NEOクガネは燃えた…だがまだ戦の足跡は少しずつ近づいてくる。
平和と安寧を享受していたNEOクガネに破滅の嵐が吹き荒れようとしている。

1 / 1
この作品は楽画鬼shikiさんのFF14の二次創作である駄菓子屋あんらく堂の三次創作になっております。
FF14、及び駄菓子屋あんらく堂の展開に何ら寄与する物では無い事、多数のキャラクターをキャラクター主様よりお貸しして貰っておりますが、解釈違いが起こる可能性がある事をご理解の上閲覧して頂けると幸いです。
そしてこの作品によって起きたトラブルはFF14運営様、楽画鬼shiki様に一切の責任を負うことが無い事も御理解願います。


第1話

多からずとも、少なからずの民家が焼け落ち、遺体亡き墓標が無数に建てられる。

その墓標も、もはや墓石では無く、その辺の材木を使って建てられている。

墓石を使おうと思っても足りぬのだ。

それだけ犠牲者の数が多いのだ。

身元も分からなければ五体満足の遺体などほぼ存在せず大概が正体不明の肉塊となっていたが、お遣いが人間しか襲わなかった故にこれら肉片が人間であった物と位置付けるのは容易な事だった。

民衆は怒りや哀しみを向ける矛先を見失っていた。

幕府を弾劾しようにも城も全焼を免れだが損傷し、多くの武士が負傷ないしは戦死している。

異国人を弾劾しようにも、その場に居た民間人は同じく餌食になるか、負傷し、軍人階級は街を守るために戦って死んだか傷ついた。

少なくともこの場にいる者達に矛先を向ける事は叶わない。

信者達は全員死ぬか、何処かに転移し、お遣い達は全て屠られるか、術者不在で塵となって消え失せてしまった。

だが、何かを責め、怒りをぶつけなければ収まらない民衆は幕府に詰めかけた。

民衆の怒号が聞こえる城内では、一人の男が怒号による袋叩きに遭っていた。

ブリテオン本国の援軍が来れないという事実は幕府にも伝わり、援軍ありきの勝算を立てていたタジムニウスを官僚達が寄ってたかって責め立てたのだ。

将軍代理ノブシゲが心配そうに見やるが、当のタジムニウス本人は何も言わない、何なら殿中であるにも関わらず、煙草(燃え移ると事なのでこの場ではパイプを吸っている)を咥え、煙を燻らせ、とんでもない顰めっ面を浮かべ、畳に胡座をかき、膝に頬付く始末だ。

タジムニウスから言わせて貰えば、遥か彼方で起こった預かり知らぬ事態の責任まで取れるかという理不尽に対しての怒りや、後詰なき籠城戦など、一部特例を除き勝てた試しなど無い、援軍を当てにするのは当然の事だろう、そんな事も分からないのかとイライラしていたが、実の所は別の事を考えていた。

必要とあらばテロ行為を行い国力を削ぎ、信仰心を使い軍資金と人材を集め、そして国すら動かし大軍を興せる六道党教祖天冥斎が心底羨ましかったのだ。

羨ましさと同時にその危険性も考えていた。

歴史的に、宗教が国家、一君主の権力を凌駕し、思うままに振る舞うと、どういう事になるのかタジムニウスは良く知っていた。

先日の信者達の戦いでタジムニウスはそれを痛感していた。

タジムニウス(あの信者達は自身の身の上の違い、力の違い、ただそれだけ掲げた宗教とは程遠いただの人種差別、民族主義的結社の為に同じ街、同じ国、同じ肌、言語、文化を持った民草を容赦無く手に掛け、報告が正しければ自らの命を犠牲に異形の怪物になった。正に人命より重き物の為に戦っている、彼らに人命より重き物は無いとして戦いを辞める思考は存在すまい…。これよりは、絶滅戦争の始まりだな。)

官僚『どうするのか説明せよレオンクール伯‼︎』

官僚『大見栄を切ったからには責任を取られよレオンクール伯‼︎』

初めてお目見えする方の為に言っておくとタジムニウスは割と気が短い。

戦の上では粘り強く忍耐強く戦う癖に戦以外では割と直ぐ手が出てしまうのだ。

タジムニウスは突然リボルバーを引き抜いたと思ったら天井に目掛けてぶっ放した。

突然な銃声に全員が驚き、声を上げ、飛び退き、ノブがノブシゲを庇うように立ち、アマルが刀を抜き掛けたのでカムロザエモンがこれは…かくや…と言った顔で静止した。

ノブシゲだけが表情を崩さず見つめている。

タジムニウス『Ne crie pas !! ︎Ne crie pas comme une fille du village qui a perdu sa virginité !! ︎La guerre n'a même pas commencé ! Je peux le reconstruire autant que je veux ! ︎Si vous ne comprenez pas cela, alors retirez-vous au manoir !! ︎Si tu ne le fais pas, j'ouvrirai un trou ici !! ︎(喚くな‼︎処女を失った村娘の様に喚き散らすな‼︎戦は始まってすらおらぬ!幾らでも立て直せるわ‼︎そんな事も分からぬなら屋敷に引っ込んでいろ‼︎さもなくばこの場で風穴を開けてやる‼︎)』

とまぁ、年相応の若者の如く怒鳴り散らし、母国ブリテオンの言葉で喋ってしまう始末である。

勿論広間にいるクガネ人は誰も何と言っているか分からないが、兎も角相当怒り散らしている事は分かった。同席したフォードは気を失いそうになるくらい青い顔をした。

本来仕事のない通訳役の騎士には久しぶりの仕事が舞い込んできた訳だが、流石にそのまま伝える訳にはいかず、かなり柔らかい表現で伝えた。

これは余談だが可哀想に、彼はその後心労が祟り、二、三日寝込む事になる。

一同が完全にドン引きしている事に気がついたタジムニウスは咳払いをすると説明した。

タジムニウス『確かに我がブリテオンからの援軍は見込めなくなりましたが、まだヒンガシの援軍があります。そちらも各藩軍の結集が済んでからこちらに向かってくるのを待ちませんといけませんので、同じく二ヶ月ほど。やる事には変わりがありません。戦術に関しては少し改変を加えましょう。如何にNEOクガネの街が軍勢が侵攻するには隘路が多く攻めにくいとはいえ、それだけでは守りきれません。よって此度のテロにて消失した街の区画に城を建てます。尤も出城程で結構ですが。城と港に伸びるこの中央の大通りを阻む様に建てます。この大通りに面して建てれば敵は城を突破するか迂回するしかなく、迂回すれば更に狭い上に瓦礫の多い隘路を進む為、進行するのはほぼ不可能、その間に隘路に塹壕なり土嚢なりを前もって設置し、そこから銃撃を加え、おまけに城からも銃撃すれば、十字砲火を加えられる。』

官僚達は唖然とした表情を浮かべながら聴いていた。

タジムニウス『それ以外の戦術も考えてはいますが、兎も角、宜しいかな諸君?我らは勝ちの目を失っておらず、敵は相も変わらず不利のまま、然も今回の件で自らの不利を極めたに過ぎない。』

この後一端評定はお開きになり、一連の事件に関しての発表は明日という事になった。

カムロザエモン『其方が申した大言壮語のアレは全て事実かな?』

タジムニウス『半分半分ですな。』

この日の夜タジムニウスはカムロザエモンの私邸に呼ばれていた。

カムロザエモン『半分…とは?』

タジムニウス『敵の戦術次第なのです、敵がNEOクガネの占領、統治が目的なら無闇に街を破壊せぬとは思ったのですが、先日の如く民衆悉く手に掛けんとする勢いで来るなら恐らく平気で街を壊すだろうと、連中の手持ちにある野戦砲はあまり多くは有りませんが、ドマより徴収している可能性は大いにあります。そうなれば頼りになるのはこれより建築される出城とクガネ城のみ。』

カムロザエモン『知っていると思うが、クガネ城はかつての戦国の世の時とは違い政を行うための城となっている、あまり敵を迎え打つには適さぬぞ?』

タジムニウス『だからこそ、この出城が意味を成すのです。恐らく港湾より4〜5キロは敵の砲火で打ち壊されるでしょう。隘路に引き込む策は万が一城を抜かれた時のために取っておきましょう。』

カムロザエモン『…して、城の建材はどうする?瓦礫を再利用するのか?』

タジムニウス『いえ、出来れば硬度を確保したいので石造りにしたいのですが…そう簡単に石材は無いでしょう。コンクリートを用意するにも今からそれだけのものを作るにも時間が掛かります。それに代替えし、更に堅牢さも十分な素材に関しては私に当てがありますので、ご安心下さい。』

カムロザエモン『成程、承知した。』

タジムニウス『して、ガボウサイ卿は?』

カムロザエモンは溜め息を吐き、答えた。

カムロザエモン『ヒンガシ本国に援軍を要請すべく、今は帝都に居られる。然し、帝ではなく大幕府に座す将軍に援軍を要請せねば、意味が無い。敵との差が歴然と大幕府が考えれば、連中とこの国を代償に手打ちをするやも知れん。然も老中は降伏を提言しておられた。幕府がもし決断をすれば』

タジムニウス『NEOクガネは戦わずに落ち、ガボウサイは戦を避けた英雄か、大幕府にて重用されることは間違いなし。されど偽りの平和に過ぎん。奴等は必ず、この島全てを手に入れるはずだ。それとも自らで取り返す算段でもあるのか?』

カムロザエモン『兎も角もあまり信用ならぬな。…どうにか外交での決着は出来ぬか?』

タジムニウス『不可能でしょう。奴らは神に戦を以って信仰心を示さんと兵を挙げたのです。今更引き下がる事は奴ら自身の神への裏切りになる。それは致さぬでしょう。』

カムロザエモン『むぅ…ところでレオンクール伯はここに居るのか?』

タジムニウスはその質問に得心がいかなかった。

ここに居るとはどう言う事なのか?

まるで他の外国人は帰るような口振りではないか。

タジムニウス『どう言う意味でしょうか?』

カムロザエモン『先程よりな他国の大使館より使いが来てな、暇を告げに来ておるようだ。理由は…まぁ我が国に迫る危機であろう。だがブリテオンはフォード殿も申した通り我らと戦うつもりがある、いやあっただな。今や本国は挟まれ、王の近習たる其方らは帰国命令が出ていてもおかしくないはずだ。』

タジムニウス『確かに…あり得ぬ話ではありません、然し王陛下は騎士の中の騎士、ここでこの国を見捨てることの何処に騎士道が有りましょうや?それが分からぬ陛下では有りますまい…然し王命とあれば従わねば…。事の些細を確かめたく存じますので失礼致します。』

タジムニウスは暇を告げると部屋から出て行き、その場にはカムロザエモンが一人残された。

カムロザエモン『騎士道か…だが志だけでは飯は食えぬ。…奴(ガボウサイ)だけが大幕府や朝廷に伝手があるわけではない。…致し方無しこの策は出来れば使いたくなかったが…この上は仕方ない。誰かあるか?』

カムロザエモンが呼ぶと一人の侍が現れた。

侍『ハハッ!』

カムロザエモン『その方、直ぐに都へ向かいこの書状を朝廷にお届けせよ。ガボウサイの手のものには決して渡すな。』

侍『ハハッ!それでは。』

カムロザエモン(この策がなったら我が国が助かる可能性は大いに上がるが…ヒンガシ本国は荒れるだろう…攘夷志士を無数に増やすかも知れぬが政が元の持ち主に戻るだけ、そしてそれに関しては我がクガネにはどうでも良い事だ。)

カムロザエモンは侍が部屋から出ていくのを眺めながら心中の想いを無言で吐露していた。

日が明けて翌日、タジムニウスはジャンヌとエルダを連れて大使館に向かっていた。

道中、何台も馬車を見かけた。

これら全て中立国や潜在的な敵国の大使館より出てきたものだ。

そして全て港に向かっていた。

タジムニウス『あいつらは全員逃げ出すようだな。富と命を秤にすればまぁ当然なのだろうが、私欲にしか生きぬ奴等はまるでネズミに見えるよ。』

毒を吐きながら歩き、やがてタジムニウスは大使館に着いた。

扉を開けると大使館職員が慌ただしく荷造りをしていた。

タジムニウス『…まさか。』

タジムニウスは直ぐにフォード伯の部屋に向かった。

タジムニウス『フォード伯!これはどう言うことか!』

フォード『何しに来たこの忙しいところに!』

タジムニウス『忙しいだと!我らは何処にも行かぬぞ!この地は王陛下により守護を命じられているのだぞ、我らとクガネは長らくの友邦では無いか、それを見捨てるなど…!』

フォード『事態は変わった!もはや、クガネを救う手立てはない!我らが祖国は今や四面楚歌に陥り、援軍を出す暇は無くなった、ヒンガシの援軍も怪しいものだ、私はあやつらの評定に出て奴等の救う価値を一文も見出せなかった、彼奴等は自己の私利私欲しか考えておらん!そんな奴らの為に卿は戦うのか?よく考えろ、そんな事で若い命を散らすのか!』

タジムニウスはそれでも納得出来ないでいる自分がいる事をフォードに見透かされていた。

フォード『これでもまだ、納得しないか?』

フォードが取り出したのは鉛筆より一回り太いクリスタルの棒だ。

その棒の価値はタジムニウスが青ざめる程であった。

タジムニウス『陛下の…意思なのか…。』

フォード『悪い事は言わない、一緒に帰り、祖国の国難を救おうじゃないか?卿には取り戻すべき領地があるだろう?』

タジムニウスは押し黙ってしまった、いや面食らって何も言えないと言った方がいい。

フォード『だが、その前にそれを使うのもよかろう、話し合え。あの御方と卿は、親子の様な関係であろう。尤も話し合ったところで結果は変わらぬぞ、卿は陛下の盾にして剣、共にあるのが使命だ。』

タジムニウスは部屋から出て行った。

部屋から出ていくタジムニウスをフォードは溜め息を吐きながら見送った。

フォード『今の時代に生きる者にはない真っ直ぐさよな…残ったところで何もならんぞ…。』

【同時刻・真青成組詰所】

アマル『結局のところ被害がまるで分からん。あまりにも犠牲が多過ぎる。』

ノブ『…玄関前の連中にそんな事言っても納得せんよ…。』

二人は詰所の玄関の角で立ち話をしていた。

そして玄関には自身の家族、友人、恋人の安否を探して欲しいと多くの民草が駆けつけていた。

アマル『死体が見つからないと言うことは全員食い殺された証拠だが…今それを言ったら悉く暴徒になりそうだな。』

ノブ『他の奴等のとこもこんな感じだそうだ…、こんな調子で侵略されるぞなんて言ったらえらい騒ぎになるのは避けようが無さそうだが…。』

アマル『全ては若様と、あの胡散臭い奴(タジムニウス)次第だな。』

ノブはアマルの方に首を向けると、軽いノリで質問した。

ノブ『アッ君、レオンクール伯の事嫌いだろう?』

アマル『は?』

アマルは突然の質問に呆気に取られた。

だが直ぐに質問を返した。

アマル『嫌いでは無い、だが好きでも無い、興味がない。確かに戦上手なのは認めるがそれだけだ。』

ノブ『カカカカカ。』

ノブは心中本当か?と思いながら笑うと、押し寄せる市民の応対の為に外に出た。

アマル(だが、本当にこれを収めて敵を迎え撃つのは至難の業だぞ…。そう抑えた後だ…この後の方が余計困難なのでは無いのか?)

【近衛騎士団詰所】

騎士団の詰所に大急ぎで戻ってきたタジムニウスは総長室の壁に立った。其処は秘密の扉が作られていて、そこにはエレベーターが作られていた。

タジムニウスはエレベーターで下まで降りると、そこにはエーテライト(当方では転魂塔と呼ばれる)に使われるクリスタルより一回り小さいクリスタルが備え付けられた大きな機械があった。

タジムニウスはフォードに貰ったクリスタルの棒を機械に差し込んだ。

クリスタルの機械は光を放ち起動する。

タジムニウスは機械の前に跪き、首を垂れた。

青白い光が放たれ、それは少しボヤけた人の形になった、正確には何かに腰掛ける人の形か。

タジムニウス『陛下。』

タジムニウスはその人影を確かにこう呼んだ、陛下と。

シャルルマーニュ六世『面を上げよ、レオンクール伯。』

青白い人影は特注の軍服を来た初老の男になっていた。

顎下まで伸び、頬から顎を覆う髭を生やし、首の根本まで伸ばした髪の毛は鬣の様になっている。

青と白を基本に襟や手首は赤に塗装された特注軍服を着たこの人物こそ、ブリテオン王国国王シャルルマーニュ六世その人だった。

タジムニウス『陛下、夜分遅く(NEOクガネが昼の時間なら時差でブリテオンは夜である。)失礼致します。』

シャルルマーニュ六世『よい、其方なら連絡を寄越すと思ってな。試作型エーテライト通信機の様子は…順調な様だな、ワシの目の前には跪く其方がしっかり写されておるぞ。』

その言葉の後に、二人の間には沈黙が続いた。

暫くしてタジムニウスから切り出した。

タジムニウス『陛下、NEOクガネの件ですが。』

シャルルマーニュ六世『其方ら近衛騎士団の引き揚げについて話をしたい、そうであろう?』

タジムニウス『ご慧眼、恐れ入りまする。』

シャルルマーニュ六世『遺憾ながら、今の我らに彼の国を救う手立てと余裕は無い。天冥齊とやら…彼の国の取り巻き共は兎も角、南西の諸国を動かすとは…不覚であったわ。』

タジムニウスは黙って聞き、シャルルマーニュ王は続ける。

シャルルマーニュ六世『第三軍団を除く常備軍団八個が其々の戦線に配置されているとはいえ…門閥貴族の軍が半数、ワシの言う事を完全に履行できる軍は半分、故に実質四個軍団しか手持ちがおらぬ、よって信頼出来る人間に第三軍団を率いてもらいたいのだが…其方、残りたいのだろう?』

タジムニウスは沈黙を続け、シャルルマーニュもまた軽く溜息を吐き、口を閉ざす。

タジムニウス『陛下』

シャルルマーニュ六世『一つ聞かせよ、伯。其方、何のために残る。何のために彼の国に命を賭ける?』

タジムニウスが何かを言い掛けたが、それを遮るようにシャルルマーニュ6世はタジムニウスに問うた。

タジムニウスは答えた。

タジムニウス『我らの騎士道に賭けて。』

シャルルマーニュ六世『ほう?』

タジムニウス『我らブリテオンの騎士は民草の為に剣を取ることを至上としております。今このクガネの民草に立ち向かう力は有りません。そんな無垢な民を守ることこそ…いえ、違います。そんな高尚な物では有りません。陛下、私は見たのです。無辜の民草がただただ無惨に喰い殺される惨状を、あの悲鳴が断末魔が、あの虚に上向く瞳が…私を離してくれないのです。先の大戦の惨状を思い出すのです。…陛下私はこの地をあの村々の様にはしたく無いのです、敵は命に対して敬意を払うどころか、殺める事への責任すら負う気が無いのです!陛下、彼奴等は取るに足りない民族主義を神格化させただけのテロリストに過ぎません!そのテロリストに、何故我らブリテオンの騎士が背を向けねばならぬのです!我等が立ち向かわず一体誰がこの不遜な者どもに鉄槌を与えられましょうか‼︎……陛下、今ブリテオンは国難にある事は私も重々承知しております、近衛騎士は明日即刻帰国させます、ですが…私だけは御容赦頂きたい、私はこの場で自らの騎士道と、陛下と祖国の名誉を守る為にこの地に骨を埋めたく存じます‼︎』

タジムニウスは首に掛けた近衛騎士団の印章を外すと自分の足元にそっと置いた。

シャルルマーニュ六世『自らの地位、そして使命を捨ててでもこの地を守りたいと申すか。』

タジムニウス『この様な勝手、許される筈は有りませぬ。近衛騎士団総長職をオルタンシア卿に委任し、彼女の裁可を仰ぐといたします。彼女が私の命令違反を赦すなら兎も角、…いえ恐らく許さぬでしょうが、そうなれば騎士全員と剣を交えてでも私は己の騎士道を貫きたく存じます。それが叶わぬ時は甘んじて首に縄を掛け、断頭台の露と消える所存です。』

シャルルマーニュは目を閉じ、左手で頬を掻いた。

心中に何を思ったかタジムニウスには分からなかったが、その表情は困惑していることは理解した。

タジムニウス自身も心中は穏やかでは無い。

絶対の忠誠を誓うべき相手に逆らっていると言うこの事態が自分には理解出来ないし、父親の如く慕ってきた人間を困らせる事に罪悪を抱かない人間など居ない。

シャルルマーニュは一瞬哀しそうな表情を浮かべたが、一言だけ呟いた。

シャルルマーニュ六世『承知した、許す。』

タジムニウスは深々と頭を下げると、暇を告げ、部屋から出て行った。

タジムニウスが出た後、物陰に潜んでいたエルダとジャンヌが現れた。

シャルルマーニュは二人を手招きすると、二人はタジムニウスが居た場所に立ち、そこで跪いた。

シャルルマーニュはこの二人に一言伝えた。

シャルルマーニュ六世『…頼む。』

エルダ『ハッ!』

ジャンヌ『我が命に賭けて必ずや!』

二人も同じように暇を告げ去ると、機械だけが起動した状態で残されていた。

そして少しずつ消える仮初の体のシャルルマーニュは呟いた。

シャルルマーニュ六世『故に…いやそれでこそレオンクールの獅子心王の末裔。女神の加護あれ、タジムニウス。』

光は消え失せ、部屋は完全に闇に閉ざされた。

この日、幕府の六道党聖戦軍の侵攻を受ける事を民衆に発表したのは午後八時と記録されている。

その二時間前、ブリテオン近衛騎士団の館でも一つの事件が起きていた。

総長室に全ての近衛騎士団幹部が召集されていた。

タジムニウス『諸君、我々近衛騎士団は明日、この地より退去する大使館職員達と共にNEOクガネを出ることになった。』

ジャンヌ以下幹部達は黙って聞いている。

タジムニウス『我が祖国は国難にあり、NEOクガネの為に出してやる兵力はない。援軍なきこの地の勝ちの目は薄い。この地にいる理由は無いと陛下は御判断された。…だが私はこの地に残ろうと思う。私はこの地を戦いに駆り立てた責任がある、そして昨日の惨劇を見て、自分だけがこの地を離れ敵の手に委ねる事を良しとは出来ない。現時点を以て、私は近衛騎士団総長職、及び騎士団を辞する。総長職はレディ、いやオルタンシア卿に譲渡する事とする。オルタンシア卿、君は今この騎士団を束ねる存在だ、私の命令違反は到底許される事では無い。だが私は君たちとは戦いたくない、このまま私を去らせてくれないか?さもなくば私は君達と剣を交えねばならぬ。』

その言にジャンヌより先にタジムニウスより剣を引き抜いたのはエルダだった。

エルダ『今この場で討ち取られる覚悟をして言っているのかタジムニウス。』

タジムニウス『無論だ。』

エルダ『失望したぞ。』

タジムニウス『すまぬ…。』

エルダ『後悔は無いな?』

タジムニウスはいっときの沈黙を経た後、砕けた調子で話し始めた。

タジムニウス『兄さん、わしゃ、わしゃ、もうあんな思いはしとう無いんじゃ。その為に戦うて死ぬるなら、ご先祖様や父上や母上も許して下さろわい。』

エルダは目を閉じると大きな溜息を吐いた。

エルダ『お前はなんで、こう不器用なんじゃ。しんから(本当に)馬鹿みたいに不器用だよ、お前は。』

タジムニウスとエルダは故郷の南部訛りのブリテオン語で話した。

エルダが苦笑しながら剣を収めると、ジャンヌが窓を開け、叫ぶ。

ジャンヌ『皆、聞きましたね?用意は良いですか!』

その瞬間、館の庭の照明が全て点き、陽が落ちて暗くなった庭を照らす。

そこには庭一杯に騎士たちが整列し、待機していた。

タジムニウス『これは…?』

ジャンヌ『総長代理として、ジャンヌ・ド・オルタンシアの名の下に宣言します。タジムニウス・ド・レオンクールの遍歴は正統なものであり、我ら騎士団は王の赦しを下にそれに加勢します!そして総長職をタジムニウス卿に譲渡します!』

タジムニウス『なっ…⁉︎何を⁉︎』

間髪入れずにエルダが続く。

エルダ『王陛下直属の監察官として王命を伝える!近衛騎士団総勢一万五千名の近衛の職を解く!これよりこの騎士団は東方遍歴騎士団、レオンクール騎士団と名を改める!我が騎士団の遍歴目的はただ一つ友邦クガネに迫り来る異教徒六道党の殲滅である‼︎皆、聖女に誓いを立てよ‼︎』

騎士も従士も従士見習いも、全員が剣を抜き、地面や床に突き立て、十時を作った。

そして金メッキの貼られたレプリカの聖杯を持ったオブライエンが窓より聖杯を掲げる。

オブライエン『いざ‼︎我らの信仰と決意を聖女に捧げん‼︎‼︎』

全騎士団員『我らの信仰と決意を聖女に捧げん‼︎‼︎Deus Vult(神はそれを望まれたり)‼︎‼︎‼︎‼︎』

勝鬨が天を突く。

タジムニウスは何が起こったか分からなかった。

タジムニウス『どう言う事だ…これは…皆。』

ジャンヌ『全騎士団員の総意で我らは最期まで総長閣下のお供を務めさせて頂きます!』

タジムニウス『だが、陛下がそんな事御許しに…』

オブライエン『その陛下からのお許し、いやご命令が出てるんですよ。…タジムニウス、陛下にこの地を見捨てる判断がしんからできる思うか?あのお方は度の超えたお節介焼きだぞな?お前が1番よう知っとるじゃろう?いや知っとるけんこそ残る言い出したんじゃろう?陛下の名誉傷つけとう無うて。』

エルダ『しんから、お前も陛下も不器用な上に意地っ張りぞな。まるで親子みたいだ。…ぼさっとするなよ!こう言う時はなんて言うか決まっとるじゃろう?』

タジムニウスは小っ恥ずかしくなりながら頭を掻き、窓に立った。

タジムニウスが窓に立った瞬間騎士達は更に鬨の声を挙げた。

そしてタジムニウスは後ろに振り返り、ジャンヌ、エルダ、オブライエン、ジョージ、ラースの顔を見た。

タジムニウス『皆、だんだん(ありがとう)‼︎わしゃ…わしゃ…この日の事決して忘れん‼︎わしに力貸してくれ‼︎』

南部訛りのままタジムニウスは叫ぶ!

騎士団は応えた‼︎

全騎士団員『レオンクール『公』万歳‼︎‼︎Cavalier du Lion Gris(灰獅子旗)よ永久に栄えたまえ‼︎‼︎聖女よ、我らが騎士団長を守りたまえかし‼︎‼︎‼︎』

かくして近衛騎士団は近衛の職を解かれ、遍歴騎士団へと生まれ変わった…。

正に数百年ぶりの十字軍結成でもあった。

この十時軍騎士たちは結成の勝鬨をあげるや否や、大使館職員らを迎えに行った。

フォードは騎士団の姿を見て溜め息を吐いたが、武運を祈ると伝え、職員とその家族たちを引き連れてブリテオンより派遣された外交船に乗り込んだ。

タジムニウスは道中ですれ違うであろう輸送船団を見つけたら引き返すようにフォードに伝言を頼むのであった。

フォード達を見送った騎士団はクガネ城を目指して行進を始めた。

クガネの民草達は何が起こっているのかまるっきり分からなかったが、この行進を見守った。

一万五千の軍勢が完全装備で街を闊歩するのはこの国に取っては非常時と云える…いやこれは先の便利薬戦争でも語った。

クガネ城警備に集まっていた真青成組もこの事態には驚きを隠せなかったが、全隊を集結して正門の前に集めた。

ノブ『どう思う?』

アマル『ヤケを起こしたとも思えないし…だが来るなら誰一人生かして帰す気はない。』

ノブ(やっぱりブリテオン人嫌いなんじゃねぇか…アッくん。いやまぁこの場合は違うか。)

真青成組の視界に騎士団が映った。

だが彼らの出立は普段とは違った。

彼らの鎧とグレートヘルムは変わらなかったが、いつも着けている真っ青なマントで無く、黒地に灰色の十時が描かれたマントになっていた。

軍旗はブリテオン国章ではなく、銀、いや、灰色の獅子が鉄槌を持ち左右に構え、その中心を金の聖杯を持つ女神を置くと言う物に変わっていた。

騎士団は止まった。

先頭を歩いていた、タジムニウス以下幹部と真青成組局長ノブ以下各隊長達は相対する、その距離は互いの剣を抜いて交わるか否かという程の距離だ。

ノブ『何用で来られた…騎士の方々。』

タジムニウスはグレートヘルム越しからくぐもった声で用向きを伝えた。

タジムニウス『若君ノブシゲ様に御目通り願いたい、私だけで無く騎士団総員の願いだ。』

ノブとアマルがこの時点で得心を得ることはなかった、いや当然なのだが。

騎士団全員が目通りを願うなど前代未聞…未聞も良いとこだろう。

ましてや彼等には真に首を垂れるべき相手が居るはずでは無かったのか。

アマル『理由を聞こう。』

すかさずアマルも理由を問いただす。

タジムニウス『我ら騎士団はつい先程、近衛騎士の任を解かれた。これよりは自らの信念と信仰のために戦う騎士団となった。信仰については言うまでもないが、我らの信念は危機に立たされた友邦を救うという仁義。その仁義を以て若君に誓約を申し上げに参った。』

二人が目を丸くしたのは言うまでもない。

当然だ、一万五千名の正規兵と軍属が突然一斉解雇されて、自分の主君のために戦うなんて突然言われてはいそうですかと納得出来るわけがない。

だが事実彼らは城の門前に跪いている、その長蛇の列は街にも及んでいる。

どっちにしても対応しなければならない。

アマル『と、兎も角その場にてお待ち頂きたい、若君に取り次ぎを』

と言い掛けた刹那。

ノブシゲ『よい、灰色の獅子として名高きレオンクール卿がそこまでするのだ、私も出向かずとしてなんとする。』

ノブ『若様。』

ノブシゲはタジムニウスの前に立つ。

タジムニウスは動かない。

ノブシゲ『立たれよ、誇り高き騎士の方々。』

騎士達は一斉に立ち上がる。

ノブシゲ『問おう、其方らの剣を取る理由は如何に?』

タジムニウス『我らの名誉、祖国に座す国王陛下の名誉の為。そして信仰の為にございます。』

ノブシゲ『其方らの信仰とは如何に?』

タジムニウス『祖国開闢以来先祖達が脈々と守り続けた騎士道にございます。』

ノブシゲ『ならば語る言の葉なし。どうかお力と知恵をお貸し下さいレオンクール卿。』

タジムニウス『一時の事である事を祈りますが、我らの武勇と忠義、若君に捧げましょう。』

後にこの光景は見ていた町人絵師と吟遊詩人がそれぞれ絵画と唄として残っている。

『暗き空を切り裂かんと足掻く若き魂に、西方より現れし灰色の獅子は跪く。獅子を呼び寄せしその勇気と決意、正に黄金すら寄せ付けぬ眩き光を放ちたり。』

後にこの唄は本国にまで渡り、近衛騎士団を讃える者達によって謳われた。

『即興にしちゃあ良い出来じゃないか、問題点は『ど変態のアイツ』が唄の登場人物って事だな。』

黒毛のヴィエラ族の青年は唄を称賛し、登場人物を扱き下ろした。

『ルノ兄さん…。だからあの人は私の唄を聞きに来てくれただけの人だってば。また街中で決闘騒ぎでも起こす気?真青成組の人に二人揃って拳骨された時に懲りたんじゃなかったの?』

