※この作品はR-18です。

le début des choses(事の始まり)   作:木桜 春雨

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崩壊の足音は少しずつ

 シャニュイ家がオペラ座のパトロンではなくなったというニュースを聞いたとき彼女は驚いた、その話を聞いたのが恋人からではなく、噂話で知ったのだから無理のないことかもしれない。

 本当なのだろうか、間違いであってほしいと思ったが、本人から聞かなければ本当のこところはわからない。

 だが、ラウル、彼がオペラ座を訪ねてくるのは週末だ、正直、それまで待てない、自分が直接、会いに行けばいいのだが、貴族の家を訪ねるのはプリマドンナといえど無理だ。

 ラウルがいなければ門前払いされてしまうだろう。

 それなら、自分の師に聞こうと思い、鏡の入り口から地下へ降りようとした。

 ところが、鏡はびくともしない、こんなことは初めてだ、戸惑ったのは無理もなかった。

 マダムに聞けばと思ったが、生憎と彼女の姿はオペラ座にはない、メグは。

 彼女は友人の姿を探した。

 

 

 メグの姿をオペラ座の階段、踊り場で見つけたとき、声をかけようとした彼女だが、その足が止まった。

 一人ではなかったからだ、知らない男性と一緒だったからだ。

 「ダンスは申し分ない、発声に少し不安定なところがあるが、出ろ」

 意味が分からなかったのか、メグは不思議そうな顔で男を見た。

 「二週間後の舞台、主役はおまえだ」

 「ま、待ってください」

 「プレッシャーもあるだろう、だが、できるというところをマスターに見せなければ、クビだ」

 「はい、それは」

 「勘違いするな、クビになるのは私だ、メグ、おまえの実力ははマスター、それにマダムも」

 続く言葉にメグの顔色が変わっていく。

 自分は期待されているというのは励みになる、だが、失敗の責任は自分だけではない、レッスンをつけてくれる師の運命まで。

 「舞台に永遠に立ち続けることはできない、大事なのは、どれだけの成果を残し人々の記憶に残るかだ、それと」

 確かにとメグは頷いた、少し前までオペラ座の舞台に立っていたカルロッタは最近は姿を見ることはない、引退すると本人が言っているらしい、多分、いや、嘘ではないだろう、自分の友人、クリスティーナが舞台で主役を務めるようになってからは、オペラ座で姿を見ることもあまりない。

 プリマになるのは難しい、だが、それでも自分も周りのコーラス・ガールたちも求めているのだ。

 

 「世話になった、マダム」

 その言葉に黒衣の女性は頷くと目頭をそっと抑えた。

 寂しいと思いながら、それを口に出さないのは自分の強がり、いや、彼を心配させないためだろうか。

 「新しい人生が始まるんだ、お互いに、だが、、何かかあったら」

 小さなメモ、紙切れを渡そうとするのを黒衣の女性は押しとどめるようにして、首を振った

 「いいえ、やりとげてみせますわ」

 しばらくの間、沈黙が続いた、互いに言葉を探していたのかしれない。

 「プロポーズは」

 「いや、まだ、ただ」

 「あら、先ほど見たんですよ」

 そう言って左手をかざし、銀のリングですのねと笑う。

 「おわかりになりませんの、それが返事だと」

 男はしばし無言になり、目の前の女性を、そして振り返ると通りの向こうで自分を待っている馬車を見た。

 「そう、なのか」

 「まあ、ところで、シャニュィ家と彼女のことですが」

 男は軽く首を振った。

 「私は傍観、いえ、何もするなと」

 「そこまで面倒はかけられない、幕引きは自分でする」

 そう言って男は軽く頭を下げ、背を向けると歩き出そうとしたが、軽く首を傾けた。

 「2週間後だな、初舞台は」

 来てくださると、それを言葉にはしなかった。

 女性はゆっくりと頭を下げた。

 




 年内には完結させたいと思っています。
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