異種族だらけの貞操観念逆転世界で剣を振る 作:付呂無権左衛門
長くなってしまったので分割しました。
七度目の射精後。こちらの欲求がようやく一定の収まりを見せたことで、そろそろアルジェンナのほうも発散させるかと一息を入れてベッドに座り直した時、貸小屋に侵入者――いや、来訪者が現れた。
「――ッ!」
本当に、文字通りに
瞬間的に全身が総毛立つ一方、頭のほうでは意外と冷静に何が起きているのかを理解してもいた。つい先日、決して多くはない数で、しかし心胆を寒からしめられるほど否応なしに身に沁みたことだったからだ。
「ニギレア」
「ユウヤ」
その巨体が軽く身を屈めながら小屋の中に入ってきたことで、彼女の肩が軽く上下するほどに荒立っている呼吸音が、急にこちらの耳に届き始めた。ニギレアが生み出すという遮音範囲の中に含まれたのか、単に解除したのか……あるいは強化したのか。
「お前っ」
一拍遅れて状況を理解したらしいアルジェンナが食ってかかる勢いで立ち上がりかけたのを、腰を抱いてベッドに縫いつけることで制止する。意外な一面……でもないか。これまではただネガティヴな感情表現を目にする機会がなかっただけだ。
「ありがとう、大丈夫だ」
耳元で小さく囁き、ひとまずは落ち着かせる。――落ち着くかな、どうだろう。
俺はもはや、アルジェンナがこうして先に激発しかけてくれたおかげか、一周回ってどこかおかしみを感じ始めてもいるが。それは視線をこちらに固定しているニギレアの瞳の中に剣呑な気配だけではなく、どことなく困惑の色が見えたからというのも理由の一つにあるだろうか。
しかしまあ。どういう状況だ、これは。一つだけ確かなことは、やはりこのままでは心安らかに過ごしたいなんて望みは夢のまた夢だということだな。
「……、ふう」
口に出そうになった悪態をどうにか喉の下に押し込める。代わりに、三者が押し黙っているこの奇妙な空間に仕切り直しを示す意味でも、軽く溜息を一つ。それから手を振って、小屋の天井付近に弱い光球を灯した。決して広いとは言えない小屋の中を照らすには十分な光量の、ランプ代わりの明かり。
今まで使用していた蝋燭一本の明るさでは、視界の確保という意味では問題がなくとも――この状況だと、少し嫌なことを思い出す。幸いなことに、今はちょうどよく恐怖心の大半がどこかに出かけていってくれているから、そのまま帰ってこないようにしておきたい。
「…………それで? 何か用か、ニギレア」
幾らか迷った末に出た言葉がこれ。自分でもどうかと思うが、どうかしてる状況なので仕方ないだろと開き直りたい。
いっそ、有無を言わさず襲いかかって来るぐらいのほうがまだ分かりやすかった。このあとそうなる可能性も無くはないが。しかしその場合、アルジェンナ的には寝取られた感じになるのだろうか。ガチの暴力沙汰に発展するとあまりにもこちらが不利だし、彼女の身に危険が及びかねないからもう奴隷紋の強制力も使って静かに見ていてもらうしかないが。うわそれマジで最悪な陵辱系寝取られのワンシーンじゃん。まあ厳密にはまだ寝てないけど、俺とアルジェンナ。
……なんか、余計なことを考えられる程度には余裕があるな、俺。やはり当のニギレア本人が「ここからどうしたらいいか分からない」というオーラを盛大に振りまいていることが大きいのだろうか。明かりの下で見ると、彼女のその様子はどうにも顕著に見えた。
「あ、と。えと。ユウヤは……男の子だったんだ……ね?」
口を開くと、急に忙しなく視線をあちこち――と言っても俺の体の隅から隅までという意味で――に飛ばし始めるニギレア。
「ああ。すまない、怪我だのなんだのは、嘘だ。こういうわけで、顔も声も隠していた」
「そう、なんだ……大変、なんだ……ね? ほんとに、大変……」
段々と言葉が小さくなっていったニギレアの視線は、やがて俺の顔と股間だけを行き来し始めた。再び荒くなってきた呼吸と、切なげで控えめな太もも辺りの動きが、あちら自身の股間にも意識が向いていることを伝えてくれる。
だが、何か決定的な行動に移るわけでもなく。その視線は、明確に
……あー、これ、あれか。
童貞だ。
ああ、うん。なんか、しっくりきたな……。
ニギレアのその様子に、アルジェンナも何か思うところがあったのだろう。そっと、こちらの腕に手を添えられる。
――そうだな。少し性急というか突飛な運びになったが、考えようによってはこれもチャンスだろう。
「まあ、なんだ。突っ立ってても仕方ない。こっちに来いよ」
「――あっ、ぅ、うん!」
「鎧は脱いでからな」
スケベな意味ではなく。いやたぶん、スケベなこともするけど。
俺たちが座っているベッドは冒険者向けであることを意識されてなのか割としっかりしたものだが、流石に重量オーバーだと思う。
「わ、わかったっ」
こくこくと首を何度も振って、慌ただしく鎧を脱ぎ捨てていくニギレア。日常的に着脱しているものだろうに、少し手間取っている場面すらあった。すげぇ……完全に童貞ムーブだ……。
――え、今のその足甲が倒れてビチャってなったやつ……汗……だけ、じゃないね……。
鎧を全て脱ぎ終えて。ニギレアがぴっちりとしたハイレグな肌着姿となると、その股間から足先までが完全にびしょ濡れになっていることがよく分かった。そこだけ水浴びでもしてきたのかと疑うほどである。
相当に濡れやすいほうだと思うアルジェンナでもここまでで常軌を逸した量ではないというか……あ、そもそもニギレアはホモ・サピエンスじゃないな。いや
「隣、座っても……いいかな?」
「あ、ああ」
「んっ」
嬉しい! と挙動で表しながら、
ていうか、横に来られると如実だが、改めて、デケェ……。ちょ、ちょっと怖さがぶり返してきたかも。思わず、アルジェンナの腰に回している腕に少しだけ力を込めてしまう。
せ、性欲だ。性欲で塗り潰せ……!
