※この作品はR-18です。

NFFサービス業務記録   作:葛轍偲刳

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絆☆2

「――最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)…!」

 

 光が咆える。轟々と唸るのは、空間そのものを抉るように高密度の魔力放射によって渦を巻く風の音だ。

 世界そのものを縫い止める最果ての槍は、空中を自在に駆けるワイヴァーンの群れをあやまたず一体残らず消し飛ばして、その眩い黄金の輝きを薄れさせる。

 

「…ふぅ」

 

 荒れ狂う風圧で後ろに跳ね上がっていたフードを元通りに被り直すと、手にしていた鳥篭を灰色のケープの下に戻した華奢な少女は小さく息を吐いた。

 

「お疲れ様、グレイ」

「ライネスも」

 

 その撫で肩を優しく叩くのは、古代中国は三国志の英傑が一人として知られる晋の宣帝こと、司馬懿の霊基を纏うライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。ロンドンの魔術協会、時計塔におけるロードを輩出する名家の一つ、エルメロイ家の血を引く姫君だ。

 一応、扱いとしてはサーヴァントという位置づけに変わりはないのだが、カルデアが同じく時計塔のロードの一角であるアニムスフィア家によって設立された組織であることを考えると、何とも微妙な立ち位置に存在している。とはいえ、あくまで本人は飄々としていて、時計塔が事実上の全滅状態にある以上は派閥やら何やらの勢力争いに意味はないと嘯いている。

 

「ほら、兄上も。もう少しグレイを優しくねぎらってやるべきじゃないか?」

「わかってるよ、そんなこと。お疲れ様、グレイ」

「はい、ありがとうございます。師匠」

 

 そのライネスにからかわれている少年はウェイバー・ベルベット。後のロード・エルメロイⅡ世ということになるのだが、また同時に彼は司馬懿の宿敵として有名な諸葛孔明でもある。この辺りは何ともややこしい。

 

「ライネス師匠もお疲れ様」

「うんうん、グレイも我が弟子も、人のいたわり方が実によくわかっているね。それに比べて兄上ときたら…」

「な、なにおぅ、お前だって、言うほど人当たりが柔らかいわけじゃないだろうがっ」

 

 私がライネスを師匠と呼ぶのは、とある事件がきっかけだ。そして同時に、それはグレイと出会う契機ともなった。以来、ライネスは私を『弟子』と呼んでくれる。マスターとサーヴァントという枠組みの中にあっても、かなり気安く接してくれる数少ない相手だ。

 歴史に名を残すほどの偉業を成し遂げた英雄英傑達に傅かれるというのは、未だにどこか慣れない。もちろん、そんな上下関係など知ったことかとばかりに傍若無人に振る舞う英雄王みたいなサーヴァントもいるけれど、逆に私の方が戸惑うほどに格式張った主従関係に徹する蘭陵王とか、ディルムッドさんみたいな人もいる。まあ、あの人達の場合は生前の逸話を知っていれば、殊更に忠義に拘るのもわからなくはないのだけれど。

 

「それはまあ、今の私は司馬懿でもあるからね。誰かさんのように指示に背いた弟子を切るなんてことになるのは御免被りたいわけさ」

「うぐっ」

 

 三国志演義ではつとに有名な『泣いて馬謖を切る』の逸話を出汁にしての皮肉に、思わず呻くウェイバー。

 

「お、お、お前こそ、そうやって人を油断させておいての騙し討ちが得意技のくせに!」

「おやおや、それはどちらに対しての皮肉かな? 司馬懿にかな? 私にかな?」

「両方だ!」

「ふむ、なるほど。しかし兄上、それは生憎と私にとっても司馬懿にとっても、この上ない賛辞だと思うよ? 何しろ時計塔の略奪公と名高い兄上に、宿敵たる諸葛孔明からの評価だからね。謀略、陰謀、策謀こそが最上の戦略だ。戦場に出るという危険を冒さずに敵を排除できるのなら、それに越したことはない」

 

 澄ました顔で悠々と語るライネスに、ぐうの音も出ずにウェイバーは沈黙する。

 実際、生前は孔明から女物の服を贈られるという挑発にも取り合わずに決して正面から戦おうとはせず、その宿敵が激務で過労死するまで持久戦に徹し、その後は仮病で油断を誘ってからのクーデターで政敵を排除し、ついには大国である魏の実権を握って最終的には三国を統一する晋の礎を築いた司馬懿の言葉だ。含蓄があり過ぎる。

