※この作品はR-18です。

フェニックステイル   作:KY_PT

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第二十一話 フレイム

 地球連邦軍、MSパイロット徽章。

 大きく翼を広げて銀色に輝く真新しい徽章を指先で弄びながら、連邦軍下士官制服を着た小柄な少女はひとり、生活感の消えた空っぽの部屋を眺め回していた。

 彼女は先ほど、MSパイロット訓練生課程の修了式を終えたばかりだ。ぴかぴかに磨き抜かれた床が照明の光を照り返して輝いている。訓練の日々を今まで過ごした部屋からは、すでにすべての私物が撤去され、最後の清掃までも終えていた。あとは来期の入所者を待つばかりだ。

 居住区に人気はない。小柄で細身の身体にメガネを掛けた怜悧な美少女は腕時計を気にしつつ、ひとり廊下にまとめた手荷物の側に立っていた。

 不意に遠くから足音が響く。疑似重力下を息切りながら、彼女と同じ地球連邦軍制服に身を包み、そしてMSパイロット徽章を身につけた少女が全力疾走で駆け込んできた。

「……ごめん、シエル! 待たせてっ」

「別に待ってない。アイネがいちいちトロいのは、おかげでとっくに慣れてるからさ」

「と、トロくないよ!?」

 腕時計とスペース・バスの時刻表をそっと死角へ隠しながら、シエルと呼ばれた少女は駆けつけてきた彼女へ向き直って素っ気なく答える。息を切りながら顔を上げたのは、やや長身で明るい黒髪の少女だ。

 シエル・カディスのごく慎ましやかなそれとはかけ離れた、目を疑うような大きさの胸の膨らみが、連邦軍制服とMSパイロット徽章の下で弾んでいた。

「とにかく、ごめんね。配属先の資料もらってくるの、思ったより時間かかっちゃって……。んっと、シエルは……シエルの配属先は、まだ決まらないの?」

「艦隊司令部の人事が、未だに揉めてるらしくてね。だから当初の配置は司令部付なんだと。……ったく。なんでアイネごときの配属先が真っ先に決まって、首席の私がこの期に及んで決まんないんだか。まともに仕事しろボンクラども」

「ごときって言ったよ!? 今シエル、アイネごときって言った!!」

「ん、いま私そんなこと言った? 人事の愚痴の聞き間違いでしょ」

「そこで目を逸らさない!!」

 ぷうっと頬を膨らませる少女の前で、どうでもいいことのようにシエルは話題を変えた。

「……で、結局。アイネは441戦隊の《アバリス》に行くんだっけ」

「う、うん。艦隊配属。なんだけど……なんか、あんまり戦ってない部隊みたい。サイド4の艦隊なのに、なんでなのかよく分かんないけど……デブリ除去作業支援とかの裏方任務が多い部隊、ってことなのかな……?」

「ハハッ、ゴミ掃除部隊か。ま、アイネにゃお似合いかもね」

「シエル、ひどい!」

 ぷうっと頬を膨らませて、豊かな胸の少女――アイネ・クライネは抗議した。だが彼女はすぐ、その表情を穏やかに安らがせる。暖かな、希望に満ちた微笑みを浮かべて呟いた。

「でもね。これで、私も……やっと、人の役に立てるよ」

「…………」

「ルウムを――L1宙域を復興するには、とにかくデブリの回収を進めなきゃ。作業に来てくれる民間業者がジオンの残党にやられないようにちゃんと守って、あいつらをやっつけて、私たちも自分でデブリを片づけて……出来ることから、少しずつやっていくの。MSは戦闘力だけじゃない。作業能力もすごく高いもの!」

 アイネとシエル。二人の少女パイロットは出身コロニーこそ違うが、旧サイド5ルウム出身という点では同郷だった。

 一年戦争劈頭の激戦ルウム戦役で、旧サイド5の住民二十億人はほぼ全てが殲滅された。その生き残りはほんのわずかで、それは地球連邦軍への入隊希望者に占める割合にしても同じことだ。

 二人の少女はMSパイロット訓練課程で出会い、同郷の出身者として、そして今なお数多くはない女性パイロット同士として、この同じ部屋で支え合いながら今までの日々を歩んできた。

 そして二人がともに志願した配属先は、サイド4駐留艦隊。

 拠点は分散しているうえ設備の程度も悪く、予算の優先順位は低く給与遅配すら珍しくない。それでいて任務の過酷さと危険度だけは圧倒的に高いという、典型的な不人気部隊だった。どうやら連邦宇宙軍内部でも、いわゆる『島流し先』の一種として扱われているらしい。

 それでも二人はここを『熱望』し、そして叶えられた。

 ふとアイネが、寂しげな顔を見せた。震える瞳を潤ませながらシエルを見つめる。

「サイド4駐留艦隊って……拠点も活動領域も、ぜんぜんバラバラだもんね。……ねえ、シエル。私たち……また、会えるかな……?」

「…………」

 L1点の全体に広がる、あまりに巨大で濃密な暗礁宙域。そして、そこを根城にするジオン残党その他の敵対的勢力に自由な連絡を妨げられて、サイド4駐留艦隊の拠点はバラバラに点在している。艦隊司令部に至っては、そもそもサイド4空域内に置かれてすらいないという始末だった。ゆえに各部隊の独立性は高く、隣の部隊に誰がいて、何をやっているのかも理解できないことすら少なくない、とまで言われていた。

 だから二人は今この瞬間が、一生で最期の別れになるかもしれない。

「あのね。だからね……これ」

「?」

 抱えた荷物の中から、アイネはおずおずと小箱を出した。大仰な包装紙をまとっている。

「これ――シエルに、あげる。きっと、似合うと思って……買ってきたの!」

「……このタイミングで? あのね。アイネ、分かってる? もう私の手荷物はいっぱいなの。今さら渡されても――」

「最後まで迷惑かけてごめん! でもね、私、どうしても最後に、シエルにこれを受け取ってほしいのっ!」

「近い。近いよ。いや、アイネほんと近い」

 いかにも迷惑そうにためらうシエルを、いつにない強気さでアイネは無理矢理に押してくる。両手を取って自分の胸に押し付けつつ迫り来る、有無を言わさぬアイネの強引な気迫に、とうとうシエルが根負けした。

「ああ、……もう。分かった、分かった。――ここで開けるよ?」

「うんっ!」

 シエルは言いながら、ため息混じりに包装を解く。現れたのは新品のメガネだった。手に取りながら、慎重に検分する。

「掛けてみて」

「…………」

「掛けてみて」

 満面の笑みを浮かべたアイネに同じことを二回言われて、シエルはついに諦めの吐息を漏らした。今までのメガネを外し、アイネからの贈り物に掛け替える。一目見た途端、アイネは手を打って喜んだ。

「似合う! 似合うよ、シエルっ!」

「……そりゃどうも」

「よかった。一生懸命選んだの。最後に渡せて――本当に、よかった」

 鼻息荒く興奮したアイネが渡してきた手鏡で自分の姿を眺めつつ、シエルは苦笑を浮かべた。

 同時に、ちらと腕時計を見る。スペース・バスの時間は、すぐそこにまで迫っていた。

「もう、――時間なの?」

「……まあね」

 目を合わせずに言いながら、シエルはしばし逡巡する。贈られた眼鏡の弦を確かめるように何度か触り、やがて思い直したようにポケットを探った。掌に掴んだ何かを、アイネの掌に差し出す。

「せっかくだから。要らなくなったから、あげる」

「――髪留め?」

 そしてアイネの掌に落ちたのは、露骨なまでに安物の、飾り気のない汎用品の髪留め。

「要らなかったら、捨てていいから。――じゃあね」

「あっ――」

 それきり手荷物を担ぎ、シエルは足早に港への道を急ぐ。

「ありがとう! ありがとう、シエル。大事に、するね」

 無言のまま、ただ肩越しに手を振る。

 今のアイネはきっといつも自分に見せる、あの馬鹿みたいな笑顔を浮かべているのだろう。

 決して振り向かないまま、足早に進むシエルは思う。

 二人がともに過ごした日々は、これで終わりだ。ここから先は、もう別々の人生が待っている。違う道を歩んでいく。

 そうでなければならない。

 だから、振り向かない。

 居住区を出るとき、最後に声が追ってきた。

「強くなるよ、私! 強くなるから――次に会うときには、私、シエルに負けないぐらい強くなってるから!」

 シエルは答えない。逃げるようにエレベーターへ飛び込んで、扉が閉まると、贈られたメガネを外して顔を拭った。

 結局それが、シエルがアイネを見た最後だ。

 だからシエル・カディスの中でアイネ・クライネは、今でも昔のままの髪留めを付けた姿で止まっている。

 

 

 

 全天周モニターの前方画面に何かが映った。

 かつて伝統的日本風家屋の一部だったらしいそれは、足場となっている駆逐艦の加速開始に伴って急速に接近してくる。パイロットの少女はほんのわずかに乗機の上体を傾けさせた。それだけの動きで彼女は機体を艦体から離すことなく、機体頭部の脇にデブリを通してやり過ごさせる。

 同時に、機体足下からの接触回線を通じて通信が入った。

『42より各機。戦隊旗艦《マカッサル》より入電、《アルマーズ》と同艦MS隊は全力を持って敵MS隊を駆逐せよ。――MS隊は42に続いて離艦。アルマーズ射線上を迂回して加速接敵、敵MS隊を捕捉・撃滅する』

