※この作品はR-18です。

泥濘に揺蕩えば   作:haldon

10 / 11

前話の続き。そのままちゅっちゅし始めたよこの子ら。




雨上がりの幸せ

 

 

 ジェーレンが、二人を包むように蔦の鳥籠を展開した。隙間から差し込む陽光が、幾本もの筋となって、二人を照らす。

「ネイチェ……」

 彼の求めに、ネイチェは自分から唇を寄せた。彼の「口」を形作っている蔦の隙間に、自分の「口」を形成する泥をねじ込むように。

 本当は、決まった形を持たない魔物同士、口と口ですることに意味なんてないのかもしれない。ただの、人間の模倣だ。だけどネイチェはこの行為が好きだったし、普段の様子を見るに、彼も好きらしい。

「んっ、ん、んぅ、んっ」

 彼の味を貪る。少し青臭くて、苦みもあって、でもどうしようもなく甘い。ちゅっ、ちゅっと音を立てて、彼女の「舌」が、彼の中に入っていく。

 キスの最中はつい目を瞑ってしまうけれど、こっそり開けてみれば、彼の蕩けた瞳が目に入った。気持ちよさそうに細めて、ああ、もし彼に血が通っていれば、上気もしていたのだろう。そしてきっと、自分も同じような顔をしているに違いない。

 ネイチェを抱いていた蔦たちがしゅるしゅると伸びて、腕や腰に巻きついてくる。彼が興奮してきた証拠。彼は抱き込めたり、拘束したり、この鳥籠もそうだけれど、ネイチェを「閉じ込める」ことを好むらしい。それが蔦の魔物としての本能なのか、それとも彼自身の気質なのか、それは分からないけれど。でもそこに彼の愛の重さを感じて、自分が彼のものであるという実感を得て、ネイチェの背中はゾクゾクと甘く痺れるのだった。

「あ……ん、ジェー、レン」

 もっと触って。もっと捕まえて。もっと、もっと。ねだるように、身体を密着させる。彼との境目が溶け出して、重なり始める。

 今日はもう既に、たくさんの「彼」がネイチェの中にいる。周りに広がる水たまりは人間で言えば髪の毛みたいなもので、感覚が薄い。けれど、だからといってまったくないわけでもなく、風で彼の葉が揺れれば、ネイチェはそれを感じた。微かでもどかしいほどのくすぐったさが、逆に興奮を運んできた。

「ね、触って。もっと、中も……」

 抑えが効かず、つい口に出してしまう。素面ならとても言えないのに、これは雨のせいだと自分に言い訳をして。彼は「ん、」と小さく返事をすると、数本の蔦を彼女に押し付けた。脚、おしり、おへそ、胸元、背中、そして顔。ネイチェはそれを受け入れる。ずぷずぷと泥を押しのけて、彼が侵食してくる。

「ああっ、あ、あ、あ」

 ネイチェが喘ぐたび、彼は嬉しそうに目を細める。彼が感じる快感を、花を通じてネイチェも得る。

 ふと目を落とせば、色の薄くなった泥越しに、蔦が蠢くのが見えた。うねうねと蠢くそれが、ネイチェの中をかき回している。蹂躙されている。支配されている。

「うぁ、あ」

 ゾクゾクと全身が震えた。いつもされていることなのに、なんだかとてもイケナイことのように思えた。

「ネイチェ……ああ、私の、ネイチェ」

 ネイチェの視線を追いかけた彼も同じものを見たのか、声にいっそうの昂りを滲ませた。蔦がいっそう激しく動く。くちゃ、くちゃ。空気を含んだ泥が、卑猥に音を立てる。

「ネイチェ、ああ、ああ……君は、きみは、わたしのものだ。ぜんぶ、わたし、の」

 蔦がコアに触れ、ネイチェは声を上げる。巻きついて締めつける強い刺激と。優しく撫であげる弱い刺激と。かりかりとくすぐるようなその動きが全身に甘さを運び、頭を真っ白にする。

「ひぃ、んっ、あっ、はんっ」

 蔦はネイチェの形を壊そうとするかのように、貫き、かき混ぜ、締め上げる。彼の望むままに形を変えられてしまう。ネイチェはそのたびに声を漏らし、喘ぎ、身を震わせた。快感が頂点に達し、何度も痙攣した。

