※この作品はR-18です。

異種族だらけの貞操観念逆転世界で剣を振る   作:付呂無権左衛門

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006_山麓にて-1

 

 新しい朝が来た。希望があるかどうかも分からない朝だ。

 さーて今日こそ元気に魔物狩り(ファイト)一発やっていこう!

 

「ん゛……♡ ん゛ぐっ♡」

 

 自分の心を奮い立たせるように腰を震わせながら、ドグ……ドグ……と、アルジェンナの口の中に朝の――三番絞りを流し込んでいく。

 昨日も宿に帰ってきてから、それと寝る前にもしっかり出しておいたから今はとりあえずこれで十分そうだ。ふぅ、やれやれ。……クソが……。

 

 

 ○○○

 

 

 早朝と夕方に、セルン西の街道を冒険者向けの馬車定期便が行き帰りしているそうだ。昨日、怪我を負った冒険者グループが乗っていたのはまた別口で、あのあと更に定期便らしき数台が俺たちを追い越していった。あと普通の通行人(馬車)も。

 俺たちはこの定期便を利用せず、徒歩で西の山脈の麓まで向かう。これは見知らぬ者たちと狭い馬車に押し込められることで発生するかもしれないトラブルを避けるためと、単純にアルジェンナの身体作りのためだ。

 片道おおよそ3時間、つまり約15kmの道のり。6時に出て、9時に着く。休憩を兼ねつつ昼飯を調達し、午後も狩りまたは修行に費やし、15時頃にまた向こうを出発すれば日が落ちきる前には戻ってこれるだろう。うーむ、あまりにも完璧な計画だな……アルジェンナの疲労がどの程度になるかが未知数だという点に目を瞑ればよォ~。

 いや、実際のところ純粋な魔術師(成り立て)の体力とか知らん。なので、その確認も兼ねている。物は試しよ。最悪、俺が背負ってダッシュで帰ってくることぐらいはできるだろうし。冒険者としては新米だが柔な鍛え方はしてないのだ。

 

 はー。今日は何かマトモなものが食いたいな。

 最近は携帯食料ばかりだった。外で食事ができないから、作り立ての料理をしっかり食べようと思ったら自分で用意するしかない。宿の食事だと、そもそも不必要な関わりを生むこと自体がリスクだから作ってもらって持ち込む、みたいなのも可能な限り避けたいし。

 素性を知らせている奴隷商人モーラに台所でも貸してもらおうか……? 師匠からは困った時に頼れと言われているが、これは困った時にカウントしてもいいものか。

 

 とりあえずそういうわけで、今のところちゃんと飯を食おうと思ったら狩りのついでのキャンプ飯のみなのだ。

 

「……」

 

 真剣な顔で水球を睨んでいるアルジェンナの横顔に少しだけ視線をやる。クククッ……数世紀先の調理技術で度肝を抜いてやるぞ……いや、知識相応の調味料や調理器具や食材が揃うわけもないから出せるのは時代相応だな……クッ……。

 

 あ、そういや肝心なことを聞いてなかった。

 

「アルジェンナ、嫌いな食べ物はあるか?」

「え? い、いえ……特には……?」

 

 まーそうか。好き嫌いとか言ってられんわな。ましてや元は平民出の侍女、下級使用人だという。いくら貴族の家で働いていたとはいえ、あまり大したものは食べられていなかっただろう。が、それを踏まえても一点確認しておかなければならない。

 

 進む足を止めて、少し河川敷に降りていく。

 

「では、このハーブも食えるのか?」

 

 とある植物の葉を適当に毟り取って、アルジェンナに示す。

 このハーブ、どこでも育つのだが、割と人を選ぶ味なので食材としてはそれほどメジャーではなく、他のハーブ類に完全に人気負けしている。俺は好きなのだが。むしろ超々大好き愛してる、なのだが。

 地球の植物に当てはめると、カラシナ系の味だ。ツンとした辛味がかなり強い。だから人を選ぶのだろうが……正直こいつが手軽に食えるポジションにいてくれなかったら、俺の精神は完全に崩壊していたかもしれない。

 

「あ、フィアレジアですね。子供の頃はよく食べていましたし、その……好みです」

 

