※この作品はR-18です。

俺は、世界の半分(女性)を手に入れてみせる!   作:キャプテンキャップ

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04:雨宿り茜 ☆

 重々しい雲が空一面を隙間なく覆っているせいで蒸し暑く感じる、ある日の昼下がり。

 両親は仕事に出かけ、妹(かれん)と弟(ノリ)は友達と出かけて留守。

 俺は独り寂しく冷房の効いた部屋でベッドに寝ころりながらマンガを読んでいた。

 シンと静まり返った自宅。部屋に響く音はクーラーの駆動音とマンガの頁(ページ)をめくる音だけ。

 そんな静寂を破るように外からゴロゴロと響いてくる重低音。

 うん? 窓へと目をやった瞬間、空が光った。一拍遅れて、けたたましい轟音が空気を振動させる。

 雷だ。

 

「こりゃあ、雨も降ってきそうだ」

 

 読んでいたマンガを閉じて独りごちる。と、窓ガラスにぽつりと雨粒一つ。間を置かずに二つ、三つと数を増やし、すぐにどしゃ降りの雨へ。窓を伝う雨が滝のようだ。……こりゃ凄い。しばらくほへーと寝転びながら窓の外を眺めていた。……あ、そういや洗濯物とか干してなかったっけ?

 スマホを手に階下へおりて居間からベランダを覗く。おし、何も干されてないな。

 部屋に戻るのも面倒だし、このままテレビでも見ながらネットを周(まわ)るかぁ。お腹を掻きながら欠伸をもらしていると、『ピンポーン』とインターホンの音が聞こえてくる。来客のようだ。「ほいほーい」と返事をしながら玄関を開けると。

 ……そこにはおっきな濡れ鼠(ねずみ)がいた。

 

「ヨー兄(にぃ)雨宿りさせて!」

 

 雨の音に負けないくらい大きな声で、濡れ鼠――じゃなくて茜(あかね)が頼み込んできた。

 喜多(きた)茜――全身を雨で濡らし、犬みたいに頭をプルプルさせて髪に付いた雫を飛ばしてくるコイツは、弟の彼女の一(・)人(・)だ。

 あと、妹ではないけど俺をヨー兄(にぃ)と呼んでくる。まあ、それは別に構わない。

 

「雨宿りはいいけど頭を振るな。さっきから俺に飛んできてるっての」

 

「ありがとー!」

 

「抱きついてくんな! 俺まで濡れるだろうが!」

 

「にひひ♪ いいじゃん別に~。こういうのなんて言うんだっけ? 一連たくあん?」

 

「それを言うなら一蓮托生だ」

 

 そう、それそれ♪ と楽しそうに笑う茜。相変わらず元気なヤツ。

 

「ほれ、とっとと入れ」

 

 屋根のついた玄関先とはいえ、それでも少しは雨に打たれるからな。うちに入るよう茜を促(うなが)した。

 

「おっじゃましまーす!」

 

「前に来たからリビングの場所は分かるだろ? タオル持ってってやるから、先に行ってろ」

 

 はーい! と返事をしながら靴をぽいぽい脱ぎ散らかして家に上がる茜。あ~あ~あ~……。相変わらずこういうところ無頓着なヤツ。

 苦笑しながら離れ離れになった茜の靴を揃えてやり、俺も中へ。

 玄関の扉を閉めると、途端、雨の音が小さくなった。さて、タオルを取りに……って、廊下にリビングまで続く茜の足跡が。そういや、靴も随分と濡れてたなあ。濡れ鼠と化していた茜を思い出す。……着替えも用意してやるか。

 着替えは弟ので十分だろう。見た限り、背も近いし。廊下を拭くのは……まあ、あとでいいか。

 

 

 急いでタオルと着替えを用意してリビングへ行くと、茜が立ったまま勝手につけたらしいテレビを見ていた。

 立ったままなのは、濡れたままソファーに座るわけにもいかなかったからだろう。えらい! ……ただ、勝手にテレビをつけるのはどうなんだ? まあ小学生なら仕方ないとも思ったが、小6だと考えるとやっぱどうなんだと思いなおす。けど、やっぱどうでもいいかと終決し、茜に声をかけた。

 

「ほれ、タオル」

 

「わーいっ、ありがとー!」

 

「あとノリ(弟)ので悪いけど、着替えも持ってきたぞ」

 

「あ、嬉しい! やー、服がひっついて気持ち悪かったんだー」

 

 言って、服の襟(えり)と裾を引っ張る茜。ぬ、確かに服が引っ付いて体のラインが浮き出てしまっている。ばかりか、肌やスポーツブラの色までハッキリくっきりと透けて見える。……相変わらずこの子、すっごい発育がいいな。

 ロリ巨乳といっても差し支えないDカップオッパイ。

 日に焼けた小麦色の手足と、焼けていないお腹の白さがなんとも……。

 

