※この作品はR-18です。

フェニックステイル   作:KY_PT

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■挿絵更新履歴
(9月10日14時20分、マインがデティを揉む絵を更新しました)
(8月22日18時10分、マインがデティを助けた場面を追加しました)
(8月15日19時20分、マインがデティを揉む絵を追加しました)



第二十七話 女装スパイ潜入!

『兄貴! このドラッツェの奴、まだ生きとるでっ!』

『ほんまかイーデン!』

 闇の戦場。戦死者たちの呼び声が今もさざめく古戦場、かつて宇宙要塞ソロモンと呼ばれた宙域の片隅に光が瞬く。

 外部操作。コクピットハッチ強制開放。

 傷ついた機体でひとり漂流していた自分に差し伸べられた、ジオン軍パイロットスーツの逞しい大きな手。バイザー越しに霞んで見える、髭をたくわえた力強い笑顔。

『み、味方か……。助けて、くれたんか……?』

『坊主、もう大丈夫やで。機体の方も――、まあ、すぐに誘爆はせえへんやろ。……動けるか?』

 応急手当と応急修理。かろうじて動けるようになったMS-21C《ドラッツェ》がMS-06F《ザクⅡ》とMS-09R《リック・ドム》に導かれながら動き出したとき、彼らは遠く離れたソロモンに広がる巨大な核爆発の閃光を見た。

『なんや、あの光!?』

『あ、ああ……! ガトー少佐……さ、作戦の第一段階が……あかん。もう艦隊が、転進してまう……! 今なら……いま行けば……いま行けばまだ、『星の屑』に間に合う! フリートの皆と一緒に、連邦に一太刀浴びせられる……! おっちゃん、おおきに! ワシは行くで!!』

『このアホッ!!』

『ぐっ!?』

 急加速しようとした瞬間、鈍い衝撃が傷ついた体にまで突き抜ける。ザクⅡがドラッツェへ組み付くようにして止めていた。

『お前みたいな死にかけ坊主がっ、そないボロボロな機体と身体で何するつもりや! デラーズの旦那がこのうえ何するつもりか知らへんけどなっ、こんだけ派手にやらかしてもうた後や、連邦軍はここから本気で殺しに来るで! そないな鉄火場へ、坊主みたいなくたばり損ないが今から行っても、ただ犬死にに行くだけやぞ!!』

『せ、せやけどっ。今……今戦わな、もう連邦は倒せへん! ここで……ここで戦わんかったら……死なへんかったら……ワシは、……ワシは今まで、何のために――』

『覚えとけ坊主ッ!』

 ザクⅡの両手がドラッツェの両肩を握って止める。そのモノアイの光が、モニター越しに真正面から瞳を射貫いた。

『ええか。死ぬことが戦いなんとちゃう! どんなキツうてもな、苦しゅうてもな――生きることが、最後の瞬間まで生き抜くことが戦いやねん!! その戦いの意味が、今の坊主にはまだ分からちゅうんなら……坊主のその命、……ワシが預かるっ!!』

『兄貴! それは!?』

『ええのや! イーデン、ええのや!!』

 言を半ばで制止しようとしたリック・ドムのパイロットを振り切り、ザクⅡのパイロットは思いをそのまま吐き出していく。

『もうな、ワシは……ワシはもう、沢山やねん。こんな坊主が、わざわざ好んで死にに行くような……そんなんはな、もう、ええねん。三年前に、終わっとるねん……死ぬための戦争は……もう、終まいや』

「――おっちゃん……?」

 自機の両肩を握りしめたザクⅡのマニピュレーター越しに、接触回線とモノアイカメラに映る装甲板の向こうで、微かに震える嗚咽の影を、そのとき確かに感じた。

 同時に警報が鳴り響く。センサーが迫る多数の機影を捉えていた。ソロモン方面から、怒濤のごとく押し寄せるMS隊――艦隊を焼き払われ、復讐の怒りに燃える連邦軍MS隊だ。三機でまともに戦えるような数ではない。

「…………」

 今あそこに飛び込めば、確実に死ねるだろう。うまくやれば、一機や二機は道連れに出来るかもしれない。

 その方向へメインスラスターのスロットルを開こうとしたとき、再び衝撃がドラッツェの機体を揺らした。

 ドラッツェに右手はない。整備所要が大きい脚部とともに右前腕部は省略され、40ミリ固定機関砲に置き換えられている。原型機であるザクⅡF2型同様に残っているのは左手だけだ。

