ジーとネイのキャラが定まってきたので、いろいろ加筆訂正中。第一話はほぼリライトになったので、新たに投稿です。
ほかは少しずつ修正してくつもり。
気が付けば、ネイチェはジェーレンの腕の中にいた。強く、強く、抱きしめられている。ネイチェは戸惑いながらも、彼の背に手を回して応えた。不快感はない。蔦はひんやりしているのに、不思議と心は温かくなった。
「先生……?」
「…………な」
そっと呼びかければ、返ってきたのはか細い声。蚊の羽音のようなそれを聞き取ろうと、ネイチェは耳を澄ませる。
その間にも蔦が這い出してきて、ネイチェの腕を、脚を、全身を拘束していった。まるで先生が、二本の腕だけでは足りないと言っているようだと、ネイチェはそう思った。
「もう………るな」
先生のつぶやきは繰り返され、拘束はますます数を増やす。けれど苦しくもないし、怖くもない。むしろ心地よささえ覚えるのは、きっと先生の優しさをその行為の全てから感じるから、なのだろう。
「もう、どこにも行ってくれるな」
ようやくはっきり聞き取れたその言葉に、ネイチェは顔が火照るのを自覚した。いつもの冷静な彼からは想像もできない、感情のにじんだ言葉。それが震えてすらいて、彼がどれほどの想いをこめてそうしているのか、伝わってくるようだった。嬉しいような、恥ずかしいような、その感情を持て余して、胸が詰まる。視界がぼやける。言葉は自然と口からこぼれだしていた。
「もう、どこにも行きません、先生」
応えるように、彼の腕の力が強くなる。そうして、二人はしばらくそのまま抱き合っていた。
静寂のなか、シュルシュルという蔦の葉擦れの音だけが聞こえてくる。ふと見れば、絡み合う蔦が二人を包み込んでいた。鳥かごのようなそれは二人を外界から隔絶し、二人きりの空間を作り上げる。まるで、この世界には自分と彼しかいないかのように。
ネイチェはようやくジェーレンの腕の中から解放された――もっとも、全身にゆるく巻き付く蔦はそのままだが。それも離れて行ってしまったら惜しいな、と一瞬思い、そんなことを思う自分に恥ずかしくなる。
「先生……これは」
ごまかすように蔦を指先で弄りながら問うと、彼は目を細めた。無表情の中に優しさが垣間見えるような気がした。
「ネイチェ……私は自覚した」
「自覚?」
思わぬ言葉に首を傾げると、彼はふるふると首を横に振った。彼の考えは読めなかったけれど、それはどこか呆れにも似た感情のように見えて。だけど、それが自分にとって悪いことであるはずがない、という確信だけはあったから、ネイチェはただ黙って次の言葉を待つ。
そして、彼は口を開いた。
「私は、君の存在が自分に必要不可欠であると知った」
ネイチェは目を丸くした。言葉の意味を飲み込めず、頭は空回りする。必要不可欠。それはつまり。
整理のつかない中で、彼の言葉は続いていく。ネイチェはただただそれを受け止める。
「自分でも驚きだった。君の気配が消えただけで、私はあんなにも取り乱すのかと」
「取り、乱したんですか、先生が」
何とか捕まえた言葉に反応してみると、こくり、と彼はうなずいた。そのまなざしに優しさを、普段の彼にはついぞ見られない柔らかさを、ネイチェは感じとる。気のせい? いいえ、気のせいじゃない。だって。だって、そんな表情をする先生を、見たことがないもの。
「あれは暴走と言っても過言ではない」
ネイチェは息を呑んだ。言葉は出なかった。何度も、何度も、彼の言葉を頭の中で反芻する、それで精いっぱいだった。だって、それは、その行動は、まるで……
「私はどうやら、君に執着しているらしい」
もしもネイチェが人間のままだったなら、顔はきっと紅潮を通り越して真っ赤になっていたことだろう。幸か不幸か今のネイチェは人間でなく、赤い血は流れていないから、紅潮なんてものとは縁がないのだけれど。代わりに彼女ははくはくと口を開け閉めした。泥の温度が上がっていくのを感じる。
