翌日の放課後、約束通り部室に3人で集まる。昨日と同じく、わたしの目の前にしずくちゃんとせつ菜ちゃんが並んで座る形で。
2人はただじっとわたしを見つめるだけで何も言わない。わたしの言葉を待っているのか、わたしから話すべきだと考えているのか。いつも楽しく過ごしている場所が、こんなに重い空気になるとは思わなかった。
聞きたいことはあるけれど、覚悟を決めて口を開く。
「……まずは昨日言えなかったことだけど、わたしは侑ちゃんのことが1番好き。だけど恋とかじゃなくて、単に1番大切な人ってだけ。2人はわたしのことを特別な意味で好きって言ってくれたんだと思うけど……どうして?」
わたしの問いかけに2人は赤らんだ顔を見合わせ、しずくちゃんがお先にどうぞと促して、せつ菜ちゃんが大きく息を吸う。
「えっと、歩夢さんは私の正体がばれてスクールアイドルを辞めようとした時、背中を押してくれましたよね? それがとても嬉しくて、そのっ……!」
目を瞑って、顔を真っ赤にして想いを伝えてくれるせつ菜ちゃん。とても嬉しく思うけれど、わたしが聞きたかったのはそういうことじゃない。ごめんね、また後で聞かせてね。
「待って、ごめんね、違うの。どうしてっていうのは、2人は付き合ってるんだよね? それなのにどうしてわたしのことを好きだって言えるの?」
「あっ、そうですよね、まずはそこですよね……すみません。しずくさん、お願いします」
「はい。せつ菜さんは最初は歩夢さんのことだけが好きだったんです」
「待ってください! 歩夢さんの方が好きだったというだけで、しずくさんのことも……!」
「っ、に、似たようなものですし今その話をするとややこしくなるので、その……」
またいちゃついてる……わたしのこと好きって言ってくれたけど本当なのかな……
「は、話を戻しますねっ。私はせつ菜さんのことも歩夢さんのことも、特別な意味で大好きなんです。それをせつ菜さんにお伝えして……いえ、違いますね」
一瞬苦しそうな表情を浮かべ、次いで決意を込めた面持ちでわたしを見据える。
「歩夢さん、あなたは以前に私とせつ菜さんがお似合いだと言いましたよね? その時せつ菜さんは泣いていました。私は眼中になかったのかと」
「し、しずくさんその話は……!」
「ここまできて隠すわけにはいきません。せつ菜さんも言いたいことがあるんじゃないですか?」
「……そう、ですね。確かにあの時はショックでした。結局は侑さんが1番大事なんだって。私たちのことは興味ないんだって。でも今歩夢さんはとてつもなく動揺している……嬉しいです。しずくさんの言った通りでした」
「え、えっ……?」
わたしがあの時何となく言った言葉で、そこまで……それに、しずくちゃんの言った通りって……?