「あっ、あ、あん、あうぅっ、んっ、んっ」

 それでも彼の激しい愛撫は止まらない。ぐちゃぐちゃにされているのに。めちゃくちゃにされているのに。彼の愛に壊されるのなら、むしろ望むところ。ネイチェはその全部を快感として受け取った。

 彼に取り込まれて、彼と一つになって。彼女はまさしく、彼のものだった。

「ジー……」

 甘い匂いがして、ふと顔を上げる。そこでは雄しべが、所在なさげにぶら下がっていた。先端をぱんぱんに膨らませ、堪えきれなかったのか白濁した花粉を滴らせている。雄しべはゆらゆらと揺れながら、その中身を放出する瞬間をいまかいまかと待ちわびている。

 ネイチェは誘われるままに、手を伸ばした。触れた瞬間、彼がピクリと反応する。

「ほしい、か?」

 彼の問いに、ネイチェは頷いた。ほしい。ほしい。その甘い蜜が、欲しくてしょうがない。注いで。注いで。あなたを、たっぷりと。

「ちょう、だい」

 そう言って、ネイチェは上を向き、口を開けた。ここに注いでと、まるで餌を待つ雛鳥のように。雄しべから垂れた液体が、彼女の上に落ちる。落ちたところから、痺れるほどの甘さが全身に広がる。なのに、雄しべそのものはなかなか降りてきてくれない。

「ジー?」

 訝しんで彼を見やると、目が合った。彼は目を細めてネイチェを見つめている。聞こえなかったのかしら。そう思って彼女はもう一度言った。

「ねぇ、ちょうだい」

「……あぁ」

 ジェーレンは恍惚の吐息を漏らした。それから雄しべを彼女の口すれすれまで持っていって、でもまだ中に入れてくれない。じれったい。じれったい。ほしい。ほしい。ほしい。

「ジー、ねぇ、それ……それ、ほしいの」

 そうねだると、彼は身を震わせながら、雄しべをネイチェの口の中にねじ込んだ。待ちわびた甘さにネイチェは夢中になる。

「ん、んっ、んぅ、ん、んむ、ん」

 絡みついて締め上げて味わって。頭がぼーっとして、真っ白になって、彼でいっぱいになった。頭の中には彼しかいなかった。

「う、あ、あ」

 彼が声を上げる。ネイチェの咥え込んだ雄しべの先から、液体があふれ出してくる。ネイチェはそれを取り込んだ。泥色と透明で構成されていた身体に、白が混ざっていった。

「ああ……ネイ」

 ジェーレンは雄しべを引き上げた。粘ついた液体が糸を引き、ネイチェの口と繋がっている。まるで離れがたいとでも言っているように。それはなんとも淫靡な光景だった。

「ネイチェ、もっと……」

「うん……もっと、ほしい」

 二人は目を合わせた。気持ちは一つだった。ジェーレンは幾本もの雄しべをネイチェに差し出し、ネイチェはその全てを全身で咥えた。少し刺激を与えてやればジェーレンは震え、それがネイチェに甘い痺れをもたらした。

「あっ、あ、あっ、あああああっ」

 彼が、体を反らして痙攣する。ビクン、ビクン。そのリズムに合わせて、雄しべから白濁したいやらしい液が吐き出される。ネイチェの身体に、白い模様を刻んでいく。

「ジー、ジー、あいしてるよ」

「あ……あ、私もだ」

 ネイチェは蕩けきった身体を彼と重ねた。彼の蔦の隙間に潜り込むようにして、彼と一つになった。ネイチェの中にジェーレンがいる。ジェーレンの中にネイチェがいる。

「幸せ」

 泥色と、透明と、白い濁りと、それから蔦が渾然一体を為す塊となって。ネイチェはその幸せの中に、意識を融かしていった。

 

 

 

 

 

 







※あとでリュミ姉が塊を見つけてぎょっとするまでがセット。


いつもいつもちゅっちゅしてるように見える二人ですが、それは私がそんな場面ばっかり切り取るからで、ほんとはそんなにいつもいつもではないはずです。たぶん。

リュミとナイルの甘酸っぱいやつとかも書きたい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。