執着――なんて重たい言葉。でも不快ではなかった。むしろその言葉に、ネイチェの全身には甘い疼きが走り、泥の表面がさざめいた。彼らしい不器用さと、彼らしくない強い感情とを感じた。
「その、それは――好きってことですか?」
勇気を出して問えば、彼はしかし首を横に振る。
「……わからない」
一瞬感じる落胆、けれどそれは束の間で。しかし、と続ける彼に、ネイチェは顔を上げた。
「得難いものであると認識しているのは確かだ」
彼はしごく大真面目で。とんでもないことを――もしかしたら愛の告白を――口にしているのに、している当の本人は全くのいつも通りで。……ああ、だからこそ。だからこそその言葉に偽りはないのだと、ネイチェは確信した。
なんだか安心して、ふふっと笑みがこぼれた。胸の奥からじんわりと広がるものがのどを詰まらせて、返事の言葉は出てこない。ネイチェの感情に呼応するように、泥の温度が上がる。ネイチェの腕に巻き付いていた蔦が戸惑うように震え、優しく撫でさすってくれた。それすら愛おしくて、ネイチェは蔦を撫で返す。
「ネイチェ? どうした」
「いえ、大丈夫です。……言葉が、うれしくて。ありがとう、先生」
彼の瞳が揺れる。合わせて蔦も揺れる。所在なさげなその様子は、彼の心を表しているようだった。きっと今、彼は自分自身と会話をしているのだ。自分の心の動きと、ネイチェの反応と。それらを理解するための言葉を探しているのに違いない。
ネイチェが蔦の一本を手に取り、自分の頬に当てると、彼はぱちくりと瞬きをした。彼はしばらくそのまま固まっていたが、やがて別の蔦が恐る恐ると近づいてきて、反対側の頬に触れる。やわやわと頬を触り、髪の毛をかきあげ、それから耳をなぞって、また頬に戻る、そんな蔦の動きがくすぐったい。小さな声が漏れると、彼はぴくりと反応した。
「ネイチェ」
「はい、先生」
「頼みが、ある」
それはジェーレンにしては珍しく、どこか躊躇いがちな言葉だった。蔦が一本、ネイチェの目の前に垂れ下がってくる――そこには一輪の花が咲いていた。透明感のある白い6枚の花弁は見る見るうちにしなびていき、そして一粒の種を残して散ってしまう。種は片方の手のひらに収まるくらいの大きさで、丸みのある雫型をしていた。茶色がかったつやのある黒色は、そう、先生の瞳と同じ色。
「これは、私の種」
「……先生、の?」
彼の顔を見上げると、彼は揺れていた瞳をまっすぐにネイチェに定め、見つめ返してきた。
「これは私の分身、私の一部。対象に根を張り、成長するもの」
彼の目は真剣で鋭い。研究に相対しているときの彼と同じ瞳で、つまり今の彼は、研究に対するのと同じくらい真剣だということ。研究にすべてをささげる彼にとって、それがどういう意味を持つのか。ネイチェはその瞳から目が離せなかった。
「これを、君に与えたい――君に、植え付けたい」
息が詰まるような心地がして、ぞわ、と背中が粟立った。それは不快な感覚ではなく、逆にえも言われぬ甘さを伴っていた。頭の芯がしびれて、うまく言葉にならない。ただ、そっとその種に手を伸ばした。指先で触れればなんだか温かい。
「これは、対象の情報を私に伝えてくれる。君に根を張れば、君の情報を、私に」
「情報……」
「君がどこにいても、私は君を知ることができるようになる。そして君にも、私を感じられるはずだ」
その代わり、と彼は続け、それから口を閉じた。また瞳が揺れている。言葉を発するのを躊躇っているかのように。ネイチェは次の言葉を黙って待つ。やがて揺れる瞳は、またまっすぐにネイチェの方を向いた。
「その代わり、我々は二度と離れられなくなる」
その視線は、どこか懇願しているようだった。己のわがままを許してほしいと、受け入れてほしいと、そう言っているように、ネイチェには見えた。背の高い彼が、なんだか小さな子供のようにさえ見えて。ネイチェは思わず抱きしめそうになるのをぐっとこらえた。確認を。確認をしなければならない。