 言い淀んだのは、俺がどちらかなのかを気にしたのかな。聞き方が悪かったな。

 

「そうか、俺も好きだ。じゃあ、今日の食事にはこれを使おう。いや、毎日使おう」

 

 ほんじゃ、今のうちに根っこから引っこ抜いとこう。本当にどこにでも生えてるし不人気寄りではあるが、流石に人の多いだろう宿場町や狩り場で探すと見つけられない可能性もあるからな。

 いっぽーん、にーほーん、さんぼーん……。土を払い落として布に包んで背嚢に入れて、と……。

 

「――ん。どうした?」

 

 振り向くと、アルジェンナが少し呆けた表情でこちらを見ていた。

 

「い、いえっ。なんでもありませんっ」

 

 慌てて首を振ったあと、彼女はわずかに頬を赤らめながら微笑んだ。

 ……マジでなんだ? 別段、人の心が分からない鈍感王を気取るつもりはない。だが、それでも昨日改めて自覚したように、このユウヤ、普通に対人経験がカスである。些細な機微については普通に知見が足りていなかった。結果的に気づかなかったのと同じことでは?

 

「そうか。……行くぞ」

「はいっ」

 

 横に並び直したアルジェンナの足取りは、心なしか軽やかだった。

 うーん……?

 

 ところで。

 この一連のやり取りの間、アルジェンナは魔術で生み出した水球を維持し続けている。

 こいつ、俺より成長早くねー……?

 

 

 ○○○

 

 

 セルレイム西方、南北に連なる長大な山脈の名をパインスラーグという。

 人類の文明が高度に成長していけばこの山々から齎される資源価値も低下していくのだろうが、それも最低で数百年、あるいは数千年後の未来の話だ。我々が「山」という母の乳房から離れられる日は、未だ遠い。

 ――などと、到着したセルン最寄りの宿場町の人の多さを見て、半ば現実逃避気味に思いを馳せていた。宿場というか、まあ自活している普通の町だな。全体の人口も1000人を下らないだろう。

 

 簡素な門の近くで警備している歩哨に冒険者証(メダル)を示してから、町の中へ進んでいく。

 来る途中も荷馬車やら通行人やら衛兵の巡回やらとすれ違ったり追い越されたりしていたので、無意識に相応の賑わいは想像はしていたが……予想の10倍ぐらいの規模だった。

 こちらに行動拠点を置いてもいいかもしれない。様子を見て検討しよう。セルレイム領都(セルン)に比べれば明らかに田舎ではあるが、はっきり言って五十歩百歩。便座暖房ウォシュレット付きトイレが存在していない時点で、俺からすれば生活水準など原始時代とほぼイコールだ。クソしたくないわよ。

 

 しかしまあ……肉体労働者の比率が高いからだろう、セルンと比較しても薄着の女が多いこと多いこと。普通に上半身裸で汗を拭っている様は、見慣れていないとまでは言わないが俺の活動限界を早めるので目に毒だ。

 そこかしこから聞こえてくる金属を打ち鳴らす音に耳を傾け、立ち上っている煙を目視し、鼻腔に滑り込んでくる匂いを嗅ぎ分け、町のどこで何を作っているのかを想像する修行(遊び)で気を紛らわそう……。まったく、パンを焼いている香りだと分かってこんなに嬉しくないことがあるなんて、前世の俺には到底想像できなかったな。今はもう骨身に染みてる、悲しいことに。

 

 大通りを抜け、段々と建物や人の往来が少なくなっていき、麓の森の手前、切り拓かれた広場に辿り着く。

 キャンプ場、前哨地……どっちでもいいので、間を取ってキャンプ地とする。そこには悠々と休憩していたり、本日の獲物だろう魔物を捌いていたりする冒険者たちの姿もあった。

 俺たちもまたキャンプ地の隅の一角に向かい合わせで腰かけ、ようやく一息ついた。ヘルムを外せりゃ最高だったが。潜めた声ならばともかく、顔立ちは普通に判別される距離だ。

 

「足は大丈夫そうか?」

「はい、問題はなさそうです」

「一応、風に晒しておけ」

 

