最近しずくちゃんとせつ菜ちゃんの様子がなんだかおかしい。電話をしたときはわたしへのサプライズを隠してるだけかと思ったけれど、それからも2人での内緒話が増えたように思う。
それに何より、今までからは考えられないくらいに距離が近い。
――わたしへのサプライズを一緒に考えているから。頭でそう理解しようとしても、それだけではない気がしてならない。
例えば、そう。電話をした次の日――2人のお泊り会の次の日。学校で会った2人はとても眠たそうで、心配になって聞いてみると。
「よ、夜遅くまで計画を考えていたんです! しずくさんもですか……?」
「は、はいっ! せつ菜さんも、なんですね……?」
って何故か慌てた感じで戸惑っていた。電話やメッセージで遅くまでやり取りしていたわけじゃなさそうだけど、一緒にいたわけでもなさそう。
計画のことを出されたらそれ以上突っ込んで聞けなかったけど、その後2人で何か話していたのがとても気になる。
それから、2人が一緒にいる時間が増えた気がする。
しずくちゃんが練習中に怪我した時はせつ菜ちゃんが率先して保健室に付き添っていたし、2人とも中々帰ってこなかった。
せつ菜ちゃんがパフォーマンスのアドバイスが欲しいと言った時はしずくちゃんが率先して意見して、放課後の練習も申し出ていた。
――きっと何かある。わたしへのサプライズ以上に、重要な何かが。
「歩夢、帰ろっか」
最近忙しい侑ちゃんだけど、一週間に一度は一緒に帰って一緒に過ごすって約束してくれている。だからわたしは安心して日々を過ごせる。
だけど今、それを犠牲にしてでも真実を知りたい。
「ごめん侑ちゃん、今日はやることあるから先に帰ってて? わたしから一緒にいたいって言ったのに本当にごめんね……」
「そうなんだ、珍しいね。ラブソング関連?」
「うん、そんな感じ。それじゃあね」
「頑張ってね歩夢!」
眩しい笑顔を振りまいて、侑ちゃんは教室を後にした。
(……ラブソング、かあ)
侑ちゃんへの感情は、恋に近いけれど、恋じゃない。ラブソングの歌詞を書いてみて、改めてそう思った。
好きになったなら、その人の全てを知りたい、全てを欲しいって思うから。だから侑ちゃんに恋はできない。みんなのマネージャーだから。
それはそれとしてわたしに1番近い存在だから、なるべく一緒にいたいって思う。
それなのに、貴重な時間を割いてまでしずくちゃんとせつ菜ちゃんの隠し事を知りたいって思ってる。今までのわたしなら考えられないことだけど……
(そんなこともあっていいよね、せっかく侑ちゃんと一緒にいても気になって仕方ないだろうし)
しずくちゃんもせつ菜ちゃんも、今日はわたしが侑ちゃんと一緒にいると思ってる。だからきっと2人は一緒にいる。
どこにいるかまでは分からないけれど、一緒に帰られると探すのは難しいからとりあえず部室の方へと向かうとしよう。
「っ!」
偶然にも部室へと向かう2人を発見した。
今わたしがいる廊下から見て、対岸の1つ下の階に部室がある。だから心配なく2人の様子を観察できる。
仲睦まじい様子で笑い合って、手を繋いで、肩も触れあって……なんだか恋人同士の距離感みたい。
(……本当に、絵になるなぁ)
綺麗な長い髪の毛に、整った顔立ちを備える2人。かっこよさもかわいさも持ち合わせているせつ菜ちゃんと、お淑やかで可憐なしずくちゃん。
演じることに長けている2人だから話も合うし、何より2人ともわたしが知らない世界を見せてくれる。楽しそうに話して、導いてくれる。
だから本当にお似合いだと思う。同じユニットでいられるのが申し訳なく思うくらいに。
「ぇ……?」
思いに耽りつつ見つめていると、いつの間にか二人の距離は近づいていて……見間違いでなければ、キス、してた。
ほんの一瞬だったけれど、確かにその距離だった。今はもう部室に入って姿は見えない。
(本当に、付き合ってるの……?)
