※この作品はR-18です。

フェニックステイル   作:KY_PT

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今回は25,000文字と通常より文字数がやや多くなっております。



第三十六話 漁火に踊る

「ん……はぷっ。んちゅっ、……はぷうぅ……っ」

 P-04から離れた新サイド4暗礁宙域の深部を、1隻の民間貨物船が行く。

 派手なペイントで『ジャンクハンター・ゴアズ』と表記された船体には、複数の空コンテナと3機のRB-79『ボール』、そして1機のMS-09R2『リック・ドムⅡ』が係留されていた。

 そしてその船に乗り組んでいるのは、ジャンク回収業者――この新サイド4宙域では『境界漁民』とも呼ばれるジャンク屋たちである 。

 新サイド4に前進拠点P-04を構える地球連邦軍及びルウム農協と、同宙域に潜伏しながら戦力を増強し続けてついには広大な絶対防空圏『聖域』を構えるまでに至った、強力なジオン残党軍ルスラン・フリート。

 その両者がかつて激しく激突し、今は静かに対峙しつつ拮抗している両勢力圏の『境界』は同時に、8年前のルウム戦役で崩壊した数十のコロニーとそこから生じたデブリが手つかずで漂う、大量の有価値ジャンクの宝庫とも言える。

 境界漁民とは、そこで一獲千金を夢見て操業するジャンク屋たちの別称だった。

 新サイド4暗礁宙域はまさに地球連邦軍とジオン残党軍の最前線であり、他のサイドで活動するジャンク屋以上に危険な環境へ身を置くことにはなる。だがそこでは、かつて行われた破壊が撒き散らしたジャンクの規模も桁違いなのだ。わずか一日で20億人の市民を殺してのけた地球圏史上最大の虐殺劇、ルウム戦役の残骸は、血塗られた富の芳香とともに今なおL1軌道を漂い続けている。

 そしてジャンク回収船の船橋では一人の若く屈強な男が、まだ幼さの残る顔立ちの少女を抱いてその唇を貪りながら、旧式パイロットスーツの上から乳房を自在に揉みしだいていた。

 この船橋内に、その少女以外の女は居ない。だが船橋に居合わせた男たちは誰一人として、その痴態を直視しようとはしていなかった。

「んちゅ……んぷっ、はあぁ、……っ……」

 長い愛撫の末、少女の唇の奥へ送り込んでいた舌をようやく引き抜き、絡み合う唾液をぬめらせながら男が笑った。

 

 

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「ありがとよ、パティ。お前がいいタイミングで情報を持ってコッチ側に来てくれたおかげで、『宝船』の目星がついた。アレさえ手に入れられれば、俺らはもっとビッグになれるぜ」

 獰猛な目つきの奥に野心の輝きを光らせながら、男は獣じみた笑みを浮かべてのける。そんな男の腕の中で、少女はいっそう媚びながらしなだれかかった。

「あはっ。それじゃさパサベイ、あたしも自分のMS欲しい。買ってよ――いいでしょ?」

 境界漁民の中でも、個人的にMSを所有している者は多くはない。確かに一年戦争中には地球圏人類の死命を制する希少な決戦兵器として扱われたMSも、戦後には一転してコモディティ化が進みはした。

 それでもなお、MSは市井の一般人においそれと手が出せるような代物でもない。羽振りがいいとされる境界漁民にしたところで今なお大半が、P-04の地球連邦軍が予備役登録を条件に貸し出すボールを作業機としている。

 だがこの男は最近、自分の私有機としてリック・ドムⅡを手に入れていた。時には人を出し抜きながらいくつかの危ない橋を渡って大きく稼ぎ、自ら回収した程度の良い機体の整備に費やしたのだ。

 個人の財産として、自分自身のMSを所有する――それはジャンク屋たちにとって、一つの理想の地位だった。

「そいつは宝船の中身次第だが、――今もギッシリ詰まったままなら、いいぜ。ザクの1機ぐらいはくれてやる」

「やったぁ! パサベイ、愛してるっ」

 転がるような嬌声を上げて、少女はまたも男へ抱き着く。張りのある尻肉をスーツ越しに撫で上げながら、男は耳元で囁いた。

「悪い女だぜ、パティ……あいつら、お前のお仲間だったんだろ? あいつらもやっと見つけた大事なネタが、商売敵のところに持ち込まれてるとは思わねえだろうな」

「女だけでつるんでチマチマやろうとしてた、しょっぱい仲良しクラブのことなんて知らなーい。あたしはパサベイみたいなデキる男の側について、早く『上がり』たいのっ」

 笑う少女を抱きしめながら、『ジャンクハンター・ゴアズ』社長兼船長――パサベイ・ゴアは彼女の背中で邪悪に笑う。腕の中の少女――パティ・リンデンを釣り上げた彼女の古巣、十代の少女だけで構成された境界漁民の一チームのことを思い出していた。

 今回情報ごと飛び込んできたところをモノにしたパティも悪くはないが、あの負けん気の強そうなリーダー格のフィオや、豊満で乳もでかく抱き心地の良さそうなまとめ役のマルミンなど、あのチームは他にも一度は抱きたくなる美少女たちを揃えていた。

 今回の『漁』でさらなる金と力を手に入れたら、彼女たちに手を出してみるのも乙なものだ。確か連中は借金を抱えていたはずだ。それならひとつ債権でも買い取って、追い込みがてら迫ってみるとするか――

「しゃ、社長」

「あァ?」

 パティの程良い大きさの乳房を愛撫しながら、さらなる欲望の算段を弾いていた最中に割り込まれて、パサベイは話しかけてきた通信士を不機嫌そうに睨む。通信士はその眼光に竦みながらも、なんとか言葉を継いで報告した。

「つ、通信が入っています。接近する『騎士団』機からです」

「――騎士団から? ここでか。チッ……しゃあねぇ、出せ」

「あんっ」

 パサベイはその目に殺気を宿すと荒く吐き捨て、抱いていたパティを乱暴に船橋の脇へと押しやる。無重力に押し出された少女は切なげに喘いでみせつつ、乱れたスーツの前を素早く直しながら船橋正面のモニタを見た。

 すぐに通信が接続され、モニタに金髪の美女が映し出された。凛々しく涼やかな青い目元に、冷たい雰囲気を讃えている。新型の連邦式パイロットスーツの胸元を押し上げる膨らみは、男が抱いていた少女のそれよりゆうに二回りは豊かだ。それでいて引き締まった身体に隙は無い。

「境界巡察お疲れ様です『騎士様』!」

『お勤めご苦労。息災そうだな』

 いつか床へ犬みてぇに這いつくばらせながらバックでガン突きしてヒィヒィ言わせてやりてえ、と心中だけで金髪巨乳美女に舌を嘗めずりながら、パサベイは隙のない営業スマイルで遜りながら応えてのけた。

「へへぇ、これも騎士団様のおかげさまです」

 短いやり取りの間に、船橋の窓の向こう側でスラスターの噴進炎が躍って輝く。その『騎士様』が駆ってきたMSが姿を現していた。

 YMS-15『ギャン』。2機編隊だ。

 かつて一年戦争末期、ジオン公国軍最後の次期主力量産機コンペに参加した、格闘重視型のMS――オリジナルの設計にブッホ・エアロダイナミクス社が独自の改修も加えた、その戦後レプリカ生産機だった。

 ジオン系MSとしては異質の直線的なシルエット、そして現代兵器というより中世の板金甲冑を思わせる独特の意匠。さらには右手に握った大型実体格闘兵器のヒートランス、左手に構えた円形の大盾、そして腰へ佩いた大型ビームサーベル基部といった武装の数々が、まさに『騎士』の乗機たるに相応しい威容を示している。

 騎士甲冑の兜そのものの頭部で十字型のレール上をモノアイが動き、船橋を睨んだ。

『この境界でお前が女連れとは珍しいな。お前は聞いていないのか。最近この辺りに『女を狙う亡霊』が出る、とかいう話を』

「ああ……そういやなんか、そんな迷信もどきを言い出す奴らもいるらしいッすね」

 女騎士はちらりと目線を動かし、ギャンのコクピット側でも通信小窓の端に映っているのであろう少女の姿を一瞥した。パティがばつの悪そうな愛想笑いを返す。

『ふん……。我々ロナ騎士団も、お前たち下々の者どもを守りはするが。あまり余計な手間は掛けさせるな』

「へへえ。騎士様の仰せのままに」

 今まで社員や愛人たちに見せつけていた威勢のほどが嘘のように、パサベイ・ゴア社長は傲慢な女騎士へと慇懃に頭を下げた。

 ロナ騎士団――それは地球圏有数の巨大複合企業集団、ブッホ・コンツェルンが抱える組織の一つだった。

 ブッホ・コンツェルンは宇宙でのジャンクやデブリの回収を扱う、ブッホ・ジャンク社を祖業としている。殊に一年戦争後は戦後復興事業の中でさらに隆盛を極めており、創業者一族は地球の伝統ある旧家ロナ家とも結びついていた。

