※この作品はR-18です。

お嬢様ごめんなさい、今日も別の女に抱かれました……   作:伊藤着

3 / 15
第3話

 

 

「シモンくんっ!今日からここがアナタの家よぉっ!」

 

 

 結局、ドロシーさんにお世話になることになった。

 

 あの後、ドロシーさんから暴走したことを謝られたり。

 甘い雰囲気でピロートークを交わしたり。

 俺が異世界から来たことを打ち明けたり。

 色々、話した。

 

 まあ、異世界うんぬんについては半信半疑だったみたいだけど。彼女と情を交わしたお陰なのか、特に追求されることもなく。

 一通り話し終えた後、ドロシーさんは俺の手を掴んで、ある提案をしてくれた。

 

 

『行く宛がないんなら、さ!ウチに来なよ?!ね?ね!?』

 

 

 渡りに船。

 俺に断る理由などなかった。

 ……いや、一応浮気えっちのようなことをした関係上、彼女の夫だけは怖いし、そこは断る理由にはなるのだが。

 

 ドロシーさん情報では夫婦関係はこの上なく破綻しているらしい。

 

『アイツは他所で女作って、家にも居ないから気にしないで!』

 

 と、ドロシーさんは言う。

 少しばかり罪悪感は感じたものの、他に行く宛などあろう筈もなく。

 まあ、彼女のお世話になった訳だ。

 

 

「ドロシーさん、……いえ、これからはドロシー様、ですね。お世話になります」

 

「もうっ!硬いよシモンく~ん。呼び捨てでいいのにぃ~♡」

 

 

 そうはいかない。

 これから彼女は俺の雇用主になる。

 行く宛もなく、誰かの助けがなければ野垂れ死ぬであろう俺を救ってくれた彼女。

 そんな彼女に不義理はできない。

 

 

「いえ、そういう訳にも……、執事として働く訳ですし」

 

「形だけみたいなもんじゃ~ん。それに、ね?いずれは、ほら、ね?」

 

「?」

 

 

 いずれは。なんなんだろう?

 執事長とかにしてくれるんだろうか?

 いや、多分違うんだろうな、何のことかは分からないけど。

 

 

「とりあえず、一般の執事から始めて貰うけど、娘とは仲良くしてね?やっぱり皆仲が良いのが良いからぁ~」

 

「分かりました、もちろん、打ち解けられるように努力します」

 

 

 ◇

 

 

「……ま、ママ!ママぁ!ボク、この子がいいよぉ!」

 

 

 ニコお嬢様と初めて会った日。

 開口一番のセリフが、それだった。

 

 セリフも凄いが、何よりも特徴的だったのは彼女の表情。

 可愛らしい唇は、だらしなく弧を描き。目はとろんと虚ろであるが、情欲を感じさせる。

 どこか恍惚としていて、それでいて力強い。

 

 表情豊かな彼女を見て、人ってこんな顔が出来るんだな。と俺は思った。

 

 

「えぇー……、ニコちゃん、それはちょっと……」

 

「専属執事!専属執事にして!ボクの専属が良いの!お願いお願い!!!」

 

「えぇーーー…………。うーん、それじゃあ、そうねぇ」

 

 

 腕を上下に振りながら、駄々をこねる少女へ。

 ドロシーさんは顎に指を置きながら、困ったように答える。

 

 

「シモンくんには、夜のお仕事があるからぁ……♡昼間の間だけ、ニコちゃんの専属ってことなら、いいわよ?」

 

「やったぁーーーっ!!!昼だけでも全然良いよ!ママ、ありがとう!!!」

 

「シモンくんとニコちゃんには仲良くしてほしいからね、特別よ?」

 

 

 勝手に、業務が決まってしまった。

 しかし、ふと疑問に思ったのだが。

 これ、もしかして昼も夜も、仕事あるんですか?

 

 いや、贅沢言える身分じゃないけども。

 労働環境的には、ホテルマン時代のがマシだったりするのかな?と。

 ほんのちょっとだけ、不安になってしまった。

 

 

 ◇

 

 

 ということで、ニコお嬢様の執事となり彼女に付き合うことになったわけだが。

 

 

(な、なんてチョロい仕事なんだ…………)

 

 

 俺は、あまりの仕事のぬるさに愕然としていた。

 

 

「ほらぁ、シモ~ン。早く食べさせてよぉ」

 

「……はいはい」

 

 

 それはまるで、小鳥に餌をあげるかのよう。

 

 

「あ~ん♡」

 

 

 パクッ。モグモグ。ゴクン。

 

 

「ほらぁ、早くぅ~♡」

 

「ちゃんと噛んでくださいね?」

 

「うんっ!あ~むっ♡」

 

 

 食べるに当たり、なんの技術も要さないスプーン。

 それを何故か俺がお嬢様の代わりに掬い、穀物と果実の混ざったシリアルみたいなものを、ただただ彼女の口に運んでいる。

 ……これ、俺がやる意味あるのかな?