傍らに立つ青髪のヒューラン族の娘は、ルノと呼ばれた黒毛のヴィエラの青年を諫めた。

ルノ『いいや、シャル。俺はアイツを信用しないぜ。ブリテオン人なんてのはな、異国だろうと何処だろうと女に手当たり次第声掛けて行く不埒な奴らなんだぜ?アイツはその親玉だぞ、伯なんて偉そうな肩書きついてるがアイツ絶対毎晩女を侍らせてるぜ。』

『良い加減にしなさい!』

ルノは後頭部にフックを喰らい、その光景を見たシャルはワァ…と思わず口から漏れ出た。

ルノ『イッテェ…何すんだよリーベ!』

リーベと言われた人物は今度はピンク色の毛を生やした女性のヴィエラ族だ。

リーベ『見もしてない事で人を悪く言うのは良くないわよルノ君!』

ノブシゲ『もうそろそろ民草に此度の事を伝える時間になる。貴方にも同席していただきたい。』

タジムニウス『畏まりました若君。』

ノブシゲ『それと貴方には二つ申しておくことがある。』

ノブシゲは手をタジムニウスの前に突き出す、そして一本指を立てた。

ノブシゲ『一つは、私は貴方にありとあらゆる戦場の作法を聞かねばならぬほど何も知らぬ、そのつもりでいて欲しいと言う事、もう一つは…』

二本目の指を立てながらノブシゲは言った。

ノブシゲ『二度と私に跪かぬ事、貴方には真に膝を屈すべき人が居るはず、その方以外にはここに居る間膝を屈さぬこと…この二つを心に留めておいて頂きたい。』

タジムニウスはフッと微笑した。

タジムニウス『畏まりました、若君。』

と言われた通り起立したまま頭を下げるのだった。

【NEOクガネ クガネ城城内】

ノブ『本当に、何のつもりかと思ったぞ。』

タジムニウス『私もここまで大事になるとは思っちゃいなかったさ。』

城の中で時が来るのを待つノブとタジムニウスは互いに盃を交わしながら言葉を交わしていた。

ノブ『若君に対しても仮の忠誠…正に誰にも仕えぬ騎士団か…本当に御伽話だな。』

タジムニウス『我らは傭兵とは違う、真に使えるべき君主が居られれば我らは自然と膝を屈するさ。』

ノブ『そうは言うが、その相手は一人しかいないのだろう?』

タジムニウス『フハハ…。』

互いに盃に酒を注ぎ合うと二人はまた口を開いた。

タジムニウス『若君は結局何と民草に語り掛けるのだろうな、評定の場では私も色々言ったが、想像以上に民草たちの不安と怒りは凄まじい。』

ノブ『扇動するにしても至難の業か。シラギクを護衛に付けてるが、あまり寝ておらぬ上に食事にもあまり手をおつけにならなかったとか。』

その頃、ノブシゲは自室にて筆を持ち悩んでいた。

紙に民草に語りかける言葉を書いては破り捨てるという行為をずっとやっていたのだ。

ノブシゲの中に民草に語りかける言葉は纏って居なかったのだ。

無理もない、まだ十代の少年が背負うにはあまりにも重い重責だ。

大人はそれを背負わせてしまった…いや本人の意思で背負ったのだから正しくは共に背負おうとはしなかったと言うべきか。

ノブシゲ『皆に何と言うべきか…ただ共に戦えと言ったところで届くわけが無い…。』

そう呟いた瞬間、自分の目の前にある壁の裏に人の気配を察した。

ここには誰も入れるなと言ってある…なのに人が居るという事は理由は一つしかない。

ノブシゲは傍にある刀に手を伸ばし、護衛として同じ部屋にいるシラギクに声を掛けようとした。

『寝かしてやれ、昨日あれだけ戦ったんだ。』

その懐かしい声は静止した。

シラギクは部屋で正座をしたまま居眠りをしている、クゥクゥと年頃の娘らしい寝息を立てている。

『恐らくだが、いつもならその娘に気配を感じ取られて斬り掛かられていてもおかしくなかったと思うが、流石にあの騒ぎの翌日だからな。』

ノブシゲ『兄上…やはり素顔を見せてはくださらぬのですね。』

ノブシゲは壁越しにいる兄に小さな声で話しかけた。

ジェピ『この国の連中に一連の事を伝えるのか?』

ノブシゲ『はい、彼等には知る権利があります。然れど、今回の件と言い事の次第が大き過ぎます。それにあまりにも突飛に過ぎます。果たして彼等が納得するか…。』

ジェピ『だが、事実だ。嫌でも受け入れねぇとな。ここの連中にツケを払う時が来たって事さ。他所はそんな事は日常茶飯事さ。それにノブシゲ、お前が本当に恐れているのはそんな事じゃ無いだろう?』

ノブシゲは一呼吸置いて口を開く、本当の心配を兄に突かれたから、自身の中にある矛盾、これから口に出そうとする矛盾故か…。

ノブシゲ『…私はこの国の民草を兵士にしなければならない。侍達や騎士団だけでは到底この国は守れない。だが私はこの国に住まう民を守る為に戦う道を選んだのに、守ろうとしている者達を戦に駆り立てている。』

ジェピ『為政者の矛盾だな。』

ノブシゲ『私はどうすれば良かったのでしょうか?』

ジェピ『……。』

ジェピは何も言わない。

それはノブシゲ自身が答えを見つけなければならない。

だが…。

ジェピ『俺なら素直に助けを乞うな。相手は何倍も強いんだ、そんな相手に喧嘩をするなら俺は人を頼るね。』

ノブシゲ『ハルノブ兄上!』

ノブシゲはそう叫んだが、既にジェピの気配は無かった。

ジェピはノブシゲがどうすれば良かったのかという過去に対しての質問には答えなかった、だが今どうすればいけないのかに対しての助言は残して去っていった。

シラギク『ムニャ…いけない!私ったら居眠りしてしまったでござる!』

ノブシゲ『…いっそ素直に…という事か…。』

ノブシゲは立ち上がり、部屋を出る。

シラギク『わ、若様⁉︎どちらへ行かれるでござる⁉︎』

ノブシゲはシラギクを無視して暫く城内を歩き、とある一室の襖を勢いよく開ける。

そこはノブとタジムニウスが飲んでいた部屋だった。

突然の事で二人は襖が開いた時の動作をした状態で固まっていた。

タジムニウス『わ、若君?どうなされた。』

ノブ『若様…?』

ノブシゲ『参るぞ二人とも、私は決心したぞ。皆になんて話すか決めたぞ!』

ノブとタジムニウスが呆気に取られているのは言うまでもないが、彼等も常に戦に臨む覚悟のある兵だ。

ノブ『ははっ!』

タジムニウス『御意!』

直ぐに切り替えた。

NEOクガネ城の正門前には多くの民草が集まっていた。

ざわめく声は大きく、然れど不安な顔をして城を見つめるもの、物陰で我関せずとしながらも耳だけ傾ける者、この騒乱の真実を書き留めようとする者、様々だ。

町人『若様だ‼︎』

クガネ人達は一斉に城の方に首と目を向ける。

そして口々に、思い思いに声を上げる。

どうしてこんなことになったのか、どうして家族や友人、恋人は突然消えてしまったのか、あの化け物達の正体は何なのか、どうして幕府は助けてくれなかったのか…。

何も知らず、知らされず…もしくは知らせる価値すら持ち合わせて無い癖に民草は好き勝手叫ぶ。

アマル『これでは何を言っても伝わらない。』

タジムニウス『こういう輩を黙らせるには良い方法がある。』

城門の後ろ、三の丸には榴弾砲が備え付けられている。

これは騎士団が入城した時に持って来た物だ。

タジムニウス『空砲装填…テェ‼︎』

榴弾砲の強烈な砲声に民草達は悲鳴を挙げて、耳と頭を抑える。

タジムニウス『これで静かになった。』

アマルは苦々しく、苛立ちながらタジムニウスを睨みつけるが当の本人は無視している。

ここで一つ言わせてもらうが、タジムニウスの祖国ブリテオンは封建制国家であり、領主にとって領民とは、どういう扱い方をするかは兎も角、究極的な立ち位置は持ち主と所有物である。

つまり物が反抗したら徹底的に潰すのが定石かつ権利なのでとりわけタジムニウスの今の行動がおかしい訳では無い。

ノブシゲ『皆、驚かせてしまってすまない、だが話を聞いてほしい。』

民草達は耳を抑えながらも恐る恐る顔を上げた。

ノブシゲ『昨日の事、皆共に大切なものを失ったな。冬を締め括る楽しき祭りの筈なのに実際起こったのは惨たらしい血祭りだ。』

ノブシゲの言葉に何人もの民草が泣き崩れ、声を挙げる。

ノブシゲ『私も城の中に入って来た敵と戦った故分かる、あの恐ろしさを、惨たらしさを。』

町人『敵って…ちょっと待ってくんなぁ!若様はあいつらの事知ってたのか⁉︎』

民草達は口々にどうなのか?そうなら教えてくれと忙し立てる。

ノブシゲ『敵は六道党、ここ最近騒ぎを起こしていた奴らだ、奴らは我々の考えている以上に強大で、危険な奴らだったのだ。奴らは外法の使えぬ人間は家畜であるべきと主張し、国家を転覆させ、其方らを家畜にする事が目的なのだ。そしてあろう事か同じ同胞を下法によって恐ろしい化け物に変え、其方らを襲わせたのだ。』

民草はどよめく。

ノブシゲは進める。

ノブシゲ『だが、此度の事はこれで終わりでは無い。奴等は西北のの大国、かの大草原の国アジム帝国を籠絡し、その戦士と東方に広がる信徒達を集め、大軍を興し、この地に向かっている。その軍勢は努馬帝国を支配下に置いた!その軍勢の数は、恐らく十万、二十万では効かぬ!』

民衆のどよめきは悲鳴になった。努馬を下したかの遊牧民族の蛮行はここまで届いている。

生きたまま生皮を剥がされながら犯されると知れば恐怖を表したくもなる。

ノブシゲ『……。』

ノブシゲは正門に備えられた見張り台から降りた。

ノブ『どちらへ行かれる?』

ノブシゲは無言のまま門に立つ。

ノブシゲ『開門せよ。』

アマル『お気は確かか⁉︎今門を開ければ民衆が何をするか!』

ノブシゲ『私は彼らと同じ立ち位置でこの先を話したいのだ!開けよ‼︎』

ノブシゲはまるで何かに取り憑かれた様な覇気を見せた。

正門の近くに居たものは皆気落とされた程だ。

門番達もアマルの顔を見たが、アマルはもはや従うほか無しと思ったのか門を開けさせた。

門が開き、民草達は皆一斉に門を見る。

民『若様…。』

民『若様じゃ…。』

民草達は若君が降りて来た、静まれと互いに伝え合い、再び静寂が戻った。

ノブシゲ『敵は幾万、その数は歴然としておる。私は何としてもこの国と其方らを守りたい…たが。』

ノブシゲは、なんと門の前に膝を屈し、あろう事か民草達の前で土下座をしたのだ。

ノブシゲ『あまりにも…あまりにも数が足らん!侍達やこの地に残ってくれる決心をした騎士団だけではとても足らぬ!どうか…どうか我らと戦ってくれ‼︎幕府を守る為でも、この国を守るためでは無い、もう二度と友人や家族を失わぬ為に‼︎どうか!どうか‼︎』

民草達は動揺を隠せない…幾ら頭を下げられたところで自分達にあの化け物を、アジムステップの遊牧民達を倒せるのか?

負ければ、避けようのない死より恐ろしい苦しみが待っている。

だが、戦わずともその結末が訪れる、勝てばその苦しみを味わらずにすむ…。

そしてこの国の民草の気風は、自分達の子供や弟程の歳の少年に頭を下げられて無視出来るような冷徹さは持ち合わせては居なかった。

民草『おい、やろうぜ!若様がここまで頭を下げてるんだ!ここで嫌と言っちゃクガネっ子が廃るぜ!』

民草『おう‼︎こちとら祭りも潰されたんだ!きっちり仕返しもしねぇとな‼︎』

民草『おおおおおおおおおお‼︎‼︎』

民草『おおおおおおおおおお‼︎‼︎』

民草達が勝鬨を挙げる、彼等は選んだ。

一縷の希望の為に戦うと。

ノブシゲは民草達に助け起こされ、感謝を述べながら差し出された手を掴んだ。

ノブ『これで退けなくなったな。』

タジムニウス『勝てる算段はつけるさ。』

暫くして、一通りの騒ぎが終わった後城では再び軍議が開かれていた。

ノブシゲ『皆が戦ってくれる事になったが武器をどうにか確保せねばならぬ。特に銃が足らん。』

タジムニウス『銃に関してはお任せ頂きたい。私なら何とか用意出来るかと。』

ノブシゲ『任せる、他に彼等には何を持たせるべきと思うか。』

アマル『槍がよろしいかと、刀や薙刀は極めなければ使い物になりませぬが、槍は使い方さえ知っていれば、百姓は鎧武者すら殺します。』

ノブシゲ『よし、槍はクガネ中から集めよう。武家屋敷や、古道具屋、足りなければ森から切り出そう。穂先は金物を集めて作るのだ。』

カムロザエモン『後は国民の避難ですな。』

ノブシゲ『以下ほど避難させ、戦う為に残ってくれる民達を何人残すか…。』

タジムニウス『現時点での避難は私は反対ですな、戦力的な問題もそうですが、受け入れ先のヒンガシに六道党の隠れシンパを入れてしまいかねません。勿論全員残ってしまうと兵糧の問題が有りますので、避難する前に炙り出しをするべきかと。』

カムロザエモン『然し、レオンクール卿。クガネの人口は帝の座す都や、大幕府のあるブキョウには劣るとも他の城下町は優に超えるだけの数を誇る。炙り出すにも時間が掛かる上に現実的では無い。更には残り二月にも満たない時間で訓練と避難の両立が出来る程の人的余裕も無いのだ。』

ノブシゲ『若年寄り、ではどうすれば良いと思う?』

カムロザエモンは少しの間考え、紙…短冊と筆を持って来させると、何かを書いて、一同に見せた。

カムロザエモン『この新世界秩序とは六道党の信者にとって偶像の様な物、これを関所の道に貼り付けて、踏ませるのです。踏めなかった者は即ち信者と考えてもよろしい。』

ノブシゲ『成る程、して信者が見つかった暁にはどうする?』

カムロザエモン『それこそ罪人を養う余裕は有りません。』

タジムニウス『斬首するなり、射殺してしまうべきかと。』

ノブシゲは少し不機嫌な顔をしたが、早急に準備せよと役人を走らせたのだった。

翌日には、クガネ全土に召集令と避難勧告が発せられた。

民草達は残る者、去る者に別れたが、そこで悶着が起きた。

何のことはない、残って戦おうとする者を去る者が無理くり連れて行こうとする光景が散漫と起きたのだ。

無理もない、残った者が去る者と再び再会する保証はなく、再会することなく死別する可能性の方が寧ろ高いのだ。

だがこれら全てに対処できる程人手がある訳ではない、結局そういった連中は拗れに拗れるか、各幕府施設に駆け込んで来るという始末になった。

その頃タジムニウスは、騎士団の館に数名の客人を招いていた。

タジムニウス『この非常時に集まって頂き、感謝している。諸君が何故集められたのかは何となく察していることと思うが説明させてもらおう。』

集められたのは武器商人や鍛治士、さらには商人だ。

オダ『俺達に何をさせようってんだ?』

タジムニウス『簡単な話さ、ありったけの銃をクガネ、ヒンガシ、そして周辺諸国から掻き集める事と足りない分の武器や兵器の製造を依頼したい。』

オダ『銃か…最新式の歩兵銃で無ければある程度は集まるが…一応聞いておこう、希望はあるか?』

タジムニウス『後装式単発ライフルがベストだな。無ければ先込め式でも言いが、使い易さを考えたら前者の方がいい。』

オダ『やってみよう。』

商人『して、我らは何処から武器を調達すればよろしいのかな?』

タジムニウスは己の懐を弄るとある手紙を商人達に見せた。

タジムニウス『この手紙に書かれた商会はNEOクガネから努馬における我が方の植民都市パオチンに拠点を移した。明日一番に船を出してこの商会に私の注文を伝えれば戦いの時までには間に合うはずさ。だが勿論対価は求められるがそれに関しても心配はいらない。諸君らとこの商会の間に優先的に商売をすると言う約束事を取り付ければ良い。他の国々は命惜しさに何もかも放り出して逃げたが、我がブリテオンは例外、更に他の国の商会が握っていた商売的利権を全て握れるとあらばこんなに良い話は無い。商会の頭目も国王陛下によって取り立ててもらった男だ。陛下の品位を下げる様な商売もしない。必ず諸君らを富ませられるだろう。』

商人『我々も今までより更に公正な取引をしていただけるのであれば断る理由は有りませんが、何を注文すれば宜しいのかな?』

タジムニウス『先程と同じ、銃火器を注文するのだ。かの商会は武器会社ではないが、不幸か幸いか、現在我が国の植民地の各地で不要武器在庫が溢れ、それらが多数のならず者に流れてしまっているという事態が発生している。少しでも流出する武器を少なく出来るならと、各地の植民地からきっと武器を集めてきてくれるはず。』

武器商人や鍛治士が顔を見合わせた。

そんな簡単に上手く行くのかと。

それを分かってかタジムニウスは続けた。

タジムニウス『今なら上手くいく、だが時が経てば成功率は下がる。時は金なり、諸君らも国家の危機に立ち上がったのなら急ぐべきだ。それがこの国を救う事になることは私が保証しよう。』

武器商人や鍛治士達は善は急げと館を出て行った。

鍛治士達は大急ぎで槍やライフルを作り出し、商人達はこぞってとある商会の戸を叩いた。

商会の職員達は退去準備をしつつ、この国での現状最後になる仕事に備えていた。

タジムニウスからの手紙を受け取ると職員達は一斉にリンクパールで何処かに通信をしたり、手紙を書き、それを梟に託すなど大忙しで働き出した。

それが済むと、職員達は商人達をそれぞれの応接間に通して商談を始めたのだった。

武器商人や鍛治士達が出て行って程なくして、館には二人の女性が来ていた。

タジムニウスはまず一人を部屋に招いた。

タジムニウス『お呼びだてして申し訳ない、だが貴女様の助力が必要なのです。』

ハクレン『聞こうかしら?』

タジムニウスの前には青い肌のアウラ族の魔女が立って居た。

タジムニウスは魔女に席を薦めると、魔女は足を組みながら優雅に腰掛けた。

この魔女がハクレンと名乗るNEOクガネにて評判の占い師にして、恐らく世界的にみても記録に残り、かつ生存している氷の魔法使いとしては最古に当たる人物であった。

タジムニウスは自身の先祖との間柄や自身との出来事から知己を得たこの魔女を招いたのはとある理由があった。

タジムニウス『ツァーリナ(女王)、貴女はかつて国を治める身で会った時、全て自身の魔力で作り上げた氷で出来た宮殿を作り上げたと聞きます。』

ハクレン『そんな事も有ったわね、貴方のご先祖様には風邪をひきそうだって、断られたけどね。』

ジャンヌが紅茶をハクレンの前に出すと、ハクレンも笑顔で会釈して礼を示した。

タジムニウスはハクレンに紅茶を薦めると続けた。

タジムニウス『此度は風邪よりも更に命の危機にあるこの国を救う為に氷の城が必要なのです。かつてありし城の如く荘厳かつ巨大な物でなくて良い、当に戦う為の城が。』

ハクレン『私に城を作らせるとして…それが私に何の得が有るのかしら?』

タジムニウス『得は…有りませぬな。謝礼金なら幾らでも出せますが貴女はそんなものには興味がない。』

ハクレン『なら、私は断るしかないわね。因みに私が断ったらどうする気だったの?』

タジムニウスはフフッと微笑すると紅茶を啜って答えた。

タジムニウス『その時は、敵を一人でも道連れにして、民草が一人でも多く逃げられるように精々派手に暴れて討死するまで。ここでハクレン殿、貴女にうんと言ってくれなければ、この戦はその時点で終い。私は当に賭けをしているのですよ。』

ハクレンは呆れたような笑みを浮かべ、ティーカップを唇につける。

ハクレンは知っていた。

この男の、いやこの男の一族は一種に変わった死生観を持っている。

自暴自棄、自棄を起こしているように見えて、生か死かこの二極化した世界に身を置く人間の心構えを常にしているのだ。

それが例え自らが望もうと望まなかろうと関係ないのだ。

ダメなら死ぬだけ、何も不思議な事はない。

それが戦だからだ。

まだ三十にも満たぬ青年がこの域に達しているのは平和と繁栄を享受してきたNEOクガネの住人からしてみれば異常極まりないだろうが、彼はブリテオン人だ。

ハクレン『ほんと、貴方達はいつもそうね。人の気も知らないで…。』

ハクレンはティーカップの中身を飲み干すと口を開いた。

ハクレン『分かった、やるわよ。それで、何処に作れば良いのかしら?』

タジムニウス『場所はこの騒ぎで伽藍と化した港湾区の住宅地全域に掛けて、城へ続く大通りを遮る形に、細かい作りはまた後程。』

ハクレンが帰ると、タジムニウスはもう一人の女性を部屋に招いた。

その女性は緊張した面持ちで部屋に入ってきた。

ラズベリー『お、お招き頂き…恐縮です。』

タジムニウス『どうぞ楽にして、私はあくまで貴女に物を頼む立場だ。貴女に頭を下げる私が貴女より偉そうには出来ませんよ?』

タジムニウスは先程の様に絡繰技師ラズベリーを席に勧めた。

アウラ族の女性は座った後も緊張しているせいかぎこちない様子が見てとれた。

無理もない、突然こんな場所に呼び立てられたのだから。

タジムニウス『状況は知っていると思いますが、ここに神の教えという民族意識にハマった狂人と野蛮人の大軍勢が攻めてくる。そしてどうやら普通に戦ったら負けるのは必定らしい。』

これは不確定…いや確定に近い情報だが、彼女が詳しく知る必要はない。

だからタジムニウスは少し誇張して話した。

タジムニウス『工夫を凝らして、我らは戦力の底上げをせねばならない、そこに貴女の力を借りたい。』

ラズベリー『何をすれば良いのでしょうか?』

タジムニウス『それは地下にお連れしてからお話ししよう、そこで見てもらった方が早い。』

タジムニウスはラズベリーをエスコートしながら館の地下へ案内した。

館の地下には広大な工房が建てられていた。

そこで様々な火器や、騎士達が身に纏う鎧が整備されていた。

そしてその工房の奥、見張りの騎士が二人並び立つ扉が合った。

タジムニウスとラズベリーの姿を見ると、騎士達は敬礼した。

タジムニウス『組み上げは?』

騎士『大方終わったとのこと、総長やお客人をお待ちしていると申しておりました。』

タジムニウス『では、入りましょう。』

その一室に入るとラズベリーは声を上げずには居られなかった。

その一室には、ルガディンないしはアウラ族の男性やヴィエラ族の巨躯に合わせて作られたであろう機械の鎧が凡そ一個小隊五十人分が並んでいた。

騎士『お待ちしておりました総長、お客人。』

タジムニウス『どうか?』

騎士『組み上げはなんとか…然し本国で頓挫した武装面の情報が無いばかりか肝心の動力源が…そのまま装着させて出そうもんなら、いくら馬鹿力のアイツら(巨躯の身体を持つ種族)でも重過ぎて碌に動けませんぞ?』

ララフェル族の技官担当の騎士は頭を掻きながら説明した。

ラズベリー『あの〜、レオンクールさん?これは一体…?』

タジムニウス『ああ、失礼!ラズベリー殿、ここに並ぶこれらは我がブリテオン王国の最新兵器、着る魔導アーマーこと『パラティーナ』です。』

ラズベリー『パラティーナ…着る魔導アーマーですって⁉︎』

技術屋としての血が彼女を興奮させたが、同時に驚愕の声を上げさせた。

人が乗るのは勿論、人型、同スケールの魔導アーマーは珍しくない。

だが鎧のように人間が着る魔導アーマーなど前代未聞だったのだ。

そもそも何故そんなものを使っているのか…。

だがそれは今話す暇は無い。

ラズベリーはパラティーナを観察した。

重装甲なれど、人体の動きを決して阻害しない様に各関節部の装甲は可動式になっている、更に装甲の裏には魔導アーマーに使う人工筋肉が同じ様に張り巡らされている。

これら人工筋肉が着用している人間の動きを補助し、この重厚な鎧を難なく動かせる仕組みになるのだろう…動力さえあれば…。

ラズベリー『私にこの動力関係の問題を解決しろという事ですね?』

タジムニウス『やってもらえますか?』

ラズベリー『西方の最新技術に触れる機会とあれば逃す手はありません。但し条件が有ります。私は自分の技術を売ることはしていません。よって私個人のみが持つ技術は使わず、あくまでブリテオンの技術のみで完成させますので、悪しからず。そして必要とあれば、この兵器をかなり作り替える事も了承して頂きます。』

タジムニウス『私に異存はありません。本国でも持て余しているこれは、恐らくこのままだと廃棄処分行き、役目を与えられるなら本望でしょう。』

騎士『我々でもこれは持て余しておりました、この迷路から抜け出せるなら何であろうと従いますよ。』

ラズベリー『ではお受けします。一応基本コンセプトを聞いておきましょう、尤も何となく想像はつきますが。』

騎士『えー…資料によれば魔導アーマーに歩兵と同等の汎用性を、歩兵に魔導アーマーと同等の火力と防御力を…というものらしいですな。正に守るも攻めるも全てこれだけで賄える事が条件かと。』

タジムニウス『此度は守りが優先です。多少機動力は低くても良いので装甲と火力を確保していただきたい。』

ラズベリー『やってみましょう。』

こうしてタジムニウスの1日は終わったが…他の面々の1日も見てみよう。

【NEOクガネ城 練兵場】

シモ『穂先を合わせろ!穂先の合っていない槍衾なんて何の役にも立たねぇぞ‼︎』

町人『応ッ‼︎‼︎』

シモ『もう一度!突けぇ!』

町人『セイッ‼︎』

シモ『突けぇ‼︎』

町人『セイッ‼︎』

シモ『叩けぇ‼︎』

町人『おおおお‼︎』

真青成組伍番隊隊長シモの掛け声と共に老若男女の町人達が長槍の稽古に勤しんでいた。

長槍を揃えるだけで農民、町人は十分戦力として機能する、正に長槍持たせた農民は騎馬武者を殺すとはこの事である。

ノブ『気合い入ってるな〜。』

アマル『正直、長槍の練度よりもこの士気が大事だ。士気のない軍隊など碌に戦えん、その点、シモは経験者だからな。その辺はよく弁えてるよ。』

ノブは顎に手をやり感心した様子で眺めていた。

アマル『そういう意味では、あっちも気が入ってるけどな。』

アマルが顎で示した方を向くと、城内に有ったのか、館から持ってきたのか後装式単発銃を持った町人達に指図するジョージが居た。

ジョージ『構え、狙え、撃て。この三つが基本原則、この動きが一糸乱れず、かつ即座に出来れば生き残る可能性は大きく上がるよぉ〜。はい、そこ遅かったね、君今死んだよぉ〜?』

町人『ただ、弾込めて、狙って撃つだけでこんなに大変とは。』

農民『つ、疲れただぁ…。』

ジョージ『君達銃を舐めてちゃいけないよ〜?銃というのは最も簡単な人殺しの道具だけど、扱う人間が全てを決めるからね〜。正しく使うか否かで変わるよ〜。さぁもう一度頑張ろうよぉ〜。』

緩い空気が流れているはずなのにピリついた雰囲気の中で彼らは必死に銃の撃ち方、扱い方、そして行軍の仕方をひたすら訓練していた。

アマル『…あんなのんびりやってるのにな…頭がどうにかなってしまいそうだ。』

クガネの練兵場はこんな光景が広がっていたらしい。

そうこうしている内に日が暮れていた、タジムニウスは破壊されて、伽藍と化した街に出ていた。

供にジャンヌ、エルダ、ラースが付いていた。

ジャンヌ『ここに城を建てるのですか?』

タジムニウス『うむ、港に建てるのも手かと思ったんだが、出来れば港はあんまり手を加えたくなかったのだ、港が営む漁業と交易が彼らの生きる糧だ。無事に終わったとしても城があってはやり難かろう、なら不幸なことだが焼け野原になったここに建てた方がまだマシだと思ってね。』

ラース『とは言っても…まだ瓦礫が多いな。』

エルダ『明日、直ちに騎士を増員して片付けに当たらせます。』

タジムニウス『そうしてくれ、恐らく城が出来るのは一瞬…。』

と言い掛けた瞬間タジムニウスは黙った。

そして当たりを見回しだした。

ジャンヌ『総長?』

タジムニウスは近くにあった瓦礫を見つめると、それに向かって走り出した。

エルダ『どうなされた総長?』

タジムニウス『誰かいる!埋もれている‼︎』

ラース『?いやここには生存者は居ないって報告が。』

タジムニウス『分かるんだ‼︎良いから手を貸せ‼︎』

タジムニウスは両手を広げ、まるで瓦礫を持ち上げるような姿を取った。

タジムニウス『レビデト(浮遊せよ)!』

ジャンヌ『…総長命令なら疑う余地などありませんね、レビデト‼︎』

エルダ『こんな重いもの一人じゃ無理でしょうよ、レビデト!』

ラース『もし生きてるなら腹減ってるだろうな、スープでも食わしてやるかレビデド!』

四人が瓦礫を魔法で浮かそうとしているのを口伝で町人に知れ渡り、野次馬が集まってきた。

四人の騎士に掛かれば家一つ位の瓦礫なら退かすのは訳ない。

四人は瓦礫を退かすとそこには信じられないものがあった。

一人の少年が、そう歳は十六程だろうか、その少年が二人の自分の半分くらいの子供を瓦礫から庇うように覆い被さっていたのだ。

覆い被さったまま死んで…いや死んでいない!気絶していたのだ。

ジャンヌ『なんて事…。』

タジムニウスは走り寄り、その少年を抱き抱え、胸に耳を当てた。

タジムニウス『微かだが生きている!』

エルダ『総長、こちらを!』

エルダはタジムニウスにポーションを手渡した。

タジムニウスは少年にポーションを少し口に含ませてやると、少年は微かに息を吐いた。

タジムニウス『直ぐに館へ!その子らは⁉︎』

タジムニウスはジャンヌとラースを見たが、涙を流すジャンヌを見て、結果を悟った。

ラース『可哀想に…失血死だ。瓦礫にやられたんじゃない…傷口から見てあの化け物共だ。』

ジャンヌ『ごめんね…ごめんね…ごめんなさい…。』

エルダ『弔いましょう。誰か手を!』

町人達は手分けして、火葬場や坊主を呼びに奔走してくれた。

そんな中ラースは少年達がいた所より少し離れた所に落ちていたある物を拾っていた。

ラース『⁉︎…何故こんなものが…。タジム君。』

タジムニウスはラースに呼ばれ、顔を向けるとラースはタジムニウスにその拾った物を見せた。

タジムニウス『剣…ブリテオン銀で作られた物じゃないか⁉︎然も保存状態は良いが…この作りは大分大昔だぞ‼︎』

ラース『ウチの団員が持ってるものじゃない。恐らくこの坊やが持ってたとは思うんだが…詳しく聞いたほうが良いと思う。その剣がこの坊やと我々を惹き遭わせたんだ。』

翌日の朝にその少年は目覚めた。

幼児達への罪滅ぼしか…ジャンヌが付きっきりでその少年を見ていたらしい。

少年が目を覚ますとジャンヌは慌てて読んでいた本を閉じると、額に手を当て、熱が無いことを調べると直ぐにベットに備え付けられた箪笥に乗っかっていた呼び鈴をならすとタジムニウスとオブライエンが入ってきた。