「だから私はあの時歩夢さんが帰った後、せつ菜さんに提案したんです。私たちが仲良くして歩夢さんの気を引いた後、2人で協力して歩夢さんを篭絡しましょうと。お互い歩夢さんのことが後回しになってしまいましたが……効果的だったみたいですね♡」
「なっ……!?」
挑発的な笑みを浮かべるしずくちゃんに怒りそうになるけれど、わたしにその権利はない。あの時せつ菜ちゃんの気持ちを考えずに、侑ちゃんとの予定しか考えていなかったのだから。
一応理由はあるけれど、今はそんなことどうだっていい。それよりも――
「答えになってないよ。しずくちゃんは最初から、せつ菜ちゃんが後から自分以外の2人のことを好きになったっていうのは分かった。それより2人も大切な人がいるってこと!? そんなのおかしいよ!」
「歩夢さんは、私の、私たちの大好きを否定するんですか……?」
「っ、それ、はっ……」
しずくちゃんの泣きそうな瞳に、罪悪感が重くのしかかる。理解できないことだけど、真っ向から否定するのはよくない……よね。
「……ごめん。本気……なんだね。でも、わたしには分からない。理解できないし受け入れられない。どっちかを選んでってことなら真剣に考えるよ? でも、2人同時に、なんて……」
「歩夢さんならそう言うと思っていました。ですが私だって諦めきれません。だから聞かせてください、歩夢さんが受け入れられない理由を。普通じゃないとかおかしいとか、それだけの理由で拒まれるとは思ってませんから」
せつ菜ちゃんの主張は正しい。けれど2人の思いを受け取るわけにはいかない、だって、わたしは――
『歩夢の思いを2人にぶつけてみてもいいんじゃないかな』
不意に侑ちゃんの声が心に響く。昨日言われたことだ。
そう、だよね……黙っていても諦めてくれそうにないし、言うしか、ない。
「……2人は、わたしが書いたラブソングの歌詞見たよね。どういう設定で、誰に向けて書いたと思う?」
2人は一瞬戸惑う表情を浮かべるも、すぐに黙って考えだした。……やっぱり、優しいな。理由も聞かずに答えようとしてくれて。
――だからこそ、わたしが2人の愛を受け取る資格があるとは思えない。
「私は今まで、侑さんへの想いを全力でぶつけた歌詞だと思っていました。でも、違うんですよね?」
せつ菜ちゃんの問いに頷く。普段のわたしを見ていたら、そう捉えられても不思議じゃない……というか、それが自然だろう。
「……普段の歩夢さんとは別の、裏の歩夢さん。決して表に出ることはない、秘めた人格。彼女が恋焦がれるのはいつもそばにいてくれたあなた。つまり、侑さんとは別の幼馴染みもしくはそういった存在を仮定して組まれた歌詞、でしょうか……?」
しずくちゃんの返答はわたしの予想通り、正解にかなり近いものだった。
完璧に言い当てられないように『設定』って言葉を入れて問いかけて本当によかった。当てられちゃうと受け入れないといけない雰囲気になっちゃうから。
しずくちゃんはもちろん、せつ菜ちゃんも設定を考えて物語を作るの大好きだから――2人のそういった長所を、酷く眩しく思うから。
「ううん、ありのままのわたしだよ。もし好きな人ができたらどうしてほしいか考えたら、自然とあの歌詞が出来てたの。だから、2人の気持ちには答えられない。2人と同時に付き合えるほど器用じゃないの。しずくちゃんとせつ菜ちゃんも好き同士なんだよね? だったらわたしのことは放っておいた、方が、いいんだよ……」
2人で結ばれてほしいのは本当。心からお似合いの2人だって思ってる。だけどわたしのことは放っておいてほしくない。2人だけの世界に入ってほしくない。わたしのことも見てほしい。
どうしようもないわがままだけど、誤魔化せない程に苦しく思うのは――
「聞かせてください。歩夢さんの気持ち、全部。受け入れられないのは、1人だけを愛したいからだけではありませんよね?」
「どんな歩夢さんでも嫌いになることはありませんから! 何を言われても好きって気持ちは変わりません!」
「っ……!」
一等星を宿す2対の瞳に見つめられ、心の鍵がガチャリと開いた。
「……わたしは、ふたりには相応しくないから」
自分でも驚くほど低い声。でももう止まれない。ここまで言われて、抑えられるわけがない。
「せつ菜ちゃんは理想のアイドルで、しずくちゃんは理想のヒロインで。でもわたしはかわいいものが好きなだけの普通の女の子でしかなくって。それに2人とも演じるのが上手だから、とっても舞台の上で映えるんだよね。わたしは苦手だから、等身大の自分で挑むしかなくって。だから時々思うんだぁ、本当にA・ZU・NAの一員でいいのかなって」
「っ……歩夢さんは私にとって理想のアイドルかつヒロインです! それに、等身大の自分で挑める歩夢さんを私はとても眩しく思っているんですよ!?」
せつ菜ちゃんならそう言ってくれると思ってた。嘘偽りなんてないって分かり切ってるのに、その言葉を受け止められない。
「歩夢さんがいないA・ZU・NAなんて考えられません……もちろんせつ菜さんも大切ですが、同じくらいに歩夢さんも大切なんですっ……! だからせつ菜さんに3人で一緒にいたいって言ったんですよ……?」
しずくちゃんの切実な声が胸を打つ。だけどやっぱり、分からない。
「どうして? わたしに大切に思われる理由なんて……」
「ありますっ! せつ菜さんとお似合いと言って下さるのは嬉しいですが、私にとっては2人とも憧れの存在なんです! それに、歩夢さんの優しさがあるからA・ZU・NAは成り立っているんです。私とせつ菜さんだけでは暴走しがちで纏まらなくて……それに何より、私自身が歩夢さんの持つ雰囲気と真心に憧れているんですっ! それを無いだなんて言わないでください!」
しずくちゃんにしては強めの語気と、必死な表情。それほどにわたしのことを大切に想ってくれてるってこと、なの……?