『43、了解』

「44、了解」

 サラミス改級駆逐艦《アルマーズ》上甲板に立つMS、RGM-79R《ジムⅡ》44。その機内で新任パイロットの少女シエル・カディス伍長は、前方宙域に展開する戦闘の推移を睨み据えていた。

 ペズン教導団から呼び集めた最強の精鋭、との鳴り物入りで出撃した旗艦マカッサル所属のMS隊は、鎧袖一触とばかりに撃破された。しかも敵はコクピットやジェネレータなどの機体主要部が集中する胴体にはいっさい打撃を与えず、MSの四肢や頭部などの部分だけを精密に狙って破壊していったように見えた。実戦の場でそこまであからさまな手心など、圧倒的な実力差がなければ決して加え得ないものだ。敵はあのアムロ・レイ以上に強力なニュータイプだとでも言うのか。

 その異様な戦闘の一部始終を言わば『特等席』から見物していながら、アルマーズMS隊の誰も恐れは抱いていなかった。

『42より41。ひとつ確認を』

『何か?』

 42――アルマーズMS小隊を率いる華僑系の女性士官、リン・リンリー少尉が41、アルマーズ艦長ジャクソン・ヘイズ大尉に問いかけた。細長い目にいつも通りの穏やかな微笑みをたたえたまま、リンはあくまでさりげない調子でヘイズに聞く。

「『ゲーム』の主導権は今、我々の側に移った。――こういう認識でいいんですよね?」

『そういうことだ。アルマーズは敵MS隊を撃破しつつ、主導権をもって適宜『必要な行動』を執る』

「42了解」

 いろいろと面倒くさい政治的な意図の絡んだ状況を、ヘイズとリンは互いに曖昧な言葉と含み笑いで受け流す。それだけで彼らの間に意志は通じて、MSベッドや機体固定装置と同様、甲板上へ後付けされたMS用信号がグリーン・ライトを灯す。

「アルマーズMS隊、出撃――早足!」

 足部ユニットを拘束していた甲板側の固定装置と、MS側の電磁石が同時に解ける。ジムⅡ42は軽い噴射だけで舞い上がった。艦体からほんの少し離れた位置で背部と脚部のメインスラスター群に火を噴かせると、43、44がそれに続く。

 三機のジムⅡは敵MS隊を目指して宇宙を滑り、突進するアルマーズの下面象限へ潜り込んだ。母艦の進路と射線上からわずかにズレつつ、その斜め前方を突進していく。安全離隔距離を確保した時点で、三機は滑らかに推進軸を母艦と平行に戻した。

「ちょっと時間が押してるからね――急ぐよお」

『了解』

 バックパックと脚部の主スラスター群を高出力で噴かせ、MS隊はリンを筆頭にしてアルマーズから突出していく。その加速はデブリの少ない清浄宙域でのそれと同等。安全基準など完全に無視していた。普通の部隊なら接敵前にデブリに打たれて全滅するだろう。

 正面に構えた連邦軍制式シールドに小型のデブリが浅く弾かれ、五メートルはあろう巨大な岩塊を最小限の機動で回避する。三機は危なげなく暗礁宙域を猛烈な勢いで加速していく。

 狙う標的は敵MS隊。突撃する戦隊旗艦《マカッサル》から撃ち上げられてくる、対空砲火の嵐と躍る三機のザクⅡ。

 

 

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「――へぇ。シエルちゃん、遅れずちゃんと付いてきてるかぁ」

 先頭機42を駆るリン・リンリー少尉は、全天周モニターの正面カットインに新人少女パイロットの機体44を映しながら、よく感情が読みにくいと言われる細い目を眇めて楽しげに笑う。

「えらい、えらい。すっかり立派になっちゃってさぁ――お姉さん、嬉しいよホントにもう」

 一年戦争、そしてルウム戦役が起こったとき、リンは十六歳の貨客船員だった。

 地球連邦とコロニー公社から宇宙移民に対して課された引越費用と税の負担は、償還まで数世代を要すると言われるほどに重い。リンは早くに家を出てサイド間を航行する民間貨客船の下級船員を務めつつ、航宙士試験を受ける道を目指していた。

 戦争が全てを変えた。

 学費と税金を引いて残ったなけなしの賃金を送っていた両親と四人の弟妹は、ジオンの核攻撃でコロニーもろとも塵になった。

 戦闘の混乱の中、かろうじて港外に出られた彼女の船も攻撃された。プロパガンダで描かれる英雄譚ならともかく、緒戦において徹底的な殲滅戦略を採ったジオン公国軍に、逃げる民間人をわざわざ見逃す選択肢などあり得なかった。そうでなければ人口の半分など減らせはしない。

 貨客船はMS-06Cから問答無用に放たれた核バズーカ砲弾を受けて、定員を大幅に超過した数万人の避難民ごと小さな太陽になって消えた。

 その光球からリンが生き残れたのは、寝る間を惜しんで学んだ航宙技術と、たまたま当時の配置がランチの発着口に近かったこと――そして何よりも、助けを求めてハッチへ殺到した無数の人間を平気で見捨てられる心の醜さがあったおかげだ。

 まだ艇内に多少の余裕があったランチを貨客船から脱出させるとき、リンは船内で泣き叫ぶ無数の避難民の憤怒と絶望を見た。そしてザクの接近を知ったリンが彼らを見捨ててランチを急速発進させたから、数十人の避難者は貨客船に見捨てた数万人と一緒に核の爆光に焼き払われずに済んだ。

 追いすがるザクとガトル戦闘爆撃機の執拗な追撃を振り切りながら、かろうじてルナツーへ退却する連邦軍の巡洋艦に追いつき収容されたとき、数十人いたはずの生存者はほんの数人になっていた。最後まで追尾してきたザクが放った機銃掃射の一弾が、キャビンを直撃していたのだった。

「しかし、まさか……あのときの女の子が、ウチの艦に来るなんてね」

 バイザーの下で、形良い唇を皮肉げに歪めてリンは笑う。

 数千万人ごと爆散したコロニーから数万人ごと爆沈した貨客船に乗り込んで、そこからさらに数十人だけが乗り込めた脱出艇の中で、最後の機銃掃射にも殺されずに生き残れた、たった数人の避難民。

 シエル・カディス――母親に連れられていた当時まだ十歳の彼女は、その天文学的なまでに幸運な数人の一人だった。

 たとえ母親が目の前で上下真っ二つになって、その片割れを宇宙に吸い出されていくところを見せつけられたとしても、あの同じ日に死んだその他大勢の数千万人、数十億人に比べれば、十分すぎるほど幸運だろう。とにかく、生き残れはしたのだから。

 そう思うしかなかった。

 最期の瞬間まで娘を守ろうと抱き締めながら半分だけになった母親が、真空に吸われてもうそれ以上どこかへ飛んでいかないよう、シエルは寸法の合わないノーマルスーツを返り血で真っ赤に染めながら、錆び付いたようにきつく抱きついていた。サラミス級巡洋艦に収容されてもまだ母親の遺体から離れようとしなかった彼女に、思い切り強い平手打ちを食わせて無理矢理に引き離した瞬間の痛みを、リンは今でも覚えている。

 リン・リンリーにとって、それがそのとき最後のシエル・カディスに関する記憶だ。

 

 

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 何かに憑かれたようになったリンは、そのままルナツーで連邦宇宙軍への入隊を志願した。まだ幼かったシエルはどことも知れない難民収容施設へ送られたという。その後のことはまったく知らない。

 ほんの数日前に艦隊司令部から突然、新人パイロットの配属を知らせられるまで、リンは彼女のことを忘れていた。より正確には、忘れようとしていたに過ぎないのだが。

 結局あの子もこの道に来たのか、とリンは思う。復讐と再生の狭間で、細く小さく揺れ動く山間の吊り橋のような、かつて自分が辿ったそれと同じ道を。

 そしてその道があまりに細いから、こうして再び出会うことになったのも、あるいは必然だったのだろう。

「ふうむ。……ジオンの分際で殺生はせず、か?」

 リンの回想を断ち切るように、前方から撃破された友軍機の残骸――MSの胴体部分が近づいてきた。

 RMS-106《ハイザック》だ。地球連邦軍が各地で接収したジオン公国軍系MS生産インフラの流用と、流体パルス駆動方式やモノアイ式センサーユニットをはじめとするジオン系MS技術の連邦系との融合を図って開発された、地球連邦軍による戦後初の新型量産機。

 そうして出来上がった機体は拡張性に富む先進的なブロック構造を盛り込まれつつ、流体パルスとフィールドモーターの利点を組み合わせて高度な操縦性と運動性を確立している。

 一方でその新機軸を組み込んだ機体にはジェネレーターとの厄介な相性問題があり、それは最後まで解決できなかった。同時に二系統のビーム兵器を運用することが出来ないという不具合を抱え込んだまま、ハイザックは制式化されて本格的な大規模量産化に至っている。

 つまりハイザックではビームライフルで中距離から敵機と撃ち合いながら急接近しつつ、そのまま取り回しの良いビームサーベルを抜いて切り結ぶような、ジムⅡなら当たり前にこなせる空間戦闘の常套戦術は使えない、ということだった。

 とても戦後開発の新型機とは思えない欠陥兵器とも言えたが、一方でその素直で柔軟な操縦特性と軽量かつ堅牢な機体構造、そして豊富な推進材搭載量と充実した継戦能力は、特に空間戦闘に不慣れな新兵に受けが良かった。

