※この作品はR-18です。

フェニックステイル   作:KY_PT

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第三十一話 帰り来る者

《P-04》。

 それはルウム戦役で放棄された全長数キロメートル級の資源衛星を刳り貫き、新サイド4暗礁宙域に築かれた地球連邦軍の要塞基地である。

 だが要塞基地とはいえ、連邦宇宙軍最大の拠点であるルナツーは言うに及ばず、一年戦争末期における最大の戦場となった旧ソロモンや旧ア・バオア・クーに比べても、その規模は遙かに小さい。

 もっともP-04には、それら数十キロメートル級にも達する名だたる大要塞に対して、明らかに異彩を放つ特徴があった。衛星の岩肌から伸びた数本の支柱と、その各支柱の間を結ぶ円環軌条へ多数が連なって各個に回転し続ける、半径300メートルほどの円筒状構造物――農工業用プラント群の存在である。

 ルウム戦役で破壊された各コロニーのプラント群を修復整備して回収、資源衛星から延びる軌条に移設することで、要塞基地と一体化させつつ再稼働させているのだ。その巨大な生産規模は、通常型スペースコロニーのゆうに数基分にも匹敵する。軍民一体の拠点であった。

 とはいえ宇宙における要塞基地の要塞たる所以とは、何よりもまず、厚い岩盤によっていかなる砲火にも悠然と耐える堅固な防御力である。だが剥き出しになって広がるプラント群は当然ながら、その恩恵など受けられない。もしメガ粒子砲やミサイルの攻撃による砲火を受けてしまえば、要塞本体はまだしも、無防備なプラント群などひとたまりもないだろう。結合しても無益、通常であれば遠く離して配置されていてしかるべきとも思われる両者であったが、このP-04にあっては、一見すれば奇妙なその組み合わせが自然なものとなっているのだった。

 そしてプラント群に囲まれた要塞基地の厚い岩盤の最奥に、P-04の管制司令室は位置していた。

 張り巡らされた多数のモニターに映し出されているのは、暗礁宙域内の各地を睨む監視カメラの映像と、そして各種センサー類が捕捉した軍民のMSや作業ポッド、艦船を模式化した航路図だ。

 今その両者には、進入軌道に入った艦隊と船団がそれぞれ一つずつ捉えられている。そのいずれにも、すでにP-04を発した防空MS隊が接触していた。

 ひとつはこのP-04に連なる多数の農業プラントで生産した食料を積み出し、他サイドへと輸出してきた帰路の農協船団。

 そしてもうひとつが地球連邦宇宙軍新サイド4駐留艦隊所属――そうでありながら拠点を宙域外に移されていた、第223戦隊である。

「――久しいな、トラキア」

 顔面の半ばまでをも覆うような巨大な古傷で、右の眼窩と義眼を大きく露出させた将官が静かに笑う。

 筋骨隆々たる偉丈夫は、その凶相に懐かしげな表情を浮かべながら、第223戦隊の先陣を切る巡洋艦の望遠映像を見つめていた。

 一年戦争緒戦、地球連邦軍が大敗したルウム戦役。瀕死の重傷を負ってルナツーへ後退し、同地で就役したばかりのサラミス級巡洋艦を受領した日のことを、彼は昨日のように思い出す。

 大手術から奇跡的に復活したばかりの彼が、新型兵器MSを擁する圧倒的に優勢なジオン公国軍に対抗するために自ら提唱した、宇宙ゲリラ戦術。

 旧来の連邦軍部隊では成し得なかったその戦術を実現するため、彼はルウム難民志願兵を主体に兵を集め、にわか仕込みの戦闘団を編成した。未曽有の大損害に硬直しきっていた地球連邦軍の人事制度が狂乱する中で、彼が拾った艦長候補は新品少尉の若者だった。

 トラキア。あの艦こそが、すべての始まりだった。

「副司令。昔を懐かしまれるのは結構ですが」

 鋭い女の声が追想を断つ。

 ゆっくりと振り返ると、若いアフリカ系の女性佐官が長いブルネットを靡かせながら、鋭く挑むような瞳で彼を見ていた。

「トラキア艦長への聴取には、私も同席させていただきます」

「フム。久々の古巣に、おかしなことを吹き込んでくれるな……ということかね?」

 彼が笑うと、彼女は無視するように後を続けた。

「『アバリス』襲撃からエゥーゴ艦による接触、そして今回の大規模戦闘に至るまで、トラキアはこの一週間で劇的に進展した一連の事態において、常に第一線にありました。その報告内容は我が艦隊、ひいては地球連邦軍全体で共有すべき価値があるものと考えます。一部のみで独占されるべきものではありません」

