『来たぞ、ネット展開!』
『退避急げ!』
開放されたコロンブス級偽装貨物船《ケンドー丸》の格納庫へ、全身に被弾し両腕を切り落とされた、ボロボロのMS-06F3《ザク・ファドラン》が放り込まれた。
緊急停止ネットは乱暴に放り込まれた機体を絡め取ったが、コクピット・ハッチに触れたワイヤがじゅっと焦げ付く。ヒートホークが深く食い込み続けていた装甲板は、それだけの熱を抱え込んでいたのだ。
ケンドー丸船橋は帰投してきた別の機体にも指示を送る。
『ノーラ機の方はもういい、機体は船外投棄しろ! 航海班、パイロットを回収するぞ! ノーラ、自分で戻ってこれるな!?』
『わ、私は大丈夫! 飛び移るから拾って――それより、ティアは? ティアは大丈夫なの!?』
いま艦内へ収容されたこの機体も、通常なら格納庫には入れずに破棄すべきレベルの損傷を受けている。もし艦内でMSが爆発すれば最悪の場合、轟沈もあり得るからだ。
だがケンドー丸は危険を承知で、あえて大破したその機体を収容したのだ。
それが彼らの任務であったし、同時に彼らはひどく人間的な感情から、絶対にそうしなければならないと確信していた。
『なんでハッチを開放しない!? 強制排除しろよ!!』
『だ、ダメ……っ、ハッチが、熱で癒着して……っ!』
『どけっ!!』
待ちかまえていた整備兵たちが、一斉に冷却材の噴射を開始する。急激な温度変化に装甲板が軋んだ。真空中に怒号が飛び交う。
そのとき小破したザク・ファドランが着艦、格納庫甲板を踏み鳴らした。大破した機体をケンドー丸まで曳航し、この格納庫へと放り込んだ機体だった。モノアイの剣呑な光が艦内を嘗める。
『ちょっとあんたら。そんな全員で集ってたってしょうがないでしょ。あたしに予備弾出してよ』
『バーレット少尉――』
『まだ後ろで戦ってる味方がいんのよ。マゼラはもう置いてくからヨロ。120ミリ二つ、もらってくよ』
言いながら傷ついたマゼラ・トップ砲を放し、壁に掛けられた円形弾倉を掴むと、ミリアム・バーレット少尉は機体にスラスターを噴かすことなく甲板を歩かせ、補助カタパルト・グリップを掴んだ。背後で繰り広げられている必死の救助へは振り向きもしない。
全天周モニターの通信小窓に、ビームバズーカを構えたプチ・モビルスーツのコクピット内が映っている。ずっと遠くを見つめたままの直属上官を横目に、ミリアムは一方的に吐き捨てた。
『イオっち。ノーラとティアは、任せるかんね』
間髪入れずに電磁が走った。カタパルト・グリップが機体を引きずり、砲火咲き乱れる戦闘空域へと傷ついたザクを放り投げる。だからミリアムはイオタが一人、静かにすすり泣く声を聞かずに済んだ。
「アホとなんとかは高いところがお好き、っと」
月を背にした僚機の姿に呆れた口調で呟きながら、サブリナ・ミケリヤ少尉は眼下に――遠い地球を背にして散らばる敵MS編隊を次々と照準していた。右肩の固定式360ミリロケット砲、そして左肩に構えたバルザック式380ミリロケット・バズーカが交互に火を噴く。
RGC-80SR《ジム・キャノン空間突撃仕様改》はデブリに紛れ、月を頭上に二門の砲を撃ち下ろしていく。
機体名の由来でもある右肩固定装備のロケット・アシスト砲は、精度も初速もMS用バズーカ砲に勝る。一方で手持ち武装のバルザック式ロケット・バズーカは取り回しに優れていた。交戦領域の異なる二門の火器は相互補完の関係にあるが、サブリナはそれのみならず両者の弾速差すらも利用して、彼女独特の中距離火力戦闘を展開していく。
時間差で弾ける榴霰弾の火網と榴弾の火球が、もはや編隊を崩して必死の回避機動で逃げまどう群れとなった敵機を照らす。全天周モニターからバイザー越しに照り返す爆光を浴びながら、サブリナは邪(よこしま)に笑った。
「鴨撃ちってのは、楽でいいよねぇ――リン。そっちの首無し、ネイサンじゃないね。新入り?」
『まぁ、ね――やられたよ、サブリナ』
撃ち下ろしながら指向したゴーグル・アイ越しに、サブリナはレーザー通信で旧友リン・リンリー少尉を呼んだ。彼女はそのまま砲撃と索敵というまったく異なる作業を一人で同時に並行しつつ、掴んだ情報を旧友へ送る。