「お? ヨー兄がエッチな目であたしを見てる気がする!」

 

「正解だ」

 

「わーい当たったー! なんか景品ちょうだい!」

 

 クイズじゃないんだから景品はありません。と返すと、茜は「ぶーぶー!」と口を尖らせた。

 

「いいからさっさと髪を拭いて着替えろ。風邪ひくぞ」

 

「ほーい」

 

 茜が服のすそに手をかけ、引き上げる。途端、なだらかな起伏に水滴をつける白いお腹がこんにちわ。

 

「って、俺の前で服を脱ごうとするな!」

 

 相変わらず無防備か! 男はケダモノだと身をもって教えたはずなのに!

 

「大丈夫(だいじょぶ)だいじょーぶ。ヨー兄以外の男の前ではもう脱がないから!」

 

 良くないっての。……いや、良いのか? 良いには良いけど、もしも今、母さんや花蓮が帰ってきたら……うん、死ぬな。前者(母さん)だと社会的に、後者(妹)だと物理的に。……じゃあやっぱ駄目じゃん。いやまあ、『フェロモン』があるから大丈夫だとは思うけど、花蓮は予想がつかないし。下手したらスキルの効力を超えて本当に殺しにきそうで怖い。でもそんな妹が大好きだ。

 

 閑話休題。

 

「ともかくポンポン脱ぐな。分かったな?」

 

「はーい。あ、着替え終わったらさ、遊んでよヨー兄。雨が止むか弱まるまで帰れないし」

 

「へいへい」

 

 俺の言葉に「わーい♪」とはしゃぐ茜の声を背に、俺はリビングを出た。ふぅ。とため息を零していると、ポケットのスマホが震えた。誰からだ? 取り出して画面をみれば――花蓮だ。噂をすればなんとやらだなあと思いつつ電話にでる。

 

『もしもしお兄ちゃん? 花蓮だけど』

 

「おう、どうした?」

 

『うん、雨が酷くてすぐには帰れそうにないから、一応連絡を入れとこうかなって』

 

 可愛い妹の天使な声を聞きながら、さっき見た外の光景を思い出す。確かにあの雨の中を歩いて帰るのは躊躇(ちゅうちょ)するよなあ。それに、今は夏だ。夏といえば薄着だ。そして薄着は濡れると透ける。ソースはリビングで着替えている茜。

 妹の半濡れ姿を俺以外の野郎どもに見せるわけにはいかないので、「分かった」と答えた。

 

「ちなみに今は――」

 

『大丈夫、ちょうど友達とファミレスに入ったときに降ってきたから、全然ぬれてないよ』

 

 俺の台詞にかぶせるように言ってくる花蓮。お見通しですか。まあ濡れてないならいいけどさ。と返すと、くすりと笑う花蓮。それから妹は話題を変えるように『あ、そういえば』と言葉を続けた。

 

「んー?」

 

『今、お家に誰が(・)来てるの?』

 

「…………」

 

 お気づきだろうか、今の妹の言葉。『誰か(・)』ではなく『誰が(・)』である。断定だよ? コレ、絶対に言い間違いじゃないよね。

 

「だ、誰も来てないぞ?」

 

『……ふ~ん……』

 

 思わず嘘を吐(つ)いてしまった。だってしょうがないじゃん! 何かさっきまで柔らかく温かかった妹の声が、氷(アイス)のような硬さと冷たさが感じられたんだもの! あとなんで誰か来てるって断定してきたの? 女の勘? 勘なのか? ……ハッ! も、もしかして隠しカメラか何かか!?

 ババッと辺りを見渡す。

 

『やだなあ、カメラとか仕掛けてないから、そんなに慌てて探さなくても大丈夫だよ? お兄ちゃん♪』

 

 クスクスと楽しそうな花蓮の笑い声。いや全然笑えないよ! ……え、本当に見えてないのん? だったらなんでこうも的確に俺の行動が読めてるの!?

 

『とりあえず、雨がやんでから帰るから。それじゃあね、お兄ちゃん』

 

「お、おう」

 

 通話を終えようとしたタイミングで、

 

『あ、茜ちゃんにもよろしく言っといてね♪』

 

 プツンと、通話が切れた。

 

「………………えぇ~~?」

 

 ホントのほんっっとぉーーーに! 隠し――監視カメラないんだよなあ!? なんで最後に茜の名前が出てきたのさ!? もうホラーの類だよ、今の電話!

