短い短編(重言)
後半は、主要キャラの簡単な紹介まとめ。
目を開けたらそこに愛する人がいて、安らかな寝息を立てている。彼の寝顔を堪能しながら、ネイチェは幸せを噛み締めた。
寄り添って眠るのは、あの日から二人の日課になっていた。絡み合う日も、合わない日もあったけれど、必ず手を繋いで眠った。以前は徹夜で資料とにらめっこすることも多かったジェーレンだけど、この日課ができてからは、徹夜は一度もない。健康的でいいじゃないか、とネイチェはくすくす笑ったものだ。
ジェーレンの身体は細い蔦の集合体だ。顔や手も、蔦が集まって体裁をなし、魔力のヴェールが肌に見せかけているだけ。彼はいつも面倒くさがって顔と手しか形作っていないのだけど、眠っている今はヴェールが薄くなっているのか、その顔すらもうっすら蔦の模様が透けて見えていた。
「かわいい……」
こんなに油断しきった彼の姿が見れるのは、自分だけの特権に違いない。ネイチェは手を彼の頰に添えた。半液体の彼女の手のひらは、彼の頰の凹凸に沿って形を変えていく。彼の形になっていく――
「やだ」
思わず卑猥な想像をしてしまって、ネイチェは自分を諌めた。そりゃ、「そういう」書物に触れたことがないわけではない(むしろなかったなら、こんな言い回し知らないだろう)のだけど、それを認める勇気がないだけというか……要するに彼女はうぶなのだった。
なんだか恥ずかしくなって手を引っ込めようとしたら、がしり、とそれを捕まえられてしまった。ぱちりと目を開けたジェーレンが、こちらをじっと見ている。
「何をしていた?」
「えと、その、触ってただけ……」
しどろもどろと答えを返すと、彼はふむ、と小さく唸って、蔦を伸ばした。ネイチェの頰に。
「ジェー、レン」
「触ると心地よいな」
蔦はやわやわと動いて、ネイチェの頬をくすぐった。この短い間に、彼はすっかりネイチェの好む触り方を身に着けてしまっていた。ネイチェは気持ちよくて蕩けそうになる身体を、必至に引き止める。そろそろ起きる時間だ、いちゃいちゃするのはおしまい。
「ネイチェ……」
しかしジェーレンは、ネイチェの気持ちを知ってか知らずか、どんどん蔦の本数を増やしてくる。彼女の全身を抱え込むようにして、様々な部分を触って、撫でて、それから侵入しようとする。
「ん、ジェーレン、だめ……」
「なぜ」
「あ、んっ……お、起きる、時間だもの」
「気にするな」
触られるたびに身体を震わせながら、ネイチェはなんとか彼を押しのけようとした。けれど力が入らなくて、うまく行かない。頭の一部では、なんかもう、いいかな、とか思い始めている。
ジェーレンはすっかりネイチェにのしかかってしまった。彼の重さが心地よい。
「ナイルから求めがあったときに、参じられればよいのだから」
「それはそう、んっ、だけど……」
口でいろいろ言ったところで、ネイチェが誘惑に負けかけているのは、おそらく彼には筒抜けだ。のしかかられた身体は柔らかく波打って、彼に染みこもうとしている。
「ネイ……」
彼の低い声が耳元でする。ぞわぞわと鳥肌が立ち、口から甘い吐息が漏れる。身体の芯がきゅうと縮まって、彼が欲しくなる。
「でも、でも」
「愛している」
彼は止めの一言を放つと、ネイチェの肩口に顔をうずめた。魔力のヴェールも何もかも剥ぎ取ってただの蔦の塊に成り果てた彼が、人の形をも失いながら彼女を貪り始めた。
「あ、ああっ」
もうだめだった。我慢は無理だった。ネイチェはぶるりと身体を震わせると、彼に全部を委ねた。液体になった身体が、彼の中に染み込む。彼は蔦をネイチェの中に潜り込ませる。
「ああ……ネイ」
「ジー……」