「そっか。敵後方から熱源複数――スラスター光が新たに六。なかなか足が早いね。MS-21か、それとも――いずれにせよ増援の第二波が来る。敵さんの動きが早い。第三波以降が来る前には下がりきらんとね」
『へぇ、私らはすっかり敵さんの蜂の巣を突ついたってわけだ。――それ、いいねぇ』
都合三個部隊を向こうに回した死闘を繰り広げながら、リンのRGM-79R《ジムⅡ》は今なお五体満足を保っている。二人の奇襲で生じた一瞬の隙にサラミス改級駆逐艦《アルマーズ》のプチモビから予備弾倉を受け取り、半壊した僚機を従えながらジム・ライフルへ再装填して構えなおした。
そして大ジオン仏道との戦闘で頭部と左腕部を失った僚機、シエル・カディス伍長機もまた、整備班からビームライフルとビームサーベルの予備を受領している。
『リン。正面の奴らを叩いて、混乱の合間を抜けるぞ』
通信小窓にアジア系の青年将校が顔を出した。アルマーズ艦長ジャクソン・ヘイズ大尉は自らのMS隊長に呼びかける。
「つまり潰していいってことですね、ジャック?」
『好きにしろ』
「了解――」
武装は回復し、推進材にもまだ一戦の余裕はある。リンは笑った。半壊した僚機に手を突き、接触回線で呼びかける。
「ねえ、シエル。さっき生き延びておいて、よかったでしょ?」
『最高です。皆殺しにしましょう、隊長』
切り込んだ単機の友軍にいいように掻き回されている敵陣めがけて、二人は笑顔でスラスターを開いた。
RGM-79GSR《ゲシュレイ》で先行したまま突撃したゲンナー・ウェズリー少尉に、第一撃で隊長機を切り捨てられている。増援部隊の残ったMS-09R《リック・ドム》五機は、ジム・キャノンからの砲撃に曝されながら、あからさまに混乱していた。
『しょっ、小隊長っ――囲まれた!? 今度は私たちが逆に囲まれたのっ!?』
『狙われてる! 畜生あいつ、デブリの陰から!』
『さっきのジム・コマンド、来ますッ!!』
『落ち着け、数はまだこちらが倍だ! 一小隊、ジム・コマンドへ逆襲対処を――ぐっ!?』
「いやあ、させんでしょ」
はるか上空から次席指揮官機の所在を見破り、サブリナのジム・キャノンはリズミカルに発砲する。照準の先へ砲弾を次々と導くように『置いて』いく。
実体弾の飛翔速度はビームよりずっと遅い。この長距離からでは着弾まで数秒を要し、発砲を目視してから反応出来るほどだ。狙われたリック・ドムの小隊長機は即座に急加速する。迫る弾道を全力で回避し、爆炎とともに開いた霰弾の傘から逃れた。ジャイアント・バズを振り上げ、反撃へ転じようとする。
「ビンゴ」
だが動きを読んでいたかのように、その眼前で爆光が閃く。榴弾の至近爆発が機体を激震させ、たまらず制御を失ったその中心部を光軸が貫いた。
『アッ――』
熱線に切り裂かれた融合炉がひとたまりもなく暴走し、超高熱のプラズマをぶち撒ける。リック・ドムがまた一機、巨大な火球と化して消滅した。ジム・キャノンが右手にもう一門構えた長銃身火器、R4型ビームライフルからの狙撃だった。
『しょ、小隊長まで――』
『畜生ッ!!』
それでも辛うじて体勢を立て直した数機が、サブリナ機からの射線を辿ってジャイアント・バズの応射を放つ。だが反撃の砲弾は敵機に届くことなく、手前でデブリに阻まれむなしく爆散した。
それどころか、また別座標からの砲弾が彼らを叩く。ジム・キャノンはデブリ間を素早く小移動して、新たな狙点に陣取ったのだ。
『あっ、くぅっ――ああっ!?』
時間差で飛来する砲撃の雨に打ちのめされ、編隊を大きく散らして孤立した一機の眼前へ、流星のようにジム・コマンドが迫っていた。
『いやああああああっっ!!』
狙われたリック・ドムの少女パイロットが絶叫し、ジャイアント・バズを投げ捨てながら背中のヒート・サーベルを抜き放つ。だが胸部ビーム砲から放たれた光軸の速射をあざ笑うように掻い潜り、ジム・コマンドは突撃機動のまま光刃を振るった。
『あ、』
――死ぬ
だが彼女の肉体を蒸発させんと迫ったメガ粒子は、その眼前で阻止された。
『ほおぉ? またアンタかっ!』
