子供になくて大人にあるもの
家族のいる家庭には大体あって家族のいない子供だけの家庭にないもの。
なーんだ。
それはセミが全力で鳴き続けている真夏日のことだった。
クーラーを全開にした部屋で何をするでもなく気だるげにダラダラしていた俺とかなちゃん。
俺は次の出演作の台本を急ぎではないが目を通しており、かなちゃんは雑誌を読み飽きたようでソファーに座りながらも小さくうなり始めた。
「あ~~~~あ────!! 今年の夏はどこにも行ってない。いけてないなぁ゙ー」
かなちゃんがなんか言い出した。
恋人になってからネズミーランドにも行ったし電車で簡単に行ける映画館水族館などよくあるアミューズメントパークは訪れているが、家族がおらず車という便利な交通手段のない《子供かつ連れ出してくれるような家族のいない家庭》我々はだいたい近場で済ませている。
そう言えばあんまり遠出はしていない。
でもなあ。
俺は撮影の都合上、北は北海道南は沖縄までアレヤコレヤでロケバスだったり飛行機だったりで移動はしているのだ。
テレビからちょっと離れ気味かつ主な主戦場が劇団のかなちゃんはどうしても人の集まるところでの舞台公演が多く東京や大阪が活動の基本的な拠点になっている。
長時間移動は疲れるしー……。
第一観光地は移動も車ありきの物が多く、あまり楽しめないのではないかと思うのだ。
正直言えばデートは近場がいい。
「ああ、私の日記帳には稽古、稽古、稽古ばっかり。恋人のいる小学生最後の夏のはずなのに。どうしてかしら……?」
「わかった、わかったってば」
役者は感情表現で攻めてくるから強い。
わかりやすい全身からの不満と要求の訴えに負けた。
ただまあ、小学生の最後の夏だと言われれば仕方がない。
学生のはずなのに仕事仕事で普通の小学生より遊びの少ない人生であるのは自分と一緒だ。
であればその気持には応じるべきだろう。
お互いのスケジュールを見せ合えば、来週なら一泊二日で丸々遊べる時間がありそうだ。
日にちが決まれば後は場所だ。
「温泉地とかどう?」
「え? 海でしょ?」
えー! 信じらんないとパーの手を口に当てて驚きを示してくるかなちゃん。
なんかメスガキ感を感じる。
だめだ、今はわからせるべきときじゃない。
海か。
泳げはするがそう言えば今世は一度も海水浴に行っていないかもしれない。
プールには連れて行かれたことはあるが、まあ親とは小さい頃に別れているし、保護者は海の舞台には上げても砂浜には連れて行くような人でもない。
友人と遊びに行くにしても中学生ではプール止まりだ。
海ねえ、海。
かなちゃんの水着姿は輝いていると思う。
ただ、
「でも人混みすごいじゃん」
最近子役というより男性役者として人気が上がっており、道端でも女の子に声をかけられることも増えてきた。
名前を知っているファンであることもあれば見た目で声を掛ける人もだ。
世の中で一番秘密を守らないであろう年頃のファンの子に手を出す気はまったくないが、人気は会って困らないためファンサはするほうだ。
ただ、かなちゃんから見るとメスに媚を売っているオスに見えるらしい。
露骨に機嫌が悪くなる。
年下彼女の嫉妬心には可愛らしさを感じるが、楽しみで行く旅行先には地雷はほしくない。
夏の海なんてそりゃもう人に声かけられるだろうし、ボインもいるだろうし、かなちゃんを放ってナンパをする気はないが視線はそっちに取られない自信は正直ない。
水着相手となればはかない抵抗になってしまうだろう。
「でも夏じゃない!」
夏理論で押し込んでくる気のようだ。
変なのに絡まれるかもしれないとか、日焼けするとか、かなちゃんの水着姿は他人にさらすにはもったいないなど色々重ねるが
「でも夏じゃない!」
……手ごわい!