 そして今、ザクⅡがその左手を掴んでいた。力強く。

『来い! ワシらと! 戦え! 生きるために!! イーデン!!』

『応!!』

 リック・ドムが二門のジャイアント・バズを両肩に構える。迫り来るジム改の編隊を目掛けて、矢継ぎ早に380ミリ砲弾を叩き込んだ。

 すべてを呑むほどの巨大な閃光が爆ぜた。つい今し方、核の炎が要塞外縁と受閲艦隊を焼いたばかりだ。すわ第二の核攻撃か、と連邦軍MS隊が怯んで編隊を乱す。

『やかましいわおんどりゃあ!!』

 先陣を切って突撃していたRGM-79N《ジム・カスタム》が、照明弾の閃光の中から頭部を蹴り潰されて吹っ飛んだ。

『今や! 撃ちまくれ!! 退けや雑魚どもおおお!!』

『いでもうたるどごるぁぁぁ!!』

 ザクⅡが文字通りにジム・カスタムを蹴散らし、続いた二機は薄れゆく閃光の中で無茶苦茶に乱射する。だがジム・カスタムは頭部を潰されながらも、咄嗟に盾でザクⅡの胴を殴り返してきた。

『ぐっ!? ――浅いわ、ボケがぁ!!』

 半端な打突は撃力が足りず、盾の爪部も装甲を破れない。逆にザクⅡ左肩のスパイクアーマーを食らって、ジム・カスタムは機体ごと跳ね飛ばされて今度こそ沈黙した。

 隊長機の頭部を潰されて混乱する連邦軍のRGM-79C《ジム改》が90ミリのジム・マシンガンで、これまたデタラメに応射してくる。

 しかし三機はすでに敵陣奥深くにまで突き刺さっていた。連邦軍の応射は数発がジオン機を掠めてその装甲板を穿ったが、それとほぼ同じ弾数が取り囲む友軍機へも突き刺さる。それだけで数機のジム改が損傷し、後方へ沈んで戦列を離れた。

『アホが見るぅぅぅッ、豚のケツぅぅぅぅぅッ!!』

 指揮系統の混乱と同士討ちに怯んだ連邦軍MS隊のただ中を突き抜けて、三機は暗礁宙域を全速力で突破していく。

 編隊にスナイパータイプのジムがいたらしく、数発のビームが機体の真横を追い抜いて掠めた。一瞬でも回避が遅れれば爆散していただろう。

 それらビームの追撃もやがて途切れ、追いすがる熱源も消えた。助かったのか――誰もがそう思いかけたとき、ザクⅡが不意にガクンと速度を落とした。編隊から脱落していく。

「なっ!?」

『あ、兄貴!?』

『――アカンな、これは。どうも、さっきの打たれ所がアカンかったらしいわ』

 連邦軍が乱戦の中で叩き込んできた、90ミリ弾幕。その一弾が超硬スチールの装甲を破り、機体内部の流体パルス構造を傷つけていたのだ。

『ああ。これは、もう――アカンかもわからんのう』

 コクピットであらゆる緊急対処手段を試しながら言ったその声は、ひどく平板なものに聞こえた。

 そして同時にザクⅡの機体から、機銃弾の破孔が火を噴いた。脚部推進材タンク付近。ザクⅡはそこからパイロットの操縦を無視して最大出力を全開、軌道を大きく捻って明後日の方向へ飛び去っていく。リック・ドムから絶叫が響く。

『兄貴! 脱出してくれ!!』

『いや、これもアカンな……さっき盾でブン殴られたとき、ハッチの装甲が歪んでしもうたんやの。さすが新型、ええ突きやったで』

「そんな――」

『まあ、ええわ。最後の最後に、坊主を一人拾えたしな――ま、こんなもんやろ。ほな、達者でな』

「…………!!」

 ドラッツェは、その瞬間にスラスターを開いていた。

 簡易MA級とも言われる巨大な加速力を全開するや、制御を失ってネズミ花火のように暴走するザクⅡへ一気に食らいつく。同時に左腕部の小型ジェネレータが唸り、固定式のビームサーベルを発現させた。