少年『異人…⁉︎あんたらは⁉︎弟と妹は‼︎』

オブライエン『落ち着きなさい、傷口が開きますよ。…ふむ、何とか大丈夫そうです、後はしっかり食事を摂れば直ぐに動けますよ。』

タジムニウス『先ず、私達が何者か話したがほうがよかろう。私はタジムニウス・ド・レオンクール。ブリテオン王国近衛騎士…じゃなかったこのレオンクール遍歴騎士団の長を勤めている。そしてここは我が騎士団の為に幕府が用意してくれた館だ。』

少年『あんたらがあの…。』

タジムニウス『…いきなり酷な話をするが許して欲しい、君の弟と妹は…残念だが亡くなった…亡くなっていたよ。襲われた時に既に致命傷だったんだ…あの子達は町の者達が手厚く葬ってくれたよ。』

少年は声を挙げて泣き出した。

ジャンヌは咽び泣き、タジムニウスは目を閉じ、オブライエンは天に祈りを捧げた。

暫く立つと少年は意識を失い、ベットに倒れた。

無理もない重症だった上に起きて直ぐ訃報を聞き、泣き叫べば…いやでも体力を消耗する。

オブライエンは治癒魔法と、エリクサーを注射で投与すると暫くは寝かしてあげたほうが良いと言い、タジムニウスは仕事の為席を外さねばならない為、ジャンヌを残し、オブライエンと部屋を出て行った。

その夜に再び目を覚ましたと報せを聞いたタジムニウスは部屋を訪れた。

完全に憔悴し切っていたが、それでも何とか命の恩人に礼を言おうとしている姿にタジムニウスもかくやと思わざるを得なかった。

タジムニウス『辛いが…受け止めねばならぬ、それが人生だ。ところで私は君に聞きたいことがある。この剣を何処で手に入れた?』

少年『知らないんだ…ウチに代々伝わっているものなんだ。嘘か本当か、漁師をしていた御先祖が昔助けた異人が死ぬ間際に譲ってくれた物なんだそうだ。』

タジムニウス『なるほど、その話は本当だよ。この剣は我がブリテオンにおいて語られるとある遍歴騎士の剣だったんだよ。我が王国が世界中を探し回ってこの剣を探し回るほど偉大な騎士の佩剣なんだよこれは。』

少年『なら良かった、きっとこれも持ち主の子孫にでも返した方がきっと幸せだろう。』

タジムニウス『残念ながらその騎士は独身だ、子孫はいない。ところで君はこの剣を使って戦ったな?』

少年は一瞬黙った。

だがその後、首を縦に振った。

騒ぎを聞きつけ、剣を蔵から引っ張り出し、弟達を殺したあの化け物を斬ったのだという、斬ったというより剣の使い方なぞ分からなかったからメチャクチャに叩きつけたそうだが。

タジムニウスは少年の前で剣を引き抜いて見せた。

タジムニウス『この剣は我が王国で作られたとても古い剣だ、普通の剣とは違って魔力を流し込まないとこれは斬れない。』

タジムニウスは部屋に持ち込んだ木材目掛けて剣を振り下ろすが、鈍い音を立てながら剣は木材で跳ね返った。

タジムニウスは今度は魔力を込めると剣は薄暗い濁った水色に光出した。

タジムニウス『君は、この剣に無意識に魔力を流し込んだんだ。そしてこれは誰にでも出来る事じゃない。』

タジムニウスは今度は木材を容易く両断してみせた。

タジムニウス『町の者達に聞いたが君は孤児で町の者達の手伝いや丁稚奉公をして兄弟を養っていたと。町の者達からも好かれていたようだね、色んな人達が君の安否を確認しに来ていた、同時に心配していたよ、親戚も居ないようだから行く宛もないと。』

少年は俯いた。

タジムニウス『我が王国の騎士は、生涯のうちに必ず一人は才能ある人間を騎士として鍛え上げる義務があって、私は直属の弟子を持った事がない。少年、私の弟子になるのだ。』

ジャンヌは驚愕し、少年もこれには目を丸くした。

少年『俺がアンタの弟子に…?』

タジムニウス『そうだ、勿論君の意思次第だが。だが少なくとも君の兄妹の仇はそう経たずここにくる。復讐する機会が巡ってくるに辺り、私の元にいたほうが何かと都合は良いと思うぞ?』

この誘い方は卑怯だろう。

だが少年はその言葉に同意した。

少年『分かった、俺はアンタの弟子になる…それで弟と妹の仇が取れるなら。』

タジムニウス『よろしい、以降私の事はマスターと呼ぶ様に、他の目上の騎士にもな。そしてもう一つ今のうちに言っておこう。』

タジムニウスは部屋の窓を開けながら言った。

タジムニウス『君が騎士の道を歩くきっかけが復讐であったとしても、この戦いが済み次第誓え、その力は復讐のみに使うのではなく、我らが忠を尽くすべき御方とその御方が護らんとする物に対して誓うのだ。我らは何処まで行こうと、守る為の力を行使する存在だ。決して道を違えるなよ。』

少年は目の前の騎士の迫力に押されていた。

自分と10しか歳の変わらない男が出す迫力ではなかった…。

因みにこの少年の名前は万次郎と云い、身寄りがない事からタジムニウスの養子という形になり、同時にブリテオンで通じる名前としてジャックという名が与えられた。

これが後の世に出てくる東方出身の騎士ジャック・万次郎・レオンクールが登場した瞬間であった。

これ以降歴史書にはジャック・万次郎と呼ばれるこの少年の道はここから始まったのだ。

【NEOクガネ城 回廊】

ノブシゲ『弟子を取らぬ騎士が遂に弟子を取った。それが我がクガネの民草とは…誠に滑稽な話ではありませんか。』

タジムニウスはその翌日には軍議の為にNEOクガネ城に登城していた。

そこでノブシゲに弟子を取った事を明かしたのだ。

タジムニウス『彼には才能があると思っております。でなければ彼の一族が代々守ってきた古代の剣が応えるわけがありません。』

ノブシゲは笑いながらこう返した。

ノブシゲ『運命の出会いという事か。新たな騎士に祝福あれというところですな!』

タジムニウス『祝福あるかどうかは天上に座す女神様次第ですがね。』

二人はハハハと笑いながら城の廊下を歩いた。

ひとしきり歩いた所でノブシゲが本題を切り出した。

ノブシゲ『して、氷の出城はどうなった?』

タジムニウス『了承して頂きました、後は私が図面を書き終えるのと、彼女が必要な魔力を貯め終われば即座に作り上げられます。内装や仕掛けの為に必要な時間もありますので、遅くても明後日には築城致します。』

ノブシゲ『それは重畳、我らはその出城に命を賭けねばなりませぬ。』

タジムニウス『分かっております、故に現状考えられるだけの装備と資材で難攻不落に仕立て上げねば…。』

敵を押し留める要害が海以外何もなく、そして海という要害すら活かせないクガネに必要なのは、敵を押し止める壁なのだ。

まともに戦ってはまず勝てない、数の上で不利な軍が避けねばならないのは消耗戦だ。

自分を1、相手を2だとして、自分が1を犠牲に相手を削っても、結局相手には殘り半分の1が残る。

戦争は引き算なのだ。

だが、その戦争の方程式を破った者は少なくない。

寡勢が多勢に勝った例は決して少ないない。

そしてそれらは共通してある事がわかっている。

タジムニウス『如何に少ない兵を効率良く働かせ、死なせるかです。』

ノブシゲの表情は硬く硬直した、前者は兎も角、後者の死なせるという言葉は未だ少年の彼には重くのし掛かった。

ノブシゲ『死なせる…死なぬ様にでは無いのか?』

タジムニウス『いえ、死なせるで合っています。』

ノブシゲ『人命は消耗品と言うのか…。』

タジムニウス『左様、どこまで行っても戦場においては将兵の命は数字で表される消耗品にしかなり得ません。如何に武勇知略に優れていたとしても。』

ノブシゲは淡々と話すタジムニウスに一種の拒絶感…というより畏怖か…兎も角自分の生きてきた世界とは別の存在ではないかと想いを抱いた。

タジムニウス『覚えておかれませ、為政者、指揮官は戦にあたり、将兵の命を使って博打をしているのだと。それを理解した上で我ら率いる者は、決して彼等を犬死をさせてはならぬのだと。心情的になんとも惨い話でしょう、ですが割り切りなさい、負ければ我ら悉く玉砕するよりも遥かに血が流れる結末が待っているのですから。』

十人を生かすために一人を殺すという合理的思考からなのか、それとも貴族王族以外は限りなく人に近い物として見ている感性故か…それともただ単純に戦で人は死ぬ、という現実以外何物でも無いと思っている為か。

一つだけ言えることがあるとすれば、ノブシゲはこれからクガネの民草全員の人生に付加価値を付けるか否かを決める役目が与えられたという事だ。

なんとも傲慢な話だ、だが人の価値など無価値だ、人の価値とは死した時までに何を為したかで決まる。

彼らの死に意味を与えられるのはノブシゲしかいないのだ。

タジムニウス『生き延びた者には溢れんばかりの賞賛と褒章を、死した者達には慰めの言葉と、貴方が死ぬまで覚えていてやって下され、死んだ者の肉体は朽ちても、魂は覚えている人間がいる限り不滅です。』

【NEOクガネ 城下町】

ノブシゲが覚悟を新たに固めている頃、駄菓子屋あんらく堂にはいつもの二人が集っていた。

店は戦火を免れていた。

シキ『チビ達はヒンガシに逃したのか?』

カツドン『ああ、近所に住んでる気のいい老夫婦が避難するっていうからな面倒を頼んだ、ウチの子達も懐いてるし、心配いらない。』

シキ『ギンのとこもハルとアルは避難させたそうだ…。』

カツドン『レオンクールの旦那は不満な顔をするだろうな、戦える人材の避難は禁じるように幕府に依頼を出してたみたいだからな。』

シキ『戦力が欲しいのは分かる、だがアイツらは子供だ、子供を戦場に出したい親なんているかよ…。まぁ、あの若造が他所の家に口出す権利は無いが、アイツらのとこは子供も戦うからな、それに関しては俺達も何もいう権利はねぇよ。』

カツドンは店を見回すとジェピとロハンが居ない事に気がついた。

カツドンは二人の行方を問うと、ジェピはアレから城の周りに張る様になり、露伴は死んだ民草に経を読むので忙しいらしい。

シキ『ところでなカッちゃん、幕府から依頼が来てる。』

カツドン『オシオキのか?老中でも斬ってこいってか?』

シキ『そりゃあ良いが、残念ながら相手が違ぇよ。ジェピやロハンちゃんにも話したが、俺達は時が来るまで潜伏しろとよ。』

カツドン『時が来るまで…ね?俺達は真打ちな訳だ。』

シキ『地の利、人の和はある。後は天の時を呼び寄せてみせるってよ?』

その時とは何なのか…。

それは正にその時が来ないと分からない。

そこからはNEOクガネの民草達は忙しい毎日を送っていたという。

避難、戦闘訓練、NEOクガネの改築、そしてクガネに新たに建てられる要塞…。

やる方は沢山ある、正に忙しい毎日だ。

だが忙しい方が良いだろう、この埋めようの無い空虚感や悲嘆から逃れられるなら…。

NEOクガネから少し西に逸れて努馬では…。

六道党の主だった者達と、オズク・ハーンもその臣下達が勢揃いしていた。

かつて過去の王朝が治めていた王城、今は努馬の帝の離宮となっているこの城に凄まじい数の六道党の信者とオズクの兵、そしてオズクによって無理やり徴兵された努馬の兵士合わせて四十万、いや五十万、六十万かも知れない大軍が城、そして街、街の外まで広がっている。

そしてそれらは口々に新世界秩序‼︎と叫んで止まらぬのだ。

王城の大広間に多くの族長や戦士長が平伏し、その前にオズクの重臣、そしてそれより前に六道堂の木、火、土、雷、水を司る五王が跪く、彼らが跪く先には玉座に座るオズクとその傍らに立つ六道天冥斎である。

正にドマの地に六道党の教えが国教と化している国家があると言っても過言ではない有様である。

オズク『皆、大義である。いよいよだ、いよいよ一月の後に我らはNEOクガネに向かう。我らの信じる正しい秩序を齎す日が来るのだ!皆の者、彼の地の物全て奪え!人も建物も富も全て切り取り自由とする!存分に奪え!殺せ!犯せ!彼の地に住まう者、皆真なる人類を冒涜する獣に過ぎん!神は我らの行いを正義と断じ、我らに祝福を齎すであろう‼︎』

将兵『うおおおおおお‼︎‼︎』

大広間は熱狂に包まれた、殺し、奪う事を至上とする蛮族に宗教という概念と正統理由を齎すと碌な事をしないが、案の定だろう。

熱狂の広間を後にしたオズクと天冥斎、そして五王は城の一室に集まった。

天冥斎『お見事でした、オズク様。信徒達と兵らは闘志に打ち震えて居られますぞ!』

天冥斎はオズクを褒めちぎった。

ツチシロ『いよいよ始まるのですね!天主様の理想を完遂する時が!』

エンケイ『あんな奴ら、俺達に掛かればあっという間に叩いて見せますぜ天首サマ‼︎』

イツキ『ツチシロ、エンケイ。昂り過ぎだ控えよ。』

?『良いじゃないか!若いのは元気が1番さ‼︎』

と、豪快に返したのはルガディン族の大女だ、見た目は完全に海賊の棟梁と分かる見た目をしている。

スイカク『フフ…豪電(ゴウデン)様は相変わらず頼もしいですね。』

天冥斎『これで終わりでは無い、我が理想はこの星全てに伝播させねばならん。イツキ、ブリテオンはどうか?』

樹『先ず、西南の連合国家群は交渉を続けております。宰相オルレアン公爵自らが赴いているとか。』

オズク『流石に戦火を交える迄には至らぬか…だが少なくとも暫くは進展せぬだろう。』

天冥斎『して西北は?かの帝国との戦はどうなっておる。』

イツキ『数日前より戦端を開いて以降…凄まじい戦いを繰り広げております。両軍の動員兵力は優に五十万は超えております。ブリテオンは筆頭元帥オルタンシア元帥を総大将に副将シェフィールド元帥といった名だたる元帥を召集し、セダンの長城を守らせております。かの帝国は、未だ動員している兵は全て衛星国家の兵の様ですが、昨日帝国本土より主力軍団の動員が確認され、本格的に参戦するとの事。これを受け、ブリテオンは国王シャルルマーニュ六世自ら親征する事を決め、国王直属軍団と先に工作を仕掛けた第三軍団を率いてセダンに向かいました…。これでブリテオンは完全に封殺とは行かずとも、身動きが取りづらく、少なくとも東に目を向ける余裕はないかと…。』

スイカク『これで彼らが、我らが事を為している間に邪魔をする事はない。』

天冥斎『うむ、あの小煩い獣を遠ざけられただけでも重畳よ。』

イツキ『ゴウデンよ…船の準備は?』

ゴウデン『問題ないよ、ただ、ウチらの船以外は殆ど急増艦や老朽艦、攻撃されたら一溜まりも無いね。』

エンケイ『アイツらにそんな事が出来んのかい?』

オズク『油断は禁物だ、先の先制攻撃も満足のいく結果に至ら無かったのも、其方らが慢心した故であろう。』

エンケイは舌打ちをしながらそっぽを向いた。

イツキ『されど、彼奴等が抵抗してきたとしても、その大半は有象無象…ご安心召されよ皇子。尤もエンケイは慎重という言葉を刻む方が良いがな…。』

エンケイ『なっ⁉︎グッ…。』

天冥斎『兎も角、後一月、我らの新しき世界の為、骨身を惜しむでないぞ…。』

五王『ハハッ‼︎』

六道党も戦いへの覚悟を固めていた。

どちらかが勝つのか…それは誰にも分からない。

天の時、地の利、そして人の和を揃えてみせた天冥斎が勝つのは一見揺るぎない様に見えるが…勝利の女神が微笑むかは最後まで分からないのだ。

【NEOクガネ クガネ城二の丸】

NEOクガネ城に大量の銃火器が運び込まれている。

商人達が奔走してから数日後、この脅威的な速度は後世においても奇跡とされている程だが、今はそれは置いておこう。

シモ『なんだこの数、五千から一万近くは有るんじゃねぇか⁉︎』

シラギク『これ全部鉄砲でござるか⁉︎一体何処から…。』

彼らは知らないだろうが、世界中には銃は溢れているのだ、そしてそれらは銃口から火を吹かずとも存在するだけで火種となってしまうのだ。

カムロザエモン『仰天…!流石にこの量は驚いた。』

ノブシゲ『これだけの数を直ぐに用意出来るとは…。』

カムロザエモン『流石は七つの海を荒らしまわっただけはありましょう…。』

ノブシゲとカムロザエモンは運び込まれる銃の山を見ながら話していた。

そこに役人が近づき、報告する。

役人『若様、商会のヘイスティングス殿がお見えになりました。』

カムロザエモン『お通ししろ。』

程なくして二人の前に現れたのはまだ三十代になったばかりの青年だ。

背は高く、体は細いがガッチリしている。

誠実そうな印象を漂わせた好青年だ。

そんな好青年が白いスーツ姿で二人の前に立っている。

ヘイスティングス『初めまして、パーシー・ヘイスティングスと申します。』

ノブシゲ『よくぞ来られたヘイスティングス殿、貴方方商会の助力にはきっと応えさせて貰う。』

ヘイスティングスは差し出された手を握り返し、和かに答えた。

ヘイスティングス『いえ、我が商会を初め、多くの商会や植民地が持て余していたこれらを引き取ってくれるというのであれば、この場に来られなかった我が頭目や、ひいては国王陛下もお喜びになられている事かと!各地に溢れた武器は、犯罪者やテロ組織に渡り、我が国を始め、多くの人々に牙を剥きます、この状況に終止符を打てるかもしれないのであれば我々は縋りますよ。』

カムロザエモン『話の腰を折る様で悪いが品を見せて頂けるかな?』

ヘイスティングスはそうだったと、慌てて持ってきた銃の箱を開けて、品を見せた。

銃は後装式の単発ライフルだ。

薬莢式の弾丸を薬室に込めるタイプで、旧式といってもつい数年前まで主力だった銃だ。

ヘイスティングスは慣れた手つきで銃を操作し、庭に設けられた的を射抜いた。

二人はおお…と感嘆の声を上げた。

ノブシゲ『流石に商品の扱いには長けておられる。』

ヘイスティングス『コイツは体の一部になるまで徹底的に操作を覚えさせられましたよ。久しぶりのはずなんですがね。』

カムロザエモン『軍人だったのですかな?』

ヘイスティングス『はい、結婚を機に退役しましたが、ブリテオン陸軍の大尉でした。』

ノブシゲ『ではヘイスティングス大尉ですな?』

ヘイスティングス『他の方に大尉と呼ばれるのは久しぶりですよ。私の事をそう呼ぶのは、妻とコ…頭目とレオンクール伯だけですからね。』

騎士団と真青誠組の面々が民草を徹底的に鍛え上げるべく奮闘する日々は続いている。

武器の使い方、立ち回り方、果ては応急処置まで、去る者は残る者達の変質をただ眺めていた。

ある意味これは訣別だったのだ。

勇ましくも儚く悲しい…。

この二者は無事再会し、喜びを分かち合う事が出来たとしても真に分かり合う事は決して無いだろう。

選択の違いは価値観の違いだからだ。

騎士団の館を歩いていたタジムニウスは中庭を挟んで反対の廊下を歩く九十九尾とメフィを見つめていた。

この夫妻が残ると聞いたタジムニウスはとある依頼をしていた。

その依頼はこの夫妻の運命を左右するものだった…だが事は最早それを踏まえている余裕は無い。

タジムニウスの脳内にそのやりとりが蘇っていた。

タジムニウス『お二人が残られるとは…少し意外でしたよ。』

タジムニウスは煙草屋黒兎耳に来ていた。

この夫妻が残ると聞いて直ぐに駆け込んだのだ。

九十九尾『私にはこの地での使命がある。妻も私から離れたがらぬ。ただそれだけの事。』

メフィはカウンターの前で席に座り煙管を蒸し、九十九尾は棚の商品を並べ直しながら答えた。

タジムニウス『九十九尾殿、貴方は確かにこの地を離れられない理由はありましょう、ですが奥方、メフィ殿はもっと別の理由でしょう?』

九十九尾は横目ではあるが目つきが険しくなり、メフィも煙管を持つ手が止まる。

タジムニウス『貴女はマーメイド、人魚だからだメフィ殿。』

そう言い掛けた刹那、九十九尾はタジムニウスの首に光り輝く護符が突きつけた。

タジムニウスと九十九尾の間は歩いて五、六歩程だから只手を伸ばしても届く事はない。

それ程の距離に瞬時に近づいたと考えれば九十九尾が今どう言う状況か想像するのは容易い。

九十九尾の殺気を感じて護衛として連れてきた騎士達も既に抜身で青や緑のエーテル光を放つ剣を持って店に飛び込んで来たがタジムニウスは片手を挙げ制止する。

タジムニウス『剣を納めよ、今のは私が悪い、物を頼みに来た立場であるのに興奮が優ってしまうとはな。』

メフィ『興奮、僕に?』

メフィはタジムニウスに歩み寄る。

タジムニウスは騎士達に外で再び待たせると、こう語った。

西方でも人魚の伝説はある。

その美貌、歌声で船乗りを魅了すると、そして手籠にして、或いは貪り食い、或いは一夜を共にして子種だけ搾り取り朝には姿を消し、或いは恋を成就させ人間として陸に住み、或いは恋に敗れ、泡となって消える。

そう言う話を自分は幼少期から海を眺めながら沢山聞いたと、そしてそれと同じくらい聞かされた話がある、それは…

タジムニウス『いかんいかん、この事はまだ秘密だ…絶対に時が来るまで隠し通さねばならぬ。』

タジムニウスは首を振り、昨日のやり取りを一旦頭から取り去った。

夫妻は向こうの廊下越しでタジムニウスに気がついた。

タジムニウスもまた会釈を返すと、夫妻もまた頭を下げ去っていった。

万次郎『マスター!』

気を取り直すとタジムニウスの前には、騎士団の制服を着た万次郎が立っていた。

この少年が拾われて一週間弱、この青年は騎士団の修行に明け暮れた。

恐ろしい事にこの少年は才能の塊だった。

剣技は基礎や足運びを教えると一時間か二時間で物にした、妬んだ従士見習い達に立ち合いを挑まれ当初は完膚なきまで打ちのめされたが、最後には立場が逆転し、誰も寄せ付けられず、万次郎の足元に転がっていたという。

おまけに万次郎は人が良かった。

彼の性格の良さや物腰の柔らかさで騎士団に溶け込む速さは正に一瞬だったという。

二人は館の中庭に着くと万次郎は件の剣を、タジムニウスは木刀を構える。

タジムニウス『アインホーク卿が褒めていたぞ、実に素晴らしい才能だと、立ち振る舞いにも努力を感じると。ブリテオン語までは完璧とは行かぬ様だがな。』

万次郎『言い過ぎですよ、俺は誰よりも遅れています。今までも偶々に過ぎません。』

タジムニウス『そう謙遜しなくて良い、少なくとも私よりマシなのだから誇りに思うべきだ。』

タジムニウスは木刀を振り下ろし、振り下ろされたそれを万次郎は剣で防ぐ。

剣には既に青いエーテル光が纏われている。

ブリテオンの騎士として認められた証拠だ。

万次郎『マスターこそ謙遜ではありませんか?今そう言う貴方は何者です?とても信じられませんよ?』

万次郎は木刀を押し返すと剣で横振りと突きのコンボを繰り出すが、タジムニウスは横振りは、背後に避け、突きは、木刀で逸らして躱し、そのままの勢いで突く。

だがこれは万次郎も逸らして防ぎ、二人は鍔迫り合いになった。

タジムニウス『誰が何と言おうと私は近衛騎士始まって以来の劣等生、万年最下位だ。その辺の話は諸々いつかしてやるが、兎も角決してこの座は譲らん。』

万次郎『そんなものに縋らないで下さい!』

二人は笑いながら剣の稽古を続けた。

このやり取りを見ていた騎士達は、仲良く遊ぶ兄弟の様だったと語ったという。

師弟が剣の稽古をしている最中、館の地下では一つの産声が上がっていた。

ラズベリー『出来た…超重装歩兵用装甲服パラティーナ…。』

騎士『これが…パラティーナ。』

ラズベリー『当初の予定ではバックパックに魔導アーマー用の青リン水機関を積むつもりだったみたいだけど、当然そんなものを背負ったら歩けないし、立てない。なら青リン水機関を分割小型化して青リン水も装甲内を循環させれば良い。』

騎士『魔導カノン砲用の青リン水機関を流用して背部、腰部、脚部、腕部に分散配置して、人工筋肉を動かす…こんな事考えつきもしませんでしたよ。』

ラズベリー『でも、これは応急処置に過ぎないし、一部の損傷次第によっては全部ダメになる可能性が高い。然も青リン水も装甲内に循環させているから装甲を貫徹されたら引火するし、誘爆の危険性も孕んでる…。正式採用品は何としても小型化された青リン水機関を作るか、何か別の動力源に代替えしないと危なかしくて碌に使えないと思います。というか、こんなの誰が使う』

と言いかけた時だった。

?『これがワシの新しい鎧か!イカすのう‼︎バハハハハハハハ‼︎‼︎‼︎』

轟音と響く笑い声にラズベリーは大砲の砲声かと勘違いする程だった。

振り返ってみるとそこに居たのはルガディン族の男と言うにはあまりにもそれらしかった。

薄緑色の肌に白い顎髭、髪は短髪の白髪頭で顔には皺があるが老いて益々健在と言わんばかりに生気に満ちた逞しい肉体で軍服がはち切れんばかりだ。

ラズベリー『えっ、えっと…どなたでしょうか?』

騎士『ウングリム隊長⁉︎いらしてたんですか?』

ウングリム『何じゃい?そんなに驚くか?』

騎士『ラズベリー殿、こちらが我が騎士団の重騎士部隊隊長のウングリム子爵です。』

ラズベリー『よろしくお願いします閣下。』

ラズベリーは自分の体躯の二倍はあろう老ルガディンに萎縮していた。

ウングリム『オウ‼︎よろしくな嬢ちゃん!これが俺達が着る新しい鎧かぁ…説明してくれんかの?』

騎士『はっ、はい。基本的な設計はそのままに、背部バックパック、腕部、脚部を拡大化させ、その中に魔導アーマーの魔導カノン砲用ジェネレーターを分散配置して装甲内に張り巡らされた人工筋肉を動かします。全身に青リン水が巡る形になりますが、装甲を貫徹されない限り引火の心配は有りませんし、歩兵携行兵装ではまず貫徹の恐れは無いかと。』

ウングリム『武器は?』

騎士『通常通り、皆様の剣や槍、ハルバードに斧に専用の盾に加え』

ラズベリー『ペーパープランしか無かったけど、重機関銃を、二百連装ドラムマガジンを装備した最新式です。反動もこのパラティーナなら完全に抑えられます。』

ラズベリーもそこは技術屋だ、必要な事に関してはちゃんと付け加えて説明した。

ウングリムは満足そうにまた砲声の如き笑い声をあげると騎士とラズベリーの肩をバンバン叩いて褒めた。

ウングリム『最後にちと注文を加えていいかの?』

ラズベリー『?』

ウングリム『このパラティーナはワシの部隊50人が着るんだが、それら全て左肩を紅くしてくれ。』

騎士『左肩をですか?』

ウングリム『ワシの部隊の目印みたいなもんだ、敵がこれを見て恐れを抱く様に血の色みたいな紅に頼むぞー!』

ウングリムはそう言って地下工房から去っていった。

騎士『赤肩(レッドショルダー)のウングリムか…』

ラズベリー『レッドショルダー…?』

地下工房のやりとりはこんなものであったそうだ。

さて、今度はNEOクガネの街を見てみることにしよう。

民草たちは出城の建設に勤しんでいた…筈だった。

実際彼らが作ったのは城の骨組みと城の中にある施設、つまり兵舎だが、実際は壊れた街を直してるだけに過ぎなかった。

民草『おい?本当に壁作りはしなくて良いのか?これじゃ何の役にも立たねぇぞ?』

民草『これで良いんだと、壁は一気に作るんだってよ。』

そう未だ城は完成していない。

勿論理由がある。

だがそれは今は良いだろう、もうすぐに分かる事だ。

その頃NEOクガネの城ではノブシゲが自身の為の大鎧をつけていた。

紅白の色合いがよく映える赤糸威大鎧だ。

前建ては金色の長鍬形、そしてヤクの毛で作った白熊だ。

立派な武者の装いだ。

かつてクガネの始祖もこの鎧を身につけて戦に及んだという。

鎧は対魔法、対弾性を考えられて装甲は作り直されたが、飾り紐は装いは当時のままだ。

病床の将軍も息子の鎧姿に涙を流した。

もうこの時点で敵が侵攻すると思われる日まで後一週間に迫っている。

遠からず息子は戦に立つのだ。

自身が情けない親でなければと将軍は心から悔やんだ。

民草たちも前もって定められた持ち場やその後の動きを終始確認する作業と食料の確保に勤しんだ、もう大半の民草はヒンガシに避難している。

だがまだヒンガシ軍到来は無い。

ノブシゲ『このまま戦うしかないと言うのだな。』

タジムニウス『ひとまずは、ともすれば、我らの戦い振り次第が左右するやも知れませんぞ。』

ノブ『日和見って事かい?』

タジムニウス『外交上、クガネを生贄に自分達は見逃してもらおうと考えるのも分かる話だからな、尤も時間稼ぎにしかならんが。』

三人はとある場所を目指して歩いている。

ノブシゲ『して、到着したわけだが、ここに城が出来るのだな、後一週間程と言うのに骨組みと兵舎、しか出来てない様に思えるが?』

タジムニウス『堀を忘れなさいますな、後で見せますが、相当深く掘ってもらっております故、まぁお待ちなさい。』

一行は建設現場の真ん中に立つ女性に気がついた。

ハクレンだ。

ハクレンも一行に気がついた。

ハク『あら、良い所に来たわね。』

タジムニウス『そろそろですかな?』

ハクは頷くと、杖を地面に突き刺した。

そして彼女は息を吹く。

するとどうだ、骨組みに沿って氷の壁が少しずつ出来上がってきたではないか。

自然ではありえない速度で氷は出来上がり、壁を作っていく。

やがて出来上がったのは半月形の氷で出来た要塞だ。

いくら今の時期が冬だからといって、魔法で出来た氷は溶ける事はない。

凄まじい力で破壊するか、術者が魔法を解かないとこの氷の城は崩れない。

氷の要塞の築城にクガネの皆が歓声を挙げた‼︎

ハク『さぁ、後は任せたわ。私は少し眠るから明日の朝くらいになったら起こして頂戴。』

タジムニウス『お休みなさいませ、ツァー…魔女殿。さぁ、最後の仕上げだ!大砲を備え付けろ、銃を並べ架けろ、兵糧を運び込め‼︎』

民草『おおおおおおおお‼︎‼︎』

ノブ『外法の事は何一つ分からねぇがこんな事が出来るのか?』

タジムニウス『普通は無理だ、当代の氷魔法を極めた者達が同じ事をやっても数日から一ヶ月、いやもっと掛かるだろうな。彼女が特別なんだ。』

ノブシゲ『この城に我らの命運を掛けるのだな。』

タジムニウス『左様、これでやっとクガネは戦に耐えられる地になりました。…ところで若君。』

ノブシゲはタジムニウスの問いに顔を向けた。

タジムニウス『この城の名前は如何致します?』

ノブシゲ『薮から棒だな……うむ。クガネを守る為の城だ、クガネ(公鉄)丸で良かろう。』

タジムニウス『畏まりました、皆聞け、これよりこの城はクガネ丸とする!皆この城に命を駆けよ‼︎』

これが後に云う氷の出城、公鉄丸である。名前の由来はクガネの民草が血を流した土地の上に、更にクガネの民草が汗と血を流して建てた城という意味であった。

それ故に民草を表す公、鉄血、つまり血を表す鉄で公鉄丸(クガネ丸)なのである。

そしてそこに役人が大急ぎで馬を走らせ現れた。

役人は大声で叫ぶ。

『敵、来たれり‼︎輸送艦隊第一群出航せり‼︎』

【ブリテオン近衛騎士団・駐屯館】

城は出来た…去る者は去った、戦う為の者達の訓練は一通り終えた、そして、恐らく敵は明日か、明後日には来る…だが一人、夜にも関わらず書斎に座るタジムニウスが居た。

ジャンヌ『まだお休みにならないのですか…。』

書斎の扉に寄りかかるように立つジャンヌの声でタジムニウスは書き物をする手を止めた。

タジムニウス『君こそそろそろ寝たまえ、明日は恐らく早くやる。私はもう一つ策を練るので忙しい。』

そう言うタジムニウスは手こそ止めたが、顔は向けず、自身が書いた地図を見ていた。

だから彼女が白の半袖シャツに黒いキュロットパンツ姿だった事も、彼女が目の前まで来ていた事にも気が付いていなかった。

ジャンヌは机に手を乗せて寄りかかる形になった。

ジャンヌの手が視界に入ったのでタジムニウスはやっと顔を上げた。

タジムニウス『うおっ⁉︎』

タジムニウスは仰天した。

顔を上げたら目の前に彼女の豊満な胸がシャツから見えているでは無いか。

ボタンを上まで閉めてなかったのだ。

ジャンヌ『総長、戦の勝敗は戦場の外で決まると言います。ならもう私達はこの戦に負けてしまっている様な物です。それはもうお分かりですよね?それでも尚貴方は足掻くのですか?』