 この新サイド4暗礁宙域のように、ジオン残党軍や宇宙海賊など怪しげな武装勢力が跋扈し、地球連邦軍による対処も追いつかない危険宙域がジャンク屋たちの稼ぎ場だ。そんな場所で活動する自社及び契約企業の作業要員の安全を守るため、ブッホが地球連邦軍の認可を受けて設けた警備会社――それがブッホ・セキュリティ社、通称『ロナ騎士団』だった。

 ロナ騎士団の勢力は、連邦軍やルウム農協などと比べればごく小さなものに過ぎない。だがここで重要なのは、ロナ騎士団はジオン残党軍ルスラン・フリートと完全に敵対しているわけではない、ということだ。

 例えば境界漁民たちが『聖域』近くで操業していて、ルスラン・フリートに拿捕されるような事態が生じたとする。このとき連邦軍や農協が助けを求められたところで、致命的な戦闘に挑むか、あるいは完全に無視するかの二択しかない。そして境界漁民たちにとって、前線でのプレゼンスにおいて連邦軍や農協がルスラン・フリートに完全に押し負けつつあることは、もはや周知の事実であった。救援など期待できない。

 しかしルスラン・フリートと完全に敵対しているわけではないロナ騎士団ならば、そこには交渉の余地が出てくるのだった。

 そのロナ騎士団の構成員、特にMSパイロットたちは最高の家庭環境で育ち、最高の教育を受けてきたエリート揃いなのだという。確かに、中には融通の利かない地球連邦軍や、ジャンク屋たちなどただの使い走りだとしか思っていない節さえ感じさせるルウム農協などより、よほど親身になってくれる騎士もいなくはない。

 だがロナ騎士団の大半はこの女騎士のように、とにかくお高く止まった面々だ。油断ならない――少なくとも、パサベイはそう思っていた。

 なにせブッホ・ジャンクは境界漁民たちの後方拠点と、彼らが回収してきたジャンクの販路までもを握っているのだ。

 ブッホはルウム農協や地球連邦軍と交渉して、P-04に港湾拠点と工場施設を設けた。そこで境界漁民たちが回収してきたジャンクを評価・査定して買い取り、必要な処置を加えて他サイドや月へ輸出。さらにその船舶や作業ポッドといった表道具の整備から、各種生活物資の販売までを取り扱うことで、総合的な収益を上げているのだった。

 境界漁民たちは前進拠点とジャンクの販路、そして境界での安全保障と引き換えに、ロナ騎士団の強い影響下に置かれている。下請け業者と言っても過言ではなかった。

 現地派と中央派の2派閥が厳然と存在する地球連邦軍、ルウム農協、ロナ騎士団、そしてルスラン・フリート。新サイド4暗礁宙域というジャンク屋にとっての巨大な『宝島』で境界漁民たちが操業を続けていくには、これら強大な武力を握る大組織との関係をバランスを取りながら維持していく必要があるのだった。

『――本当に、無理だけはしないでくれ』

 そのときモニタ上で、金髪の女騎士の隣に通信小窓が増えた。端整な銀髪の美青年が案ずるような表情で顔を出している。もう一機のギャンに乗るロナ家の騎士だった。

『もちろん我々も油断なく警戒するし、助けを求められれば全力で駆け付けもする。だが、さすがに我々だけで境界宙域全体はカバーできない。ましてや相手がルスラン・フリートでもない第三勢力なのだとすれば、交渉が通じる相手かどうかさえ分からなくなる。どうか慎重に当たってくれ』

「分かってますよ。命あっての物種ですからね――」

 そのときパサベイの横目に、ほう、と熱い息を吐きながら女の目線で騎士を見上げるパティの横顔が入ってきた。それは自分に向けるものとは異なる、熱い憧憬の視線だった。

 ギリッ、と奥歯を軋ませて静かに苛立ちを押し殺しながら、パサベイは愛想良く笑ってみせる。

『そうしてくれると助かる。君たちを守ることが、我々ロナ騎士団の存在意義だからね』

「ありがてぇこってす」

『もういいだろう。行くぞ、ヴィリ』

『分かっていますよ、キーラ。――それでは、無事の航海を』

 女騎士が彼の名を呼び、男騎士が屈託なく微笑むと、ロナ騎士団との通信は切れた。2機のギャンはそれきり機首を巡らし、背部メインスラスターを噴かせてジャンク回収船から離れていった。

「…………」

 ロナ騎士団の2機が回収船から十分に遠ざかったのを確認してから、男は船橋の前列へ向かって言葉を投げた。

「おい。進路を変えるぞ。前方15キロ、あのミラーの残骸の下に回れ」

「はっ……? し、しかし、社長。その経路では、騎士団機との通信が維持できなく――ブッ!!」

「馬鹿かテメェは!?」

 途中まで言おうとしたところで、彼はパサベイに思い切り後頭部を蹴飛ばされてコンソールに潰れた。

「話聞いてなかったのかこのボケ、あいつらもお宝の噂を聞きつけてんだよ! このままブッホの騎士どもに一部始終を見られてたら、せっかくお宝を収めても奴らにいいように搾られちまうだろうが。奴らはこれから帰り道だ、いったん隠れてやり過ごすんだよ!!」

 瞬間的にキレた社長はそのまま大声を張り上げながら、パサベイは部下の頭を激しく何度も蹴りつけた。コンソール上に頭を踏みにじりながら威圧する。

「だいたいテメェの見張りが適当だから、今もブッホのクソ騎士どもにコソッと近づかれたんだろうが! 先に見つけてりゃあうまく撒けてたかもしれねぇのによ。境界じゃあ目ン玉皿にして見とけって言ったろ? 人並みの仕事も出来ねぇ雑魚が人間様みてぇな口利いてんじゃねぇよ!! 給料丸ごと引くかんなテメェ!?」

「も、申し訳ありません社長、申し訳ありませブギュぅッ」

「やばっ、今出た声めっちゃキモい!」

「ほんとトロクセぇ奴だなァ。テメェみてぇな奴は他じゃ通用しねえよ! それでも使ってくださる社長に感謝するんだな」

 社長に頭を足蹴にされて平謝りしながら奇声を発した社員を指さし、少女は楽しげに嘲笑いながら男の豪腕へ胸を押し当てるように抱き着いた。

 社長の尻馬に乗って彼を嘲る別の社員――彼にも周辺警戒の責任があったはずなのだが、流れに乗ることでうまく責任転嫁を誤魔化している――に持ち上げられ、機嫌良さそうに耳元で笑いながら媚びるパティからの嬌声を浴びて、ようやく社長は機嫌を直した。

「チッ……。次もっぺんやらかしたら、マジで船外に蹴り出して殺すかんなテメー」

「は、はひっ。申し訳ございません、申し訳ございません……」

 ミノフスキー粒子の干渉を断続的に受け続けているレーダー画面と窓越しの宇宙、そして船体各所の監視カメラで再度全周を警戒してみれば、すでに周囲には他の境界漁民も、地球連邦軍やルウム農協の哨戒部隊の姿も見えなくなっていた。

 パティがもたらした目標の座標まではあと少し――ここから先、真に警戒すべきは残党軍哨戒部隊の動向だ。

「連中の定時哨戒がいつも通りなら、うまく誤魔化せればあと2時間で宝船までたどり着ける」

 ジャンク回収船はコロニー残骸の陰で減速していく。

 ルスラン・フリートが暗礁宙域に築いた見えざる堅城、絶対防空圏『聖域』を指呼の間に捉えながら、ジャンク回収船は作業準備を装って去りゆくロナ騎士団のMS編隊を見送りつつ、コロニーのミラー残骸の影で静かに目標を目指す時を待った。

 

 

 

「おお……すごい。なんか、本当に『ディナー』っぽい……」

 十人ほどの人間が入ってなお余裕のありそうなミケリヤ邸の食堂には、すでに皿と食器が整然と並べられ、隣接する台所から食欲をそそる匂いが届いていた。示された時間に三三五五と集まってきたトラキアMS隊の来客たちと同様、アイネ・クライネ伍長も食卓を遠巻きにしながら手持無沙汰に立ち尽くしている。