楽しげに笑うゲンナーは速度を殺さず、そのまま一撃離脱していく。片腕のMS-14A《ゲルググ》が二機の間に割り込みながら、ビーム・ナギナタの光刃とともに立ち塞がったのだ。
『ゲオルグ居士ッ!』
『畜生、墜ちろッ!!』
盾を失ったエレイン機がビームライフルを放ち、頭上からの弾雨に曝されながらもリック・ドム編隊がジャイアント・バズとザクマシンガンで追い撃つ。しかし追撃の弾雨はジム・コマンドが曳くスラスター炎の軌跡をなぞるばかりで掠りもしない。
あまりにも速すぎた。リック・ドムのパイロットたちが罵る。
『なんて加速だ、バケモノめ……ッ!』
宇宙世紀史におけるMSの単純な瞬間加速性能は、その最初期である一年戦争末期の段階ですでに飽和していた。
熱核ロケット技術は人間の耐えうる限界以上の加速度をMSが発揮するに十分以上の性能を達成していたし、有人機であるMSは根本的に『Gの壁』を超えられない。そのためこの後の百年以上に渡って、MSの限界加速性能が根本的に進化することはなかったからだ。
実際のところ一年戦争以降に喧伝された『MSの機動性の進化』とは、単に機体を軽量化して推進材の搭載量と燃焼効率を増し、推進器の持続性能を高めることで、総加速時間を延長して継戦能力を強化していただけに過ぎない。もっとも実運用上では、それこそが非常に重要なのだが。
『遅ェよ、オメーラ。欠伸が出るぜ』
そしてゲンナーはゲシュレイを使いこなすことで引き出せる、人間の限界を無視するほどの超加速を平然とねじ伏せていた。あっさりと残党軍の有効射程を離脱し、その限界付近で緩旋回を掛けていく。最大推力を発揮して一気に高熱を溜め込んだスラスター群を冷却しながら、ジム・コマンドはあざ笑うようにモノアイを巡らせて次の獲物の品定めにかかっていく。
その間にも、ジム・キャノンの砲弾が間断なく周囲へ降り注いで炸裂している。動き続けなければ即座に撃墜される状況で、機動しながらエレインが叫んだ。
『くっ――ゲオルグ居士! 先ほどの連邦亡者がまた!』
『修羅道め、世にはばかるか――』
ジム・コマンドが一撃離脱してもジム・キャノンはなお砲撃を続行し、そして前方からは元いたジムⅡ二機がサラミス改もろとも肉薄してくる。強力な援軍を得た好機とその衝撃効果を逃さず、ここで逆襲へ転じるつもりなのか。このままでは殲滅されかねない。
バイザーの下、ゲオルグはくわっと目を見開いた。
『本隊の方々! 聞かれいッ!!』
指揮官全滅、二機被撃墜一機中破。一個中隊六機もの戦力へ一瞬にして半壊以上の大損害を受け、もはや半ば烏合と化したリック・ドム隊を、ゲオルグが腹の底から放つ大音声が貫いた。
『修羅道のジム・コマンドは自分がこの手で成仏させよう。エレイン信女! そこな二機を率い、ジムⅡとサラミス改を迎え撃て。フローラ信女! そこな二機を率いて向かい、ジム・キャノンを叩け!』
『御意! 方々、続かれませい!』
『りょ、了解っ――』
そして大ジオン仏道が有無も言わせず指揮系統を掌握すれば、もはや指揮官を失ったルスラン・フリートのMS隊はただ従うより他になかった。
戦場の主導権を連邦軍から奪回すべく、七機は反撃の糸口を付けにかかる。
「おっ。やっとこ敵さんこっち来たか」
コクピット・ハッチ側面を全天周モニターもろともゲンナーのサーベルに焼き切られていながら、ゲルググの一機が盾でデブリを凌いでサブリナ機へと肉薄してきた。追従する二機のリック・ドムとともに、ビームライフルとジャイアント・バズで火蓋を切る。
即座にサブリナは標的を正面の敵へ切り替え、猛然と応射を開始した。360ミリ級実体弾とビームが飛び交い、デブリの海に爆光が乱れ咲く。
一対三。だがジム・キャノンは配置を掌握した無数のデブリを射撃陣地にしながら、三門の重火器を構えている。手数も精度も決して撃ち負けることなく互角に戦い、サブリナは容易に接近を許さない。
「おおっと!」
サブリナが飛び退いた瞬間、彼女の陣取っていたコロニー壁面の残骸が赤熱し沸騰、背後へ光軸が突き抜けた。ゲルググが放つビームは薄い防壁など容易に貫く。その狙いはどこまでも的確にして精確。
「ハハッ、いいねぇ――気に入ったよ、アンタ!」
目潰しの榴弾を見舞い返して予備陣地まで下がりながら、サブリナは楽の出来ない相手だと冷たく笑った。