「その通りだ、中佐。我々の肩には、あまりに多くの人命が懸かりすぎている。市民を守ること――8年前のような破滅が決して二度と起こることのないよう回避することが、我々のすべてだ」

 8年前。その言葉を発する前後だけ、わずかに言葉と、二人の温度が変わった。だが異相の将官はすぐに元通りの、穏やかな調子で言葉を継いでいく。

「そのためには何事も、決して私物化して抱え込んではならない――ウォレン准将にもお伝え願いたい。我らは危機にある。同じく地球連邦に奉仕し宇宙市民の安寧を守護する者として、新サイド4、そして地球圏のため、ともに力を合わせて参りましょうと」

「言われるまでもなく。――願わくば副司令ご自身も、そう仰られた通りに努めていただけますよう」

 穏やかなまま彼が笑うと、中佐は一礼して踵を返した。

 

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 人は変わる。立場も変わる。

 かつて腹心の部下であった女性士官の後ろ姿を背中で送りながら、ソギルは再び望遠映像のトラキアを見つめた。

 

 

 

「P-04ってのは、プラント農業とジャンク漁業の町なんだよ――まあ私も、実際に行くのは初めてだけど」

 サラミス改級巡洋艦《トラキア》、MS格納庫――ルウム農協船団護衛MS隊との接触から、一時間前。

 この短期間に数度の実戦を潜り抜け、今また無事に帰還したばかりの艦載機RGM-79R《ジムⅡ》への整備と補給に、整備兵たちが飛び交いながら奔走している。その壁際で、二人の少女兵が飲料を片手に話し込んでいた。

「ルウム戦役の時、ジオンは大量破壊兵器の無差別投入で徹底的にコロニーを破壊したけど、流石に細かいプラント全部までは潰しきれなかった。まあ核にも艦砲にも毒ガスにも弾数ってもんがあるし、連邦軍とも戦わなきゃいけなかったからね。だからコロニーの住民が全滅した後も、プラントの方には多少の生き残りがいたんだ。戦闘後に両軍が撤退してからの数か月後を生き残っていられた人たちを、同郷のルウム難民志願兵を中心に編成されていた、当時のトラキア隊がルナツーから来て助けて回ったらしい」

「ぜんぜん知らなかった……そういうところだったんだ」

「うん。まあこればっかりは、アイネが不勉強ってわけじゃない。私も今の部隊に来るまで、ほとんど知らなかった。このへんの情報、なぜだかほとんど外には出てないみたいだし。――もっと早く、知れていたらなあ」

 シエルが言葉を切ったその一瞬に、アイネは親友の横顔に過ぎる記憶の暗い影を見た。一息の間を見守られた少女はどこか遠くへ視線を投げて、何かを洗い流そうとするように続けた。

「――とにかく、戦中に始まったトラキア隊とプラント難民の協力関係は続いて、戦後には旧ルウム暗礁宙域に拠点を築いていった。暗礁宙域に潜伏したジオン残党と戦いながら、食糧難に陥った戦後地球圏への輸出を見越して、再生プラントでの農業を推進したの。そこへ83年の末に起こったのが、北米大陸へのコロニー落下事故。あのとき食料相場は狂乱したけど、ちょうど輸出態勢が立ち上がるのを待ってた大量の在庫で介入して、プラント難民組織――『ルウム農協』は財を成した。連邦政府の予算無しでも復興事業は軌道に乗るようになって、P-04が築かれた。そしてジオン残党どもが巣食う新サイド4に築かれた、連邦軍の橋頭堡になったってわけ」

「なるほど~」

 眼鏡の小柄な少女パイロット、シエル・カディス伍長が淡々とMSパイロット候補生時代に同室だった同期生へ向かって語りかけると、相手は気抜けしたような調子で楽し気に頷く。

 シエルはトラキアではなく、第223戦隊の僚艦であるサラミス改級駆逐艦《アルマーズ》MS隊の所属である。だがシエル機は先の戦闘で頭部と脚部を失った満身創痍の機体で、戦域離脱時にかろうじてトラキアへ着艦したまま、今も艦外に繋留されている。本格的な修理に着手するのは、P-04への入港以降となるだろう。P-04への入港を控えて、パイロットのシエルもそのままトラキアに残されていた。

 そしてシエルの傍らには、そのかつての同期生――アイネ・クライネ伍長が、今は底抜けに幸せそうな――腑抜けたような、とも言えそうなほどに緩んだ表情で、彼女の話に聞き入っている。

