前話の続き。そのままちゅっちゅし始めたよこの子ら。
ジェーレンが、二人を包むように蔦の鳥籠を展開した。隙間から差し込む陽光が、幾本もの筋となって、二人を照らす。
「ネイチェ……」
彼の求めに、ネイチェは自分から唇を寄せた。彼の「口」を形作っている蔦の隙間に、自分の「口」を形成する泥をねじ込むように。
本当は、決まった形を持たない魔物同士、口と口ですることに意味なんてないのかもしれない。ただの、人間の模倣だ。だけどネイチェはこの行為が好きだったし、普段の様子を見るに、彼も好きらしい。
「んっ、ん、んぅ、んっ」
彼の味を貪る。少し青臭くて、苦みもあって、でもどうしようもなく甘い。ちゅっ、ちゅっと音を立てて、彼女の「舌」が、彼の中に入っていく。
キスの最中はつい目を瞑ってしまうけれど、こっそり開けてみれば、彼の蕩けた瞳が目に入った。気持ちよさそうに細めて、ああ、もし彼に血が通っていれば、上気もしていたのだろう。そしてきっと、自分も同じような顔をしているに違いない。
ネイチェを抱いていた蔦たちがしゅるしゅると伸びて、腕や腰に巻きついてくる。彼が興奮してきた証拠。彼は抱き込めたり、拘束したり、この鳥籠もそうだけれど、ネイチェを「閉じ込める」ことを好むらしい。それが蔦の魔物としての本能なのか、それとも彼自身の気質なのか、それは分からないけれど。でもそこに彼の愛の重さを感じて、自分が彼のものであるという実感を得て、ネイチェの背中はゾクゾクと甘く痺れるのだった。
「あ……ん、ジェー、レン」
もっと触って。もっと捕まえて。もっと、もっと。ねだるように、身体を密着させる。彼との境目が溶け出して、重なり始める。
今日はもう既に、たくさんの「彼」がネイチェの中にいる。周りに広がる水たまりは人間で言えば髪の毛みたいなもので、感覚が薄い。けれど、だからといってまったくないわけでもなく、風で彼の葉が揺れれば、ネイチェはそれを感じた。微かでもどかしいほどのくすぐったさが、逆に興奮を運んできた。
「ね、触って。もっと、中も……」
抑えが効かず、つい口に出してしまう。素面ならとても言えないのに、これは雨のせいだと自分に言い訳をして。彼は「ん、」と小さく返事をすると、数本の蔦を彼女に押し付けた。脚、おしり、おへそ、胸元、背中、そして顔。ネイチェはそれを受け入れる。ずぷずぷと泥を押しのけて、彼が侵食してくる。
「ああっ、あ、あ、あ」
ネイチェが喘ぐたび、彼は嬉しそうに目を細める。彼が感じる快感を、花を通じてネイチェも得る。
ふと目を落とせば、色の薄くなった泥越しに、蔦が蠢くのが見えた。うねうねと蠢くそれが、ネイチェの中をかき回している。蹂躙されている。支配されている。
「うぁ、あ」
ゾクゾクと全身が震えた。いつもされていることなのに、なんだかとてもイケナイことのように思えた。
「ネイチェ……ああ、私の、ネイチェ」
ネイチェの視線を追いかけた彼も同じものを見たのか、声にいっそうの昂りを滲ませた。蔦がいっそう激しく動く。くちゃ、くちゃ。空気を含んだ泥が、卑猥に音を立てる。
「ネイチェ、ああ、ああ……君は、きみは、わたしのものだ。ぜんぶ、わたし、の」
蔦がコアに触れ、ネイチェは声を上げる。巻きついて締めつける強い刺激と。優しく撫であげる弱い刺激と。かりかりとくすぐるようなその動きが全身に甘さを運び、頭を真っ白にする。
「ひぃ、んっ、あっ、はんっ」
蔦はネイチェの形を壊そうとするかのように、貫き、かき混ぜ、締め上げる。彼の望むままに形を変えられてしまう。ネイチェはそのたびに声を漏らし、喘ぎ、身を震わせた。快感が頂点に達し、何度も痙攣した。