タジムニウス『君の言う事は正しい、だが幸い、質の上では我らが勝り、勝ちの目が一筋でもあるなら足掻いて掴むのが私の仕事だよ。』

ジャンヌ『数日も寝ずに食事と入浴とトイレ以外そこに座って居る事がですか?私なら2日前、もしくは前夜なら少しは寝ますけどね?』

タジムニウス『私には責任がある、この地を預かった責任が、後は仮に負けたとしても戦った者達が意義ある死を遂げたと思えるように、そう後世に残せる様に導く責任がある。それを放り出す事は出来ない。』

ジャンヌは何も言わずにその場を離れずタジムニウスを見つめる。

タジムニウスはジャンヌの普段と何か様子が違う事を感じ取りながら、机の箪笥の中からタバコの包箱を取り出すと逃げるように窓際に立った。

タジムニウス『だがそうだな、君の言う通りだ。少しだけ寝るとするよ。万が一下作でも考えたら事だからね。』

その瞬間、ジャンヌはタジムニウスを真正面から抱擁した。

タジムニウスはその場で固まった、彼女は一体何をする気なのだ…と困惑しているのだ。

然もよく見たら髪は少し湿っているし、彼女の体は温かい上に石鹸の匂いがする、風呂から上がったばかりなのだ、そして彼女の口元からは華やかな香りがする、これはシェリー酒だ。

ジャンヌ『意義のある死、皆死ぬかもしれない、最後になるなら私がこうしたって…天は御許しになりますよね…。』

彼女の耳元が少し赤くなっている。

恥ずかしさ故か、それとも酒が入っている為か…。

タジムニウス『ジャンヌ…?』

そう言った瞬間、ジャンヌの柔らかな唇はタジムニウスの唇と重なった。

二人は暫く重なり合って離れた。

ジャンヌ『休む気なんて無いでしょう…?空のタバコの箱なんか持って私をはぐらかそうなんてそうは行きませんからね…そうだと思ったから、そうだから…こうでもしてくれないと…寝てくれないと思ったから…。』

タジムニウスは己の唇に手を当てた…どうやら何か…盛られたらしい…

 眠気の様な…いや違う…寧ろ興奮するような…。

ジャンヌは少し泣きそうな顔をしながら部屋から出て行こうとした。

だがその手をタジムニウスは離さなかった。

タジムニウス『約束する…今から寝るよ。』

タジムニウスは片手で軍服の上着を脱ぎながら言った。

タジムニウス『だから…その…もう夜も遅い…。』

タジムニウスは頭を掻きながら言った。

タジムニウス『違う、そうじゃない…。君の言う通り、最後になるかもしれない…どうせ最後になるなら…今夜は共にいてくれないか?』

ジャンヌは小さく頷き、タジムニウスの部屋の薄明かりは消えた…。

夜は更に深くなり若干白み出した頃、タジムニウスは起きた。

傍には静かな寝息を立てるジャンヌが居る。

起こさぬようにそっとベットを出ると、ズボンとブーツだけ履き、窓を開けると煙草に火をつけた。

まだ体には彼女の色香が残っている。

この手に抱いたという感触が…正に官能的と云えた感触を拭い去ろうとタジムニウスはタバコを燻らせた。

その頃、NEOクガネの者達もそれぞれの想いを巡らせていた。

ノブシゲ(今日もなんとか生き延びた…だが明日となれば、もうそこからは分からない…そう明日は…)

タジムニウス(ようやく想いの丈を…伝えられたのに、明日には遠ざかってしまう。永遠にかもしれない。戦の中にあってもそう、貴女こそ全て。)

ライ(また私は一人…いつまた逢えるのか…振り向きはしない…私は誓う…。他には目もくれない。)

シキ(嵐の日が過ぎて立っているのは俺たちか…)

カツドン(後1日、その後に立つのは奴らか…)

ロハン(自由の為に…)

ジェピ(二つに一つ…)

ノブシゲ(さぁ、隊列を!戦が来た‼︎)

シキ(明日は…)

ノブ(明日は戦だ、敵を近づけるな、斬って斬って死ぬまで暴れてやろう、俺達は死ぬのだ、明日は…)

スガク(戦は好きだ、研究材料に事欠かぬ、彼方でも、こちらでも、死人に口なし、我らに阻む物なし。)

ノブシゲ(新しい日に我らの旗を掲げて)

タジムニウス(誰もが自由)

ジャンヌ(誰もが死ぬ定め)

シキ(新しい世界の幕を開く祭囃子の音を聞いたか?)

ノブシゲ(私は皆と、共に戦おう!明日は)

タジムニウス(伝えられたのに)

ジャンヌ(伝えられたのに)

スガク(全て儂等の物に…)

ライ(今日だけ一人)

ノブシゲ(皆の命と決意を胸に明日は戦…)

ジャンヌ(漸く伝えられたのに…)

アマル(一人残らず生かして返すな)

ライ(振り向きはしない)

タジムニウス(貴女が全て)

ノブシゲ(明日は一つ、裁きの明日)

明日になれば勝利の女神が微笑んだのがどちらなのか分かるだろう。

そう、朝が…明日が来れば…‼︎

【紅玉海】

朝靄の中を安宅船…それよりも一回りほど大きい船一隻が靄を切り裂く様に進む、その周りに小さな小型船が二十艘程が囲む。

そしてその後ろを膨大な数の輸送船が続く。

海賊『船長!紅玉台場が見えますぜ‼︎』

旗艦の安宅船の船員が船長を呼ぶ。

船長、六道党五王の一人ゴウデンが船員から望遠鏡を受け取ると覗き込んだ。

ゴウデン『ああん…?紅玉台には砲台が設置されてた筈だろう?一門もねぇじゃねぇか?それどころか人っこ一人いないじゃないか?』

?『寧ろ当然と見た方が良い、紅玉台がクガネの海上の要といえどただの浮島、必死に守る必要も無ければ、こちらも攻める理由は無い。しかもあそこは孤立している、あそこに兵と砲を置くということはむざむざ敵の手に委ねるか、遊ばせるか、飢え死にさせるかのいずれかにしかならぬ。』

ゴウデンは不敵に笑いながら同意した。

ゴウデン『確かにアンタの言う通りだな。ブリテオンのやり口は重々承知というわけか。』

ゴウデンとやりとりをするこの古びた軍服を来た初老の紳士は何も言わない。

ゴウデン『ハァ、艦隊はこのまま前進させるよ?良いかい?』

?『構わん、だが輸送船各艦は直ぐに上陸ボートを降ろせるように用意をさせろ。敵は多少なりは海岸線で迎撃を試みてくるはずだ、地道ではあるが少しずつ上陸艇を送り込んで浸透させた方が輸送船を沈められるよりは良い。下手をすれば沈められた輸送船が邪魔して港を閉塞させるやも知らぬからな。』

豪電はその場を離れると、手下達に合図をさせるのだった。

?(レオンクール、貴官はブリテオンに帰るべきだったのだ…陛下も、貴様も…外にばかり目を向けておる…それでは国が滅んでしまう…何故分からぬ。)

【NEOクガネ 港湾地区】

老軍人の見立ては正しかった。

港湾に並べられるだけの海岸砲や騎馬大砲を並べようと騎士団と幕府勢は大忙しだ。

ブリテオン製の大砲は全て公鉄丸に備え付けてしまったので、NEOクガネの持っていた旧式砲、つまり紅玉台にあった大砲を備え付けたら、それより小口径な上旧式の大砲を無理矢理騎馬牽引式に改造したものを並べ立てている。

アマル『一体どれくらいの時間足止め出来るのか…。』

フェリ『……。』

アマル『ああ、たかが知れてる、その通りだ。だが全員無傷で上陸させてやる必要はない、だがここに残って討死もごめんだ。引き際を弁えないとな。』

ジョージ『その点に関してはおじさんを信用してくれて良いよ〜。』

海を眺めるアマルとフェリを後ろからライフルを背中に担ぎながらジョージが話しかける。

ジョージ『おじさんこういうの長いから、引き際を分かるから、大砲撃つ若い子達は撃つことだけ考えてれば良いんだよ〜。真青成組の君達はもし上陸してきた敵が来たら砲手を守ってね〜、でも無理しちゃいけないよ〜。』

アマル『そもそも上陸させないために砲撃を加えるんじゃ無いのか?』

ジョージ『まぁね、ただ上陸は許しちゃうだろうね〜。君が言った通り、気休め。ひょっとしたら輸送船を沈めたお陰で敵が上陸しにくくなるかもしれないしね〜。』

アマル『やらないよりマシか…確かにすんなりと出城まで通す必要もないか。』

町人、農民、商人、侍、騎士達がそれぞれの持ち場に着く。

ノブシゲ達はクガネ城で最後の打ち合わせをしていた。

全員が完全装備だ。

ノブシゲも赤糸威の大鎧を身に付けている。

ノブもいつもの隊服に、頭には陣笠、腕には籠手を身につけている。

タジムニウスやジャンヌもいつもの鎧のグレートヘルムを被った時の下地になるチェーンコイルを被ってる。

装いが変わらないのは、いつもの着物姿のカムロザエモンくらいだ。

まぁ彼は文官、鎧姿の方が珍しいかもしれない。

タジムニウス『では各々、もう一度確認いたそう。敵は間違いなく港湾から上陸してくるはず、そこに砲列を並べ、可能な限り敵艦を撃沈します。

敵の海上戦力に戦闘可能な戦力があった場合更に迎撃出来る時間は少なくなるでしょうが、その時は仕方ない、直ぐに撤退する様諸将には伝えてあります。』

タジムニウスは地図に指揮棒を当てながら説明し、皆も頷きながら聞いていた。

タジムニウス『敵は上陸し、NEOクガネの街を突き進み、分断されて行く、そしてある一定の場所で、敵を挑発する。…本当にこの役を若君がやるのですかな?』

ノブシゲ『頼む、やらせてくれ。敵は私が大将と知れば血眼になり追いかけてくる。そうすれば皆は戦いやすくなる筈だ。』

タジムニウス『若君の護衛、任せましたぞ局長。』

ノブ『おう!指一本触れさせるもんかよ‼︎シラギクの壱番隊も連れていくしな!』

ノブは腕組みをして大笑いして請け負った。

シラギクも緊張しているのか無言で頷く。

タジムニウス『こちらからはエルダ卿とラース卿が小隊を率いて護衛に当たる。準備は?』

ジャンヌ『ハッ、滞りなく。』

こんなやり取りを、そう真剣なやりとりをしている彼らは殺気立っている、当然だ。

だが…如何なる場合も肩の力を抜かねば上手くいかないように、戦も例外では無い。

そして幸いにもその緊張はとある一言で砕かれた。

シラギク『…なんかレオンクール伯とジャンヌさん、なんかよそよそしく無いでござるか?喧嘩でもしたでござる?』

二人は一緒に、そしてあっという間に顔を真っ赤にした。

タジムニウス『な、何を言っているんだこんな時に‼︎』

ジャンヌ『そ、そうですよ!喧嘩なんてそんな。』

シラギク『でも二人とも妙に距離離れてるし、なんか視線を合わせようとしないし、一瞬目が合うと慌てて晒すし…。』

二人はいよいよ慌てふためき出した。

ノブ『シラギク、やめてやれ。お前も後少ししたら分かる事だ。二人は放っておいてやれ。それはそれとして、披露宴は呼んでくれよ?』

ノブは揶揄いながら話をはぐらかした。

タジムニウス『お、おい⁉︎』

本陣は笑い声に包まれた。

ノブシゲ『さて、肩の力も抜けた事だし、行って参る。』

タジムニウス『もう行かれるので?』

ノブシゲ『海岸線の迎撃はあくまで短時間の『嫌がらせ』多少敵を減らせれば御の字なのであろう?なら今の位置に準備しておいても損はなかろう。』

タジムニウス『分かりました、それでは公鉄丸にてお会いしましょう。』

ノブシゲは護衛を引き連れて天守を出て行く、残ったタジムニウス、ジャンヌ、カムロザエモンは天守から外を眺める。

カムロザエモン『大兵に策なし、正に津波の如く押し寄せてくるのだろうな。』

タジムニウス『されど、一直線には進めません、幾らでも力を削げます。』

それから暫くして…遂に湾からその先を見渡せる崖に居た物見から報せが届く。

『敵艦ミユ』

直ぐに港湾で防衛戦を張るジョージやアマル達に緊張が走る。

ジョージ『砲戦用意‼︎海岸砲は大型輸送船に狙いを絞れ、各騎馬砲は上陸艇に砲火集中。』

慌ただしく皆が守りを固めた。

砲に弾を込め、簡易的に設けられた堡塁から兵達は銃剣を付けたライフルを構える。

真青誠組の隊士達もそれぞれの得物を手に取る。

そして朝靄の中から一際大きな安宅船を先頭に小早船が二十艘、そしてその後ろにドマ製の大型輸送船が…数は分からないが、かなりの数の船が影として現れている。

それらはどうやら湾の入り口ギリギリで止まっている、砲の射程距離外ギリギリだ。

すると旗艦と思しき安宅船から光が着いたり消えたりとチカチカし始めた。

真青成組隊士『何だあれ?』

ジョージ『光通信だね〜。何々…。』

ジョージは光通信の内容を確認すると直ぐにリンクパールを起動する。

戦闘が激化すると回線が乱れて使えないが、まだ戦闘が始まっていない今ならリンクパールは繋がる。

タジムニウス『降伏せよ、さすれば全将兵、民の安全を約束する…ね。』

ランクパール越しからジョージの報告を聞いたタジムニウスは訝しんだ。

アレだけ散々暴れ、殺し回ったくせに今更降伏を勧めてくる。

我々が完全に戦意を喪失したと思っているのか?

それとも敵の中には流血を拒む者が居るのか…どちらでも良い、我々はまだ借りを返してもらってないのだ。

タジムニウス『こう返してやれ、オックスフォード卿、『馬鹿メ!』とな。』

ジョージは笑いながら承ったと言ってリンクパールを切った。

一方その頃安宅船からはNEOクガネからの返答を見ていた。

海賊『お、お頭⁉︎アイツら馬鹿めって言ってきやしたぜ‼︎‼︎』

豪電は高笑いした。

ゴウデン『やるってかい!良いねぇ気に入ったよ!前方の砲門は全て開きな‼︎流石にアレだけ砲列並べられると横っ腹は向けられないが、こっちはそのためにありとあらゆる船襲って集めておいた魔導カノン砲があるんだ!射程なら負けないよ‼︎』

そして豪伝は振り返り例の老退役軍人に言った。

ゴウデン『上陸戦は任せたよ、『提督』。ウチらはここから支援砲撃に専念する。小早と輸送船の指揮はアンタに託すよ。』

提督と言われた頷くと小早には突撃を命令、輸送船に順次上陸艇降下の指示を出した。

海賊『お頭!魔導カノン砲準備完了‼︎』

豪電『ぶっ放しな‼︎‼︎』

安宅船から魔導カノンの砲弾が飛ぶ。

砲弾は堡塁や大砲に直撃して凄まじい爆発と轟音を生み出した。

ジョージ『応射するよ〜!Feu‼︎(フー‼︎)(撃て)』

海岸砲が火を吹き、遠くにいた輸送船の一隻に直撃、こちらも大破炎上した。

老提督『ム、旧式砲と聞いていたが…これではいかんな、全艦密集せず分散して進撃、上陸艇、急ぎ発艦せよ‼︎』

老提督は苦々しくクガネを見ていた。

クガネはそもそも周りを殆ど山か絶壁で囲まれていて、こう言う港か、遥かに小さいながらも砂浜からしか上陸するしかなく、大軍を上陸させるとしたらここしか無いのだ…。

それさえなければ分散上陸し、NEOクガネを包囲する事も叶うのだが。

だがそれはタジムニウスも懸念していた。

敵が犠牲を顧みず港湾で引き付けている間にNEOクガネにいくつかある砂浜から上陸されたらと。

多少離れているとはいえリゾート市街シロガネからの上陸も懸念していた。

尤も山を切り崩した段差上の地形ゆえこんな所から上陸しようもんなら大変な労力を払わねばならない上、守り側が圧倒的に有利であった。

だが警戒してか、そちらにもある程度の兵力を置いていた。

タジムニウス(頼むから馬鹿正直にこっちから来てくれよ?あっちから来られたら多少は持ち堪えられると思うがアホみたいな数で来られたら流石に…後飛行巨獣にでも来られたら終わりだ。)

アジムステップにて広く使われる怪鳥ヨル、その存在をタジムニウスは常に頭の片隅に置いておいた。

その為に虎の子のペガサス騎士やグリフォン騎士は騎乗させたまま待機しているし、対空砲も用意してある、空爆でもされたら事だ。

だが敵にそんな高等戦術が使えるのか?

敵は毛の生えた程度の遊牧民族とテロ組織だぞ?

そうは思っても不安は拭えなかった。

そして被害は出しつつも統制の取れた上陸行動…間違いなく海軍出身の将校が居る可能性が高い。

そう思った束の間であった。

老提督『ヨル隊は?』

海賊『全隊準備完了ですぜ提督!』

老提督『全鳥爆装の上発艦、沿岸砲撃陣地を無害化せよ。小早船も近づけたな、火槍を放ち、敵を撹乱せよ。』

後方の輸送船から角笛が鳴ると、数十羽の怪鳥が空に羽ばたいた。

そしてそれは沿岸のジョージ達にも見えていた。

アマル『あれは!』

ジョージ『怪鳥ヨル!空爆する気か!おまけに小早船に積んでるのは火槍か!アレを放たれたらそう簡単に頭を出さない、釘付けにされるな…腕のいい射手は這ってでも私の前に集合!兎のおにいさんは上陸してくる敵に備えてくれ、火槍はこっちの撹乱用と対空用だ、敵が上陸してきたら撃ってこない。』

そうこうしているうちに小早船に備え付けられた火槍は放たれる。

隠れ損なった兵や騎士は蜂の巣にされ、堡塁の後ろに建てられた民家は悉く火槍が刺さり、炎上した。

ジョージ『ここまでだな、装填している今がチャンスだ、騎馬砲隊退却!沿岸砲破壊工作開始!銃兵隊、敵空爆部隊に集中!本陣に天馬騎士団投入許可を具申!』

通信兵『はっ!こちら沿岸部、本陣応答願う!敵空爆部隊来襲、及び敵艦隊の妨害激しく戦線維持困難、退却の支援を要請する‼︎』

事の次第は直ぐにタジムニウスに知らされた。

タジムニウス『いや、ここまで耐えてくれたなら文句は無い!榴弾砲、臼砲装填、援護射撃準備‼︎ペガサス騎士隊出陣用意!』

ジャンヌ『総長、ペガサス騎士の指揮は私が執ります!』

タジムニウス『任せる、敵の対空攻撃がある、あくまで追い返すだけに留めろ、無茶はするなよ。』

ジャンヌは頷くと、ヘルムを被り、ハルバードを持つと天守閣の窓から飛び降りた。

飛び降りる刹那、ジャンヌの口笛に呼応して彼女のペガサスが飛び、天馬は主人を背に乗せた。

ジャンヌ『オルタンシア隊出るぞ‼︎敵を払い落とせ‼︎』

天馬騎士一同『御意‼︎』

天馬騎士たちは凄まじい速度でヨルの群れに迫る。

ヨル騎乗兵『ば、馬鹿な!天馬騎士団だと⁉︎応戦しろ!』

ヨルに騎乗した兵達も弓や斧と言った武器を構えるが、統一されたランスはそれらを最も容易く突き崩す。

そもそも護衛なしの爆撃機に戦闘機部隊が襲い掛かる様や物だ。

結果は一目瞭然、しかもジャンヌ率いるペガサス騎士団は近衛騎士の中でも最強だ。

ジャンヌは馬上でハルバードを振るい、敵を斬り落とした。

海賊『あの羽付馬を落とせ!火槍を向けろ!』

火槍は天馬達に向けられた。まだヨルも壊滅状態とはいえ耐え忍んでいる。

もはや味方ごと撃ち落とす気のようだ。

だが…

ジョージ『そうそう好きにはやらせんよ。』

ジョージが集めた射手達は的確に火槍を操作する海賊達を撃ち殺していく。

砲撃が無くなったのと、対空の為小早船が足を止めていたのだ。

ゴウデン『あいつら…よくも!小早船は下げな!もうアイツらの砲台は使い物にならないよ‼︎野郎どもとっとと上陸しな‼︎‼︎』

海岸には上陸艇が更に押し寄せ、輸送船も湾内に入ってきた。

もう肉眼で輸送船に乗っている兵や船員が辛うじて見える距離まで迫られている。

フェリ『……‼︎』

アマル『ああ、そこそこ斬り倒して来たが限界だ、おっさん引くぞ‼︎』

ジョージ『限界だよね〜流石に。みんな全力で走るよー支援砲撃と空からの援護が来るよ〜!』

その頃本陣では…

通信兵『敵空爆部隊の撃退に成功!されど沿岸部は敵の侵攻激しく戦線維持困難!沿岸隊退却を開始!』

タジムニウス『よし、榴弾砲、臼砲、第一射スモーク弾、その後榴弾を敵上陸地付近想定で角度固定、ペガサス騎士達には手持ちの対魔鋼機(魔導アーマー)槍を敵に打ち込め、後、可能な限り弾着観測をしろと伝えろ!敵に着弾した時点で彼女らも後退させろ!』

空中でタジムニウスの下知を聞いたジャンヌは鞍に載せていたランスの様な、然しランスにしてはえらく太い長物を構えながら答えた。

ジャンヌ『了解。第一小隊、私と来い、第二小隊は弾着観測開始。』

敵が空爆してきたなら今度はこちらの番だ。

六道党兵『上陸だ!逃げた奴らを追うぞ‼︎』

六道堂兵『上だ‼︎天馬騎士達が突っ込んでくるぞ‼︎』

六道党兵『槍衾と盾壁を作れー!急げー!』

上陸してきた敵は慌てて防御の陣形を取った。

だが彼女達が突っ込んでくることは無かった。

代わりに突っ込んできたのは…

ジャンヌ『放て‼︎』

対魔鋼機槍と言われたランス状の対装甲兵器、その穂先だった。

そうこれは噴進砲、ロケットランチャーだったのだ。

十分な炸薬が入った弾頭の直撃を喰らった敵兵達は爆発に粉砕され、血と臓物を撒き散らす。

天馬達が引いたと思ったら今度は自分たちの目の前に煙幕が張られ、逃げるジョージやアマル達が見えなくなった。

さらに次の瞬間には空から榴弾の雨が降ってきた。

もはや沿岸部は地獄絵図と化した。

一面が爆発で引きちぎられた敵の血と肉体で敷き詰められた。

更に悪い事に沿岸砲に装填されていた砲弾や放置しておいた砲弾が誘爆し被害はより大きくなった。

老提督『自らの街を、自らの手で燃やすか…。凄まじい覚悟よ。』

豪電『こっちも結構やられたよ。だけどもう敵は私らを止める手立ては無い。野郎ども!港はぶっ壊れちまったがお陰様ででっかい更地が出来た様なもんさ、炎にビビるんじゃないよ!一気に上陸しな!』

大勢の同胞を殺された恨みか敵は怒涛の如く押し寄せ、上陸してきた。

彼らの眼前には同胞達の元死体だったであろう炭の塊が転がっていたが、それすらも踏み砕き突き進む。

だが眼前に追うべき敵の姿は無い。

そして土地勘もない。

彼らは正に勢いに任せて突き進んだ。

目指すは公鉄丸、今の彼らにあの城が何で出来ている、どうやってこの短期間に作られたなどどうでも良い。

今は多くの同胞を殺した奴らに報復をせん!

ただそれだけだった。

だがそれ故に、いやそうでなくとも…。

彼らは容易に城に辿り着けなかった。

NEOクガネの街は大軍が進むには狭すぎるのだ、然も瓦礫が乱雑に置かれ、進まぬ道もあれば土地勘も無い為、彼らはガムシャラに進んだ。

そして人間の巨大な大群はどんどん分割されていった。

偶然にも城に辿り着く正しい道を進んで行った一隊は自分達の前に複数人が立ち塞がっているのに気がついた。

そしてその内の一人、立派な大鎧に白熊を付けた少年は既に和弓を番えており、敵の一人を射殺し高々に名乗りあげた。

ノブシゲ『我こそはNEOクガネ幕府、将軍家嫡男!右近衛少将ノブシゲなり‼︎‼︎』

六道党兵『嫡男…総大将だ‼︎敵の総大将だ‼︎』

努馬徴収軍兵『あのガキを殺せ!殺せば万戸長(ドマ帝国の官位、公爵〜大公クラス)は堅いぞ‼︎』

敵は怒号をあげ迫る。

ノブ『お見事!さぁ、こちらへ。』

シラギク『みんな退くでござる‼︎』

ノブシゲの一団に喰らい付こうと敵が数名襲い掛かるが、全員が何かに殴り飛ばされた。

それを見た敵が一瞬、身をすくめ、後ずさる。

ラースだ、巨大な、両手剣サイズにまで大型したウォーハンマーで殴り飛ばしたのだ。

ラース『料理人はパワーが命、そう簡単に近づかさせるかよ。』

エルダ『今のうちだ、逃げるぞ。』

敵は呆気に取られていたが、直ぐに後を追い出した。

そして分断された敵にも展開が起きる。

ある一隊は…

六道堂兵『進め進め!確かこっちからいけば城に』

と言い掛けた刹那彼と仲間十数名が奈落に落ちた。

奈落の先には無数の竹槍が刺さっており、彼らは竹槍の餌食となった。

六道堂兵『落とし穴だ!退けぇ退けぇ!やめろ押すな!やめ…ギャアアアアア‼︎』

大軍が勢いに任せて進んでいるのだ、止まるわけがない。哀れその落とし穴には百程の兵の死体が刺さることになる。

他の一隊は街中を走っていると突然みんなから横槍、正に横から槍が飛び出し、数人が餌食になった。

六道党兵『民家に敵が潜んでいるぞ‼︎』

六道堂兵『炙り出して殺せ‼︎』

そう簡単に殺させるわけがない。

その道の先は曲がり角になっていて角の部分にまた別の家が立っているのだから、なんと今度はその家の壁が倒れた。

そして倒れた壁からは竹柵と道、そしてライフルを構えた民草達。

そうここは曲がり角などではない、まだ道が続いていたのだ!