 昨日の散歩の行き帰りでも今日と同じぐらいは歩いていて、その時点では特に何も無かったが、念のため、な。

 アルジェンナは素直に従ってブーツを脱ぎ、さらにこれまた俺の指示で三重に履いていた靴下を外して、ようやく足先の素肌を外の空気に触れさせた。それを交互に手に取って、観察する。見た目、感触……異常なし。

 

「確かに、問題ないな」

「ぁ、はぃ……」

 

 ……なんだその反応……? チンポしゃぶっといて何を恥ずかしがってんだ。

 まあいいか。

 

 アルジェンナから意識を逸らし、それとなく周囲を観察する。今も合計で十人程度が屯しているが、これから昼時になればさらに増えそうだ。

 飯を作って食うとしたら、山の中に入ってからでないと難しそうだな。けどなー、アルジェンナがいるからなぁ。ギルドで確認できたこの周辺に生息する魔物の情報を信じるなら、俺一人でなら対処に困るレベルのものはいないが。

 つくづく、彼女のやる気は誤算だった。ただ、誤算は良い方向にもあったのが幸いか。見ている限り、アルジェンナは魔術師としての才能が本当にありそうだ。彼女の成長が確かなものになるまで俺が我慢する、というのは十分に選択肢に入るが……。

 

 ――などと。

 意識を散漫にし始めたところで、アルジェンナが目を見開いて大きな驚愕を露わにしていることに遅まきながらに俺が気づいたのと、それは同時であった。

 

「ねえ」

「――ッ!?」

 

 突然、後ろから声をかけられた。

 飛び跳ねるようにして、アルジェンナを背に庇える位置に。

 そして剣の柄に手をかけ――こそしたが、辛うじて抜き放つのは押さえられた。

 

 なん、だ――こいつ……!

 いつの間にか、本当にいつの間にか後ろに立っていて、今は膝を着いた俺が正面に見上げる相手。体勢の差を加味しても明らかに向こうが巨大な……身長はおよそ2メートル……オドゥ(牙の種族)――いや、エイルヴぅ(耳長ぁ)……? このナリで……!?

 エイルヴといえば、線の細い者が多い。だが目の前のこいつは、その身長に相応しいだけの体格を備えている。あちらこちら、なにもかもが、デカい。奴隷商人のモーラも乳はバカみてぇなデカさだったが……。

 

「……」

 

 こちらが立ち上がってみても、少しだけ見上げる形になる。俺は約180cm程度なため、当然の構図だ。

 

「あ、ごめん。驚かせちゃった……ね?」

 

 ぼうっと喋りながら、微かに首を捻る謎の巨女。

 容姿を遮るようなものこそ被らず、また乳の上半分を女らしく丸出しにしてこそいるものの、それ以外は俺と比較しても明らかに重装甲。金属製の防具でガチガチに固めたその装いは、どこぞの騎士様かというもの。

 つまり、有り得ない。

 特別に騒々しいわけでもないこの場で、音も無く背後に立たれて、挙げ句に声をかけられるまでまったく察知できないなど、有り得ない。ましてや、ほんのちょっと前に周辺を確認したばかりだぞ?

 ギフト? 魔術? あるいは純粋な技術? 分からない。分かっているのは、明らかに格上の強者であるということのみ。

 

「ええっと……。怖くない……よ?」

 

 んなわけあるか、ボケがぁ……!

 

 剣士としては完全な不覚を取り、男としても体格で負けている見知らぬ女に何をされてもおかしくないターンを与えてしまっていたという事実を前に、俺は心の中で精一杯の罵倒と威嚇を繰り出すのが限界だった。

 はー、クソ! ほんまクソ!

 

 

○○○

 

 

【魔術の適性】

 魔導の深淵に向かう道を進む者たちの前で「魔術の適性」などと大雑把な表現を用いれば冷笑を免れないが、多くの平民は「強力な魔術を使えるかどうか」以上の意味を解さずにそう表現する。

 ゆえに、生活に余裕のない者たちの間では魔導の門を叩く権利が与えられた子供たちが生まれたとて、彼らの基準において納得できる才能やギフトを同時に持たなければ、将来性に賭けて大成する保証の無い鍛錬にかまけさせることなどほとんどない。

 

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