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18禁シーンはありません。
イベントストーリーを読み終えて、ようやく2部6章でコヤンスカヤとムリアンの二人が友情を育めたのか、どうしてムリアンの為にあそこまでコヤンスカヤが体を張ったのかがストンと腑に落ちた気分。
気が付いたら我慢できずにコヤンスカヤとカズラドロップの話をAIさんに注文していた。
蝶の羽ばたき【イベントネタバレ注意】
『はじめまして、コヤンスカヤさん』
無邪気でおしゃまな満面の笑顔。あるいは、それを装っただけの仮面の裏側から相手を観察する冷徹な視線。一目それを見た時に思ったのだ。きっと、彼女と自分は似たもの同士だ――と。
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「――…マスターが行方不明?」
「そうなんです! しかもゴルドルフ新所長にカドックさんもです! これは緊急事態と言っても過言ではありません!」
目の前で困惑と不安に眉を寄せ、かたく握り締めた両手の拳を上下に振りながら力説するマシュ・キリエライトの声を聞きながら、闇のコヤンスカヤは小首を傾げた。
「マスターのバイタルは常時モニタリングしているはずでは? そちらには異常はありませんの?」
「あ」
一瞬、硬直したマシュが黙り込んだ隙に、その横から落ち着いた声がかかる。
「はい、現状バイタルには問題ありませんし、座標もカルデア内から移動していません。シバの未来予測でも特に危険な状況にあるとは判定されていません。ですが、三人揃って定時連絡も寄越さずこちらからの呼び出しにも応じないのは事実ですから。全く困ったものです。どこかで遊んででもいるのでしょうか」
アトラスの錬金術師、その六源の一角を占めるエルトナム家のシオンがにこやかに告げる。
「理由はそれぞれ違うにしても、三人がストレスを溜めやすい環境にいるのは事実だから、事前に申請なり連絡なりをしてくれていれば、別にそこまで目くじらを立てるほどのことでもないんだけどね」
さらにダ・ヴィンチも軽い口調で付け加えた。
場の雰囲気が程良く和らいだところで、コヤンスカヤは改めて問いかけた。
「それで、マスターの捜索に私の手も貸して欲しい、というカルデアからNFFサービスへの御用命でしょうか? ですが、その場合の契約権限者はどなたになるのでしょう?」
「ああ、うん。そこでマスターが心配だから探してくる、ということにならないのは、いかにも君らしいね、コヤンスカヤ」
どこまでもビジネスとしての商談としてでなければ指の一本すらも動かす気はないとばかりに冷淡な反応を示すコヤンスカヤに、思わず憤慨しかけるマシュを抑えるようにダ・ヴィンチは微苦笑ひとつでそれを軽く流した。
「もちろんですとも。確かに私はマスターのサーヴァントとして契約した身ですが、カルデアに対しては商売抜きで手をお貸しするほどの義理など持ち合わせてはおりませんので」
「じゃあ、今回は仕事にして欲しいとは言わないよ。もしカルデアのどこかで見かけたら教えて欲しい。それぐらいなら善意の協力の範疇だろう?」
正式な捜索依頼を出すほどの急を要する重大な案件ではないが、かといって放置も出来ない。そんなカルデアの状況を示すような折衷案をダ・ヴィンチが提示する。
「まあ、それぐらいでしたら」
積極的な協力こそ求めてはこないものの、もし本当に何かあった時に素知らぬ顔でやり過ごすというわけにもいかぬ程度には無視も出来ないという実に外交的な迂遠な申し出に、コヤンスカヤも仕方なく妥協する。
さらには、まだ何か言いたげなマシュの視線に、これ以上ここにいては要らぬ追及を受けかねないと判断し、ここは一時撤退するべきだと野生の本能が警告を発してもいた。
「用件は他にございませんか? それでは、私はこれで」
慇懃無礼に軽い会釈だけをして、踵を返す。背後から突き刺さる複数の視線を感じつつも、あえてそれを無視するのもいつものことではあった。
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通路を歩くコヤンスカヤは、前方から歩いてくるもう一人の自分とすれ違う。
互いに何か目配せをするわけでもなく、言葉一つ交わすわけでもなく、合図の一つもしない。互いに互いが見えていないかのように、何事もなかったように無言ですれ違うだけ。
――無論、そんなはずがない。
蟻などの社会性を持つ一部の動物は、特殊なフェロモンを獲物の場所や巣の位置を互いに知らせ合う手段として活用している。
普通の人間でも、リラックスしている時と緊張している時とでは汗の分泌量などの諸要素によって体臭も微妙に変わる。
二人のコヤンスカヤは共に同じ香水を使ってはいるが、だからこそ匂いの微妙な差異によって互いの状況を知ることもできる。人よりも鋭敏な嗅覚を持つケモノ属性のサーヴァントの中にあっても、それを嗅ぎ分けるのを可能とする者は極めて数が限られているだろうが。
