「……小隊長……?」
「あっ……、ハヤカワ、准尉ぃ……」
音もなく、気配もなく、そして脈絡もなく。
巡洋艦トラキアの女性MS隊長マコト・ハヤカワ准尉は、いつも通りに凛とした態度のままで、あられもない痴態を繰り広げる二人を見下ろしていた。
ベッドに組み敷かれたまま両脚を大きく少年の腰で押し開かれて迫られ、押しつけられた少年の剛棒に濡れそぼった秘裂を今にも貫かれんとしていたアイネ。理性を溶かし蒸発させ尽くしていた淫靡な欲情から一転してひとり目覚め、凌辱の恐怖と絶望の底にあった彼女の目からマコトは、後光を背負った救いの女神以外の何者にも見えなかった。
「准尉……、准尉っ!!」
完全に硬直した少年の腕と腰から、アイネは力を振り絞るようにしてようやく逃れて飛び出した。
全裸の少女は巨大な乳房を胸元で弾けさせながら、アップにされた黒髪が美しい軍服姿の女性MS隊長へとまっすぐに飛び込んだ。マコトの豊かな胸が弾んでたわみ、アイネを顔面から力強く受け止める。
「こわかった……こわかったですっ! わたしっ、わたしもう少しで最後まで、この人に襲われて無理矢理……っ!」
「大丈夫だ。もう大丈夫だ、クライネ伍長――膣への挿入までは、されていないんだな?」
「は、はいっ。う、うぐっ……えぐっ……こわかった……こわかったですぅ……っ」
「そうか、……怖かったか……」
強姦の恐怖から逃れたアイネは嗚咽しながら、マコトの暖かく柔らかな胸の膨らみへ軍服越しにぐしゃぐしゃの顔面を埋めて押しつける。少女の顔と胸に飛び散ったままのシュンの精液とアイスクリームに汚されるのも構わず、マコトは嗚咽する全裸の美少女を優しく抱擁しながら頭をかき抱き、その髪を撫でてやった。
そしてそんな二人を前にしているシュン・カーペンター伍長はといえば、スラックスもブリーフも下ろしていきり立ったままの下半身を露わにしたまま、もはやただ呆然と目前の事態を見守るしかなくなっていた。
謎の爆乳美少女との合体による童貞卒業へ向けて天突く勢いだったシュンの肉棒は、今や情けなくも萎みおちてへたり、ふよふよと無重力の中に泳ぐばかりである。
この状況。
今この瞬間だけを切り取って見せられたならば、完全に、自分が性犯罪者扱いなのでは。
いやむしろ、それ以外の何に見えるというのだろうか?
確かにトラキアMS隊長マコト・ハヤカワ准尉は、ただ単純なMS操縦技術やMS小隊指揮能力の高さだけでなく、部下に対して公平かつ公正に配慮してきた、尊敬すべき上官だ。
だが同時に、ハヤカワ准尉はやはり女性である。
女性であるハヤカワ准尉が、この光景を前にして――おそらく、男性である自分が一方的にこの少女を暴行しようとしていたようにしか見えないだろうこれを見て、果たして『公平で公正な』判断など下せるものだろうか?
「あ、ああ……っ、あああああ……!!」
いつも通りの凛々しくも厳しい表情の小隊長が証人席に立つ軍事法廷に、よりにもよって性犯罪案件で召喚される自分。
そんな情景をいやに鮮明に想像して、シュンはその場で額を床へ叩きつけた。
少年のその無様な姿を見下ろしながら、アイネはすがりつくようにマコトへ涙声で訴える。
「ハヤカワ准尉、この人はケダモノですっ! やめて、やめてって私は何度も訴えたのに……この人はまるで聞いてくれずに、私のことを力ずくで押さえつけて……無理矢理に、辱めようと……!