 プラント到着後初めての夕食は、サブリナ・ミケリヤ少尉とマコト・ハヤカワ准尉の2家族が主催して、トラキアMS隊から招いた来客と顔を合わせる会食だった。

 そしてアイネは結局この時間まで、ミケリヤ邸で割り当てられた自室へ入る時間もないまま、上官たるトラキアMS隊長マコトから預かったその娘ミコトに延々と振り回され続けていた。

 ミコトはその母親似の可愛らしい顔立ちに浮かべる表情こそあまり大きく動かさないのだが、動作と感情の振り幅は非常に活発だった。プラント最下層部の一区画を使って箱庭のように設けられた、ミケリヤ邸・ハヤカワ邸の各地をミコトがじっくり見せて回ってくれたおかげで、アイネはこれから当分の間寝起きすることになるのであろう一帯についての理解を深めることが出来た。

 そしてもう一点、アイネが骨身に染みて理解したことがあった――ミコトはアイネの乳房に、並々ならぬ強い関心を抱いている。

 何しろ手で、顔で、頭で、胸で、とにかくミコトは全身全力でアイネの乳房を触ってくるのだ。アイネに隙あらばキャミソールを剥き下ろして裸の乳房を転び出させようと企む、無邪気な幼女の邪悪な意志の存在を強く感じさせられていた。

 夕食前にはミコトが帰宅してようやく解放されたとはいえ、これからこの調子がずっと続けば身が持たないのではないかと思う。いや、ミコトはとても可愛いから、そういう意味では癒されるのだが……。

 そんなにおっぱいが好きなら自分の母親にも同居のサブリナにもじゅうぶん立派なものがあるでしょうが、ともアイネは思ったが、途中でサブリナが近くを通りかかったときもそちらには無関心だったあたり、ミコトが狙う獲物はどうしてもアイネでなければいけない理由があるらしかった。

 やはり決め手はこの大きさなのだろうか。

「はあ……。まったく、子どものおもちゃじゃないっていうのに……。……はっ!?」

 いくらなんでも大きく育ちすぎたとしか思えない自身の胸の膨らみを両手で支えながらため息を吐くと、絶対零度の視線で見上げるマリエル・エイムズ軍曹、赤面しながら顔を逸らすシュン・カーペンター伍長、だらしなく緩んだ顔で凝視してくるイベル・ガルノフ軍曹らに気づいて、アイネは慌てて胸を隠すように両手でかばった。

 だが、その場に居合わせた男たちのうち、ロブ・サントス伍長だけがなぜか疲れ切った顔のまま天井を見上げており、アイネの無防備な動作にも無反応だった。変な目で見られなくて良かったと思いつつ、体調でも悪いのだろうか、とアイネは同時にロブを案じた。

 いや――この食堂には実はもう一人、男がいた。

「うわーっ、すっげー! ねーちゃんのオッパイ、ほんとにすんげーデケーなっ!!」

「ジロ君、だめっ!! いきなり女の人に体のことを言ったらダメだよっ!!」

 無遠慮な喚声を上げながら飛び込んできたのは、ミコトと同年代とおぼしき短髪の、いかにもやんちゃな雰囲気の男児だった。

 そして彼より少し上背がある年長と思しき女児が、二条の三つ編みにまとめた柔らかそうな栗色の髪を揺らしながら、その少年の背中に駆け寄ってくる。

「見てよシー姉、マジでけぇ! このお姉ちゃんのオッパイ、かーちゃんのオッパイの倍じゃきかないぐらいデッケー!!」

「だからー!! そういうことを言っちゃダメなのーーー!!」

 三つ編みの女児は弟分らしき男児を捕らえて説教を始めたが、もともと優しそうな可愛らしい顔立ちのうえ仕草と口調も断固たる意志に欠けるため、いかんせん迫力がない。

「う、うう……。わ、わかったよシー姉……。オレが悪かったよ……」

 それでも、そんな女児が困り眉毛の下で大粒のエメラルドグリーンを思わせる瞳に涙を溜めはじめると、さすがに男児の方も何か察したのか、そこでおとなしく押し黙った。

 女児は小さく震えながら、アイネの前まで進み出て会釈した。

「あの、はじめまして。わたしはミケリヤ家の長女、シータ・ミケリヤと言います。弟のジローが本当に失礼なことを言ってしまってごめんなさい。弟にはわたしの方から、後でよく言い聞かせておきます」

「こんばんは、シータちゃん。私はアイネ・クライネ。お母さんのサブリナ少尉にはお仕事でお世話になっています。えっと、ジロー君、……びっくりしちゃったけど、もうしないでね」

「うっ……」

 膝を折って目線の高さを合わせながら、アイネは二人へ微笑みかけた。そこまでするとジロー少年にも通じたようで、男児は少しばつの悪そうな顔で目線を逸らしながら、小さく「ごめんなさい」と口にした。アイネは頷き、とりあえず許すことにした。

 ――何しろすでに、もっと強烈なのを食らっていることでもあるし。

「ありがとうございます!」

 姉のシータは微笑むと弟のジローの手を引き、他の面々への挨拶回りを始めていく。どうやらアイネ以外は初対面ではないらしかった。

「みなさん、お久しぶりです! あれっ。ガルノフさん、お怪我されたんですか?」

「……いや、これは……その……」

「どうしたんだよ、ロブ。元気ねーな……おーい。どうしたんだよー?」

「…………」

 落ち着いて二人をよく観察してみれば、弟のジローには確かにサブリナの面影がある。だが一方で姉のシータの方は、髪や瞳の色といい顔立ちといい、あまりサブリナに似ているようには見えなかった。

「あの、皆さんをお席にご案内しますね!」

 ミケリヤ家の家庭事情は分かりかねるが、それこそ分を超えた質問というやつだ。アイネはただ微笑みながらシータの案内に従い、まだ小さいのにしっかりしたお姉さんだなあ、と思いながら食卓へ向かう。

 アイネの席はシュンとマリエルの間に用意されていた。笑顔でお辞儀して立ち去るシータを見送りながら着席しようとしたとき、アイネは覚えのある気配の接近を背後に感じた。

 この足音、歩幅、そしてブレることなくこちらを目指す堂々たる前進――振り向かなくても分かる。

 間違いない、奴だ。奴が来た。

「んっ!」

 内心で待ち構えていたアイネの思考を読んだように、ミコトが頭からアイネの乳房へ突っ込んできた。キャミソールの張りつめた谷間に頭を埋めながら、アイネの膝上に身を乗り上げてくる。

 上陸されてしまった。

 ミコトは両足をアイネの太腿の上に渡して全身を交差させると、アイネの右乳房に上から顔面を預けながら、小さな手で左乳房を下からたぷたぷと揺らしにかかってきた。相変わらず表情の読めない顔をしているが、その瞳は輝き、足先は楽しそうに揺れ動いている。

「み、ミコトちゃん、久しぶりね……」

「ん」

 隣席のマリエルが困り顔で話しかけたが、ミコトは雑な返事を寄越しただけで、アイネの胸に無言のまま没頭している。女児に弄ばれてぷるぷると震えるキャミソール越しの爆乳を前に、ガルノフがいやらしい笑みを深め、ロブは相変わらず心ここになさげな夢見心地で、シュンが羨望と屈辱を半々にしたままの困り顔で直視しきれないまま、ちらちらと視線を寄越している。

 つまり、誰にも止められない。

「ダメだよミコちゃん、そんなことしちゃダメ! ミコちゃんの席はこっち! こっちだよミコちゃん!!」

 アイネたちゲスト組の対面で自分も席に着いていたシータが身を乗り出し、もはや食堂唯一の良心としてミコトの暴挙をやめさせようと説教しはじめたが、ミコトはまったく反応しない。その傍らでジローが頭の後ろで両手を組みながら、軽く馬鹿にするように言い放った。

「ほんっと、ミコはガキだよなー! もうすぐ7歳だってのに、未だにオッパイ大好きなんだもん。オレはもう大人の男だから、オッパイなんかとっくに卒業したけどな!」

 

 

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「うっ……」

 得意げに鼻の穴を膨らませながら、ジローがミコトへ謎のマウントを取りにかかる。ミコトはこれも馬耳東風だが、流れ弾が変なところに着弾したらしくシュンが具合悪そうに俯き、マリエルが異様に冷たい視線を向けた。ロブとガルノフに変化はない。

「よーしお前ら、お待ちかねの料理が出来たぞ!! ……ってアイネ、何してんの?」

「ミ、ミコトちゃんが……」

 そこへようやく、料理満載の鍋や大皿を持ったサブリナとマコト、そして初めて顔を見る成人男性の3人が台所から顔を出した。ミコトはこの期に及んでなお動じることも飽きることもなくアイネの乳房を弄んでいる。母親に対しても反応を見せていない。