「あっ、あ、あん、あうぅっ、んっ、んっ」
それでも彼の激しい愛撫は止まらない。ぐちゃぐちゃにされているのに。めちゃくちゃにされているのに。彼の愛に壊されるのなら、むしろ望むところ。ネイチェはその全部を快感として受け取った。
彼に取り込まれて、彼と一つになって。彼女はまさしく、彼のものだった。
「ジー……」
甘い匂いがして、ふと顔を上げる。そこでは雄しべが、所在なさげにぶら下がっていた。先端をぱんぱんに膨らませ、堪えきれなかったのか白濁した花粉を滴らせている。雄しべはゆらゆらと揺れながら、その中身を放出する瞬間をいまかいまかと待ちわびている。
ネイチェは誘われるままに、手を伸ばした。触れた瞬間、彼がピクリと反応する。
「ほしい、か?」
彼の問いに、ネイチェは頷いた。ほしい。ほしい。その甘い蜜が、欲しくてしょうがない。注いで。注いで。あなたを、たっぷりと。
「ちょう、だい」
そう言って、ネイチェは上を向き、口を開けた。ここに注いでと、まるで餌を待つ雛鳥のように。雄しべから垂れた液体が、彼女の上に落ちる。落ちたところから、痺れるほどの甘さが全身に広がる。なのに、雄しべそのものはなかなか降りてきてくれない。
「ジー?」
訝しんで彼を見やると、目が合った。彼は目を細めてネイチェを見つめている。聞こえなかったのかしら。そう思って彼女はもう一度言った。
「ねぇ、ちょうだい」
「……あぁ」
ジェーレンは恍惚の吐息を漏らした。それから雄しべを彼女の口すれすれまで持っていって、でもまだ中に入れてくれない。じれったい。じれったい。ほしい。ほしい。ほしい。
「ジー、ねぇ、それ……それ、ほしいの」
そうねだると、彼は身を震わせながら、雄しべをネイチェの口の中にねじ込んだ。待ちわびた甘さにネイチェは夢中になる。
「ん、んっ、んぅ、ん、んむ、ん」
絡みついて締め上げて味わって。頭がぼーっとして、真っ白になって、彼でいっぱいになった。頭の中には彼しかいなかった。
「う、あ、あ」
彼が声を上げる。ネイチェの咥え込んだ雄しべの先から、液体があふれ出してくる。ネイチェはそれを取り込んだ。泥色と透明で構成されていた身体に、白が混ざっていった。
「ああ……ネイ」
ジェーレンは雄しべを引き上げた。粘ついた液体が糸を引き、ネイチェの口と繋がっている。まるで離れがたいとでも言っているように。それはなんとも淫靡な光景だった。
「ネイチェ、もっと……」
「うん……もっと、ほしい」
二人は目を合わせた。気持ちは一つだった。ジェーレンは幾本もの雄しべをネイチェに差し出し、ネイチェはその全てを全身で咥えた。少し刺激を与えてやればジェーレンは震え、それがネイチェに甘い痺れをもたらした。
「あっ、あ、あっ、あああああっ」
彼が、体を反らして痙攣する。ビクン、ビクン。そのリズムに合わせて、雄しべから白濁したいやらしい液が吐き出される。ネイチェの身体に、白い模様を刻んでいく。
「ジー、ジー、あいしてるよ」
「あ……あ、私もだ」
ネイチェは蕩けきった身体を彼と重ねた。彼の蔦の隙間に潜り込むようにして、彼と一つになった。ネイチェの中にジェーレンがいる。ジェーレンの中にネイチェがいる。
「幸せ」
泥色と、透明と、白い濁りと、それから蔦が渾然一体を為す塊となって。ネイチェはその幸せの中に、意識を融かしていった。
※あとでリュミ姉が塊を見つけてぎょっとするまでがセット。
いつもいつもちゅっちゅしてるように見える二人ですが、それは私がそんな場面ばっかり切り取るからで、ほんとはそんなにいつもいつもではないはずです。たぶん。
リュミとナイルの甘酸っぱいやつとかも書きたい。