准尉が助けに来てくださらなかったら、私……今頃……今頃……っ!」
しかもすでに、『被害者』側のストーリーが出来上がっている。それもまったくの嘘ではなく、恥辱に耐えながら少女が切々と吐き出すその部分だけを取り出してみれば確かに真実なのが質が悪い。
君だってケダモノだったじゃないか――ああ、そうか。
そこでシュンは一人納得する。
この少女は最初から、痴女でもコールガールでもなかったのだ。
どこかの邪悪な誰かが自分に一瞬だけの天国を味わわせ、その直後に奈落の底まで永遠に突き落とすために遣わしたサキュバス、悪魔の美人局だったのだ……。
ハヤカワ准尉の肩へ頭を埋めて泣きじゃくる少女の潤んだ瞳にシュンは邪悪な光を、そしてその細い背中に悪魔の羽根を幻視してしまう。
しかしハヤカワ准尉は大きく息を吐くと、アイネに元着ていたガウンを手渡して素肌を隠させつつ、いつも通りの落ち着き払った調子でその場の二人へ宣言した。
「そうだな。この際だから、最初にお互い紹介しておこう。
クライネ伍長。彼は私の部下で、トラキアMS隊ジムⅡ25のパイロット、シュン・カーペンター伍長だ。
カーペンター伍長。彼女はアバリスMS隊の生き残り、アイネ・クライネ伍長だ」
「……シュン・カーペンター伍長……」
「……アイネ・クライネ伍長……?」
アイネ・クライネ伍長? アバリスMS隊? 痴女でもコールガールでも美人局でもなくて、いややっぱりそれと兼務で、あの全滅した部隊の生き残り?
シュンは相変わらず混乱したままで、アイネの方はガウンを羽織ってもまだ無防備な格好で男性と同じ部屋にいる事実に耐えられずに恥じらうばかり。二人は互いに官姓名を呼び合いながらも今さら挨拶を交わすでもなく、目を合わせようともしない。
「まだ皆には知らせていなかったが、先ほどの出撃後、私は撃墜されたMSから脱出して漂流するクライネ伍長を発見し、機内に収容して帰還した。
クライネ伍長機は脱出ポッドが破損したのか、伍長は身体一つで意識を失いながら宇宙を漂流していた。そのノーマルスーツにさえ破損部位があって、あのままでは危ないところだった。
だから伍長にはまだ、意識がはっきりしないところがあるのだろう」
「そうだったんですか……?」
――そうか。脱出ポッドも壊れて、ノーマルスーツにまでダメージを受けて漂流していたから……それで私はノーマルスーツも着ずに裸で、拾ってくれたハヤカワ准尉の部屋にいたんだ。
自分自身も初耳という調子で言うアイネの声を聞きながら、シュンは彼女が仕掛けてきた異常な誘惑と、その後の顛末の背景について想像する。
――宇宙漂流か。ひょっとしてこの子、酸欠か何かだったのか? 危ないな……さっきの痴女そのものとしか思えない誘惑も、それが原因だったのだろうか。
だが少なくとも、彼女――アイネ・クライネ伍長という同じ連邦軍人らしいこの少女は、その途中から正気に返ったように見えた。本当に酸素欠乏症で脳細胞が死んだのなら、時間が経ってから調子が戻ってくるなどということもないのではなかろうか? よく分からないが。
「さて、クライネ伍長。最初にカーペンター伍長を誘ったのは、君からだな?」
「!?」
二人が同時に目を見開く。
最後に突然現れたハヤカワ准尉は、事の『途中経過』を見ていないはずだ。にも関わらず、事態の端緒を見てきたかのように言い当てた彼女に、二人はそれぞれに激しく反応する。
「そうです小隊長っ! 僕が廊下に出ようとしたとき、乱れた薄着の彼女がいきなり飛びついてきて……そのままスラックスを下ろされて、彼女の方から積極的にリードしてきたんです!」
「ひ、ひどいですハヤカワ准尉! 誘った、って……そうかもしれないですけど……で、でも、そんな……っ!」
自分自身の手でなされた誘惑とその後の行為を信じられず、ただその場の感情だけで否定するアイネに、マコトは淡々と事実だけを申しつけた。
「クライネ伍長。私は君に、部屋で待っているよう言いつけたはずだな?」
「あ……っ、は、はい!」
確かにそうだ。自分は部屋で待つように言いつけられた。
