「じゃあ、証拠見せてあげるよ」
「ちょ……急にパンツ脱いでなにして――」
「ほら」
「……はえ」
私は今、間違いなく人生で一番間抜けな顔をしているだろう。
でも、それも仕方のないことだ。
だって――
「マジで
そこに有り得ないものが付いていれば誰だってこうなる筈だから。
◇
私――
勉強はそれなりにできる方で、人付き合いも特に苦手というわけじゃない。
身長こそ平均よりも小さめだけれど、私なりに可愛く見えるメイクやファッションなんかに気を使ったおかげで、入学して三か月ほどが経った今ではクラスでもそこそこイケギャル(イケてるギャルの略)ポジションを確立できていると思う。
そんな順風満帆なスクールライフを謳歌している私は、あわよくばこのままイケメンの彼氏なんかも作っちゃったり……なんて考えちゃうほどには浮かれていた。
しかし、そんな矢先に――私は今、人生で最もおかしな体験をしている。
――事の発端は、いつも通り友人がくだらない冗談を言ってきたところから始まる。
曰く、『あたしチンコ生えてんだよねー』と。
普通なら何を言ってるんだとドン引きして終わりなんだろうけど、私も私で彼女とはかなり仲の良い方だと思っていたので、『またまたー』なんて笑いながらスカートの中を覗き込んでしまった。
そして――私はそこで、やたらもっこりしてる友人の股間を目撃してしまったのだ。
「えーっと……パンツの中に小物とか入れたりするタイプ? 珍しいね」
「そんなワケないでしょ。マジで生えてんだって」
「いやいや、いくらなんでもそんな嘘には騙されないって」
「あ、そう? じゃあ、証拠見せてあげるよ」
「ちょ……急にパンツ脱いでなにして――」
◇
そして、現在に至る。
「えっと……一応確認なんだけど、本物だよね? その……それ」
「うん。まごう事なきチンコだよ」
「そ、そっか……」
私の目の前でパンツを下ろし、スカートを捲ってプライベートゾーンを見せつけてくるギャル。
彼女はクラスメイトの
実際その性格も容姿に違わず明るくてノリが良く、冗談や下ネタもバンバン言うタイプで、クラスの中心にいる陽キャ中の陽キャって感じ。
入学式の時にたまたま隣の席になって以来、よく話すようになった子で、今では立派な親友と言える関係だと思う。
そんな彼女と放課後に2人で立ち寄ったカラオケで、まさかこんな展開になるとは誰が予想できただろうか……。
「まさか本当に生えてるとは……」
「だから言ったじゃん」
「いや、確かに言ってたけどさぁ……」
「え、逆になんだと思ってたの」
「それはほら、普通に冗談っていうか……頭のおかしいアイリの妄言だと思ってた」
「ひどっ」
人生最大の混乱に見舞われている私とは対照的に、下半身をボロンと露出している彼女はいつも通りけろっとしていた。
他に誰もいない個室とはいえ、どういう神経してんだこいつ。
「……とりあえず、それ仕舞ってくれない? 目のやり場に困るんだけど」
「あ、ごめん」
私の言葉で思い出したようにイチモツをしまうアイリ。
……うわ、結構デカいな。いや、そんなとこ見てる場合じゃない。
「で、どういうこと? なんでアイリにおちん……それが生えてる訳?」
「おちん……だって。ふふ、ユキ思ったより初心じゃん」
「う、うるさいな! こちとら初めて生で見るんだからしょうがないだろうが!」
からかうように言うアイリに、私は赤面して言い返す。
これでも私だって年頃の女の子だから、そういう知識は人並みにはある。
でも、だからってエッチな単語を堂々と口にできるほど乙女を捨ててはいないのだ。
「そんな可愛い反応されたら、もっとからかいたくなっちゃうじゃん」
「こ、こいつぅ……!」
小馬鹿にしたように笑うアイリに私は思わず掴みかかりそうになるが、なんとか思い止まる。
いけない、この変態ギャルにまともに付き合っていると話が進まない。
「はあ……それで、真面目な話。結局どういうことなの?」
「だから何度も言ってるじゃん。あたしは生まれつきチンコ生えてんの」
確かにアイリは以前からそういった旨の発言をしていたけれど、正直今まではギャグの範疇だと思っていたし、他の友人たちも所詮は冗談だと聞き流していた。
だがしかし、先程の光景を目の当たりにしてしまえば、もうそうは言っていられない。
「生まれつきって……もしかして、アイリって実は男の子だったりする?」
「そんなわけないでしょ。あたし、どこからどう見ても美少女じゃん」
「うん、まあ……」
そう。確かにアイリは結構整った顔立ちをしている。
