※この作品はR-18です。

フェニックステイル   作:KY_PT

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第二十四話 月に叢雲、花に風

 ――もしビーム・スプレーガンを構えた旧式のジムが、L1の暗礁宙域に現れたら。

 決して見るな、寄るな、戦うな。

 その影はルウムの悪霊。ジオンの核に焼かれた二十億の怨念の権化。

 触れてはならない。

 触れたが最後、地獄の底まで引きずり込まれる。

 挑んではならない。

 冥府の使いに生者の剣など通りはしない。

 奴を倒せるとすれば、それは、おそらく――

 

 

 

 暗礁の宇宙に二条の光がもつれ合う。絡まる度に火花が爆ぜる。

 推進の噴焔を曳いてビームサーベルとナギナタの光刃を打ち合い、メガ粒子の干渉波を撒き散らしていくのは二機のMS。

 RGM-79GSR《ゲシュレイ》とMS-14A《ゲルググ》は、暗礁宙域に鮮烈な軌跡を曳きながら互いに激しく絡み合う。彼我の斬撃で飛び散るメガ粒子とともに、オープン回線から男の心底楽しげな哄笑が弾けていた。

『ハアァッハハハァァァアアアッッ!! いいねェ! やるねぇ! 楽しいじゃねぇかッ、坊さんよォ!!』

『否、拙者は居士。僧籍に非ず――凡俗たる不浄の身より、宇宙に仏道を求める者』

『こまけぇこたァいいんだよ!』

 残された唯一の武装であるビームナギナタを縦横に駆使して、片腕を失ったゲルググは執拗にゲシュレイへ絡みつく。隻腕のゲルググはむしろ軽くなったとでも言わんばかりに高機動を見せつけており、傍目にその攻防は互角に見える。

 だが二刀構えで躍るゲンナーはその実、懐にまだビームガンを残していた。ゲシュレイは連邦系MSの定番兵装たる頭部バルカン砲を廃した機体ではあるが、それでも距離を開かれればその瞬間に勝負は決する。食らいつくゲルググを前に、あくまで主導権はゲシュレイの側が握っていた。

『最高だなオイ! オープン回線で垂れ流してたさっきの説教、良かったぜぇ。感動した! やっぱりジオンの残党ってのは、アンタみたいな風でなくっちゃいけねぇ!』

 アジテータに魅せられた狂信者の熱量で、剣戟の隙間からゲンナーは吠える。殺戮への最短距離を走る無駄のない光刃とともに。

『てめぇんとこ以外のスペースノイドはサクッと五十億殺してのけて、ドンとでっかく胸を張る! そう男前に割り切れてこそ、ジオンの武人様って奴だ!』

『南無阿弥陀仏。ジオンの核は清浄再生の聖火。宇宙衆生たるべき道を外した五十億の連邦亡者を現世の妄執から解き放ち、新たな人の世の礎を宇宙に築いたが我らの功徳』

『そうそう、それそれ。それだよ、それ――それが聞きたかったんだよォ!』

 互いの肉体を締め上げ続ける超10G級の加速度ごと、ゲンナーはひどく楽しげに笑い飛ばした。純粋な歓喜と賛意とともに、清廉な殺意が二条の光刃に宿って迫る。それをナギナタの両刃で同時に捌きながら、ゲオルグはただ平静なまま反撃の糸口を探していた。

『――なのに最近の残党どもと来たら、コロッと急に言うこと変えてよ。全スペースノイド解放の大義がどうのこうのとほざきやがる。ガッカリだぜ。違うだろと。そうじゃねえだろと。お前んとこが救うのは、ジオンの選民様だけだったろぉ? せっかく成し遂げた皆殺しのデッカイ偉業を、そんなに忘れちまいたいのかねぇ』

『我らは忘れぬ』

『――ホ?』

『ジオン勝利に不可欠の礎となった、ルウム二十億柱の無縁仏。その完全成仏を祈りつつ――その入寂を無駄ならしめぬ、宇宙浄土の新たな礎を築かんがため。我ら、大ジオン仏道はここに在る』

『いいね』

 にい、とゲンナーは心底嬉しそうに笑う。

『いいね、アンタ。本当に、いい……アンタみたいな奴と戦りたい、ってな。俺ァ、ずーっと思ってたんだ……だから――もっと来いよ! 前に来て戯れろよ。楽しいお遊戯タイムにしようぜェ!』

『!』

 だがそのとき、後方宙域を閃光の束が押し貫いた。

 デブリを焼き尽くして走る、メガ粒子の奔流――それは巡洋艦の艦砲斉射だ。呑まれたリック・ドム二機が爆光を広げる。

 その猛火力を放ちながら現れた新手のサラミス改級巡洋艦は、MS甲板から次々とカタパルトでジムⅡを発艦させてくる。先陣を切った機体は一際目立つ加速で、交戦中の友軍駆逐艦を目指す最短経路を驀進してきた。

 同時にルスラン・フリートの増援MS隊第二波も戦闘宙域へと接近しつつあった。その六機編隊から、MS-18E《ケンプファー》がそこへ急加速で突出する。その重武装をもって新たな連邦軍増援部隊の出足を叩かんと、スラスターも焼けよと言わんばかりの超10G級高加速を維持しながら迫っていく。

『……修羅道!』

 だがゲオルグは元ジオン特務部隊員による迎撃の結果を見るまでもなく、光刃越しにゲシュレイへ強烈な当たりを掛けた。高速機動する二人の隙間へ大型デブリが割り込むや、ゲオルグは全出力で弾けるように離脱していく。

『ああ!? なんだよオイ、お前もマコトが気になんのか!? ――畜生、袖にされちまったか。しゃあねぇ――』

 そして敵機に見捨てられたゲンナーは、もはや逆上してその背を追いすがるでも、強敵たちに狙われた旧友を助けようとするでもなく、ただ前進経路上の獲物を睨んだ。唇を嘗める。

 依然として後退中の偽装貨物船《ケンドー丸》。壮絶な高機動戦闘を展開しながら、ゲンナーはその艦尾を捉えられる間合いにまで迫っていたのだ。

「じゃ、気ィ取り直してこっち喰うか」

 ビームサーベルを腰のラックに戻し、ゲシュレイの標準射撃兵装であるBG-M79Rビームガンに持ち替える。

 それはマコトの愛用するビームスプレーガン改同様、一年戦争時の旧式ビーム兵器の改良型だ。BR-S85のような中距離戦闘には対応し切れていないが、ビームの長時間照射――ギロチン・バーストと呼ぶ者もいる――が可能という特性を有している。つまり『撃ち抜く』のではなく『切り裂く』運用が可能だった。

 BG-M79は《P-04》でゲシュレイとともに近代化改修を受ける前の一年戦争モデルでさえ、MA-05《ビグロ》の重厚堅牢な巨体を一射で爆散させるだけの破壊力を実証している。ましてゲンナーの手に掛かれば、コロンブス級輸送艦などひとたまりもない。

 ビームガンが狙うその甲板が光ったと思う間もなく、巡洋艦の主砲クラスの火線がゲシュレイの影を薙ぎ消す。

 コロンブス艦上で密かに射点を変えていたビーム・バズーカから、不意急襲で放たれた数秒の照射。巧みな照準と絶好のタイミングで照準点近傍を薙ぎ払った死の光線は、肉薄する敵機を確実に蒸発させるはずだった。