「つまり……その。つまり、私に一生、先生のお傍にいろ、と」
問えば、彼はふいと視線を逸らした。
「そうだ。――私には、君が必要だ」
ぞわぞわと、背中が粟立つ。ないはずの心臓が、どくんと高鳴る錯覚を覚える。ああ、そんなの、そんなの。
「ください」
喉を震わす泥の制御が乱れて、少し声がかすれてしまった。それほどに、ネイチェの精神は動揺していた。高揚していた、と言ってもいいかもしれない。
だって、ネイチェにとってジェーレンは憧れの人で、尊敬する人で、先生で、上司で、大好きな人で、愛する人で、全てなのだから。そう、彼の言葉を聞いて、ようやく自覚した。彼はただの愛する人ではなくて、ネイチェにとって全てなのだ。そんな人に、自分のものになれと、言ってもらえるなんて。
「この種を、私に」
彼は戸惑ったように少し後ずさった。ネイチェがこんなにあっさり受け入れるとは、思っていなかったのだろう。
「いい、のか」
「はい、ぜひ」
ネイチェは蕩けそうな笑顔を浮かべて応えた。
とん、と蔦がネイチェの胸元を突いた。
「君の中心であるコア、そこに種を植える」
ネイチェがこくりと頷いて目を閉じると、ジェーレンは蔦を操って彼女を引き寄せた。彼の腕に抱かれるような形になって、驚いて目を開けたネイチェのすぐ間近に、彼の顔があって。あまりの近さに恥ずかしくなって、思わずまた目を閉じてしまう。
「痛みがあるかもしれない。まずは慣らす」
彼はそう言って、ネイチェの胸の真ん中に人差し指を沈み込ませた。ネイチェの身体は不定形で、何かを包み込むことはいくらでもしてきたけれど、ネイチェの意思に反して何かが侵入してくるなんてことは、初めてだった。少しの不快感。圧迫感。思わずぎゅうと力が入る。
「怖いか」
ジェーレンの声は優しかった。いや、彼はいつもネイチェには優しいのだけど。けれど今はいつも以上に、優しいように感じた。
「だい、じょうぶ、です」
ネイチェは応えると、体の力を抜くように務めた。うまくいっただろうか。彼の指の動きはスムーズになった気がするけれど。
ジェーレンの長い指は、ゆっくりと胸元の泥をかき回している。異物感はまだある。でもそれが彼の指なのだと思えば、もう不快ではなかった。
「んっ……!」
身体の奥の方に隠してあったコアを、彼の指がかすめた。強い刺激が走って、思わず声が出る。彼の動きが止まり、様子を伺うように、こちらを見る。
「だい、じょうぶ。つづけて」
彼の手に触れ先を促すと、彼はこくりと頷いて再び泥をかき回す。
ネイチェのコアは、握りこぶしほどの大きさの結晶だ。黄色みの強い琥珀のようなそれは、彼女の命そのものと言っていい。傷がつけば激痛が走るし、砕けでもすれば、命を保っていられない。
だから、誰かがコアに触れるなんて、本当はとても恐ろしいことなのだ。全力で拒絶して、逃げ出してもいいくらいに。だけど、今、ネイチェにそんな考えはなかった。今、自分の命は先生の手の中にある。先生に、支配されている。ネイチェが思うのはそんなことばかりで。
「あ……ぁ」
思えば声が出た。頭の奥が甘く痺れて、身体が震えた。先生に、支配されている。私は先生の、もの。先生。先生。
「んんっ!!!!!!……っは」
彼がコアに触れた。刺激に身体が跳ねる。彼は長い指で、コアを撫でている。優しく、慈しむように、けれど執拗に。
「あっ……っあ、あ……あぁ、ん……」
声が出てしまう。意識が蕩けていく。触られるたびに、甘い刺激が脳を突き刺す。時折恥ずかしくなって口を閉じるけれど、すぐにまた、そんなのどうでもいいとばかりに、口から音が漏れていく。
薄目を開けて確認すれば、彼の無表情が目に入った。いつも通りの鋭い目元、それが僅かに震えていた。見たことのない感情を宿していた。それは……熱?