 そして諸事情により、MSパイロットの育成が順調に進んでいるとは言えない連邦軍にとって、これらの特性は非常に重要である。未熟な新兵を乗せて戦わせるなら何度も改修を重ねてきたジムⅡより、新設計で動かしやすいハイザックの方が格段に有利とまで言われるほどだ。

 こうしてハイザックは現在ティターンズを中心に、連邦宇宙軍でも政治的信頼性の高い部隊に優先配備が進んでいる。サイド4駐留艦隊などという辺境部隊にありながら、マカッサルがハイザックを受領できた事実は、軍中央との強いパイプの存在を何より雄弁に物語っていた。

 そして僚艦であるアルマーズやトラキアにハイザックが配備されるという計画は、現状ではまったく存在していない。

「ま、ウチでは要らんけどね」

『きゅ、救援を――』

「待っててくださいな。後で拾いまーす!」

 戦闘で四肢を失ったきり、為す術なく漂流していたハイザックの一機が頭部を巡らし、何か言いたげにモノアイセンサーを向けてきた。リンはあっけらかんと言い捨てたきりさっぱり無視する。あんなものにいちいち構っている時間などない。

 そうして勢いよく追い抜く間にそれらの機体の破損状況だけを記録し、全天周モニターに小窓を開いて映し出す。同様に数機ぶんの残骸を分析して、リンは明確に結論した。

「うん、やっぱり。この敵さん、どうにも妙ちきりんな癖があるねえ。ニュータイプなのか何か分からんけれど――確実に、敵MSの主要部への直撃を避けながら撃破しに来てる。何か怖いことでもあるのか……徹底的に、過剰なほどにね」

『しかし、何が目的だ? この状況で機体の鹵獲や捕虜の確保が狙いとも思えんが』

 ジムⅡ43を駆る寡黙な古参兵、ネイサン・リドル曹長が訝しむ声にも、リンはあくまで淡々と返す。

「何にせよ、マカッサルのエリート勇者諸君が頑張ってくれたおかげだねえ。敵さんはもはや弾切れ寸前と見たよ。42より各機、シールドで防御姿勢を確実に保持。ビームライフルとマゼラ・トップ砲からの狙撃を警戒しつつ、中距離を維持しながらアルマーズと連携して射撃――」

『またマカッサルに爆発! 被弾か――いや、友軍機の墜落?』

「ん? ネイサン。今、敵のニュータイプっぽいやつ被弾した? 対空砲火で??」

 リンが出そうとしていた命令の途中で、戦況は瞬時のうちに激変していた。

 ニュータイプ・パイロットを含むと思しきMS小隊を相手に、有らん限りの火力をばら撒きながら不審船へと特攻まがいの肉薄攻撃を仕掛ける戦隊旗艦マカッサル。その蛮勇に半ば舌を巻き、半ば呆れ果てながら見守る彼女たちアルマーズMS隊の前で、マカッサルMS隊の隊長機らしきRMS-117《ガルバルディβ》が母艦へ墜落した――と思った次の瞬間、ザクの一機が被弾したのだ。続けざまに着弾していく。

 三機中で一機だけビームライフルを装備して、ほぼ単機の働きでマカッサルMS隊を壊滅させてのけた機体だった。90ミリ弾の嵐に機体の各所を乱打され、全身を撃ち抜かれたかと思うと、そのまま明後日の方向に流れていく。

『いったい何だ? どうしてあの機体が急に……リン。今いったい、何が起こった??』

「ありゃ、ありゃ。こりゃあ何とも拍子抜けだねー。何があったかは分からんけど、これはどうやら……このまま小細工抜きで行けそうだわ」

 その目をいっそう細め、リンは肉食獣じみた笑みを浮かべる。

 

 

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「43、44。とりあえず、あのニュータイプっぽいのは……ウチで取るよ?」

 ジムⅡ42の右手で、ジム・ライフルの90ミリ口径が鈍く光った。

 

 

 

『ノーラ! ティアを拾って!』

「!!」

 ミリアム・バーレット少尉がそう叫んだとき、彼女のザク・ファドランはすでにマゼラ・トップ砲の弾倉交換を終えていた。

 母艦《ケンドー丸》へ肉薄するサラミス改級巡洋艦《マカッサル》を直接に狙いつつ、信管測合を終えるやミリアムは即座に連射する。数門の機銃と主砲までもを沈黙させられながらも、なお苛烈な火線の嵐を吐きながら迫る艨艟へと175ミリの射弾は迫り、そして艦体直前で巨大な光球の連なりとなって弾けた。

 照明弾。目眩ましだ。

 至近で生じた閃光に呑まれて標的を見失い、巡洋艦がばら撒く火線が弱まる。ミノフスキー粒子下で至近距離での照明弾は覿面に効いたが、所詮は一時しのぎに過ぎない。

 ノーラ・ジャンセン伍長機はその一瞬の間に、ティアーナ・エイリス上等兵機のもとへ急行していた。90ミリ機銃弾の暴風に装甲のそこかしこを食い破られ、電装系から火花を散らしながら力なく漂う無惨なザク・ファドランを、マニピュレータで引っ掴むやスラスターを全開に噴かす。

 近距離赤外線通信に応答はない。誘爆の可能性も恐れず、ノーラは強引にティアーナの機体へ接触した。

「ティア! ティア、返事してよ――ティアっ!!」

 互いの機体構造そのものを通信回路として利用する、接触回線へ向かってノーラは絶叫した。なお撃ち続けている敵艦からの距離を開きながら、機体の状況を概観する。

 ティアーナ機の被弾箇所は、その大半が四肢に分散していた。腕部も脚部もボロボロに食い破られてしまえば、機体構造強度の大半を外部装甲板で支えるモノコック構造のザク・ファドランは、すでに運動機能の大半を失ったと思われる。それでもティアーナが最後の力を振り絞った回避とダメージ・コントロールが的確だったのか、今のところ誘爆の気配はない。

 そして、肝心の胴体部――ジェネレータとコクピットブロックという、MSにとって文字通り心臓であり頭脳である区画を有するその部位にも、サラミス改級巡洋艦からの対空砲火は容赦なくその弾痕を刻み込んでいた。

「あ、ああ。う、嘘――嘘。そんな……ティア……!」

 コクピットハッチ周辺を穿った数カ所の弾痕に、ノーラは戦慄する。ファドランはコクピットブロックの換装時に、胴体装甲の一部を原型機であるMS-06Fの超硬スチール合金からチタン・セラミック複合材へと変更していたが、その新型装甲が撃ち破られていたのだ。

「とにかく、下げなきゃ……!」

 前方ではマゼラ・トップ砲やシュツルム・ファウストの非致死性弾頭を放ち、ミリアム機が正面から敢然と敵艦を足止めしている。ノーラは彼女を後目にティアーナ機を引きずりながら、ケンドー丸を目指して自機を飛ばしていく。

『……のー、…………ら…………?』

「ティア!? 生きて――!」

 そのとき掠れるような、血を吐くような――ひどく苦しげな少女の声が、ようやくノーラに届く。コクピット内の映像も同時に入った。

 コクピットハッチを貫通した90ミリ弾の破片が内部を跳ね回ったのか、コンソールやリニアシートに全天周モニターから、パイロットスーツに至るまでの各所に破損が見えている。だがティアーナ自身の肉体に大きな外傷の気配は見当たらない。あくまで敵艦に生じた負傷者から苦痛の『おつり』を貰っただけだ、とノーラは判断した。

「ティア……! 良かった、良かった……! いま……いま、助けるからっ!」

 同時にティアーナ機から、機体状況の自己診断情報を引き出す。ティアーナが突然の激痛に苛まれながらも、最後の力を振り絞って回避したためだろうか。ほとんどの被弾箇所は主要部を避けるように分布していた。エネルギーの循環も適切にカットされており、即座に機体が誘爆する危険は小さい。

 とはいえ、被弾によってコクピット内の気密構造はすでに破られている。まだ多少の即効性が望める注射はもはや実行不可能だ。

 ティアーナのパイロットスーツに装備された、気管支経由での気化抑制剤の自動投与はすでに開始されていた。だが気化抑制剤の効き始めはさらに緩慢で、現状では気休め未満の代物でしかない。今からでも静脈注射で追加投与しなければならなかった。

 安全域まで能力を落としきるまでの間にこれ以上、戦場から彼女の精神を壊すほどの衝撃が加われば、ティアーナは――

「!」

 警報。ノーラ機の全天周モニターに警告表示が走る。

"《RGM-79R》x3"。

「後方の駆逐艦から、MS――ジムⅡ三機。何、こいつら……ジムのくせに、さっきのガルバルより速いっ!?」

 全天周モニターの正面にカットインが自動で開き、迫る敵機の影を拡大する。

 未だ彼我ともに有効射程外。だが命知らずなのか思い切りがいいのか、異様なまでに荒々しい加速で敵は迫る。このデブリが怖くないのだろうか?

 いずれにせよこのままでは、ノーラがケンドー丸の格納庫へティアーナ機を放り込むより前に、彼女たちは敵ビームライフルの有効射程内に捕捉されるだろう。

 状況を判断して唾を飲み込み、ノーラは覚悟を決めた。

「やっ、やってやる……やってやるっ。ジムⅡなんかサイド5で、力を抑えたままのティアと一緒に何機も落とした! 絶対、絶対あんなのなんかに負けない……やってやるっ!!」

 あと三機。それだけの敵機をしのげば、残りは二隻のサラミスだけだ。友軍の救援部隊だって、きっともうすぐ来てくれる。必ず道はある。

 しかし、やれるのか?

