみせる! 作:キャプテンキャップ
01:志紀と遊園地デート
コスプレイベントの翌々日。
いつも通り
バイト休みの俺は、入道雲が天高く伸びる青空のもと、用事があって駅前のロータリーへと来ていた。
夏休みとあっていつもより多い人波。混雑する車にタクシーにバス。聞き分けられない程に、いくつもの会話が乱れ飛ぶ雑音。いつもの日常風景よりも賑やかな光景。でもこれが夏休み中の日常だ。
そんな中に、駅の壁に背をもたれている1人の美少女がいた。
少し茶の入った長い黒髪を一房だけワンサイドアップにした髪型。
スッと線を引いたような細眉。長い
しかも目を惹くのは顔だけじゃじゃなくて。
白のワンピースに7分丈のレギンスジーンズという、涼しげな夏の装いをしている美少女は、スタイルも抜群だった。
ワンピースを押し上げる胸は豊か。それでいて細いベルトで縛られた腰は見事なくびれを披露し、そこからまたなだらかな曲線を見せるお尻のライン。
端的に表現すれば、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。いわゆるボン、キュッ、ボンってやつだ。
しかもワンピースから覗く純白の肌にはシミ1つない。
手足もスラリと長く、足下を飾るこげ茶色のグラディエーターサンダルがよく似合っている。
うん、紛う事なき超絶美少女ってやつだな。
そんな非の打ち所のない美少女は、誰かを待っているのか、時折り腕時計を確認しつつ、垂れてくる髪を掻き上げる仕草は可憐そのもの。
それから美少女は辺りを見渡した。頭の動きに追従する髪の滑らかさや所作に、俺を含めて誰もが目を奪われる。
そわそわとした表情や動きから、彼女の待ち人は恋人なのかもしれない。こんな美少女の彼氏とかどこの誰だよ。爆発すればいいのにと強く願う。周りの男どもも同じ気持ちなのか、しかめっ面だ。
そんな美少女と目が合う。嬉しそうに笑みを浮かべて手を振ってくる。
というか
老若男女問わず、大勢の歩行者の視線を独占していた美少女は俺の恋人だった。さっきまで爆発すればいいのにと強く願っていた彼氏は俺だった。爆発するのはイヤなのでさっきの願いはキャンセルでよろしく。
いやまあ、最初から志紀だって知ってたけどさ。あまりの美少女っぷりにちょっと見惚れていたというかなんというか。
「
俺を呼ぶ志紀の声に反応した道行く人の視線が俺に向く。そして誰もが「え?」という表情をする。……おいおい、なんだよその「もしかしてコイツが彼氏なの?」みたいな顔は。そうだよ、俺が彼氏だよ。なんか文句あるか? あっても受け付けないぞ?
なんて思いつつ、志紀へと駆け寄る。そもそも俺の用事とは志紀との待ち合わせだからな。
つまりはデートだ。
今日は志紀と4つ隣の町にある遊園地へと行く予定。ちなみに決まったのは昨日。
「すまん、待たせたか?」
「ううん、私もさっき来たとこだから気にしないで」
おぉ、なんか恋人同士の会話っぽいな。ちょっと照れる。
「……えへへ、なんか今のって、恋人同士の会話みたいだったね」
志紀も同じ事を考えていたようで、はにかんでくる。ヤッバイ、俺の彼女超カワイイんですけど。
互いに照れり照れりしてると、周りの視線(特に男どもの)が痛いことに気付いたので、俺たちは慌てて駅構内へと逃げ込んだ。
「あー恥ずかしかったぁ」
「だな」
改札を潜ったところで、互いに顔を見合わせて苦笑い。
こほん。さて、気を取り直してデートだ。タイミングよく電車も来たしな。
降りてくる客もまばらなら、乗りこむ客もそんなに多くない。車内も割りと空いていたので、簡単に席を確保できた。
「ん~っ、楽しみー♪」
「そんなにか?」
「うん! だって前から行ってみたかったし、乗ってみたいのも沢山あるしね♪」
これから向かう遊園地は絶叫系のアトラクションが多いのが特徴らしい。らしいというのは行ったことがないからだ。なんせ今日の行き先を決めたのは志紀だからな。昨日もすごく興奮してたし。今も興奮しながら最初にどのアトラクションから行くか熱く語ってるし。
どうやら俺の彼女は絶叫系が好きらしい。