「惜しい」

 だがゲンナーは己の勘に従うまま見透かしたような機動で、あっさりとビーム狙撃を外していた。

 ビーム・バズーカほどの大出力火器、それも長時間照射のあとで第二射はすぐに出せない。火点も知れた。その前に撃沈できる。

 レティクルの中へと見る間に大きく迫る敵艦に向けて、ゲンナーは唇を舐める。だがビームガンのトリガーを引こうとした瞬間、その眼前へ曳光弾の火線が走った。

『ニュータイプを守れッ!!』

 MS-09R《リック・ドム》を輸送してきた後、離脱するケンドー丸の後衛に付いていた《コムサイ改》級哨戒艇だった。二隻。数門の機銃からあらん限りの火線を放ち、体当たりも辞さずの勢いでゲシュレイの行く手を阻まんと肉薄してくる。

『落ちろォッ!!』

 艇首部のミサイル・ランチャーが火を噴く。ゲシュレイの軌跡へ覆い被さるように、盛大な火箭の雨が降り注ぐ。

 コムサイ改二隻分の全弾斉射が巨大な爆炎の連鎖を広げ、二隻はそれを掠めるような急旋回で離脱に入った。

『や、やった――ゲブ!』

 ゲシュレイの蹴り足が真上から、コムサイ改の艇首ブリッジ部を踏み潰した。

 艇内格納庫にMS二機を呑んで余りある巨体を蹴撃ひとつで沈めつつ、哨戒艇を踏み台にした全力噴射でゲシュレイが跳ねる。

『ひッ――』

 迷いのない機動は一瞬にして、後続のもう一隻へ深々と突き刺さっていた。薄い甲板を踏み抜かないよう、艇体構造のもっとも強固な部分を狙って蹴り足を突き入れる。

 そして跳び去るゲシュレイから真後ろに二条の光軸が走ると、二隻のコムサイ改は揃って心臓部を貫かれ、巨大な火球と化して爆散した。いずれの艇からも、乗員の脱出は皆無だった。

「はッ。艇でMSを殺ろうってんなら、もっと覚悟が無ェとなァ」

 飛び石にした二隻のコムサイ改を一瞬で爆沈させ、ゲンナーはもはや目前に迫った偽装貨物船の後ろ姿へと再び狙いを定める。

「俺がパブリクでザクを狩るときはそうやってた」

 プチモビに操作される甲板上のビーム・バズーカは再充填しつつ、なお鎌首をもたげて狙い返してきている。

 そして見れば甲板上には、他にもプチモビの群がわらわらと現れていた。不相応に巨大なザクマシンガンやシュツルム・ファウストを構え、必死の防御射撃を仕掛けてくる。

 だがゲンナーには、そんな急拵えの対空砲もどきなど眼中にもない。ろくに定まりもしない120ミリの弾道が軽妙な機動の間近を掠めていっても、冷たい瞳でつまらなさそうに、ふん、と鼻を鳴らすだけだ。

「ダメだ。不味ィ。さっきのゲルググ坊主は良かったのに、ジオンの残党も『天然』モンはめっきり味が落ちちまった。やっぱここは真面目に本腰入れて、俺が『養殖』してやらねェとダメか――ほッ!」

 だからゲシュレイの鼻先へと曳光弾が降り注いできたとき、その正確な火線を紙一重で回避したゲンナーは心底嬉しげな表情を浮かべたのだった。

 逆落としに迫りくるのはMS-06FZ《ザク改》の二機編隊。ルスラン・フリート増援第二波の一翼だった。

 片やMMP-80型ザクマシンガンから高初速の90ミリ弾を放ち、その精確な射線でゲンナーの高機動にも追従して巧みに牽制。そして片や長柄のヒートホークを振りかぶり、デブリの合間から絶妙の死角を縫いながら切りかかってくる。

 迷いのない操縦にはいずれも手練の気迫がある。先ほど突出して無謀にも単機でマコト・ハヤカワ准尉機へ挑み、それでも半壊しただけで生き残るという凄腕を見せつけたケンプファーの僚機と見えた。

「なんだよオイ――今度はお前らが遊んでくれんのか? ククッ――世の中、まだまだ捨てたモンじゃねぇなァ」

 口角を釣り上げ、ゲンナーは蕩けるような至福の笑みを浮かべた。シールドを向けるや裏面懸架の《クラブ》が噴炎を曳いて飛翔し、牽制の初弾が敵機前方のデブリを砕く。

 広がる巨大な爆煙を抜いたゲシュレイは立ちふさがるザク改と激突、光刃と熱刃が激しい火花を撒き散らした。

 

 

 

 ジムⅡとゲルググ、両機の眼前でビーム刃が飛沫を散らす。突撃したゲルググが機体ごと叩きつけた巨大な慣性のままに二機は流れて、二隻のサラミス改級をつなぐ線上から外れていく。

 ゲルググは鍔競り合いの逆刃でジムⅡを斬ろうと、ジムⅡは頭部バルカン砲と左手のスプレーガンでゲルググを打ち砕かんと、光刃の接点を支点にしながら互いに激しく格闘する。

 最初にそのジムⅡへの迎撃を試みたのは、フローラ・イアハート信女だった。だが彼女が必殺を確信して放った狙撃のすべては、突出したジムⅡ先頭機を一弾として捉えることなく、すべて理不尽に回避された。あまつさえビームスプレーガンの応射でビームライフルを爆破されている。

 瞬時に間合いを詰められて今度は自身の機体そのものを撃墜される寸前、光刃ひとつの突貫で彼女の危地を救ったのがゲオルグだった。揉み合うように転げる二機が遠ざかっていく。

『ゲオルグ居士ッ!!』

 葉型シールドの裏側に残されたビーム・ナギナタを抜き、フローラはそれでも加勢せんと急行する。だがさらなる高速で後方から迫ったエレイン機が、彼女にビームライフルを投げ渡しながら抜き去っていった。

『フローラ、あなたがこれを使いなさい!』

『姉様!?』

 言うや同時にビーム・ナガマキを構え、ライフル・モードでエレインは撃った。ナガマキは多目的ビーム兵器だ。本来のビームライフルほどの精度や威力は期待できないが、それでも敵機の周辺を光軸が掠めていけば、こちらの存在は見せつけられる。

 だが狙われたジムⅡはゲオルグと繰り広げる格闘戦の中から文字通りの片手間に、エレインへスプレーガンの曲撃ちを返してのけた。三連射。

『ぐうっ――!』

 鋭敏な回避機動で二発はかろうじて外したが、一発が直撃してエレイン機から肩部装甲を弾き飛ばす。

 致命傷ではなかった。しかしあの状況から当ててくるなど、もはや人間業ではあり得ない。

 それでもエレインは沸騰する感情のまま、怯むことなく突進を継続した。

『連邦の雌がっ、汚らわしい手で居士様に触れるなあああっ!!』

 絶叫しながらナガマキを白兵戦モードに戻し、長大なビーム刃を発生させて斬りかかる。

 絡み合うゲルググとジムⅡがようやく離れた。ジムⅡが抜け目なく放ったバルカン砲の射弾がゲオルグ機に絡み、数発が装甲を穿って跳ねる。

 だが、今なら――この二機が同時に挑みかかれば、相手がこのジムⅡだろうと斬り伏せられる!