 無防備なティアーナとケンドー丸を守り、自分も死なず相手も殺さず、三機のMSを拘束・無力化しつつ持ちこたえる、などという離れ業が。

 もともと敵のパイロットはいっさい傷つけずにMSだけを撃破するなど、能力を解放したティアーナがその絶技をもって常人を相手にする場合、ようやく可能になる神業の類だ。それこそアムロ・レイと常人との間以上に大きな戦力の開きがなければ、恒常的には成立し得ない。

 ティアーナはおろかミリアムからの援護すら期待できない現状では、たとえ格下相手でも自分にそれが可能だとは思えない。そして前方からは巡洋艦が、後方からも駆逐艦が来る。ケンドー丸に取り付かれたら終わりだ。

 それでも自分を叱咤し、奮い立たせるようにノーラは叫んだ。

「ティアーナは、……私が守るっ!」

 軌道計算してティアーナ機をケンドー丸の予想進路上へ押し出し、ノーラ機はザクマシンガンの弾倉を交換しながら構え直す。

『警告:高エネルギー反応』

「!?」

 そのとき艦砲級の強烈な火線が、ケンドー丸から前方のサラミス改級巡洋艦へ走った。

 敵艦の至近を強烈なメガ粒子の奔流が突き抜けていく。

「あの火力、ビーム・バズーカ――イオ姉!?」

 ケンドー丸の格納庫から放出された、MS以上に長大な砲身と内蔵ジェネレータを持つ巨砲――ビーム・バズーカ。MS用兵器としては最大級の火力と寸法を誇るそれは本来、MS隊長であるイオタ・ファーガスン大尉自身が出撃する際の兵装として用意されていたものだ。ケンドー丸の艦体に固定して電力ケーブルまで接続しつつ、作業用のプチ・モビルスーツが操作していた。グラス・キャノピーの向こうにパイロットの姿が見える。

 女性的な肉付きの良い身体に、並外れて豊かな円みを帯びたバスト。イオタだ。

 重厚長大な砲身を非力なプチモビで巧みに操り、彼女は矢継ぎ早の第二射を敵艦へ放つ。

 だがビーム・バズーカがいかに強力とはいえ、その威力はせいぜい一年戦争時の巡洋艦の主砲クラスのものでしかない。あくまでMSが装備して、機動戦の中で運用するから価値がある代物だ。外付け電力とプチモビ運用では発射速度も照準精度も俯仰旋回も、すべての面でサラミス改級が多数有するメガ粒子砲塔の一つ一つとすら渡り合えまい。

 同時にケンドー丸の格納庫から、カタパルトでコンテナが勢いよく放出された。コンテナは艦の前方で内部から起爆して炸裂、膜状の何かを展開する。サラミスが放つメガ粒子の砲火はそこで搦め取られた。

 ビーム攪乱膜だ。展開され、拡散していく膜はすぐケンドー丸に追い抜かれるが、カタパルトからは矢継ぎ早に次のコンテナが放たれては爆ぜ散り、常に艦の前方へと対ビーム防御を確保し続ける。

『沈めってのよ、この野郎ォォォッ!!』

 その間にミリアムが、猛烈な気合いとともにマゼラ・トップ砲を速射した。至近で連続炸裂する照明弾が巡洋艦を乱打し、巨大な閃光に艦体を包み込んでいく。白い光に目を眩まされながらも、ノーラは敵艦のその動きを確認して叫んだ。

「――敵艦、転進! やった!!」

 必死に牽制するイオタとミリアムの猛射、そしてビーム攪乱膜を張りながら突進するケンドー丸による強烈なプレッシャーの複合が、ついに敵艦の戦意を挫いたのだ。ケンドー丸への衝突コースを取っていたサラミス改は針路を修正、射撃を継続しつつも側方へ逸れて離脱していく。

 チキン・レースに、ケンドー丸は勝った。

 正面の退路をこじ開けたのだ。あとはここを真っ直ぐ逃げ切れれば、それでいい。

 だが後続のジムⅡが予想外に速い。駆逐艦も来る。友軍の気配はまだない。

 離れゆく敵巡洋艦に最後の照明弾を叩き込んで牽制を終えたミリアムが、マゼラ・トップ砲の弾倉を交換しながらノーラ機の側方へ急行してきた。急拵えの二機編隊を組みながら、ミリアム機は対MS用の徹甲榴弾を装填したその砲口を敵方に向ける。

『ノーラ、ここから先は通常戦闘! 最初から殺す気で行きな!』

「えっ――!? で、でもミリ姉――もし、直撃出して……殺しちゃったら――」

『こいつらはさっきの連中とも、あたしらが余所のサイドで相手してきた連中とも違う。全力で殺しに行かなきゃ掠りもしない、ただこっちがあっという間に殺られるだけ! ノーラ? 敵が死んでもあたしらが死んでも、どのみちティアーナは助かんないのよ!』

『…………!』

 ミリアムの告げた冷酷な言葉が、熱くなりかけたノーラの意識を一気に冷やす。

 最初に出撃したときから理解していたはずの、こうなるかもしれないという、どうにもならない現実。

「了解……!!」

 それを再び突きつけられながら、それでも少女を救える僅かな可能性を信じて、ノーラは明確な殺意とともに敵機を見た。

 ミリアムがひとり小さく呟く。

『とうとう出てきたか、――『ルウムの亡霊』ども』

 

 

 

「敵艦転進! 左舷下方に抜けます!」

「左舷カタパルト、攪乱膜コンテナ投射はじめ! 機銃弾来るぞ、耐衝撃姿勢!!」

 ルスラン・フリート偽装貨物船、ケンドー丸の船橋に歓声はなかった。誰もが必死に自分の正面で戦っている。

 全力で展開したビーム攪乱膜がメガ粒子砲を封じてはいる。だがサラミス改級巡洋艦はすれ違いざま、照明弾の隙間から帰りがけの駄賃とばかりにケンドー丸へと90ミリ機銃弾をバラ撒いてきた。船体に鈍い衝撃、被弾音が構造材を伝って船橋まで揺らす。命中した数発はあっさりと船体外板を反対側に突き抜けていった。敵艦は対MS用の徹甲榴弾をそのまま撃っていたらしく、致命的な被害は生じていない。コロンブス級輸送船にはご大層な装甲板など無いから、内部の信管が作動することもなく、風穴だけ開けてそのまま向こうに抜けていったのだ。

「被害報告!」

「A-7、C-3、D-8区画被弾! 応急班対応中――全被弾区画閉鎖及び減圧完了、火災鎮火!」

「各部署、人員報告異常なし!」

「堪えたかっ。ビーム攪乱膜コンテナの残りは格納庫の後方に回せ! すぐにジムと駆逐艦が来る、そっちに対応させろ。まずMS戦の支援にカタパルトを回す、急げ!」

「両舷格納庫、緊急停止ネット展開完了! ティアーナの回収はどっちでも行けます!!」

 ケンドー丸にとって目下最大の脅威だった、サラミス改級巡洋艦は後方に過ぎ去った。敵艦はケンドー丸の側面を行き過ぎたまま、もう鋭角の切り返しを入れてくることもなく、ただ緩やかに離脱していく。デブリに邪魔されて満足な操艦が出来ないのか、それとも単に戦意が低いのか。いずれにせよ距離は開くばかりで、もはや無視して何の問題もないと船長は判断した。

 だが、後続の敵は別だ。

「速い……!」

 前面に展開するジムⅡ小隊もそうだが、その母艦であるサラミス改級駆逐艦もまた、異様な加速で追撃してきていた。いかに駆逐艦とはいえとても戦闘艦とは思えない、まるでMSか突撃艇のように軽快な動きでデブリを縫って、見る間にケンドー丸との距離を詰めてくる。今までよほど実力を抑えて遊んでいたらしい。

 それとも、あるいは――正面にいた巡洋艦に『遠慮』させられていたのか。

 今まで内通者から上がってきた『週刊誌』の行間にも見え隠れしていた、サイド4駐留艦隊独特の政治力学と内部構造を船長は想起する。

「ふっ、そうか。これが『ルウムの亡霊』――『あの男』の子飼いども、ということか」

「――前方哨戒点503より入電!」

「読め!」

 通信士がはっと口走ると、船長も反射的に叫んでいた。船橋じゅうから集まる視線の中、通信士が読み上げる。

「我前方哨戒点503、貴艦の信号弾と救援要請を確認。コムサイ改二隻で一個MS中隊が緊急発進、最大戦速にて前進中。到着予定は六分後、それまで持久されたし!」

「六分、か。……保つか……!」

 ミリアムとノーラのザク・ファドランが、ケンドー丸とティアーナ機を守るように展開し、ジム隊相手に防衛線を張ろうとしている。船橋メインモニターに映し出される戦場の中、迫り来る連邦軍機がビームの火線を放った。

 

 

 