ちょうど横に視線をやれば、俺の顔と同じ高さにニギレアの胸がある。これもまた、彼女の身長に比例するようにデカい。巨乳とか爆乳とかそういう表現では少し的を外すような、まさに「デカい乳」だ。しかも、これでもまだかなり服に押し込められている気配がある。鎧、ハイレグ肌着ともに上乳が丸見えなデザインなのは、単なる流行りだけが理由ではなくもっと物理的な理由もあるのかもしれない。
これが解き放たれたらお前これ、それはもう……大爆発だぞ……! じゃあ爆乳じゃん。いや、違うんだ、そうじゃないんだ。今のは俺の語彙の問題で、ええとつまり……。
「ユウヤ?」
「――ああ、いや。それで……うん、どうしてここに? 鉱山町のほうを拠点にしてるんだろ?」
上から振ってきた声に意識を呼び戻され、とりあえず会話のボールを投げる。
いつの間にか、俺の右手がアルジェンナの両手に包まれていた。正直、助かる。随分と、なんだか安心する。そちらには目を向けてやれないが。
ニギレアは小屋に入って来た時からそうだが、アルジェンナにはまるで意識を向けていない。意図的に無視しているわけではない。いることは認識しているものの、マジで俺のことしか眼中にない、って感じだ。それが幸となるか不幸となるか……。
「うーんと……うん。ユウヤに、会いたくなって」
色々なことを省略したことがよく分かる間を経て、そうストレートに言われる。
しかし、俺に……?
「どうして? それこそ、俺とは一度会っただけ。話してすらいなかっただろ」
問いを繰り返しつつ「どーせ、お前がなにかトチったんだろ」と、心の中の静かな部分が、淡々と責めてきた。
だとして、それがなんなのかって話よ。
「良いことがあるって、そんな気がしたから」
……勘、ってことか?
ニギレアの中では彼女なりの情報処理が行なわれているのだろうが、これもまた言語化を省略された節がある。まあ、今の状態で話が逸れていくのは俺にとってもあまり望ましくないから、深追いしなくてもいい。あとで詳しく聞くとして……。
「ねえ、ユウヤ」
ギュッ、と。心臓が縮んだ気がした。明確に、ニギレアの声色が切り替わったと感じたその瞬間に。
いや、気のせいかもしれない。少なくとも彼女自身は意識していないだろう。
ならばそれこそ、それは俺の勘のようなものだった。一方的に貪り続けられた経験が訴える、その気配。
この世界の、
「さっき、その子と……何してたの?」
「……っ」
「なんかね……私もそれ、したい……な? いい? ユウヤ。だめ? 私、体はこんなにおっきいけど……ね? でも、だから、強いよ。お金も持ってる。あとは、えっと……うん、ね? ユウヤ。だめかな? ユウヤ」
溢れるままに言葉にしているのだろう。捲し立てられる、ある種のアピール。動物的な求愛の所作とも思えるようなそれらに示されているものは、実際にこちらが彼女へ接近しようと企てた理由の一端でもある。
うん、だが……そうなんだが……。
すり、すり、と。俺の頭に顔を擦りつけてくるニギレア。同時に、深い意図はないのだろうが、こちらの首から肩にかけてその大きな手が添えられていた。
おいおい……奴隷とその主ってわけでもないのに、いきなりスキンシップ過剰じゃないか? いや密着するほどの近さで座ってる時点で大差ないか、はは……。
「ニギレア様っ」
不穏なものを感じたのか、咄嗟にアルジェンナが声をあげたが。
「アルジェンナ、許可するまで喋るな。何もするな」
「っ!」
流石にね。ここは俺の踏ん張り所だから。ニギレアに制御できない刺激を与えたくないし。
アルジェンナには本当に、色々と悪いが。ただ、今はごめん、だ。
なにより、客観的に見れば、俺たちにとっても相当に都合のよい話の流れだ。
だからあとは、まあ俺の気持ち一つさ。
どエロい体をした女二人にみっちりと挟まれていながら……さっきまでの威勢はどうしたんだと思わず怒鳴りつけたくなるほど哀れに縮こまっている俺の股間の剣を、どうにか奮い起たせるだけ。それに、別になんでかんでこれを使わなければ切り抜けられない状況でもないだろうしな。
「ニギレア。その前に少し、話をさせてくれ」