 一撃離脱、光刃一閃。

 ドラッツェのビームサーベルは一刀にして、正確無比にザクⅡの胸部装甲を焼き切っていた。そのまま飛び去っていくドラッツェの後ろへ追従していたリック・ドムが、受け止めるようにその手を開く。

『兄貴、今やッ!!』

『――!』

 ボルト爆砕、座席射出。

 サーベルが切り裂いたギリギリの隙間を縫って、射出座席が吹き飛んだ。相対速度を合わせたリック・ドムがその掌中に収めるや、機体を回してザクⅡに背中を向ける。

 ついに機体中枢まで火が回ったザクⅡが爆散したのは、まさにその瞬間だった。

 破片と爆熱がリック・ドムの装甲を叩き、跳ね返っては冷たい宇宙へ拡散していく。

『兄貴……?』

 リック・ドムの十字レールを動いたモノアイが、恐る恐るに自らの掌中を覗き込む。

『――やれやれ、イーデン。どうやらワシは、また死に損ねてしもうたらしいのう』

『兄貴!!』

『いやあ、助かったわ。また九死に一生拾うてしもうた。坊主――いや、もう坊主とは呼ばれへんな。やるやないか。名前、なんちゅうのや』

「……デティ。……デティ・コイヤー軍曹や……」

『そうか、デティ。ようやってくれたの。ワシはドッツィ。ドッツィ・タールネン少佐。人呼んで《キャリホルニヤの悪夢》や。せやけど、階級はええねん。もう、ええねん』

 ドラッツェがリック・ドムと機体を並べる。リック・ドムの誘導に従って彼らの母船を目指しながら、今まで感じたことのない不思議な安らぎを覚えていた。

『デティ。ワシら、もう兄弟やで。気の利いた桃の畑はあらへんけど、今日からお前も義兄弟言うやつや。イーデン、ええな?』

『おう。なんも異論ないで』

「――兄弟……?」

『せや。これからは、兄弟のために生きる。デラーズ・フリートのデティ・コイヤー軍曹は、今日で戦死や。今日からお前は、キャリホルニヤの悪夢の末弟、デティ・コイヤーなんやで』

「兄弟、か……」

 次第に爆光と火線の勢いも静まって遠のいていくソロモンと、未だ青い光をたたえる地球を交互に見ながら、デティは解き放たれたようにふっと優しく微笑んでいた。

「……おう。分かったわ、……兄ィ」

 

 

 

 デティ・コイヤー軍曹のヘルメットは、あの日からずっと同じものを使い続けている。膝の上でバイザーに映りこむ自分の姿も、三年前と同じに見える。

 だが、違うのだ。三年前の自分に無く、今の自分にあるもの。自分は今から、それを守りに行く。

「イーデン……ワシは行くで。エゥーゴのクソ女の毒牙から、兄ィを守りにな! お前はここでワシらのMSを、しっかり見張っとってくれや」

『お、おう……』

 勢いよく啖呵を切りながら、デティは自身の足下を見下ろした。行動方針は決定した。勢いに任せた激情から、冷静さを取り戻しながら呟く。

「さて、……どうするか、やな」

 連邦軍との戦闘に敗れてから収容されるまでの間に、デティは戦艦ジャカルタの威容をその目に留めていた。ジャカルタはマゼラン級をも上回るであろう大型艦である。極端な省人化が進んだ様子もない。

 つまり艦全体の乗員は相当数に達しており、なおかつ誰もが互いに顔見知りというわけではないということになる。

「ちゅうことは、こいつの出番やな……」

 愛機のリニアシート下からデティが取り出したのは、地球連邦軍の制服一式だった。少し嫌そうな顔でデティはそれを見る。

 万一の潜入工作用に常備していたものだ。ジオン出身者も少なくないとはいえ、それでもやはりエゥーゴは連邦軍系の組織らしい。格納庫内にも連邦軍の制服姿がちらほら見える。これで紛れ込むのは容易だろう。

 艦内への潜入さえ出来れば、勝機はある。

 だが当然ながら、ジオン残党軍のMSパイロットとして損傷機に残された自分たちは注目の的だ。監視も付いているだろう。まさか連邦軍制服のままここから飛び出し、そのまま監視を誤魔化して潜入するわけにも行くまい。

