とある魔女の性癖被虐譚 作:ポムポム
地上階は粗方、見て回った。残るは地下に広がる階層のみである。地下へと続く階段は城内の北西に存在していた。
「今は昼間ですから地上階は明るいのですが、地下だとそうはいきませんね」
地下へと続く階段を上から見下ろす。その先は暗くて照明が無ければ全く見えないくらいの暗闇が広がっているのが分かる。
シノアは指先に意識を集中させる。その直後に指先から小さな光を宿す球体が生まれ、浮かび上がり生命を宿したかの様に宙に浮きシノアの肩付近を定位置と定めた。コレでシノアが動けば追従する形でその光も動く。
「さ、行きましょう」
光源を確保して、暗闇を照らしながら階段を降りて行く。光が照らす目下の空間を照らすが、それでも踏み外して転げ落ちない様に慎重に降りて行く。
やがてその足は広くて安定した石畳の床を踏んだ。如何やら地下の階層に着いたらしい。光源を動かして自身の前へと先行させた。
「コレは……期待出来そうですね」
地上階も立派であったが地下階も相応の広さを備えているのだと分かった。目に入るだけでも2部屋程あり、廊下の先には曲がり角があってまだ続く事が分かる。
光源を呼び戻し先ず、1番近くの部屋の扉を開けて中へと入る。
「……備品を管理する部屋、ですね」
部屋の中央には大きめのテーブル。壁際には各種、備品を保管する為の木箱が置かれていた。蓋には鍵が掛かっていないので、すんなりと開かれる。
「……ありました」
蓋を開ければ其処には重厚そうな鎖に繋がれた鉄製の枷が無造作に詰め込められていた。
「足枷ですね。隣の木箱には鎖が短い事から手枷……その隣には首輪が入っています。必要最低限の備品があって助かりましたね」
木箱に納められている備品、もとい拘束する為の道具がある事を確認する。余り錆びておらず、殆ど使われなかった事からかつてこの地の治安は良かったのだと察せられた。
「うーん、本音を言えば異質物とかの特殊な拘束具の類があれば良かったのですが、流石に当時は辺境と言う立地の件もありますが、そう言った現象とは無縁だったのかも知れませんね」
異質物とは、言わばこの世界の技術力では製造が難しいかったり、奇抜なデザイン製であったりと言った未知のオーバーテクノロジーが使われた道具や武器の事である。この世界では稀にそう言う物品が発見される事がある。
大抵の場合は、その奇妙な構造や使い道の不明さから貴族階級の収集物やら展示品として扱われる事が大半である。国の中には異質物を研究する機関が存在する。シノアは過去に、その機関から誘致を受けた事があったからだ。
その理由は、シノアには鑑定魔術も得意としているからである。その物体の名称、特性、内容を看破する事が出来る。その精度も群を抜いている為、研究機関は挙って勧誘を続けているが、案の定悉く断り続けている。
「無いモノ強請りをしても仕方ありませんね。最低限の拘束具がありますから、上手く工夫して使いましょうか」
拘束具の確認を終えた後、反対側の壁際の棚を調べてみると、其処には鍵束が入っていた拘束具の鍵である事が分かる。別の棚には番号が刻印された鍵も見つかった。
その鍵を持って備品管理室を出て廊下の奥へと進む。
「地下室と言えば、やはり地下牢ですね」
曲がり角を進んだ先に見えたのは鉄格子で閉ざされた牢屋。その数は三つ程、此方も余り使われて居なかったのか錆は余り見受けられられない。
持ち出した鍵の1つを鉄格子の扉の鍵穴に入れて回す。入って回せる事からちゃんと使える事を確認する。序でに他の牢の鍵も機能するか確認しておく、鍵穴の中が壊れて動かないと言う事は無さそうだ。
「……一応、近くで見ておきましょう」
壁には鎖で繋がれた首輪と足枷、天井から垂れ下がる鎖には手枷と繋がっている。錆も見受けられない事から使われた形跡が無さそうだ。
「さて、他には……特に特徴的なモノはありませんね」
他には特筆する様なモノは無かった為に、其の儘、牢を出る。
「場所の確認は出来ました。備品の確認も出来ましたし……演出として足りない分は、収納魔術に入れてあるモノで補うとしましょう」
調べた結果、魔物の類は確認されず安全な場所である事が判明した。となれば本命の『趣味』を実行する事にした。頭の中でその計画のピースが次々と組み上がって行く。
「人員はあの盗賊団を使いましょうか。流石に盗賊の格好では雰囲気が出ませんし鎧の類や服の類は……この城にあったモノを使いましょう」
嬉々としてその計画を思い描く。必要なモノは粗方は揃っている。流石に完璧に出来るとは言い難いが多少の誤差は目を瞑ろう。
『付与魔術』の最大の応用、それは人間の意識を改竄する事である。記憶や性格、自意識を弄り操る……言わば洗脳と大差ない技巧であった。
シノアがあの時、盗賊団を気絶させる事に留めたのは自身の『趣味』に付き合わせ使い潰す為であった。普段彼らは何気なく普通に行動をしているが、シノアがその気になればその盗賊団を自分の思う通りに動かす事が出来る。遠方から無理矢理呼び寄せたり、こうして『趣味』の為の人員として使う事が出来る。
「……そうですね。領土内である事を知らずに入り込んで不法侵入である事を疑われて捕縛、牢に入れられて王に奴隷花嫁として献上される……大筋はコレで良いでしょう。その後の事は、その時に考えましょう」
シノアの『趣味』。
それは、自分が敗北し拘束されたり、捕虜にされたり、奴隷にされたりと言った、被虐や敗北願望を自ら計画して演出して楽しむ自虐かつ倒錯的な内容であった。
自然な形で盗賊や国の兵士に捕まると後が大変で自分が楽しむ余地が無くなってしまうし、色々な意味で困る面が多くなり、今後に支障が出てしまう。
その為、自分が計画して演出し、後腐れ無く終わらせる必要がある為に付与魔術をフル活用して行なっている。
「では、盗賊団を改め……『キルト伯』の人員を呼び寄せましょうか。事前準備が必要ですし」
シノアは早速、準備の為に放置していた盗賊団の自意識に干渉してこの古城へと向かう様に仕向けるのだった。