 そんな二人の間に挟まれているグレイは賢明にも余計な口を差し挟まずに、むしろ微笑ましそうな表情でじゃれ合う二人の様子を眺めている。ウェイバーもロード・エルメロイⅡ世の姿の時はもう少し善戦できるのだが、それでも基本的にライネスの方が優勢なのは変わらない。

 

「…ライネスも師匠も、時計塔にいた頃からずっとこんな感じだったんですよ」

 

 私の視線に気付いて、そっと内緒話のように囁いてくるグレイが言うのであれば、これは孔明と司馬懿という二人の英霊とは関係ない昔からの光景だったようだ。

 以前グレイから少しだけ聞いた話では、時計塔にはエルメロイ教室というウェイバーの教え子たちがいて、そこでは毎日のようにこういう賑やかな光景が繰り広げられていたとか。私からすると、少し羨ましい。もし私が魔術師として正式に魔術を学ぶとしたら、そんな場所で勉強してみたいと思う。きっと楽しいだろう。

 

「あらあら、随分と楽しそうですこと」

 

 ――が、ウェイバーもライネスも、そしてグレイも。

 

「トリムマウ」

『はい、お嬢様』

「アッド」

『ヒヒヒ、油断するなよ愚図グレイ』

 

 一瞬で緩んだ雰囲気を切り替えて、油断なく身構える。傍らに立つ水銀で構成されたメイドの名をライネスが呼び、すかさずケープの下から出した鳥篭の中の礼装の名をグレイが呟く。

 

「まあ、ずいぶんと剣呑ですのね。敵の気配でもありまして?」

 

 誰が誰を警戒しているのかなど百も承知だろうに、わざとらしく小首を傾げて見せながら近付いてくる二人の美女は、まるで双子か、あるいは鏡に映したように相似形の外見をしていた。二人は二人ともにタマモヴィッチ・コヤンスカヤであり、どちらもNFFサービスのCEOである。

 まあ、カルデアではオルタという同一人物の別の側面が表に出たサーヴァントも珍しくないし、ディオスクロイや徴姉妹、あるいは女海賊のアンとメアリーのように二人組で一体のサーヴァントとして召喚される例もある。あとは夏になると水着に着替えるように霊基を変えるサーヴァントも多いし。そういう意味では、別の霊基の同一人物というのもありふれているので戸惑うこともない。

 

「あまり遊び過ぎない方がよろしいかと。特に、そこの坊やはあまり冗談が通じない性格ですから」

「うるさいっ、お前らを相手に油断なんか出来るかよ」

 

 グレイの後ろからウェイバーが言い返す。明確な敵意こそ含まれていないものの、張り詰めたような緊張感が周囲の空気を冷え込ませる。

 

「はいはい、そこまで。コヤンスカヤ、何か素材は見つかった?」

 

 とはいえ、私としてはそんな睨み合いなどさせたくもないので、さっさと間に割って入る。

 

「当然ですわ。私が土産も持たずに手ぶらで帰ってくるなどありえませんもの」

「こちらをどうぞ、マスター」

 

 二人が素材保管用の小箱をそれぞれ開けて見せると、大人の親指ほどの大きさもある竜の牙が箱の中に収められていた。さっきグレイが消し飛ばしたワイヴァーンの群れが遺したものだろう。

 

「すごい、二つも見つかるなんて運が良かったね。これでニキチッチの強化素材も足りるかな」

「ニキチッチさんのためでしたの?」

「あら、そうだと知っていれば、もっと探したのですけれど」

 

 小箱を持ったまま、二人のコヤンスカヤが私を左右から抱き締める。こうして間近から見ても顔も雰囲気もそっくりで、ぱっと見では全く見分けのつかない二人だけど、こうして抱き締められると逆にわかる。

 

「うん、そうだよ。種火はまだしも、スキルを強化するには素材の数がいつも不足しがちだからね」

 

 ふわりと鼻先をくすぐる硝煙の匂い。人類史でも近世以降に登場した銃火器をメインの武装に使うサーヴァントの数はそう多くない。すぐに思いつくのはドレイク船長をはじめとする海賊達やビリー・ザ・キッド、ノッブこと織田信長、それに杉谷善住坊さんや雑賀孫一、あとはエミヤ・オルタとアサシン・エミヤぐらいだろうか。