『ぐっ!』

 しかしエレインが挑む直前、その上方から射弾の雨が降り注いだ。ビームライフルと榴霰弾による制圧射撃。単機でフローラを翻弄してのけた手練のジム・キャノンに率いられて迫り来る、ジムⅡ小隊の後続部隊だ。

『姉様に触れるなッ!!』

 フローラが猛然とビームライフルで応射するが、一対四、これほどまでの火力差はいかんともしがたい。あっさりと撃ち負け、ただ回避一辺倒へと押しこまれてしまう。

 だが多勢に無勢で渡り合おうとした彼女が完全に突き崩される直前、連邦後続部隊の脇腹へと増援第二派の残余が切りかかっていた。

 MS-21C《ドラッツェ》三機が、右腕部固定式の40ミリ機関砲を乱射しながら挑みかかる。高速機動のまま左腕補助ジェネレータが唸ってビームサーベルを展開、迎撃の光刃を広げるジムⅡと切り結んでは一撃離脱に転じていく。

『い、今の爆発……コムサイの――みんなのいる、方向――』

『よそ見してんな! 目の前の敵と戦えバカッ!!』

 そしてエレインがいきなり抜けた駆逐艦正面では、残されたザクⅡとリック・ドムがなお必死の防御戦闘を展開していた。二丁のザクマシンガンが展開する必死の弾幕が、なお執拗に追撃してくる二機のジムⅡをかろうじて遠ざけている。

 だがエレイン機が勝手に転進した今、自分たちだけでこの二機と一隻は止められない。サラミス改のメガ粒子砲からも狙撃されている。とうに限界は超えていた。

 ミリアム・バーレット少尉は新兵らしき少女パイロットが操る最後のリック・ドムを従えながら、一気に後退を決断した。

『後ろの味方と合流する! 下がるよッ!!』

『はっ、はいいッ!!』

 ミリアム機が敵機へ向けてハンド・グレネードを投擲するや、彼我の中間で巨大な閃光が広げる。照明弾。ティアーナ能力解放戦闘に備えた、非致死性兵装の残弾だった。

『離脱ッ!!』

 二機はそのまま転げるように距離を開いた。加速維持時間に勝るリック・ドムが、ファドランの前方を先行していく。

「……ルウムの、亡霊――」

 ミリアムは震えるほどにきつく歯噛みしつつ、大ジオン仏道のゲルググ三機と連携出来る位置まで下がった。

 周囲を見れば無謀にも『奴』へ挑戦し、半壊しながらもかろうじて生き残ったケンプファーも、ようやく長経旋回を終えていた。こちらへ合流の動きを見せている。

「いやぁ。凄いよ、アンタ――奴とやり合って生き残れるなんて、大したモンだ」

 かつて彼の所属したジオン特務部隊とは、ニュータイプ部隊もかくやの凄腕集団だったというのは事実らしい――強ばる表情でミリアムは笑った。

 迫る敵MS隊の後続に対してフローラ機が散発的な射撃戦を展開しつつ、もはや格闘戦能力のみとなったゲオルグとエレインの二機が突撃の機会を窺う。そして三機のドラッツェと半壊したケンプファーが一撃離脱の機会を探る中へと、ミリアムたちのザクⅡとリック・ドムも合流した。

 これでジオン側は、ほぼ全戦力の集結を完了した。

 だが、それは敵も同じことだ。

 前方からは血に飢えた二機のジムと駆逐艦が迫り、後方からは『奴』を含む五機のジムと巡洋艦が押してくる。

 数の優位はもはや無く、そして今や勢いすらも呑まれようとしている。

「――帰れない、か……?」

 ミリアムはヘルメットの内側で一人ごちる。遙かな彼方を睨めば、やはり異常な戦技を見せつけたジム・コマンドに追撃された母艦の後方で、ザク改と思しき二機の機影が果敢に応戦する火線と光条が見えた。

 あの連中も特務の凄腕らしいと聞いている。あちらは何とかなるだろう――最悪でも、次の増援が到着するまで持ちこたえてくれればそれでいい。

 だが、こちらはもう分からない。

 このまま敵MS隊を突破できなければ、戦闘艦二隻に支援された圧倒的に優勢な火力のもと、一方的ななぶり殺しに遭うだけだ。長くは保たない。

 何よりも――敵にはあの『亡霊』がいるのだから。

『助かったよ、マコト』

『リン、ネイサンのことは残念でした』

 執拗に食い下がる三機のゲルググを火力で押し退け、ついに合流を果たした二機のジムⅡが背中を合わせた。スプレーガンとジムライフルが互いの死角を補い、隙を狙って突撃を試みる敵MS隊を威圧する。頭部を失ったままのシエル機が脇を固めた。

『敵さん、ずいぶんいい感じにまとまってきてくれたねぇ――あと一揉みで、跡形もなくせる』

『いいえ。リン、十二時の鐘が鳴りました。シンデレラは帰る時間です』

 マコトが口にした瞬間。互いに逆方を向いたビームスプレーガンとジムライフルの間に、見えない殺気が走り抜けた。

『……あっはっは。どしたのマコト? ずいぶん変わったこと言うねぇ……これだけ大歓迎してくれてる敵さん放っぽって、このままスタコラ帰ろうっての? 私ね。両親から、客人への返礼は倍返しにして差し上げろ、って教わったの』

『リン。連中はあれだけバカスカ照明弾をバラ撒きました。あの異常な閃光の連鎖が今、そこいらじゅうから敵をうようよと引き寄せています。ここはもう、敵さんのお城の中庭――客人は私たちの方です。長く留まれば留まるほど、私たちの不利になるだけです』

 今や指呼の間にまで迫った僚艦トラキアが、アルマーズとの合流を目前にして旋回機動へ入った。なお猛攻するケンプファーとドラッツェ編隊を、自艦の対空砲火とサブリナ率いる直掩MS隊で巧みに押し退けている。

 そしてトラキアは減速から反転へ、元来た経路の撤退を目指していく。すでに撤退軌道に乗っていた、アルマーズを先導するように。

『カボチャの馬車も到着です。舞踏会はお終いですよ』

『……ふぅん、そっか。でもね、マコト――王子様と意地悪姉妹は、まだ帰したくないってさ!』

『!』

『降魔!』

『調伏ッ!!』

 再び編隊を整えた三機のゲルググが突入してくる。ビームナギナタと何か槍状のビーム兵器をかざした二機が突撃、そして後方から一機がライフルで狙撃。研ぎ澄まされた連携攻撃が二機のジムⅡを狙う。