俺は――まあ普通かな。好きでもなければ嫌いでもない。というよりも、余り乗ったことがないので自分でもよく分からんというのが正直なところだ。まあ、怖くて叫ぶとかはないと思う。
「そう言ってる人ほど、叫んだりするもんだよ~?」
「はは、マンガじゃあるまいし、んなアホな」
ニヤリとする志紀の言葉を笑い飛ばしたところで、電車がゆっくりと動き出した。
☆
そしてあっという間に目的の遊園地へと到着。
「おー、けっこう広いなー」
「ねー!」
1日フリーパスを購入してゲートを潜れば、そこはまさしく夢の国! ――というほど
流れ聞こえる賑やかなマーチ曲をBGMに、動物の着ぐるみや遊園地のマスコットキャラにコミカルな動作で出迎えられ。
お城を模した建物に、メリーゴーランドや観覧車からは楽しそうな笑い声や話し声。
お化け屋敷やフリーフォール、園内を爆走するジェットコースターなどの絶叫系からは悲鳴とか絶叫が。
どこもかしこも熱気と活気がある。
遊園地をぐるりと囲む高い壁が日常の光景を遮断している効果もあるんだろうけど、まさに別世界って感じだ。
「いよーっし、今さらながらテンション上がってワクワクしてきた!」
「え、今!?」
や、だってそんなに期待してなかったし。
「昨日からずっと私が熱く語ってたのに!?」
「百聞は一見に~ってヤツだな」
「なんかヒドい!」
とか文句を言いつつも笑顔の志紀。俺もハイテンションなら志紀もハイテンションだ。だからこんな
「それじゃ、何から乗る?」
「私が決めていいの?」
「おう、俺はなんも調べてないからな。任せる」
「威張っていうこと? まあ私は嬉しいから良いけど。うぅ~ん、そうだなあ……」
顎に人差し指をあてて考え始める志紀。そんなあざといポーズも可愛い。ほくほく見惚れていると「あ、そうだ♪」と志紀。
「フリーフォールなんてどう?」
フリーフォール? ああ、
「うん、それ。それで洋が本当に悲鳴を上げないか試そうよ」
「電車の中での話か?」
「そうそう♪」
にひひ♪ と歯を見せて楽しそうに笑う志紀に、俺は「まあ構わんけど」と胸を叩いた。フリーフォールなんて、ようは高い所からただ落っこちるだけだろ? そんなんで悲鳴上げるとかありえんな。
「はい、フラグ立ちましたー♪」
「立ってねーよ」
「はいはい。フラグを立てた人はみんなそう言うんだよ?」
「なんで酔っ払いに言い聞かせるみたいに言うわけ?」
ギャーギャー騒ぎながら移動。その途中で志紀の持つ2WAYバッグをコインロッカーに預け、そんでもって――
「はい、フリーフォールに到着ー♪」
「おお、下から見ると思ったより高いな……」
志紀の説明によると、
半時間ほどの待ち時間を経て俺たちの番となり、係員の指示に従って席に着いて待機。シートベルトで体が固定される。……あー、なんかドキドキしてきた。
「洋、顔が
隣に座る志紀が、俺の顔を
「るっさい、初めての人はこんなもんなんだよ」
なんて言ってる間にゆっくりと席が動き出し、ゆっくりゆっくりと上へとあがっていく。それにつれて少しずつ視界が高くなっていく。おお、絶景かな絶景かな。十秒そこらで頂上に到達。今や目の前に広がる景色は遊園地を遠くまで見渡せるほどだ。
「どう、洋?」
「これくらいなら全然余裕だな」
高さ20メートルくらいだっけ? あとは落ちるだけだし、これは余裕だろう。
「ふふーん、終わったあともそんな軽口が叩けるかなぁ?」
「言ってろ」
『カウントダウン、スタートです! 余裕のある方はご一緒にどうぞ! 5、4――』
お、塔のてっぺんにあるスピーカーからアナウンスが流れてきた。
「そろそろだね、楽しみー♪」
「ま、こんなモン『3』子供『2』だまし『1』にもならな『0』
い
「う い
ぇ い
ぇ ぃ
| ぃ
| や
| あ
| あ
| ぁ
| ぁ
| |
| |
| |
| |
| |
| |
| |
| |
| |
| |
い ッ
!!」 !?」
:
:
:
「で? 子供だましが何だって?」
正直スマンかった! あんなに怖いとは思わなかった! ……どうやら俺は絶叫系が苦手なようだ。