 サブリナの夫らしき男性の目の前で、乳房をミコトのおもちゃにされている――最高に気まずい状況のまま、アイネはとりあえず自己紹介した。

「あ、アイネ・クライネ伍長です……よろしくお願いします」

「どうも、サブリナの夫のロン・ミケリヤです。クライネ伍長、はじめまして。妻がいつもお世話になっています」

「おう、今日の料理は買い出しから仕込みまでほとんどロンくんがやってくれたからな。感謝して食えよお前ら!」

 ロン・ミケリヤは温厚篤実そうな容貌ながら屈強な体格で、サブリナとほぼ同年配の二十代半ばほどと思しき若い男だった。ジローが二人の息子だと言われれば素直に納得できるが、やはり彼がシータの父親だと言われてもピンと来ない感じがする、とアイネは思う。

「――面白い子でしょう?」

「え?」

 料理を手際よく並べていくロンに言われて、アイネはすぐにミコトのことを指しているのだと気づいた。

「うちは妻が産後も軍に残って、私は退役してミコトも含めた家庭を守っています。マコトが艦艇勤務でここを留守にしている間は、ミコトの面倒も毎日一緒に見ているのですが……ミコトがこんなに人に懐いているところは、はじめて見ました。誇っていいことだと思いますよ」

「そ、そうなんですか……ええ。ミコトちゃんはとても面白い、可愛い子ですね……」

 出来ればもう少し、ソフトな感じの懐かれ方が良かったのだが――アイネは言いながらマコトの表情を追おうとしたが、彼女はただ黙々と大皿を並べていくだけだった。

「酒もあるからな、欲しい奴は言えよっ。ああガルノフ、ケガ人にはやらねー! オメーはジローと一緒にミルクでも飲んでろ!!」

「そ、そんな!」

 食卓の準備はすぐに整い、会食が始まった。

 料理に供された食材のほとんどは、ルウム農協がこのプラント群で生産したものだという。野菜や穀物だけでなく、魚介に鶏卵や畜肉、乳製品の類までもがふんだんに用いられた食事の豊かさにアイネは舌を巻いた。

「これ、ぜんぶP-04で作ったものなんですか?」

「ちょっとは輸入品もあるけど、9割がたはそうだね」

 自慢げに胸を張りながらサブリナが答える。

「戦後すぐから北米大陸の穀倉地帯がごっそり焼けた星屑特需後しばらくの間は、専らコメとか穀物主体だったんだけど。その後は地球圏農業の立ち直りに合わせて多角化が進んできたんだよね。今じゃ水産から畜産に酒造まで手広くやってるよ」

「えっ、プラントで畜産もできるんですか!?」

「まあ、ちょっとずつだけどね――ああ、そうか。アイネはテキサス生まれだっけ。さすがにあんな大規模じゃないし、コロニーと違ってプラントだとうまく行かないことも多いみたいだけど、なんだかんだと畜産技術の復活も進んでるみたいよ。今お前らの皿の上に載ってるのも、ルウム農協ブランドのリアル牛肉だぜい」

 おおっ、とどよめきが漏れた。合成肉ではなかったのだ。口に入れてみれば、確かに美味しい。

「すごい……畜産業まで復活しているなんて……」

 感動するアイネの膝上では、ミコトもアイネの乳房を背もたれにしながら黙々と、アイネの皿から料理を口に運んでいた。アイネは食事を口まで運ぶたびに、黒髪の光沢に天使の輪を宿したミコトの頭を汚さないように気を遣いはしていたが、逆に言えばその程度で済んでしまっている。

 それになんだかんだ言っても、膝の上で機嫌良さそうに食べるミコトの後ろ姿は、可愛いのだ。

「ま、これもマコトたちがトラキアに残って、P-04から外に繋がる航路を守ってくれてるおかげなんだよね。こっちに残ってる私らだけじゃあ、この食卓は用意できないんだ。――感謝してるよ、本当」

「……いや、……私は……別に」

 サブリナがマコトに話を振っても、ミコトはアイネの膝上で黙々と食事を続けるだけだ。代わってジローが目を輝かせながら身を乗り出してきた。

「マコトさん、航海のお話聞かせてよ! ジオンのモビルスーツ、今度は何機撃墜したの?」

「ジロくん、戦争のお話はダメだよ! グンジキミツがあるし、マコトさんも疲れてるんだからねっ」

「えーっ。いいじゃんシー姉」

 あまり似ていないミケリヤ姉弟がわちゃわちゃ騒ぐのを見ながら、アイネは食器を置き、軽くミコトの頭を胸に抱きしめた。

「ミコトちゃん。ミコトちゃんのママはね、ほんとに凄いんだよ」

「…………」

 無言のまま動きを止めたミコトに、アイネは耳元から小声で優しく囁いていく。

「あなたのママが、私の命を助けてくれたの。ママがいなかったら私もここにいないし、そしたらミコトちゃんをここに乗っけてあげることも出来なかった。ミコトちゃんのママは本当に強くて、優しくて……いちばん素敵なひとなんだよ」

「…………」

 ミコトは黙り込み、手元のナプキンで口元を拭うとそのまま、またアイネの乳房に頭を埋めてしまった。もう食事にも満足したのか、そのまま動く気配を見せない。

 うーむ、とアイネは唸り、苦笑するサブリナとロン、そしてミケリヤ姉弟から質問を浴びせられながら寂し気に笑うマコトを見た。ミコトの頭をそっと撫でながら海老フライをつまみつつ、ふと思い出してサブリナの方に尋ねた。

「そうだ。そういえば、……『境界漁民』って何なんですか?」

「あー、境界漁民はねえ。あいつら別に、特に魚介とか関係ないんだよね……。まあ、要するにジャンク屋なんだよ。うちのソギル准将閣下とルウム農協が組んで、免許持ちがP-04に入って連邦軍に予備役登録すれば、ジャンク屋用のボールを貸し出すってキャンペーンで人を集めたの。それでこの辺の有価値ジャンクを回収して儲けてる若いのが大勢いるわけ」

「なるほど、それで漁民……。境界、っていうのは?」

「うちらP-04側の防空圏とルスラン側の防空圏の境界あたりが、いちばん手つかずのジャンクが残ってて連中的においしいらしいんだよね。そこでジャンクを漁って活動するから『境界漁民』……そのまんま。うまくやれば割と儲かるらしいけど、ブッホの下請けみたいなもんでもあるし……まあ、大変そうよね」

「すごく若い女の子たちもいましたよね……」

 アイネが第113整備基地で見かけたボール乗りと思しき少女たちは、明らかにアイネたちより年下だった。せいぜいミドルティーン程度ではなかったか。

「うん、若い娘たちもいるね……最近は身寄りが無くてもボールを乗りこなせるぐらいの技量があって、ここで経験を積もうとしてる地元の娘たちも結構育ってるから。それに上としてはルウム農協の農業以外に、ジャンクの回収と再生も基幹産業に育てていきたい思惑があるみたいなんだよ。いざという時のための予備戦力も確保したいし。だから私らとしても守ってやらなきゃいけないんだけど、あいつら放っとくとすぐ境界のルスラン側に寄ってくからなあ。そこでうちらが迂闊に近づくとルスランの哨戒部隊とドンパチ始まっちゃうし、わりと手に負えん部分あるんだよね」

「境界漁民も、いちおう連邦軍なんですよね……ルスランから攻撃されないんですか?」

「いきなり殺されたりはしないみたい。中にはルスランの連中にジャンクを直接売りさばく奴までいるらしいんだけど、たまに拿捕されてるね。そういうのは大体、ブッホが作ったロナ騎士団とかいうMS持ちの警備会社がルスランと交渉して何とかしてる」

「民間警備会社……」

 アイネは言いながら、P-04へ向かっていた貨物船『リバティ115』を護衛していた警備会社VWASS――ヴィックウェリントン・エアロスペースセキュリティ社と、その元気が取り柄の少女アシュリー・スコット予備上等兵を思い出す。そういえばあの子もボール乗りで、第113整備場で見かけた少女たちと同年代だった。

「ジオン残党相手に連邦軍、特にウチみたいな因縁重なる部隊が直接前に出たりすると、もう戦争にしかならんからさ。今の戦力比だと、ガチンコでやりあって必ず勝てるわけでもないし……だからああいうどっちつかずの民間組織が間に入ってくれてるのが、境界漁民たちには一番いいのかもしれんね」