家の壁はハリボテだったのだ。

民草『撃てぇぇぇぇ‼︎‼︎』

狙う必要はない、複数人が人の群れに一斉射撃をするだけで撃った分だけ死人が増える。

遮二無二撃ちまくった。

更に待ってましたとばかりに他の民家からも槍が飛び出し銃撃から逃れようとした敵兵を刺し殺した。

民草『敵が逃げたぞ!』

民草『今のうちだ、公鉄丸に退くぞ!地下道を使え!』

無数の死体を背に、民草は城へ退く。

そう…NEOクガネの街、城に至ろうが至らなかろうが大中小、全ての道に罠と伏兵が潜んでいたのだ。

しかも敵がその無数に広がる隘路に入っていかねばならぬので勝手に分散され、小集団が無数に出来上がったのだ。

それを各個撃破とは行かずとも、手痛い一撃を加える。

混乱する敵を尻目に自分達は悠々と後退、ないしは罠に任せておけば良い。

NEOクガネという大都市そのものが敵を殺す罠と化していたのだ。

街の至る所で爆発やら、阿鼻叫喚の嵐が起きているのを公鉄丸に本陣を移したタジムニウスは見ていた。

タジムニウス『やってるやってる。順調だな。』

NEOクガネがお遣い達に襲われた時に出来た火災で出来た更地に公鉄丸は建てられており、その周囲も二kmに及ぶ更地が出来ており、正に不自然な更地にポツンと立つ城の様な存在と化している。

だがその後ろには戦火を免れたNEOクガネの街が広がっている。

通信兵『伏兵部隊、順調に退却中です。地下道も破壊し、敵の追跡はありません。』

タジムニウス『後は、若君達が帰ってくるのを待つだけ。』

敵の怒号が近づいてきているのが分かる、地響きが微かに始まり、いよいよ本番が始まろうとしている。

騎士『総長‼︎』

街の一角から城目掛けて走ってくる一団が見えた。

馬に乗っているのはノブシゲだ。

そしてその周りを警護するようにノブやシラギク、エルダとラース達が居る。

何とか全員無事の様だ。

タジムニウス『よくぞ戻られた‼︎‼︎橋を下せ、開門‼︎』

橋とそして城の門を兼ねる木の橋は降ろされ、一行は息を切らせながら転がり込んだ。

アマル『若君、ノブさん、シラギク!怪我は?』

ノブシゲ『大事無い、まだ戦える。』

ノブ『何度か危うかったけどな。』

シラギク『み…水…。死ぬかと思ったでござる。』

ジャンヌ『アインホーク卿、ナイトファルコン卿、ご無事で。』

ラース『も、もうそんな若くないんだ…こんな目一杯走らせないでくれ…!』

エルダ『毎度こんな無茶してたら命がいくつあっても足りません…ゼェ…ゼェ…。』

タジムニウス『何にしてもご苦労様でした、皆様は後方に、城と、街への入り口は我々が守ります。』

ノブシゲ『待ってくれ、私だけでもここに残してくれ。戦はここからが本番なのだろう?なら総大将の私が居なければ意味がない。』

タジムニウス『分かりました。各隊に通達、各隊、敵が城を迂回せんとしたその時は、各持ち場の仮設橋を死守せよ。』

タジムニウスはこの城の他にもう一つ大規模な工事をしている。

公鉄丸だけでは街全域を守るなど不可能なので、公鉄丸の横からは、数キロに及ぶ大堀が設けられている、そしてその大堀を数本の仮設橋が渡され、それが街への数少ない入り口であった。

それを騎士や真青誠組、そして民草の混合部隊が守っている。

特に民草の部隊はNEOクガネにおいて、タジムニウスの薫陶を受けた士官学校の若者達が率いていた。

タジムニウスの心配はまさにそこだったが、中級、小級指揮官を欠く現状致し方無かった。

タジムニウス『まだ、完璧に教え切った訳じゃない…何とかしてくれると良いが。』

?『自分の仕事くらい自信持ったらどうなの?』

タジムニウスが振り返ると手を振るアルカナとティーカップを啜りながら歩くハクレンが居た。

タジムニウス『お二人さん後方に居なくて良いのかい?第一、マダム、貴女はこの戦いには関与しないと思っていたが?』

アルカナ『見物見物。ブリテオン新気鋭の将軍の戦いを観れる良い機会だと思ってね?』

ハクレン『私も同じ理由で見物ね、頑張って頂戴。』

タジムニウスは溜め息をついた。

タジムニウス『ハクレン殿は兎も角、マダム、流れ弾に当たっても私は責任を取る気はありませんからな。』

アルカナ『何だよこの扱いの差はー!』

ハクレンはクスクス笑っている。

タジムニウス『敵が来るぞ、各自持ち場に着け、命令あるまで口を開くな!』

六道堂軍は凄まじい損害を出しながらも怒号を挙げ、街を抜けた。

彼らは驚愕した。

彼らの目の前には氷で出来た城が建っているではないか。

城の周りにクガネ幕府の幟旗が建てられ、そして城の恐らく中央に建てられているであろう外から見える大きな旗は灰色の獅子に髑髏の紋章が描かれた旗が建てられている。

六道堂兵『何だあの城⁉︎』

六道党兵『あんなもの無かったぞ⁉︎』

六道堂兵『あれは、何だ?氷か?舐めやがって、落とせ!』

敵は閧の声を挙げながら突っ込んできた。

だが次の瞬間には悲鳴に代わっていた。

城の周りには数メートルの高さはあろう土堀が掘られてあり這い上がるのは骨であろう、かなり急に作られていた。

六道堂兵『止まれ!大堀だ、止まれ‼︎』

敵軍は堀に落ち、或いは堀の前で動きを止めた。

タジムニウス『撃ち方ぁぁぁ構えぇぇぇ‼︎‼︎』

号令と共に兵士達は城の兵から顔を出し、銃を構える。

或いは壁の至る所に穴が空き、そこから銃が覗く。

タジムニウス『Feu‼︎‼︎(撃て‼︎‼︎)』

城から無数の弾丸が撃ち出された。

完全に動きを止め、しかも密集してしまったが為に敵は大損害を被った。

止めどなく放たれる弾丸の雨、その光景は凄惨な物だろう。

何より銃を放つクガネの民草の恨みは尋常ではなく、既に生き絶えた敵兵にすら弾丸を浴びせてしまう始末である。

だが向こうも信仰心に狂った狂信者だ、鉛弾で止まるほど柔ではない。

六道堂兵『怯むなぁ‼︎‼︎盾を構えて弾丸を受け止めろ‼︎城を迂回するぞ‼︎‼︎』

弾丸から流れた敵は幾つかある仮設橋を渡り、街に迫る。

シモ『さぁ、来たよ‼︎伍番隊準備は良いね‼︎‼︎』

伍番隊『おおおおお‼︎‼︎』

シモ『歓迎の一発だ‼︎ぶちかましな‼︎‼︎』

敵の眼前に向けられたのは海岸より流れた騎馬砲だ、もう既に射撃態勢には入っている。

放たれた砲弾は散弾だ。

突撃してきた敵兵は引き裂かれた。

更に屋根の裏には伏兵が隠れていた。

隠れていた伏兵も大砲を合図にライフルを放つ。

そして真正面の侍達が抜刀し突っ込んでくる。街に入るのも容易ではない。

それは他の仮設橋でも同じ事だった。

六道堂兵『な、何だあの薙刀使いの女…⁉︎隊長達がいとも簡単に…‼︎』

ライ『死にたくはないでしょう?お退きなさい。』

他にも…。

鬱丸『弍番隊を舐めるんじゃねぇ‼︎いくぞオメェら‼︎‼︎』

ティヴォリ『来やがったなrasshole(クソ野郎)共‼︎』

ディワリ『ヤー‼︎ここからは通さないよ‼︎‼︎』

残り戦うと決めた者達が俄然と立ち塞がり、敵と刃を交わしていた。

そして民草達も…

民草『槍を構えろ‼︎力を合わせろ‼︎‼︎』

民草『息子の仇‼︎‼︎死ね!異人共‼︎』

怨恨によって組まれた槍衾は敵を刺し殺した。

だが敵とて同じ事、戦場は正に地獄絵図と化した。

万次郎『マスター!敵が梯子をかけて城の中に入ってきました‼︎』

タジムニウス『いかんな、迎撃するぞ、ライフル隊をやらせてはならん。』

タジムニウスは抜刀し、万次郎も同じ様に抜刀し着いていく。

タジムニウス『白兵戦部隊迎撃するぞ!若君、ここの指揮はお任せ致す。』

ノブシゲ『分かった、皆を頼む!』

万次郎は登ってきた敵兵と揉み合いの末、敵兵を剣で突き殺した。

命を奪ったという感触、仇の一人と分かっていても生々しい感触が手から離れない。

釈迦牟尼やった事だったのに手から頭にこびりついた。

タジムニウス『これが戦だジャック!その責任から逃げるな‼︎』

タジムニウスも敵と鍔迫り合いを制し、叩き斬りながら万次郎に向かって叫ぶ。

万次郎は頭をブンブンと振りながらまた次の敵に切り掛かる。

敵は夥しい犠牲を出しながらも遂に城の橋を落とす事に成功する。

六道党兵『城への道が開けたぞ!行くぞぉぉ‼︎』

六道党兵は雄叫びを上げながら突っ込んでくる。

タジムニウス『出番だぞウングリム‼︎‼︎』

敵が城に到達するか否かの瀬戸際で数名が横払いに胴体を両断された。

両断したのは重々しい鎧を身につけ、大斧を担いだ鉄の巨人だ。

ウングリム『やっちまえ!野郎ども‼︎』

そう叫ぶと同じような鉄の巨人が49人現れその内の何人かが機関銃のような物を片手で持っていた。

そしてそれは構えられ、鉛弾を飛ばす。

六道党兵『ヒィ‼︎何だあの鉄の塊は⁉︎』

六道党兵『弾丸も矢も通らねぇ!外法も盾で塞がれちまう。』

超重装甲歩兵なんて彼らは見たことなど…いやこの場にいる人間、世界中の人間が見たことないだろう。

だがそれは確かにいる。

成り手こそ選ばれるものの魔導アーマーと歩兵の完全な融合体は敵に対して俄然と立ち向かっている。

城門は兎も角、他の壁には敵は到達せんとしていた。

六道堂兵『こっちから行けるぞ!登れ!皆殺しにするんだ‼︎』

騎士『総長!突破されました!』

タジムニウス『立て直せ!追い出すぞ‼︎』

突然、登ろうとしてきた敵兵達は梯子ごと急に燃え出し、悲鳴を上げながら堀に落ちていった。

剣のような杖のような不思議な杖『ダイナシ』からは煙が出ている。

アルカナが加勢したのだ。

タジムニウス『見物だけじゃなかったのか?』

アルカナ『まだこのショーは見ていたいもの。それにアイツらのせいで行きつけのスイーツ店が潰されちゃったのよ、少しくらい仕返ししてもバチは当たらないでしょ?』

タジムニウス『何にしても助かった!』

アルカナ『あら?素直じゃない!』

性懲りも無くハシゴから登ってきた敵をまた焼き殺しながらアルカナは褒めた。

仮設橋の戦いもクガネ勢優勢であった。

長槍とライフルで作り上げた擬似テルシオが敵を寄せ付けなかったのそうだが、各地で戦う真青成組や腕に覚えのある者達の奮戦でまるで攻め込めなかった。

限界は来る、敵は少しずつ、少しずつ下がり始めた。

ノブシゲ『レオンクール卿!敵が引き始めたぞ‼︎』

タジムニウスは敵を見た、確かに少しずつ後退っている。

タジムニウス『追撃するか。ジャック、騎士団三百騎私に続け!騎乗しろ‼︎ノブシゲ様、皆に総攻めを‼︎城の外まで追い出すまでなら追撃は出来ます!』

ノブシゲ『相分かった!皆の者総攻めだー!前ぇぇー‼︎‼︎』

ティヴォリ『突っ込むぞー‼︎』

民草『うおおおおおお‼︎‼︎』

仮設橋を攻めていた敵兵達は背を向けて逃げ出し、逆に城を攻めていた敵はまだ体力と統制。保ちながら後退していたが、タジムニウス以下騎兵三百騎の突撃で一変した。

城の真正面から突撃してきた騎馬に敵はパニックを起こし、それに続くようにノブシゲが率いる城兵も飛び出してきた。

タジムニウス『燃える街の方まで行くな!後は勝手に自滅するのを待てば良い。弓隊射かけろ‼︎』

城から飛んできた無数の矢は逃げる敵に突き刺さった。

絶命する者、瀕死となって倒れる者、辛くも無事な者など様々になったが兎も角敵は逃げ出した事に変わりない。

タジムニウス『よし十分だ、退け』

と言い掛けた瞬間凄まじい殺気と共に闘拳具(セスタス)の拳がタジムニウスに迫り、タジムニウスは大剣でそれを受け止めるも落馬してしまう。

万次郎『マスター‼︎‼︎』

タジムニウス『来るな!お前では敵わん!』

落馬したものの体勢を立て直したタジムニウスは大剣を構えて立つ。

剛拳の主はゴウデンだ。

身体中から凄まじい電気が迸っている。

ゴウデン『やってくれたね!ここまでコケにされるとは思わなかったよ‼︎』

タジムニウス『名を名乗れ女!』

老提督『敵とはいえ、女性に名を聞く態度がなっておらぬな伯。』

タジムニウスは老提督の声と姿を見て、ワナワナ震え出した。

正に亡霊を見ている気分だったのだ。

タジムニウス『オルステリル提督…ヘルムート・ド・オルステリル提督か‼︎馬鹿な‼︎四年前の海戦で戦死したと!』

ヘルムート・ド・オルステリル…これがこの老提督の名前であった。

元ブリテオン第一艦隊司令長官、死んだ筈の提督が生きていたのだ。

タジムニウス『生きておられたなら何故祖国に戻られなかったのです‼︎陛下や皆がどれだけ貴方の死を悼んだか‼︎』

ヘルムート『レオンクール伯、お主にも陛下にも、今のブリテオンが抱える病に気が付かぬ。ワシは何度もそれを警告した…だがお主達は外へ外へとばかり目を向け、内には目を向けなかった。門閥貴族と和解しなければ、真の挙国一致は成り立たぬ!民草を永遠に内輪揉めに苦しめさせるつもりか!』

タジムニウス『重税を科し、己が私利私欲の為なら命すら奪う彼奴等と和解しての挙国一致などまやかしに過ぎぬわ‼︎‼︎』

ゴウデン『ゴチャゴチャ話してんじゃないよ‼︎』

ゴウデンの稲妻を浴びた拳がタジムニウスに迫るが、その鉄の拳を太太刀が止める。

シモ『アンタの相手はあたしだよ!』

ゴウデン『アンタも力自慢かい?同じ種族、同じ女同士楽しめそうじゃないか‼︎』

シモ『アンタら(真青誠組)手を出すんじゃないよアタシの獲物だ。』

ヘルムートはカトラスを抜く。

ヘルムート『もはや話し合いでは分かってはくれぬか…ならばもはや剣を交わすしかないようだ。』

タジムニウスもまたソルグリムを納めると、宝剣ライオンクローを抜く。

タジムニウス『戦う前の降伏勧告といい、あの手際のいい上陸作戦といい、もっと早く気付くべきだった…ならもはや貴方は…いや貴様は謀反人‼︎国王陛下の名に於いてこの場で首を召し取る‼︎‼︎』

シモ『レオンクールの若様じゃないけど名乗んなよ?』

ゴウデン『あたしゃ(ゴウデン)豪電‼︎紅玉海一の女海賊にして六道天冥斎が誇る五王の一人だ!』

シモ『あんたアイツらの幹部筋かい…決めた、ぜってぇここで叩き斬る‼︎街をこんなにメチャクチャにしやがって‼︎‼︎』

剣と剣が、大太刀と鉄の拳が鋼鉄の音を建てながら激突する。

武将同士の一騎打ちだ、クガネ側は邪魔は出来ないと追撃できない、六道堂側は決闘を見守る様なそんな余裕は無いから遮二無二逃げる。

然し罠が施された街だ、実際船に戻れた兵は少なかったという。

ゴウデン『アンタやるじゃねぇか!陸で威張ってるだけの侍かと思ってたけど、アンタ戦場帰りだね?』

シモ『そういうアンタは?』

ゴウデン『私は船乗り、喧嘩は日常さ!』

対するタジムニウスとヘルムートの戦いも苛烈を極めた。

タジムニウス『裏切り者‼︎‼︎貴様などブリテオン人の端くれにもおけん‼︎‼︎』

ヘルムート『若造が…言わせておけば‼︎‼︎』

ブリテオン筆頭騎士と打ち合うだけあってヘルムート・ド・オルステリルも一角の人物だ。

それはそうだ、一個艦隊の提督である前に彼もまた熟練の騎士だ。

場数だけならタジムニウスを超えているだろう。

何十合と両者打ち合うが勝負はつかない。

そしてある時豪電が動きだす。

ゴウデン『頃合いか、提督引き上げるよ!』

そういうと豪電は稲妻となってシモの前から消えた。

シモ『なっ⁉︎何処へ行った!』

ヘルムート『そうか、如何程の兵が逃れられたのか…。』

タジムニウス『逃すと思うか貴様‼︎』

ヘルムートに向かってタジムニウスは大きく剣を振りかぶった。

だがその瞬間横腹はがら空きになった。

そこにゴウデンが迅雷の如く現れ、その空いた横腹に渾身の拳を突き入れた‼︎

タジムニウス『ッ⁉︎⁉︎』

タジムニウスは大きく横に吹き飛ばされた。

タジムニウスの鎧上半身は完全に砕け、中に来ていたチェーンメイルも砕け、下地に来ていたワイシャツは血が滲んだ。

ジャンヌ『総長‼︎‼︎おのれ…貴様ァァァァァァ‼︎‼︎』

ジャンヌは目に涙を浮かばせながらハルバードを振るう。

そのハルバードが纏っていたエーテルは青色から少しずつ紫色に代わり、赤に近づいていく。

赤のエーテルは怒り、憎しみ、恐怖の象徴…その力に溺れればどうなるか、それは歴史とタジムニウス自身がよく知っている。

タジムニウス『いけ…ない…君は…君だけは…その道に…ガフッ‼︎』

薄れゆく意識の中タジムニウスは静止しようとするがその声は届かない。

ゴウデンは笑いながらジャンヌの攻撃を交わしていた。

ゴウデン『嬢ちゃん、アンタとやるのも楽しそうだが、もう時間なんでな‼︎』ゴウデンはジャンヌの顔面に蹴りを入れると、ヘルムートと共にまた稲妻に変じて何処かへと消え去った。

タジムニウス『まだだ…まだ終わってない…!』

ノブシゲ『伯爵‼︎』

万次郎『マスター!』

皆がタジムニウスに群がる。

タジムニウスは懐から金色に光る護符を取り出し、そこに語り掛ける。

タジムニウス『九十九尾殿、時は来た。』

護符から九十九尾の声が聞こえる。

九十九尾『レオンクール殿…負傷したようだな…。』

タジムニウス『それは…今は…ゴフッ‼︎』

九十九尾『分かった、もう喋るな、護符越しからでも血の匂いがする。』

タジムニウス『半分…せめて四分の一を沈めてくれれば良い…。それだけでも奴らはもう湾には入って来れなくなる。』

九十九尾『承知した…行けるな、メフィ。』

メフィ『うん、やるよ!』

二人はクガネの海底に居た。

メフィは巨大な人魚の姿に変じ、九十九尾は仙術でも使っているのか自らの周りに結界を張り、水が自身を濡らさぬようにしている。

おまけにどういうわけか息もしている。

九十九尾『船底の影が見えるな!』

メフィ『こんなに大きな力初めて使うけど、やってみる‼︎』

一方船上では帰還した豪電とヘルムートが第二次攻撃を行うか否かを話し合っていた。

だが次の瞬間二人の顔は険しくなった。

豪電『なんだい、このピリつくような魔力は⁉︎』

ヘルムート『波が急に静まるだと……まさか‼︎』

豪電・ヘルムート『全艦緊急散開‼︎回避せよ‼︎‼︎』

二人の号令とほぼ同時に‼︎

メフィ『行っけぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎』

輸送船を貫く水の一条が現れ、それは何十倍の太さに膨れ上がった‼︎

それは射線上の輸送船を全て破壊し、海水の…レーザーというべきか、それは輸送船団を剣を振り下ろすがごとく粉砕した‼︎

レーザーが消えた後には何も残らなかった…全て水圧に削り取られたのだ。

ゴウデン『何隻沈んだんだ…?』

ヘルムート『半数は沈んだな…退くしかあるまい。』

ゴウデン『あいつら何処にそんな隠し玉を‼︎』

海底では力を使い果たしたメフィが人魚の姿を保てなくなり、人としての大きさに戻り、生まれた時の姿のまま海底に沈んでいく。

九十九尾『よく頑張ったな…。』

九十九尾は彼女を抱き抱えると口の中で何かを詠唱すると、次の瞬間にはメフィがいつもの服を纏っていた。

夫婦は人知れず、NEOクガネに戻るのだった。

ノブシゲ『今のは…一体…!』

タジムニウス『詳しくは…………。』

万次郎『マスター‼︎‼︎誰か今すぐマスターホーフェンツォルンか、ブラマール先生を‼︎』

ノブシゲ『急げ!意識がなくなったぞ‼︎』

第一次NEOクガネ防衛戦は戦術的には快勝と言っても良い戦いであった。

だが戦闘指揮官であるタジムニウスが負傷したと考えると戦略的には決して大勝したとは言い難かった。

【NEOクガネ クガネ城城内】

ジョージ『若は?』

エルダ『命に別状はありませんが…奇跡に近いと。下手をすれば肋骨は完全に折れ、内臓はボロボロ、下手をすれば胴体そのものが無くなっていたやもと。現在オブライエンとブラマール先生、そして霊利研のスガク博士が見てくれています。』

ジョージ『副総長も…彼女もそこに?』

エルダ『はい、傍にずっと。食事を摂るように伝えたのですが…。』

ジョージは葉巻を咥えると、エルダに問うた。

ジョージ『エルダ卿、卿は彼女のハルバードをみたか、副総長のハルバードを。』

エルダ『ええ、青い光が赤へと変わり掛けて居ました。』

ジョージ『彼女は総長を目の前で失う恐怖に呑まれかけたんだ…何かこれが災の元にならなければ良いのだがな…。』

騎士達が鬱陵している頃、公鉄丸では勝った!勝った!と大盛り上がり民草達にノブシゲは揉まれていた。

民草『若様!』

民草『若様ー!』

ノブシゲ『皆、大義であった。しっかり休んでくれ。』

ノブシゲはお祭り騒ぎの民草達から逃れると兵舎の壁に寄り掛かった。

?『見事な戦だったなノブシゲ、立派な大将ぷりだったぞ。』

兵舎の壁越しから知った声が聞こえてきた。

ノブシゲ『兄上⁉︎今までどちらにいらしたのです‼︎』

ジェピ『訳あって俺達は隠れなきゃいけなくてな、レオンクールの殿様との約束でな。俺の仲間達はみんな戦いたくてウズウズしてたぜ!』

ノブシゲ『兄上、私はあの方より二つのことを学びました。』

ジェピ『ん、何を学んだんだ。』

ノブシゲは語った、兵法のなんたるか。

風の如く速やかに動き、林の如く静かに佇み、火の如く攻め立て…山の如く動じずその場を守る。

即ち風林火山…兵法の基礎にして究極。

タジムニウスはこれら全てのこの戦いでやってみせたのだ。

伏兵を徹底的に潜ませ、目的を達したとあれば即座に退かせ、徹底的に攻撃し…そして一切の動揺なく公鉄丸を守ってみせたのだ。

そしてもう一つは、これは戦の前に少し時間が遡る。

それはクガネ城の本丸で出陣するノブシゲを見送る時にタジムニウスが伝えた事だった。

ノブシゲ『人は城?』

タジムニウス『左様、如何なる堅牢な城もある部分を付けば瞬く間に陥落いたします、何かお分かりかな?』

ノブシゲ『…城兵か?』

タジムニウス『左様、正確には城兵の士気にございます。如何に堅牢と言えど守る兵らが心を一つに戦えなければ何のも意味もございません。人は城であり、石垣なのです。家臣領民は大事になさい。心を一つにする事は如何なる兵法をも凌駕しまする。』

ノブシゲは兄に語った。

ジェピ『人は城、人は石垣、昔ヒンガシが戦国の世だった時にそんな事を言った大名が居たそうだがいつの時代も変わらんな。』

ノブシゲ『民草が城なら、私はその城を支える石柱になりたいと思います。皆が寄りかかっても支えられる様に…。』

ジェピ『立派な心構えだが、忘れるなよ、お前は何事にも動じない鉄人形なんかじゃない…お前にも寄りかかれる存在が必要なんだってことを忘れるなよ…。』

壁越しの気配は消えた。

ノブシゲは人知れず壁に首を垂れると、城の本丸に戻るのだった。

【紅玉海 紅玉台場】

その頃ゴウデンとヘルムートは紅玉台を占領した第二群、つまり天冥斎とオズクが築いた本陣に来ていた。

紅玉台の周りには無数の船が停泊し、それぞれが連結し、荒波に抗い安定している。

その姿は一種の水上都市だ。

ゴウデンとヘルムートの報告を受けた六道党の面々は驚きを隠せず、オズクは机に拳を叩きつけた。

ゴウデン『敵の反攻を受けて、こっちの損害は正に半分。大半は死者、残りは捕虜になったと思ったほうが良いね…。とりわけ最後の得体の知らないバカでっかい鉄砲水のせいでだいぶ船を失ったよ。』

オズク『蛮族が‼︎‼︎舐めた真似を…!!』

天冥斎『落ち着かれよオズク様、全て計画通りに進んでおります。まぁ想定していたより代償は高く付きましたが、敵は疲弊し沿岸防衛は不可能、街も港周辺は完全に焼け落ち、NEOクガネの城を守るは氷の出城とその後ろの街のみ。にも関わらず尚も戦えるのは海という要害があるからにござる。』

オズク『しかし天主様、海をどうなさるおつもりなのです。干上がらせる事も飲み干すことも敵いますまい。』

天冥斎『左様、海と水は勝手が違う、氷漬けにするなら兎も角、操るとなると流石の水を司るスイカクにも至難の業、いや多少は操れても敵を押し流す事は叶わないでしょう。更に敵側にも海を操る存在がおり、そちらの方が恐らく上手…。』

スイカクもまた同意する様に瞼を閉じる。

天冥斎『されど海底を隆起させる事は無茶をすれば叶います。戦場を広げ、我ら本来の戦に奴らを引き摺り込めば良い。…ツチシロ其方の命数を幾つか貰うぞ。』

ツチシロは跪き、胸に手を当て答える。

ツチシロ『僕の命は天主様の為にあります、何なりとお使い下さい。』

天冥斎『以下程掛かる。』

ツチシロ『2日程かと…。』

天冥斎『無茶をしたな…20年は削るぞ。』

ツチシロ『構いません。新秩序の為!』

天冥斎『…オズク様、決戦は2日後…その時こそ我らの戦ですぞ!』

オズク『我らの新しき秩序の為…皆奮闘せよ‼︎』

諸将『ハッ‼︎』

【NEOクガネ クガネ城】

タジムニウスが目を覚ましたのは翌日の事であった。

傷口は魔法で塞がっている、だが鎧は完全に使い物にならなくなってしまっていた。

タジムニウス『致し方ない…この上は…。それより戦況を聞かせてもらおう。』

ジャンヌ『敵は紅玉台に仮説本陣を設けました。そこに船団が密集していてちょっとした水上都市と化してます。』

アマル『船と船を連結させて波と揺れに対抗しているんだ。オサード大陸では良く聞く戦法だな。』

タジムニウス『鉄鎖船か…もどかしいな、それだけ密集してるなら攻撃すれば芋蔓式に…。』

だがそんな都合よく行かない。

アレ以降メフィは回復に努めねばならず、同じような所業はできない。

そしてそれについて説明を問われたタジムニウスはメフィの存在は伏せ、騎士団の魔法使い数十名の魔力を限界迄貯めて陰陽の名家九十九尾家の秘術を使った一度限りの大技であんな被害が出たのは本当に行幸だったと嘘の情報をノブシゲのみに伝え、誰にも口外しない事を誓わせた。

これによって嘘の信憑性も増し騎士団にも一部幹部しか知らず口車を合わせるようにしてある。

彼女達夫婦との約束を最大限守ろうとタジムニウスの必死の嘘だった。

ノブシゲも信じたのか納得はしなかったのか定かでは無いが、それを了承し、自分の代わりに礼を述べるように託けるのだった。

兎も角戦況の話をしよう。

敵に損害を与え、その数陸戦において数万、海上で十数万の損害を出したのだという。

そして数百名の捕虜。

ドマからの徴集軍、六道党の信徒、そしてアジムステップの諸部族の戦士だ。

対するこちらは最低限の犠牲で戦いを進めていた事が分かった。

士気も高く、戦意は衰えない、第二次が来ても大丈夫だろう。

だが然し第二次以降は厳しい戦いになることは間違いない。

公鉄丸から港までの街はほぼ全焼し燃え残った瓦礫が点在する更地と化した。

敵を阻むものが海ぐらいしかない。

だが敵もそれは一緒。

タジムニウス『NEOクガネ城の榴弾砲や公鉄丸に備え付けた大砲で狙い撃ってやるまでの事。敵の血肉で血河を作り上げてやりますよ。』

ノブシゲ『だが敵がそんな簡単に来るだろうか?』

タジムニウス『…そうせざるしかないでしょう。万が一魔法障壁を張りながら攻めてきたとしても歩むスピードは格段に落ちますし、限界が来ます。

敵は物量の数押ししか出来ません。然も碌な攻城兵器は例の旗艦にしかありません。それっぽっちでは城は落ちませんよ。』

だがこれはタジムニウスの油断…いや予期していない事態でひっくり返るのだ。

後に彼は言う…信仰心とは我らの騎士道と同じように命を賭けんとしたら何処までも賭ける事が出来る狂気なのだと…。

だがそう言ったこの男もまた、この後狂気の沙汰ともいえる行為に及ぶのである…。

街があった更地に木の柵や竹柵を設置し、盛土をするなど兵らが働いている間、タジムニウスはジョージに呼び出され、彼の秘密の武具箱を見せられていた。

ジョージ『総長、いえ、若様。本当は貴方が正式に元帥となられた時にお渡ししようと思ったのですが…必要な事態と相成りましたのでこちらを。』

ジョージが開けた武具箱に入っていたのは白銀に輝く騎士団の鎧とは違い細身だが全てにおいて遜色なく、赤布の装飾と白銀の装甲が目を引く板金鎧だった。

タジムニウス『これは…⁉︎父上の元帥時代の鎧ではないか⁉︎燃え失せたものとばかり。』

ジョージ『ブリテオンの元帥クラスが身に付ける事が出来るこの『マーシャルアーマー』は大火ごときでは失せませぬ。あの後、燃え跡より領民たちが見つけ、大貴族達に見つからぬよう私に届けてくれたのです……。』

タジムニウスは涙を浮かべた。

『皆が…そうか…必ず礼を述べねば!』

ジョージ『ささ、早速装着致しましょう。背格好もピッタリでしょう。』

暫くして城で開かれた軍議に現れたタジムニウスを見て諸将たちは感嘆の声をあげた。

NEOクガネ勢はその鎧の美しさに、ブリテオン勢はまさかこの場で目にするとは思わなかった元帥の象徴とも言える鎧をつけた上官に。

ウングリム『総長、お父君と見間違えましたぞ‼︎』

ノブシゲ『レオンクール伯、その鎧は。』

タジムニウス『我が亡き父上の鎧にございます。海軍大臣に任じられる以前はこの鎧を見に纏い戦に出ていたとか。』

カムロザエモン『才色兼備、美しさの中に実用性もある…全く見事よ。』

話が脇道に逸れたが軍議の話だ。

自然と捕虜の扱いの話になった。

そこにタジムニウスは献策する。

タジムニウス『一つ策がありますが、宜しいですか?』

ノブシゲ『聞こう、レオンクール伯。』

タジムニウスが述べた策は一同の顔面を蒼白にするか真っ赤に染めた。

ノブ『お前本気で言ってるのか‼︎‼︎』

アマル『貴様、やはりとんだクズだな‼︎』

カムロザエモン『悪逆非道…なんとまぁ…。』

ノブシゲ『伯…そんな事をしてなんになるのだ…それは余りにも。』

タジムニウス『惨い、そうでしょうな。然しながら、彼奴等はこの戦に勝てばここの民草をそれよりも酷な末路に向かわせるでしょうし、彼奴等はこれよりも非道を重ねてきた。そろそろ同じ目に合わせてやってもいい頃だと思いましてな。』

アマル『だからと言って敵と同じになるのか!』

タジムニウス『敵の士気を削るためだ!なんなら奴らの目の前に引き摺り出して全員の首を叩き斬ってやったって構わんのだぞ!』

タジムニウスの目の焦点が座っている。

これは迷いがない。

やる気なのだ。

タジムニウス『ノブシゲ様、これを行えば必ず敵は相互不和に陥ります、さすれば敵より人の和を奪い取れるのです。

先の戦いで放った矢により疫病も広がりつつあるはず、全ては勝つためにございます‼︎』

ノブシゲは目を閉じた。

ノブシゲ『かつて乱世において戦上手の武将がこう言ったそうだ。武士とは犬畜生と言われようと勝つ事こそ本望と…勝つためなら私はその罪を背負おう。』

ノブ『若様‼︎』

アマル『若様‼︎』

ノブシゲ『全ては国のためだ!』

翌日それは実行された。

そしてその日の夜。

突如地震が発生したのだ!