 それは連邦軍が完全に合流し、相互支援の防御火網が完成する直前を狙った賭けだった。

 果断ではある。だが一歩間違えれば連邦軍に完全に包囲され、一方的に撃滅されかねない。大ジオン仏道はそれだけの気迫をもって、マコト・ハヤカワを狙っていた。

 彼らは見抜いたのだ。今この瞬間を逃しては、もはや彼女を倒せる機会は永遠に失われると。

「大ジオン仏道、――あいつらなら、ひょっとして――」

 そして一瞬の逡巡の後、ミリアム・バーレットも意を決する。

『ついてきな!』

『バーレット少尉!?』

『坊主どもを掩護するよッ!』

 傷ついた機体を虚空に跳躍させるや、ミリアムはザクマシンガンを構えて突進した。

 ジムライフルと首なしのジムⅡは、猛攻するイアハート姉妹がかろうじて抑え込んでいる。もう一機、スプレーガンを構えたジムⅡにゲオルグが挑んでいた。

 そしてミリアムは大ジオン仏道とは別方向からスプレーガンのジムⅡを狙い、銃口から迸る火線の雨を被せた。わけも分からぬまま、リック・ドムの少女もそれに続く。

 己の内から沸き上がる、出所の知れぬ確信とともにミリアムは叫んだ。

『スプレーガンのジムを撃てッ! 今この機を逃せば、もう永遠に奴は討てないッ!!』

「少尉、――何を言って……!?」

 二門のザクマシンガンがマコトを狙う。応射しながら回避運動するジムⅡのシールドに、120ミリ弾が火花と跳ねた。同時に二方向三機から執拗に狙われ、さしもの『スプレーガン持ち』も動きが乱れた――そう見えた。

 突撃するザクとリック・ドムの行く手に光軸が走り、二機に回避機動を強要する。だが直撃は出来ず、その行き足は止められない。

『うおおおおおっ!? なんかマコッちゃんがヤベェぞオイ!』

『ハヤカワ准尉!!』

『ちいいっ――あいつら、捨て身かっ!』

 連邦軍による包囲殲滅のリスクを完全に無視した、ジオン残党軍五機の強引な突撃はトラキアMS隊主力からも見えていた。

 だがサブリナがR4ライフルで牽制の長距離狙撃を放つ他に、有意な支援はまったく出来ていない。執拗に波状攻撃を仕掛けるドラッツェとケンプファーが、彼らの行く手を阻んでいるのだ。

『こんちくしょう――このハエどもがあっ!!』

 次々に一撃離脱を仕掛けてくるドラッツェの三機編隊へビームライフルの短連射を放ちながら、ロブ・サントス伍長は絶叫した。

 脚部を大型プロペラントタンク兼推進器に改造したドラッツェは、AMBAC能力と射撃時の安定性こそ低いが、直線加速と継戦性では群を抜く。不安定な40ミリ機銃も近距離戦では馬鹿には出来ない。ロブとアイネが放つビーム、シュンが撃ち放つ榴霰弾も抜いて必死に食らいつくドラッツェは、彼らの陣容を喰い破れずとも大いに掻き乱していた。

 そして生じた綻びに、稲妻にも似た機影が迫る。

『うっ――うおわあああぁっっ!!』

 群青隻腕の一角鬼――ケンプファーだった。

 火力はすでに本来の数分の一まで低下し、残る兵装は背部ジャイアント・バズ一門とビームサーベルのみ。

 だが武装の大半と片腕を捨てた身軽な機体は、パイロットをすり潰すような超高加速からその光刃を閃かせた。

『ひあ!?』

『サントス伍長が抜かれたっ!? ミケリヤ少尉!!』

 ロブ機のシールドを半分に寸断しながら、ケンプファーは一気に前衛を突破する。頭部60ミリの射線に追われながらも、背部ジャイアント・バズを後衛のジム・キャノンへ放った。

 至近で爆ぜた榴弾片がR4ライフルを穿ち、ジム・キャノンの機体を揺るがす。猪突するケンプファーがそのまま重武装の機体へとどめの斬撃を振り下ろすと、火花の雨が宇宙に弾けた。

『ッ!?』

『――惜しい』

 ハイザック用の小型シールドを装備した左前腕部から、ジム・キャノンは光刃を展開していた。

 ボックス型ビームサーベル。かつてRGM-79SC《ジム・スナイパーカスタム》が前腕に固定装備していたそれを、サブリナ機は近接防御用に移植していた。

 そして至近で膠着した二機が、互いの頭部60ミリバルカン砲を開いたのは同時。

 足を止めながら撃ち合うなら、軽装甲のケンプファーがジム・キャノンに勝てる道理などない。ケンプファーは機体のそこかしこを貫通されながら、不自由な機体に残る推力を振り絞って必死に離脱していく。

『やるじゃないのよ、特務さん――』

 だが笑うサブリナのジム・キャノンもまた、火器の過半を打撃されていた。

 R4ライフルにはジャイアント・バズからの弾片が食い込み、肩部固定式キャノン砲もバルカン砲に砲身を抉られた。バルカン砲とビームサーベルを除き、もはや中距離火力のバルザック式バズーカしか残っていない。

 彼我入り乱れる格闘戦への精密狙撃は、事実上これで封じられた。ケンプファーは作戦目的を達成したのだ。

『墜ちろッ、化け物ォォォ!!』

 そしてサーベルとナギナタがメガ粒子の干渉波を散らす中心へ、ミリアムは銃身も焼けよと連射しながら突進していく。

 ゲオルグともみ合う敵機からビームスプレーガンがぱっと煌めき、後続する少女のリック・ドムがザクマシンガンを吹き飛ばされた。弾倉の残弾が誘爆して機体を揺らす。

『きゃあああっ!?』

『構うなッ、サーベル抜けぇッ! あたしが奴に組み付いて動きを止める、いいか、確実にあたしごと奴を叩き斬れッ!! ゲルググ坊主も巻き添えにして構わん!!』

『ひっ――りょ、了解っ……』

 自機にもヒートホークの柄に手を掛けさせながら、ミリアムは喚いた。気迫に少女が色を失う。

 たとえ三機がかりでも、奴と斬り合ってまともに勝てるとは思えなかった。だが体当たりを仕掛けて、動きを止めることぐらいは出来るはずだ。

 敵は超絶の神業さえも鼻であざ笑う幽鬼の女王。生身の人間が打ち勝つ術など、捨て身以外にはあり得なかった。

 ファドランがヒートホークを、リック・ドムがヒートサーベルを抜く。ミリアムは右肩部シールドを前面に出してスプレーガンからの狙撃に備えながら、渾身の斬撃へ向けて流体パルスに溜めを作った。

 ゲオルグはなお互角の攻防を展開している。イアハート姉妹も駆逐艦のMS隊を抑えていた。

 神機天佑。

 神仏を信じないミリアムがそう思った。今なら奴と、差し違えられる――ミリアムの表情に、涙混じりの奇妙な笑みが浮かぶ。

『大ジオン仏道ッ! 私のことを、覚えているかぁっ!!』

 そのときオープン回線に、少女の頓狂な叫びが響いた。

 ドラッツェ隊がなお激しく斬りかかる乱戦を抜いた、ジムⅡの一機からだ。

 なお濃厚なミノフスキー粒子に遮られて、その絶叫は決して遠くまで届かない。それでも戦場に生じた一瞬の空白を抜いたその機体は、まっすぐにゲルググの一機を――指揮官用通信ブレードを頭部に立てた隻腕の機体を目指して突進してくる。

 ジムⅡが続けざまに数発放ったビームライフルの光弾は、ミリアムたちの突撃を妨害した。格闘兵装の二機はただ旋回を強要され、そして開いた空間へとそのジムⅡは突撃してくる。