 どこかコクピットの外で着替えて、しかも監視を誤魔化しきれるほどに印象を大きく変える必要がある。

「…………」

 思案の末、デティが次にごそごそとシート下から取り出したのは、長い赤毛のかつら――女性用ウィッグだった。

 先ほど連邦軍制服を取り出したときよりも、さらに嫌そうな顔をしながら、それでもデティは意を決したように顔を上げた。

 

 

 

 湯煙の中を熱いシャワーが、白い女体のみずみずしい肌に弾け散っては流れ去る。

 湯浴みしているのは金髪の美しい娘だ。均整の取れた長身はよく鍛えられて引き締まり、それでいて女体の要所要所には、余りあるほどに豊かな雌の甘みを蓄えている。

 殊にひときわ目を引くのが、胸元でたわわに実る巨大な乳房だ。文字通り男の手にすら余るその巨乳に、いま彼女自身が自らの手を掛けていた。

 女性としては長身である彼女の掌であっても、乳房はさらに大きく重く、とうてい包みきれず両手に余る。

 その白い柔肌の巨大な乳房に、彼女自身の十指が重く沈み込んでいく。

「……んっ、……」

 

 

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 張りのあるたっぷりの乳肉が歪み、わずかに甘い痛みが乳房の芯から彼女を刺した。だが彼女は構わず、己が双球を握りしめていく。

 彼女の乳房をその見事な大きさよりも際立たせているのは、白肌と鮮烈なコントラストを成す黒褐色の乳輪だった。

 ほんの昨日までみずみずしい桜色をたたえていた左右の頂は、今や黒々とした褐色に染まっていた。あまつさえその全体にぶつぶつと浮き上がった腺の数々が、わずか一夜の情事が彼女にもたらした決定的な肉体の変化を何より雄弁に物語っている。

 それはあたかも胎内に子を宿した、妊婦の乳首のそれだった。

 握力を強めるに従い、黒い乳輪の中にぷつぷつと何か、白い汁が滲み出てくる。

「……んっ、……」

 彼女がさらに掌へ力を込めると、ついには張りつめた果実を握りつぶしたかのように、黒い乳輪から白い母乳が噴き出した。

 堰を切ったように溢れる母乳が、乳輪から迸ってはシャワーに洗い流されていく。自らの乳房を強弱を付けながら何度も握り、尽きることなく溢れる母乳をただひたすらに搾り出しながら、金髪の美女はひとり呟く。

 

 

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「……ちくしょう」

 彼女の脳裏に蘇るのは、魂にまで焼き付いた二つの光景。

 憎き地球連邦軍の標準的量産MS、RGM-79R《ジムⅡ》。その一機とビームサーベルを抜き払っての格闘戦の最中、彼女をコクピットもろとも貫いたメガ粒子の奔流。

 灼熱の中で塵も残さず蒸発したはずの彼女は、無傷で目覚めた。そしていけ好かない男と思っていたMS隊長と、自ら望んで男女の交わりを果たしたのだ。

 それは彼女にとって鮮烈な恐怖と、そして何よりも屈辱の記憶だった。それ以外の何者であるはずもない。

 だがそれらの瞬間を思うとき、彼女の股間で女陰が甘く疼いて啜り泣くのだ。

 本来であればその圧倒的な物理力で、彼女の肉体と生命を宇宙の塵に還していたはずのメガ粒子の暴威。

 確かに彼女のパイロットスーツを瞬時にすべて焼き尽くした閃光の中で、そして処女を奪われながら膣内で爆ぜるように放たれた大量射精の中で、彼女は確かに絶頂を迎えた。

 

 

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 倒錯した、究極の快楽。

 あまりに鮮烈なその残滓が、今も彼女の雌を疼かせるのだ。

 対流のない無重力空間でシャワーを循環させる風圧の中で、青い瞳の眦に光る滴も流れ去っていった。魂の奥底から、彼女の搾り出す言葉とともに。

「ちくしょう――」

 

 

 

 マイン・ハフナーが目覚めた場所は、戦艦《ジャカルタ》に複数存在する医務室の一つらしかった。戦闘後に艦内へ収容され、そして隊長との情事の後、再び気絶した自分はここへ搬送されたようだ。