「私からも改めて言わせてください。私がスクールアイドルを辞めようとした時、歩夢さんはせつ菜も菜々も肯定して背中を押してくれました。あの時から私はずっと、歩夢さんが特別に大好きなんです」
せつ菜ちゃんの穏やかで想いの籠った言葉がわたしの心を灯す。わたしはただ、せつ菜ちゃんから貰った恩を返せたらって思っただけ、なのに……
「ほんとに、本当に、わたしのこと好きなの? 3人で一緒なんて絶対大変なのにいいの? 2人だけでいたほうが、ぜったい、いいのにっ……!」
言葉と共に涙が零れる。苦しかった胸の奥が、じんわりと熱を帯びていく。
「何度だって言います、歩夢さんも一緒じゃないと嫌なんですぅっ!」
左手をしずくちゃんに握られ、懇願するように抱きしめられる。
「これも改めて言わせてください。大好きな気持ちは、我慢できなくて止められないんです。だから私は、なんと言われようともこの気持ちを貫き通します!」
右手をせつ菜ちゃんに握られ、堂々とした笑顔で宣言される。
「っ……しずくちゃんっ、せつ菜ちゃぁんっ……! ぐすっ、うあぁあっ……!」
ここまで想ってもらえて、耐えられるわけがない。感情が決壊したわたしの号泣が部室に響く。
「わたしっ、ふたりのことずっとすごいって思ってて、だから一緒にユニット組めるって決まった時はすごく嬉しくてっ、でもっ、2人に並んで立てる自信なくってっ、だからっ……っ、うわああぁんっ!!」
「大丈夫ですよ、ゆっくりでいいですからね」
わたしの背中を撫でながら、優しく声をかけてくれるしずくちゃん。けれど涙は全然止まってくれなくて、むしろどんどん溢れてくる。
「ごめんっ、ごめんなさいっ、ふたりを傍で見てたくて、でもそんな自信ないけど、仲間外れにされるのは嫌なのぉっ!」
「この前は結果としてそうなってしまいましたが、これからはもう絶対にしませんよ。ずっと一緒にいてください」
子供のように泣きじゃくるわたしに嫌な顔ひとつせず、ぎゅっと抱きしめてくれるせつ菜ちゃん。その温もりが更に涙腺を刺激する。
「ごめんねっ、今だけはっ……」
「いいんですよ、私たちの前ではどんな歩夢さんでも」
「何があっても、支えてみせますから! それくらい、歩夢さんからはたくさんのものを貰ってるんです」
「っ、うぅっ、あぁっ……しずくちゃんっ、せつ菜ちゃんっ……!」
ふたりの体温に抱きとめられ、ただひたすらに涙を流し続けた。
「……ありがと。ごめんね、制服汚しちゃって」
「いえ、歩夢さんのなら全然気になりませんから!」
落ち着いたわたしは、申し訳なさといたたまれなさから身を縮ませる。しずくちゃんに頭を撫でられながら。
「……あの、しずくちゃん? もう大丈夫なんだけど……」
「今しかこういうことできないと思うので、堪能させてください。いつもの歩夢さんは、私からすれば素敵な先輩でお姉さんって感じですので」
「ごめんね、期待裏切っちゃって」
「そんな、むしろ嬉しいんですよ? 私たちには本心を打ち明けて下さって。それより、さっきから謝ってばかりじゃないですか。もう謝るの禁止ですっ」
「そうだよね、ごめ……あっ」
ついまた謝りそうになると、2人からふっと笑い声が漏れる。
「も、もー! ……ふふっ」
声をあげると更に微笑ましそうに笑われて、ついわたしも笑みが零れた。
「やっぱり歩夢さんは笑顔が素敵です!」
「せつ菜ちゃん……ありがとう」
2人とも本当に優しい。わたしなんかには勿体ないくらい。だからこれは、分かり切った質問。ただ安心したいだけの。