 バーサーカー霊基のランスロットも銃を使ったりはするし、言峰神父はロケットランチャーをぶっ放したりもするけど、それが主な武器かというと微妙だし。

 

 対人戦の殺戮技巧を、その人類種が発明し発展させてきた銃器という手段によってスキルの域にまで昇華させたのが通称『光』のコヤンスカヤ。

 逆に、その銃火器を嫌って、数多の獣を支配し使役する方向にサーヴァントとしての能力を割り当てたのが『闇』のコヤンスカヤ。つまり、硝煙の匂いが全くしない方だ。

 まあ、方向性や嗜好の差こそあれ、どちらも愛玩の獣たるビーストⅣから分かれた同一人物ということになる。この辺りはBBちゃんから分かれたメルトリリスやパッションリップ、玉藻の前とタマモキャットと似たようなものかもしれない。――ん? そう考えると逆に二人のコヤンスカヤが似ている方がおかしい気がしてきた。

 

「それならマスター、もう一周か二周ぐらいしておきませんこと?」

「ニキチッチさんのためと仰るなら、私も協力は惜しみませんわ。ほら、邪魔な連中は先に帰してしまって、私達だけでも…」

 

 考え事をしていると、いつの間にか私の顔を左右から豊満な胸に挟み込むようにして押しつけながら、誘惑するように甘く囁く二人のコヤンスカヤ。むにゅっと頬で潰れる柔らかみと、硝煙の匂いに混じって漂ってくる甘やかな香水の香りに意識が陶然と霞んでいく。

 私は別に邪魔だと思っているわけじゃないけど、グレイ達の方へと目を向ければ、何故かライネスがグレイの頭を胸に押し付けるように抱き締めていた。

 

「よーしよし、グレイ。私の胸じゃ少しばかり物足りないかもしれないけど、そこは目を瞑ってくれると嬉しい」

「え? え? 別に、拙は、ライネスの胸が物足りない、なんて…こと、は…」

 

 頬を赤らめて目を伏せるグレイがぼそぼそと蚊の鳴くような声で呟いているけど、その声量だと至近距離にいるライネスの耳にも届かないだろう。いや、それとも聞こえないようにわざとやっているのだろうか。

 

「わぁっ、なんだトリムマウ、よせ、やめろ、ボクは別にマスターを見て羨ましいなんて思ってない、思ってないったらないんだからな!」

 

 で、その横では水銀メイドの胸に抱き寄せられようとしているのを断固として拒否しているウェイバーが騒いでいる。あと、別にどうでもいいけど、そこまで必死に否定するとかえって逆効果だと思う。

 

「ああいう、自分に才能がないのがわかっているのに諦めきれずに向上心を持ち続けているタイプを見ていると、実にそそられますわね」

「それ、わかりますわ。私も、ああいう可愛らしい人間を見ると檻の中に閉じ込めて飼い慣らして差し上げたくなりますもの」

「――二人とも。私というものがありながら他の男に浮気しないように」

 

 二人のコヤンスカヤが目移りしないように、あらかじめ釘を刺しておく。ウェイバーは殺伐としがちなカルデアでは新所長と並ぶ貴重な癒やし枠なのだ。それこそ間違ってもエミヤ達のように擦れて捻くれた大人になって欲しくはない。

 とはいえ、その未来図がロード・エルメロイⅡ世ではあるのだが。それでも、素直で謙虚で可愛い小ギルから傍若無人なAUOに成り果ててしまうよりはマシなのだろうか。

 

「あら」

「あらあら」

 

 まあ、そのせいで余計に左右から私の頭を抱き締める腕の力が強くなってしまっているのだけれど、それはまあ、うん、マスターとしての役得である。すっごく柔らかくてキモチイイ。

 

■□■□■□■□■□

 

 カルデアに戻った後は、予定通りニキチッチのスキルを強化する。

 強化を受けたロシアの竜殺しの勇士はご機嫌で、早速強化したスキルの使い勝手を確かめるためにシミュレーションルームへ。光のコヤンスカヤもそれに付き添っていった。

 グレイやライネス達は休憩を兼ねた食事へと向かう。サーヴァントにとって食事というのはリラックスやストレスの緩和を兼ねた精神安定目的の嗜好品という面もあるけれど、現代の人間の肉体を依り代に憑依する形で霊基を維持している疑似サーヴァントともいうべきライネス達は、ちゃんと栄養を摂取しないと体が持たない。それこそ、人の身でサーヴァントの力を使う負荷に耐えねばならないのだから尚更のことだ。