 宇宙が光る。

 線ではなく、点になったまま迫り来る。

 ――やばい

 咄嗟に右肩の防盾を正面へ回したノーラの眼前で、ジムⅡから放たれたビームは見えざる手に押し曲げられたように屈折、そして拡散しながら霧散していた。

 サラミス改級巡洋艦への防御策として、ケンドー丸が大量に展開したビーム攪乱膜の残滓だ。それがなければノーラ機は、今の一撃で火球と化していたかもしれなかった。

「こ、この距離からいきなり当ててくるの……!?」

『ノーラ、残存の攪乱膜を壁に使いながら機動! 少しずつ下がりながら止めるよ!』

「りょっ、了解!」

 二機は回避運動を交えながらじりじりと後退していくが、ミリアムは牽制にほんの一発マゼラ・トップ砲を放っただけで、ノーラはまだ全く反撃の射線を開いてはいない。

 この中距離からジムⅡのビームライフルと渡り合える兵装は、ミリアム機のマゼラ・トップ砲しかない。もはやその残弾も心許なく、彼女たちは後手に回るしかなかったのだ。敵の主兵装であるビーム兵器の威力を減衰させるこの雲の存在だけが、今の彼女たちにとってほぼ唯一の勝算だった。

 ティアーナの能力解放戦闘は本来、敵軍において傑出する最強の戦力――少なくともアムロ・レイ級以上のニュータイプ・パイロットが操る、おそらくは最新型のガンダム・タイプMSを、前哨戦の段階で早々に駆逐することを第一の目的としている。

 超絶の異能を以てなお制御しきれない付随的被害の発生が不可避となる、多数の通常戦力との交戦などは最も忌避されるべき事態なのだ。

 それでも『最悪』の状況を想定して、対多数戦闘の訓練自体は行われていた。

『決して敵パイロットを殺傷せず』に敵MSの無力化を目指す場合、敵機を一撃で仕留めることは不可能である。通常ならばコクピットや主ジェネレータの集中する胴体部への直撃が決定打となるが、能力を解放したティアーナにとってそれは単なる自爆に等しい。

 よって細心の注意を払いつつ、敵パイロットに直接影響しにくいMSの頭部や四肢、武装や背部推進器などを個別かつ精密に破壊していくことになる。

 互いに砲火を交えつつ彼我高速で入り乱れるMS戦闘中に、このような超・精密狙撃を強いられること自体がすでに荒唐無稽ではある。それでもティアーナ自身にはそれが可能だったし、彼女に随伴するミリアムやノーラも、それらの状況を前提とした戦技と戦術を訓練していた。

 つまりティアーナがその戦闘力で突出しながら敵を引きつけている間に、彼女の側背を守りつつ敵機を横合いから叩いていくのだ。それでもなお常人にとっては悪夢に等しい難度ではあったが、二人は訓練の末、ついに今の実戦でその離れ業を実現してのけた。

 だが、消費弾数の問題は残ったままだ。

 敵機の武装やセンサー類に始まり、推進力やAMBAC機能まで全ての脅威を無力化していくためには、最低でも一機相手に五~六発の命中弾が必要となる。むろん命中までに要する総弾数はさらに多い。

 だからティアーナ機のビームライフルは早々にE-CAPが底を突いたし、ミリアム機とノーラ機の残弾にしても決して多くはない。

「援軍が来るまで……あと、五分半……!」

 ようやくケンドー丸が受信した友軍からの通信も、明るい材料になってはいなかった。

 五分間。この状況でのMS戦においては、無限のように長い時間と思える。目眩がした。吐き気も。敵は強く、こちらは手足を縛られたような戦いを強いられ、そして守るべきものはあまりに多い。

 残存攪乱膜にビームライフルでの中距離戦を封じられた敵機が、このまま突撃を継続してこちらの射程に入り込んだところを、マゼラ・トップ砲とザクマシンガンの火力を先制発揮して一気に叩くのが最善手ではある。

 だが果たしてこの強敵が、そこまでこちらの狙い通りに動いてくれるのか?

「もし、後方の駆逐艦と歩調を合わせられたら――」

 もしも敵が焦りを捨てて速度を緩め、サラミス改級駆逐艦が擁する多連装ミサイルなどの火力と連携されたら、その時点で彼女たちの射程面での優位はなくなる。

 訝しむノーラの眼前で、敵機は突撃を継続してきた。

 マゼラ・トップ砲の狙撃を警戒するように三機入り乱れるように機動しつつ、何発かビームを放ってくる。だが狙いは正確ながらもそれらの火線は攪乱膜に搦め取られ、まったく有効打になっていない。いつ現れるか知れないこちらの援軍を警戒して、敵は時間を惜しんだのだろうか。不利は承知で一気に距離を詰め、接近戦で決めるつもりか。

「――行けるっ」

 引き攣った笑みがノーラの口元に浮かんだ。間もなく敵機の先頭がザクマシンガンの有効射程を割り込む。精度重視の両手構えでザクマシンガンを指向しながら、ノーラは敵を待ち構える。

 旧式装甲が大半のジムⅡ相手なら、ザクマシンガンの徹甲榴弾は十分な威力を有している。そして装甲さえ抜けるなら、百発もの装弾数を連射で叩き込めるザクマシンガンは、近距離戦闘においてむしろビームライフルより有利だ。

 勝てる。少なくとも一機はここで仕留められる。

(ノーラ、だめ。逃げて――)

「えっ?」

 先頭を来るジムⅡが不意にシールドを下げた。

 そこから真っ黒な銃口が、丸くノーラの瞳を覗き込む。

 迸る90ミリ高速徹甲弾の嵐が、ザク・ファドランの装甲を撃ち抜いて火花を散らした。

 

 

 

「うーん、浅い。やっぱ読まれてたかな?」

 シールドの後ろに『仕込んで』おいたジム・ライフルからリンが放った一斉射は、ザクⅡの左肩部スパイク・アーマーを吹き飛ばした。マゼラ・トップ砲を構えた僚機からの狙撃を、リンは軽やかに掻い潜る。

 編隊は崩さず、速度もまったく緩めていない。ネイサンとシエルに牽制のビームを撃たせる中に自機を紛れ込ませ、ビーム攪乱膜に守りを頼んで安心しきった敵を、近距離からの奇襲でまとめて一気に葬り去るつもりだったのだが。

「さすがにそこまで馬鹿じゃあないか」

 くすくすと笑うリンの眼前でマシンガンを構えたザクⅡが機位を整え、慌てふためいたように機動しながら反撃してきた。だが照準は狂い、火線は明後日の方角へ抜けていく。

 そして近距離戦なら、ビーム攪乱膜の効果も薄れる。

 閃光が煌めき、90ミリ弾に加えてビームの雨がザクを襲った。

 ビームライフルを速射モードに切り替えた、後続する二機からの射撃だ。ビームスプレーガンの系譜に連なるBR-S85は、近接戦闘での速射でこそ真価を発揮する。

 三機がかりの集中射撃で、リンの奇襲を生き残ったザクⅡは次々と被弾。降り注ぐ90ミリ弾と光の矢に右肩の防盾、そして左腕と左腿をあっけなく貫かれ、破孔からぱっと明るく爆炎を噴いた。

 マゼラ・トップ砲を装備していたザクⅡが、予備兵装らしきザクマシンガンに換装しながら応射の火線を開く。三機のジムⅡはあっさりと掻い潜って防衛線を抜き去り、先頭を行くリンに従って急旋回を掛けていく。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「おお命中、敵機小破! いや中破? やるねぇ、シエルちゃん!」

『どうも』

 わざとらしく弾んだ声でリンが賞賛しても、新配属の少女パイロットはつれない返事を寄越すだけだ。かわいいねえ、と微笑むリンに、不機嫌そうにネイサンが聞いた。

『俺も一発当てたんだが』

「知ってる。褒めてほしかった?」

『……今のを凌いだとなると、なかなか手強い。すぐには片付かないぞ。どうする、リン?』

「そうだねー。ジャックには悪いけど、船を抑えるより、まずはこっちの二機から料理しようか。もう敵さんの領域にずいぶん深入りしてる。まあ最悪、あのニュータイプだけ連れて帰れればいいよね」

『つまり、二機とも墜としていいんですね?』

 冷たい声音で少女が言った。リンが笑みを深める。

「おっ、いいね。行っちゃう? シエルちゃん、いきなり撃墜数二機稼いじゃう? やる気満々だねぇ! えらいえらい。帰ったら何かおいしいもの食べさせてあげるよ。何がいいかな? そうだなー……」

 リンは大きく弧を描いた急旋回を終え、シールドを構えた左手にビームサーベルを握り込んだ。大きく相対速度を乗せてぶつかり合う反航戦、一撃離脱はもう終わった。ここから先は巴戦だ。

 試し噴きしたビームサーベルのメガ粒子が、全天周モニターからリンの頬へと照り返す。唇を嘗めた。

「北京烤鴨(ペキンダック)なんて、……どうかな?」

 

 

 

『ノーラ! 生きてる!?』

「だ、大丈夫っ。まだ、まだやれる……まだ、戦える……っ!」

 ノーラのザク・ファドランは、一瞬にして半身不随に陥っていた。

 四発の高速徹甲弾と三発のビームを浴びても、なお瞬時の機体爆散は免れた。だが左腕部と左脚部はビームと90ミリ弾に貫かれて大破。機体はAMBAC能力と兵装運用能力の大半を失い、その戦闘力を大きく低下させてしまっている。

 ビーム攪乱膜の守りに拠っていてさえ、これか。

 生き残れたのは単に幸運の結果に過ぎない。あとほんの少しの不運があれば、自分はこの三十秒足らずの間に、もう三回は死んでいた。

「う、うう……」

 冷たい恐怖にノーラは唸った。

 一瞬でファドランの機体を貫いたビームを、90ミリ高速徹甲弾の威力を思う。装甲を破ってこのコクピットに飛び込むそれらに五体をバラバラに切り刻まれ、あるいはメガ粒子の灼熱や融合炉の誘爆に、骨も残さず焼き付くされる瞬間を。