闇のコヤンスカヤは、光のコヤンスカヤが歩いてきた方向へと足の向く先を変える。もう一人の自分が漂わせる残り香を辿り、さながら細い渓流の源へと遡るように通路を歩いて行く。
「――…も、お腹空いたよね? 一緒に食堂に行って朝ご飯にしよう!」
通路の角を曲がると、前方から明るい声が聞こえてきた。
「どんなメニューがあるんですか?」
「んー、と…そうだね、サンドウィッチとか、どう?」
「サンドウィッチですか」
「そう、サンドウィッチ。それも、四辺の長さが全部同じのをお願いしよう! きっと紅女将なら、そりゃもう1ミクロンの狂いもなく綺麗な正方形のサンドウィッチを切り出してくれるよ」
「し、四辺の長さが寸分の狂いもなく同一の正方形…!」
微妙に味とは関係のないところで感銘を受けたように、やや幼い少女の声がマスターと会話している。
「あとは…、そうだね、前に孔明先生から聞いたんだけど。えっと…確か、黄金比だっけ? 短辺を1に対し長辺が1.618の割合で、長い部分と短い部分との比が、全体と長い部分の比に等しい…、とか何とかの、長方形のサンドウィッチとか」
「…幾何学における黄金比率のサンドウィッチ…!」
そしてやはり料理そのものとは微妙にズレたところで感動している様子の、手を繋いでいるマスターの顔を目を輝かせて見上げている幼い少女の横顔が視界に入った時、――タマモヴィッチ・コヤンスカヤの思考は、数秒ほど停止した。
「…スカヤ? コヤンスカヤ? ねぇ、どうしたの? 大丈夫?」
ふと我に返った時、コヤンスカヤの目の前には心配そうに覗き込んできているマスターの顔があった。らしくもなく放心してしまっていたらしい。
「え、ええ。もちろん大丈夫ですとも。問題ありませんわ」
眼鏡をクイッと軽く持ち上げて目線を隠し、素早く表情を取り繕う。それでも顔を曇らせたままのマスターの気を逸らすべく、コヤンスカヤは別の話題を持ち出した。
「それよりも、マスター? 定時連絡もなく管制から呼び出しコールにも応じず、一体どこで油を売って遊んでいるのかと、可愛らしい後輩がたいそう気を揉んでいらっしゃいましたが」
「え?…あ!? いっけない! すっかり忘れてた!!」
今さらのように慌て始めるマスターは、手を繋いだままの少女に向かって申し訳なさそうに背中を丸めてみせた。
「ご、ごめん、カズラドロップ。私、ちょっとマシュとダ・ヴィンチちゃんとシオンのところに行かなきゃならないから、先に食堂に行っててくれる? 用が済んだらすぐに追いかけるから」
「ご心配なく、マスター。私でよろしければ、食堂へのご案内とマスターが合流なさるまでの話し相手も務めさせていただきますわ」
「ホント? ありがとう、コヤンスカヤ。お願いしてもいい?」
「ええ、どうぞご心配なく。それよりも、なるべくお急ぎになった方がよろしいかと」
「あ、うん。そうだね、すぐに戻るから!」
パタパタと足早に通路を走っていくマスターの背中を見送ってから、コヤンスカヤは取り残されたカズラドロップの前に丁寧に片膝を折って、小柄な相手の目線の高さと顔を合わせた。
「はじめまして、改めてご挨拶をさせていただきますわ。私はNFFサービスのCEO、サーヴァント・フォーリナー。真名をタマモヴィッチ・コヤンスカヤと申します。よろしければ、お名前を伺っても?」
「…サーヴァント・アルターエゴ、サクラファイブ。慈愛のカズラドロップです」
やや怪訝そうに一瞬だけ間を置いて、しかしそれをすぐに打ち消して、無邪気に、上品に、可愛らしく挨拶をするカズラドロップに対し、コヤンスカヤは思わず懐かしむようにその黄金の双眸を細めた。
「そうですか。同じマスターと契約したサーヴァント同士、どうかこれからよろしくお願いいたしますわ。私たちは、きっと仲の良い友人関係になれるのではないかと期待しております」
「…私を、知っているんですか? どこかでお会いしたことでもありましたか?」
差し出されたコヤンスカヤの繊手を目の前に、しかし警戒するように気付かぬ振りでカズラドロップは手をさりげなく背中に回した。そして問いを受けたコヤンスカヤは、静かに首を横に振った。
「いいえ、私たちはこれが初対面ですわ」
そう、カズラドロップはムリアンではない。
どんなにムリアンの面影があったとしても。
決して同じではない。同じであってはならない。
もし同じであってしまったら、ムリアンの孤高の裏返しである孤独は、偽物だったことになってしまう。それは、誰よりも弱い存在でありながら、誰よりも気高く一人きりで生き抜いてきたムリアンの生き様を汚すことに他ならない。
「――…ですが、私のたった一人の大切なお友達に、よく似ていらっしゃいますわ」
強い者が孤高であるのは当然だ。誰もが恐れ、距離を置き、それを仰ぎ見る。女王モルガンも、妖精騎士ランスロットも、ガウェインも。妖精國において紛れもない強者であった。
