???「気持ち悪い……」
その日、あのコにそう言われて――、わたくしは泣きながらあの場所へと走った。
近くの名も知らぬ古びた神社……、そこでわたくしは声もなく涙を流した。
少年「ユリ? ――またなんかあったの?」
友梨香「……貴方には関係ありませんわ」
一見すると少女にも見えるその少年は、泣き腫らすわたくしを見て隣りに座った。
彼はしばらくわたくしを眺めた後、手にした携帯ゲーム機で遊び始めた。
友梨香「……うっとおしいので、他所でやってもらえます?」
少年「う~~ん?」
彼はこちらを見ることもせず首を傾げるだけでゲーム機に集中している。
友梨香「……ちょっと! わたくしが――泣いているのに、なにか言うことは……」
少年「……やっぱ、何かあったんだね……」
彼はゲーム機から目を離すと、少し心配そうな目でわたくしを見た。
友梨香「……」
黙って膝を抱えるわたくしの頭を彼はそっとなでた。
少年「大丈夫?」
友梨香「ふん……、勝手に頭に触れないでください」
怒った表情で泣くわたくしに、彼は少し困ったような表情で――、それでも優しい笑顔を浮かべて、わたくしの頭を撫でた。
たまにここで泣いているわたくしの――、隣に彼が座るようになったのはいつからだったか?
初めは女の子だと勘違いしていた彼は本当は男の子で――、わたくしが唯一心を開く男の子だった。
友梨香「……気持ち悪いって」
少年「……そう、か」
わたくしはあのコの言葉を思い出して涙を流した。彼は黙ってそれを聞いて――、ハンカチでわたくしの涙を拭いた。
幼い頃から――、自分がなにか他とは違う感覚を持っていることは少し理解していた。
でも、そのときのわたくしは、原因がどこにあるのか理解ができなかった。
今思い出すと、幼いながらに恋愛対象の女の子に、少し普通ではないスキンシップを、わたくし自身それとわからずにしていたのだろう。
だから――、ある程度仲良くなった女の子は、わたくしの【ナニカ】に気づいて――、わたくしから距離を取るようになるのだ。
少年「う~~ん……。よくわかんないけど。なんでみんなユリにそんなコト言うんだろうね?」
彼は心底困った様子で首を傾げる。その時のわたくしも理由がわからず、ただ泣くことしかできなかった。
少年「……ごめん。僕じゃユリの悩みを解決してあげられない」
申し訳無さそうな顔で彼はわたくしを見つめる。わたくしはそっぽを向いて言った。
友梨香「ふん……貴方なんかに初めから期待はしてません」
――と、不意にわたくしの頬に彼の指が触れた。
少年「でも……、ココでユリが泣いてたら……、いつでも文句は聞いてあげるよ」
友梨香「……」
わたくしは彼を見て頬に当たる指を手で払った。
友梨香「……気持ち悪いです」
不意に口から出るその言葉――、彼はほおけた様子でわたくしを見た。
――と、わたくしはすぐに、自分が口走った言葉の意味に気づく。
友梨香「……ご、ごめんなさい」
わたくしは罪悪感に震えながら彼を見た。その時――、
少年「……」
彼は屈託のない表情で笑っていた。
少年「謝らなくてもいいよ。僕は馬鹿だから気にしないし」
友梨香「……ごめん、なさい」
自分自身が言われて泣くような言葉を、不用意にぶつけるわたくしに彼はただ笑顔を向けた。
少年「……ユリ。きっとユリのコトわかってくれるコ――、気持ち悪いなんて言わないコは現れるよ」
友梨香「……」
少年「まあ……そうでなくても。僕はいつでもココにいるし……」
わたくしはその言葉を聞いて、込み上がる涙を抑えきれずに、彼の手を取って声を上げて泣いた。
彼はただ困ったような表情を浮かべて、わたくしの頭をいつものように撫でてくれた。
今思えば――、生まれて初めて……【女性以外に恋を得た】最初で最後の事だったのだろう。
◆◇◆
友梨香「ん……?」
わたくしは進藤の家の風呂の、湯船の中で目を覚ました。
背後にいる進藤はわたくしを優しく抱いていて――、そしてわたくしが目覚めたのに気づくと声をかけてきた。
司「友梨香? 疲れた?」
友梨香「ん? 何か夢を見ていたような?」
司「? そうなの? 結構ぐっすり眠ってたよね」
わたくしは、わたくしが見たであろう夢の内容を思い出そうとする。でもどうしても思い出すことはできなかった。
友梨香「はあ……なんていうか」
司「なに?」
友梨香「慣れてしまいましたわね……。貴方みたいなケダモノにこうして抱かれるのも」
進藤は少し考えた後、わたくしに言った。
司「……大丈夫、友梨香? もう俺の事気持ち悪くないってこと?」
その言葉にわたくしは少し考えてから言った。
友梨香「気持ち……悪い……、訳では無いですわね。ただ……」
わたくしは心底意地悪な笑顔を浮かべて言った。
友梨香「わたくしは今では貴方のことを……ただのお猿さん。ケダモノ――、オトコ以下のミジンコ的存在だと理解しておりますので、少なくともオトコという枠からは外れておりますわね」
司「……ミジンコっすか」
進藤は困ったような顔で苦笑いした。
今は連休二日目の夜――、わたくしは少しだけ進藤によりかかりながら静かに目を瞑った。