そして熾烈な火力戦が渦巻く眼下で、彼我のMS隊主力も中距離を割って激突する。
MS数では連邦二機にジオン三機。だが執念と殺意を漲らせながら躍り掛かるジムⅡに対し、大ジオン仏道に引きずられて戦うリック・ドム二機の動きは精彩を欠いた。
『あ、あと少し待てば、友軍の増援第二波が来ます! 何も今、無理に仕掛けなくとも――』
「それでは戦機を逸します! 悪逆非道なる連邦修羅道亡者は、今この場にて成仏させねばならぬのです!!」
『もうやだ……っ、やっぱり頭変だよ、この人たち……!』
ゲオルグは言葉通りに単機のままで、凶悪な加速で躍り狂うジム・コマンドに食らいつきながら抑えこんでいた。エレイン以下の三機はビームライフルとジャイアント・バズを放ちながら、サラミス改からの掩護を背にして迫るジムⅡ二機を迎え撃つ。
アルマーズが放つメガ粒子砲の火線を潜り、リック・ドムからの360ミリ榴弾が次々に咲かせる爆光を蹴破りながらジムⅡは迫った。艦砲の圧倒的な支援火力を前に、三機のジオンMSはじりじりと押し下げられる。
「修羅道亡者め、なんたる気迫か……っ!」
大盾を失ってビーム・ナガマキを左手に持ち、ビームライフルを右手で構えながら、エレインはきつく敵機を睨みつける。
最初の狙撃で一機を葬り、絶対の優位を確立してから決定的な接近戦を仕掛けたはずだった。彼女たち大ジオン仏道は今までも地球圏の各地でそうやって、もっと装備の充実した連邦軍やティターンズの部隊を、跡形もなく完全成仏させてきたのだから。
にもかかわらず、眼前の敵部隊はそれを凌いだ。あまつさえゲオルグの機体が片腕を奪われるなど、今まで一度も無かったことだ。
この敵は明らかに、今までの連邦亡者と格が違う。
今この場で殲滅することが出来なければ、必ず強力な禍根となる。
「逃しはしません――南ァ無・ジオン!」
『じっ、ジーク・ジオン!!』
裂帛の気合いとともにエレインが叫び、破れかぶれでリック・ドムの二人も続いた。
首無し片腕のジムⅡが応じたように火線を開く。かつて一年戦争時代には『戦艦の主砲並みの威力』とも称された、1.9MW級のビームが降り注いだ。
そして駆逐艦の強烈な火力支援に撃ち負けて、エレインら三機は精確な照準を取ることが出来ない。その間に距離を詰めて、近接火力の充実した敵は容易に劣勢を覆した。
『ちくしょおおおおっっ!!』
ジム・キャノンからの狙撃で片腕とジャイアント・バズを失っていたリック・ドムの片割れが、予備兵装のザクマシンガンで懸命に弾幕を張る。胸部ビーム砲も光軸を放った。だがジム・ライフルを構えたジムⅡは迷いのない軌道で迎撃の射線を振り切る。内懐へ飛び込んだ。
90ミリ高初速弾の射線が蛇のようにうねって絡みつき、次々と火花を散らしてリック・ドムの装甲を穿つ。チタン・セラミック系素材を組み込まれた新型の重装甲は耐えるかに見えたが、無数の破孔から煙がたなびく。僚機の少女がジムⅡを引き離そうとジャイアント・バズを放ちながら絶叫した。
『もうその機体はダメ! ケニー、逃げて!!』
『ユ、ユェン――ごめん、俺、もう』
だが躍るジムⅡは射線を絶やさず、動きの鈍った機体へさらに頭部バルカン砲の火力を重ねた。
コクピット・ハッチへピンポイントで殺到した60ミリと90ミリ弾の集中射は、リック・ドムの装甲を割って中心部を完全に貫通。瞬時に内部を食い荒らしながら機体を抜け、背後へ次々と飛び出していく。
『がぶっ。ユェン、お、俺は、君を――』
隻腕のリック・ドムはそこで起爆した。重厚な機体が内側から溢れる光熱に負けて、跡形もなく消し飛び、巨大な光輪となって消滅していく。
『ケニイイイィィィッッ!!』
蒸発した僚友の名を絶叫する少女の眼前へ、彼の溶け消えた爆炎を突き破りながら敵が出現する。
首と左腕のないジムⅡがリック・ドムの爆発を目くらましにして、交戦していたエレイン機を振り切ったのだ。
慟哭する彼女へ、ジムⅡはまっすぐビームライフルを向けていた。涙の向こうに銃口が丸く見える。
死神そのものの姿だった。
『あっ――』
それでも少女は反射的に、半壊したジムⅡへジャイアント・バズの砲口を向け返していく。だがそのテンポはわずかに遅い。