 二人がMSパイロット訓練課程を修了してそれぞれの任地へと別れてから、まださほどの日数は経っていない。二人がその後のわずかな期間に経験した激しい実戦と、シエルが聞かされたアイネ戦死の「誤報」が心を揺らしても、互いの無事を認め合った後は、あの戦場で見せた互いの動きだけで、すべてを語るに事足りた。だから二人の話題は何事もなかったように自然と、世間話の方向へ流れていった。

 現在のトラキアMS格納庫では、アイネとマコト・ハヤカワ准尉のジムⅡ2機、そしてサブリナ・ミケリヤ少尉のジムⅡキャノンの合わせて3機のMSに対する整備作業が進行している。いずれもシエル機と異なり、機体の損傷は小さい。艦外ではゲンナー・ウェズリー少尉のジム・ゲシュレイに率いられて、ロブ・サントス伍長とシュン・カーペンター伍長のジムⅡが対空警戒に当たっていた。

 アイネも自機の整備が完了し次第、次の指揮官となるサブリナとともに機体ごと出て、対空警戒を交代するになっている。シエルは引き続き待機だ。

「そしてプラント農業とその輸出態勢が軌道に乗った頃には工業プラント群も整備されて、宙域のデブリやジャンクを回収して再利用する基盤も整っていた。連邦軍の第一線を退役したボールを大量に取得して、今は予備役登録を条件に業者へ積極的に貸し出したりする振興策をやってるみたい。何せここの暗礁宙域は地球圏最大だったうえ、長年残党軍の拠点にされてたから、今でも高額で捌けるジャンクがデブリになって、手つかずのまま大量に漂流してる。誰が呼んだかジャンク漁業――そのジャンク漁業に従事する民間船団の護衛は、今でもここの連邦軍の任務のひとつらしい」

「ジャンク漁業の護衛っ……!」

 シエルの言葉に、にわかにアイネの瞳が輝きを増す。姿勢が前のめりになり、巨大な胸元がシエルの眼前へ迫る。呆れたような半笑いを浮かべながら、シエルは親友の顔を見上げた。

「何。アイネ、そんな仕事やりたいの?」

「うんっ!」

 揶揄するような調子の問いにも、アイネは満面の笑みで即座に頷いてのける。

 ジャンク回収船に張り付いていつ来るかも分からない敵をひたすら待ち受ける受け身の任務など、シエルは積極的にやりたいとは思わない。むしろいかに危険であろうと、果敢に敵陣へ斬り込む威力偵察のような攻めの任務の方が好ましいと思っている。

「白兵大好き突撃バカのアイネがそれ言う……? 死ぬほど退屈でしょうよ。そんな待ちの仕事、私なら絶対イヤだけどな」

「やっとMSのパイロットになれたんだもん。あの凶悪なジオンの残党どもから、復興のために働く人たちの安全を最前線で守るんだ。これこそ地球連邦宇宙軍の、最高の存在意義だよ!」

「――そう」

 屈託のない笑みからの、まっすぐに理想を目指して言い切ってのける言動。互いにあれほどの激戦を経験してきたというのに、訓練隊から巣立ったあの日から、アイネは何も変わっていない。彼女は理想を捨てていない。

 同室の親友が見せるこの横顔が、シエルは決して嫌いではなかった。

「クライネ伍長!」

「はいっ!」

 そんな二人へ向かって、整備中だったアイネの乗機、ジムⅡ25のコクピットハッチから声が掛けられる。幼くあどけない女児じみた声色のようでありながら、同時に凛とした気迫を備えたその呼びかけに、アイネが思わず背筋を伸ばして向かい合う。

「25とミケリヤ少尉機の整備、間もなく完了! コクピットに入って最終点検。良ければ庫内のエアを抜いて、そのまま対空監視に出てもらうけど。準備はいい?」

「万全です!」

 女性として小柄なシエルと比べてもなお二回りは小さく見える、いっそ童女のような整備兵が、整備作業の汗を帯びたボブカットの金髪を揺らしながらアイネを呼んでいた。

「よしっ。じゃあシエル、行ってくる!」

「おう、行ってこい」

 ノーマルスーツの拳と拳をカツンと合わせると、アイネは格納庫の床を蹴り、自機の機付長が待つコクピット目掛けて跳んだ。

 途中でノーマルスーツのスラスターを噴かすこともなく、跳躍のみで狙い過たず届いたコクピットハッチの縁を掴んで制動しながら、アイネはコクピット内を覗き込んでいるマリエル・エイムズ軍曹の真横で身体を止めた。

 思ったより距離が近い。

「…………」

 無言のまま、妙に心拍数が上がってしまう。

 

 

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 会議室での初顔合わせ以来、アイネはマリエルに対してなぜか緊張感を持つようになってしまっていた。マリエルが自他ともに厳格な人物なのは動作と態度の端々からも感じられるのだが、どうもアイネに対してはそれ以外の「何か」があるようにも感じられるのだ。なんとなく、これは女社会における負の側面の片鱗めいた気配なのではないか、とすら思ってしまう。

 まだろくに話してもいないというのにこれというのは、自分たちは何か、よほど絶望的に相性が悪いのだろうか……?