「せん……せ……」
呼ぶと、その、どこか浮かされたような瞳がこちらを向く。
「苦しければ、言え」
そう言う彼こそ、声がかすれ、震えている。ネイチェを蹂躙する側なのに、なんだか追い詰められているように見える。
「はい……」
ネイチェの返事を確認したジェーレンは、再びコアの周囲をゆっくりとかき混ぜ始めた。
それは、直にコアを触られたときと比べたら、ずっと弱い刺激で。柔らかくて温かくて安心できる、けれど少しじれったい愛撫だった。眠くさえなってきて、ネイチェの意識はふわふわと宙を漂う。四肢は形を失い、とろけて、そこにいるのはもはや、もうただの泥の塊だった。
「ぁ……んっ」
少しだけ、あの強い刺激が懐かしくて、身体が震えた。それに呼応するように、彼の蔦も震えた。さわり、と蔦がコアをかすめるように撫でて、待ち望んだ刺激に身体は一際大きく跳ねる。彼が笑ったような気配がした。
もっと、と強請るように、コアが浮上する。彼が触りやすいように。身体の表面の方へ。それは無意識の動きで、でもネイチェの願いそのものに違いなく。ジェーレンが手を止めて、ネイチェを見た。その眼差しはいつにないほど優しくて、いつにないほどの熱を帯びていた。
「大事ないか」
「はい」
彼は手をそっと引き抜いた。抜ける瞬間の新たな刺激に、また身体が跳ねる。でも、今度はそれで終わりだった。刺激がなくなって凪のようなのに、身体の奥では嵐が吹き荒れている。もっと。もっと触ってほしい。その心を現すように、泥の表面がさざめく。コアが揺れる。
ネイチェはじっとジェーレンを見つめた。彼の目も、口も、鼻も耳も髪の毛も、全部が美味しそうに見えて、彼女は手を伸ばして彼の顔に触れた。もはや形を留めていない手のひらが、侵食するように彼の顔を覆う。彼がネイチェの行動に目を細める。愛おしいものを見るかのように。
「そろそろ良いだろう」
彼はそう言って、手に例の種を取った。そう、あれを埋め込むのが今の目的。快感に溺れて、すっかり忘れていた。
種は僅かに光っていた。そしてそれが近づくと、ネイチェの胸元も同じ色の光を帯びる。いったいなんの光だろう? ぼんやり眺めていると、彼はその光に――ネイチェの胸元に、優しく触れた。
「種がコアを侵す、その際に、おそらく痛みを生じる」
彼は泥の表面を撫でながら、言う。
「故に事前に私の魔力で包み、慣らした――これで少しでも痛みが和らげばよいが」
「いたいの……がまんできます」
そう言ってみれば、彼はまた目を細めた。分かりにくいが、これは微笑みだ。ネイチェには分かった。
「そうか」
彼は種を持った手をネイチェの胸に差し入れた。ずぶすぶと、泥を押しのけて。その圧力が快感を運び、ネイチェの頭をまっしろにする。無意識に蠢く泥が、彼の手に絡みつく。
「ん……んぅ、あ」
彼はコアのそばにたどり着くと、種の置き場所を選ぶように、さわさわとまさぐった。
「あ、あぁ、あ、んっ、んっ」
さっき思い出したばかりの目的は、襲ってくる快感の波にあっという間に飲まれて消えた。それからようやく彼は種をそこに置くと、コアをひと撫でして帰っていった。
「あんっ」
思わず声を上げたネイチェを、彼は目を細めたままで眺めていて――少しだけ、楽しげに見えるのは、気のせいではないと思う。
残された種は、静かに佇んでいた。痛みがあると聞いていたけど、何も起こらない。先生の杞憂だったのかな――そう思った、そのとき。種が脈動した。
「!?」
種から根が生えてきて、かと思えば爆発的に四方に腕を伸ばし。一番近くにあるもの――すなわちネイチェのコアに絡みついたのだ。
「あ、ああ、あああああああっ!?」
根はコアを締め上げ、それが刺激となってネイチェを襲った。ジェーレンの愛撫とは比べものにならないほどに暴力的な、身体が引きちぎられそうな痛みが全身に走る。だというのに、だというのに――それすらも、気持ちいい。
「ああああアアああアあああっ!!」
ネイチェの口から漏れる音には、陶酔した響きが混じっていた。痛い。痛い。気持ちいい。苦痛と快感が、交互に精神を揺さぶる。泥が湧き上がっては沈み、膨れては萎む。制御なんて到底無理だ。眼の前でスパークが弾け、何も考えられない。