お互いの身体を全身で感じながら、二人の輪郭が溶け合っていく。文字通り一つになっていく――
「――え、
「いやあ、仲睦まじいことで」
リュミエラは首を振り、レイオールは楽しげに笑う。
「はー、意外だったわ。あの研究バカが、こんな頭お花畑になっちゃうなんて」
「研究バカもお花畑も根っこは同じさ。結局二人とも一途で純粋なんだよ」
リュミエラは肩をすくめた。
「知ってる」
二人は顔を見合わせて苦笑すると、揃ってナイルの部屋へと足を向ける。
「またティールにどやされても知らないんだから」
「ジェーレンは何が悪い、みたいな顔しそうだけどねぇ」
「あー、しそう。てかするわ、絶対」
とりとめのない話に花を咲かせながら、二人は歩いていった。なんのかんの言いながら、仲間の幸せに自分たちの心まで暖かくなるのを感じながら。
―・―・―・―
ジェーレン・セイジ
魔物学の学者。非常に強い魔力を持つ。
他人に興味がなくマイペースな研究バカ。
無口無愛想無表情で、常に淡々としている。
知識欲旺盛。
ある事件によって魔物となった。
現在の姿は蔦の塊でほとんど植物。
研究バカは変わらず、むしろ自分の身体すら研究対象。
感知能力に優れ、森一つが彼の領域。
そこで起きたことは大抵把握できる。
蔦の先からは、様々な効能の樹液を分泌できる。
全身は細い蔦の集合体で、魔力のヴェールによって肌に見せかけている。
食事は日光と水とよい土。
ネイチェのことは、変な子だが優秀な助手、だと思っていた。
今は何よりも大切な恋人。本当はどこかに隠してしまいたい。
ネイチェ・ウィンストン
ジェーレンの助手。かつて彼の論文を読み憧れて、押しかけ助手となった。
明るくて健気で一所懸命。
ジェーレンほどではないが研究バカ。
ある事件によって魔物となった。
現在の姿は意思を持った泥で、決まった形を持たない。
身体のどこかにあるコアが本体。
色や形は自在に変えられ、
人間だったころの姿を好んで取る。
食性は肉食の溶かして食べるスライム系。
ジェーレンのことは尊敬している一方で、
放っておけない危なっかしい人、だと思っている。
今は何よりも大切な恋人。ちょっと愛は重いけど、それすらも幸せ。
ナイル
一同のリーダー。見た目は人間だがこれでも魔物。童顔で柔和な笑顔の儚げな青年で、見た目通り性格は温厚。誰にでも分け隔てなく優しく、争いは好まない。しかし、仲間を傷つけようとする者には容赦がない。
人から魔物になってしまった者たちを保護する活動をしている。最終的には、自分たちの存在を人間に認めさせ、共存するのが目的。
後の世では、魔王と呼ばれるようになる。
リュミエラ
蜘蛛の魔物。巨大な蜘蛛の頭部から、女性の上半身が生えたような姿。蜘蛛の逞しさも上半身の美しさも自慢。気が強く、暴れることを好む魔物らしい性格だが情に厚い部分もあり、仲間に対しては頼れる姉貴分として振る舞う。
ナイルに片想いしている。こう見えてそっち方面は純情で、なかなか想いを伝えられない。
レイオール
剣の魔物。キザなイケメン剣士だが、実は人部分は作り物の土人形で、剣が本体。時々顔が変わる。
飄々として本心を隠しがち。でも仲間が大好きすぎるのは紛うことなき本心。仲間が幸せならそれだけで幸せで、そのために自分を使うことを惜しまない。運命の相手に自分を使ってもらうのが夢。
ティール
人型の魔物。3M近い巨体にざんばら髪の、いかにもパワータイプの見た目だが、ナイルの参謀を務めるほどの冷静な頭脳を持っている。厳しい。ナイルが理想主義なら、彼は現実主義。
ナイルの理想を支持し、常に現実的な観点から支える、ナイルにとって兄とも父ともいえる存在。