自分で美少女とのたまうところはアレだし、言動の節々からは女性らしさの欠片も感じられないが……。
それでも黙っていれば美人と称するには十分な見た目をしているので、彼女が女であることは疑いようがない。
「じゃあ、なんでアイリにあんなものが……?」
「それは、普通にふたなりだから」
「いや、ふたなりって……。マジ?」
「マジ」
ふたなり――エッチなイラストや漫画でたまに見かける、女の子にやたら立派なアレが付いているアレだ。
その設定自体はさほど珍しくもないが、現実となると話は別で、”そんな人間は実在しない”というのが私含めて大半の人の認識だろう。
「いやでも、そんな漫画やアニメじゃあるまいし……」
「そうは言っても、実際あたしチンコもマンコも付いてるしねぇ……。もう一回見とく?」
そう言って再び自身のスカートを捲り上げようとするアイリ。私は慌ててその手を掴んで止める。
「いや、いい! いい! もう二度と見せなくていいから! というか仮にもJKなんだから、ち、チンコとかマンコとか連呼するんじゃありません!」
「ちぇー」
なんでこいつはこんなに恥じらいがないんだ……。いや、今さらか。
「はあ……もう、分かったから。アイリが女の子なのに生えてることと、友達にそれを見せつけてくる変態ってことは理解した」
「理解早くて助かるわ。流石はユキ」
「……素直に喜べないなあ」
なんだかもう色々と諦めた私は、改めてアイリに向き直る。
「それにしても、なんで私にそんな大事なこと打ち明けたの? 別に言いふらしたりはしないけど、結構デリケートな問題だと思うんだけど」
「そりゃあユキには伝えておかないとって思ったからだけど」
「……え、それってどういう……」
私はアイリの言葉に少しドキッとする。だが、それを悟られないよう平静を装って尋ねる。
すると彼女はいつもの調子であっけらかんと言った。
「だってユキって、あたしの一番の友達じゃん」
「え……あ、そりゃどうも……」
思っていたよりストレートに好意をぶつけられ、普通に照れてしまう。
アイリとはなんだかんだで入学してから一番長く一緒にいるし、私としても彼女が一番の友達であることに異論はない。
「だから、他でもないユキにだけは知っておいて欲しかったんだよね。あたしの秘密を」
「……そっか」
なんだかよく分からないけど、アイリなりに私のことを信頼してくれているということだろうか。
そう思うと悪い気はしない。
「で、正直に答えて欲しいんだけどさ」
「な、なに?」
私が少し気を良くしていると、アイリは急に真面目な表情になって言う。
「ユキって、あたしのこれ見てどう思った?」
「どうって……」
「正直に答えて。別に怒ったりしないから」
「う、うーん……」
アイリの真剣な眼差しに気圧されつつ、私は考える。
正直に言えば……うん、驚いた。確かに驚いたけど――。
「まあ……別に? ちょっとビックリしたけど、それだけかな」
「ほんとに? あたし、女なのにこんなモノ付いてるんだよ? 気持ち悪いとか、思わない?」
「思わないよ。アイリが女でも男でもふたなりでも、私の友達ってことに変わりはないし」
私がそう告げると、アイリは鳩が豆鉄砲を食らったような顔で固まった。
そして、そのまま数秒ほど経った後……。
「はあ~~~……」
彼女は大きなため息を吐いてその場にしゃがみ込んだ。
「……え、なに? なんで急にそんなでかいため息吐かれてんの?」
「いや、なんかこう……ユキってほんとそういうとこだよ」
「は、はあ?」
よく分からないことを言い出すアイリに困惑する私。
すると、彼女はしゃがんだままほんのり赤く染まった顔をこちらに向け、ぼそりと呟いた。
「もう、ユキがそんなんだから、あたしも本気になっちゃうんじゃん」
「え、本気って……?」
アイリは急に立ち上がる。
「もう、どうなっても知らないからね」
「え、ちょ……なになになに!?」
そしてじりじりとにじり寄ってくると、私の肩を掴んで壁に押し付けた。
アイリと私の顔は、互いの吐く息が届くほどの至近距離まで近づいている。
「あ、あの……アイリさん?」
「あたしね、今まで友達はいっぱいいたけど、こんな気持ちになるのはユキが初めてなの」
「えっと……どういった意味でしょうか?」
「もう、鈍いなあ。だから、あたしはユキのことが大好きですってこと」
「は……え……?」
「ねえ、ユキ。あたしと付き合ってよ」
「はいぃ!?」
突然の告白に、私は思わず素っ頓狂な声を上げる。
いや、なに!? 急におちんちん見せつけられたと思ったら、今度は告白されたんだけど!?