「ネイチェ」
ジェーレンが名を呼ぶ、その音だけを耳で捉えた。彼は両の腕でネイチェを掻き抱いた。それから蔦がしゅるしゅると伸びてきて、二人を繭のように包みこんだ。
「大丈夫、大丈夫だ」
彼はあやすようにそう言って、腕に力を込める。だけどそれは逆効果だった。彼に触れられたところが熱を持ち、びりびりと甘く痺れた。ネイチェの全身はびくびくと痙攣した。泥の身体は意味もなくさざめき、拠り所を求めて蠢く。自分の意識まで泥になってしまうかのようで、怖くて、でもそれが先生によってなされていることに悦びを感じた。
「ネイチェ」
彼がまた、名を呼ぶ。その声に込められた熱が、湿度が、ネイチェの耳を犯す。ぞくぞくと身体が震える。泥が彼に絡みつく。絡んで、包んで、染み込んで、彼と一つになっていく。
「ネイチェ」
彼はネイチェを全身で抱きしめていた。覆いかぶさるように、抱き込めるように、捕食するように。蔦はネイチェの身体を余すことなく覆い、さらには身体の中に潜り込もうと圧力をかける。
「ネイチェ……ネイチェ……」
彼の言葉からは、余裕も、冷静さも、失われていた。そんな先生を見るのは初めてだった。彼が夢中になって自分を求めている――それだけで、ネイチェは高みへ至りそうだった。
「ああ、あああっ、うっ、ん、んんっ、んっ、せ、んせ……」
種が内側を、声が耳を、蔦が外側を、それぞれに刺激する。彼が何かをするたびに、ネイチェの身体は反応する。そのどれもが甘くて、痺れて、ネイチェは幸せだった。幸せだけを感じていた。
蔦はネイチェに侵入し、泥はジェーレンを侵食する。二人の境目は曖昧になり、二人の心は重なり合った。
気がつけば種の暴威は終わっていた。痛みは消え、余韻だけが残っている。けれど今度はその余韻が、ネイチェの精神を掻き乱した。彼女の泥の身体、そのすべてが、敏感な神経の塊のようになっていたのだ。
「あ、ん、んっ」
己を抱きしめるジェーレンが身動ぎするたび、触れられた部分に刺激が走る。ピリピリとしたそれは得も言われず甘くて、思わず声が漏れる。
「ネ、イチェ……あ、う、」
ネイチェが声を上げるたび、ジェーレンが悩ましげな吐息を漏らし、身体を小さく震わせる。
種が根付いたためか、ネイチェには彼の感じているものが伝わってきていた。彼が「気持ちよくなっている」のが分かって、それがネイチェに悦びをもたらした。きっと彼も同じ。ネイチェの快感が伝わって、それが彼の悦びになっているはずだ。
「あ……」
不意に彼が身体を反らせた。伝わってきたのは一際大きい快感の波と衝動で、ネイチェは何事かと彼の顔を見る。
彼は虚空を見つめていた。何かをこらえていた。ネイチェの方を見ていない。ただ、彼の周囲で揺れる蔦が、まるで鎌首をもたげる蛇のように、ネイチェのことを見つめていた。
「ああ、だめだ……あ……」
「せん、せ……?」
「抑えが……ああっ」
彼が一瞬ネイチェを見た、その目がまるで飢えた獣のように見えて。かと思った次の瞬間、空中を彷徨っていた蔦の一本がその先端を膨らまし、いきなりネイチェの背中に突き刺さったではないか。そしてそこで、温かな液体をたっぷり吐き出した。
「あああぁっ!? ああっ、んぅっあっ、あっ」
「ああっ、ネっ、ネイっ、はあっ、あっ、はっ、はっ」
ジェーレンは吐き出したその開放感に、ネイチェは泥の中に彼が混ざり込むその背徳感に、二人は揃って絶叫する。
「はあ、あ、ああ、いけ、ない」
彼は荒く息をつきながら、いましがた己が汚した泥を、手で掬った。もちろんそれも、ネイチェにとっては快感をもたらす刺激となるのだ。ネイチェは甘い吐息をはきながら、潤んだ瞳で彼を見上げた。
「んっ、せん、せ……んぅっ」
「ネイ、チェ。ネイ、だめだ。だめ、ああ、あっ……」
再び蔦が突き刺さってきて、また液体を吐き出した。ネイチェは絶叫する。もはや声にならない声で。
「!!!!!!!っ」
彼の指や、蔦や、根がかき回す刺激とは違う、液体同士が混じり合う感覚。ゾクゾクした。ゾクゾクして、ふわふわして、自分が自分でなくなるような。先生と一つになるような。もっと、もっとと懇願する気持ちが沸き上がってくる。もっと欲しい。私が、溶けてなくなるまで。彼もきっと、同じ望みを抱いているに違いなかった。だってほら、二人を取り囲み揺れる蔦は、みんな今にもはちきれんばかりに先端を膨らませていて。