 というか、こんなことまで人にやらせてたら、この子はロクな大人になれないんじゃなかろうか?

 

 

「えへへへぇ♡」

 

「……笑ってると、零しますよ。ホラ、拭いてください」

 

 

 この仕事にやり甲斐があるわけではない。

 けれども、笑う彼女を見れるから、決して嫌いではなかった。

 

 

 ◇

 

 

「ねえ!シモンって彼女は居るの?」

 

「……居るように見えます?この顔ですよ?」

 

 

 生まれてこの方、女性にモテたことはない。

 まあ、この世界に来てからはモテているかもしれないが、勘違いしてはならない。

 ドロシーさんがヤらしてくれたのも、家に連れてきてくれたのも、きっと何か理由があったのだろう。

 それが運良く俺にハマったからと言って、俺のことを好きとは限らない。

 

 俺はモテない男だが、一度寝たからといって相手を私物化するクズになる気はない。

 あまり調子に乗らないほうがよいのだ。ブサイクはブサイクなりに身の程を弁えなければ。

 

 そんな本心から、ニコお嬢様にそう告げる。

 

 

「…………なにそれ、嫌味っ?」

 

「えっ?」

 

 

 けれど、俺のそんな謙虚な姿勢に彼女は初めてムッとした表情を見せた。

 拗ねるように頬を膨らませ、パッチリとした瞳を釣り上げて不満な気持ちを伝えてくる。

 

 

「シモンより格好いい人なんて、ボク見たことないよっ!彼女居るように見えるよっ!これで満足っ?」

 

「格好いい、ですか……」

 

 

 ニコお嬢様の、冗談とは思えないが信じられない言葉。

 生まれてこの方、容姿を褒められたことは無い。

 俺が格好いいなんて言葉は、普段ならば笑ってジョークとして流していることだろう。

 

 ーーーーーしかし、ここは紛れもない異世界。

 ならば本当に、元の世界とは美醜観が違っていて、俺はこの世界ではイケメンなのかもしれない。

 …………まあ、そうだよな。そうでもないとドロシーさん抱けないよな。

 ただのブサイクな異邦人を抱いてくれるなど、聖母を通り越して狂人の類だ。

 

 しかし、この俺がイケメン、かぁ。

 

 

「すみません、ニコお嬢様。変な言い方をしてしまいまして。……俺には彼女はいませんし、できたこともありません」

 

「えっ!?本当!本当の本当に、本当!?」

 

「はい、本当です」

 

 

 俺の言葉に、お嬢様はニチャリと、少し粘り気のある笑みを見せた。

 

 

「ふ、ふひひ。それは、良いニュースだねぇ……。ねぇシモ〜ン、君はボクの専属執事なんだから、勝手に誰かと付き合っちゃダメだよ?」

 

「えっ?そうなんですか?」

 

「そうそう、そうなんだよ。この、ノーヴィ家に仕えた以上、身内が変な人と付き合っちゃマズいからねっ!ぜぇったい交際するときはボクに報告するんだよ?いいね?」

 

「はぁ、分かりました」

 

 

 聞いてなかった話ではあるが、まあ問題ないだろう。

 俺がこの世界基準で、仮にイケメンだったとしても、顔面偏差値だけで人と付き合える訳ではない。

 コミュ障気味の俺が、誰かと付き合うことには中々にハードルがある。

 だから、そうそうニコお嬢様に報告が必要なことなどないだろう。

 

 

「よろしい!」

 

 

 彼女が満面の笑みで頷いた瞬間。

 夕刻を告げる鐘の音が、屋敷に響いた。

 

 

「あっ、お嬢様すみません。そろそろドロシー様の下に行かなくてはなりませんので、失礼いたします」

 

「え〜、もうそんな時間なの〜。ママは無視して、もっといてよぉ〜」

 

「そういう訳にもいきませんので」

 

「つまんないよぉ〜。……というか、夜の仕事って、なにするの?」

 

「いえ、俺にも分かりかねます。事務仕事ですかね?」

 

「どーだろ?……まあ、いいや。シモン、また明日!」

 

「はい、また明日」

 

 

 ◇

 

 

 日が沈み、空から太陽の明るさが消えた頃。

 寝ていたニコの耳に、獣のような声が聞こえてきた。

 思わず、何事かと目を覚ます。

 

「なに……?」

 

 寝ぼけ眼を擦って辺りを見るが、特に異常もなく。

 窓から付近を見渡しても、何事もなかった。

 先ほど聞こえてきた、変な声も今は聞こえない。

 

 人騒がせな、と彼女は思いながらナイトキャップを深く被る。

 今日は、幸せな夢、シモンと結ばれる夢を見るのだと心に決めて。

 

 彼のことを考えながら、また眠りについた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ああっ♡シモンくんっ♡大好きっ♡ニコの兄弟、産ませてぇっ!!!」

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。