 ――次に来られたら、もう。

 時計を見る。援軍の到着予定時刻まで、あと四分三十秒。

 敵機の編隊が切り返してくる。

 ――保たない。

 MS戦でのビーム攪乱膜の効果を見たのか、ケンドー丸はなおコンテナをカタパルトで打ち出してくる。イオタがプチモビで操る甲板上のビームバズーカもジムⅡを狙って必死に旋回しているが、MSの機動性に追従できているようにはとても見えない。

『ケンドー丸を守る! 行くよ、ノーラ!』

「りょ、了解……!」

 片手にザクマシンガンを、そして片手にマゼラ・トップ砲を抱えたミリアム機が、ノーラ機を守ろうとするかのように前面へ出ながら敵機を追う。精密狙撃による攻撃を捨てて、制圧射撃による防御――時間稼ぎに徹するつもりなのか。震える声で答えながら、それでもノーラは機体を前に進める。

「ミリ姉っ、――あいつら!?」

 急旋回で機動してくる敵機が、ケンドー丸の格納庫へと流したティアーナ機へと急接近している。大きく目を剥いてノーラは叫んだ。

「ティアーナ!!」

 

 

 

 シエル・カディスは冷たい殺気をたたえた瞳で、眼鏡とバイザーの下から静かに敵機を睨んでいた。

 ザク――ジオン公国の象徴たるMS。

 シエルの中でその機影は、ルウム戦役の忌まわしい記憶と分かちがたく結びついている。

 少女が生まれ育った家とコロニーを端から端まで焼き払い、混乱の中で乗り込んだ避難船を父と弟ごと沈めた核の炎。遊び同然に脱出艇を追って撃ち抜き、目の前で母の半身と命を奪った砲弾。

 その破壊と殺戮の全てが、このMSからもたらされた。

 天涯孤独で難民キャンプに放り出された十歳の少女に、銃後の世界は冷たかった。ルナツーから各地を転々とした末、たった一人で送り込まれた旧サイド6のコロニーは、露骨なまでに親ジオン派の空気に染まっていた。

 ――ジオンはスペースノイド解放の大義のために戦っているのだから、悪く言うことは許さない。

 辛いことがあるのなら何でも言いなさい。面接でそう優しく笑っていた転校先のエレメンタリーの教師は、シエルがあの日の記憶を必死に振り絞り、やっと口にした瞬間に豹変した。

 おまえは嘘を吐いている。ジオンの軍がそんな非道を行うはずがない。四つのサイドを潰したのは彼らが解放され、ジオンの理想へ従うことを恐れた連邦軍だ。あの無様な張り子の虎の艦隊が、正義を行うジオンの軍に敵わぬと知ってコロニーへ核を打ち込んだのだ。そうに違いない。

 皆さん、この子は重力に魂を引かれたスペースノイドの裏切り者、連邦の豚です。何を言っても信じてはいけません。

 ですが、許してあげましょう。彼女は連邦のプロパガンダに騙されているだけなのです。皆さんはこんな愚かなことを言う、悲しい子になってはいけませんよ。

 教師はそう公言し、誰もが彼女を冷笑し、群れで平然と蹴飛ばした。学校にも街にも、孤児院にすら居場所など無かった。

 シエルに出来たことは、ただ黙々と勉強し、自分を鍛え続けることだけだった。

 この手に知識と技術がありさえすれば、自分もジオンと戦える。避難船から脱出艇を出したあの船員の少女のように、連邦軍の兵士になれる。

 きっと、復讐できる。

 そして80年の1月1日、彼らはア・バオア・クー陥落と停戦発効の報と同時に掌を返した。

 ジオン礼賛の空気は雲散霧消した。表向きは。

 連邦軍が堂々とコロニーに駐留するようになって、教師も同級生もすべてを忘れたようにザビ家を罵り、未だに各地で破壊活動を続ける残党軍を嘲笑した。そして、そのまま同級の面子が一緒にジュニアハイへ繰り上がっても、彼らは陰でシエルを連邦の豚と呼ばわって嘲り続けた。

 人間とはそういうものなのだ、とシエルは思った。ひとり淡々と磨き上げた、彼らの追従を許さぬ並外れて優秀な成績と能力だけが、少女を支えるすべてだった。

 連邦軍のMSパイロット候補生試験にあっさり合格して教育隊に進んだとき、シエルは彼女に出会った。

 ちょっと呆れるくらいに胸の大きい、内気でおどおどした感じの少女。いろいろな意味でよくMSパイロットの適性試験に合格したなと思える少女だったが、なぜか彼女はシエルを初めて目にした瞬間に瞳を輝かせ、さらに二人がルームメイトだと知るや、すごい勢いで抱きついてきた。制服の胸で窒息しそうになったので、とりあえず足技で倒した。

「えっ、あなたもルウム出身なの? 私はテキサス! お父さんが無茶苦茶な人で、開戦後も退避勧告をぜんぶ無視してギリギリまで残ってたんだけど……終戦前の戦闘で、とうとうコロニーに大穴が開いちゃって。だから私ね、生でガンダム見たことあるよ。本物の、アムロ・レイが乗ってるガンダム! ……まあ遠くから、ちょっとだけなんだけどね」

「テキサスって、ああ……。あの、牛の放牧を大規模にやってた。それで……」

「……なんで私の胸を見るの?」

「いや、……別に」

 アイネ・クライネは様々な面でシエル・カディスと正反対の少女だった。そうでありながら、二人は不思議と馬が合った。何でもそつなくこなすシエルへアイネは必死で付いてきたし、シエルもアイネの好きに任せた。

 ふだん人見知りするアイネが自分と一緒の時にだけ見せる暖かい笑顔に、まっすぐに自分を求めて向き合おうとしてくる真剣な眼差しに、無理矢理に触れあってくる彼女の豊潤な女性美に満ちた柔らかな温もりに、自分の荒んだ心がいったいどれだけ救われたか分からない。

「そういえばさ。アイネはどうしてMSパイロットを目指してるの?」

「? 私? 前に言わなかったっけ。私は、復興のため」

「復興?」

「そう! 今の連邦軍の使命はそれでしょ。どこのL点もデブリだらけで、そこにはジオンの残党が潜伏してる。デブリを片して、ジオンの残党をやっつけて――またL点を昔みたいに、人の住める場所に戻すの。それが私の、いま一番MSでやりたいこと!」

「……復興、――そうか」

「うっ……わ、私、大きいことを……。み、みんなには……内緒だよ??」

 そういうのも、あるのか。

 連邦軍のMSを駆って、ジオン残党のMSを落とす。

 殺す。

 私のすべてを奪った連中から、今度は私がすべてを奪う。

 今までそれしか考えていなかったけれど、それとは違う道があるのだ。

「サイド4駐留艦隊って……拠点も活動領域も、ぜんぜんバラバラだもんね。……ねえ、シエル。私たち……また、会えるかな……?」

「…………」

 いつの頃からだろう。アイネの側にいると、胸を締め付けられるような苦しさを感じるようになっていた。

 いつも視界の端に彼女を追って、際限なく彼女の存在を求めるようになってしまっていた。

 このままでは自分はきっと、アイネを深く傷つける。

「――髪留め?」

「要らなかったら、捨てていいから。――じゃあね」

 だから、離れる。互いを忘れる。そして、違う道を歩いていくのだ。

 この同じ軌道のどこかで、彼女の幸せを願いながら。

 アイネが配属された巡洋艦《アバリス》は、彼女の属するMS隊もろとも全滅した。

 徹底的な殺戮を行うことで知られる、ルスラン・フリート傘下のジオン残党勢力《大ジオン仏道》による襲撃だった。生存者はなかったと聞かされた。ひとかけらの遺体すら。

 ジオンはまたあざ笑うように、自分の半身を奪っていったのだ。

 もはやジオンに連なる者たちをこの世から一人残らず根絶やしにしない限り、自分の人生に一切の安息はあり得ないことをシエルは知った。

『よし、シエルちゃんはあのニュータイプを拾おうか。機体はもうだいぶボロボロだけど、なにせ相手が相手だしねぇ――パイロットが死なない程度に、サクッと無力化しちゃっておいて』

「了解」

 消えることのない暗い殺意だけが、今もシエルの心の奥底で燃えさかっている。

 目の前のザクも、ふざけた偽装貨物船も、すべてまとめて宇宙の塵にしてやりたい。

 かつて奴らが、無防備の故郷と家族を殺し尽くしたように。今またアイネを殺したように。

 たとえ自分が受けた仕打ちの万分の一にすら満たなくとも、それで微かには和らぐだろう。この胸に宿る、真っ黒な炎は。

「生かしてやるよ、お前だけは。今だけは、な」

 力なく漂流する敵機を蹴飛ばして軌道を無理矢理変更しながら、シエルはビームサーベルの光刃を走らせた。

 

 

 

 全身が熱い。

 真っ赤に焼けた弾片が、変形した構造材とノーマルスーツが、五体に深く突き刺さっている。

 息が苦しい。

 区画はとうに真空になっていた。ノーマルスーツの破損部からエアが抜けていく。補修も出来ない。意識がかすむ。

 手足が動かない。

 歪んだ構造材の下敷きになり、四肢はことごとく捻り潰された。

 四人分の苦痛が少女ひとりの意識の上で重なり合えば、骨折していない部分など残りはしなかった。

「あ、うう……あ、あ、あうう……っ……」

 MS墜落を受けた敵巡洋艦マカッサル。そこで墜落に巻き込まれた乗員四人分の苦痛と恐怖が殺到し、ティアーナの意識を一気に押し潰している。

 機体はズタズタに引き裂かれていても、ティアーナの肉体に外傷はない。だが肉体を司る精神の方は、すでに四人分の激痛に塗り潰されていた。戦闘継続はおろか、軽易な操縦すらも不可能だ。