しかし、弱い者が孤高たらんとすれば、それは極めて困難だ。誰もが見下し、誰もが嘲り、誰もが踏みつける。弱いから。ただ弱いというだけで。
誰も守ってはくれず、誰も助けてはくれず、独りぼっちで、孤独に生きるしかなかったムリアンは、しかし決して誰かに守られるべき弱者などではなかった。弱者であることに甘んじはしなかった。決して誰かに庇護を求めようとはしなかった。
地球で同胞を持たないコヤンスカヤと同じように。ただ独りきりで、生き抜いてきた。その死の間際まで。ずっと。
「友達…私に、私とよく似たその誰かには、友達がいたんですか。友達になれるような相手がいたんですか」
驚きと、そして幾ばくかの羨望にも似た声がカズラドロップの喉を震わせた。そして、自分でもそんな声を漏らしてしまったことを恥じるように、顔を俯かせた。
「ええ、もしかしたらお友達と思っていたのは私だけだったかもしれませんが。それでも、今も変わらず、大切なお友達だったと胸を張って申し上げられますわ。とても誇り高く、ちょっと寂しがりやで、でも、それを隠すのが大変お上手で」
コヤンスカヤの静かな声は、まるでカズラドロップの心の在処を掌を指すが如くに正しく言い当てていた。
「友達だからと甘えたり、甘えられたりはなさいませんでした。お互いに独りであることに誇りを持っていましたから。互いに寄り添い合うような、そんな甘えた関係は望んでおりませんでしたわ。私も、そのお友達も」
「…そう、ですか。そんな、…そんな風に、お互いの肩を並べ合えるような、対等の友達が傍にいてくれたのだとしたら、」
小さい拳をギュッと握り締めて、カズラドロップは俯いたまま唇を噛んだ。
「きっと、…きっと、その誰かは幸せだった、でしょうね。きっと、最期まで…最期の最後まで、その友達は看取ってくれたに違いないでしょうから。たとえ独りではあっても、独りぼっちではなかったのですから」
「そうでしょうか。もしそうであったなら、私も報われますわ」
そうであったに違いないと、カズラドロップは確信できた。
同じサクラファイブにも親近感など覚えない。自分と同じモノだとはとても思えない。自分を生み出したBBでさえ嫌悪感が先に立つ。矛盾した不完全なAIに対する反感はもはや本能的なものである。
人間を愛するべく設計されたAIでありながら、それと同時に人間への嫌悪を募らせ続けている自分にとって、そういった好悪の感情とは無関係に、ただ傍にいてくれるというだけの存在が、どんなに心を支えてくれるものだろうか。
こうして向き合っていても、人間に対して感じるような無条件の愛情を感じない。不完全で愚かな人間に向けるべき苛立ちや憎悪を感じない。AIとしての理性と本能の双方で、目の前の存在が人間ではない別のナニカだと理解できる。そんな存在が、もし友達になってくれたのだしたら。それは、どんなに幸運で幸福なことだろうか。
「……」
「ねえ、カズラドロップ様」
囁くように、コヤンスカヤが声を紡ぐ。
「先ほども申し上げたとおり、ここでは私もカズラドロップ様も、同じマスターと契約したサーヴァントですわ。だから仲良くいたしましょう…とは、申し上げるつもりは全くございません」
「え」
思わず、反射的に顔を上げたカズラドロップは、細めた金色の双眸を爛々と光らせる獣の眼差しと目を合わせた。
「ここには様々な英霊がおりますわ。生前は互いに殺し合った者も、それゆえに今もなお反感を捨てきれぬ者も、珍しくはありません。ですから、ここでは嫌いなものを無理に好きになる必要すらないのです。嫌いなものは嫌いなのだと、はっきり言ってしまって構わないのです」
人間が嫌いなら、嫌いなままで良い。嫌悪も憎悪も、捨てずとも良い。自分もまたそうなのだから。マスターもまた、それを良しとしてくれる。それが許されるのがカルデアなのだ。
「必要なのは最低限、無闇に事を荒立てぬよう、波風を立てぬ程度に軽く表面を取り繕う程度のことですわ。私も、そういうのは得意ですから」
「べ、別に私も、そのくらいは簡単ですっ」
「そうでしょう? カズラドロップ様なら、すぐに溶け込めますとも。ここでは、人でないモノも少なくありませんから。…私も含めて」
少しの安心を僅かに滲ませた吐息を一つ漏らして、そこでカズラドロップはようやく気付いたように装って、ずっと目の前に差し出されたままだったコヤンスカヤの手を取った。
「――…私のことは、カズラでいいです。コヤンスカヤさん」
「では、カズラ。どうか私のこともコヤンスカヤとお呼び下さい」
人間が好きで、人間が嫌いでどうしようもないカズラドロップと。
人間への憎しみが高じるあまり、遂には愛玩の獣へと至ったコヤンスカヤは。
互いに手を取り合って、互いに完璧な形に整えた笑顔を向け合った。
こうして手を取り合っている今でさえ、相手が自分を全く信じていないことを互いに知りつつも、まるで断金の交を結んだ朋友のように。