 

「着替え終わったよー」

 

「うひぃっ!?」

 

 背筋を寒くさせていると後ろ(リビング)の扉が開き、声を掛けられた。驚いて飛び上がってしまう。恐る恐る振り返れば、弟の無地のTシャツとハーフパンツに身を通した茜だった。いきなり声をかけるのは止めて。心臓がキュッてなるから。

 

「どうしたの?」

 

 俺の様子に首を傾(かし)げる茜に、「い、いや、何でもない」と答えながらスマホをポケットにしまいこむ。

 

「それじゃあ約束どおり遊ぼう、ヨー兄!」

 

「あいよー。それじゃあリビングに――」

 

 戻ろうとした足を止めた。さっきの花蓮とのやりとりを思い出したから。

 誰か来ていることを断言した花蓮。最後に茜の名前を出してきた花蓮。……本当に、監視カメラはないのか? …………うん、とりあえずリビングは止めよう。いや、可愛い妹を疑うわけじゃないよ? でも、ほら、こう……ね?

 

「茜、リビングじゃなくて俺の部屋に行こう」

 

「お、ヨー兄の部屋かー。興味ある! どっち? こっち!?」

 

「そっちは台所だ。俺の部屋は2階」

 

「よし突撃ー!」

 

「階段上がってすぐの部屋だからなー」

 

 ドタドタと階段を走りあがっていく茜の背中に声をかけると、「あれ、ヨー兄は?」足を止めて振り向いてきた。

 

「リビングに散らかってるだろうお前の服の回収してくる。それと何か飲みもん持ってから上がるよ」

 

「お~、優しい」

 

「だろ?」

 

「ご褒美にあたしの脱ぎたての服の匂いを嗅いでもいいよ!」

 

「嗅ぐか! ってかどこでそんなの覚えた!」

 

「響子(きょうこ)ちゃんから~」

 

 俺が怒鳴ると茜はケタケタ笑いながら階段を上がっていった。……ったく。

 響子ってのは、確かあのゴスロリの子だったか。見た目も口調もお嬢様っぽかったけど、案外、耳年魔(おしゃまさん)なのかもな。

 なんてことを考えながらリビングへ。すると案の定、脱ぎ散らかされている茜の服。……おぉう、下着まである。

 てことはアイツ今、ノーブラノーパンなのか。……ほほぅ。いや、別に他意はないぞ?

 適当な袋に服を回収し、冷蔵庫からキンキンに冷えたレモン水の入ったボトルとコップ、あとポテチをお盆に載せて部屋へと向かう。……ちなみに、茜の服の匂いなんて嗅いでないからな? 鼻を押し当ててクンカクンカなんてしてないから。ホントだぞ?

 

 

 

「ほれ、これに服が入ってるから袋ごと持って帰れ」

 

 ミニテーブルにお盆をおき、物珍しそうに室内を眺めていた茜に袋を渡す。

 

「わーお、ありがとー。ついでに洗って乾燥までしてくれたらもっと嬉しかったんだけど」

 

「厚かましいにも程があるわ。そんくらいは家に帰って自分でやれ」

 

「とか言いつつ、ヨー兄はあたしから袋を受け取って洗濯してくれるのであった」

 

「しねーよ」

 

「かーらーのー?」

 

「しないって」

 

「またまたーぁ」

 

「……これ、いつまでやるんだ?」

 

「飽きるまで!」

 

「よし、飽きたからやめよう」

 

 俺が真顔でそう言うと、何がおかしいのか笑い転げる茜。え、俺の真顔がウケる? 失礼な。そんな彼女に文句を言いつつテーブルの前に腰を下ろし、持ってきたコップにレモン水を注いで飲む。

 

「あっ、あたしも飲みたい!」

 

「へいへい」

 

「このポテチ開けていい!?」と続けて訊ねてくる茜にレモン水を注ぎながら頷く。わーいと嬉しそうに袋の上部を開ける茜。それから底の部分を潰してどうにかすると――なんと袋が立ったではないか!

 

「オイオイなんだよ、そのオシャレな開けかた」

 

「え? 知らないの?」

 

 え? それ有名なの? ……マジか。SNSで紹介されて流行っている? マジか、全然知らなかった。

 

「……ヨー兄、もっと流行のアンテナ伸ばそうよ?」

 

 くっ、小学生に憐れみの眼差しを向けられながら肩を優しくぽんぽんと叩かれるとは!

 

「いーんだよ。今知ったんだから全然問題ないんだよ」

 

「うんうん、だよね。ほら、ポテチ食べよ? はい、あーん♪」

 

 誰目線だよ! 文句を垂れつつも差し出されたポテチに噛(かじ)り付けば、またケタケタと笑う茜。ポテトを食べただけだぞ。あれか、棒が転げるだけでも楽しい年頃なのか? よぅっし、ならここはいっちょ、お兄さんがドッカンドッカン笑わせてあげよう。

 

「ふとんがふっとんだー」

 

「……え?」

 

「いや、お前、真顔で見てくるのはやめようよ」

 

 心が傷つくからさ。

 どうやら茜は、棒が転がるだけでも楽しい年頃というわけではないらしい。

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