 彼女が気づいたとき、すでに室内は無人だった。体調も悪くはないように思えた。どす黒く変色して母乳を滲み出させる乳輪と、飲ませる赤子のあてもない母乳をひたすら作り出しては溜め込むように変わり果ててしまった乳房以外は。

 備え付けのシャワー室で母乳の処理を済ませたマインは、誰かが室内へ用意してくれたらしい衣服を身に付けた。

 下着にはご丁寧にブラジャーもあった。ただしMSパイロットである彼女が常用するスポーツタイプのものではない。妙にパッドの分厚いそれは授乳期の母親向けのそれだったが、あらかじめ測っていたかのようなジャストサイズでマインの乳房を包み込んだ。

 ただし上着として用意されていたのは、意匠が気に食わず、彼女が今まで決して着ようとしなかったノースリーブの女子エゥーゴ制服だ。

 少し嫌そうな顔をした後、他に選択肢がないことを確認してから、やむなく袖を通す。とにかく人前に出られる格好になったマインは部屋から出ようとした。

 医務室のドアを開けた瞬間、目の前に若い女が立っていた。

「おはよう、ハフナー少尉。意外と早いお目覚めね」

「――シャノン……っ」

 視界へいきなり飛び込んできた女の顔を、マインはきっと睨みつけた。

 額できれいに切り揃えた黒い前髪と眼鏡の下の、冷たい知性を宿した青い瞳は鉢合わせに驚いたような様子も見せない。ただ、どこか突き放すような距離感を持ってマインを見つめている。

 単純に上の視点から人を見下すだのといったものともまた違う。マインにとって彼女のそれは、実験動物を見る研究者の無感情な視線に思えた。

 シャノン・ヒュバート少尉は、リアンナ・シェンノート少尉率いる戦艦ジャカルタ第二MS小隊所属の女性パイロットである。そして彼女はMSパイロット資格と同時に医師資格を持ち、戦艦ジャカルタの軍医を兼務するという異色の才媛であった。

 年はマインとそう大きく離れていないはずだ。しかしその感情を他者に感じさせないほどに抑えた仕草が、マインをしてシャノンをいけ好かない女に思わせていた。

 そしてビームサーベルにコクピットごと貫かれながら生還したマインを診断したのも、彼女だった。マインの肩越しに室内の机上を見やり、シャノンはそこに置かれたままの診断書に大げさなため息を吐いてのける。

「『2月26日から三日間は面会謝絶で絶対安静』……私はそう診断書を出しておいたはずだけど?」

「はっ。三日だぁ? おいおい勘弁してくれ、あたしはそんなに寝てたのかよ。道理で体が鈍ってるわけだ。先生どいてくんな、リハビリにちょっくら一汗流してくるからよ」

 そう軽口を叩きながら脇を抜けようとしたマインの前を、無言のままでシャノンが塞いだ。面倒くさそうにマインが睨む。

「ハフナー少尉。今日はまだ2月26日よ」

「あたしの三日は早いんだよ」

 二人はそのまま温度の噛み合わない視線で睨み合う。痺れを切らしたマインが次の動きへと移る手前で、シャノンが腕組みしながら身を引いた。

「止めないのか?」

「止めて聞きそうな気配がないもの。私もここで病院送りにされたくはないからね」

「――そうかよ」

 道を開けたまま肩を竦め、くすり、と微笑むシャノンを、マインはいっそう強く睨みつけた。勢いよく床を蹴り、リフトグリップを掴んで身を委ねる。

 無重力の通路を泳いで流れ去りながら、しかしマインは次に行くべき場所を決めかねていた。

 指揮系統上の上官であるMS隊長、ベリヤ・ロストフ大尉への報告は必要ないだろう。彼とはつい先ほど最低の形で言葉と、そして肉体と欲望を交わしたばかりだ。

 自身の膣奥深くに放たれた、白く粘ついた熱い欲望。それを子宮で受け止めながら達した、精神を狂わせるほどの快楽の極致。その片鱗を思い出してマインは震える。

 ――少なくとも今はまだ、あの男と会いたくない。

 会えば自分がどうなってしまうのか、マインはそのときの自分の姿がまったく想像できなかった。それは彼女に芽生えた、また新たな恐怖だった。

 といって、ティターンズと連邦軍の攻撃で壊滅した故郷の資源衛星から一緒にエゥーゴへ参加した、彼女を『姉御』と慕う二人の舎弟のところへ行くのもはばかられた。

 マインら三人は同じく復讐を誓う同郷の同胞として団結し、ベリヤ率いるジャカルタMS隊主力に対抗心を燃やしていた。

 だが連邦軍ジムⅡとの一対一の戦いで無様に敗れたうえ、自ら望んでベリヤに犯され、あまつさえ昨日まで処女であった自分が乳房から母乳を噴き出す体にされてしまっているのだ。