 自分の手も足も間違いなく今ここにあるのに、ティアーナの心の中でそれらはとうに砕けていて、だから彼女はそれを少しも動かすことが出来ずにいる。

『とにかく、下げなきゃ……!』

「……のー、…………ら…………?」

『ティア!? 生きて――! ティア……! 良かった、良かった……! いま……いま、助けるからっ!』

 その暗闇の中で、少女の暖かく優しい感情を、渦巻く苦痛と薄れる意識の中でティアーナは感じる。

 ノーラ、――ボクの、友達。

『ティアーナは、……私が守るっ!』

 ノイズ混じりの全天周モニターの向こうで、ノーラ機はザクマシンガンを構える。そしてティアーナの機体に手を掛け、ケンドー丸の軌道方向へ押し出した。いい計算だ。何事もなければ、自分はこのまま前部ハッチから収容されるだろう。

 だが、二人は。ここに残って、迫り来る敵の新手と戦う二人は。

「――!」

 激痛に鈍って霞む感覚の中、ティアーナは戦闘の流れを察して感じ取る。

(ノーラ、だめ。逃げて――)

『えっ?』

 猛烈な射撃がノーラを襲い、機体を貫く。出鼻を挫かれて撃ち負けても、ノーラ機はかろうじて致命傷を回避した。それでも全身に被弾して左半身が機能を失う。掩護に入ったミリアムの応射からあっさりと離脱し、敵は二人の防衛線を抜き去って急旋回していく。

 敵が強い。勝てない、とティアーナは悟った。

 急旋回の機動から、ジムⅡの一機が自分の直上へ迫ってくる。明らかに異常な戦闘能力を示した自分を、機体の手足を落としてから鹵獲するつもりなのだ。

 そしてティアーナは敵である彼女たちが、ミリアムとノーラを殺そうとしていることも理解していた。

 敵は三機がかりでビームライフルとジムライフルを牽制に放ちつつ、一機がティアーナ機に足蹴りを叩き込む。

「あぐっ――!」

 激震とともに満身創痍の機体が吹き飛び、少女の機体はケンドー丸への回収コースから外れていく。ビームサーベルを抜き放って追撃が来た。

『ティアーナにっ、触るなあああぁっ!!』

 そこへノーラが絶叫しながらザクマシンガンを右手で構え、片手撃ちでは弾着が散るのも構わずに連射しながら突進してくる。ミリアム機がマゼラ・トップ砲を構え、ようやく砲身旋回を終えたイオタのビーム・バズーカもこちらを狙う。

(ミリアム、そこで撃って――)

『――ティア!?』

 ティアーナの思惟に導かれ、ミリアム機がマゼラ・トップ砲を放つ。175ミリ徹甲榴弾は過たず精確無比にジムⅡの機体主要部を狙って飛翔。だが見透かすように構えられていたシールドに弾かれ、浅い角度で跳ねて明後日の方角へ飛び去った。

『離れなさいッ!!』

 イオタの怒声。死角から挟み撃つようにビーム・バズーカの閃光が走る。だがミリアムの狙撃で牽制してもなお、長大な砲身の挙動は重たかった。ジムⅡは軽やかなロールを打って逃れ、かすり傷もなくビームの一撃を回避して後退する。

 そこへザクマシンガンの斉射を浴びせながら飛び込み、ノーラ機はジムⅡを押し退けるようにしてティアーナの側へと滑り込んでくる。

『ティアっ、ごめん! 大丈夫!?』

 息を切らせたノーラのファドランが、全天周モニター越しにティアーナを見つめるようにモノアイを巡らせた。彼女たちを守ろうとするかのようにケンドー丸がまたコンテナを放ち、二人の至近で弾けてビーム攪乱膜の新たな層を広げていく。

 だが攪乱膜をいかに的確かつ濃密に展開したとしても、もはや万能の守りたり得ないのは今までの戦闘が示したとおりだ。ジム・ライフル装備の一機は言うに及ばず、残りの二機も変幻自在の戦闘手段を使いこなす。

 そして、敵は決してその手を休めない。流れるように三機編隊を組み直すや、再び一丸となって切り返してくる。

 今や彼らの殺意はノーラとミリアムだけでなく、甲板上にプチモビで立つイオタまでもを狙っていることをティアーナは知った。

 次の突撃で誰か、彼女の大切な人が死ぬ。

『負けるもんか……ぜったい負けるもんか……私が守るの……ティアーナは……ティアーナは、みんなは、私が……私が、守るの……!』

『――イオっち、援軍は?』

『さっきの通信が最後よ。あと、四分半――』

 ノーラの声は震えていた。ミリアムの声は乾いていた。イオタの心はもうここにはなく、彼女はどこかずっと遠くを見ていた。

 ティアーナの口元に、ふっと安らかな笑みが浮かぶ。

 最後の力を振り絞り、少女はそっと操縦桿を握った。

『――ティア!? あんた、何をっ!?』

 敵機のただ中へ向かってスラスターを噴かし、ただ漂流するように接近していく。

 同時に自らの腰に残っていたヒートホークを掴み、一気に赤熱させる。そして真っ赤に焼けたその刀身を、自機のコクピットハッチへと押し当てた。

『ティアーナ!?』

『ちょっとこのバカ!! あんた何やってんのよ!!』

「だ、ダメ……ダメよ……ティアーナ。……それだけは……それだけは、ダメ……」

 薄い天蓋一枚の下でプチモビルスーツから、必死にビーム・バズーカを操作していたイオタが唇をわななかせた。

「……れんぽーぐんの、ひと、……聞こえる?」

 ビーム攪乱膜の内側を抜け、通信系統を自軍専用の秘話回線からオープン回線に切り替えながら、ティアーナは敵兵を呼ぶ。返答はなかったが、ティアーナは敵がそれを受信したことを直感で知った。

「お願いだから……もう、やめて。みんなを、いじめないで……でないと、ボク……今すぐ、死にます」

 ヒートホークの赤刃が、コクピットハッチに触れた。

 堅固な装甲板が瞬時に沸騰して泡立ち、ヒートホークに押された分だけ溶解していく。一年戦争時に地球圏最強の装甲材、ルナ・チタニウム合金すらたやすく溶断してのけたその威力は折り紙付きだ。

 全天周モニターの映像を通じて、ティアーナはその炎熱地獄をじっと目の前で見つめていた。

 希少なニュータイプである自分の利用価値は計り知れない。だから敵が危険を冒してでも自分を捕獲しようとしていることを、ティアーナはすでに見抜いていた。

「ボク……とーこー、します。だから……攻撃、やめて。みんなを、逃がして。助けて、あげて――」

『ティアーナッ!! あなた、何をしているの! やめて! やめなさい! 今すぐ、今すぐこっちに帰ってきなさい!!』

 半狂乱でイオタが喚いた。彼女は知っているのだ。今の地球連邦軍がニュータイプを手に入れたら――それもジオン残党兵などという、人権について一切考えずに済むニュータイプを手に入れたら、一体どうするのかということを。

『……ティアーナ。あなた、まさか――』

 ごめんね、と心の中だけでティアーナは謝る。

 そして、ティアーナも知っていた。目の前の敵が単なる時間稼ぎを受け入れたり、そのまま見逃してくれるほど甘くはないということを。

 稼働中のミノフスキー・イヨネスコ式融合炉は、ある一定の条件を満たしながら破壊されたとき、核爆発する。

 ミノフスキー物理学の原理に由来するこの融合炉の爆発は、旧世紀の核物理学で定義された核爆発とは異なるものだ。しかしその規模が通常炸薬の威力を遙かに大きく上回ることから、近年ではこれも新たな核爆発の一種として扱われることが増えていた。

 ヒートホークでコクピットブロックを貫き、そのまま一気に胴体内の主ジェネレータを真っ二つに叩き割る。

 それで機体は即席の小型核爆弾と化すのだ。

 そしてティアーナは今、敵兵たちから『迷い』の色を感じ取っていた。

 希少なニュータイプを捕虜に出来るかもしれないこの機会は、敵にとっても強力な誘惑だ。ギリギリまで捕獲を諦めはしないだろう。自爆など単なる脅しに過ぎないのではないか、と思ってもいる。少なくとも一機は確実に巻き添えに出来るはずだ。

 自爆だけで敵を全滅させることは無理でも、両手足を縛られたような不殺の戦いを皆に強いる、自分という枷の存在はなくなる。一分や二分の時間は稼げるはずだ。援軍も確実に近づいている。

 その一分や二分の差で、ケンドー丸は――ティアーナの大切な人たちは、助かるかもしれない。

 ジム・ライフルを構えたジムⅡが、僚機を押しとどめるように左手を上げた。単機でこちらへ近づいてくる。隊長機らしい。自爆の巻き添えに出来れば、大きく戦力を削げるだろう。ラッキー、とティアーナは微笑む。