「え……なに? アイリってもしかしてそっちの人なの?」
「どう思ってくれてもいいよ。とにかくあたしはユキが好き」
「す、好きって……どうして私なんかを……」
ちょっぴりときめいてしまいそうな自分の心に気付かないふりをして、私は尋ねる。
するとアイリは真剣な眼差しで答えた。
「だって、ユキっておっぱいデカいじゃん? 顔も可愛いし。腰回りも安産型でいい形してるし……」
「身体目当てかよ!」
最低の答えに私の中の告白成功ゲージがマイナスに振り切れる。
こいつ、やっぱりただの変態じゃないか!
「あ、でももちろんそれだけじゃないよ?」
「じゃあ何! いや、いい! やっぱ聞きたくない!」
「もう、なんでよ。せっかくユキのいいところを語ってあげようと思ったのに」
「私のおっぱいガン見しながら言われても説得力ないんだわ!」
私は両手で胸元を隠しながら叫ぶ。
「ねえ、ユキ……いいよね? あたしの彼女になってくれるよね?」
「やだよ! どうして今のでいけると思えたの!?」
「え、ダメ?」
「むしろなんでOK貰えると思ったのか聞きたいよ!」
頭のネジがぶっ飛んでるとしか思えないアイリの滅茶苦茶な告白にドン引きしつつ、私は彼女から距離を取ろうとする。
しかし――。
「こーら。なんで逃げようとするの」
「うぎゃ!?」
そんな私の手を絡め取り、そのまま壁へと縫いつけるアイリ。
そして甘い声で囁いてくる。
「ねえ、ユキ……あたし本気だよ?」
「ちょ、近いって……! てか力強いなおまえ……!」
なんかすごく怖いので必死に抵抗するが、アイリは思いのほか力が強く、振りほどくことができない。
そうしてアイリの手を引き剥がすのに悪戦苦闘していると、彼女は顔を耳元に近づけてきて――。
「あむっ」
「ひゃあんっ!?」
なんと私の耳を甘噛みしてきたのだ。
その瞬間、全身がぞわっとした感覚に襲われ、私は悲鳴を上げてしまう。
「な、ななな何やって……!」
「んー? 味見」
「味見って、私は食べ物じゃないんですけど!?」
「あはは、そりゃそーだ」
アイリは私の反応を楽しむように笑いながら、今度は耳の輪郭に沿って舌を這わせてくる。
生温かいざらついたものが触れる感触に、私は再び体を震わせた。
「ひぅっ……や、やめ……ぁんっ」
「ふふ、可愛い声出すじゃん」
「う、うるさい! いい加減に……しろぉっ!」
さすがにこれ以上はシャレにならないと判断した私は、渾身の力でアイリを突き飛ばした。
その隙に私は距離を取り、舐められた耳を手で押さえながら彼女を睨み付ける。
「はぁ……はぁ……もう、なんてことするのさ!」
「えー? あたしはただ、ユキともっと仲良くなりたいなーって思ってるだけなのに」
「だからって……! こ、こんなことしなくても普通に今まで通り友達でいいじゃん!」
「それじゃあ満足できないから困ってるんじゃん」
「な、なんで……?」
「そりゃあ……ねえ?」
「やっぱ身体目当てじゃねえか!」
再び胸元に視線を送るアイリに私は叫ぶ。
もうほんと最低だなこいつ! いやまあ、前から変な奴だとは思ってたけど!
「ねえ、ユキ。もう1回聞くけど、あたしと付き合ってよ。なんなら友達以上恋人未満でも構わないからさ」
未だ私の混乱が収まらない中、アイリは少し真面目なトーン改めて告白してくる。
正直、彼女のことは嫌いではないし(今日のことでだいぶ引いたけど)、一緒にいて楽しいとは思う。
でも、恋人となると話は別だ。そもそも私はノーマルだし、女友達のアイリをそういう対象として見ることなんてできない。
「悪いけど、私そういうつもりないから」
私はアイリの目を真っ直ぐ見て、ハッキリとそう告げる。
「そっか、残念」
すると彼女は意外にもあっさりと引いた様子を見せた。
少し拍子抜けしたが、何にせよこれで諦めてくれたなら一安心だ……と思っていたのも束の間。
「……じゃあ、これからガンガンアタックするから覚悟しといてよ?」
「いや、なんでそうなるの!?」
私の平穏なスクールライフは、どうやらこのふたなりギャルによってブチ壊されそうです。