 

 私は残った闇のコヤンスカヤと一緒に自室で今後の素材収集の計画を練る。

 人類史の神話伝説にあって竜に纏わる逸話を持った英霊は多く、幻想種の中でも特に強力な竜種に対抗する手段を持っていたり、逆に自らその強大な竜の力を使う英霊が多く含まれていることもあって、その強化に必要な竜の牙は特に不足しがちだ。

 かといって、竜の牙ばかりを収集するのに時間を費やしていては、今度は別の素材が枯渇してしまいかねない。その辺りのバランスも考えてスケジュールを組まなくてはならないのだ。

 その点、様々な魔獣を眷属としている闇のコヤンスカヤは強化に必要な素材についても幅広い知識を有している上に、敏腕秘書として綿密なタイムスケジュールを組むのも得意としている。だから、こういう時も頼りになる…はず、だったのだが。

 

「…んっ、ふ…っ」

 

 ――…今の私は何故か裸にされて、寝台の上に押し倒されている。

 

 コヤンスカヤの舌が私の肩や鎖骨や胸元をねっとりと舐めて、その手が私の胸を優しく揉みしだく。白い手が、食材の下ごしらえでもするように丁寧に柔らかく肉を揉み込み、鋭い爪の先でそっとくすぐるように乳首を刺激されると、痛痒いような痺れるような気持ち良さが走って勝手に声が漏れてしまう。

 

「先月より、また少し大きくなりましたわね?」

「そ、そう?」

「ミス・クレーンの計測によると、先月より0.4cmほど大きくなっているとか」

「いや、それぐらいなら誤差…」

「先々月からでしたら0.7cm、三ヶ月前の数値からでしたら1.2cmほど大きくなっているそうですわ」

 

 誤差でしょ、と言いかけた私の言葉に上から被せるように言われると、何とも言い返しようがなくなる。

 

「マスターの胸を育てたのは私、と他のサーヴァントに言えるかと思うと、なかなかに愉快ですわね」

「やめて。お願いだから」

 

 冗談だと思いたいところだけど、コヤンスカヤなら本気でそれを口にして他の皆を煽りかねない。

 

「それに、私の胸を育てるためにこんなことをしてるわけじゃないでしょ。あくまで、私はコヤンスカヤに負債を返済しているだけなんだし」

「そうですわね。でも、お気付きになっておられます? このところ、私が受け取る魔力の量が減っていることに」

「…え」

 

 いや、そう言われてみれば、このところ体の負担が減っている気はしていた。体が慣れてきたのかな、と、それほど気にしてはいなかったけれど。

 

「なんで?」

「その答えは簡単です。ここのところは負債の利息分だけを頂戴して、元本となる分は遠慮しておりますので」

 

 愉快そうに笑うコヤンスカヤは、私の胸に吸い付く。くっきりとキスマークが残るほど強く吸われて、思わず唇を噛む。そうしないと声を上げてしまいそうだった。

 

「溜まった負債の支払い、と、そう申し上げれば他のサーヴァントの皆様も遠慮なさるでしょう? 私とマスターの逢瀬を邪魔する野暮天は少ないに越したことはありませんので」

「いや、でも、」

「もちろん我がNFFサービスは分割払いにも応じておりますので、マスターがお望みなら何度でも、その都度お気持ち程度のお支払いで結構ですのよ? 毎週でも、毎日でも、回数を増やすことでマスターの負担を減らせるとなれば、問題にはなりませんでしょう?」

 

 ひどい詭弁だと思う。それはもちろん、一括で支払えないのはわかっているし、それは未熟な私が悪いのだけれど。だからって、こちらに何の断りもなく一方的にリボ払いに支払い方式を変更することで返済期間を延長するなんて。まるで詐欺師の所業だ。

 

 ――でも。

 

「…ぷっ」

「……」

 

 思わず、つい堪えきれずに小さく吹き出してしまった私を無言で見下ろすコヤンスカヤは怖いくらいに無表情だったけど、私は肩を震わせて笑い続けていた。

 

「何か、おかしい事でもありまして?」

「だって…」

 

 確かに、いかにもコヤンスカヤらしい悪辣さではあるけれども。

 それにはまず大前提として、その返済計画が滞らないためにはカルデアが健在で、かつ私が無事でなければならない。もしカルデアが壊滅してしまったり、あるいは私が死んでしまったりした場合には、未回収の債権は全て赤字としてコヤンスカヤの損になる。

