まだ常識のあるネイチェと、純粋無垢なジェーレン。
子供なのはどっちだ。
ジェーレンは、私に絡みつくのが好き。なるべくたくさんの面積で、なるべくたくさんの時間、触れていたいみたい。彼と初めて一つになったあの日から、彼は隙あらば私を抱き寄せて、なんならすぐ、私の中に蔦を無数に差し入れてくるようになった。
それは私にとってもすごく気持ちが良くて、いつもうっとりしちゃう。今、彼が、私の中にいる。そう思うだけでドキドキして、ゾクゾクして、思わずいやらしい声が出ちゃう。もっと、って思っちゃう。私も大概だ。
だけど、さすがに人前でその状態になるわけにはいかないでしょ。彼は、それこそ何も気にせず、自分のしたいときにしたいようにする。できれば私もその求めには応じたいけど、だからといって、目の前のナイル様やティールさんをそっちのけにするなんて、失礼すぎる。それに、その……ドロドロになった私を見られるのも、恥ずかしくて無理。
だから、彼と少し話し合った。
人前ではエッチなことしちゃだめ、と言ったら、人がいないだけの場所……つまり例えば、たまたま留守にしてるリュミさんの巣の前とか、みんながよく集まる川原とか、そういうところでは遠慮なく触ってきた。もちろん姿は蔦玉で隠してくれたけれど、その蔦玉が丸見えなんだもの。彼はやっぱりどこかズレてる。……まあ、そういうところが可愛いし、放っておけないところなんだけど。
それで、ルールを作った。私が「先生」と呼ぶのは、触っちゃいけないとき。「ジェーレン」と呼ぶのは、触ってもいい合図。決めたとき、ちょっと悲しそうな顔をしたから、先生と呼ぶときでも手を繋ぐのだけは許可したけれど。許可したときのちょっと嬉しそうな顔は、すごく可愛かったなぁ。
ジェーレン先生は頭が良くて、なんでも知っている。私みたいな未熟者が、先生の助手として傍にいられるなんて、とても光栄なこと。彼は私の憧れで、目標だった。
でも一緒に仕事を始めて、彼が本当は子供みたいな人なんだと知った。難しいことを知っているのに、簡単なことを知らなくて。チグハグで、危なっかしくて。そんな先生が可愛いと思った。先生に頼ってもらえるのが、すごく嬉しかった。そのころからもう、私の中はジェーレン先生でいっぱいだったのかもしれない。
だけど、その時はまだ、こんな事する関係になるなんて思ってもみなかった。
私とジェーレンがしてることは、エッチなこと。自覚はある。人間で言う……その……セックス、にあたるのかはよくわからないけど、雰囲気だけはよく似て――ううん、えっと、したことはないけどね。人間だったころはね。
ええと、それで。それで、そういうことをするってことは、私たちは結ばれた……夫婦ってことになったって、言ってもいいのかなって。えへへ、いいんだったら嬉しいなぁって、そう考えちゃう。
もちろんジェーレンはそんなこと言わない。だけど、でも、私のこと絶対に手放さないって言ってくれる。一生離さないって――あ、あ、あ、どうしよう、顔がにやけちゃう。私は幸せ者だ。どーしよ、どーしよう。幸せすぎて、夢の中にいるみたい。これは現実のこと? 現実、なんだよね。えへへ。
もちろん私だってジェーレンを手放さないよ。私だけのジー。ううん、ジーだけの、私。私はジーのものなんだから。彼を愛してる。彼が大好き。大好きで、たまらない。一生ジェーレンの隣を歩いていくよ。もしかしたら、夫婦なんて言葉じゃ、足りないくらいに。
ネイチェに触れると、精神が安定する。その作用は何物にも代えがたく、心地いい。だから、つい、手が伸びる。
触れていると、新たな欲が出る。もっとたくさん触れたい。彼女を、そう、かき乱したい。ほかの何をも見てほしくない。私だけを見ていてほしい。誰にも触れさせたくない。見せたくない。誰にも渡さない。私だけのもの。強い強い独占欲。これを愛と呼ぶのだと、彼女に教わった。
彼女はどう思っているのだろうか? 彼女もまた、私を愛しているとそう言うけれど。彼女にも私と同じような、この強い独占欲があるのだろうか?