 合わせる顔がない。

 今の自分にはどこにも行くべき場所がないことに気づきながら、しかし一カ所に留まることも出来ず、マインはただ人の気配を避けるようにジャカルタの艦内を漂っていく。

 そんな彼女のくすんだ視野に、見慣れない女性士官の姿が不意に飛び込んできたのはそのときだった。

 長い赤髪を泳がせる、地球連邦軍制服の可憐な美少女だ。程良く膨らんで制服の上衣を押し上げる胸元といい、しなやかに伸びた健康的な四肢といい、男たちの視線を集めるには十分以上の魅力を発揮している。

 だが何より強く男たちを魅了するであろうものは、その可憐な仕草だった。

 いかにも自信なさげに伏し目がちな表情、震える睫毛、弱い自らをなんとか守ろうと抱きしめるような腕の動き。

 それらは強い男たちからの庇護を必要とする、か弱い女のアイコンをひどく直接的に表現しており、それゆえ目ざとい男たちを惹きつけずにはおかない。

 そしてそれらのすべてが、現状に直結していた。

「君さ、ホントに可愛いねー。この艦にまだ君みたいな美少女がいるのを見落としてたなんて、俺らもほんとチェック不足だったって言うか、申し訳ないねー」

「あ、あの……っ、こ……困り、ますっ……わ、わたし……今から、行かなきゃ……いけない、ところが――」

「へー。迷ってたみたいだけど、どこに行きたいのさ? 俺らが連れてったげるよぉ」

「…………」

 マインの視線の先で、その美少女士官に二人の男が絡んでいる。彼らも連邦軍士官制服だが、こちらも見慣れない顔だ。少なくともMS隊の所属ではない。

 二人は彼女の退路を塞ぎながらパーソナルスペースを潰して大きく押し込み、少しでも顔を背けて逃れようとする彼女に、耳元へ息のかかる距離から話しかけている。

「じゃあさ――ちょっと俺らの部屋、寄っていこっか」

「――えっ」

 笑顔のまま、男たちが切り出した言葉。その裏に潜む意味を悟って、少女がさっと青ざめる。咄嗟に逃げようとした彼女の退路を、一人が即座にさっと塞いだ。

「俺らの部屋、すぐそこだから。熱くてクセになるドリンク出してあげるよ。ちょっとだけ、ちょっとだけ休憩していこうよ」

「やっ、やめっ――」

 一人が手首を掴んで拘束し、一人が手際よく部屋のドアを開ける。彼女が恐怖と絶望に涙を浮かべたとき、マインは一歩を踏み出していた。

「おう。お前ら、ドコの者だ?」

「――何?」

「あっ――」

 長身の金髪美女から凄みを乗せて話しかけられ、男たちは明らかに鼻白んだ。目を瞬かせた後、一人が相方に耳打ちする。

「マイン、……マイン・ハフナーだ。第三MS小隊長の」

「じゅ、『十人殺しのマイン』か!? さっきの戦闘で、死にかけてたんじゃ――」

 編成間もないジャカルタ隊にあっても、マインたちの無鉄砲なまでの喧嘩っ早さは広く知れ渡っていたらしい。二人が怯んだところへ間髪入れずに畳みかけた。

「あっ!?」

 マインはぐい、と少女の腕を掴み取るや、自分の方へと奪うように引き寄せる。彼女を抱き寄せながら、ドスの利いた声とともに男たちを睨んだ。

「ウチの者に訳の分からんちょっかいかけてんじゃねぇよ。失せろ」

「い、嫌だなハフナー少尉、……MS隊の子だったんですか……早く言ってくださいよ」

「知るかよ、阿呆。おい、行くぞ」

「あ、――は、はいっ」

 あっさりとマインの眼光に押し負けて、男たちが道を譲る。少女の手を強引に引きながら角を曲がるとき、彼らの悔しげな舌打ちが遠く聞こえた。

「クソッ。なんだよ、見ない子だなと思ったらMS隊かよ」

「でも、だったら逆に良かったな。だってMS隊の女って、全員『大尉のお手つき』なんだろ。そんなのへうかつに手出しせずに済んで、命拾いだぜ」

「…………」

「……あ、あの――っ」

「――ん?」