とても大きい、天変地異かと疑う程だった。

だがたまたま海岸を見ていた物見はとある事実に気がついたのだ。

物見『海が…干上がって…いや海岸が、海底が盛り上がってる‼︎津波が来るぞ!城や高台に避難しろぉぉ!』

ノブシゲ『海底が盛り上がるだと‼︎有り得んだろう‼︎』

兵『しかし現に海岸が浮かび上がっております!』

タジムニウスは城の天守から望遠鏡を覗き込んだ。

実際海岸と海底が浮かび上がっている。湾は完全に陸地と化してしまっている。

タジムニウス『これは一体…。』

ハクレン『古代魔法よ…土属性のとても古い魔法。』

どこからともなくハクレンが現れた。

タジムニウス『ツァーリナ!これが…これが魔法だというのですか‼︎』

ハクレンは落ち着いたまま説明した。

かつて存在した、地面を盛り上げ、ある一定の大きさや距離の山や台地を作り上げる魔法だという。

大地であれば、それが湖の底や海の底でも関係なく自ら浮かび上がらせられるのだという。

然し距離や制限があり、何よりそれに応じて術者の寿命を削り、酷い場合は術者死亡、せっかく盛り上げた大地もまた元に戻ってしまうという欠陥も兼ね備えた禁術だという。

ハクレン『魔術の源は遥か西にいるわね、紅玉台のある位置辺りかしら…おおかたこの距離だと二十数年分の寿命は払ったようね。』

タジムニウス『海底が盛り上がったとして…海はどうなるのです‼︎』

ハクレン『紅玉海全ての海岸が浮かび上がった訳じゃない、大方の海は浮かび上がった海底から流れ落ちたでしょうけどNEOクガネ側に向かってくる海水は津波のようになるわね。皆を高台や城に退避させないと危険よ‼︎』

発見が早かった為かNEOクガネの面々は無事だった…NEOクガネの構造上いくつかの運河もありそれが勢いを殺したり受け皿になったのもあったがそれでも街はある程度水没してしまった。

水が引いたのは意外にも早くその日の翌日であった。

だが同時に新たな戦いの始まりを告げるのもその日であった。

ノブシゲ『なんという光景だ…クガネから紅玉台までの海が消えてしまった…。』

タジムニウス『ハクレン殿曰く今このクガネと紅玉台は紅玉海に、浮かぶ浮島のような物だそうです。事実ヒンガシ方面は海水が存在しており、NEOクガネの海抜が上昇しているのも確認済みです。』

ノブシゲ『何という事だ…。』

タジムニウス『生活の糧を奪われたような物。されど術者が死ねば元に戻ります。恐らくこの様な事ができるのは五王の一人、ツチシロとか言ったあの若い男です。奴の首を上げれば…いや上げた途端元通りになるとしたら大変では無いか…?』

結論から言うとそれは分からない

大きな魔法程影響が残りやすいが、ここまで不安定だとそうもいかないのだ。

もしツチシロが死んだ場合この状況が続くとしたら早くて数時間、長くても数日はこの状況は続く。

つまり戦が終わるまではこのままである保証はないのだ。

遥か水平線、いや地平線を蠢く土煙がある…軍勢の土煙だ。

六道党軍が船から降りてきたのだ。

タジムニウス『来ましたな、ノブシゲ様お覚悟は宜しいですな?』

ノブシゲ『うむ…アレを本当に奴らに見せつけるのか…?それで不和が生まれるのか?』

タジムニウス『彼奴等が蛮族に過ぎぬ事を証明して差し上げよう。』

六道党軍は未だ五十万近い兵がいる。

その五十万に一騎立ち塞がる。

片手には白旗だ。

オブライエン『敵方待たれよ!城主代行ノブシゲ様より書状を持って参った。』

使者を死者にするのはとんだ恥である。

王位継承を賭けて、何より自尊心の強いオズクはオブライエンを招いた。

オブライエンが持ってきた書状は捕虜と死者の遺体を返還するためこの日を停戦したいという旨であった。

多少なりの兵力回復は彼らとしても理がある。

実際何より先の戦いで軍内に疫病も出ており、万全とは言い難い状況にあった。

了承の意を得たオブライエンは馬を走らせ戻ってきた。

タジムニウス『良し、では返してやるか。』

六道党の皆が帰ってきた捕虜と死体を見て、驚愕と動揺を隠すのは不可能だった。

六道堂信者の捕虜達は怪我はしてないがその手にはドマから徴収された兵達の首が待たされ、アジムステップの捕虜達は巨大な車を押して帰ってきたが、その車の上には同じくアジムステップの各部族の戦士達が女も男も関係なく串刺しにされた死体がそのまま立っていた。

肛門から突き刺され、口から出てきた木の杭がその残虐さを引き立たせ、死体は全て苦痛と艶悦の混じった表情を浮かべたまま事切れている。

しかも殺されて日が経っていない。

彼らは捕まった直後に殺されたのだ。

そして首にはこんな紙がぶら下げられていた。

『最後まで抵抗した愚か者の数と等しく従順な者が罪を被った。』

ゴウデン『捕虜の半分は死体にして返すのかい…!』

スイレン『なんて…惨い…。』

オマケに車にはオーケストリオンが乗っかっていた。

そこから流れていた曲はヘルムートを苦々しい顔にするのだった。

ヘルムート『ムジヨンの雨…レオンクールは借りを返す…。恩も仇も…。自らの家系の残酷さと恐ろしさを示すこの曲に乗せる…これは先のクガネの虐殺の代償だな。』

そして彼の胸中ではその続きが秘められた。

ヘルムート(恐らくこれだけで終わるわけがあるまい…。私なら…。)

暫くして六道党陣営は騒がしくなった。

将兵達が互いに諍いを起こすようになったのだ。

オズクの元に届けられた報せは面々を驚愕させた。

先ず串刺しにされた捕虜は、先の戦いで捕虜になった時に最後まで抵抗した兵士への代償、そして前者はあまり戦いが得意ではない部族、後者はその逆であったから反りが合わず、前者が後者のせいで仲間が死んだと非難し、後者は寧ろ甘んじて虜囚の身になり挙句殺された前者を罵ったのだ。

まだ終わりではない。

信者とドマから徴収されたドマ軍将兵との諍いも激しいものになっていた。

本来なら立場的には大半が農民の信者と兵士では身分や豊かさが違う。

だがこの遠征軍では立場が逆転していたのだ。

まずこの時点で不和の原因だったが、正規軍であるドマ捕虜将兵が全員虐殺されたのに対し、信徒は誰一人欠ける事無く帰ってきたのでついに不満が爆発したのだ。

自分たちの方が何倍も戦ったのに何故農民だけがのうのうと生きていると怒号を上げる兵士らに教義、いや民族意識を傘に見下し、まるで話にならない信徒では当然話し合いで済むはずもなく、至る所で刀剣沙汰になった。

それも大規模になりつつあった。

オズク、そして天冥斎は対応に追われるがこれが難しかったのだ。

生き残った戦士出身の部族とドマ兵達はオズクに自身の方が正しいと主張し、信徒と犠牲になった部族出身の戦士たちは天冥斎に自身の正当性を証明して欲しいと嘆願してきたのだ。

これにはどちらにも甲乙を付けるのは困難だ、取り分け天冥斎は犠牲になった部族など放っておいて然るべき立場であるし、心情もそれだったが、立場上、オズクの軍師にして宮廷シャーマンにして宰相である。

これら部族の訴えを無下には出来なかったのだ。

そもそも何故こうなったのか…?

全てはタジムニウスの悍ましい一計だった。

六道党軍はどこまで行っても寄り合い世帯に過ぎない。

となれば必ず何処かに綻びが生まれているはず。

これはそもそも主力であるオズク、アジムステップの帝国の軍隊が他部族軍の連合軍である事が原因であり、これら部族は大ハーンアッティラとその子供達ハーンがそれぞれまとめ上げるまでは互いに相争っていたのだ。

つまり火は最初から燻っていた。

それに少し油を注いだだけだったのだ。

捕虜を虐殺し、残った捕虜の前で見張り達に風聴させたのだ。

『串刺しにされた連中は最後まで抵抗した兵士達の身代わりにされて殺された』と信徒達に風潮し、『信徒達を生かしておいた方が講和交渉もし易くなる。徴募兵達を返されてもオズクも天冥斎も良い顔なんてしない、ここで殺してやった方が救いになる』と部族兵達に風聴したのだ。

この噂程度の話が、齎され、そして噂というのは口から出ていくもの。

そしてそれは火種に燃え移ったのである。

オズクと天冥斎は苦肉の策として持ち出したのは十分の一の刑であった。

全部隊の十分の一の将兵を見せ様に処刑することで全軍の引き締めを測ったのである。

結果この騒動は一旦治った。

だが結局、それなりの量の血が流され、無理くり喧嘩両成敗とされた者達が納得するわけがなく、疫病と不和、これによって六道堂軍は大いに士気を下げることになった…。

【NEOクガネ クガネ城天守閣】

タジムニウス『ご覧なさい若君、所詮彼奴等は蛮族。血によって黙らせるしか能がございませぬ。』

ノブシゲ『こんな方法で敵を減らせるのか…?』

タジムニウス『まぁ、この手の事は、本当は我が義兄バッキンガム公の得意とすることなのですが…見様見真似でも上手くいく物ですな街の者たちに処刑を手伝わせたお陰で、彼らと恨みを晴らせ、満足している様ですからなこちらの士気は上がり、死体から物資は頂きましたので多少の補充も出来ました。良いことづくめですな。』

ノブシゲはニタニタと笑うタジムニウスに食って掛かるように叫んだ。

ノブシゲ『ここまでする必要が本当にあったのか伯爵‼︎』

その瞬間タジムニウスの表情は一気に暗く、ドス黒さを感じる物になった。

タジムニウス『ここまで?ここまでとは何のことですかな?覚えておかれよ若君。戦に何処から何処までが許される行為なんてものは有りません。政治上の決まり事を作ったとしてもそれら全てが完全に履行された試しなど一つたりとて有りません。戦に最終的に勝利する者はやれる事を全てやった者だけです。勝つための手段を選ぶというのは贅沢にも程がありますよ。』

ノブシゲは後にこう語った。

その時自分の前に立っていたのは火と氷の両方を纏った灰色の獅子だったと。

君主として成長するノブシゲなら勇将としても謀将としてもタジムニウスは覚醒しようとしていた。

タジムニウスは城の廊下を歩いていると角から声を掛けられた。

スガク『おうおうブリテオンの若獅子もその様な顔をなさるのだな。』

タジムニウス『何のご用かな学者殿。』

スガク『いやぁ…若君と話していた貴方の表情を見ていたが、まるで別人の様な気がしてなりませんでな…。貴方、中に何が居るのですかな?』

タジムニウスは片手剣の柄に手を置きながら答えた。

タジムニウス『私は私だ、どうしても知りたくば、私を殺して腹を掻っ捌いて見ればよかろう。』

スガクはクククと笑った。

スガク『おお、怖い怖い。血塗れ大剣のタジムニウス、灰色の獅子に凄まれては身が竦むというもの。ご安心召されよ、自ら治療した人間を亡き者にする趣味はありませんので。』

タジムニウスは振り向きもせずスタスタと歩いて行った。

スガク『犬畜生と云われようと勝つ事こそ本望…全くせっかくの死体が…集め直しだ。』

翌日敵は仕掛けてきた。

ジャンヌ『敵の前衛は…信徒達が先鋒ね、やはりあの騒ぎは…総長の策が成功したと思って良いのかしら。』

万次郎『マスターの策?』

ジャンヌ『ええ、ジャック。もし自分だけが何か仕事をさせられて自分の近くにサボってるだけの人がいたら貴方どう思う?』

万次郎『どうって…そりゃあ不公平に思いますが?』

ジャンヌ『総長はその不公平さを突いた。突いた結果比較的温存されていた信徒たちが前線を張ることになった。何処まで行っても敵の前衛は農民一揆と変わらないわ。こちらはただ冷静に引き金を引き続ければ良い。』

万次郎『分かりました、マスターオルタンシア。』

ジャンヌ『鎧の準備はまだ出来ないの?』

ジャンヌがそういうと後ろから現れた従卒が報告した。

従卒『申し訳ございません、後もう少しで完成します。何分前代未聞の試みですからね。』

ジャンヌ『まだ時間はある、慌てず丁寧に行いなさい。』

従卒『ハッ!』

従卒が去ると万次郎は恐る恐る聞いた。

万次郎『あの…あれ本当に着るんですか?錆びませんかね?』

ジャンヌ『防錆剤をコーティングするから平気よ…まぁ終わり次第落とした方が良いとは思うけど…。』

万次郎『兎も角この城から出なければ軍服のままで良いというのであればその必要性は無いですね。必要なのはライフルと弾だけで。』

ジャンヌ『そうね…それで終わってくれれば良いけど…。』

明け方、敵軍は進軍を開始した。

怒号を上げて公鉄丸に迫る。

タジムニウス『ム、戦場にチラホラ騎兵が見えるな…後あれが報告にあった五王か、戦列中段辺りで騎乗しているのがそうだな…見知った顔も居る。統制が取れなくならないように中級指揮官として引っ張り出してきたか…これなら首が取れるかも知れんぞ。』

敵軍はどうやら街に入るより公鉄丸を落とす事を優先にしたらしい。

敵軍は街に入る大橋は無視して迫ってくる。

ノブ『敵は街に入る様子は無いな…。』

アマル『一応隊と兵を分けたが…遊兵を作ってしまったかもしれないな。』

ノブ『兎も角今は城を守る事に集中するとするか!』

戦いの行方は語る必要すらない。

ただひたすら寄せ付けぬようクガネ側が矢と銃弾、そして砲弾を喰らわせてやってるだけだ。

まるっきり連携が取れてない六道堂軍は死者を増やすだけだった。

だがこの現状をクガネ側は訝しんだ。

あまりにも単調過ぎるのだ。

全員が妙だと考え始めていた。

ノブシゲ『まるで犠牲を鑑みていない…。こんな戦い方をすれば数の優位すら失いかねないというのに…。』

アマル『まるでお遊び…いや時間稼ぎ…ッ‼︎時間稼ぎ⁉︎五王は今どこにいる‼︎』

有象無象が攻め立てて気がついた居なかったが五王達は既に最前線に立っている。

この公鉄丸は五つの城門が構えられている。

その城門全てに五王が一人ずつ立っている。

それも凄まじいエーテルを込めながら。

タジムニウス『まずい‼︎城門付近の者は退避しろ‼︎』

だが時既に遅し。

巨大な樹木が、巨大な火球が、巨大な鉄砲水が、巨大な岩塊が、巨大な稲妻が…それぞれの城の門を破った。

それだけではない門付近の城壁まで崩し、公鉄丸は完全にガラ空きになった!

そこから濁流の如く敵兵が入り込んできた。

ウングリム『そう簡単に好きにはさせんぞ馬追い共ォォ‼︎』

ウングリム以下パラティーナ重装歩兵隊が奮戦するも如何せん数が多すぎる。次第に城の後方へと追いやられていく。

タジムニウス『真青成組と民はノブシゲ様と共にクガネ城に後退しろ‼︎ここは近衛騎士団が保たせる!他の大橋を守ってる連中にも伝えろ‼︎』

ノブシゲ『伯爵!』

タジムニウス『敵を退けてご覧に入れる!行かれよ‼︎』

ノブシゲ達は退き、騎士団の城に詰めていた者達だけが残り、奮戦した。

タジムニウス、ジャンヌ、万次郎、ウングリムと騎士百数十名とパラティーナ隊。

対する敵は数千から数万が公鉄丸を落とさんと殺到する。

パラティーナ達が壁を作り、その壁から他の騎士達はライフルを構えひたすら引き金を引いた。

パラティーナ達も手持ちの重機関銃を乱射する。

弾丸の暴風雨は敵に容赦なく襲い掛かり、また一人また一人と敵は倒れていく。

だが止まらない。

怒りに駆られて彼らは止まらない。

逆に弾丸の暴風雨が止まった。手持ちの弾が切れたのだ。

ウングリム『総長、例のアレの使用を許可願いたい。』

タジムニウス『アレを使う?どういう意味か分かっているのか‼︎』

ウングリム『無論です、そのために必要な命はこの老耄だけで十分。』

パラティーナ兵『そんな、隊長私もお供します‼︎』

パラティーナ兵『俺もお供します‼︎』

ウングリム『やかましい!若い奴らがそう簡単に死ぬなんて言うんじゃない‼︎』

タジムニウスは顔を下に向けた…騎士団の長老を犠牲にしなければならないという決断は彼でも重かった。

タジムニウス『ウングリム卿、武運を祈る‼︎』

ウングリム『有り難く!お前達しっかり総長らをお守りしろよ‼︎』

そういうとウングリムは盾と重機関銃を地面に捨てると背中に背負った大斧を担いで敵集団に突撃し、雑兵達を両断し始めた。

タジムニウス『すまぬ…退くぞ!』

六道党兵『敵が逃げるぞ!追え‼︎』

ウングリム『行かせると思うな‼︎』

追おうとする敵兵を鉄拳で頭蓋を粉砕した後ウングリムは城と街を繋ぐ門をを破壊した。

瓦礫に潰れた道はそう簡単には通れない。

エンケイ『何を手こずってやがる。』

六道堂兵『ハッ、エンケイ様。敵の城にただ一人残った大男に苦戦しておりまして…。何分その男は全身鋼鉄の鎧に身を包んでおり兵や信徒らの武器では致命傷を与えられず。』

エンケイ『ふぅ〜ん、んじゃあ俺が行くとするか。』

信徒『エンケイ様が行かれるのですか‼︎相手は危険ですぞ‼︎』

エンケイ『俺を誰だと思ってんだ?』

その頃ウングリムは敵と自らの血で真っ赤に染まっていた。

息を切らし、意識も朦朧としていた。

そこにエンケイが現れる。

エンケイ『YO!あんたかい?一人で頑張ってるオッサンはよ?』

ウングリム『何だお前そのふざけた格好は、ジャラジャラと首輪やら指輪やら、身につけおって、みっともねぇな。』

エンケイ『悪いがこれはファッションだ‼︎』

大斧とヌンチャクがぶつかる。

だが瀕死とはいえウングリムはエンケイを容易く吹き飛ばした。

ウングリム『貴様、戦い方を見る限り、アサシンのようだがな…まるで体が足りとらんのぉ!肉食え肉ゥ‼︎ブハハハハハ‼︎‼︎』

エンケイ『テメェ…コケにしやがって…これでも喰らえジジィ‼︎炎槍『ファイアランス』‼︎‼︎』

エンケイがヌンチャクを振り回していると炎の槍が空中に出来始め、それをヌンチャクで叩くと槍はウングリム目掛け飛び、炎の槍はウングリムの胸に突き刺さった。

ウングリム『ヌグゥ‼︎⁉︎』

血を吐き、膝を下した。

ウングリムの周りをエンケイと六道党兵が囲む。

膝を屈した衝撃でヘルムも落ち、ウングリムの頭は露になった。

エンケイはヌンチャクを回し、トドメの一撃を喰らわせようとしている。

エンケイ『散々コケにしやがって…死ねジジィ…!』

だがウングリムは笑っていた

『ハハ…戦場で生まれ、戦場で育ち、戦場で死ぬ…これほど幸せな事はない。オマケに敵の将一人道連れに出来るのだ…何と行幸か…。』

ウングリムの片手には魔導スイッチがいつの間にか握られていた。

ウングリム『おさらばです総長…必ずやお父君と母君の仇を…』

エンケイ『テメェ‼︎ジジィ‼︎‼︎』

スイッチは押された。

瞬間、公鉄丸は跡形もなく吹き飛んだ。

公鉄丸にはもしもの時に備え地下に大量の爆薬が備え付けられていた。

多くの敵を道連れにしなければならない状況になった時の為に…。

既に城の中には数千の敵兵が入っていた。

大戦果と言っても良い…然しあまりにも大きな犠牲を払ってしまった。

タジムニウス『ウングリム…すまぬ…必ず其方の墓標に敵の首を備えると誓う!』

六道堂側も動揺が広がっていた。

城の爆発前後に凄まじい兵を失っていた事もあったが、敵の自爆で更に兵を失ったのだから無理もない。

エンケイ『クッソ‼︎あのジジィ‼︎‼︎』

エンケイは無事だったようだが、左腕は肘からしたが吹き飛んでおり血をボタボタと流していた。

天冥斎『無事であったかエンケイ。』

エンケイ『天主様、申し訳ねぇ!敵にまんまとハメられた!』

天冥斎『良い、それより其方の腕だ。』

エンケイ『コレぐらい…ぐおおおおあああああああ‼︎‼︎』

エンケイは何と自らの手で欠損した腕の傷を焼いたのだ。

そして焼かれた傷口に炎で出来た腕を生やしたのだ。

エンケイ『俺に追撃させて下せぇ!必ずアイツらぶっ殺して来るんで‼︎‼︎』

天冥斎『その意気は買うがダメだ…余りにも兵を失い過ぎた。そのせいかスイカクの精神支配が綻び初めてきたのだ。決戦は明日。明日こそが真なる秩序が打ち立てられる時、それまで命を散らしてはならぬ、良いな。』

エンケイ『グッ…。』

天冥斎(天より力を授けられなかった愚か者共にしてはよくやる。こちらの駒も大分減らされたばかりか、虎の子一人傷物にしおったわ…だが代わりはいくらでも作れる…。)

オズクも歯軋りしながらこの惨状をみていた。そこにすかさず天冥斎が囁いた。

天冥斎『オズク様、奴らはもう守る為の壁がありません。野戦を仕掛けて来るはずです、その時、つまり明日決戦すべきかと。』

【NEOクガネ クガネ城】

タジムニウスは今宵の月を眺めていた。

死んでいったもの達を偲んでいるのか、はたまた次の戦いへの決意を固めているのか。

ジャンヌ『総長!』

ジャンヌの呼び声にタジムニウスは振り返った。

ジャンヌ『敵軍が体勢を整え始めました!旧クガネ湾内で再編中です!』

タジムニウス『………。』

ジャンヌ『総長…。』

タジムニウス『例の奴は?』

ジャンヌ『準備万端です。』

タジムニウス『皆々様を集めろ、その間に我ら全員に鎧を着けさせよ。最後の軍議を行う。』

かくして皆が城に集められた。

最後の軍議と聞かされた彼らはそれぞれ口々に不安や想いを吐きながらタジムニウスの到来を待った。

襖が開くとタジムニウスが入ってきたが、その異様な姿に皆が驚いた。

鎧が真っ赤に染まっていたのだ。

それも全身である。

チェーンメイルに至るまで真っ赤であった。

カムロザエモン『奇天烈…レオンクール伯その姿は?』

タジムニウス『この地には最強の突撃能力を持つ部隊は決まって真紅の装備を着けると聞きましてね、それにあやかりました。』

ノブシゲ『何やらほのかに血の匂いがするが…。』

タジムニウス『ええ、虐殺した先の捕虜の血と漆を混ぜて作った特殊な塗料で塗りましたからな。』

ノブ『血…ぶっ飛んでやがるぜ。』

タジムニウス『心理的な効果も欲しいんでな。それに我が異名は血塗れ大剣…血に塗れてこその私です。まぁ今回は騎士団全員が同じ状態ですがね。』

ノブシゲ『赤備え…まさかここに来て復活するとは…。』

タジムニウス『では皆様軍議を始めましょう。』

軍議の内容はこうだ。

これ以上クガネの街に潜みながら戦うのは限界に近い上にクガネ城は守りが薄く、公鉄丸程持ち堪えられるはずがない。

もはや野戦しか無いという結論をタジムニウスは出した。

ノブシゲ、カムロザエモン、ノブやアマルといった各部隊長も同意せざる得なかった。

然し敵は数を減らし、恐らく半数程にまでは減らしているが未だ半数でも我が方の数倍、そして敵も最終決戦を見越して傷病兵を無理くり駆り出すだろう。

そうなれば実質敵軍は六割弱の兵力は確保してくる可能性があるのだ。

こうなればもはや一発逆転に掛けるしか無い。

それは総大将オズクを…いや六道天冥斎を討ち取るしかないという事だった。

アマル『総大将ではなく、天冥斎なのか?』

タジムニウス『敵は宗教上興こされた軍だ、軍司令官よりも宗教指導者を討たれた方が動揺は大きい。』

ノブ『だが、五王といったか?アイツらがそう簡単に易々と討たせるとは思えない。…つまり五王を討ち、更に天冥斎を討つっていうのか。』

タジムニウス『そうだ、それしかない。』

アマル『無茶苦茶だな。』

ノブシゲ『だがそこに勝機があるならそれに掛けるしかない。』

タジムニウス『ところでヒンガシからの援軍の知らせは?』

カムロザエモン『一つも無い…本国は見捨てたのやもしれぬ。』

タジムニウス『左様か…ガボウサイも大した男では無かったという事…。(いや返ってその方があの男には都合が良いのか?)』

ノブシゲ『無いものを当てには出来ぬ。してどう討つのだ。』

タジムニウスは説明した。

先ず近衛騎士団一万五千全軍で天冥斎目掛け突撃する。

五王率いる各軍はそれを止めようと阻む筈、そうすれば手薄の戦線が出来る為、残ったクガネの現有戦力を二つに分割した二軍で敵軍の足止めをしつつ、天冥斎を仕留めるという物だった。

ノブシゲ『近衛騎士団全員を囮に⁉︎』

タジムニウス『我らの突撃と武勇は敵もよく知っておりますからな…得意なんですよ圧倒的数的不利の中敵陣を突破するのがね…我々は。』

ノブ『数十万の兵が囲んで来るんだぞ。』

タジムニウス『精々引き回してやるさ、五王は当然、オズクの本隊も釣り出せたら恩の字だがな…あの男は私の獲物でな。』

諸将は何も言えなかった。

絶対生きてはこれない囮の役をやるにはあまりにもタジムニウスの態度は快活過ぎたのだ。

タジムニウス『それに私は侍を信じている、クガネに生きる民草の皆を信じている。必ず討ち取ってくれると。』

ノブシゲの前にタジムニウスは跪き、その手を取った。

タジムニウス『どうか、どうか宜しくお願いします。我らの決意を無駄にしないで頂きたい‼︎』

ノブシゲは硬く握られた手を握り返した。

ノブシゲ『相分かった。必ずや天冥斎の首を挙げる‼︎』

カムロザエモン『して編成は如何致す?』

ノブシゲ『ノブ。』

ノブシゲに呼ばれたノブは若殿に向き直り、真青成組の諸隊長もそれに倣った。

ノブシゲ『真青成組の力、当てにさせてもらうぞ…!』

ノブ&アマル&諸隊長『ハハッ‼︎』

カムロザエモン『となれば真青成組に付いていた民兵部隊もそのまま若君がお率いなさい。残り半分はこのワシが率い、足止めをしましょう。』

ノブシゲ『若年寄り、戦場に立てるのか⁉︎』

カムロザエモン『老當益壮…とは参りませんがの。輿に乗って采配くらいは振るう事は出来ましょう。』

ノブシゲ『では頼む!』

ノブシゲがそう言うと、空はゴロゴロと鳴り出し、遠くの方で稲光が見えた。

カムロザエモン『明日は大シケの様ですな。』

ノブシゲ『恵の雨になることを期待しよう。』

軍議は終わった。

もはや全員討死を覚悟したと言っても過言では無い。

だが全員がこの道を選んだのだ、ならば華々しく散るのみ…ともすれば勝てるやもしれない一朶の希望の雲が浮かぶならそれを目指して歩くのも良いではないか…。

クガネの街は別れの宴を催していた。

宴の陰でタジムニウスはある場所に訪れていた。

タジムニウス『全て手筈通りだ、明日は誰が倒れても諸君ら四名は必ず勤めを果たしてくれ。』

??『本当に平気なんだな?』

タジムニウス『コレしか手がない。それにこの策は誰にも明かせん、時が来るまではな。』

??『その時が本当に来るのか?』

タジムニウス『来る!私は信じている。』

??『まぁ良い、どのみちやらなきゃ全員地獄行きだ。』

??『溜まったツケからもおさらば出来るな?』

??『ウルセェクソ坊主‼︎』

タジムニウス『諸君、明日は大嵐だ…オシオキにはピッタリじゃないか。』

翌日未明、既に雨は土砂降りであった。

雨の中クガネ軍は出陣する。

ノブシゲ『凄まじい雨だな。コレでは視界が良く分からないぞ。』

タジムニウス『いやでも後で爆発と爆煙で誰が何処で戦っているか分かりますよ。』

カムロザエモン『連携取るのは至難の業になりますな。』

カムロザエモンも久方ぶりに着けた当世具足の兜を持ち上げながら答え、時折輿の上に貯まる雨水を払い落とした。

タジムニウス『両軍は早馬や可能な限りはリンクパールで連絡を取り合い、連携を。』

ノブシゲ『そちらは?』

タジムニウス『我が方はただ一点のみを見つめ突撃します。落伍したものは捨て置きます。皆その覚悟は有りますゆえ。』

カムロザエモン『覚悟は硬いようですな。』

タジムニウス『それではラッパの合図を持って始めさせて頂きます!皆様、ご武運を!』

ノブシゲ『そちらも!』

クガネの皆と別れ、雨の中近衛騎士団は整列した。

徒歩、騎馬、天馬、鷲獅子、全ての騎士が真紅の鎧を纏い、揃っている。

タジムニウス『皆、このような死地に送り込んで本当に済まないと思っている。』

騎士『いつものことでしょ?』

騎士『我らの誉、敵に見せつけてやりましょうぞ‼︎』

オブライエン『皆様やる気の様ですよ?』

ラース『コレが終わったら最高のディナーにしないとな!』

エルダ『もう良い加減慣れましたよ。』

ジョージ『いつも通り気楽に行こうよ〜。』

万次郎『マスター、絶対俺手柄を立てるんで見ててくださいよ‼︎』

ジャンヌ『いついかなる時も貴方と共に!』

タジムニウス『ったく…しんからお前らは…後悔しても知らんぞな!』

タジムニウスは大剣を抜刀し、騎士達はランスを構えた‼︎

タジムニウス『戦場ラッパ(クラリオンコール)を鳴らせ‼︎‼︎‼︎』

ラッパは高らかに大嵐の中に響き渡る。

タジムニウス『コレで敵軍も気付くだろう、だがそれで良い‼︎我らブリテオンの騎士は正面から敵を叩き潰す‼︎』

騎士団『叩き潰す‼︎‼︎‼︎‼︎』

タジムニウス『我が咆哮を聞け‼︎我が剣とランスを喰らえ‼︎突撃(アソォルト)‼︎‼︎‼︎‼︎』

騎士団総員『突撃‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』

六道党軍は突然のラッパに驚き視界の聞かない中臨戦態勢を取る。

六道党兵『何だ今のラッパは⁉︎』

六道党兵『分からん!何も見えん!何も…』

と言い掛けた刹那、兵らの頭蓋にランスは突き刺さった!

六道党軍全軍に馬の蹄の音、嘶き声、羽根の羽ばたく音、鬨の声が響き渡る‼︎

エンケイ『この雨の中突っ込んできただと⁉︎』

スイレン『有り得ない…!相手も何も見えない筈なのに‼︎』

ツチシロ『狙いは天主様か、オズク殿か、どちらにしてもこれ以上やらせない‼︎』

ゴウデン『借りを返してやらないとね‼︎行くよお前たち‼︎』

イツキ『血迷ったか…?何れにせよやらせぬ‼︎』

五王達はそれぞれの軍を移動させた。

視界は聞かないが間違いなく喧騒の声がする方に敵が居るのだ!