本当なら片時も彼女を離したくないのだが、同胞たちの要請があれば、応じなければならない。私には役目があり、そのためにここにいるのだから。だからせめてと彼女をつれて参じていたら、彼女を困らせてしまったらしい。困らせるのは本意ではない。だから我々は我々の振る舞いについて、話し合うことにした。
人前でエッチなこと――つまり、矢鱈と触れたり、絡み合ったりしてはいけないのだと、彼女はそう言った。私は気にしていなかったが、ネイチェはそれに羞恥を感じるようだ。
確かに、羞恥を抜きにしても、彼女と絡み合っている最中は集中がそちらに取られてしまうから、人の話を聞くのにあまりいい状態とは言えない。それは理解できる。だから、人の目のあるところでの触れ合いは最低限にした。その分、人がいないところでの触れ合いを増やしたら――そうじゃない、と言われてしまった。難しいことだ。
彼女から提案されたルールは、明確で分かりやすい。名の呼び方で行動指針を変える。それで彼女が満足するのであれば、私は喜んでそれに従おう。最低限として、手を絡めることだけは許可してもらった――それが、彼女も触れ合えないことに不満を感じて、のことであれば、私は少し、嬉しいかもしれない。
私たちの行為は、人間で言えば性行為に近いものなのだろう。そこに生物学的な交わりはなく、あるのは物質的、精神的な接触だけではあるが。もっとも、そこは今問題にすべきところではない。
人間の社会常識に倣うならば、そういう行為をするというのは、恋人、あるいは夫婦と呼ばれる間柄に限定されるはずだ。だがしかし、私とネイチェは、その呼び名で表せられるような間柄なのだろうか。いずれもあまり、こう、適切ではないように思うのだが。
私はネイチェに絡みつく。身体の全てで彼女を感じる。滑らかな泥が私の上で蠢き、その感触に私は思わず嘆息する。身体の芯が震え、もっと彼女がほしくなる。
彼女との交わりの最中、私の欲は際限なく高まっていく。その欲深さは自分でも呆れるほどだが、ネイチェは笑いながら、私はそれでいいのだと言う――本当だろうか。しかし、ネイチェが、ネイが受け入れてくれるのなら、事の真偽など無意味だ。私は欲のままに、彼女を貪る。彼女の漏らす声が、私に高揚感をもたらす。私は柔らかな泥の中に、自分を潜り込ませる。何本も、何本も。
彼女もまた、私の身体を包み込もうとする。泥が蔦を登り、私を取り込もうとする。すると私は、まるで彼女に捕食されているように感じる。そして、そう感じるごとに、頭の中に不思議な痺れが走る。この後ろ暗い悦びが、所謂、背徳感というものなのかもしれない。
彼女のお陰で、私は今まで知らなかった感情を、概念を、次々と理解しつつある。それはとても喜ばしいことだ。ともに探求者として歩んでくれる存在というだけでも得難いのに、いわんや。
私はもっと、ネイチェと、合一の存在でありたいと思う。彼女に触れ、交わり、時には共に思索にふけり、言葉を交わし、未知へと挑む。全ての道程を、彼女とともに歩みたい。恋人だの夫婦だの、既存の言葉では表せられない……それとも、私が知らないだけで、この関係を表す言葉があるのだろうか。
ジェーレンの一人称書くの楽しすぎる。
二人にもっといろいろしてほしいので、ジェーレンに催眠とか呪いとかかけたいんだけど、多分この人そーゆーの効かないタイプよね……と思って困っています。