「わたしね、ふたりのこと本当にすごいって思ってて。だから2人から好きって言ってもらえた時は信じられなくて……今なら信じられるけど、本当にいいのかなって思っちゃう……それでもいい?」
「何度だって言います、どんな歩夢さんだって大好きだって!」
「はい、ありのままの歩夢さんが大好きなんですから」
期待した通りの答えが返ってきて、安心すると同時に怖くなる。どれだけのわがままなら許してもらえるんだろうって思っちゃうから。
だから今から気持ちを伝える。侑ちゃんにも話していない、わたしの恋愛観を。
「……ありがとう、本当に嬉しい。じゃあ、今からお返事するね」
引かないでくれると嬉しいな、って予防線を張ってから、2人の目を見て話し始める。
「わたしね、もし誰かと結ばれたとしたら、その人の全てを知りたいの。スケジュールも全部管理したいし管理されたい。その人だけを見ていたいし、わたしだけを見つめてほしい。……でもそんなこと誰にも望めないから、それを少し抑えた感情を侑ちゃんに向けてたの。恋なんてしなくていい、わたしには侑ちゃんさえいればいいと思って。
でもスクールアイドルを始めてから変わってきた。大事なものが増えて、理想の恋愛をラブソングの歌詞に書き出して、今2人に告白されて。
1人だけを愛したいって思いは変わらないけど、2人ともわたしを愛してくれるならそれに応えたい。でもそれがどういうことか分かる? 今言った気持ちを、歌詞として書いた以上のことを、ふたりにぶつけることになるんだよ?」
特別じゃない普通なわたしだけど、恋愛観は普通じゃないことくらい分かってる。
だけどもしも、それを受け入れてもらえるなら。
「むしろ本望です、それほどまでに愛していただけるなら」
「しずくさん、私も同じ気持ちですが、口では何とでも言えます」
「私の歩夢さんへの想いが足りないとでも……?」
「ああいえ、そうではなく。共に過ごすうちに認識のずれが出てくると思うので、その時にしっかりと話し合う覚悟が必要ということです」
「そんな、私は……っ、確かに、そうですよね……私が大丈夫と思ったことでも、歩夢さんは嫌だって思うかもしれませんよね」
「はい。全部を受け入れられると断言はできませんが、3人で一緒にいたいという気持ちは本物ですから。……不安にさせるようなことを言ってしまいましたが、愛があれば大丈夫です!」
――受け入れて貰うだけじゃなくて、こんなに真剣に考えてくれている。一対一のお付き合い以外なんて不誠実だと思っていたけれど、今この2人を見たらもうそんなこと思えない。
それが本当にありがたくて、嬉しくて、愛おしくて。
「ぐすっ、ふえぇっ……」
気付けばまた、涙が零れた。だめだなぁ、ふたりにはかっこ悪いところ見せたくないのに……
「あ、歩夢さん!? すみません、今から仲が拗れた時の話は早すぎましたよね……!」
「違いますよ、安心して泣いちゃったんですよね、歩夢さん♡」
「わっ……!?」
しずくちゃんの胸元に抱き寄せられ、身動きが取れなくなる。全力で抵抗すれば離れられるけれど、当然そんな気は起きなくて。
「うぅ、んんーっ……」
泣き顔を隠すようにしずくちゃんの胸元へと顔を沈めると、後頭部に優しい手のひらの感触が降ってきた。
「今くらいは、私にいくらでも甘えてくださいね。もちろんこれからも歓迎しますよ♡」
どうしてそんなこと言うの……だめになっちゃう、心地良すぎてずっとしずくちゃんに甘えていたくなっちゃう……
