レズビアンに男の良さを教えたいという男は✕ねばいい!? 作:テンプテーション
8月。私は同窓会に出席するために夜行バスに乗り予約していた窓際の座席に座り、ぼんやりと窓の外を眺め出発を待っていた
バスの座席は四列シートで二列が女性専用座席であとの二列は男女兼用座席。座席と座席の間はカーテンで仕切れるようになっている。トイレあり。
女性専用バスよりは価格が安く女性、とりわけレズビアンには優しい車両だといえる。
暫くすると私の隣の座席に三十代前半とおぼしき女性ではなく中年男が座った。
私の予約した座席は当然、女性専用座席ではなく男女兼用座席の窓際だったのだ。
バスが発車して暫くすると隣の中年男が話しかけてきた。中年男は新井と名乗り、36歳で独身お盆休みに実家に帰省するのだだと言った。私も自己紹介をして一人旅だと言った。本当は同窓会の為に帰省するのだが敢えて本当のことは言わなかった。すると中年男は
「君みたいな素敵な女性が一人旅だなんて…もしかして彼氏にフラれた傷心旅行なの?」
そう質問してきた。私の狙い通りの反応だった。同窓会での帰省ではこの質問を引き出せない。私の心臓はドキドキと高鳴り体が火照るのを感じた。私は少しもったい付けてから
「別に…そういうわけじゃないんですけど」
「あっ、もしかして、旅行先に彼氏がいるとか?」
この中年男は私のことを異性愛者だと信じて疑っていないようだ。これは嬉しい反応だった。現代社会では目の前に異性がいたとしても異性とは決めつけてはいけないし異性愛者と決めつけてもいけない。そういう意味で、この中年男は現代社会を生きる人間として失格と言える。この中年男は職場でLGBTQや性の多様性についての研修を受けていないのかもしれない。この中年男の職場はじきにつぶれてしまうだろう。それとも、この中年男には研修など何の効果もなかったのかもしれない。しかし、私は中年男を軽蔑したりはしなかった。寧ろ、その逆だった。私は、想わず生唾を飲み込んだ。私が中年男を異性愛者だと決めつけることはかまわない。なぜなら中年男は明らかに私に対して下心を持っているからだ。もしかしたら中年男は男性の体に産まれたが心は女性で恋愛や性愛の対象は女性という可能性はあったが私はそのタイプには魅力は感じないので、その可能性は除外することにしている。私は中年男に旅行先に彼氏がいることを否定した。暫く沈黙が続いてから
「私…彼氏はいたことないんですよね」
中年男は私の台詞に、かなり狼狽したようだった。中年男は私を処女だと思い、そのことが信じられないようだった。再び沈黙が続いてから中年男が
「えっ?ええっ?あっ…彼氏はってことは…もしかして…」
この中年男は、とてもカンがいいようだ。私は、ゾクゾクして、また生唾を飲み込んだ。
「彼女は…いたことあるってことかな?」
私の頭の中で空に虹の橋がかかり天使が舞い降りて教会の鐘か鳴り響いた。
「はい、そうです。私、レズビアンなんです」
夜行バスの隣の席に座る中年男にそうカミングアウトしたとたん私の性的興奮は極限状態に達して自慰行為がしたくて堪らなくなっていた。私は座席の座面に尻を擦り付けてクリトリスを刺激した。
私はバスに乗っている間に隣の座席の中年男性がレズビアンで男との交際経験の無いことをカミングアウトした私に対して思う存分セクシャルハラスメントをしかけてくれることを願った。そして私はそれに打ち勝ってみせる。私は心の中で隣の座席に座る中年男に対して
(ねぇ旅の恥はかき捨てだよ)
そう思っていた。
私自身も夜行バスの中で思う存分、旅の恥をかき捨てるつもりでいた。