「なるほど。そういうものなんですね……」

「ただ……」

「――ただ?」

 一瞬言いよどんだサブリナに、アイネは思わず続きを促す。サブリナは料理に目を落としながらも手を止め、声を下げながら続けた。

「あの辺の境界宙域にはルスラン以外にも、なんか……『良くないもの』が出るっぽいんだよね」

「――『良くないもの?』」

「そう。なんか、理屈では言い表せないもの。人間の常識を超えてる、っていうか……とにかく、普通じゃないもの」

「まさか……ジオン残党の、ニュータイプ用サイコミュ兵器でしょうか?」

 かつての一年戦争においてソロモン攻略戦の直後、連邦艦隊を襲った正体不明の敵による謎の攻撃があった。戦後7年が経過した今ではジオン公国軍が開発したニュータイプ用モビルアーマーによる超長距離攻撃だったとされているが、当時はその正体に関して様々な憶測が流れ、非科学的なものも多く含まれていたという。

「うーん……どうも、そういうのじゃないっぽいんだよね。そこまで具体的なものじゃない。ただ、分からないんだけど、どうも……あの辺には何か『人じゃないもの』が、いる気配がある」

「人じゃない、もの……?」

「あいつらが……残党軍や海賊の類だとは、思えない……」

 サブリナはよく冗談を言うし、アイネをからかうことも少なくない。

 だが少なくとも今この瞬間のサブリナには、普段そうしたときに見せる稚気のようなものの気配がなかった。

 サブリナは怪力乱神を語り、非合理的な精神論でごり押ししようとするタイプの士官ではない。彼女にここまで言わせるものとは何なのだろう、とミコトを膝上に載せたままアイネが考え込むと、サブリナはそんな彼女にふっと優しく微笑みかけた。

「――何。アイネ、漁民連中が気になるの?」

「あ、はい。私が連邦軍でMSに乗りたいって思った理由は、やっぱり戦災復興の最前線で働きたかったからですし。ジオン残党軍に脅かされる第一線で頑張る人たちがいるのなら、その人たちのために働きたいって思います」

「ふーん、……そっか……。よし。がんばれ!」

 何かを切り替えるようにサブリナが笑ったそのとき、食堂に不意の警報音が鳴り響いた。

 食堂の端でP-04のローカルニュース番組を流していたテレビモニタの画面が、暗礁宙域の望遠ライブ映像に切り替わる。何かの光が動いていた。爆発の残滓だ。

『境界宙域に爆発光を含む戦闘光を確認。現在ルウム農協第411MS中隊が急行中』

「戦闘!?」

 アイネが反射的にミコトを脇へ下ろしながら腰を上げた。そのままMSを置いてあるプラント中心軸の整備場へと繋がるエレベーターまで走り出そうとして、サブリナに鋭く制止される。

「いいよ、アイネ! ここじゃあこんなのはしょっちゅうだから。初動対処はアラート待機の連中がやってくれる。私らはいよいよ、って時までどんと構えていりゃあいい」

 星々とデブリの海を捉えた望遠映像の中、RGM-79GSR『ジム・ゲシュレイ』らしき2機を上下に積んだパブリク改級哨戒艇が高加速を掛けながら、爆発光が消えていこうとしている方向目掛けて駆け抜けていくのが見えた。

 そして戦闘光らしきものは、それ以上新たに大きく広がっているようには見えない。

「今はとにかく飯を食う! しっかり食って態勢を整えて、動くとしたら状況を見てその後。いい?」

「は、……はい」

 アイネに向かってそう言いながらも、サブリナは真剣そのものの目で戦闘宙域を映すモニタを凝視していた。アイネがその手に触れる気配を感じて視線を落とすと、ミコトが彼女の手を取りながら、席へ戻れと促すようにじっと見上げている。

「――そうだね。ミコトちゃん……びっくりさせて、ごめんね」

 汗のにじんだ掌の中に小さな手をそっと握り返しながら、アイネは再び食卓へ戻り、モニタの映像を見守った。

 

 

 

 リック・ドムⅡが、そして3機のボールが、脚とマニピュレータを使って押し出す反動でジャンク回収船の船体からゆっくりと離れた。十分な安全距離を取ったところで4機は旋回し、スラスターを噴かす。

 正規のMS運用対応艦艇の装甲なら、いきなり甲板上でスラスターを噴かして発艦しても問題はない。だがジャンク回収船『ジャンクハンター・ゴアズ』には、まだその灼熱の噴流に問題なく耐えられるまでの改修は施されていなかった。

 まず道案内役を務めるパティ・リンデンのボールが先導し、そのすぐ後ろにパサベイ・ゴアのリック・ドムⅡが、そして社員2人のボールが続いていく。

 パサベイ機はドム系MSの代名詞とも言える武装をまったく装備していないため、それだけで機体のシルエットは独特に見えた。射撃兵装のジャイアント・バズが無いのは当然としても、背中へたすきに掛けているはずのヒートサーベルも無いのだ。兵装らしきものとしては、代わりに前腕部へビームサーベルがマウントされているだけだった。

 ジャンク屋業務で用いる解体装備と考えるなら、刃に一度でも熱を入れればほぼ使い捨てになってしまうヒートサーベルより、繰り返しの使用にも耐えられるうえ廃熱の心配も少ないビームサーベルの方がずっと優れているのは、実用性と経済性の面からも当然と言える。

 さすがにビームサーベルまでは許した連邦軍からも、マシンガンやバズーカといった類のMS用射撃兵装は認められていない。だが同じく許可されたボールの低反動砲を分解して、MS用ハンドキャノンを仕立てられるだけの技術力は彼らにもあった。だから随伴するボールの1機が頭頂部に装備する連装低反動砲が奇妙なかたちをしているのも、いざとなれば取り外してリック・ドムⅡが手持ちで構えられる射撃兵装として運用するための『抜け道』を用意するためだった。

 もっともパサベイたちはこれらの武装でルスラン・フリート哨戒部隊と一戦交えようなどと思っているわけではないし、昨今流行りのエゥーゴとやらに参加するつもりもない。

 ジャンク屋たちが持つMSが武装として最大の真価を発揮するのは、お上の目の届かない軍事力の空白地帯――すなわちこの境界で、同業者たちと獲物を巡って小競り合いするときなのだった。

 この境界に法など無い。力こそが法なのだ。

「――ビンゴ」

 そしてパティの先導で、パサベイたちは目標を捉えた。

 8年前のルウム戦役で大量の金塊を搭載して脱出しようと出港したものの、結局は戦闘に巻き込まれ船橋を潰されて乗員全員が死亡、その後も旧ルウム暗礁宙域を漂い続けていたという『宝船』。

 もはや境界漁民たちの伝説となっていたその船影を、彼らはついに捉えたのだ。

『船舶番号の標記も合致……間違いありません。やりましたね、社長!』

『やったぁ!』

「船を呼べ。すぐに境界から引き揚げるぞ――まずはワイヤーで固定して曳航準備だ」

『――コッチニ オイデヨ』

『あ?』

 だが歓喜に沸く境界漁民たちの通信回線にそのとき、子どもの笑い声のような雑音混じりの『何か』が入った。

 リック・ドムⅡが十字レール上にモノアイを巡らせ、愛人と社員たちが乗る3機のボールを確認する。

「おい……今誰か、何か言ったか?」

『あたし、何にも言ってないよ』

『俺もです、社長』

『でも、今、何か……聞こえましたよね……?』

「じゃあ、何だ、……今の……」

『コッチニオイデヨ……オネエチャン、……コッチニオイデヨ……!』

『また……!?』

 再び入電。さっきよりもはっきりと、その音声は聞こえてきた。

 近づいてきている。

 暗礁宙域は静止した空間ではない。漂うデブリは地球と月の重力に引かれながら、軌道上を高速で同一方向に飛び続けている。相対速度が合致しているから止まったように見えているだけだが、それも常に見えない重力の力を受けて揺れ動き続けている。

 そうして漂うデブリの海の中から、近づいてくる電波の発信源をリック・ドムⅡが割り出す。即座に望遠し、モニタ上に拡大した。

「ま、まさか――まさか、こいつが――『亡霊』……!?」

 全身のあちこちに被弾の痕跡を刻みながら、力なく漂ってくるモビルスーツ。MS-06F『ザクⅡ』――いや、その残骸から、電波は発信されていた。

『い、生きてる……の?』

「何だぁ、テメェ……? ビビらせやがって……無線で変な録音流してるだけか。カモがネギ背負って来てんじゃねぇよ」

 パサベイは言いながら、ビームサーベルをその手に取った。見た目の損傷具合からして、8年前のルウム戦役当時の代物だろうか。いかに旧式の残骸であっても、ザクⅡを丸々回収できれば悪くない儲けになる。