 もちろん、コヤンスカヤとしては最初からそれも計算済みで、出来るだけ長く私から搾り取るつもりなのだと言うことも出来なくはないけれど。

 

 でも、一度は南極でカルデアを全滅させるつもりの襲撃に手を貸していたコヤンスカヤが。

 私と新所長に毒を盛って殺そうとしたはずのコヤンスカヤが。

 あの大西洋異聞帯で、オリュンポスでカルデアの前に立ちはだかって牙を剥いてきたコヤンスカヤが。

 こともあろうに、ずっと私を生かし続けることを前提にして長期のビジネスプランを立てるなんて。そして、これからも私をマスターとして、ちゃんとビジネスパートナーとして扱ってくれるつもりでいるだなんて。

 

 あの、コヤンスカヤが。

 

「…マスターが何を考えているか概ね予想はつきますが、かつての本体である私と今ここにいる私は、もちろん同一ではあってもれっきとした別物ですので」

「うん、わかってる。わかってるけど、なんだか、おかしくって…」

 

 おかしい。目尻に涙が滲むほどツボに入ってしまった。

 呆れたように小さく息を吐くコヤンスカヤが、おもむろに私の脚を左右に開いて股間に顔を寄せる。

 

「そういうわけですので、今後はマスターの身柄は債務の担保として、私の抵当権を主張させていただくつもりでおりますので、あしからず」

 

 かぷ、と。膣口を甘噛みされて背筋が震える。そのまま唇全体で啜るように舐められる。唾液を塗りたくるように、マーキングでもするかのように舌が這い回る。これって差し押さえの赤札みたいなものなのかな、などと考える余裕があったのはそこまでだった。

 

「ひゃっ!? あぁっ! ひぅぅっ!!」

 

 じゅるじゅると水音が粘っこく激しくなり、処女膜を舌で薄く削ぐようにして内側の粘膜をしゃぶられる。コヤンスカヤが舌鼓を打つように喉を鳴らす。敏感な神経の塊を直接唇で食まれ、口の中で飴玉みたいに転がされる感覚は痛み以上に強烈な快楽を伴って脳髄を焼いた。

 

「ふぁ、あぁひっ、ひぃああっっ!」

 

 ピチャピチャとわざと水音を立てて舐め回され、舌先で包皮を剝かれ直に充血した肉芽を舐め回される。優しく、けれど執拗に、ねちっこく性感を引き出してくる執拗な愛撫に、私は涙さえ流しながら嬌声を上げて悶えるしかなかった。

 

「本当に、何度抱いても初々しい反応を返してくださいますこと。そのくせ、感じやすくて感度も抜群ですし、飽きることがありませんわね」

 

 コヤンスカヤは愉しげに喉を鳴らして笑うと、私の股間に顔を埋めたまま低く鼻を鳴らす。自分の恥ずかしい部分の、それも一番汚れやすい所を目の前で嗅がれる羞恥心に、顔から火が出そうなほど頬が熱くなった。

 

「ああ、なんて甘酸っぱいかぐわしい香りなんでしょう。これがまだ男を知らぬ清純な乙女のものなどと、信じられませんわ」

「ゃ、ぃやぁ、言わないでぇ」

「人間だって飼っている猫を吸って栄養にしているのですから、私がマスターの恥ずかしい部分の匂いを楽しむぐらい許されるはずですわよね?」

 

 クスクスと笑うコヤンスカヤが、更に深く顔を密着させて陰核ごと秘裂全体をぴちゃぴちゃと音を立てて舐め回す。その度に背筋を電流のような感覚が走り抜け、目の前に火花が散った。

 

「はぁぁあっ! だめ、だめぇえええっ!! イク、イッちゃううぅううううっ!!」

 

 ビクビクと全身を痙攣させながら私は絶頂に達する。達してしまう。弓なりに反り返る私の体を、コヤンスカヤが太股を掴んで抑え込む。もう何度も私が達するところを見てきた彼女は、私が一度上り詰めてしまえばしばらく降りてこられないことも熟知しているからだ。

 

「ああ、美味しい。これほど美味なものはありませんわ」

 

 うっとりとした声で呟きながら、私の体液にまみれた唇を舐めるコヤンスカヤの顔は恍惚としていた。

 

「はぁ、はー、はー……っ」

 