本陣にもそれは伝えられた。

オズク『ブリテオンの騎士が突撃してきただと‼︎』

伝令『ハッ‼︎既に第一線、第二線は碌に抵抗できず突破されたものと思われます!五王の皆様が配下軍を率いて止めに行かれましたが、なにぶんこの嵐故視界が効かず!』

オズクは考えた、敵は本陣の明かりを頼りに突き進んでくるはず、今更消したとしても大凡の位置は割り出してくるだろう。

先の戦においてブリテオン軍の悪魔の様な突撃はアジムステップの者は全員が知っている。

容易に止められるものではない。

そして突撃の目的は…天主様しか考えられない。

宗教的指導者を失えばこの聖戦軍が瓦解するのは自明の理だ。

然も五王は全員一級の戦士かもしれないが将としてはにわか仕込みに過ぎない…。

オズク『天主様、私も出陣します。失礼ながら五王では彼奴等の突撃は止められません。』

天冥斎『それ程の威力なのですか…?』

オズク『認めたく有りませんが、我等を除き最強の騎馬軍を持つのは彼の国であり、彼奴等はその最精鋭ですので…では失礼致す。』

オズクは剣を手に取り、兜を被った。

オズク(コレは良い機会かもしれん。天主様のそばにいるべきは五王ではない!草原、いや世界の覇者になるこの俺だ‼︎それを証明してみせる‼︎)

オズクの他にもう一人この突撃の意味を考えていた男が一人いた。

それは正式に客将として部隊を与えられたヘルムートだった。

ヘルムート『…いや明らかにおかしい。大将目掛けて突撃するならこの悪天候を利用して密かにやるはずだ。こんなに大袈裟に触れ回るように突撃する意味は無い!…まさか奴の狙いは‼︎早馬を五王に回せ‼︎コレは罠だ‼︎天主殿を狙う者は別に居る‼︎』

六道党『ハ、ハッ‼︎直ちに‼︎』

ヘルムート『とは言っても止める役は必要だな。ヘルムート隊出るぞ!騎士団を止めるぞ‼︎‼︎』

【その頃 主戦場反対側】

六道党兵『あっちは大変な事になってるな。』

六道党兵『俺達は行かなくて良いのか?』

六道党兵『行ったって何すんだよ?それにあんな無茶な突撃いつまでも持つはず』

と言い掛けた刹那この兵士らは斬られ、その戦線に歩兵の津波が襲い掛かった!

敵襲である!

ヘルムートの読みは当たったのだ。

敵の目が完全にタジムニウスに向いている間にノブシゲ達が戦線を突破したのだ。

ノブ『行くぞ野郎ども‼︎御用改である真青成組だ‼︎‼︎』

真青成組隊員『ウオオオオオオオオオ‼︎‼︎‼︎』

伝令『報告‼︎‼︎手薄になった右翼側(六道党から見て)より歩兵の大部隊数万が来襲‼︎‼︎本陣目掛けて突き進んで来ます‼︎』

天冥斎『何っ⁉︎五王は如何した⁉︎』

伝令『皆様敵の騎馬軍団を食い止めるべく戦場を移動中、ヘルムート様がこの事態を予期して皆様を呼び戻して下さっておりますが…』

天冥斎『急がせい‼︎おのれ…天より愛されぬ者どもが小癪な真似を‼︎』

【戦場左翼】

ジャンヌ『総長‼︎こちらに向かってきていた敵が転身を始めました!』

タジムニウス『気づいたか‼︎だが想定通りだ‼︎このまま中列へ向かい突破するぞ‼︎‼︎』

騎士『総長‼︎ここは我らが‼︎』

パラティーナ隊員『我らも残ります‼︎どうか総長はお先に‼︎‼︎』

タジムニウス『すまぬ…辺獄で会おう‼︎行くぞ‼︎進めぇ‼︎‼︎』

先に右翼に着いた五王はツチシロだった。

ツチシロ『なんて事だ、こんなところまで…一気に引かせる!挺身隊前へ‼︎』

挺身隊と呼ばれた信徒達は全員瓶を持っていた。

中に薬液が入っている、コレは天冥斎が独自に調合した幻利薬が入っている。

ツチシロ『天首様の為に‼︎』

挺身隊『新世界秩序ォォォォォォォォ‼︎‼︎』

挺身隊員は全員が薬を飲み干すとある者は際限なく魔法を撃ち始め、ある者はお遣いと呼ばれたあの化け物に変じ襲い掛かってきた。

シラギク『嘘…あれは幻利薬でござるか⁉︎』

鬱丸『国の外に出回った奴は全て処分したんじゃ無かったのかよ‼︎』

アマル『独自に作ったんだろう!来るぞ!あの化け物を若君に近寄らせるな‼︎』

カムロザエモン『若様!ここはこの老耄にお任せを…年季の違いを見せつけてご覧に入れる!真青成組、若様を任せたぞ!』

ツチシロ『邪魔しないでください‼︎』

カムロザエモン『これも仕事よ童。鉄砲隊放てぇ‼︎』

カムロザエモンは輿の上から采配を振るい、その采配が振り下ろされたと同時に鉄砲隊の砲火が光った。

スイレン『ツチシロ様援護致します!』

次に到着したのはスイレンの部隊だ。

スイレンは水の壁を作るとカムロザエモン隊の銃撃を防いだ。

カムロザエモン『奇々怪界、水の壁とは…。』

?『なら凍らせてしまえば良いんじゃなくて?』

水の壁は突然凍りつき、それらは弾けてスイレン、ツチシロ隊に襲い掛かった。

カムロザエモン『貴殿は魔女殿か。』

ハクレン『老人虐待とはいけない子達ね?』

スガク『老人を労わらぬ若者には灸をすえんとな我輩も加勢致そう。』

ライ『私もご一緒させてもらっても宜しいかしら?』

スイレン『貴女は…。』

ライ『奥様より貴女には仮を返すように言付かっております。家人として使命は果たさせて頂きますわ。』

カムロザエモン隊とツチシロ、スイレン隊がこうして戦っている間、ノブシゲ達は雑兵を斬り倒しながら進んでいたが、またしても阻みに現れた者達がいた。

エンケイ『行かせるかよ‼︎』

ゴウデン『勝手に行かれちゃ困るね!』

イツキ『通さぬ。』

何という事だ、天冥斎の前に五王が再集結してしまったのだ。

ヘルムートが早馬で陽動であることを知らせ、オズクが本隊を率いて戦場に到着した事により五王は直属部隊だけを引き連れて戻ってくることが出来たのだ。

アマル『チッ…陽動は失敗か!』

シラギク『ならコイツらを倒して先に進むだけでござる‼︎』

ノブシゲ『皆行くぞ‼︎』

ノブシゲと真青成組が切り掛かるがイツキが生み出した樹木が逆に彼ら目掛けて鋭い枝を突き出してきた。

あわや刺さると思った瞬間それらは燃え尽き、灰となった。

アルカナ『手伝おうか?僕?』

ベルナルド『僕は流石に失礼かと思いますよアルカナ様。』

エンケイが炎を手から放つがこれは大剣で防がれた。

?『ヤー‼︎‼︎』

エンケイ目掛けて踵落としを喰らわそうとした者がいたが、そちらはエンケイに交わされる。

ティヴォリ『Bomboclatt(クソ野郎)‼︎無闇やたらに燃やしやがって…ウチの店まで燃えたらどうするつもりだ‼︎』

ディワリ『ヤー‼︎これ以上好きにさせないよ‼︎』

エンケイ『何だテメェらは!俺の熱い一撃を台無しにしやがって‼︎』

ティヴォリ『炎が怖くて』

ディワリ『料理人なんて出来ないんだよ‼︎』

ゴウデン『ゴチャゴチャうるさいよ‼︎』

ゴウデンがティヴォリ達に殴り掛かろうとするが、それをシラギク、鬱丸、フェリが連携して攻撃して阻んだ‼︎

ゴウデン『チッ…!ちょこまかと‼︎』

シラギク『ノブさん行って‼︎』

鬱丸『ここは俺たちが引き受けた‼︎』

フェリ『…‼︎』

シモ『シラギク…鬱丸。』

アマル『フェリ…。』

ノブ『…死ぬなよ!若君‼︎』

ノブシゲ『ああ、行くぞ‼︎』

【戦場左翼】

左翼は乱戦と化していた。

近衛騎士団を止めようとしたヘルムート隊と正面衝突する形になり騎士団の足は止まっていた。

そして敵はひたすら道を作ろうとしていた。

その道はヘルムートがタジムニウスに至るための道だった。

ジャンヌ『裏切り者め‼︎総長には指一本も触れさせん‼︎』

タジムニウス『レディ、こちらも道を作れ、奴は私がやる。』

ジャンヌ『ええッ⁉︎総長然し!』

タジムニウス『今奴を討たねばここで足止めだ。それはあってはならぬ。奴を討ち、もっと前へ出る‼︎』

ジャンヌ『……!分かりました、ジャック、私と共に‼︎』

万次郎『はい‼︎マスターオルタンシア‼︎』

エルダ『ヘルムート提督と一騎打ちする気か‼︎』

ラース『邪魔はさせねぇよ!』

騎士団とヘルムート隊の戦いは遂に両者の間に道を作り上げた。

ヘルムート『コレも貴様の手の内とは言わせん!五王は天主様の元に戻った。貴様の策は潰えた‼︎』

タジムニウスは何も言わない。

ヘルムートは馬に拍車を入れ駆けさせる。

ヘルムート『ここで終わりだ灰色の獅子‼︎』

ヘルムートの槍は完全にタジムニウスの首を捉えていた。

だがタジムニウスはまだ動かない。

だが次の瞬間タジムニウスは大剣を大きく横に振りかぶり、渾身の力を込めて振り払った‼︎

ヘルムートの槍と上半身は完全に両断され地面に落ちた。

タジムニウス『第一艦隊提督ともあろう者が耄碌したな…私がいつ策が潰えたと言った。』

ヘルムート隊は大将が討ち取られた事で機能しなくなった。

タジムニウス『小物に構うな行くぞ‼︎‼︎』

騎士団『ウオオオオオオオ‼︎‼︎‼︎‼︎』

オズク『ヘルムートが討たれただと‼︎』

伝令『はっ、以前敵軍は我が軍に向かい前進中‼︎』

オズク『まぁ、奴らの勢いを殺す役には立った…。抜かれた各戦線の兵らの集結は済んだな。よろしい、ならば後背より追わせろ。こちらは陣形を組み、奴らを封殺する‼︎』

【戦場右翼】

この頃ノブシゲ隊もまた本陣を守らんと殺到した敵部隊に足を止められていた。

ノブシゲ『クッ…!敵が多すぎる‼︎』

ノブ『堪えろ真青成組‼︎』

ノブは大斧で敵を吹き飛ばしながら鼓舞するが多勢に無勢だ。

アマル『届かない…!後一歩が‼︎』

そしてカムロザエモン隊もまた追い詰められていた。

スイレン『無駄です。貴女に私は斬れない。』

ライ『それでも私には引けない理由があるの‼︎』

ツチシロ『良い加減諦めてください‼︎』

スガク『厄介な体をしておるな…体全体をゴーレムのように纏わせたり体そのものを土に変えるとはな…やはりあの手を…しかし余裕が無いな…さて。』

カムロザエモン『劣勢!流石に無理か。』

そして右翼もまた遂に近衛騎士団は限界を迎えた。

オズクが各部隊に陣形を組ませる事を徹底した為騎馬の威力が落ち、対空のための矢を放ちまくった為ペガサスとグリフォンが地上に降りなければならず本来の攻撃力を発揮しきれなくなったのだ。

更に追従してきた歩兵も走り倒しで疲れ切っていた。

クガネ勢は三軍全て身動きが取れなくなったのである。

そして嵐は少し治り、雨だけが降るのみとなった。

オズクが何か旗を掲げると天冥斎のいる本陣にも同じ旗が掲げられた。

全軍停戦の旗だった。

ノブシゲ『何だ…?』

ノブ『停戦…?』

シラギク『どういう事でござる…?』

エンケイ『諦めろって事だよunderstand?』

オズク『クガネの者らよ‼︎』

オズクは戦場一帯に声を届けさせた。

オズク『貴様らの足掻きはもう終わりだ‼︎大人しく軍門に降れば命は取らぬ‼︎そして六道党の教えを受けよ、さすればコレより侵略する国々の者らよりは遇すると約束してやろう‼︎』

暫く沈黙が続いた。

だがその沈黙を破ったのは突然狂ったように笑い出したタジムニウスだった。

三十秒、いや一分は笑い通しだったそうだ。

ベルナルド『どうなさったのでしょうか…?』

アルカナ『気でも狂った…いや最初から狂ってたわアレ。』

半笑いの状態でタジムニウスは喋り出した。

タジムニウス『オズク…やはり貴様は何も見えていない!所詮お飾りの人形よ‼︎』

オズク『何…⁉︎』

タジムニウス『戦は終わっておらんよ、そうでしょう若君‼︎そうだろうクガネの皆‼︎そうでしょうとも『陛下‼︎』』

その瞬間ノブシゲ達右翼側に向かって凄まじい数の砲弾が着弾し一気に六道党軍は瓦解し始めた‼︎

イツキ『砲撃⁉︎』

ゴウデン『どこから⁉︎』

嵐と雨のせいで出来た霧を裂くように現れたのは羽飾りを背中に付けた有翼騎兵(フサリア)一万騎、そしてその先頭を走るのは

シャルルマーニュ六世『行くぞブリテオンの子等よ‼︎‼︎‼︎』

伝令『急報‼︎‼︎後方よりブリテオン軍出現‼︎数は数万‼︎‼︎』

オズク『バカな‼︎そんなわけが‼︎旗印は…赤と白の地に白鷲…ブリテオン第三軍団か!そして…バカな王印だと⁉︎ならば敵の指揮官は‼︎』

部族兵『は、覇王シャルルマーニュだ‼︎逃げろー‼︎』

覇王として名を馳せたシャルルマーニュ六世の武勇はアジムステップでは狂気の象徴として語られている。

その本人が居る。

それだけで彼等は恐怖するに充分だった。

シャルルマーニュの凄まじい突撃はノブシゲの戦っていた場所にまで至った。

そしてノブシゲ達を囲んでいた敵兵を一掃したのだ。

シャルルマーニュ六世『貴様がクガネの若君か。』

初めて目にする異国の王、然も覇王と謳われた人物を前にしてノブシゲは緊張したがハッキリ答えた。

ノブシゲ『そうです、私が総大将ノブシゲです!』

シャルルマーニュ六世『良い目をしておる。ここは我らが受け持つ故、其方らは一度退けぃ。尤も彼奴等も一旦引くだろうがな。』

奇跡が起こったのは右翼だけではない、なんと左翼にはヒンガシの援軍が到来していたのだ‼︎

数はブリテオン第三軍と同数程度だがある程度西洋化された新式軍と旧態然とした幕府軍の連合軍だ。

この連合軍は錦の御旗を掲げていた。

つまりこの軍は幕府の軍では無く、帝の軍であったのだ。

コジマ『いや〜間に合った。良かった良かった。』

ノミ『数合わせの連合軍で何処までやれるか…。』

コジマ『マレスケさんは心配性だね、大丈夫さ、ここに居る連中はみんなクガネを救いたくて来てるんだからな。そうでしょうガボウサイ殿?』

話を振られたガボウサイは何とも言えない顔していた。

ガボウサイ『う、うむ何より、胸がホッと致しましたぞ。(持ち堪えているだと…⁉︎有り得ん‼︎カムロザエモンかレオンクールの小僧が何かしたのか?羅睺羅衆は何しておった!)』

天冥斎『これでは制御出来ん。後退の旗を掲げよ‼︎』

イツキ『退くぞ。』

エンケイ『チッ、命拾いしたな‼︎』

ゴウデン『飛んだ邪魔が入ったね‼︎』

アルカナ『こっちも引くよシラギクちゃん。仕切り直しさ。』

カムロザエモン『天啓得たり…まだ勝敗は分からぬ。』

スイレン『ツチシロ様、引きましょう。天主様の命です。』

ツチシロ『はい!くそ!』

ライ『待ちなさい!』

ハクレン『ダメよ、また直ぐ戦う事になる。今は引くのよ。』

オズク『おのれ…ヒンガシの奴らは兎も角なぜブリテオンの奴らが…!』

タジムニウス『オズク‼︎』

タジムニウスはオズクに向かって叫んだ。

タジムニウス『さっきの返答をしていなかったな。』

タジムニウスは大きく息を吸い込むと叫んだ。

タジムニウス『Merde !(クソッタレ!)お前の首は馬のけつにでもぶら下がってた方がお似合いだぜ‼︎‼︎』

オズクは顔面が真っ赤に張り裂けそうになりながらも唸り声をあげながら軍を下げたのだった。

乱戦状態だった戦場は一旦解かれ、両軍仕切り直しの形になった。

そしてタジムニウスは王シャルルマーニュと謁見した。

タジムニウス『お見事でした陛下。あの奇襲は何人も止められぬでしょう。』

シャルルマーニュ六世『何の、全て卿が敵を引き付けてくれたからこそ出来た事。寧ろ褒めるのワシの方じゃ。』

ノブシゲ『あ、あの宜しいでしょうか?』

シャルルマーニュ六世『何じゃ?』

ノブシゲ『あの陛下はいつ頃戦場に居られたのですか?あまりにもタイミングが良過ぎたと言いますか…その』

シャルルマーニュ六世『昨日の深夜、いや今日の深夜には着いとったかの?』

ノブシゲ『ええええええ⁉︎』

アマル『だったら昨日のどこかの時点でレオンクール伯は知ってた筈ではないのか?』

タジムニウス『左様。』

アマル『はあああああああ⁉︎⁉︎』

ジャンヌ『いっ、一体いつ分かったんですか?』

タジムニウス『昨日君が私を呼びに来る少し前に梟が飛んできて私に伝えてきた。』

エルダ『知ってたなら何で教えなかったんですか‼︎』

タジムニウス『教えちゃったらダメでしょう頑張って隠れてたんだから!それに敵を騙すにはまず味方からと言うでは無いか。』

シャルルマーニュ六世『左様、奴らに気づかれぬよう隠密魔法を魔導士達に夜通し掛けさせておったからのぉ。おかげで全員エリクサー漬けにしてしもうたが、明日には元気になってるじゃろう。』

この親あってこの子ならぬ、この王あってこの臣下である。

シャルルマーニュ六世『まぁおふさげはそこまで、ワシはのう、お主を測っておったのよクガネの若君よ。』

ノブシゲ『私を?』

シャルルマーニュ六世『レオンクール伯がそこまでして助けたいと思った男が如何程かをな。成程、未熟、未熟よ。されど王としての覚悟は持っておる。それすらなければワシはオズクと天冥斎とかいう気狂いを斧で叩き斬ったのちクガネを頂こうとすら思ったが…其方は素質に恵まれておるな。』

ノブシゲ『素質なんて有りません…私は臣下や、民草に支えられてここまで来たたけです。』

シャルルマーニュ六世『それこそ素質。良いか、王というのは民を引っ張るだけじゃない、支えてもらわねばならぬのだ。王と臣民は支え合ってこそ国が成り立つのだ。其方は民達の前に立って戦い、民達も其方を信じて付いてきた。才気無き者には出来ぬ事よ。』

カムロザエモン『話の腰を折るようで悪いのですが、ところでブリテオン王は如何にしてこの地まで辿り着いたのですかな?』

シャルルマーニュ六世『うむ、救援要請が来た後に彼奴等のテロが有り、王宮内で議論が展開されたのだが、そこはワシが一喝し、徹底抗戦を取らせたのよ、宰相を南西方面にやり外交で片を付けさせ、北東は軍務卿(バッキンガム)に守らせると決めた後、直ぐに第三軍団の三分の一を引き抜いてな、空中戦艦と輸送艦を使って大急ぎで近海まで行き

、そしたらクガネ周辺の大地が盛り上がっているのでな。少し遠くから氷魔法で海を凍らせながらひっそりと進軍しここに至ったのよ。』

カムロザエモン『そうか、全軍でなければ移動日数も、短縮出来る。だから間に合ったのか。』

シャルルマーニュ六世『さて、長話は終わりだ。この戦今日で終わりにするぞ‼︎さぁ、どうしたいか言うてみよクガネの若君よ‼︎』

ノブシゲ『私ですか⁉︎』

シャルルマーニュ六世『何を呆けておる、ワシは唯の助っ人じゃあ。総大将はお主しかおらんじゃろう‼︎』

諸将がノブシゲの顔を見る。

ノブシゲは立ち上がり、皆の顔を見回す。

ノブシゲ『ここまで多くの血が流れた、だがこれまでだ!ここで終わりにする出陣だ‼︎中央はブリテオン軍、右翼はクガネ軍、左翼はヒンガシ軍が展開!敵は遂に我らと同数になった、質の上ではもはや優った。ならもはや一つ!』

タジムニウスも頷く。

ノブシゲ『一挙に前進し敵将の首を取る‼︎』

諸将『御意‼︎』

その日の昼頃、雨の中両軍は対峙した。

ノブシゲ『先駆けはお任せ致しますレオンクール伯、いやレオンクール元帥!』

シャルルマーニュ六世『ノブシゲ殿の指名だ、ブリテオンの槍の味しかと味あわせてやれ、第三軍団は貴様の軍だ、フサリアも連れて行け!』

ジャンヌ『あれが有翼騎兵…フサリア。騎手も壮観な騎士ばかりですが馬も全て立派…流石は東部地域最強の騎馬軍団。』

タジムニウスは振り返り、近衛騎士団と第三軍団を見る。

タジムニウス『私は諸君らをまた死地に導こうとしている、片や第三軍団の諸君はまだ私を軍団長として認めていないだろう。当然だ、先代が偉大過ぎる。ならば私は自ら証明してみせようレオンクールの血で無く、タジムニウスという一介の騎士がそなたらの長たる者である事を‼︎我に続けぇ‼︎‼︎』

デスクローに拍車を入れ、デスクローも猛禽の頭を挙げ鳴き声を挙げる、そして次の瞬間には飛び上がり敵目掛けてすっ飛んで行った。

そしてその後ろを鬨の声を上げながら騎兵が突き進んできた。

空と地上から両方から突撃された六道堂軍中央戦線はあっという間にズタボロになった。

それに合わせて両翼の軍団も射撃しながら距離を詰め、遂に白兵戦の形になった。

ノブシゲ『斬り込むぞ‼︎』

ノミ『皆、抜刀、着剣じゃあ‼︎』

かくして両軍は乱戦状態に突入した。

だが六道党も黙っちゃいない。

お遣い達を全面投入し、更に五王全員が最前線で戦い始めたのだ。

シャルルマーニュ六世『あれが五王とやらか…先ずはあやつらを撃たねばな。…比較的クガネ軍側に集中しとるようじゃのう…となると左翼はオズクかオズク配下の将が指揮を取っておるな…。タジムニウス、ここはワシが支えてやる右翼に騎士達を送ってやれい!』

タジムニウス『御意‼︎オブライエン、エルダ、ラース‼︎部隊を率いて右翼の救援に向かえ‼︎相手は五王だ、油断するなよ‼︎』

オブライエン『畏まりました!』

エルダ『そちらもご無事で!』

ラース『必ず戻りましょう‼︎』

三人は百騎ずつ連れ、右翼戦線に向かった。

中央は言わずもなが、左翼も少しずつ押している、だが右翼は逆に押され気味だった。五王の集中投入の所為だった。

エンケイ『ヒャハハハハハハ‼︎何人来ようと一緒だ‼︎全員焼き殺してやるぜ‼︎』

ディワリ『やらせないよ‼︎』

ディワリの氷の拳がエンケイの顔面を殴り飛ばす。

エンケイ『グワッ‼︎このアマ‼︎…死ねぇ‼︎』

エンケイは炎の腕から火炎放射を喰らわした。

だがディワリが炎に焼けることは無かった。

エルダ『女性に対しての口答えがなっていませんね。』

エンケイの火炎放射はエルダが盾で防いだのだ。

エンケイ『余計な真似を‼︎』

ティヴォリ『こっちの台詞だ‼︎』

ティヴォリの大剣はエンケイのもう一方の腕を斬り飛ばした。

エンケイ『グワアアアアアア‼︎‼︎』

ディワリ『ヤー‼︎コレで終わりにするよ‼︎』

ディワリがエンケイに抱きつくとエンケイの体が凍りづいていく。

エンケイ『やめ、やめろ、嫌だ死にたくない‼︎』

ティヴォリ『そう言ってた奴を何人も殺したんだろうが。』

エルダ『せいぜい華々しく散りなさい下郎が。』

ディワリ『ヤー‼︎‼︎‼︎』

ディワリのスープレックスが決まった瞬間既に完全に氷漬けになっていたエンケイの体は粉々に砕け散った。

ディワリ『どうだ‼︎‼︎』

【五王エンケイ死す。】

その頃…

ゴウデン『へぇ、アンタ炎の魔法使いかい!中々やるねぇ!』

アルカナ『アンタもなかなかやるね。だけど、もうこれ以上はやらせないよ。』

ゴウデン『魔女が海賊に勝てると思ってるのかい‼︎』

ゴウデンの鉄拳がアルカナに迫るがそれをベルナルドが盾でガードし、カウンターで剣を突き入れた。

だがゴウデンもすんでのところで躱す。

ゴウデン『魔女にはナイトが付いてるって言いたいのかい。』

ベルナルド『これも使命故。』

ゴウデン『あたしの力舐めんじゃないよ‼︎』

ゴウデンは凄まじい魔力を発し辺り一面に放電した。

それは敵味方お構いなしである。

ゴウデンは完全にイカズチの化け物と化した。

ゴウデン『コレガアタシノゼンリョクサ!モヤシツクセルカイ‼︎』

ラース『雷を制するなら水の出番だな。』

2本の矢がゴウデンに突き刺さる。

それはラースと戦場から連れてきた射的屋マキナが放った水属性クリスタルの矢じりで作られた矢だった。

ゴウデン『コレガナンダッテンダイ⁉︎ナメルナァァァァァ‼︎‼︎』

ラース『力に溺れたな。』

アルカナ『感電注意。』

水属性クリスタルとゴウデンの魔力は互いに反応し、魔力の相性の問題でゴウデンの魔力は自身に帰ってきた。

ゴウデン『ギャアアアアアアアアア‼︎‼︎』

全身ずぶ濡れ状態の中に雷に打たれたような物だ。

致命傷になるのは必定。

海賊『お頭ぁ‼︎‼︎』

海賊たちが助けに入ろうとするも全員脳天や心臓に矢が刺さり、倒れた。

マキナ『悪いけど助けに入らせるわけには行かない。』

アルカナ『燃やし尽くせるかって?そうね、今のあなたなら骨も残さずに…。』

アルカナの服装がいつもの黒のロングドレスから紫色の魔法使いのローブに変わっていくと同時に魔杖ダイナシに凄まじいパワーが集まる。

アルカナ『聞こえちゃいないか。』

アルカナは巨大な火球を作り出し、それをゴウデンに放った。

火球が爆発し、ゴウデンはアルカナの言った通り骨も残さず消え去った。

アルカナ『雷っていうのはね、光ってすぐ消えるから良いのよ、いつまでもピカピカ光られても邪魔なだけよ。』

【五王ゴウデン死す。】

イツキ『無駄よ、我には近づけぬ。』

イツキと対峙していたのは、ノブ、アマル、シラギク、鬱丸、フェリ、シモの真青成組の隊長達だ。

それぞれがイツキの作り出した木偶と対峙している。

シモ『木偶でコレなら本体は相当強いな‼︎』

アマル『他の隊士達を近づけなくて良かったぜ。』

シラギク『どうすれば勝てるでござる!』

鬱丸『こいつら一人一人とやってたらこっちが消耗しちまう‼︎』

フェリ『……。』

ノブ『お前ら、俺を信じるか?』

ノブは急に隊長達に問い掛けた。

アマル『ノブさんアンタ何言ってんだ?』

ノブ『俺を信じるか‼︎どうなんだ‼︎』

隊長達は互いの顔を見合わせたが同時に頷いた。

ノブ『よし、ならよく聞け、一人一人で相手しても敵わないなら俺たち全員であの木偶を斬る‼︎』

アマル『連携して仕留めるのか?だがその間他の木偶はどうする?』

ノブ『俺が支え切る!だからアッくん達で奴らを斬ってくれ‼︎』

シラギク『でもそれじゃあノブさんが!』

アマルはシラギクの前に手を出し静止した。

ノブ『頼むぜ。』

アマル『ああ!』

6人は一塊になるとまず一人目の木偶に斬りかかった。

イツキ『やらせぬ!』

イツキも残り5人の木偶を差し向けるが全てノブが大斧で防いだ。

ノブ『ぐおおおおおお…何のこれしきぃぃぃ‼︎』

シモ『うおありゃあああ‼︎よし‼︎一体倒した‼︎』

アマル『次だ‼︎』

隊長たちの連携攻撃で木偶達は一人また一人とやられていく。

鬱丸『そらぁ‼︎』

フェリ『‼︎‼︎』

シラギク『えぇい‼︎』

アマル『フン‼︎』

ノブ『へへへ…お前が最後だな!ウオオオオオ‼︎』

ノブは最後に残った木偶を斧でかち上げるとそのまま両断した。

木偶は全滅し、最後に残ったのはイツキただ一人になった。

イツキ『見事…だが‼︎』

イツキは印を結ぶと皆の足下から木々が生えてきて隊長達を絡め取った‼︎

ノブ『何だ⁉︎』

アマル『抜けない…!』

イツキ『このまま絡め取り締め殺してくれる!』

と言った刹那。

イツキ『ッ⁉︎』

イツキは凄まじい殺気を放つ存在に恐怖した。

それはシラギクから発せられていた。

シラギクは瞬く間に自身を絡めてていた木々を細切れにした。

アマル『妖刀の力を全て解き放ったのか⁉︎』

イツキ『ヌゥ‼︎』

イツキとシラギクは鍔迫り合いになる、だがその時のシラギクの表情は無機質そのもの。

まるで意志を操られているかの如くであった。

イツキ『なんと面妖な…だが次で決める!』

シラギク『もう終わったでござる。』

イツキがその声にハッとするといつのまにかシラギクは自身の後ろに立っていた。

そしてシラギクは妖刀に付いた血を払った。

その瞬間イツキの胴と脚は分たれた。

イツキ『バカな…。』

シラギクは刀を鞘に収めた瞬間意識を失い倒れそうになったが術が切れて自由になったシモと鬱丸に支えられた。

アマル『あれが妖刀の力なのか…。』

【五王イツキ死す。】

ツチシロ『いくらやっても無駄です!僕の体は傷つかない‼︎』

五王ツチシロと対峙しているのはスガクだ。

スガク『ふむ、ますます興味深い。』

ツチシロは土の塊をスガクに飛ばすがスガクはそれを避けながら魔法を放つ。

もう既にかなりの高齢の筈のスガクだが今の身体ならそれは無問題である。

スガク『年寄りをあまり走らせるもんじゃない。』

ツチシロ『なら降参したらどうですか?火属性の貴方が僕に叶うわけない。』

だが次の瞬間ツチシロの、正確にはツチシロを覆うゴーレムの肩を光の矢が貫く。

ツチシロ『なっ⁉︎』

オブライエン『確かに火で大地を焼き尽くす事叶わぬかも知れませんが、光は別。』

ツチシロ『新手⁉︎』

スガク『お付き合い願おうか神父殿。』

オブライエン『貴方からは闇を感じるが…今は味方、共闘致しましょう。』

スガク『少年。』

スガクはツチシロに話し掛ける。

スガク『其方、我輩は火属性の外法使いと思っておるようだな、確かに我輩は火の座おるが…我輩の本当の力は…木属性なのだよ。』

次の瞬間ツチシロのゴーレムに無数の木の杭が突き刺さり、中に居たツチシロが吹き飛ばされた。

ツチシロ『そんな…何で‼︎』

スガク『其方は純粋よのう…この世には付加魔術と言うものもある。一個人が持つ属性魔法とは別に武器や魔具に込められた魔力を使えば擬似的な二色魔法が使えるのだよ…。其方はまるで気が付かなかったようだが無理もない。まだ一般的に普及しておらん技術だからな。』