『この、声は――』

 今まで決して鈍ることの無かったゲオルグの動きが、そのとき初めて俄に揺らいだ。

『――クライネ伍長?』

 マコトが解けるようにゲオルグからの距離を開き、彼女の背を突くように迫ろうとしていたザクとリック・ドムに真正面から向き直る。

 アイネはそのままビームサーベルを抜き放って突撃、ゲルググのナギナタに受け止められた。続けざまに喚く。

『忘れているなら教えてやるっ。私はこの前お前たちが襲って皆殺しにした巡洋艦、《アバリス》隊最後の生き残りだ!』

『な』

 そして、ゲオルグも忘れていなかった。

 宙域で悪逆非道の限りを尽くした連邦外道艦アバリス。その隙を突いて襲撃した際、最後まで果敢に抵抗し――そして自らビームナギナタでコクピットを貫き、核融合炉爆発の火球とともに完全成仏させたはずの少女パイロットの声を。

『ば、莫迦な――あ、あのとき――あのとき確かに、私は……滅我粒子にてその身を荼毘に付し、即身完全成仏に導いた、――はず……』

『残念だったな、それは単なる記憶違いだ! 私は今、ここで確かに生きているぞッ!!』

 ゲルググの巨体もろとも、狼狽したゲオルグを圧し斬るようにアイネは叫んだ。ジムⅡがスラスターの出力を全開する。

『何が完全成仏だ! 何が宇宙浄土だ! お前らジオンの亡霊どもにそんな権利も、そんな力もありはしないんだ! いま、私は確かに生きている――私は生きて、お前らジオンの理想なんかに壊されない、私たちの新しい世界を作るんだっ!!』

「そうだ。今、生きている――」

 二人が戦う背後で、リック・ドムがヒートサーベルを握り拳ごとスプレーガンに打ち砕かれた。あくまでマコトへの突撃姿勢を崩さなかったザクⅡも、正面からシールドごとスプレーガンに乱打されて立ちすくむ。

 ようやく突撃が無謀と知れたか、リック・ドムは胸部ビーム砲を発射しながらザクとともに離脱していく。その二機に射弾を応酬しつつ見送りながら、心底楽しげにマコトは笑った。

「幽霊なんかじゃない――君も私も、な」

 そしてアイネ機の剣閃が、ゲルググを一気に押し切る。

 それまでの人間離れした獅子奮迅が嘘のように、ゲオルグ機は機位を崩して圧し流される。アイネは突き構えでそこへ猛進した。

『さあ成仏しろ、大ジオン仏道ッ!!』

『おおおっ――おおおおおおッ!!』

 

 

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『ゲオルグ居士いっ!!』

 その光景に、ジムライフルの機体と交戦していたエレインが絶叫した。もはや後先の算段も何もなく、ただ激情のままに彼女のゲルググは跳ねる。

 エレインは横合いからナガマキを構え、咄嗟の射撃を放って二機の合間に割り込もうとした。ナガマキの光弾はエレインが自分で信じられないほどの精確さで二機の中間を抜け、少女のジムⅡは咄嗟に退いて狙撃から逃れる。

 だがエレインがとどめの次弾を放つ寸前、榴霰弾が眼前でぱっと弾けた。弾幕がエレイン機を横殴りに乱打する。

「あぐっ!?」

『彼女はやらせない!』

 ハイパー・バズーカを構えたジムⅡからの掩護だった。

『小癪なあああっ!!』

 狙撃の機会を封じられたエレインは、即座に突撃を決意する。自らの機体でその開いた隙間へ滑り込もうと、ナガマキから光刃を伸ばすと全力で突進した。

「ゲオルグ居士、いま参ります――」

 ――地獄へか?

 何か不吉な意志の力を、エレインは感知する。背後から。

 コマ送りのように緩んだ時間の中で、全天周モニターの正面にカットインが開く。

 ロックオン警報。

 エレインとフローラが二機がかりで抑えていた、アルマーズMS隊の片割れ――首なしのジムⅡが肩部サブセンサーの視野と、ビームライフルの射線上にエレイン機を捉えていた。

 銃口が丸く見える。急機動したエレイン機の動きを読み、待ち伏せていたのかもしれない。

 決してあり得ないはずの、ゲオルグの危地という異常事態。それを目の当たりにした衝撃がエレインを狂わせ、もっとも危険な目前の敵を忘れさせたのだ。

「しまっ――」

「――地獄に落ちろ、ジオンの屑」

 冷たく呟き、シエル・カディスは静かにトリガーを引き絞る。

 BR-S85の銃口から迸ったメガ粒子は、敵機の中心核を狙って迸り――そして過たずコクピット・ブロックを撃ち貫いた。

 直前に射線上へ割り込んでいた、フローラ・イアハート信女機の。

『――フローラ?』

『ねえさま。庵(いおり)の皆に、』

 閃光に焼かれる直前、妹は姉へ優しく微笑んでいた。八年前までの無垢な少女のように。

 

 

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「南無阿弥陀仏――」

 ゲルググのコクピットは一瞬でメガ粒子の奔流に焼き尽くされ、内包した美少女の意識とともに蒸発した。

 重厚な機影はその中心部から歪んで崩れ、貫通された融合炉からプラズマの奔流が溢れ出す。

 

 

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 フローラ機は巨大な光球と化して一瞬で消滅。その強烈な照り返しは周囲のMSを押しやり、シエル機の装甲までもを叩いて激震させた。

「ぐっ、ううう! 邪魔立てをっ――まだだっ。アイネの仇――貴様も――貴様も、墜ちろォ!」

 シエルはその機体を盾に生き残った、もう一機のゲルググを執拗に狙う。

 そして通信索敵機能の要を担う頭部ユニットを失っていたシエル機は、その警報に気づけなかった。

 ――逃げて

「えっ?」

 戦闘宙域を、強大なメガ粒子の集中豪雨が薙ぎ払った。

 すべてを光熱の中に押し流す、圧倒的な艦砲射撃――それはサラミス級が出せる火力ではない。そしてトラキア隊の面々はその鮮烈なビーム光の威力を、忘れようもなく覚えていた。

『この火力、あのときの!?』

『まさか、また――!』

 高エネルギー警報の元を辿れば宙域の彼方に、鋭角の艨艟が巨体を現していた。サラミス、マゼランの連邦系航宙戦闘艦の系譜に連なりながら、同時にMS戦へ高度に対応した意匠。前方へ複数展開されたカタパルト甲板から、次々にMSが発進してくる。

 同時に宙域全体を覆うほどの高出力で、ミノフスキー粒子に妨害されながらも通信波が一方的に放送された。

『こちらは地球連邦宇宙軍、環月方面軍戦艦《ジャカルタ》。これより正面宙域で戦闘中の『友軍』を支援する』

『――《エゥーゴ》!』

『きっ、来たぁ! ほれ見ろ! いつまでもモタモタウロウロしてっから、案の定、あの連中がまた来やがったああああああ!!』

 有無も言わさず矢継ぎ早にカタパルト射出されて展開してくるMS隊は、リック・ドム擬きの新型を先鋒にして早くも十機近く。無線放送で堂々と宣言された、彼らが支援しようとしている『友軍』とやらが地球連邦正規軍ではないことぐらい、誰もが言われなくとも理解できた。