 ようやく絶頂を迎え終えた私は、荒い息を吐いてぐったりと脱力する。全身汗びっしょりで、心臓が爆発しそうなほど早鐘を打っていた。コヤンスカヤが解放してくれた後も、余韻にひくつく体の震えが止まらない。

 

「ねえ、マスター」

 

 荒い息を整えていると、不意に頭上から声をかけられる。顔を上げると、体を起こしたコヤンスカヤが微笑んでいた。

 

「次は何をします?」

「次って」

「ええ、もちろん続きです。ですが、どういったプレイをお望みですか? 攻めでも受けでも構いませんし、あるいは玩具を使ってみたいとか、この際マスターのご要望をお伺いしてみようかと。NFFサービスはお客様のご要望次第でどんなリクエストにもお応えいたしますわ」

 

 コヤンスカヤは言いながら、そのしなやかな指で私の臍の辺りを撫で回す。それだけでゾクゾクとした快感が込み上げてきて、私は思わず身を捩らせた。

 

「ぁ、あの、いいよそんなの、ちょっと休け」

「マスター」

 

 優しい声で呼ばれながら、頬を撫でられて言葉に詰まる。

 

「素直になってしまえば楽になれますのに」

「……」

 

 自分でも顔が真っ赤になっていると自覚できてしまう程度に赤面しながら、私は目を逸らす。でも、コヤンスカヤは逃がしてくれない。追いかけるように私の顎に手を当てて視線を合わせてくる。

 

「ねぇ、マスター?」

 

 耳元で囁かれる甘い吐息交じりの声。柔らかな指先が首筋を伝って胸元へと滑り降りていく感触だけで背筋を震わせてしまう。

 

「どうかこれからも私を楽しませてくださいませ?」

 

 にっこりと微笑むコヤンスカヤ。その表情には一切の邪気がなくて、だからこそ性質が悪い。そのまま迫ってくる顔を瞼の裏に焼き付けるように、ゆっくりと目を閉じて私は口付けを受け入れた。

 

■□■□■□■□■□

 

 マスターの私室から出てきた闇のコヤンスカヤがコツコツとヒールを鳴らして歩く。しかし、その歩みはすぐに止まることとなった。

 

「よぉ」

 

 カルデアの通路規格は決して狭いものではない。天井は高く、横幅も広々としている。よほど大型の魔獣でもなければ充分な余裕があるはずなのだが、それでもコヤンスカヤの前で並んでいる二人の男の体格以上に、その威風と存在感は大きく見えた。

 

「征服王イスカンダルに、ファラオ・プトレマイオス。我がNFFサービスに何かご用命でも?」

 

 慇懃無礼な態度ではあるが、口調そのものは丁寧なものだ。だが、それはあくまでも表面上だけのこと。目の前にいる相手が何者であるかを理解した上でなお、彼女は自身の態度を崩すつもりはないという意思表示でもあった。

 

「おうとも、ここのところマスターが随分と世話になっていると聞いてな」

 

 イスカンダルは鷹揚に応える。口元に浮かべた笑みはその巨躯に相応しい王者然とした余裕を感じさせるもので、コヤンスカヤを前にしても微塵も揺らいだ様子はなかった。

 

「いえいえ、サーヴァントとして当然のことかと」

 

 対するコヤンスカヤもまた、悠然と応じる。こちらは一見穏やかそうな微笑みを浮かべているが、その実、瞳の奥の光は全く笑っていない。

 

「そうかそうか。とはいえ、だ。多少の貸し借り程度ならまだしも、マスターは少々抱えすぎではないかと思ってな。余からも一つ忠告しておこうと思ったのだよ」

「それはどういう意味でしょうか?」

 

 コヤンスカヤはあくまで笑みを崩さず、しかし僅かに声に警戒の色が混ざる。そんな彼女の様子を面白がるように見下ろしながら、イスカンダルは続けた。

 

「うむ、マスターは年若い娘っ子であろう。数多の戦場を駆け抜けてきたとはいえ、まだまだ未熟な稚児も同然。言い換えれば、マスターには未来がある。この先、いくらでも成長の余地が残されているということだ」

「それで?」

「傷ついた小鳥を鳥かごの中で一時保護する程度なら、まだ良かろうさ。しかし、成長途上の若鳥の翼を折ってまで籠の中に閉じ込めておけば、いずれ鳥は飛び方すら忘れてしまうであろうな。あるいは、それこそが貴様の狙いか? 愛玩の獣ビーストⅣよ」