「しずくさんばかりずるいですっ、私だって歩夢さんの支えにならせてください!」
せつ菜ちゃんの声が聞こえたと思うと、腕が背中に回されて、しずくちゃんも巻き込む勢いで抱きしめられた。
温かな体温と柔らかな感触に包まれて、安心感で満たされて。
「うぅ……ぐすっ、うぇ、あぁ……っ」
感情のコントロールを失って涙を零し続けるわたしを、2人はいつまでも抱きしめ続けてくれていた。
「……結局また泣いちゃった……ごめんね……ううん、ありがとう」
涙も感情も全部受け止めてくれた2人に、改めて感謝を告げる。
「気にしないで下さい、歩夢さんと結ばれたことが何よりも嬉しいんですから!」
「ですね。それで、この後……」
しずくちゃんの言葉が一旦途切れ、夕暮れの窓を眺め、再びこちらへと向きなおる。
「そろそろ帰らないとですが……誰かの家でお泊りってできますか……?」
控えめな提案からは、寂しいって感情が伺える。わたしもだけど、今日は……
「ごめんね、嬉しすぎて少し落ち着きたいの……それに、侑ちゃんに報告しないといけないから」
「あっ、そうでした、侑さん……ごめんなさい、歩夢さん」
唐突にせつ菜ちゃんから深々と頭を下げられた。一体どうしたんだろう。
「しずくさんに私と歩夢さんのやりとりを話してしまいました……」
「あー……そっか。うん、別にいいよ。しずくちゃんは自分だけ知らないのが嫌だったんだよね」
「すみません、本当に……」
申し訳なさそうに俯くしずくちゃんだけど、責める気持ちには全くならない。せつ菜ちゃんと付き合ってる時のことなら、せつ菜ちゃんのことを全部知りたいって思うのは当然の気持ちだから。
……2人だけでいた時のことを考えると、嫌じゃないと思えば嘘になるけれど、今更言えることじゃない。
だから、その代わりに。
「今日は無理だけど……次のお休み、3人でデートしてくれる?」
これから3人でいる時間を増やしたい。少しでも多く、しずくちゃんよりもせつ菜ちゃんと、せつ菜ちゃんよりもしずくちゃんと。
「もちろんです」
「私もしたいと思ってました!」
「よかったぁ。それで、今まで2人がしてきたデートの場所に行きたいの。全部じゃなくてもいいから……」
きっと2人だけの大事な思い出もある。だけどわたしはそれも知りたいから。
「もちろんいいですよ。ですが、行ったことあるのはカフェと私の家なんです。それでも大丈夫ですか?」
「え、それだけ? もっと色々なデートしてないの?」
しずくちゃんの意外な答えに驚きを隠せない。遊びに行く場所は色々あるはずなのに。
「お付き合いを始めたのはこの前のユニット練習の時ですから、そんなに時間経ってないのでこんなものかと」
「……それなのにえっちなことしたんだ」
「っ、それはっ……そうなっちゃったんです! 仕方ないんです! ……そうですよねせつ菜さん!」
「はい、というか主に私が……うぅ……」
そこでせつ菜ちゃん照れないでよ……というかえっちなこと苦手なこと苦手じゃなかったの……? 話題に出すんじゃなかったかな、なんだか仲間外れみたいな感じもするし……
「そうだしずくさん! この前話していたサプライズ、デートの締めに採用しませんか? まずカフェに行って、そこからしずくさんのおうちで……」
「いいですねそれ! でしたら侑先輩に許可とらないといけないので私聞いておきますね」
「私は果林さんに聞いておきます!」
また2人だけで盛り上がってる……というかどうして侑ちゃんと果林さんが出てくるの……?