「……ってか、お前よく平気だな」
うぇーいって何だよ。余裕かよ。
「余裕だよ? だって私、絶叫系好きだもん。そう言ったでしょ?」
「……だったな」
志紀さんマジパネェっす。
「さ、次に行くよー!」
「ええ!? もう!?」
志紀に手を取られ、引っ張られるように歩き出す。
「もちろん! 時間は限られてるからドンドン行かないとね♪」
「だからって早すぎない!? 俺たちゆとり世代なんだからもっとゆとりを持ってだな――おい、おいおいうぉい! そっちにもの凄くぐねってるジェットコースターが見えるんだけど!? 見えちゃってるんですけどお!? まさかあれに乗るって言うんじゃ……やっぱ乗るの!? よし、志紀、まずは俺たちのこれからのことをゆっくり時間をかけて話し合おうじゃないか……え、そんなのあと? ちょ、まって、心の準備が――心の準備があああああぁぁぁ!!!!!!」
俺の絹を裂くような悲鳴が遊園地に木霊したのだった。
それから数時間、ひたすらに絶叫系マシンに乗った。それはもう乗りまくった。というか乗せられまくった。そしてその全てで俺は悲鳴を上げた。反対に志紀は歓声を上げていた。どんだけ好きなんだよ。
んで、俺たちは今、ベンチで仲良く休憩中。
主に俺が。
……叫びすぎて疲れたんだよ。
「んー♪ 沢山乗ったねー! フリーフォールでしょ? ジェットコースターに、それから――」
楽しそうに指折り数えていく志紀。閉じていた両の指が全部開ききったあと、折り返し閉じていく。……どんだけ乗ったんだよ俺たち。絶叫系アトラクションが豊富と言うだけのことはある。あとマシンじゃないけどバンジージャンプもやった。8メートルほどの高さから、ぴょんっ、でヒャッハーだ。数秒間とはいえ、あの浮遊感には漏らすかと思った。マジで。思い出しただけで股間が縮むね。マジで。
――よし、回想おわり。気持ちを切り替えよう。
「……で、楽しかったか?」
「うん! とっても!」
本当に嬉しそうに頷く恋人の笑顔。その喜びを全身で表すように足をプラプラさせているのがラブリー。恐怖に耐えながら付き合った甲斐があったなあ。……もう乗りたくないけど。
まあ、そういうわけにもいかないか。なにせまだ回っていない絶叫アトラクションは半分近くも残っているのだ。そして俺の恋人は大の絶叫系アトラクション好きときた。であれば、彼氏としてはここで音を上げずに頑張るところだろう。
志紀が喜べば、俺も嬉しい。
俺は何気に恋人を大切にするタイプなのだ。
「ん~!」俺は伸びを一つして隣に座る志紀に「さて、次は何に乗るんだ?」と訊ねた。
「もう大丈夫なの?」
「ああ、十分休んだから大丈夫さ」
顔を覗きこんでくる志紀にニカッと笑ってみせながらベンチから立ちあがる。まあ虚勢なんだけどね! 未だに俺のハートは生まれたての小鹿並みにプルプル震えてるけど問題ない!
「……うん!」
志紀も笑い返してくる。……なんか、すっごい慈悲深い笑みだな。これはあれか、虚勢張ってんのバレバレってやつですか? 歩きながら一応訊ねてみたら――
「うん! すっごい分かりやすい!」
即答で返ってきたよおい。……そうですか、お見通しですか。でもな、志紀。ちょっとはフォローしようぜ? 男心は時に乙女心なみに傷つきやすいんだぜ、知ってた?
「しらなーい♪」
「楽しそうに否定しやがった!」
「それよりもほら、次はここに行こうよ」
「男の虚勢をソレ呼ばわり!? ……って、ここ、お化け屋敷じゃないか」
着いたのは日本屋敷を模したお化け屋敷。
「うん、ここなら洋のメッキよりも薄い虚勢も剥がれ落ちないでしょ?」
「何気に酷いこと言ってるからな、お前。いやまあ、さすがにお化け屋敷は大丈夫だと思うけどさ。本当にここでいいのか? 俺は絶叫系でも構わないんだぞ?」
「ここだって立派な絶叫系でしょ?」
……言われてみれば確かに。
「んじゃ、ここにするか」
「けってーい♪」
お化け屋敷にそれほど興味があるわけじゃないけど、お化け屋敷といえば、仕掛けに驚いた女子が「きゃー!」とか悲鳴を上げて
ともかく! ベタではあるけど、そういうのも悪くない。