自傷癖は無いんだけどね。ほんと。クソ……。
◯◯◯
アルジェンナには別のベッドへ――今さらだが、この小屋には三つのベッドがL字形に並べられている――移動してもらって、改めてニギレアに正面から向き合って。
最初にアルジェンナにも話した内容を、さらに掻い摘んで話した。
俺の嗤える
こうなった以上は、こちらの都合に巻き込みたいこと。そのために一種の運命共同体、仲間と呼ぶべき関係性になってほしいこと。
要するに、力関係としてはほとんど一方的な庇護を求めたのだ。そればかりか、これまでの生活を捨てることさえ暗に求めている。それこそ、奴隷でもないというのに。
あまりにも身勝手な話だと思う。客観的に見れば、俺という報酬があるとは言え。
「うん、いいよ」
はたして、先ほどまでの獣のごとき雰囲気を雲散霧消させて、ニギレアは柔らかく微笑んで見せた。
そして、力強く俺を抱き締める。
「本当に、大変だったんだね。頑張ったんだね。ユウヤは……すごいね?」
……急に年長者ぶるじゃん。
当たり障りのない慰めの言葉。俺は他人の過去を一括りに「頑張った」と形容することをなんなら前世の頃から嫌っていたし、誰かから自分に向けられればきっとほんのりと苛立つだろうと思っていた。
けれど、それが間違いなく彼女の本心からまろび出たものであり、決して、たとえばこのタイミングで俺の好感度を稼いでやろうとか、そんな邪推をちらりとでも思い浮かべてしまうような俺とは違って、純粋な労りの思いから発せられたものなのだろうと否応なしに理解できれば、そんな気持ちが沸くはずもない。むしろ心地よくすらあった。……クソ。クソが……。
「これからは私が……ううん。私
そう言ったニギレアが、俺の背後、黙したままこちらを見ているのだろうアルジェンナに向けられていることは想像に難くなかった。
「アルジェンナ」
ニギレアの腕から脱して、彼女を呼ぶ。
「先ほどの命令を解除する。手荒だったな、すまん」
「いいえ、私が軽率でした」
「……重ねて、すまん。……また少し、見ていてくれ」
俺が耳元でそう囁くと、アルジェンナは華やかな笑顔を浮かべた。
「ご主人様が謝るようなことは、なにも。――ご主人様の気を煩わせたのはニギレア様の方なのですから、お返しとしてご存分に躾けて、手籠めになさいませ」
彼女のそれもまた、飾らない本心なのだと思われた。
しかし、ちくりと刺していないか、それは。背筋に少しだけうすら寒いものが走りかけた俺だったが、しかし。
「彼女はきっと、私に近いものを抱えていますよ。ほら、私が少し過激なことを言っただけで……あれほど凛々しくされていたのに、今はもうご主人様に嬲られるのを、今か、今か、と……」
再度ニギレアに目を向けると、アルジェンナの言う通り、明らかに発情した女が息を荒げながらこちらを見つめていた。瞬間的に愛液が溢れているのか、肌着は元よりベッドの上もすでにぐっしょりと水分を湛えている。
放っておいたらそのままオナニーでも始めそうなほどだが……なぜか、と言っていいのか。そのような気配はない。
「性技については、ご教授いただいている私に一日の長がありますから、そちらは私がニギレア様にお教えすることも可能かとは思いますが……今夜は是非、ご主人様が、手ずから」
「あ、ああ……うん。わかった」
なんか、やっぱり怖いな。この世界の女。
なんだかんだと擦り切れて適応していたその方面の倫理観が、ここ最近のアルジェンナとの交流によって俺の人間性の根幹にある前世のものへ徐々に戻りつつあったような気もしていたんだが……逆に突き放された気がしないこともない。
「……うん」
よし。やるか。
◯◯◯
【
エイルヴの雌性体は、俗に「愛液」と呼称される体液の分泌量が極めて多い。
性交の機会が非常に限定的なため、最大限に活かすように進化してきたからだと考える者もいるが、仮説の域を出ない。
また一説によれば、アール神の女性器から溢れ出た愛が大地に染み渡った結果、現在のエイルヴ首長国が収まる大森林を生み出し、その森の木々の根からエイルヴの祖が誕生したとされている。