「せんせ……ください。ぜんぶ、ぜんぶ……」
ジェーレンと目が合った。いつにないほど熱を帯びたそれは、まるで吸い込まれそうに思えた。ネイチェの意思を確認するような理性の光の後ろに、飢えと渇望を隠して、隠し切れなくて。ネイチェはうなずいて、蔦の一つに泥を絡ませた。すると、その理性のヴェールはふつりと消えた。
「ネイチェ」
彼が名を呼ぶ、次の瞬間、蔦は一斉にネイチェの身体を犯した。突き刺さり、まさぐって、かき回し、そしてそこここで蓄えた熱を吐き出した。
「ああああああアあああアアあアアアっっっ!!」
「うあああっ、あっ、ああっ! ああああっ!」
ジェーレンは身体を反らして痙攣しながら、ネイチェに熱を注ぎ続けた。彼の蔦がびくんと震えるたび、ネイチェの身体も痙攣した。
二人はドロドロに溶け合いながら、形をなくして一つに融合しながら、互いを貪りあった。理性をかなぐり捨てて、ただ望むままに、互いを求めた。
「ああ……ネイチェ。君は私のものだ。私のもの……誰にも、渡さない」
「せん、せ……わたしも……わたしも」
ジェーレンの恍惚とした表情は、彼を知るものが見たら目を疑ったことだろう。彼にもそんな顔ができるのか、と。ネイチェはその表情を見ているのが自分だけであることに、そしてその表情をもたらしたのが自分の存在であることに、背徳感と優越感とそれから独占欲を刺激されて、それだけでまた全身は甘く痺れるのだ。
「ん……んぅ、せんせ……」
甘えた声を上げて、頭を彼の顔に擦り寄せる。彼も応えて、口で彼女の髪に触れる。普段なら絶対にそんなことしてくれないのに。
「せんせ……あいしてる……ん」
「愛……」
「せんせぇ……すき。わたしの、わたしだけの、せんせぇ」
先生は、ネイチェの言葉に少し考える素振りを見せた。それから真面目くさった表情で――まだ恍惚の余韻が混ざってはいたが――ネイチェを見つめ、そして言った。
「ネイチェ、私を名前で呼ぶことはできるか」
「せん……ジェー、レン?」
「ああ、それでいい……もっとだ」
「ジェーレン……ジェーレン、あいしてる」
彼はまた恍惚を顔に浮かべて、ネイチェが名を呼ぶのを聞いている。呼ぶたびに彼の心が震えるのは、きっと悦びによるものだ。今のネイチェにはそれがわかったから、何度でも彼の名を呼んだ。それは彼女自身にとっても悦びだった。
「ネイチェ……ネイ。君は特別な存在だ。誰にも渡したくない――可能なら、誰の目にも触れさせたくない。私には強い独占欲がある」
彼の宣言は重たくて、でもいつも通り淡々としている。彼は事実を述べているだけなのだとわかったし、だからこそ、ネイチェはそれが嬉しかった。そして、続く言葉も。
「この独占欲がそれだというのなら――私もおそらく、君を愛しているのだろう」
「っ……!」
「ネイ、君を愛している」
それはおよそ彼には似つかわしくない言葉で、しかしこの場にもっとも相応しい言葉。それが彼から出てくるとは思わなくて、ネイチェは息をのむ。
思わぬことに反応を返せずにいると、彼は少し眉をひそめ、伺うようにネイチェの顔を覗き込んだ。
「愛している……は、不適当だったか?」
「い……いえ! いえ! そんなこと、ない……」
喜びのあまり涙が出てくる。先生の気持ちが本物であることは、種が伝えてきてくれた。
「うれし……ジェーレン、うれしぃ」
「そうか……ただの言葉が、こんな効果をもたらすとは」
知らなかった、と言って彼は薄く微笑んだ。
「ネイ、愛している」
「わた、わたしも」
ネイチェはジェーレンに口づけた。彼は最初戸惑った様子だったが、ネイチェが己の泥を彼の中にそっと絡めると、ゆっくりと蔦でそれを真似しだした。
「ん、ふぅ」
頭がぼうっとして考えがまとまらないけれど、少なくとも今自分が極上の幸せの中にいることは、疑いようがなかった。そしてネイチェがそうであることに、ジェーレンも幸せを感じているようだった。
「ジェーレン……あいしてる」
「私もだ」
二人はまた一つに溶け合いながら、甘い泥濘の中に堕ちていった。