 激戦の末に疲弊しきった両軍をまとめて、容易に一掃しうる新戦力の出現。巡洋艦トラキアから即座に信号弾が放たれ、戦場の宇宙に大きく弾ける。

「全軍、即時撤退――」

『さあさあ、エゥーゴさんのお出ましだ。いよいよここで店じまいだ! とっとと帰るぞ、早よ乗れやリン!』

 この場での最上位者である、昔馴染みの僚艦艦長が通信小窓に顔を出す。とうとう直接に釘を差されて、崩れたゲルググの残り二機を狩ろうとしていたリンも諦めたように首を振った。迫る新型戦艦へ目を眇める。

『リドリー、……了解。あれが、エゥーゴ――そこのあなた、そのままシエルをお願い』

『はっ、了解です少尉殿! ――え? ……シエル??』

 シエル機は今や頭部に加え、機動の要たる両脚部までも失っていた。高エネルギー警報と艦砲射撃からの退避が遅れたためだ。それでも彼女が機体ごと蒸発せずに済んだのは、トラキア隊の少女パイロットが操る一機が、咄嗟に体当たりを掛けてまで離脱を支援してくれたからに過ぎない。

 そのトラキア隊機に曳かれるように誘導されて、シエル機は艦隊への帰投コースへ入っていく。

 そして、あれほど執拗だったジオン残党軍も、連邦軍への攻撃を止めていた。警戒態勢は崩すことなく、しかし次第に距離を取りながら離脱していく。トラキア艦長リドリー・フランクス大尉は、その光景にひとり艦橋で訝しんだ。

「――ふん。エゥーゴの連中、未だルスラン・フリートとの連携は出来ておらんと見えるな――」

 ケンプファーが大破し、ゲルググも一機撃墜された今、ルスラン・フリートにこれ以上の戦闘を継続する力はないはずだった。そしてジャカルタ隊が到来しても攻勢に出てこないということは、彼らもまたその動向を警戒しているということに他ならない。

「よし。今ならまだエゥーゴに完全に捕捉される前に、全MS隊を収容して離脱できる――って、マコト!? 何やってんだおまえ! 退くんだよ。後退! 全軍後退、って言ってんだろうが!!」

『21。22は推進材と残弾に余裕大。これより単機で友軍の撤退を支援する。宙域内の全MS隊は22より先に母艦へ帰投せよ』

『りょ、了解!』

『准尉、お先に――』

 連邦軍の全MS隊が一斉に母艦へ帰投していく中、マコトのジムⅡ22だけが最後尾でエゥーゴMS隊を睨む格好になった。

『いいよリドリー、マコトがケツを持ってくれるんなら安心ってもんだ――こっちは残弾がない! マコト、先に下がるよ!』

『ええサブリナ、皆をよろしく……リドリー、ご心配なく。お茶だけ用意しておいてください』

『馬鹿野郎! マコトお前、絶対帰って来いよ!!』

 ジムⅡ22の背部スラスターが噴焔を吐いた。シエル機の狙撃で散ったゲルググの残骸が漂う空間を飛び抜けながら、マコト機は旋回を繰り返しつつエゥーゴの接近を威嚇する。

「ハヤカワ准尉の、あの動き――何だろう。――何かを、探している……?」

 トラキアのMSカタパルト甲板へロブ機と同時に着艦しながら、シュン・カーペンター伍長は遠い隊長機の奇妙な動きに目を凝らした。大破したアルマーズ隊機とともにアイネ機も着艦し、弾薬と推進材の艦外補給に整備兵たちが彼らを取り巻く。

 そしてエゥーゴMS隊が、戦闘宙域へ侵入してきた。

 弾丸じみた速さでデブリを縫って先陣を切るのは、つい先日にも見たリック・ドム擬き。その背後には以前にも見られたジム擬きと、ハイザックに似たブレードアンテナ付きのMSが従っている。すべてが新型機と見えた。後退するジオン残党軍MS隊には目もくれることなく、彼らは連邦軍へ――その後衛たるマコト機めがけて突進してくる。

 落ち着き払った男の声で、ノイズ混じりの通信が入った。マコトはその声を覚えている。

『――宙域のミノフスキー粒子濃度、きわめて高。我がMS隊の新型センサーに不具合を確認――友軍誤射の恐れあり。繰り返す、友軍誤射の恐れあり。現戦域は我が方が引き継ぐ。サイド4駐留艦隊は、現在地より早急に退避されたい』

 リック・ドム擬きの頭部に据わる、旋回軌条を持たない異形の大型モノアイ。その眼光が戦闘宙域を不気味に睨む。

 連邦軍在来機を圧倒する新型メインセンサーのすぐ背後に位置する頭部コクピット内で、全天周モニターとコンソール上へ正確に描き出されていく戦況表示を見渡しながら、その男――ジャカルタMS隊長ベリヤ・ロストフ大尉は笑った。

『この過酷な暗礁宙域では我が方の、月面育ちの軟弱なセンサーなどはものの役にも立たないようだ』

 そしてトラキア艦橋では、リドリーが艦長席のアームレストを叩く。

「――ふっ、ざ、けんな――エゥーゴのクソ野郎ども! 今度はそれで味方討ちを正当化しようってのか!? 後部単装砲、行けるな!?」

『いつでも!』

『リドリーさん。マコトの加勢、ウチの連中も混ぜてください』

「当たり前だジャック! 野郎、新型だろうがブチ墜とすッ!!」

 トラキアとアルマーズ、サラミス二隻の後部で単装砲群が蠢く。

 だが最前線に立つマコトは、いつも通りにしごく平板、事務的な声色で応じるだけだった。

『ご親切にどうも、ロストフ大尉』

『やあハヤカワ准尉、奇遇にもまたお会いしましたね。いま退避されないのなら、生命の保証はいたしかねますが?』

 あのとき感じたままのざらついた気配をよそに、マコトも冷たい笑いをベリヤへ返した。

『ご自由にどうぞ。どうかご心配なく――こちらも好きにさせていただきますので』

『了解――』

 それまでフラフラと、どこか当て所ないようにも見える動きで旋回していたマコト機。エゥーゴ機との接触直前、彼女はようやく求めるものを見つけだした。

「――あった」

 宙域に浮かぶ、一点の微かな燐光。

 MSなどよりずっと小さく、新旧のデブリに紛れて漂うそれをマコトはかろうじて捕捉し――瞬間、彼女はそこへ全速でジムⅡを突進させていた。

 同時にリック・ドム擬きも虚空を蹴る。随伴する二機を置き捨てるような急加速だ。

 理由はひとつ――その新型モノアイも、同じ存在を捕捉したのだ。求めていたものを。

 巨体の繰り出す挙動は軽く、推進の火は力強く、そして何より確かに速い。

 その機動性能がジムⅡはおろかケンプファーやゲシュレイさえも上回ることなど、もはや素人目にも明らかだった。

 宙域の同じ一点を目指して二機は猛進し、そして最初のビームがマコトへ走った。

 リック・ドム擬きからではない。その後方へ離されながらも追従する、ブレードアンテナ付きのハイザック擬き――それが構える長銃身ビームライフルが長距離から、正確無比にマコト機の中心を狙ったのだ。