間に合わない。
自分も、ここで――
『脇がお留守ッ!!』
女の叫びとともに突如として迸った120ミリ弾の連射が、首のない死神の姿をかき消すように離脱させていた。
ザクマシンガンを構えたザク・ファドラン、単機。ルスラン・フリート偽装貨物船ケンドー丸所属MS隊の機体だ。
『はっ、エレイン。天下の大ジオン仏道が、ずいぶん苦戦してるじゃないのッ!』
『バーレット少尉――』
加勢のザクとゲルググの二機がかりで火力を応酬し、三機はかろうじてジムⅡからの間合いを開く。活火山のごとく火を噴くサラミス改の有効射程から、大きく後退しながらエレインがうめいた。
事実上すでに壊滅していたファーガスン隊の、最後の可動機。ミリアム・バーレット少尉は大破した二機の僚機をパイロットごと母艦に送り届けて預け、ザクマシンガンの予備弾倉だけを受け取って即座に戦場へ復帰したのだ。
機体はすでに90ミリ弾数発を被弾し、およそ完調にはほど遠い。それでもミリアムは友軍の支援に駆けつけた。
『あっ、あ、ああ。け、ケニー。隊長。小隊長、……みんな――ぐっ!?』
「アンタもシャキッとしなッ!!」
ザクの掌底が生き残ったリック・ドムの脇腹を小突き、涙声でその心を俗世から遠くへ飛ばしかけていた少女を揺さぶった。ミリアムはなお彼女らを狙って蠢く二機のジムⅡを、三機相手に互角以上に渡り合うジム・キャノンを、常軌を逸した速度のままで隻腕のゲルググと楽しげにもつれ合うジム・コマンドをきつく睨みすえる。
「こいつらは『ルウムの亡霊』! 一年戦争でMSも無しにジオンの艦隊をゲリラ戦で襲っちゃあ、跡形もなく殲滅してた筋金入りの『悪霊』ども――文字通りに大物喰い(ジャイアント・キリング)の常習犯だ。下手にやり合えば取り殺されるよ!」
『『ルウムの亡霊』――なるほど。これが噂に聞くルウム難民兵部隊、ソギル戦闘団のなれの果てというわけですか』
そして緊張とともに得心するエレインをよそに、ミリアムはひとり唇の中だけで呟いていた。
「――でも、大丈夫。行ける。こいつらの中に『アイツ』はいない――それならまだ、勝ち目は十分ある」
機体性能から計りえないほどの戦力を示す四機の連邦軍MSの中から、彼女は決して忘れ得ない悪夢の影を探していた。そして今それが見あたらないことに、ミリアムは言いしれないほどの安堵を覚える。
かつて旧式のありふれた汎用量産機に乗り、時代遅れのくたびれた骨董品を構え――そして人智を超えた未知の恐怖と絶望を彼女の魂に刻みつけた、記憶の中の悪鬼の姿を。
――大丈夫。今この戦場にアイツはいない――アイツさえいなければ、戦える。どれだけの強敵が相手だろうと、必ず切り抜けられる。
なお追撃の隙を狙うように機動してくるジムⅡへザクマシンガンの短連射を放って牽制しながら、ミリアムはこの場の司令塔とおぼしき大ジオン仏道の女門徒へ問いかけた。
「何とかしなよ、エレイン。連邦の悪霊どもを成仏させるのが、あんたらの仏道ってやつでしょうが」
『言われずとも……ッ!』
きつく歯噛みしてビームを敵機と応酬しつつ、エレインは周囲の戦況を一瞥する。
なお熾烈な高機動戦闘を展開するゲオルグは均衡を破れず、ジム・コマンドを封じ込むのに精一杯。フローラたちの別働隊もジム・キャノンの苛烈で巧妙な砲撃戦を抜けず、容易に距離を詰められていないばかりか、少しずつ損害を受けてすらいる。
すでに三機もの友軍機を撃墜され、自分たち大ジオン仏道の手の内までも知られてしまった。
だから何を措いても、サラミスだけは絶対に沈めなければならない。母艦さえ撃沈することが出来れば『宇宙船』としては推進系に大きな制約を抱えた存在であるMSは、もう拠点まで帰れなくなる。あとはゆっくり始末すればいいだけだ。
そこまで考えたとき、ふとエレインの脳裏に疑念が過ぎった。
出し惜しみがなさ過ぎる。
推進材を搾りきるかのように豪快な殺人加速で、多勢の敵陣を翻弄するジム・コマンド。携行弾薬を一気に使い切る勢いで火力戦闘を展開するジム・キャノン。
なお戦力比では劣勢の中で後先を考えないように戦う、この連中の『勝ち目』とは何だ?