「すみません歩夢さん、ですが最高の体験をお届けすると約束しますから……!」
「むぅ……」
「もう絶対に悲しませませんから、ね?」
「今、やなんだけど……」
「帰ったらすぐに連絡入れます! もしデートで満足いただけなければ責任を取りますから!」
「責任って?」
「私が一生をかけて歩夢さんを幸せにします!」
「むぅ、そこは私たちって言って下さいよ」
「それに、ただせつ菜ちゃんがそうしたいだけ、じゃあ……」
自分で言って恥ずかしくなってきて、俯き言葉が途切れる。でもきっと、自惚れじゃなくて本当に想ってくれているだろうから。
「はい、なので歩夢さんといるだけでどうなっても幸せなんです、私たちは」
「っ……」
堂々と言うせつ菜ちゃんに、更に恥ずかしさが加速する。どうしてそんなことを躊躇なく言えるかな……
「せつ菜さんの言う通りです。でも、何も知らないのもかわいそうなので少しだけ。元々のサプライズ計画は、私とせつ菜さんで歩夢さんを篭絡しようというものでした。ですがデートとなれば、私たちの大好きをぶつけ、歩夢さんの大好きで染まりたいんです」
「えっ、と……?」
言葉選びがロマンチックなだけで、それがデートなんじゃないの……?
「つまり特別なデート計画と思っていただけたら。ですので、歩夢さんの思う1番かわいい服装で来てくださいね♡」
「わ、分かった」
小悪魔めいた蠱惑的な表情に見つめられ、胸が高鳴りそれ以上何も言えなかった。
「おかえり、歩夢」
帰宅前、侑ちゃんに連絡すると家の前で待ってくれていた。心配してくれてたのかな、だとしたら嬉しいな。
「ただいま、侑ちゃん。わたしの方の家でいいの?」
「うん。今私の家散らかってるから」
「ごめんね、忙しいのに」
「ううん、どうなったか聞かせてくれたらそれで集中できるから」
申し訳なさもあるけれど、それ以上にわたしのことで課題の進捗が左右されることに嬉しさを感じてしまう。
恋ではなくても、侑ちゃんが大好きな気持ちは押さえられないから。止めちゃいけない、我慢しちゃいけない、だよね?
「じゃあ中に入って。それから話すね」
侑ちゃんに隠し事はしたくないから、全てを話した。2人の告白を受け入れたこと、その言葉が嬉しすぎて泣いちゃったこと、次の休日にデートすること。侑ちゃんに抱いていた思いもさりげなく伝えた。
だけど侑ちゃんは驚くことなく、全て知っていたような雰囲気で聞いていた。
「あれ、驚かないの……?」
「歩夢は分かりやすいからね。せつ菜ちゃんとしずくちゃんのことを特別視してたのは知ってたから、2人が歩夢のことを好きって言ってくれて本当に嬉しいよ。1番良い相手だって私も思う」
「1番って……2人いるのに?」
「2人なんて少ない方だよ。私はみんなのことが1番大好きだからね!」
堂々とそう言い放つ侑ちゃん。そんなところが大好きだけど、わたしだけを見てほしい――って、今までのわたしならそう思ってた。
でもいいんだ、今はしずくちゃんとせつ菜ちゃんがいてくれるから。
「……まあ、でもさ。歩夢の幼馴染みは私だけなんだからね。それじゃあ安心したから課題に戻るよ。お幸せにね~」
「うん、ありがと……って、えっ?」
そりゃあ幼馴染みは侑ちゃんだけだけど、もしかして、妬いてくれてる……?
「……えへへっ」
嬉しくて、つい笑みが零れてしまう。しずくちゃんのこともせつ菜ちゃんのことも今まで以上に大好きになったけれど、侑ちゃんの言う通り、最愛の幼馴染みは侑ちゃんしかいないから。
(大好きだよ、侑ちゃん♪)