 そしてマコトも同時に応射していた。ハイザック擬きが放った狙撃の光軸はジムⅡ22を掠めて消えたが、その応酬が口火となってリック・ドム擬きが火線を開く。

 鋭角的なシルエットの長砲身バズーカが火を噴き、迎え撃つマコト機の前方に爆炎を散らした。両機は互いに譲らず直進し、散りゆく火球を蹴破るように飛び込んでいく。

 リック・ドム擬きは初弾ひとつで右手のバズーカを下げた。続けざま、左手に握った小型ビーム銃から速射が迸らせる。

 スプレーガンに劣らぬ連射速度、なおかつ倍近い高出力で注いだ射弾の雨。応射しながら掻き分けるように進むマコトは一発の直撃も受けることなく、そのすべてを真正面から突き破っていた。

 二機が激突する瞬間にぱっと火花が、そして爆光がふたつ閃く。

 飛び抜けるリック・ドム擬きは、掌中のビーム短銃を。そして駆け抜けていくマコト機も、その右手からビームスプレーガンを失っていた。

 相打ち。

 だがリック・ドム擬きの背で、一対のバインダーが閃く。重厚な巨体が独楽のような迅さで廻り、スプレーガンを失ったジムⅡを眼下に見下ろした。新型バズーカの砲口が背後の死角からマコトを捉える。

 炸裂した。

 榴霰弾が装甲を叩く。近傍を掠めていくビームの射弾から、急旋回でリック・ドム擬きは機敏に逃れた。

 一度は巡洋艦まで後退したジムⅡ三機が再出撃して、猛烈な射撃を降らせてきたのだ。

『掩護します、准尉ッ!!』

『早く戻ってきてください!』

『隊長―ッ! はやくきてくれーーーっ!!』

「ほう。雑兵風情が、その旧式でリック・ディアスに挑むのか――」

 急激な回避機動で生じた加速度の底から、凄絶にベリヤは笑う。

 しかしその時にはもう、マコトのジムⅡ22はシールド裏から予備スプレーガンを手にしていた。ベリヤ機との間で、猛烈な銃砲撃が飛び交う。

『大尉、離脱をッ!』

 ハイザック擬きが再びビームで狙撃し、追いついてきたジム擬きが新型バズーカから発砲する。弾ける榴霰弾がマコト目掛けて投網を開いた。マコト機が斜めに構えたシールドに弾け、一弾は腕部装甲まで貫き通す。

 そしてマコトと敵機が離れたのなら、リドリーがそれ以上我慢を続ける理由などはもう何一つ存在しなかった。

『撃てェッ!!』

 トラキアとアルマーズの二隻が、そのとき使えるすべての艦砲を開放した。サラミス改級二隻が放つ後方火力、さらに三機のジムⅡがBR-S85とハイパーバズーカの火力を加えて、エゥーゴの新型MS隊をも圧倒していく。

『22より21。22、帰投する』

『おかえりなさい、准尉――!』

 その火力がこじ開けた局所優勢の穴を辿って、マコトのジムⅡは母艦へと全速力で合流した。出迎えの三機とともに、巡洋艦と並進しながら戦場を離脱していく。

 そしてゲシュレイを載せたパブリク改級哨戒艇が矢庭に四機を追い抜き、その艦列に加わった。

 そのまま暗礁宙域の彼方へ、連邦軍の三隻は見る間に遠のいていく。

 戦闘宙域は、一転して静寂に帰った。見送るRMS-099《リック・ディアス》に、一機のMSA-003《ネモ》が寄り添った。静かな女の声が問いかける。

『――大尉。追わなくてよろしいのですか?』

『うん。今はこれでいい。確信が持てたからね。やはりここは宝の山だよ。いま随分と散らかっている中にも、まだ『福』が残っているかもしれない』

『艦と主力はルスランを追いますが。ここの捜索に人を割きますか?』

『必要ない。これから、いくらでも機会はある――』

 彼らの後方ではRGM-79R《ヌーベル・ジムⅡ》の編隊が、軍使の白旗を掲げながら進行していく。なお警戒の布陣を崩さそうとしないまま後退行動を続けるジオン残党軍MS隊、そして偽装貨物船へと向かって。

『――そうだろう、ルチア?』

『はい、大尉』

 RX-107《ロゼット》のコクピットに座る女性パイロットは、全天周モニターに呼び出した録画映像をじっと見つめている。

「……相変わらずね。マコト・ハヤカワ――」

 長距離から狙撃する彼女へと、ビームスプレーガンを向けるジムⅡ。

 雌獅子の傲慢さでその機影を睨みつけながら、金髪の美女は唇を舐めた。

 

 

 

「連邦の新型戦艦は《エゥーゴ》だと名乗ったそうです!」

「助けてくれるのか……? 敵の敵は、味方ってことなのか?」

「今、行方不明だったタールネン少佐からも通信が入ったらしいです――あっちに収容されてたってことなんでしょうか?」

 戦艦ジャカルタに後方へ付かれながら並走する、偽装貨物船ケンドー丸。

 大ジオン仏道のゲルググ二機をはじめ、今なお戦闘能力を保つ数機のMSが艦外へ展開し続けてはいる。しかし彼らはジム系MSを主力として迫るエゥーゴ部隊相手に、露骨な交戦の意志を見せてはいなかった。

 そしてケンドー丸のMS格納庫は激戦から帰投した満身創痍のMS隊を収容して、整備兵たちが怒号とともに飛び交う修羅場と化している。

 大破したザクⅡファドランの一機がその一角で機体を強制冷却され、さらにコクピットハッチを破断開口された状態で固縛されていた。その内部から救出された少女は、パイロットスーツ越しに豊かな胸へ抱かれている。

「ティアーナ、……疲れたのね。いいのよ……ゆっくり……ゆっくり、休んで……」

 栗色の長いツインテールを無重力に泳がせたまま、少女は静かに眠っている。すべての痛みと苦しみから解き放たれたように、安らかな表情でただ静かな寝息を立てている。

 もはや物言わぬティアーナ・エイリス上等兵を救出したきり抱きしめたまま、イオタ・ファーガスン大尉はそこから一歩も動かなかった。

「……ウソ、だよね。ティア……」

 ノーラ・ジャンセン伍長は掛ける言葉の一つも持てないまま、それ以上二人に近づくことすら出来ずに立ち尽くす。ミリアム・バーレット少尉は自機のコクピットから、遠くその光景を見つめている。

 その格納庫全体を覆う混乱と喧噪の中を、パイロットスーツ姿の一団がかき分けるように進んできた。プチモビを動員してファドランの予備兵装を持ち出し、対空砲火を展開していた船客――ギュンター・グロスマン大尉以下の一団だった。