 自機の整備という命運を預ける存在から人間的に嫌われてしまうなど、MSパイロットにとっては完全な悪夢以外の何者でもない。

 とはいえ比較対象として、現在この場に不在の整備班長ウェンディ・アーデル曹長の想像を遙かに上回る奔放さを思い出してしまうと、自機の機付長としてどちらが良い、と言えるものでもなくなってくるのだが。

 だが同時に、こうして間近で見るマリエルの横顔はまさしく人形のように整っていて、こんなに可愛い女の子は見たことがない、とすら思ってしまう。

 ――ハヤカワ准尉やシエルみたいな凛とした女性も素敵だけど、エイムズ軍曹みたいな美少女も、最高だなあ。

 エイムズ軍曹を隠し撮りした高解像度の大判写真を額縁に入れて飾りたい。というか無骨な整備兵用ノーマルスーツなんかじゃなくて、フリルのたくさん付いた可愛いドレスを着せてみたい。いや。そこまでやるならもう、その状態でさらに手足を縛ってベッドの白いシーツの上に転がし、涙目でキッとこちらを睨み返してくるところを――

「――クライネ伍長?」

「はいっ!?」

 妙な緊張を伴う沈黙の中、危うくおかしな方向へ跳びかけたアイネの思考を、マリエルの言葉が矯正した。

「最新の戦闘データ、見せてもらった。ずいぶん突っ込んだ戦い方が好きみたいね」

「は、はい」

「カーペンター伍長の機体をそのまま使って、ルスランのザクⅡF3にエゥーゴのジム改もどきとビームサーベルでやり合った。それで今度は乱戦の中、あの大ジオン仏道のゲルググ相手にも斬り込んでみせた。無茶をするのね――大した度胸だこと」

「……はい」

 マリエルの意図が読めず、アイネの返答は萎む。関節部を酷使する格闘戦という機体への負荷を省みない無茶な戦い方をした、として叱責されるのだろうか。不意にマリエルが金髪を揺らし、アイネの瞳をじっと見つめた。

「――それがあなたのやり方だというなら、こちらも全力で整備するまでのこと。クライネ伍長。だから今後、整備への変な遠慮で自分に枷を填めて、言い訳するのは許さない。全力で、やりなさい」

「は、はいっ!」

 結局アイネは徹頭徹尾はいとしか答えられないまま、マリエルはそこで会話を打ち切った。アイネはリニアシートへ飛び込み、次々と機能点検を掛けていく。全項目異常なし。マリエルはそれを無感情に見届けると、コクピットから跳び去った。

「な、なんだろ。よく分かんない……よく分かんないけど……可愛くて、怖いひとだなぁ……」

『アイネ、もう良いの? 良いんなら、さっさと行くよー』

「だ、大丈夫です。今行きます、ミケリヤ少尉!」

 慌ててコクピットハッチを閉めながら全天周モニターを完全に起動させると、すでにサブリナのジムⅡキャノンはBR-S85ビームライフルを手に昇降機へ向かうところだった。マリエル、シエルもエアロック外へ退避している。

「ま、いいか……。考えていたって仕方ない。私は私の、出来ることをやっていくんだ」

 艦外ではあの戦闘後からそのまま、ロブ・サントス伍長やシュン・カーペンター伍長らが警戒を継続している。早く休みたいであろう戦友たちと早く交代してやろうと、アイネも昇降機へと自機の歩を進めさせた。

 しかし、とアイネは再び別のことを思う。トラキアから最大の危機はすでに去ったとはいえ――

「ハヤカワ准尉とアーデル曹長、どこにいるんだろ。……トラキアMS隊トップの二人が揃って見当たらないなんて、いったい何をしてるんだろう……?」

 

 

 

「ん、……っ……」

 長い銀髪を下ろしたあどけない顔立ちの美少女が、薄闇の空間で目を覚ました。

 彼女の記憶に残っている最後の光景は、首のないジムⅡから向けられたビームライフルの丸い銃口だった。装甲を貫き、一瞬でコクピットとパイロットスーツを焼き尽くした、灼熱の閃光。それが彼女が最後に見たものだった。