だが、身体の内側からわき上がる異様な熱に抗うことが出来ず、自分では治めることの出来ないそれを鎮めてくれる誰か――男性を求めて、アイネは部屋からさまよい出たのだ。
「あれだけの事態の後だ。君がひどく混乱していたのは理解できる――理解できるが、君はもう少し、艦上勤務における女性としての自分のあり方を考えた方がいい。
君のように魅力的な容姿の妙齢の女性が意識もはっきりしないまま、素肌にガウン一枚きりなどという無防備な薄着で艦内を出歩くなど、服務事故を自分から呼び込んでいるようなものだ。不特定多数の男性を誘惑していると見られかねない。特に若い男性など、すぐに歯止めを失ってしまう。分かるな、クライネ伍長」
「うっ……!」
淡々とアイネの非を諭しつつも、力強く寄り添いながら自身の事情への思慮を感じさせるマコトの声に、少女はついに折れて素直にそれを受け入れた。
「ハヤカワ、准尉……も、……申し訳ありませんでした!」
「小隊長……!」
改めて恥辱に震える少女のそれとは異なる種類の熱い涙を浮かべて見つめてくる部下に、マコトは淡々と言う。
「自分の部下のことぐらい、私は普段から掌握しているということだ。カーペンター伍長に、最初から無抵抗の女性を一方的に暴行して辱めようとするような攻撃性はない」
「あっ……ありがとうございますッ!!」
やはりマコト・ハヤカワ准尉は、公正かつ公平な理想の小隊長だった。
危うく強姦未遂事件の容疑者として貼り付けられるところだったレッテルを引き剥がされ、もう一生ついて行きますとでも言わんばかりの熱い視線で見つめるシュンに、マコトは冷たく呟いた。
「そして、カーペンター伍長」
「はっ?」
少女の方から誘いをかけてきた、という決定的な重要事項が証明され、完全に安心しきっていたシュンを、上官からの厳しい視線が射すくめた。
その一転して怒気に満ちた上官の視線が、マコトに絡みつくアイネのしどけない姿を前に堅い勃起を取り戻しはじめた裸の肉棒に吸いついていることに気づいて、シュンの尻穴にきゅっと締まるような切ない感覚が走る。
「……カーペンター伍長。君は、彼女と……避妊具も付けずに、情交するつもりだったのか?」
「はっ……? ……あ。い、いいえ……その……っ……」
下半身裸のままで白濁液まみれの全裸の美少女ににじり寄り、彼女に抵抗されながらも強引に挿入しようとしていた現場までを、この女性小隊長に押さえられてしまっている。
そしてその肝心の証拠物件は今この瞬間も、小隊長の眼前でその生まれたままの威容を屹立させているのだ。
もはや一切の弁明は逆効果と悟り、観念したシュンは開き直って宣言した。
「は、はい小隊長! 自分は彼女とっ、生で本番しようとしていましたァ!」
「そうか。よく分かった」
打撃音が部屋に響いた。
先ほどアイネが食らったものとは訳が違う、本格的で強烈すぎる一撃だった。この無重力空間でいったい何をどうすればここまでの打撃力が生み出せるのか見当も付かない、冗談のような破壊力。
とにかくマコトに打たれてシュンは大きく回転しながら吹っ飛び、壁に叩きつけられて肺の空気をすべて吐き出した。これを受けたのがシュンのように細身の少年でなく、鍛え上げられた屈強な大男でもとうてい耐えられなかっただろう。
「カーペンター伍長、地球連邦軍人にあるまじき杜撰な性観念だ。無計画すぎる。よって修正する」
冷たく言い渡すマコトとアイネの眼前を、未だに股間をいきり立たせたままのシュンの下半身が流れていく。
「うあ……」
アイネはその凶暴な男性器を直視できず、頬を染めながらうつむいて視線を逸らすが、同時に視界の端にそれを捉えつづけてもいた。
「とにかく、そういう次第だ。カーペンター伍長。君がここで彼女に関して見たことは、これ以降一切口外無用とする。クライネ伍長もだ。互いの名誉のために、この件はこれにて手打ちとし、一切口外しない。二人とも、それでいいな」
「は……はい……!」
念を押されて、アイネはマコトへいっそう熱い視線を送りながら頷き、シュンも虚空を力なく漂いながら、弱々しく頷く。
「やれやれ、だな」
二人に背中を向けると、マコトはひどく疲れたようにそっと呟いた。