 

 最後の一言と同時に、イスカンダルの視線が鋭くなる。その瞬間、場の空気が一瞬にして変わった。

 コヤンスカヤの表情は変わらず口元に張り付けた笑顔のまま、しかしその背後に顕現した無数の影の中からぬぅっと現れた漆黒の巨大な猛禽類にも似た魔獣が鎌首をもたげる。その目は爛々と赤く輝き、今にも獲物に飛び掛らんと臨戦態勢を取っているようだった。

 

「征服王よ。戯れはそこまでに」

 

 二人の対峙に割り込んだのは老賢王プトレマイオスだった。その手に握られた書物は人類史において最大の知の集積所たるアレクサンドリア大図書館そのものの一部であり、その防衛機構としてのアトラス院の兵器を制御する端末でもある。言葉面だけなら諌めているように思えるかもしれないが、その視線と声音からは並々ならぬ殺気が込められていた。

 

「おお、すまんな。ちと口が過ぎたか」

 

 一方のイスカンダルはまるで悪びれた様子もなく、あっさりと謝罪を口にする。無論、言葉の上での話でしかないことは明白だったが、実際にこの場で争う気がないこともまた確かのようだった。

 

「先に口にした通り、余はあくまで忠告に来たまでのこと。ここで争うつもりはない。少なくとも、今はな」

「……」

「とはいえ、マスターを黙って渡してやるつもりもないぞ、ビーストⅣよ。貴様が借金の証文を盾にするつもりでいるならば、余は征服王としてマスターの身柄を略奪し、我が帷幕に迎えるとしよう」

 

 コヤンスカヤは片方の眉を上げ、嘲るように唇の端を吊り上げる。

 

「まあまあ、さすがは征服王。国家も財貨も人材も、文化も風習も何もかもを呑み込む雄大な御方ですわね。…ああ、そう言えば王の宝具も強奪した戦利品でしたか」

 

 征服王は眉一つ動かさない。彼の宝具の一つ『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』が東方遠征の途上で手に入れたものであることは紛れもない事実である。そして、彼の王道が他国を侵し、他者から奪い、そうして築き上げたものであることも。それは他ならぬ征服王自身が認めるところである。ゆえに、その程度の皮肉に心を乱すことはない。

 

「ほう? 言うてくれるのう。が、あえて答えよう。『彼方にこそ栄えあり(ト・フィロティモ)』、小さな鳥かごの中の閉ざされた安楽になど何の価値がある? その殻を打ち破って羽ばたくからこそ、人は輝くのであろうよ」

 

 コヤンスカヤの黄金の双眸が鋭く細められる。目には見えず、耳には聞こえずとも、征服王の背後には『然り!』と叫ぶ万軍の兵士の姿があることを幻視することが出来た。

 人類史上、最高峰の軍事的才能の持ち主である征服王の言は、まさに浪漫主義の極致にあるとも言えるだろう。平穏よりも冒険を、安楽よりも困難を望む。それが彼の在り方なのだ。

 たとえどれほどの犠牲を払うことになったとしても、目の前の壁に挑み乗り越えることが何よりも重要であり、そのために全てを投げ打つ覚悟すらある。例えその全てが虚構であったとしても、彼の人生そのものが壮大な嘘っぱちであったとしても、彼は常に己の心に恥じることなく生き続けることができる男なのだ。彼が生涯をかけて目指した『最果ての海〈オケアノス〉』が後に存在しない虚構であると知っても、彼は自身の生涯を悔いたりはしなかった。

 

 当然ながら、人類の飼育・管理・調教を志向する闇のコヤンスカヤにとっては相性最悪と言って良い相手でもある。故に、彼女が抱く感情は苛立ちというよりも警戒心に近いものであった。

 

「ファラオ・プトレマイオスも同意見でいらっしゃいますの?」

「大筋では、その通りだとも」

 

 白い鬚を軽く撫でながら老賢王は重々しく首肯した。

 

「が、あえて付け加えるとするならば、吾の基準は『価値の有無』にある。檻の中で飼い馴らされ、今より成長する芽を摘み取られてしまった牙なき家畜と。時の果てを目指し道なき道を踏破せんとする挑戦的な駿馬を天秤にかけるなら、後者を選ぶのは当然であろう。商人風に言うなれば、どちらが市場価値が高いか、ということだ」