 その声も遠ざかって聞こえなくなった頃、少女が上目遣いに見つめているのにマインは気づいた。たどたどしく話しかけてくる。

 

 

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「た、……助けてくださって、ありがとうございます。は、ハフナー少尉? が、助けてくださらへんかったら、……私、今頃――」

「もう普通に喋っていいぞ。あたしは別にジオンなんざ何とも思ってないからな。そのジオン訛り、無理に消そうとしなくていい」

「あうっ……!」

 必死の演技もマインにたやすく見破られて、少女は涙を浮かべたままきゅっとその場に縮こまる。

「お脳とチンポが直結してる猿でもなけりゃ普通に分かる。お前、さっき収容したジオン残党のパイロットだろ。なんで連邦の制服なんか着て、こんなところをうろついてる?」

「あ、あの、……その、こ、これは――」

「ハッキリ喋れや!!」

「はううぅっ!!」

 少女のそのはっきりしない仕草で、我慢の限界へたやすく達したマインの拳が壁を叩く。少女は自分が殴られたように縮こまった。

「あたしはなぁ! お前みたいな、いちいちハッキリしない女が一番嫌いなんだよ!!」

「う、うう……堪忍、……堪忍や、お姉さん……ぶたんといて……ぶたんといて……」

「分かったよ。殴らねえから、さっさと言えって。……言えっつってんだろうが!!」

「ひっ――ひいいっ!! あ、あんな……う、うち、実は――」

 

 

 

「――なるほどな。長年世話になった隊長のオッサンが、ジャカルタの艦内でどうも危ない。そういう虫の知らせがあったと。んで、チビのくせに乳だけデカい栗毛の女が怪しいから、まずはとにかくそいつのところに行きたい。それでわざわざ連邦軍に変装したうえ、さらに女装してまでやってきた、と」

「……せ、せや……」

「そうか。……まったく、義理堅いこったな」

 マインが受けた説明をまとめたところ、デティ・コイヤー軍曹と名乗った連邦軍女性士官の正体は、ジオン残党軍の男性パイロットらしい。連邦軍装も女装も、艦内への潜入工作のための偽装だそうだ。

 ただ連邦軍装の方はともかく女装の方は、顔立ちも体格もすべてがあまりに自然すぎてまったく変装に見えない。それでも本人がここまで必死に言うのだから、やはり女装なのだろう。

 とりあえずそういうことにしておける度量の広さがマインにはあった。

「よし。とにかく分かったぜデティ。お前が言ってるのその女ってのは、ジオン残党のむさいおっさんに興味津々な変態マニアのエロ女なんだろ? そんな救えねえ奴、ジャカルタ広しといえど一人しかいねえ。案内してやるよ」

「え、ええん……?」

「おう。任しとけ」

 ――どうせ他に行くところもないしな。

 言葉の後半を飲み込みながら、マインは目的へ向かって身を翻した。

「こっちだ。来いよ」

「おおきに、……おおきに、姉さん!」

「いいってことよ。気にすんな」

 涙混じりに微笑むデティへさっぱり笑って手を振りながら、ところで今、マインが気にしていることが一つある。

 涙を拭きながら可憐な希望の笑顔を浮かべる、女装美少年コイヤー軍曹の顔面から、マインはそっと視線の高さを下げる。

「…………」

 連邦軍制服上衣の胸元でたゆんと揺れる、二つの膨らみがそこにある。

 上官をしてジャカルタ最大級とまで言わしめた、マインの巨乳に比べれば二周りは小さい。それでも一般的な尺度にすれば、男の掌に包んでもたやすく溢れるだろうその大きさは、見事な実りであるに違いなかった。

 こんな余計な主張をするものさえ胸にぶら下げていなければ、先刻の男二人に捕まることもなかったのでは、とも思えるほどだ。

 ――だが女装ってことは、これも作り物なんだよな。パットか?