そのときエレインのはるか頭上でジム・キャノンが、不意に正面三機相手の砲撃頻度を緩めて後方へ下がった。
言うまでもなく、360ミリ級の大型実体弾はそう多数を携行することなど出来ない。贅沢に撃ちすぎて早々に弾薬切れを起こしたか、そうでなくとも残弾数が切迫して火力を落とさざるを得なかったのか。
『いずれにせよ勝機――ここで距離を詰めさせてもらうッ!!』
『――お待ちなさい、何か――』
対峙していた二機のリック・ドムが勢いづいて前面に出る。その動きに違和感を覚えたフローラは呼び止めようとしたが、正規の指揮系統下にあるわけではない彼らは耳を貸さない。突進していく。
『隊長たちの仇、取らせてもらうッ!!』
長物を抱えたまま火力を切らせた中距離支援機など、ひとたび接近してしまえばただの鈍重な獲物でしかない。リック・ドムは強力なスラスターを噴かし、一挙に肉薄を試みる。ジム・キャノンが慌てて食い止めようとするかのようにバズーカを放ち、爆ぜた榴霰弾の傘がリック・ドムの重装甲に弾けたが、もはや気休め程度の足止めにしかならなかった。
『行けるッ』
勝利を確信した彼らは、最後まで気づかなかった。
ジム・キャノンが砲撃の手を緩めながら、その高度なレーザー通信機能で、ある座標の情報を長距離送信していたことを。
「五、四、三、二――」
漂流するデブリの配置と彼我の位置関係を利用することで、彼らの取り得る機動経路が絞り込まれていたことを。
『――高エネルギー反応?』
『あ、』
そして、閃光がすべてを呑んだ。
MS用ビームライフルなど比較にもならないメガ粒子の奔流が、リック・ドムの重厚な機体を蝋細工のように容易く捻じ切り、押し流す。瞬時に全壊した融合炉が核の火球を広げるまでもなく、二機のMSは濃密なビームの嵐の中で蒸発していた。
サラミス改級『巡洋艦』一隻がそのメガ粒子砲火力を集中発揮した一斉射は、サブリナの指定した座標を余すことなく網羅し蹂躙。死の空間へ誘い込まれた敵機を一瞬で、跡形もなく消滅させたのだった。
フローラが戦慄に震える唇で、二人のための念仏を唱える。
『……南無阿弥、陀仏――』
「ン……。いい加速、いい操艦、いい斉射だ。リドリー、また腕上げたねぇ」
唯一生き残ったゲルググにバズーカから榴霰弾を放ち、後退させながらサブリナは微笑んだ。艦砲斉射の来た方向をちらりと見やる。
遙かにデブリ群を貫き通した距離の彼方から、一隻のサラミス改級巡洋艦が急速に接近していた。
宙域に漂う暗礁群をものともせず、時に外板で跳ね返しながら突き進む無骨な艨艟。その船足はアルマーズのそれに勝るとも劣らない。熟練の操舵は無骨な艦体を繊細に操り、大型デブリを確実に縫って戦闘宙域へと突入させていく。
ゲルググと砲火を交わしながら、そのMS甲板上に立つ四機のジムⅡへサブリナは微笑んだ。
「マコト、下拵えはやっといたよ――そんじゃあと、ヨロシク」
旧式の短銃型兵装ビーム・スプレーガンを構えた機体が、カタパルト上で前傾する。その背へ艦橋から艦長が呼びかけた。
『二機撃墜か――砲術、よくやった! 肝は冷えたが、飛ばしてきた甲斐があったな。マコト、頼むぞ!』
『ええ、流石でしたリドリー。22より各機。我が隊はこれより前方戦場を引き継ぎ、僚艦アルマーズの離脱を掩護する。すでに敵支配宙域深部へ侵入しつつある。敵増援を警戒し、深追いは厳に避けよ』
『了解!』
MS隊長の若い女が凛と命じれば、その後方でビームライフルを構えた二機と、ハイパーバズーカを構えた一機の若いパイロットたちも唱和を返す。
『前方進路アンクリアド――22は先行するが、無理に追いつこうとはするな。後続は24の指揮で確実に三機編隊を保ち、適宜22を支援せよ。22、出る!』
言うが早いか、サラミス改級巡洋艦の電磁カタパルトが火花を散らす。ジムⅡの機体を全力で前方宙域へ投射した。カタパルトで得られた初速にスラスターの噴射を加え、ジムⅡは漂流物の隙間を鮮やかにくぐり抜けていく。
『すごいっ……』
『よ、よぉしっ。シュン、クライネ伍長! お前らは俺に続けっ!!』
後続を任されたパイロットが、緊張を殺しきれない調子で声を張り上げた。跳ね返るようにMS甲板を滑り戻ってきたカタパルトの下駄を履き、彼の機体も前傾する。
『戦闘宙域後方より、高速接近する熱源体六! ……いや、先頭の一機が速い? これは――』
だが同時に艦橋から索敵手が叫んだ。隙なく敷かれた巡洋艦の対空監視が敵影を捉えたのだ。
ルスラン・フリートの増援第二波、六機。その先頭を切る機体が不意に編隊から突出した。そのまま凄まじい急加速を掛けて、上方から肉薄してくる。望遠を掛け、索敵手が息を呑んで叫んだ。
『機種照合完了、突出する先頭はMS-18E《ケンプファー》!』
『うげっ――特務機かよ!?』
随伴するMS五機を置き去りにするように加速し、その重武装機は先のゲンナーにも劣らぬ高速で発艦した先頭機を狙った。