 

 征服王の後継者の一人として、かつて苦楽を共にした戦友達とさえ袂を分かった男がそう言うのであれば、その言葉には説得力がある。情を理解し、慈愛をもって接しつつも、同時に価値なきものと見れば容赦なく処断する。それは老賢王たるプトレマイオスが下す裁定なのだから。

 

「いやはや、何とも恐れ入ります。私の目論見一つにわざわざ名だたる王が揃って忠告に来て下さるとは」

 

 苦笑を漏らしつつも、やはりコヤンスカヤの態度は変わらない。それが虚勢ではなく余裕であることは、これまでのやり取りを見れば明らかだった。

 そう、あくまで忠告だ。現時点では、どこまでも実力行使を伴わない一種の牽制でしかない。潜在的には脅威であることは事実である。将来的に障害となりうる可能性も大いにある。しかし、それはあくまで未来の事象であって、今ではない。今は、まだ。

 

「ええ、ええ。ですが、もちろんご忠告はありがたく承りますとも。マスターの身を案じておられる他のサーヴァントの方々の懸念も理解しております。あまりやり過ぎるな、ということでございましょう?」

「分かっているならいい。だが、忘れるなよ、闇のコヤンスカヤ。如何に力を封じられようとも、貴様の本質は獣のそれだ。飢えを満たし、渇きを満たすためならば、あらゆる非道を働くであろう。そのことを努々忘れてはならんぞ」

 

 それだけ言い残して、イスカンダルは踵を返す。それに続くプトレマイオスは、最後に一度だけ振り返って言った。

 

「汝に祝福を、闇のコヤンスカヤ。汝の旅路に幸いがあることを願っておる」

 

 その言葉通り、彼ら二人にコヤンスカヤに対する悪意はなく、逆に善意を抱く理由があるわけでもない。純粋にマスターの身を慮った上での忠告なのだとコヤンスカヤは理解していた。

 だからこそ厄介だった。今の彼女の立場は極めて複雑だ。カルデアの味方として動くのか、それとも敵対者として立ち塞がるのか。第三者から見れば容易に判断できない。この場合、契約と言う絶対の価値基準を至上のものに置くコヤンスカヤ自身の矜持を理解できるダ・ヴィンチのような理知的なサーヴァントの方が絶対的少数派なのだ。何しろこれまでの経緯が経緯である。未だにわだかまりを解けずにいる者も少なくはないだろう。

 

「……なかなかにいやらしい手を打ってきますこと」

 

 征服王イスカンダルとファラオ・プトレマイオスの気配が完全に消えるのを待ってから、コヤンスカヤはポツリと呟く。あの二人を間接的に動かしたのが誰なのかは確認するまでもない。諸葛孔明、あるいはロード・エルメロイⅡ世。いや、この場合は征服王の臣下たるウェイバー・ベルベットと言うべきか。疑似サーヴァントの依り代として選ばれたとはいえ、個人として見るならば全く凡庸な少年に過ぎないが、だからと言って侮るのは愚かであろう。

 押し出しが弱い自分ではなく、征服王とプトレマイオスの二人を前に出して遠回しに圧力を加えてきた。自分のためではなく、マスターの身の安全という目的のためならば二人も協力を惜しまないだろうと読んでの行動に違いない。

 

「さすがは稀代の軍師といったところでしょうか」

 

 正面から力で打ち破るだけが戦いではない。カルデアに英雄豪傑は数多いが、悪く言えば脳筋で、何十手も先を見据える長期的な展望や腹の底を読み合う駆け引きとは無縁の連中ばかりだ。無論、小手先の罠や多少の搦め手など正面から踏み潰せるだけの実力があるからこその話だが。

 その中にあって、謀略や策謀を巡らす軍師としての能力に長けている諸葛孔明や司馬懿といった相手と裏で鎬を削るというのは、むしろコヤンスカヤにとっては望むところだ。彼女の好むものは『蹂躙しがいのある敵』、『潰しがいのある敵』なのである。それが未来への希望と不屈を兼ね備えた人間らしい心を持っているとなれば尚の事。

 

「ふふふ、これは楽しみが増えましたわね。本当に、人間は退屈させてくれない生き物ですわ」

 

 くすくすと嗤いながら、コヤンスカヤは歩き出す。次はどんな調教で人間を嬲ってやろうかと考えを巡らせつつ、その足取りは羽根のように軽いものだった。

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