ツチシロは地面に叩きつけられたと同時に新たなゴーレムの体を作り上げようとするが、オブライエンがすかさず放った光源魔法のせいで、構築魔法が封殺され、上手く構築出来ず、更にスガクに四肢を木の蔓で固定された。

スガク『其方の体は正に良質な土壌そのもの…ならば其方の体から植物が生えるのか…実験といこう。丁度太陽変わりの光もある事だしな、苦痛はあるが、何、其方の体なら一瞬にして感じなくなるであろうよ。』

スガクが杖をツチシロに向けるとツチシロの体から植物が生えてきた。

ツチシロ『うわあああああああ‼︎‼︎‼︎』

スガク『フッフッフ立証は上手く行った…さて今度はコレを生やすか。』

新たな植物がツチシロの肉や内臓を抉り、肌を貫き生え茂っていく。

ツチシロ『ああああああ‼︎‼︎助けて‼︎助けて下さい天主様‼︎天主様ああああ‼︎‼︎‼︎』

スガク『フハハハハハハ‼︎コレは良い…!生きる魔法植物プランターの完成だ‼︎』

ツチシロ『あ…あ…あ…』

スガク『おや、まだ意識があるのか。予想ではもう脳髄も植物の養分と化して意識も何もかも破壊されて居るはず…回収が面倒だがもう少し生やすか。』

だが次の瞬間ツチシロ、いやツチシロだったものは上から降ってきた光の滝に飲み込まれ消滅した。

オブライエンが放った神聖魔法だった。

オブライエン『もう良いだろう…子供にこんな事を…。』

スガクは溜め息を吐いた

スガク『貴重な実験素体が…。』

【五王ツチシロ死す】

スイレン『貴女も懲りませんね。』

ライ『落とし前…と言うのかしら?それをつけるまで私は退きませんわ。』

スイレン『唯の薙刀で私を切り付けることなど叶いません。』

スイレンは水魔法と精神支配でその場に倒れていた死体を起き上がらせライに差し向ける。

ライは薙刀でそれらを倒しながら迫る。

ライ『そうやって貴女は、あの人達を‼︎』

スイレン『天主様の寵愛を得るのですよ?何を拒むのです。』

ライ『あれが寵愛…愛情な物ですか‼︎愛情っていうのはもっと…もっと…。』

スイレン『問答は不要です。さぁ貴女も寵愛を受け入れなさい。』

ハクレン『それは愛の押し売りと言うのよ。』

ライの前に立ち塞がった死体達は氷漬けになり砕けた。

スイレン『氷の‼︎でも精神支配には耐えられない筈!さぁ貴女も天主様の寵愛を受けなさい‼︎』

精神支配がハクレンを襲った。

ライ『ハクレン様‼︎』

だが暫くして…

スイレン『キャアアアアアアア‼︎‼︎』

スイレンが悲鳴を上げて取り乱した。

スイレン『何…何なの…今のは…一体幾星霜の悲劇を見てきたというの⁉︎』

ハクレン『…人の心をそう簡単に覗くものでは無いわ。お仕置きが必要ね。』

ハクレンはスイレンの足下を氷漬けにしてしまった。

スイレンが踠き、水魔法を放つも属性的に似通っている水と氷ではさしたら力は発揮出来ない、然もハクレンとスイレンでは魔法使いとしての技量は歴然だ。

ハクレン『貴女の薙刀に氷の付加を…。さぁ務めを果たしなさい。』

ライ『ありがとうございます、さぁ、お覚悟を‼︎』

スイレン『天主様…』

ライの氷を纏った薙刀はスイレンを切り裂いた。

スイレンの巫女装束は血に染まった。

ハクレンが氷の魔法を解くとスイレンは地に倒れた。

ライはスイレンの虚な目を閉じてやるのだった。

【五王スイレン死す】

五王全て討ち死という急報は敵味方全軍に伝わった。

天冥斎『五王全てが討ち取られただと⁉︎』

オズク『ちっ‼︎使えん!だが兵はまだある!敵の主攻は中央だ!ブリテオン軍を崩せば勝てるぞ‼︎』

だがここで敵軍に変化が訪れた。

信徒達だ、何故自分たちがこんな場所にいるのか、なぜ武器を持って戦っているのか解らず取り乱し始めたのだ。

オズク『なっ、どういう事だこれは‼︎』

タジムニウス『六道党の教えはペテンだったって事さ。』

オズクは後ろから聞こえたタジムニウスの声に振り返る。

自分を守るべき側近たちは全員斬り殺されている。

オズク『ペテンだと⁉︎貴様我らが教えを愚弄するか‼︎』

タジムニウス『ペテンだろう?信徒達を見てみろ。可哀想に、何も分かっちゃいない、大方精神支配で良い夢見させられてただけだ、バカ正直に信じてたのは五王とお前ぐらいのもんさ。』

オズク『クッ‼︎』

アジムステップ兵『オズク様‼︎』

オズク『お前達こいつの足止めをしろ‼︎我が軍は六道党と袂を別つ!全軍後退せよ‼︎』

オズクは馬で走り去った。

タジムニウス『貴様兵より先に逃げるのか‼︎仮にも総大将だろうが‼︎』

アジムステップ兵『死ね灰色の獅子‼︎』

タジムニウス『クッ…邪魔をしおって‼︎』

オズクとアジムステップ、そしてドマの徴収軍が逃げ出し始めたのは天冥斎の本陣からでも見えていた。

天冥斎『おのれオズク‼︎駒の分際で役に立たぬ出来損ないが‼︎五王も何と情けない‼︎』

??『情けないのはどっちだか。』

??『駒として扱ってた存在に見限られた方が余程情けないがな。』

??『こういうのを救いようのないクズって言うのか?』

??『何にしても碌でもねぇよ。』

天冥斎『お前達…何者だ!何処から入ってきた⁉︎』

シキ『みんなが知ってか知らずか命を駆けて、俺達をここまで通してくれたのさ。初めましてだな六道天冥斎、俺達はウラメシ屋。』

カツドン『今宵の雨に』

ロハン『クガネの民草に代わり』

ジェピ『オシオキに参った。』

天冥斎『ウラメシ屋…そうかあの暗殺者集団か…利用されたことへの腹いせか!』

ロハン『それもあるが…』

カツドン『お前達は俺の子供達を傷つけようとした‼︎』

ジェピ『この街を破壊した‼︎』

シキ『個人的な怨みも全て晴らさせて貰うぞ‼︎』

天冥斎は笑い声を上げる。

天冥斎『力も持たぬ蛆虫どもがよって集ればワシを倒せると思っているのか‼︎』

天冥斎が杖を本陣の床に着いた瞬間紫色の閃光が放たれた。

そして次の瞬間、信徒達が全員苦しみだし、全員がお遣いか、或いはそれ以下と言って良いのか分からないが、辛うじて人の姿をした魔物に変わったのだ。

そしてその魔物達は敵味方関係なく襲い掛かった。

天冥斎『フハハハハ支配出来ななら滅ぼすまで‼︎そしてワシは必ずや別の地で我が理想の国を築いて見せようぞ‼︎』

シキ『このジジイ本当に救いようがねぇ‼︎』

カツドン『早くコイツをどうにかしねぇとみんなやられちまう‼︎』

天冥斎『やれるものならやってみろ‼︎』

天冥斎は巨大な火球を作り出しウラメシ屋達に放つウラメシ屋達はすんでのところで躱す。

露伴『こいつ外法は相当やるぞ!』

ジェピ『あんなバカでっかい火の玉飛ばしてくんのかよ!』

その頃戦場では。

ジャンヌ『一体コレは‼︎この魔物たちは一体‼︎』

オブライエン『魔力を感じました!恐らく天冥斎の仕業かと‼︎』

クガネ軍、ブリテオン軍、ヒンガシ軍は襲い掛かる魔物を相手に四苦八苦していた。

タジムニウス『ジャンヌ‼︎』

タジムニウスは愛グリフォン、デスクローでジャンヌの側に降り立ち、周囲の魔物をデスクローに相手させている間に自身は側に降り立った。

ジャンヌ『総長‼︎』

二人は思わず抱擁を交わした。

タジムニウス『陛下とノブシゲ様は何処に?』

シャルルマーニュ六世『ワシはここじゃあ‼︎』

大斧を振るいながらシャルルマーニュ六世は近づいてきた。

タジムニウス『陛下、私はオズクを追います。彼奴は総大将で有りながら兵を見捨て我先にと逃げ出しました。総大将たらならば兵らの後に戦場を去らねばなりません。万死に値します、私が追い、奴の首を上げて見せます。』

ジャンヌ『なら私も!』

タジムニウス『いや君はここに残ってくれ、陛下と共にクガネ軍とヒンガシ軍をNEOクガネまで退避させるんだ。五王が全員死んだ今、いつ海底が海の底に沈むか分からない‼︎戦いながら退く事になる。街にはまだ大勢の非戦闘員の民草もいる。彼らを守る存在が必要だ。』

ラース『天冥斎はどうする?』

タジムニウス『心配無用だ、もう既にオシオキしにいってくれたよ!』

その一言に思い当たる者達は理解し、そうで無い者達は首を傾げた。

タジムニウス『それでは!』

シャルルマーニュ六世『タジムニウス‼︎』

覇王は胸に拳を当て、叫ぶ。

シャルルマーニュ六世『武運を祈る‼︎‼︎』

騎士も同じ仕草で返す

タジムニウス『有り難く‼︎‼︎』

タジムニウスはグリフォンに跨ると弟子を呼びつけた。

万次郎『はいマスター‼︎』

タジムニウスは大剣ソルグリムを万次郎に手渡した。

タジムニウス『預かっておけ。絶対落とすなよ‼︎その大剣には歴代の騎士団総長の魂が込められている。お前を守ってくれる。』

万次郎『分かりました。命に変えても守ります。ですからマスターも取りに帰ってきて下さい必ず!』

タジムニウス『約束だ、ジャンヌ!』

タジムニウスはジャンヌを呼ぶ、ジャンヌは不安そうな顔を浮かべている。

タジムニウスはさっき迄の真剣な顔を崩し、微笑しながら言った

タジムニウス『必ず帰る。』

そう言うとグリフォンは羽ばたき空の彼方へ消えていった。

その頃ウラメシ屋と天冥斎は激しい戦いを繰り広げていた。

シキ&カツドン『ぬおおおおあああ‼︎』

天冥斎『フンッ‼︎‼︎』

左右から迫るシキとカツドンの一撃を天冥斎は防御魔法で防いだ。

ロハン『コレでどうだ‼︎』

ロハンは手製の散弾銃を放つ。

魔法障壁は崩れさり天冥斎は後ずさる。

ジェピ『うおおおおおお‼︎』

ジェピの槍の一撃が天冥斎に迫るが天冥斎はすんでの所で転移し、躱す。

天冥斎『手こずらせてくれる‼︎』

シキ『こっちの台詞だ‼︎』

【紅玉海 船上】

アジムステップ兵『オズク様こちらです‼︎』

オズク『おのれブリテオン、おのれクガネ、おのれ天冥斎め‼︎俺の覇道を台無しにしやがって‼︎‼︎』

次の瞬間、銃声が聞こえオズクは横を見ると、案内役を勤めていた兵士が撃ち殺され海に沈んだ。

そして自分の前にはリボルバーを、構えるタジムニウスと船員を貪り食うグリフォンが居た。

タジムニウス『悪いがこの船の船員は全員始末した。然し酷い言い草だな、あれだけ天主様、天主様と仰いでいたのに都合が悪くなればコレか。やはり権力と信仰は相入れぬな。』

オズク『タジムニウス・レオンクール‼︎‼︎貴様ぁ‼︎‼︎』

タジムニウス『逃げ場は無いぞ‼︎』

オズク『我が地位を守る為にはそれなりの首級が必要だ、貴様の首を叩き斬ってくれる‼︎今まで散々コケにした事を後悔させながらな。』

タジムニウス『その傲慢さを償わせてやる。』

デスクローは威嚇するようにそして主人を鼓舞するように鳴いた

デスクロー『ピュエエエエエエ‼︎‼︎』

タジムニウス『応援ありがとう、デスクロー、頼みがある。『彼ら』を拾ってやってくれ、君なら大の男四人乗せてても飛べる。』

タジムニウスは懐から砂糖漬けされた果物を出すとデスクローに見せた。

デスクローは心得たように飛び立って行った。

タジムニウス『待たせたな。』

オズクとタジムニウスは互いに剣と盾を抜いた。

二人は走り出し剣と剣がぶつかった!

二人は後ろに飛び下がり、オズクはそのまま足をバネに前に飛び込みながら斬りつけて来たがタジムニウスは盾で防ぐ、そして盾で弾き飛ばすがオズクも姿勢を崩さず、二人はまた正眼に構える。

【天冥斎本陣】

ロハン『グワァ‼︎』

シキ『ロハンちゃん‼︎』

ロハンは天冥斎の火球を喰らい吹き飛ばされた。

その間シキの短刀と天冥斎の杖は鍔迫り合っている。

天冥斎『ワシには勝てぬ‼︎』

シキ『いや…勝つ‼︎絶対に‼︎‼︎』

露伴『よくもやりやがったな‼︎喰らえ最新兵器‼︎』

ロハンが取り出したのは巨大な弾頭がくっついた鉄の筒だ。

ロハン『ブリテオンの奴らが使ってるのを見て思いついた新作だ!名付けて『拳の弾頭(パンツァーファウスト)』だ‼︎』

弾頭が射出された同時にシキが飛び下がる。

弾頭は命中したようだ。

天冥斎はまた魔法障壁で防いだようだが身体にいくつか火傷と傷がついている。どうやら完全に防ぎ切れなかったようだ。

天冥斎『いつまでも小癪な真似をォォォォ‼︎』

カツドン『なら終いにするか‼︎‼︎』

カツドンは正拳突きを天冥斎に喰らわせた。

これも魔法障壁で防ぐか衝撃までは防げず天冥斎は壁に叩きつけられた。

天冥斎『ヌグゥオ⁉︎』

そして魔法障壁に亀裂が入ったのだ。

【紅玉海 船上】

タジムニウスとオズクの勝負もまだ決着がついていない。

既に何十合とぶつかっているが拮抗しているのだ。

タジムニウス『意外にやるとはな、妾の子故碌な教育など受けちゃいないと思っていたがな。』

オズク『喧しい!貴様に何が分かる‼︎‼︎』

タジムニウス『分かりたくもないな、己の出生の卑しさ故に卑屈になり、他の兄妹を出し抜き生きていかなきゃ自己を保てず、自らの存在を認めてくれるアボダラ宗教にどハマりする男の事なんぞ微塵も理解したくないね‼︎』

オズク『黙れぇぇぇぇぇ‼︎‼︎』

オズクは剣を振りかぶった。

そこにすかさずタジムニウスはオズクの腕と腕の間に自らの剣と腕を絡ませた。

そして無理やり腕を降ろさせると剣の柄でオズクの首を突いた。

オズク『グフッ⁉︎』

体勢を崩したオズクの両手首をタジムニウスは手首で、剣を回してそのまま切断した。

そしてもう一方も決着が着こうとしている。

カツドンが放った拳に天冥斎の障壁はヒビが入ったのだ。

天冥斎は火で作り上げた虎をカツドンにぶつけた。

カツドン『ウオッ‼︎』

シキ『カッちゃん‼︎』

カツドン『構うな‼︎行けシキィ‼︎‼︎』

シキ『うおおああ‼︎‼︎』

シキは飛び上がりヒビの入った障壁目掛けて短刀を突き刺す。

そして遂に障壁は破れた‼︎

天冥斎『おのれぇぇぇぇ‼︎』

天冥斎は杖でシキを殴り飛ばす‼︎

シキ『後は頼んだぞジェピお‼︎』

天冥斎がハッとして振り返った瞬間、ジェピの槍は天冥斎を貫いた。

天冥斎『ウオワアアアアア‼︎‼︎』

天冥斎の悲鳴が響き渡る。

絶命の瞬間、天冥斎はジェピの襟首を掴む。

天冥斎『コレで終わらぬぞ…力を持ちながらも理解せぬ愚か者共にやって封じ込められた者たちの怒りや怨念は消えぬ…!この国が変わらぬ限り何度でも繰り返すのだ…!』

天冥斎はそう言い残し絶命した。

ジェピ『だから変えるんだ…この国を!』

ジェピは槍を引き抜きながら応えた。

シキ『やったなジェピお。』

カツドン『だがそう安心していられねぇぞ海底が沈み始めた海が戻ってくる!走ってじゃあクガネには間に合わない。』

ロハン『船か何か探さねぇと!』

その瞬間天井を蹴破って入ってきたのはデスクローだ。

デスクロー『ピエエエエエ‼︎』

シキ『お前は⁉︎大人買いの‼︎』

デスクローはただ四人をじっとか見つめると座り込んだ。

乗れと行っているのだろう。

シキ『乗せてもらおう!』

カツドン『大丈夫なのか!』

シキ『こいつはあの若いのの言う事しか聞かねぇ、それが俺達を乗せてくれるってことはアイツが寄越してくれたって事さ!』

ロハン『面倒見の良い雇い主なこって!』

ジェピ『ああ待った!天冥斎の体を持っていこう、討ち取った証が必要だ!』

デスクローは四人と一体を乗せて空に飛び立った。

そしてタジムニウスとオズクも決着が着こうとしていた。

オズクの手首を切り落としたタジムニウスは、膝を屈したオズクに剣を向けた。

タジムニウス『さらばだ、あの世で死んだ者らに詫びるが良い。』

タジムニウスの剣は一閃し、オズクの首が飛んだ。

オズクの首を自分のマントで絡み、腰に巻くが終わった瞬間タジムニウスは青い顔になった。

タジムニウス『まずいな…もう仇討ちか。』

オズクの船に向かってアジムステップ軍の武装輸送船が大砲を撃ちながら迫って来た。

するとタジムニウスの顔の真横に紙人形が現れた。

メフィ『タジムニウス!』

タジムニウス『メフィさんか‼︎』

メフィ『回復した魔力で敵の船は私がやっつける‼︎出来るだけ離れて‼︎』

タジムニウス『一人でこの船は動かせない!俺に構わずこのままやってくれ‼︎』

メフィ『でもそれじゃ君が‼︎』

タジムニウス『やるんだ‼︎このままじゃどのみち死ぬだけだ‼︎』

メフィ『死なないでよ…!行けェ‼︎‼︎』

海面が泡立ち初め、あの水のレーザーが放たれようとしている。

もはや巻き込まれるのは必定。

タジムニウス『女神の加護が有りますように…。』

メフィの放った水のレーザーは船を全て吹き飛ばした…。

その頃NEOクガネの街には皆が退避したが、海は想定よりも早くクガネに辿り着き、そして巨大な津波となって街に押し寄せようとしていた。

ジャンヌ『これじゃあ…みんな死んでしまう…!』

そこに九十九尾が、皆の前に立った。

九十九尾『まだ終わりにあらず!外法使いは皆手伝え‼︎皆で守りの外法を唱え、街を囲むんだ‼︎』

九十九尾は数枚の札を取り出し叫ぶ

九十九尾『海め‼︎妻の居場所までも奪わせはせぬぞ‼︎急々如律令‼︎‼︎』

オブライエン『天に在します我が女神よどうかお力を貸したまえ‼︎バリア‼︎‼︎』

アルカナ『バリア‼︎』

ハクレン『バリア‼︎』

スガク『バリア。』

手練れの魔法使い達の魔法と九十九尾の陰陽道の技が組み合わさりNEOクガネ全体を囲う魔法障壁が作り出された。

津波と魔法障壁は激突したが津波は魔法を破る事が出来なかった。

数時間が経過し、津波は引き、元のクガネの穏やかな海に戻った。

そしてその頃には雲は晴れ、朝日が登っていた。

民草『津波が去った…俺達勝ったんだよな…?』

民草『ノブシゲ様…私達勝ったのよね…!』

民草『ノブシゲ様!』

ノブシゲ『あ、ああ…勝った…勝ったぞ‼︎』

『『『うおおおおおおおおおおおお!』』』

皆が鬨の声を挙げた。

勝ったのだ数十倍の敵を相手に勝ったのだ!

だが喜んでばかりは居られない、彼らはオズクと天冥斎の死を確認していないのだ。

するとデスクローが皆の前に降りてきた。嘴には何やら死体を咥えている。

皆の前にその死体を落とすとその死体には貼り紙が貼ってあった。

【六道天冥斎 オシオキ完了 ウラメシ屋】

ノブシゲ『この男が六道天冥斎なのか⁉︎』

捕虜返還に立ち会ったオブライエンが身元を確認し、本人である確認が取れると皆は更に喜びを露わにした。

ただ一人を除いて。

ジャンヌ『デスクロー?総長は何処にいらっしゃるの?』

デスクローもジャンヌに言われ、辺りを見回したが主人の姿がない事に動揺する様子を見せた。

ジャンヌ『そんな!誰か総長を見ていませんか‼︎』

ジョージ『総長が戻られていない…?若様!何処に居られる‼︎』

エルダ『タジム君‼︎』

オブライエン『陛下‼︎‼︎』

シャルルマーニュ六世『うむ!全軍レオンクール伯を探せ‼︎』

ノブシゲ『伯爵…!皆も手伝ってくれ‼︎』

ノブ『行くぞ真青成組、レオンクール伯を探すぞ‼︎』

アマル『海岸くまなく探せば見つかる‼︎落ち着いて探せ‼︎』

民草『俺達も手伝うぞ!』

民草『締まってた小舟を出そう‼︎』

ー同は総出でタジムニウスを探し始めた。

海に流されたのか、それとも海岸線に乗り上げたのか、生きているのか、死んでいるのか…定かではない。

だが皆がそうしたくて堪らなかったのだ。

ロハン『なんかヤバいことになってるぞ!レオンクールの旦那が居ないって騒ぎになってる‼︎』

シキ『俺達も行こう‼︎』

カツドン『俺はギンや街のみんなにも声を掛けてくる‼︎』

シキ『俺とジェピおは他のみんなとこの辺りを探す。行くぞ‼︎』

皆で必死に探した。だが海岸は瓦礫と死体の山で一杯だ。然も戦闘の影響で酷く抉れている場所もあり近寄り難くなっていた。

だがどれだけ探しても見つからない…。

カムロザエモン『ノブシゲ様…遺憾ながらこれ以上の捜索は皆が持ちません…。』

ノブシゲ『もう少しだけ…もう少しだけ頼む‼︎』

カムロザエモン『もう粗方調べ尽くしました…。残念ながら…レオンクール伯爵は…。』

すると海岸で騒ぎが起こった。

エルダ『行けませんオルタンシア卿‼︎』

ノブシゲ『何があった⁉︎』

エルダ『オルタンシア卿がデスクローと共に単独で捜索に…。』

ノブシゲ『バカな!もう何時間も飛んでるはずだ双方限界だろうに!』

ジャンヌはデスクローと共にクガネから離れていく。

ジャンヌ『クガネの周りにいないなら紅玉海全部探せば良い‼︎絶対見つけて見せる‼︎』

そしてジャンヌ達は紅玉台の辺りに辿り着いた時だった。

デスクローは鳴き出した。

そしてジャンヌが紅玉台を見るとそこにはよく見慣れた人影が横たわっているのが見えた。

デスクローは津波で全て流されて元の灯台と石垣だけになった紅玉台に降りると、ジャンヌもふらつく体に鞭打ち、横たわる男の横に跪いた。

ジャンヌは男の胸に耳を当てると…

鼓動は確かに刻んでいた。

それが分かるやいなやジャンヌの目には涙が溢れ出た。

タジムニウスはジャンヌの涙で目を覚ました。

タジムニウス『女神は…遂に…我が元に現れりか…』

ジャンヌ『タジム‼︎‼︎』

ジャンヌはタジムニウスに抱きつき声を上げて泣いた。

タジムニウスはその時自身の手に何か握られているのを感じた。

それは黒い鱗だった。

そしてどうして自分が生きているのか合点した。

タジムニウス『帰ろう…NEOクガネに…。』

____________________

六道党の乱終結、大アジム帝国第三皇子オズク、六道党天主、六道天冥斎、戦死。

・

NEOクガネ・ブリテオン・ヒンガシ合同慰霊祭行われる。

・

NEOクガネ、改革派が現れる。

・

NEOクガネ、復興開始、避難民帰還開始、ブリテオン、復興に全面支援を約束する。

・

ブリテオン王国近衛騎士団、及びブリテオン第三軍団、NEOクガネより退去、そのまま西方の戦場へ

・

セダンの長城の戦い、バッキンガム公指揮のブリテオン軍快勝、西南の諸国家連合とブリテオンとの間に休戦協定結ばれる。

・

NEOクガネ港湾地区、最低限の復興が完了する、漁業、海上交易再開される。

・

ブリテオン王シャルルマーニュ六世、反撃戦争を宣言、かの帝国衛生国家群に向けて、第二軍団、第三軍団、第八軍団に出征命令を出す。

・

ブリテオン軍各地で快勝、新第三軍団長タジムニウス・レオンクール元帥の活躍が光る。

・

ブリテオン・帝国間に十年間の休戦協定結ばれる。

・

ブリテオン、NEOクガネに対しての軍事支援再会、第三軍団長兼近衛騎士団総長タジムニウス・レオンクール、ジャンヌ・ド・オルタンシア、エルダ・アインホーク、ラース・ナイトファルコン以下二千名を再派遣する、その他近衛騎士団はジョージ・オックスフォード、オブライエン・ホーフェンツォルン両名の指揮の元、セダンの長城に駐屯する。

_________________________________

【NEOクガネ クガネ城 羅睺羅院】

残念でしたなぁ…上手くいけば貴方がクガネを率いるただ一人の人間として君臨できたものを…

 

若君があそこまで自らの意思を示すとはな、そうでなければ操り人形として生かして置いてやったが、あの時徹底抗戦を唱え、ワシに対して真っ向から反抗してきた。

あの場でワシは察した、生かしておけばワシの天下は無くなると、若君はあの場に居た者達の心を掴んだ、恐ろしいまでの将器があるとな。そしてそれはワシの為に使われる事は決して無い、ならば生かしておく理由も無い。

 

怖い御方だ

 

それよりもカムロザエモンめ…帝に働き掛けるとは…それにあのレオンクールの小倅め。そもそも其方がクガネが襲われているからどうするかと言うからこの隙に若君を討てというワシの命令を全う出来なかったからこのような事になったのだぞ!

 

老中、我が輩を買い被り過ぎですぞ、そもそも我が輩は偶々暇だった故にお伝えしたら、暗殺せよと急に言われた遣い走りに過ぎませぬ。そしていざ来てみれば、一方は六道党の五王の一人、もう一方はブリテオンの若獅子、それに睨まれながらとなると正に雲を掴む所業…尤も我が輩はあの青年を嫌いでは有りませんが…

 

本気か?

 

はい。

 

まぁよい、幻利薬の方は?

 

幸いにも生産に何も問題は有りません、以前のように流通可能かと

 

宜しい…直ぐに流通させろ

 

承知。然しコレで若年寄り達は勢いづくでしょうな、若君も改革に熱心になられた。

 

ブリテオン…余計な事を…だが。

 

?

 

あの国も一枚岩ではない、あの若獅子を罠にハメる機会が訪れるやもしれぬぞ。

 

ほう…ならばお気をつけなさい老中、あの若獅子が、暴れれば手がつけられませんぞ…

_________________________________

【ブリテオン王都 ブレトニア 王宮】

よもやエルダ卿がそのような事を…近衛騎士団内の門閥貴族派の摘発が使命だったとは

 

申し訳ありません、陛下より口止めされておりましたので。

 

其方の友を使ってワシも悪かったと思うておる、だが…我が国はもはや誰が裏切り者か分からぬ。それにこの事をお主に話せばお主は余計な気を揉まねばならなくなる…。それは本意では無い。

 

御配慮痛み入ります。

 

しかし、幸いな事に騎士団の中に裏切り者はおりませんでした。

 

ウム、だが先の六道党による衛星国の公爵一家暗殺事件…やはり王国内部に裏切り者が居なければ実現は不可能だったはずだ。

 

門閥貴族達の仕業でしょうか?

 

恐らくな、だが確証は無い上、誰がそうなのかも今は分からぬ…。昨今、連中クガネに興味を示していると聞く。見張りがいた方が良いだろう。

 

見張り…。

 

レオンクール元帥、アインホーク卿、其方ら、近衛騎士団二千ほど率いて再びNEOクガネに行け、軍事支援再開の要請が彼の国より来ておる。それにかこつけて彼の国を見張れ。

 

門閥貴族達が何か事を起こすようであれば…?

 

その時は再びクガネが戦場になるやも知れぬな。だがそうはしたくなかろう?叶うなら未然に防いでみせよ。そのために必要な事は全て予が許す。

 

御意

 

御意

 

では行け。

 

それでは陛下。

 

また会おうタジムニウス。

_________________________________

運命の日…あんらく革命の九ヶ月前…

シャルルマーニュ六世急逝

・

ブリテオン、シャルルマーニュ王の死因を暗殺と宣言、国内残留近衛騎士団、調査の為国中に分散する

・

ブリテオン、門閥貴族派閥シャルルマーニュ王殺害の下手人がバッキンガム公と宣言する。

・

ブリテオン、王党派反論するも門閥貴族派閥、実力行使に出る。バッキンガム公夫妻襲撃事件発生。バッキンガム公一家行方不明になる

・

ブリテオン、門閥貴族派閥共謀者は近衛騎士団と断定する。近衛騎士団、身分問わず各地で粛清される。

・

ブリテオン、王党派第一軍団オルタンシア元帥、第二軍団シェフィールド元帥両名、シャルルマーニュ王殺害は門閥貴族派閥の手によるものと反論。任地にて軍閥化。

・

ブリテオン、門閥貴族派閥、貴族側正規軍団である第四軍団、第五軍団、第七軍団、第八軍団を支配下に置く、更に各自私兵団、騎士団を召集する。唯一中道であった第六軍団もなし崩し的に加わる。

・

ブリテオン、南部地域で大規模共和革命反乱が勃発し、領民、州軍兵が同地の貴族を軒並み処刑し、南部地域にブリテオン共和国を僭称する。

・

ブリテオン、三国期に突入する

・

ブリテオン衛星国、それぞれが旗色を鮮明に出来ず混乱する。

・

NEOクガネ、門閥貴族派閥の要請により近衛騎士団総長タジムニウス・レオンクールを捕縛、幽閉する。抗議に向かったジャンヌ・ド・オルタンシア卿、クガネ城内で生死不明になる。

・

NEOクガネ、老中ガボウサイ、全警察機構に近衛騎士団追討を指示する。

・

騎士団の変勃発、騎士団奮戦するも、ほぼ全員が戦死する。エルダ・アインホーク卿、ラース・ナイトファルコン卿、ジャック・万次郎・レオンクール生死不明。幕府軍遺体捜索するも見つからず。

・

ブリテオン、ブリテオン国内の近衛騎士団の粛清もほぼ終わる。然し、ジョージ・オックスフォード卿、オブライエン・ホーフェンツォルン卿の生死分からず、捜索続けられる…

・

NEOクガネ、タジムニウス・レオンクール…獄中死

 

あんらく革命へ続く…?      END

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。