 胸にティアーナを抱いたきり、俯いたまま動こうとしないイオタを取り囲む。

「ファーガスン大尉! エイリス上等兵の妙なる槍働きに、我ら一同心底より感服いたしました!」

「――グロスマン大尉……?」

 眼鏡の下から虚ろな瞳を向けるイオタに構わず、男たちはその腕の中のティアーナを覗き込む。寝息を立てるその姿に安堵するや、興奮さめやらぬ勢いで次々にまくし立てた。

「いかなファドラン仕様といえど、ザクⅡを以て連邦のハイザックとガルバルディβをああも痛快に撃ち砕くなど、まさに彼女こそジオン武人の鑑!」

「ジオン十字勲章の名だたる勇士にも劣らぬ働きでしたぞ!」

「あのニュータイプもかくやの狙撃、まったく脱帽いたしました! 彼女さえいれば、もはやアムロ・レイごとき恐るるにも足らず!」

「ニタ研の強化人間が何するものぞ!!」

「…………」

 男たちの歓喜と賞賛に包まれながら、イオタは微動だにしない。紙のような顔色のままで少女を抱きしめ続ける彼女の瞳に、光る滴が溢れ出す。

「いやあ、ともかく彼女が無事でよかった! ジオン再興の日は近い! ジーク・ジオ――ぶフッ!」

 感極まった一人が拳を振り上げ、一同の唱和を導き出すより早く、あらぬ方向から飛来した工具がその背中を強打していた。

「だっ、誰だこれはァ! 何をするかァ!!」

「――申し訳ありません、先輩方。ウチの連中、上がったばっかでしてね……今、ちょっと疲れてるんです。……少し、静かに……しておいて、いただけませんかね……」

 自機から降り立ったミリアムが静かに、しかし確かな殺気を帯びた瞳で睨みつける。戦場帰りの荒んだ眼光が、その意味を知る男たちを圧し下がらせた。

「――あの。その子、……大丈夫、なんですよね?」

 そのとき不意に少女の声が、人垣の向こうから呼びかけてきた。

 男たちが道を開けると、パイロットスーツの可憐な少女が現れた。ボブカットの柔らかな髪が汗で張り付くのも構わず、彼女はイオタへ歩み寄ってくる。

 ただ一機だけ生き残った、リック・ドム搭乗員の少女だった。

「その子、……ニュータイプ、なんですよね。その子さえいてくれれば……連邦がまた新型のガンダムを作って、アムロ・レイや強化人間を乗せてきても……、その子がみんな、やっつけてくれるんですよね……?」

 止める者の一人もないまま、幽霊のように少女は歩いた。イオタの眼前に達し、焦点の定まらない瞳で二人を覗き込む。

「みんなが、……私の部隊が……みんな死んでまで守ったこの子は、……また、戦ってくれるんですよね。誰よりも強くて特別な、本当に選ばれた存在だってことを、見せてくれるんですよね……?」

「伍長……」

 イオタは答えない。なすすべもなく震える少女の小さな肩を、女の手がぎゅっと後ろから強く掴む。

 ミリアムは無言で彼女を抱き寄せた。その途端、少女の瞳から堰を切ったように涙が溢れ出す。少女はミリアムの胸にすがりついて、意味のない大声を上げながら泣きじゃくった。

 格納庫の脇から、担架を抱えた衛生隊がようやく姿を現した。人垣をかき分けてティアーナの元までたどり着くと彼女を固定し、イオタを伴って搬送していく。

 そしてノーラはその一部始終を、ただ傍観することしか出来なかった。

「――私、なんにも……なんにも、出来なかった……」

 もはや打ち捨てられたティアーナ機の強制開口されたコクピットハッチに、少女はただ力なく腰掛ける。焼け焦げたその内装を見つめて、ノーラはひとり呟く。

 気流に揺れて無重力に漂い出てきた、写真の切れ端を掴んだ。

 ティアーナが勝手にコクピット内へ張り付けていた、何枚もの写真のひとつだ。眠る自分の顔に落書きして、得意げに笑うティアーナがそこにいた。ノーラも少し、笑う。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……あの、バカ」

 そして炭化した写真は、そっと摘まんだ指先ひとつで脆く崩れ去った。ティアーナの笑顔が灰燼になって、船内気流に乗って流れていく。

「……強く、なりたい」

 誰もいないコクピットの中で、ノーラは一人うずくまって膝を抱えた。涙が零れる。

「強く、……なりたい、よぉ……」

 少女の嗚咽は格納庫に渦巻く喧噪に呑まれ、誰にも届かずに消えていった。

 

 

 

 ケンドー丸の進路上に、いくつもの光点が浮かび上がる。

 近傍の衛星拠点から出撃した、ルスラン・フリートの増援第三波となるMS隊であった。その勢力、ゆうに数十機。

 エゥーゴとルスラン・フリート。

 のちに地球圏を揺るがすことになる二つの勢力が、この日、邂逅した。

 

 

 

 トラキアとアルマーズ、そしてパブリク改級哨戒艇《バチスカーフ》の三隻は戦域を離脱してから、いくらも行かないうちに僚艦と合流できた。

 民間貨物船《リバティ115》とそこから展開した、VWASSのRB-79《ボール》編隊に護衛された戦隊旗艦《マカッサル》を加え、五隻は一路《P-04》を目指していく。

 トラキアのMS格納庫は完全に修羅場だった。アルマーズ隊のリン機とサブリナ、ゲンナーの機体は損傷も消耗も激しく、艦長命令での優先整備を受けさせられている。マコト以下のトラキア隊機は、艦外補給を受けながら待機中だった。

 そして、アルマーズ隊の片割れ――首も、左腕も、両足までもを失ったジムⅡは艦内格納を許されず、トラキア隊機とともに艦外繋留されている。

『嘘、――アイネ? 本当に、アイネ、……なの……?』

『そうだよ。そうだよシエル、私だよっ! 私、ちゃんと生きてるよ!』

 最初にその機体を曳航してきたジムⅡ22をすぐ隣に繋止するや、パイロットの少女はコクピットハッチへ跳んでいた。

 宇宙で間近から見つめ合うバイザーの奥に、見る見る涙が溢れていく。とうとうこらえきれなくなって、アイネはその豊かな胸にシエルをヘルメットごと抱きしめた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

『ちょっ! あ、アイネっ……』

『シエル。私、強くなったよ。シエルに負けないぐらい――シエルのことを守ってあげられるくらい、強くなったんだよっ』

『――アイネ、……バカ。……アイネのくせに……十年、早いよ』

 抵抗を試みたシエルの腕から、次第に力が抜けていく。二人の少女はそのままノーマルスーツ越しに、互いの肉体を確かめ合った。

 コクピットハッチで人目もはばからず抱き合う二人に、居合わせた二人の男性パイロットは目を白黒させ、マコトは吹っ切れたように大きく溜息を吐いた。

 シールドの裏に隠した、自機の左手をそっと見下ろす。

「やれやれ。まさか『二人目』とはな。どうやらまた、頭痛の種が増えそうだ――」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その掌中で真空に揺れる長い銀髪、そして横たわる美少女の豊満な肉体。

「さて。今度はどうしたものかな」

 淡い燐光に包まれたその安らかな寝顔を周囲の僚機から隠しながら、マコトは遙か進路上の月下に浮かぶP-04の影を見つめた。

 




フェニックステイル第二章『墓守の荒城』、これにて完結となります。
必要以上に多くの人物・要素が盛り込まれてしまった結果、魅力的な挿絵の力を借りてもなお消化不良の内容になってしまったのではないか、と戦々恐々としておりますが、いかがでしたでしょうか。
さて。戦闘描写で満腹し、役者もあらかた揃ったところで、次回以降はエロ場面メインの展開になってくるかと思います。皆様方、たいへんお待たせいたしました。
それではご感想、お待ちいたしております。



フェニックステイルのご感想を400文字以上お答えいただいた方を対象に、感想特典を限定公開しております。細部は以下をご参照ください。

フェニックステイル感想提供者限定・R-18短編限定公開企画(試験的運用中・意見感想募集)
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※イラスト:タテジマイノキ様、はお様(http://www.pixiv.net/member.php?id=164461)
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