討論は決着がつかない。
二人で一票ずつなのが悪いと第三者意見に従うことになった。
「よし、大くんの年上の男友達のなにがみくんとかいうのに聞きましょう」
「いしがみね、いしがみ」
お互い不公平にならないようにと俺の知り合いでただ相手はカナちゃんが選ぶという条件で連絡する。
海と温泉。
どちらが勝つか。
送ったメールはすぐに返信が来る。
ぶるると震え、答えが返ってきた。
『それ、熱海あたりで海と温泉両方にすればよくない?』
なるほど。さすが生徒会に入っている高校生の意見は違う。両方と来たものだ。
財閥も通うハイレベルな秀知院学園の学園生である。
生徒会にも通っており、会計として抜群の能力を発揮する男である。
その言葉には強い説得力があった。
「じゃあ、そういうことにするか」
「ヤッター!」
「やれやれ」
宿を抑えるかとスマホを握れば腕を取られる。
にかりと小悪魔のような男の心を惑わす笑みを浮かべるかなちゃん。
「さっ! 行くわよ」
「ん? どこに?」
熱海は来週である。来週とは今日ではないよかなちゃん。
「水着を買いに行くに決まってるじゃないっ!!」
**
かなちゃんは下着は自分で選ぶ派である。
我が家にもかなちゃんの下着がタンスに収められているし、家で洗濯していく。
といっても分けて洗濯されるし、するのも干すのも取り込むのもかなちゃんがやっているので何を持っているかは知らないし調べないようにしている。
故に彼女の下着選びに一緒に行ったことはない。
履いている姿は見てほしいけど、下着自体はあんまり見てほしくない、らしい。
難しい……俺のは見てもいいけどね、といったが誰得よ、と言われた。
下着売り場なんて男が立ち入れない聖域。
いるだけでHPを削られる場所。
水着売り場だって……と思ったのだが。
「意外に平気だな」
「なにが?」
「いやなんでもない」
売り場もなんだか下着売り場と違ってオープンな感じがある。
居心地の悪さがないな。
「どれがいいかしら~? どう? 似合いそう?」
「どうって紐はない。紐は」
どこを隠すつもりなんだ。
波でずれたら一発だぞ!
「冗談よ、冗談。あーこれかわいい。試着に行ってくるわね」
ととと~と軽快に走って試着室に入っていく。
水着って試着できるんだな。
「大く~ん♡ こっち来なさい」
試着室から手だけ出してコイコイしてるかなちゃん。
「じゃーん。どうかしら?」
近づくとカーテンを開けてかなちゃんが出てくる。
黄色のフリル付きのビキニだ。
シンプルな作りだが、その分フリルが可愛らしさを演出している。
胸の膨らみは小さいが可愛らしくてとても良い。
「かわいい」
「そっ。じゃ、次着替えてくるわ」
パサッと水着が落ちる音が聞こえる。
店内に人が行き交う中、カーテン先には裸のかなちゃんがいると思うとなんだか興奮してこないだろうか?
水着のせいかな。夏のせいだろう。
「じゃじゃーん。これはどう?」
今度は黒だ。どことなく面積が小さくなっており、アダルティな感じがでている。
水着というより、かなちゃんの肌の白さに目を奪われるような気がする。
上着を羽織って出てきたがそのせいか水着より下着感が出てる気がする。これは駄目だな。
「うーん、なし!」
「えーなんでよ」
ニカッと笑ってウインクまでしてくれたが、かなちゃんにはまだ早いかな。
その後も水着ショーが続き、スポーツタイプのもののときはガッツポーズを見せたり、着ているというよりは胸にあててるだけのような危ない紫水着を持ち込んできたりと心を揺さぶられる時間が続いた。
「まあ、だいたいわかったかしらね。コレにするわ」
「あれ? 着ないの?」
「ファーストインパクトを最大化するわ!」
「やれやれ。楽しみにしてるよ」
まあ、他人の目を通したときにどう見られるかをよく知っているかなちゃんである。
自分の魅せ方についてララライで客観的にも見えるようになってきている。
そうそう変なのは出てこないに違いない。
期待をしておこう。
**
今回は海に温泉にと色々荷物が多くなる。
観光も入れればやはり足が欲しい。
ということでなじみの何でも屋にお願いして二日間の運転手として雇った。
なにせ言い方はあれだがお金はあり、使い道は少ない。
今は一足早く水着に着替えてパラソルを浜辺に設置してシュコシュコとボールに空気をいれているところである。
真夏の暑い直射日光。
足からは炙るような熱。
しかしそれをすべて吹き飛ばす海の香りに波の音!!
人々の歓声。心が同調して騒ぎ出す。
なんかこう、テンション上がってくる。
夏はやはり海だな。
シュココココと空気を入れる力が上がり一気に膨らんでいく。
「そんなに入れて破裂させるつもり?」
ボールは奪われ、できた人影に振り替える。
そこには羽織っていた上着を脱ぎすてる水着のかなちゃん。
うっすらとかいている汗がかなちゃんの白い肌の上できらりと輝く。
夏の女神。
夏の魔力が俺の頭をゆだらせているのかもしれない。
「ど~う?」
「かわいい」
「そればっかりね」
言葉は同じでも中身が変わっていることに気づかれたみたいで、かなちゃんはさらに笑顔を輝かせて笑った。
「泳ぎましょ」
俺は最高の夏の思い出ができることを確信した。
えっちいのは来週です。ラストはかわエロい気もしますが。
画像が大きくて全体をみずらかったためサイズを調整しました。
PCで見る分には前くらいのほうが迫力あっていいのだろうか?