「よし……こいつにも縄を掛けろ。宝船と一緒にふん縛って回収、きれいに売り飛ばしてやる。行け」

『へ、へいっ。オラ、行くぞっ』

『は、はい先輩っ』

『な、何だろ、このザク……なんか、……キモくない……?』

 社員たちのボール2機がワイヤーを構え、ザクⅡに接近していく。パティのボールはビームサーベルを握ったまま身構えるリック・ドムⅡの側に残った。

 そしてワイヤーアンカーを狙い撃てる距離にまで2機のボールが達したとき、突然、ザクⅡのモノアイが異様な光を放った。

 同時に機体各所のスラスターとバーニアを全開にしながら、今までにない大音量であの通信を叩きつけてきた。

『コッチニオイデヨ! コッチニオイデヨ!! オネエチャアアアアアンンンッッッ、コッチニオイデヨオオオオオオ!!』

『なっ!?』

 2機のボールが同時に撃ったワイヤーアンカーは虚空を突き抜けていた。社員がボールを旋回させて再びザクⅡの機影を捉えようとしても追い切れず、その後ろからヒートホークが突き刺さる。

『ど、どこへ!? は、速っ――かぷあ熱ヂュウウッ』

『キャハーーーッ!! ジョーオーハーツゥゥゥーーー!!』

 プラズマ化した斧刃が装甲をバターのように切り裂き、コクピット経由で一気に丸い機体をえぐり抜く。社員の絶叫とそのマイクが一瞬で燃え尽きるまでの音を通信回線に残してボールは燃料電池に引火、そのまま盛大な火球となって爆散した。

『せ、先輩……ひ、ひぃ……っ、ひいいいいぃぃぃッ!!』

「おいコラァ! 勝手に逃げてんじゃねえぞテメェ!?」

 同僚が眼前で瞬時に焼死爆散する瞬間を見せつけられた生き残りの社員はボールを反転、一気にスラスターの推進剤ペレットを全力で噴射させた。一も二もなく全速力で、転がるように離脱していく。

『モエタ、……モエタァァァァァァ! ホネマデモエテ、カキュウニナッテ、シンダァ……シンダアアアァァァ!!』

 がくがくがくがくがくっ、とヒートホークを出鱈目に振り回しながら、社員の焼死で狂喜したかのようにザクⅡが躍った。それはもはや薬物中毒患者の発作か、あるいは壊れたオモチャのような有様だった。まともなパイロットがまともな機動制御プログラムを使っているようには見えない。

 だがザクⅡはそこからモノアイを蠢かせ、パティのボールを直視してきたのだ。

『サア、オネエチャンモ、……オネエチャンモ、イコウ……コッチニ、オイデヨ……ジョウハツ、シヨウ……ヒートホークデ、ジュウッテ、ジョウハツ、シヨウ……!!』

『ひっ』

 ヒートホークを握ったまま軽くスラスターを噴かして、傷だらけのザクⅡの機影がゆっくりとパティのボールへ迫りくる。

「おい、……待てや、コラ」

 だがその行く手にパサベイのリック・ドムⅡが、ビームサーベルの光刃を伸ばしながら立ち塞がった。

『パサベイ!』

「ヒトの女に手ェ出してんじゃねェ……久々に……キレちまったよ……完全にな……」

『キャパーッ! ジョオーハツゥゥゥーーーッ!!』

 弾かれたような高加速でザクⅡが跳ねた。速い。

 だが、パサベイは勝利を確信している。得物の長さが違うのだ。パサベイ機のビームサーベルは、ザクⅡのヒートホークに対して圧倒的にリーチの面で有利だった。

『や、やっちゃいなよパサベイ! こんなバケモンなんかっ!!』

「オメーが蒸発しろやぁーーーッ!!」

 リック・ドムⅡもスラスターを噴かせて突撃しながら、全力でビームサーベルを振り抜く。パサベイが確実に敵機の中心を切り裂いたと確信できた瞬間、ザクⅡはその光刃を受けていた。右肩の、盾で。

 もしパサベイ機の格闘兵装がヒートサーベルのままだったら、この戦闘の結果は違っていたかもしれない。ヒート兵器相手にビームの作用を阻害する対ビームコートなどが通用するはずもなく、ザクⅡを盾ごと切り裂いて撃墜していたかもしれない。

 だが、パサベイ機のサーベルはヒートではなくビームで、そしてザクⅡの盾を切り裂くことなく弾かれていた。

「な、なんげゲブッ」

 ズタボロの残骸として漂っていたはずのザクⅡが、新鋭の対ビームコートを備えた盾を装備している。

 完全に理解を超えた現実を提示されながら、ザクⅡ左肩のスパイク・タックルがリック・ドムⅡの胴体へと激突した。

 地上用のドムと異なり、宇宙用のリック・ドムは著しく装甲を減じられている。本体重量も3割近く軽い。この軽量化は高機動性の実現に直結していたが、こと格闘戦における打撃力と打たれ強さという面においては、著しい弱体化を引き起こしていた。

 ザクⅡのタックルはそれだけでパイロットごとコクピットブロックを半壊させ、そしてザクⅡは動きの止まったリック・ドムⅡへと流れるような動きでヒートホークを突き刺した。コクピット内へじりじりと、プラズマの刃を圧し込んでいく。

『キャアアアッパアアァーーーッッッ!! オネエチャンノマエニ、コノオッサンモッ、ジョーオォーーハアァーーーチュウゥゥーーーーッッッ!!』

「きびいいいいっ!! ひ、火いいいぃあッ熱ッもっ燃え、あぢゅうううブヂュッ」

『うそ――』

 新式のビームサーベルを装備していたリック・ドムⅡが、デブリ同然に見えたザクⅡの残骸に襲撃されて撃破され、愛人の社長が死んだ。パティの思考はそこまでで停止させられてしまっていた。

 あるいはこの瞬間に後ろからリック・ドムⅡごと低反動砲で撃っていれば、パティは助かったのかもしれない。だが彼女がそれに気づいたときには、ザクⅡはすでにリック・ドムⅡのコクピットを完全に焼き切ったことを確認しながら、ゆっくりと振り向いてくるところだった。

『オネエチャン、……コッチニ、オイデヨ……』

「……ひっ」

 ドンッ、とパティ機頂部の低反動砲が火を噴く。だがザクⅡはすでにそこになく、砲弾はリック・ドムⅡの胴体を撃ち抜きながら炸裂、機体を巨大な火球に変えた。

「あ、ああ! あああああ、ああ、い、嫌ぁーーーっ!!」

 パティは引き金を引き続け、出鱈目に低反動砲を撃ちまくりながら全力で逃げようとした。敵の姿が見えない。

 あのザクⅡは何なのだ。ルスラン・フリート所属機のようには見えない。では本当に、本物の『亡霊』だとでもいうのか。

 完全に頭が真っ白になっている。彼女にいま分かっていることは、たったの一つだけ――逃げられなければ自分もあのヒートホークで焼き殺される、ということだけだった。

「アグ!?」

 ガンッ、と真横から機体を圧されたかと思った時には、パティ機はそのままコロニー外壁の残骸に押し付けられていた。サイドモニターいっぱいにあのザクⅡの傷だらけの機影が、そのモノアイが映し出されている。ヒートホークを構えていた。

『オネエチャアアアンンン、ツゥカァマエタアァ』

「い、いや……い、いやぁ……!! こ、殺さないで……なんでもする、……な、なんでもするからぁ……」

 パティは震える手指でヘルメットを外し、ツインテールの髪と、涙でぐしょぐしょになった顔を出した。接触回線越しに相手のモニタへ自分の姿が映っていることを祈りながら、さらにパイロットスーツの正面ファスナーを下ろしていく。

「い、いくらでも……いくらでも、気持ちよくしてあげるから……ナカに出してもいいよ……何回でも、サセてあげるから……お願い、……こ、……殺さないで……」

 必死に色仕掛けしながらの命乞い。永遠のようにも思えた数秒間が過ぎた。

 ヒートホークは、来ない。助かったのか?