 苦痛を感じる間もなく、自身の肉体は蒸発した――彼女がこれまで多くの連邦兵をそうしてきたように、彼女自身も細胞の一片までを原子レベルで分解され、再び宇宙と一体化する『完全成仏』を遂げた。そのはずだった。

 だが今、彼女の目の前に広がっているのは、明らかに極楽でも地獄でもない。宇宙艦艇の、窓もない狭い倉庫の一室だった。

 その目に映るのは一糸まとわぬ、透き通るように白くみずみずしい自身の肌。相変わらず下向きの視界を遮るほどに大きな乳房はなぜか熱を孕んで、桜色の頂は堅く尖っている。

 その素肌には火傷はおろか、かすり傷の一つすらも残っていない。そして下着のひとつも身につけていない、完全な裸身であった。

「…………!?」

 自身の状況を確かめようと身体を動かしかけて、彼女はまったく果たせずにその場で揺れた。彼女の両手両足は、いっそ過剰と思えるほど厳重に拘束されていた。

「おー。大ジオン仏道のカワイコちゃん、お目覚めでしゅか~?」

「!?」

 いっそ軽迫な調子の女の声が耳元で響いたと思った瞬間、彼女の乳房は左右もろとも、背後から伸びた女の手に強く握り締められていた。女の掌などではとうてい包みきれないたっぷりとした肉塊が変形し、手指に絞られた充血した乳肉が逃げ場を求めて熱く蠢く。

「あ、あああーーーッッッ!!」

 まだ敏感な頂には触れられてすらいないというのに、それだけで少女はおとがいを反らせて倉庫に絶叫を響かせた。

「んん~、いいおっぱいだぁ。アイネちゃんのよりはちょっと小さいけど、白くてキレーで感度も最高。やっぱり犯るのは『墜としたて』に限るよぉ。たまんないねぇ~~~!」

「なっ、……なにを、言ってっ……!」

 少女の乳房をいいように捏ね回してくる背後の女は、赤毛をポニーテールにまとめた看護師だった。前髪が目元を隠し、口元には邪悪な笑みが浮かんでいる。少女を凌辱する獄卒のごとき女に乳房を弄ばれながら、かつて一度も感じたことのない濃厚な性感の快楽の中で、彼女は少しずつ現実を認識していく。

 自分はあの戦場で、完全成仏を果たせなかった。

 なぜ?

 あそこから、ビームが外れたのか? コクピットハッチを焼いて飛び込んだビームが彼女の肉体をギリギリで外し、気絶だけさせて捕虜にしたのか?

 あり得ない。

 自分は確かに、粉々に砕けるヘルメットを、燃え上がる間もなく蒸発して消し飛ぶパイロットスーツを感じていた。ビームの直撃は確実だったのだ。

 となれば、結論はひとつしかない。

 何か人智を越えた、得体の知れない邪悪な力が働いたのだ。それが自分の完全成仏を妨げ、このような辱めを受けさせるに至らしめた。

 では、その力とは、何か。

 彼女にはひとつ、覚えがあった。あの戦場で感じた、強烈な違和感。決してこの世に在ってはならぬと強く感じさせた、まったく異質な存在の気配。彼女が放った必殺の狙撃を易々と掻い潜り、反撃で痛打を浴びせてきた、あのジムⅡ。

 時代遅れのビームスプレーガンを構えて彼女の前に立ちふさがったジムⅡを操る連邦兵の気配は、およそ常人のものではありえなかった。

「おやおやウェンディ、もうお楽しみか。ふふ。それにしても、しかし――なかなかいい眺めじゃないか」

「!!」

 背後で少女の乳を揉み続ける女とは別の女が、薄闇の正面からふと現れていた。

 憎き地球連邦軍の制服に身を包み、囚われの少女を嘲るような表情を浮かべた、東アジア系の美女だ。初めて見る顔だったが、少女はこの美女の正体を瞬時に理解することが出来ていた。

 

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「おのれ、仏敵ッ……この妖術、やはりお前の仕業だったか。……妖怪変化め……ッ!!」

 背後から爆乳を弄ばれつつ、歯を食いしばってきつく睨みつける銀髪の美少女の視線を真っ向から受け止めながら、マコト・ハヤカワ准尉は邪悪な笑みを浮かべてみせた。

 

 




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イラスト:はお様(http://www.pixiv.net/member.php?id=164461)、b10b10アットzoho.com様
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