心が暗闇に覆われたように、何も見えなくなる。何も分からなくなっていく。
見間違いかもしれない。だって、そんな……分からない、どうして、なんで――
何も考えられないまま、操られているかのように部室の前へと来ていた。
心臓が激しく鳴きわめく。なんて声をかける? そもそも隠してるなら聞く必要はあるの? ううん、見間違いか確かめなきゃ。
纏まらない思考のまま呆然と扉の前で立ち尽くす。――と。
「――ふぁあっ!♡」
「っ!?」
突如聞こえた声に、心臓が爆発したかと思う程高鳴った。
「あぁっ♡ ――んぅあぁ!♡」
断続的に聞こえる嬌声。発信源はどう考えてもしずくちゃんとせつ菜ちゃん。
(どうして? どうしてどうして、どうして……)
疑問しかない。まさか本当にそうだとは思わなかったし、いつからか分からないし、2人ともそういうことは苦手そうなのに学校でできるのどうして?
怖い。いやだ。信じたくない。
(――どう、して?)
今度は自分への疑問。どうして祝福してあげられないの? どうしてこんなに不愉快なの?
理想の2人なんだよ? だったらきちんとお祝いしてあげなくちゃ。なけなしの理性がそう告げるも、本能は嫌としか感じない。
「待って、せつ菜さんっ……!」
「――」
「――かっ、鍵ですっ! ――ましたか?」
「あー……――てきますね」
何か2人が言ってる。扉のせいで全部は聞こえない。鍵という単語が聞こえた。
もしかして――と思ったら、コッコッと足音……まずい! 脇目もふらず、一目散にその場から逃げ出した。
「はっ、はぁっ……! っ、げほっ、っくぁ……」
肺が熱い。今まで生きてきた中で、間違いなく1番全力で走った。
「はっ、はぁ……っ……はぁーっ……」
肩で呼吸し、何とか息を整える。大丈夫、きっと2人には気付かれてない。そういうことをしてる最中に、ドアを開ける勇気はないだろうから。
足音は聞かれただろうけれど別にいい。わたしだってバレなきゃいいんだから。
……どうして? 問いただすチャンスだったんじゃない?
……無理。なんて言っていいか分からないし、何を言ってしまうか分からないから。
「……帰ろ」
幸い周りに人はいなかった。遠巻きに見られている気がするけど、気にしても仕方ない。
今すぐ横になりたい衝動を堪えて、覚束ない足取りで歩きだす。
思い返せば微かな変化はあった。
2人の練習中の声かけが増えていたこと。
2人が楽しそうに映画やアニメの話をしているのをよく聞くようになったこと。
しずくちゃんが彼方さんに膝枕をしなくなったこと。
せつ菜ちゃんが果林さんに揶揄われても前みたいに動揺しなくなったこと。
「……ばかみたい」
わたしへのサプライズは、きっと2人が結ばれた報告。
せつ菜ちゃんがあんなに必死だったのは、それだけ認めてほしいから。
わたしに喜んでもらえるはずと言ったのは、2人がお似合いだって言ったから。
そういう意味で言ったわけじゃ……あれ、じゃあどういう意味? 大差ない? 分からない。
……明日からどんな顔をして会えばいいのかな。
そもそも、なんでこんな気持ちにならなきゃいけないの。今までは侑ちゃんのことだけ考えてたけど、今はそうじゃなくなったけれど、だとしても1番が侑ちゃんなことは変わらないはずなのに……
いくら考えても答えは出なくて、気付けば家についていた。
それからもひたすらに、無為な思考と2人の嬌声が頭を満たし続けた。
分からないことばかりだけど、1つだけ分かったことがある。それは2人が結ばれたこと自体は嫌じゃなくて、むしろ嬉しいって思ってること。声を聞いた時も、不思議と嫌悪感はなかった。
それなのに、嬉しいなんて口が裂けても言えないほどの黒い感情が心を覆う。同じユニットだから仲間外れみたいで寂しいって思うのは当たり前だけど、そんなレベルじゃない。
嫌じゃないのに嫌。自分の心が分からなくて、どうしようもない激情に振り回されて、布団の中で悶え続けた。