『……チガウヨ』

「えっ……?」

『ボクガネ、……イチバン、ミタイノハァ……、ジョウハツウウウゥゥゥッッッ!! オネエチャンガッ、ハダカラニクカラホネマデヤカレテェ、スミモノコサズニケシトンデッ、ジョウハツスルトコロガアァ、ミタイノオオオォォォッ!!』

「ひいッ!?」

 ヒートホークがボールの正面装甲を少しずつ食い破り、ついにコクピット内まで侵入してきた。

 一気には来ない。だが確実にじりじりと、少しずつ近づいてくる。刃が直接触れずとも、その膨大な輻射熱だけで操縦桿が、座席が、そしてパイロットスーツがじりじりと泡立ち、煙を上げて灼かれていく。

『ジョウハツ! ジョウハツッ!! ジョウハチュウウウゥゥゥッッッ!!』

「あ、ああ!? あああああああああーーーッッッ!! いやああああああーーーッッッ!!」

 パティは次々に燃え上がっていくボールの狭いコクピット内で、咄嗟にヘルメットを被りなおした。迫るプラズマ刃から逃れようと半狂乱で内壁に張り付く。工具もなく、もはや振りかぶれる空間も無いというのに、少女の腕力だけで内壁をこじ開けようとするかのように縋りついた。ドアなど無いのに、壁を叩きながら叫んだ。

「開けて!! 開けてッ!! 開けてぇぇぇッ!!」

『ミセテェェェ……オネエチャンガタイマツミタイニエンジョウスルトコロ、ミセテェ……ドンナフウニモエテ、ドンナフウニケシズミニナッテ、ドンナフウニジョウハツスルノカアァ、ミセテェェェ!!』

 灼熱地獄から1ミリでも逃れようと、壁に張り付きながら身をよじるパティの背中へと着実に斧刃は迫る。宇宙服として十二分な耐熱性能を持つパイロットスーツの生地が、ついにぱっと明るく燃え上がった。

「あ、熱いッ!? 死にたくない!! 死にたくないぃぃぃ!! 助けて!! いやああああ!! パパ!! ママ!! フィオ!! マルミン!! 助けてよ!! 助けてよおおおおおおぉぉぉッッッ!!」

 もはや溶鉱炉と化したコクピット内で、今やパイロットスーツの背中はバックパックからほとんどが焼け落ち、少女の白い素肌を露わにしつつあった。そこから空気が漏れていく。

 タンパク質の変性温度などとっくに超越し、自然発火点も超えている。だが少女の柔肌が真っ黒に炭化することはなく、火傷の一つすら負う気配を見せていない。

 ヒートホークが放つすべてを焼き尽くす凶暴な熱量の光を浴びながら、パティの肌は何か淡い光の層を帯びていた。

『ジャア、……モエテッ!!』

 そしてザクⅡはヒートホークを一気に押し進め、直接少女へ押し付けた。

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛―――ッッッ!!」

 溶けた鉄など比較にもならないほど熱いプラズマ化した刃が、パティの若い肉体を背後から丸ごと飲み込む。

 ぼぢゅうぅっ、とコクピット内装のすべてとヘルメットが、そして焼け残っていた少女のパイロットスーツの側面と正面までもが瞬時に焼け落ちる音をパティは聞いた。

 スポーツブラジャーとショーツもプラズマ刃の中で湯気のように消滅して、絶対の死を前に倒錯しながら達したパティの絶頂が勃起させた乳首と溢れる愛液が曝け出される。

 

 

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「あっ、」

 ――逝くゥッ……!!

 全身をプラズマ刃に包まれて死を認識した瞬間、パティの意識は蒸発していた。

『…………』

 ヒートホークを引き抜くと、ザクⅡは急速に冷え固まっていくボールの破孔から、気絶したパティの裸身を引き出した。もはや通信を発することもなく、無言のまま、その掌中に淡い光に包まれたまま気絶した彼女を収める。

 もう1機のボールとリック・ドムⅡの残骸には目もくれない。ザクⅡは反転、離脱しようとして――爆発的な加速を掛けて横っ飛びに回避した瞬間、一瞬前までいた位置をビームの光条が薙ぎ払った。

「てめぇッ! 農協(ウチ)の店子を3機も食いやがったのか!? やってくれたな――死ね!!」

 ボールとリック・ドムⅡの爆発光目掛けて高速で境界宙域へ突入してきたパブリク改級哨戒艇から発進した、ジム・ゲシュレイの2機編隊がビームガンから放ったギロチン・バーストだった。

 続けざまに第二射、第三射が迫る。ザクⅡは残骸もどきの外観に似合わぬ軽快な機動でデブリに紛れつつ巧みに避けるが、驀進するゲシュレイのコクピットでルウム農協の少女パイロット、トモエ・ワカツキ伍長は獰猛に笑った。

「ゲシュレイの足を嘗めんな! ザクごとき、この距離で逃がすわけねえだろうがッ」

 ジム・ゲシュレイがベース機としたジム・コマンド宇宙戦仕様は、一年戦争末期の技術で最大限の局地戦性能を引き出すため、多数のサブスラスターとバーニアを機体各所に増設した意欲的な機体だった。そのため運動性と短距離での加速性は通常型のジムより高い。

 だが反面、熱核ジェネレータと一体化した高比推力の熱核ロケットではなく、配線越しの電気で燃焼するため推進効率の劣るサブスラスター類を増設したことで、総合的な機動性能と継戦性はかえって低下していた。安定性も褒められたものではなく、総じて乗員の練度に恵まれなかったこともあり、カタログスペックに比して一年戦争での戦果は乏しい。

 ジム・ゲシュレイはその局地戦機として尖った特性はそのままに、主ジェネレータをはじめとするジムⅡ規格部品を導入して基本性能を伸ばし、さらに脚部にはRGM-79SP『ジム・スナイパーⅡ』仕様の大型サブスラスターまで設けた機体だ。むしろ癖はさらに強くなっている面さえあったが、トモエのようにこの難物を乗りこなせるパイロットがいったん敵機を交戦距離に捉えれば、たとえ相手が射撃兵装を持たずに軽いザクⅡが相手であろうと、逃げられる道理などない。

「おらおらおらッ! 墜としちまうぞ、亡霊さんよッ!!」

 トモエのゲシュレイは牽制射撃を交えつつ、背中に目でも付いているかのように回避を続ける敵機との距離を見る間に詰めていく。トモエは盾の下に仕込んだツイン・ビームスピアへ得物を持ち替えるタイミングを探った。長く遊んでやるつもりはない。次の一撃で仕留めてやる――

『トモエ、上!』

「!」

 僚機のリタ・ブラゼル伍長から警告を受けると同時に、トモエは自機にロールを打たせて回避していた。その機体があった空間を大口径機関砲弾の射線が走り抜けていく。

 MS-21F3『ドラッツェF3』。ルスラン・フリート哨戒部隊主力機の巨体がMMP-78型ザク・マシンガンの銃口を巡らせながら、逆さ落としに2機編隊で駆け抜けていった。一撃離脱だ。速い。トモエが咄嗟にビームガンで追撃したが当たらず、あっという間に有効射程外へと離脱していく。

『後続も来る――中隊規模。ダメだね。トモエ、下がるよ!』

「ちいぃ……っ!」

 そしてドラッツェ隊が来た方向から、さらに3機ほどのMS-06F3『ザクⅡファドラン』編隊とコムサイ改級哨戒艇が迫り来る。まだマシンガン系の実体弾で狙われる距離では無いが、警告代わりとばかりにビームライフルが放たれた。その光条が回避機動するゲシュレイの軌跡を恐ろしいほどの精確さで掠めて、トモエはひゅっと息を吐く。

「やりやがる……ッ!」

 さらにその後方にも、スラスター光のきらめきが見えている。いかにトモエとリタが腕に覚えがあろうとも、もはや2機で相手取れる戦力差ではない。ここは境界――時間は敵に有利、待てば待つほど敵が増えるのだ。

 戦闘機動の中でトモエが視線を巡らせば、件のザクⅡは遠く離れ、すでにデブリの陰へと消えていくところだった。トモエが忌々しげに呪詛を吐く。

「覚えとけよ、テメェ……次に会うときは、確実にブッ殺す!」

 不意打ちからの一撃必殺に失敗し、ルスラン・フリート哨戒部隊の介入を許した時点で選択肢は失われていた。ジム・ゲシュレイよりなお優速のドラッツェF3が大きく旋回して再襲撃の機動に入り、機数で勝るザクⅡF3に追われながら、少女たちの2機編隊が旋回する。P-04防空圏へ向けて一気に加速し、パブリク改級哨戒艇と合流する離脱経路へ乗った。

 ルスラン・フリート哨戒部隊は後続の増援と合流しながら、2機のジム・ゲシュレイとパブリク改がP-04防空圏へ入るまで、周辺宙域を悠然と支配した。やがて破壊された2機のボールとリック・ドムⅡの残骸を回収し、後方の前進拠点へと曳航していった。

 

 

 