「あ、姉さん? ――ひあうぅっ!?」

 だからマインはデティが通路の交差点で止まったとき、背後からその二つの膨らみを両手に大きく握りしめていた。

「おお、……いいじゃねえの」

 生っぽい。柔らかい。もちもちの弾力がぎっしり詰まったたっぷりの肉感が、人肌の温もりを添えながら食い込む指を跳ね返してくる。

 これは……実に、気持ち良い。このままずっと揉み続けていたい気分になってしまう。なかなか危険な代物だ。

 デティは制服の下にブラジャーのたぐいまで身につけているらしい。本格的だなと感心しながら、マインは手を休めることなく二つの膨らみをさらに揉みしだいていく。

 マインはつい先ほど、自らの巨乳から母乳を搾り出していた時の手つきで揉み搾る。本物の乳房なら乳首があるはずの位置を探ると、確かにそこには小指の先ほどの突起を捉えた。

 

 

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 マインはそこを指先の腹で擦りあげ、摘みあげるようにして指で左右とも責めたてる。耐えかねたように切なげな声を上げながらデティが左右に身をよじった。

「あッ――あ、ああ……っ、あああああ……っ! あ、ふぅ……ッ。あ、あかん……お姉さん、あかん……こ、こんなん……っ、うち、うち、もうあかん……! お、おかしゅう……おかしゅう、なってまう……っ、堪忍や……堪忍してぇな、……いやぁ。後生やから、やめてぇ……!」

「んー、……んん? おう、悪い悪い。でもな、これパットだろ? なんでお前が変な声出してんだよ――あ」

 言いながらマインは、自分の巨乳もデティの背中で大きく潰れていたことを思い出す。

 今はこんな見た目でも、彼は男――なるほど、こっちか。

「悪かったな。その偽乳がどういう風になってんのか、ちょっと気になっちまったもんでな。しかしそれ、ずいぶん本格的な質感と感触だな」

 さっと身を離したマインの前で、半ば膝から崩れながらデティは喘いだ。焦点の合わない瞳にいっぱいの涙を溜めて、怯えきったように説明する。

「……せっ、せ、せやろ……? あ、あんな。うちもな、変装用にな、……よそのサイドであちこちそこいらじゅう探して、やっとこの偽乳パッド見つけてきたんやねんで……?」

「へえ、そんなに探したのか。すげえ情熱だな」

 頬を真っ赤に紅潮させて少し涙目になりながら、それでも必死の早口でデティはまくし立てた。だがデティの胸の膨らみを貪り尽くしたマインは、素直に納得してただ頷くだけだ。

「しかし、最新の技術ってのはすげえな。それ、あたしの本物の乳と大して変わらねえぞ。それならちょっと揉まれたぐらいじゃ女装とバレる心配もないな」

 あたしの乳を背中から押しつけただけでここまで興奮するような童貞じみた反応をするようでは、その偽乳も普段はさぞ良からぬ別目的で使っていたのではないかともマインは思ったが、わざわざ口には出さないことにした。黙って認識を書き換える。

 デティ・コイヤーとかいうこのジオン兵は、相当重度の女装マニア(童貞)なのだな。

 世の中にはいろんな人間がいるのだ。そしてこちらに害がない限り、マニアと変態は放置しておくに限る。

 しかしデティが変態となれば、事は変態対変態である。こいつならあのリアンナとも、案外いい勝負が出来るのでは無かろうか。残念ながら、自分はそんな戦いには到底ついて行けそうにないが。

 それにしても。

「最近の女装道具ってのは、ずいぶん出来が良いんだなあ」

 どうでもいいことに感心しながら掌をにぎにぎと動かすマインは、きゅっと肩を縮めて胸元と股間を守ろうとするデティを連れて、リアンナの私室方向へと流れていった。

 




フェニックステイル第二章完結を記念して、ヒロイン人気投票を活動報告にて開催いたしました。ご参加ありがとうございました! 現在、記念画稿を準備中です。今しばらくお待ちくださいませ。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=155202&uid=57256


※イラスト:b10b10アットzoho.com様、はお様(http://www.pixiv.net/member.php?id=164461)


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