MS-18E《ケンプファー》は一年戦争中に開発されたジオン公国軍MSの中では、破格の性能を有するMSだ。その基本スペックは今日の第一線機と比べてまったく遜色ないばかりか、いくつかの項目では勝ってすらいる。
特に重要なのが推力だった。
材料工学の面で決定的に地球連邦に劣ったジオン公国にとって、容積を制約されるMS用高出力ジェネレーターの開発は鬼門であった。それでも地球降下作戦によって得られた希少資源は、技術水準の底上げに大きく貢献した。
その成果であり精華の一つが、ケンプファーに搭載された1550KW級主機である。この出力値は現在の連邦軍主力MSのほとんどを上回る。
さらに同機で特筆されるのはその高出力の大半が、推力向上のために注がれていることだ。
ビームサーベルを除き、ケンプファーはその武装にビーム兵器を採用していない。ビーム兵器の駆動時に生じる出力低下を嫌い、その全力をスラスター系の高出力運用に集中するためだ。代わりに過剰なまでの実体弾兵装が搭載される。戦闘でそれらを消耗するほどに機体は身軽になり、ビームサーベルを使う頃には出力低下など問題にもならなくなっている。
だからその機動力はゲンナーの駆る、ジムⅡ規格で改良されたゲシュレイをも上回るのだ。
ケンプファーは多くが練達のパイロットともに特務部隊へ配備され、少数機での浸透と後方強襲任務で活躍した。戦後混乱期の紆余曲折を経てルスラン・フリートへ流れ着いたこの機体とパイロットもまた、そんな元ジオン特務部隊の一員だった。
実戦で磨き抜かれたその直感が、強者の気配を嗅ぎ分ける。彼はいま最優先で殲滅すべき目標を狙い、愛機に人体を擦り潰さんばかりの最大加速を維持させたまま突進させていく。必中の狙点で彼は叫んだ。
「もらったッ!!」
背負い式のジャイアント・バズ二門、脚部のシュツルム・ファウスト二基が次々火を噴き、そして手中のショットガンがルナ・チタニウムコーティングの散弾を放った。
標的はただ一機。
「遅い――」
十分以上の機速に乗せて斉射された重爆撃は狙い過たず、単機で突出するジムⅡへ集中した。敵機はスプレーガンを構えて迎撃するような素振りを見せたが、その前に爆発の巨大な火球が連鎖して機影を呑み込む。
少なくとも至近弾多数、そして間違いなく直撃の手応えもあった。もはや影すら残っていまい。ジム一機を葬り去るには明らかな過剰火力だったが、出し惜しむ選択など彼にはなかった。その戦闘嗅覚と思い切りの良さが、彼を今日まで生き残らせてきたのだから。
だが敵機の反応は予想外に鈍かった。彼が感じた強者のプレッシャーは、何か別のものだったのだろうか。
己の勘も鈍ったか――失望混じりに苦笑しながら、ケンプファーは広がる火球群の上を駆け抜けていく。続けざまにサラミス改から発進してくる後続のジムⅡ隊を叩こうとしたとき、不意の衝撃が機体を揺らした。
「!?」
薄れゆく爆炎を突き破って、ビーム・スプレーガンの短銃身が覗いていた。
閃光の連射が煌めく。
初弾でケンプファーの右腕が根本から吹き飛ぶ。胴体中心部への次弾は避けても、左のジャイアント・バズが融解する。咄嗟にパージした次の瞬間、バズーカは後方至近で爆ぜた。破片が薄い背面装甲を撃ち抜き、機体を激震させながら吹き飛ばす。残りの武装に誘爆しなかったのは恐ろしいほどの幸運だった。
「うッ――うおおおおおおッ!?」
状況を理解できないまま離脱しながら、彼はその姿を目撃する。
弾片に穿たれ炎熱に炙られた長六角形のシールドを構え、何事もなかったかのように平然と前進していくジムⅡを。
その右腕だけをぐるりと回して、背越しに彼へ向けられていたビーム・スプレーガンの銃口を。
「バカなッ!!」
『各機、撃て』
一気に変化した重量バランスを修正しながら、ケンプファーは後方から来るスプレーガンの連射を必死に回避する。だが、そこへ前方からも火線が来た。強力なビームと榴弾の炸裂が片腕の特務機へ集中、紙一重の射弾が装甲を削りフレームを焦がす。
正面からジムⅡ三機。サラミス改級巡洋艦から発艦した後続部隊だ。そうして前後から狙い撃ちにされれば、彼は半壊した機体を必死に立て直しながら再び全速を発揮して、今度はただ離脱していくよりなかった。
スプレーガンはおろかビームライフルの有効射程からも迅速に離脱してのけた敵機に、四機編隊を率いるその女性隊長が舌打ちした。
『フム。まともに挟み込んでも落とせんとはな――奴はエースだ! 手強いぞ、各機警戒しろ!』
『りょ、了解っ』
『ハヤカワ准尉! すごい――何がどうしてこうなったのか全然分かりませんけど、さすがですっ!』
『いや、じゃあそのエースを手玉に取ってのけるアンタは一体何なんだよ……』
ジムⅡ三機が口々に答えながら、ビームスプレーガンを構えて先頭を行く隊長機の後方に付けた。そして編隊の上方からもジム・キャノンが隊長機に接近する。
『いやぁ、マコト。あんた相変わらずイヤラシイ『後の先』を取るねぇ』