「ふむ。境界漁民がルスラン・フリート所属ではないと思われる所属不明のザクⅡに襲われ、貸与のボール2機と個人所有のリック・ドムⅡ1機が大破、3人が死亡。ルスラン・フリート哨戒部隊の介入により、不明機はルウム農協のジム・ゲシュレイによる追撃を振り切って逃走……か。やられたものだね」

 P-04防空指揮所。

 右の眼球をほぼ露出させた傷面偉丈夫の将官が、上がってきた速報に目を通している。

 襲撃の戦闘光を見てアラート待機から突入してきたルウム農協MS隊に反応し、ルスラン・フリートは30機近いMS隊をその周辺に展開させていた。連邦軍もP-04防空圏の前方にほぼ同等の戦力を展開させ、艦隊砲戦距離外から静かに睨み合っているが、敵もそれ以上の動きを見せようとはしていなかった。

 とりあえず現時点では、これ以上の事態エスカレーションは無いと考えて良いのだろう。

「最近は、いろいろと噂になっているようだね。ルウム戦役の折、多量の金塊を積んで脱出しようとしたまま難破した幽霊船だとか。境界宙域に出没する、女性だけを付け狙う亡霊だとか――」

「境界漁民にも困ったものです。このままでは彼らの動きひとつで、次の大規模戦闘が偶発的に誘発されかねない」

「若者たちには、希望が必要なのさ」

「といって、このまま見殺しにするわけにも行きますまい」

 淡々と呟く上官の前で、居並ぶ参謀たちが目配せを交わし合う。一人が進み出て提言した。

「閣下……ここはブッホに要請し、一時的に境界漁民のP-04防空圏外での操業を停止させるべきでは?」

「ジャンク事業収益の低下は痛いところですが、我が方の戦力が整うまでにルスランとの大規模衝突が発生するリスクを鑑みれば、やむを得ないかと。今はひととき雌伏して――」

 参謀たちの言葉の途中で、P-04基地司令ユン・ソギル准将はそっと片手を立てた。分かっている、というように微笑む。

「この新サイド4宙域に漂うジャンクは、かつて旧サイド5の住民たちの財産だったものだ。それを自らの手で少しでも取り戻そうとする若者たちに、必要以上の枷を嵌めるような真似をしたくはない」

「それは、確かにそうですが――」

「災いの芽は、根から断つに越したことは無い。そう。『亡霊』が女性を狙うというのなら……逆に釣り出すことも出来る、ということだ」

「閣下……?」

「幸いなことに我が部隊には、才能ある優秀な女性たちが多い」

 ソギルが操る手元の端末に表示されているのは、隷下部隊の女性MSパイロットたちだった。境界漁民も多くはボールの貸与と引き換えに連邦軍に予備役登録しているため、このリスト上に並んでいる。

 少女たちだけで構成された、境界漁民の1チーム。そして最近P―04へ入港した母艦が整備に入って手持無沙汰になっている、艦載機の若年女性パイロットたち。

 自ら人選を手早く終えたソギルは、居並ぶ参謀たちへ再び告げた。

「クシナダ作戦、と命名しよう。――境界宙域に潜む『亡霊』を、殲滅する」

 

 

 

「――アッ、……アッアッアッアッアッアッアッ……」

 薄暗い部屋に、濡れ湿った肉と肉とがぶつかる水音が響く。

 両手両足を拘束された全裸の美少女が、背後から男に犯されていた。少女は後背位で犬のように犯されながら、犬のように舌を出し、狂った犬のように喘いでいた。すでにその目は焦点を結んでいない。押し寄せる快楽の嵐の中で、理性はとうに崩れ去っている。

 男の腰使いは力強く巧みで、そのリズミカルな突きが寄せては返すたび、逸物の亀頭に最奥を突かれて少女は喘ぐ。膣肉はえぐり込んでくる肉槍を絡め取ろうとその堅さに従いながら必死に搾り上げ、もはや完全にこの男に奉仕するためだけの専用肉壺としてその形状を完成されつつあった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「しゅごっ、しゅごいっ、しゅきっ、これしゅきいぃっ、いいのっ、しゅごいのっ、さいこおなのおおおおおっ。ほんものッ。これがほんものぉっ、ホンモノおちんぽにゃのおおおおおぉっ」

 今まで自分を抱いてきた男たちとのセックスなどはすべて児戯にも満たぬ代物だったことを、少女はいま雌肉と魂に刻んで知った。つい先ほど彼女を守ろうとしてモビルスーツで戦い、あっけなくヒートホークで焼け死んだ男のことなどとうに脳裏から蒸発している。彼女はもはや名前すら憶えていなかった。

「…………」

 そして男は完全に無言のまま、ちょうど掌に収まる大きさで張りの強い乳房を握りつぶすように乱暴に揉みながら、ひたすら肉杭を少女の子宮目掛けて撃ち込んでいくだけだ。ただ力強く、ただ機械的に。愛撫も工夫もないそんな突きだけで、少女の人間性はひどく簡単に壊されていった。

 その律動は次第に高まる波に導かれ、着実に絶頂へと駆け上がっていく。その周波数の微妙な変動を確実に捉えて、よがり狂いながら少女は求めた。

「ら、……出ひてぇ! ナカにぃ、……ナカに、射精してぇぇぇ!! ホンモノオトコの、ホンモノザーメン欲しいのおおおぉぉぉ!! 孕ませてぇぇぇええ!!」

「…………」

 そして男が無言のまま、最奥で腰を止める。

 それが発砲の合図。

「……あ゛……ッ」

 パリッ、と電流が少女の脳裏に走った。

 どぢゅうぅっ、と亀頭が脈打ち、おびただしい精液を放つ。本来鈍感なはずの膣奥を犯し、子宮口へと注がれる精子の奔流を、彼女は確実に『目撃』した。そして排卵済みの卵子へ向けて遡上した無数の精子が群がり、次々と受精していく『未来』の姿も――。

 それらと同時に、ヒートホークの刃に全身を呑まれ、パイロットスーツもスポーツブラジャーもショーツもすべてが蒸発した瞬間の死と直結した快楽が再び蘇り、脳髄を直撃して完全に焼き尽くした。パティの思考容量は完全に溢れかえって爆発する。

「お、おほ! おほおおおぉぉぉおほお! い、いきゅ! 逝きゅうううぅっ逝きながりゃああああああっ、はりゃあっ、孕みゅうううぅぅぅううう~~~っ」

 少女から『母』となる確実な未来へ向けて、淡い色合いの乳首が一気にドス黒く変色した。乳輪にぶつぶつと腺が浮いていく。

 男に握りしめられたままの、弾力の強い美しい乳房――かつてパイロットスーツの輪郭越しに男たちを挑発し誘惑する、最高のイミテーションでありデコレーションだったそれは膣内射精と同時にたちまち、まだ飲ませる赤子もいない母乳を四方八方へ撒き散らすだけの、無様なミルク・サーバーと化していた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……しゅっ……しゅっ、ご……っ、……しゅごっ……、……しゅごおおぉっ、……いいぃっ……っ……」

「…………」

 脳を焼き切られた少女は息も絶え絶えに、ただ壊れたオルゴールのように同じ言葉を繰り返すだけだった。そして男の逸物は、少女の中でなお堅さを保っている。意識の灯を吹き消された少女の肉体になお欲望を叩きつけんと、男は腰の動きを再開した。

「……あ、あへ……あ、あへ……っ……」

 重い水音と機械のような嬌声が、なおも途切れることなく密室に響き続ける。

 境界漁民パティ・リンデン予備上等兵は、『亡霊』の完全な性奴隷に、堕ちた。

 




フェニックステイル第三章『黄昏の島々』、これにて完結となります。
拙作は長らく更新が停滞しておりましたが、コロナ禍を奇貨としたゲーミング「三種の神器」執筆環境の導入、そして停滞期間にも着々と進めていた画稿依頼や背景考察がようやく実を結んだことにより、4年半、……4年半?? にわたった第三章を完結させることが出来ました。
役者もあらかた揃い、舞台の背景もおおむね明かされ、いよいよ次の第四章ではわくわく・亡霊狩り&宝探し冒険活劇・ポロリもあるよ! がはじまります。この勢いなら、今までほど長くお待たせすることはないはずです。

ここまで書いてこられたのは、皆様方からのご感想のおかげです。現在「不死鳥のカケラ」に関する新規リクエストは凍結させていただいておりますが、400字以上のご感想をいただけましたら、過去作についてはご覧いただけます。また今後、逐次、過去リクエストからの新作も充当予定です。
この機会にぜひ、拙作にご感想をお寄せください。KYはあなたのご感想を心よりお待ちしております。

それでは皆様からのご感想、お待ちいたしております。

※イラスト:b10b10アットzoho.com様
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