『――ふざけんなっ!!』

 だが耳元のスピーカーで少女の絶叫が、そして後方で感情が弾けた。半身不随のファドランが虚空を蹴り、まっしぐらに前進してくる。

「ノーラ……ダメだよ、来たら――」

『だってこれは、私らの戦争でしょうが! なんで真っ先にティアが死ななきゃなんないのよ!? おかしいでしょ! ふざけんな!!』

 彼女の動きを見た二機のジムⅡが、即座にビームライフルを放った。光弾はノーラ機の手前で攪乱膜に触れてねじ曲がる。しかしその精確な照準は彼女の中破したファドランなど、ビーム攪乱膜から出た瞬間に撃墜できるのだと無言のうちに語っていた。

『くっそおおおっ! イオ姉ミリ姉、支援してよ! じゃないとティアが! ティアがあっ!!』

「あのね、ノーラ」

『あによっ!? 遺言なんか聞かないかんね!!』

「――だいすき」

『えっ――』

 攪乱膜の内側で自機を制動しながら、ノーラは怒りに泣き叫ぶ中で虚を突かれた。

「イオタに、拾われてから……毎日……とっても、楽しかったよ」

 涙に霞む視界の中で、ノーラの機影へティアーナは微笑む。

 コクピット内に貼られた、何枚もの写真を見た。皆と写っているどの写真の中でも、ティアーナはいつも笑顔だった。

「暗くて寒いところに、ずーっと……一人ぼっちで、いたとき……こんなに、暖かいところがあるなんて……知らなかった。世界にイオタや、ミリアムや……ノーラが、いてくれて……ボクがこんなに、幸せな気持ちになれるなんて……知らなかった」

 装甲を溶かし続けるヒートホークが、コクピットハッチの過半まで沈んだ。

 蓄積し続ける超高熱の影響を受けた全天周モニターが、その裏側で歪みはじめる。発泡し、変質し、正面から少しずつ機能を喪失していく。

「みんなはボクに……もう、一生ぶんの……幸せを、くれたよ。だから……、ボクはもう、いいの。ボクの大好きな、みんなが……生きていってくれれば、それで……いいの」

 内側から沸騰するように泡立ってくる全天周モニターに、リニアシートから離れて漂う写真が触れた。

 真空の中で高熱に炙られ、写真は見る間に炭化していく。

 ティアーナの笑顔が、イオタの優しい微笑みが、ミリアムの澄まし顔が、ノーラの怒り顔が、何もかもが真っ黒な炭になって燃え尽きた。

「とっても、楽しかったよ。ありがとう。だから、ボクは、もう……パパとママのところに、帰るね」

 そしてティアーナは、その指先を操縦桿のボタンに掛けた。

 あと一押しだけで、彼女のファドランは事前入力されたプログラム通りの動作を行う。

 渾身の出力でヒートホークを機内へ押し込み、コクピット内部のすべてを焼き尽くす。そして破損に構わず最大出力で稼働している主ジェネレータを、そのまま一気に破壊するのだ。

「イオタ、……ボクがいなくても、ちゃんと、笑って。ミリアム……イオタをおねがい。ノーラのことも、かっこよくしてあげて。ノーラ、……今までいっぱい、いやなこと言って、ごめんね……。かっこいい彼氏、作って……自慢、してね……」

 まだ生きている側後面の全天周モニターと、機体の装甲を通した直感で、ティアーナは近づく敵機の距離を計っている。もっとも適切な自爆のタイミングを計っている。

 そして敵も、ただ手をこまねいているわけではない。

 側面に一機のジムⅡが流れて、ビームライフルで狙撃姿勢を取っていた。ヒートホークとマニュピレータを狙っている。博打ではあるが、あわよくばその狙撃でヒートホークだけを破壊して、ティアーナの自爆を阻止して捕獲できる。

 もし精密狙撃に失敗したとしても、懸念材料が消えるだけだ。そのまま戦闘を再開し、二機のザクⅡを撃墜し、敵が救援に来るなら船も沈めればいい。

 ――でも、その動きは全部お見通し。ボクの方が先手を取れる。だから、敵のお姉さん、ごめんなさい。ボクと一緒に、来て。

 これで、みんなを、守れる。

『……ざけんな』

「――ノーラ!? だめ――」

 そしてティアーナが敵の意識を引きつけていたから、敵の防衛線には中破したファドランに突破を許す、僅かな隙間が生じていた。

 ジムⅡのビームライフルが光軸を放って跳ねる。だがノーラは有らん限りのスラスターを噴かして歯を食いしばり、転がるように掻い潜った。ティアーナへ迫るジムⅡへ突進しながら、120ミリ弾の雨を降らせる。連射しながらノーラは叫んだ。

『死にたくない、って言えクソガキ! もっと遊びたいって言え! もっとイオ姉のおっぱい触りたいって言え! 一生ぶんの幸せだあ!? 笑わせないでよ、あんな程度で足りてるわけないでしょ!! 世の中にはまだ、アンタにゃ想像も付かないような楽しいことがあんの! 素敵なことがあんの! アンタはまだ何にも見ちゃいないの! だから、――だから、まだ死にたくないって言え! たった一人ででも、自分だけでも生き延びたいって言えぇ!!』

 ノーラの突撃で、連邦軍が一気にシフトを変えた。ティアーナの捕獲を中断し、全戦力をノーラ機の排除に向けてくる。イオタがビーム・バズーカを放ち、ミリアムもマゼラ・トップ砲を一発撃つきり、ザクマシンガンに持ち替えて連射しながら突進してきた。

 ミリアムは敵隊長機に襲いかかる。ジム・ライフル相手に猛然と連射を交わし合いながら、唇を歪めて絞り出すように呟く。

「青臭いのよ、バカが――これ戦争なのよ? もっと救われない惨めな死に方した子が、今まで何十億人いたと思ってんのよ――」

 敵隊長機を気迫で押さえ込むミリアムの掩護を受けていてさえ、敵の反撃はあっさりと立ち直ってノーラを捉えた。ティアーナを最初に蹴飛ばしたジムⅡが頭部バルカン砲を放ちながら、ビームサーベルを抜いて肉薄してくる。

 ボロボロの機体でザクマシンガンを構え、それを真正面から迎え撃ちながらノーラは喚いた。

「何が大好き、だこの野郎! 最後の最後に分かった風な口利いて一人で小さくまとまろうとする、おまえみたいなクソガキなんかなあっ、私はだいだいだいだいだいっきらいだあああぁーーーっ!!」

『――ノーラ……』

 半壊した機体からノーラが撃ち返す120ミリ弾の連射は掠りもせず、逆に60ミリ弾の射線は機体のそこかしこを撃ち抜いて弾ける。弾着に震えるノーラ機へ、敵機はビームサーベルで斬りつけてきた。

「あぐうっ!? くそおおおぉぉぉっ!!」

 被弾で全天周モニターのいくつかが割れて薄い空気が噴き出す。ノーラ機の右腕はボロボロの防盾ごと切り落とされて、ザクマシンガンを構えたまま漂流していく。

「こなくそおーーーっ!!」

 左肩のスパイク・アーマーはとうに失われていたが、ノーラは構わず突進して体当たりを掛けた。だがその必死の激突もジムⅡは平然と盾で受け止める。そして敵機はお返しとばかり、コクピットハッチへ突き蹴りをくれた。リニアシートごと衝撃が貫く。

「ああーーーっっ!!」

 もはや姿勢制御も出来ず、ノーラ機はスピンしながら吹き飛んでいく。回転する視界の中で、別の敵機がビームライフルで狙うのが見えた。

 丸い銃口。ロックオン警報と高エネルギー警報が二つ続いて鳴り響く。

 回避機動は間に合わない。

 ――ああ、そうか。私、死んじゃうんだ。

 何も出来ずに。ティアーナも、船のみんなも、誰も守れないままで。

 バイザーの下で、ノーラの瞳に涙が溢れた。

「――ごめん、ティアーナ……」

 そして、ビームが迸る。

 強烈な火線が機体の中心を捉え、装甲を撃ち貫いて命を焼いた。

 融合炉が暴走し、巨大な爆発が一輪の光球となって広がっていく。

(あっ、――)

 その膨大な光量と爆圧を装甲越しに浴びながら、ノーラは激震するリニアシートの上で、ティアーナの気配が消えるのを感じた。

 何かが聞こえる。ミリアムの声だ。

『九時方向!? 連絡のあった援軍じゃない――これは!?』

 そしてオープン回線に、新たな雑音が進入していた。

 呪文のような文言を唱える、男女の声――そして木製打楽器らしき、アップテンポの単調な音色。

『ジオン強者の砲(つつ)の音、諸行無常の響きあり』

『シャングリラの川の色、コロニー必衰の理(ことはり)をあらはす』

 急速に接近してくる彼らは、ケンドー丸が待ち望んでいた援軍ではなかった。何の気配もなく、前触れもなく――苦痛に鈍っていたとはいえ、ティアーナの超感覚にすら捉えられずに彼らは忍び寄り、そして、あの長距離狙撃を成し遂げたのだ。

『おごれるレビルも久しからず。ただ光る宇宙(そら)の夢のごとし』

『たけきザビ家も遂にはほろびぬ、ひとへにア・バオア・クーの塵に同じ』

 三機のMS、MS-14A《ゲルググ》の編隊は猛烈な加速でデブリの海を突き進みながら、ビームライフルで残る二機のジムⅡと、そしてサラミス改級駆逐艦を狙う。

 先頭を行くゲルググのコクピットで、頭上のハロ改が打つ木魚の音を聞きつつ、総髪の男は澄み切った瞳で戦場を見下ろしながら呟いていた。

『南無阿弥陀仏――腐敗極めし連邦亡者、もろびと挙りて成仏すべし』

 




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