『敵が焦って勝手に外しただけです。サブリナ、私は前に出ます。後ろの面倒を見ててください』
そっけなく答えながら前衛に出るジムⅡ一機と、合流したジム・キャノンに率いられる四機編隊。それら五機の後方にはサラミス改級巡洋艦が続いている。そうしてたちまち連邦軍の最大戦力と化しながら、サラミス改級駆逐艦との合流を目指してくるのだ。その部隊の圧力は絶大に過ぎた。
それら五機と一隻の行く手で駆逐艦の部隊と交戦していた、ルスラン・フリートと大ジオン仏道の三機からも、その状況は確認できていた。
『そんな、嘘っ――マグリット曹長のケンプファーが、強襲斉射を外した!?』
『返り討ちに遭うなど、無様な――あれで特務などとよく言えるッ!』
ケンプファーのパイロットを知るリック・ドムの少女が愕然と呟き、強力な機体を操っていながら不甲斐なく退けられた味方にゲルググのエレインが怒気を吐く。
『――ビーム、……スプレーガン……?』
そしてザク・ファドランのミリアムは、ひとりその目を見開いていた。
新たな敵MS編隊の先頭を悠然と来る一機に、その機体が手にした旧式武装に、彼女はモノアイから最大望遠を掛けたまま硬直している。
記憶の奥底に潜んでいた、決して消えない影が蠢く。
ミリアムは震える声で賢明に、何かを搾り出そうとするかのように呻いた。
『あ、……あいつ、は……あいつは……っ……!!』
『妖怪変化ッ!!』
そのとき少女の絶叫とともに、ミリアムの前方で機影が走った。
ゲルググ。合流目指して後退途中だったフローラ・イアハート信女の機体が、再び加速していた。そのジムⅡの進路を阻むように躍り掛かっていく。
『下がりなさいフローラ! ここは増援第二波とともに戦力を結集し、再び一丸となって当たるのです!』
『いいえ姉様! あれは――あの敵は、尋常ではありません! 私には分かります、あの邪悪こそ仏敵天魔……この世から、必ず除かねばならぬものです!!』
絶叫しながらフローラ機がビームライフルの照準を合わせた。漂流するデブリの隙間から射線を選び、絶叫とともにトリガーを引き絞る。
『悪霊退散、――南無阿弥陀仏ッ!!』
センサー有効範囲外への長距離精密狙撃すら当ててのけるのがフローラだ。そして狙われたジムⅡはまともな回避機動すら取ろうとしていない。必中を確信してビームを放ちながら、彼女はなお駄目押しの第二射、第三射を重ねた。微細なデブリが幾重もの光軸に焼かれ、戦闘空域に閃光が煌めく。
彼女が狙いすまして撃ち放ったビームのすべてに、間違えようのない確かな直撃の手応えがあった。
ジムⅡは何事もなかったかのように光弾の隙間を抜けた。
一発の被弾もなく、ただ緩やかに加速してくる。その短銃身が不気味に揺れた。
スプレーガンが射弾を放つ。連射。中距離を超えて飛んだ低出力の低収束ビームは、ゲルググに命中してもシールド表面に弾けるだけだ。しかし続けざまにゲルググの機体表面で拡散したビームの飛沫は、シールドの脇から出ていたビームライフルの銃身を次々に蝕む。
まさにフローラが発砲しようとしていた次弾のメガ粒子が、加速途中で銃身とそのIフィールドを破られて溢れた。
暴発。
『アウッ!?』
ビームライフルの爆発がゲルググの機体を叩き、激震させる。風穴が開いたままのコクピット内へはそれでも破片を入れずに済んだ。だが肩を蹴飛ばされたように崩れたゲルググの真っ白になった視界が回復したとき、ジムⅡは今までの動きが嘘のような急加速で肉薄していた。近距離からビームスプレーガンが指向される。
有効射程内。
ジムⅡの無表情なゴーグル・アイが、スプレーガンの丸い銃口が、フローラの魂を射貫く。念仏を唱える間はない。
だが発砲直前、二機の間に影が走った。先のケンプファーをも超える高速で割り込む。
戦闘空域を縦横無尽に機動しながら、ジム・コマンドとの巴戦を繰り広げていたゲルググだった。ジム・コマンドの背中を狙った増援第二波の掩護を受けて、格闘戦から離脱しながら進路上へと勢いのまま、出力最大のビーム・ナギナタを構えて突入してきたのだ。
その猛烈な突撃をジムⅡはサーベルひとつで受けきった。ビームの飛沫と火花が飛び散る。それでも激突の勢いは殺しきれず、絡んだ二機は鍔迫り合いのまま転げるように流れ去っていく。接触回路を言葉が伝った。
『これは居士殿、お初にお目に。聞けば先日、部下がずいぶんお世話になったようで』
『先日の修羅道……そのおぞましき力、もはや人の業ではあるまい。人を捨てながら化生し、悪鬼羅刹と成り果てたか!』
『さあて。なんのことやら――』
女の唇が笑みに歪む。
ゲオルグ・ラインダース居士とマコト・ハヤカワ准尉は互いの光刃を切り結びながら、ゲルググのモノアイとジムⅡのゴーグル越しに睨み合った。
※イラスト:はお様(http://www.pixiv.net/member.php?id=164461)
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