※この作品はR-18です。

異種族だらけの貞操観念逆転世界で剣を振る   作:付呂無権左衛門

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007_山麓にて-2

 

「おい、ニギレア! また新入りをビビらせてんのかぁ?」

 

 眼前の巨女に対する警戒と緊張を緩めさせたのは、その向こうから投げかけられた言葉だった。

 声を上げたのはこのキャンプ地に最初からいた冒険者の一人で、彼女は呆れを全身で表現しながらこちらにやって来た。

 

「お二人さん、いきなりで驚いただろうが、こいつに悪気はねぇんだ。許してやってくれや」

 

 そう言って、ガンガンと自らがニギレアと呼んだ巨女の肩甲(ポールドロン)を指で叩くフィルダン(人族)の女。

 全体的にぼうっとした何を考えているのか分からない表情を浮かべている当のニギレアだが、隣の冒険者の言葉に応じて心なしか申し訳なさそうにしているようにも見えた。

 

 彼女らの様子から特段の危険は無いと判断したのだろう、アルジェンナが俺の横に立つ。

 

「いえ、こちらこそ。少々……過剰な、反応でした」

 

 いいよ、アルジェンナ。こっちは気にしなくて。

 実際ちょっと俺がビビりすぎた。

 

「それで、何か御用でしょうか?」

「うん、初めて見た人たちだったから。何か困ってることは無いかな……って」

 

 俺が言うのもなんだが、明らかに人付き合いが苦手そうな雰囲気を感じる女だ。だというのに、その言葉は淀みなく。確固たる自我と実力に裏打ちされた、ある種の自信――いや、ただの正確な自己認識か。それが芯にあるのだということが窺えた。

 こちらが質問の意図を捉えかねているのを見て、横の女がまた口を開いた。

 

「あー、妙に感じるかもしれないが、こいつ、ニギレアはこういう奴なんだ。趣味の世話焼きというか……実際、この辺の若い奴らの間じゃ、何かしら助けてもらったことのない奴のほうが珍しいぐらいでな。無理矢理に貸し付けてやろうってわけじゃないから、安心してくれ」

 

 ちなみにアタシの名前はドロテ、よろしくな。と、その冒険者は締めくくった。

 彼女の説明を鵜呑みにすれば、ニギレアは実質的にこの辺りの冒険者のまとめ役、顔役といったところか。

 実際、エイルヴ(耳長族)ってこういう気質の奴が多いらしいんだよな。長命ゆえになのか……遊びに来た孫に食い物を出し続けるお婆ちゃんか? さらに悪心を抱くような者も少なくて――無論その数がゼロというわけではないが――コミュニティの中で信頼されやすいとか。

 

「ちょうど昨日、新人連中に重傷者が出たばかりなんだよ。そこにまた新しいのが来たから、居ても立ってもいられなかったってことさ……だろ?」

 

 ドロテの言葉に、うんうんと首を振るニギレア。

 なるほどね……。昨日見かけた奴らか。この感じだと、治療はこちらで終えて後送されているところだったっぽいな。

 

「――お気持ち、大変ありがたく。何か困ったことがあれば、お声がけさせていただきますね」

 

 アルジェンナの返答は、迂遠な拒否。

 いずれ本当に頼りにする機会はあるかもしれないし、恐らくは金級以上の高位冒険者だろうニギレアとの関係値自体は欲しい。だがこうも急速な接近は求めていない。制御しかねるからな。

 うん、いい塩梅、いい判断だぞ、アルジェンナ。昨晩、他者と会話する時のパターン分けや認識合わせに時間を割いた甲斐があった。

 

 実質的なお断りを受けたことに、これから頼りにされるのだと考えているのが丸分かりな様子で満足そうに頷いているニギレアは気づいていないだろう。だが、隣のドロテは真意も察していて、それが少し興味を引いたようだ。

 

「ニギレアはこれでも金級・三位だ。それぐらいの奴にイロハを教えてもらえる機会なんて、他じゃそう無いぜ?」

 

 やっぱ金級かよ。

 それがいきなり後ろに立ってたの? コワー……。

 

「お気遣い、大変ありがたく。ですが、こちらの……ああ、すみません申し遅れました。私はアルジェンナと言います。こちらの御方、ユウヤ様の奴隷としてお仕えしております」

 

 ペコリ、とアルジェンナが頭を下げたのに合わせ、俺も軽く会釈しておく。

 

「ユウヤ様は冒険者としての活動こそつい先日始められたばかりですが、過去数年間に渡って銀級冒険者の方に師事しておられ、そのお師匠様からも自身に比肩すると見込みをいただき、独り立ちされております。今は私がその教えを受けている身なのです」

 

 これは、開示してもよい情報。少しだけ実態とは異なるが。

 そもそもこの辺の事情は無理に隠さなきゃいけないようなことでもないし、変に勘ぐられてもっと面倒くさい隠したい事情のほうに気づかれるよりは断然いい。

 

「へぇ~」

「…………」

 

 素直に納得、といった様子で頷くドロテとは対照的に、朴訥とした雰囲気を維持していたニギレアの目つきが途端に鋭くなった。俺を値踏みするような視線が全身を這い回る。

 うっそだろお前、まさかこれで戦闘狂タイプ? 銀級相当の実力なんてそう珍しくもないだろ! いや、それとも「私の教えを受けなくても問題ないか、試してやる」的な? 小さな親切、余計なお世話ぁ!

 

「不思議。なんでそのヘルム……被ってるの?」

 

 ああ、そっちか。

 なるほど、初心者だと思って一時はスルーしてた部分が、それなりに使()()()()だということで気になったのか。

 

 俺は顔を隠すために金属製の兜(フルプレートヘルム)を被っているが、外套で覆っている首から下はむしろ軽装だ。胸部周りを誤魔化すために革鎧を身に着けているが、全体的なフォルムがヘルムに見合った金属鎧でないことは外套の上からでも分かるだろう。あとさっき剣を抜きそうになった時にちょっと見えただろうし。

 つまりニギレアは「なんでそんな中途半端な装備なの?」と聞きたいわけだ。

 これは「下も金属鎧にしろよ」という意味――ではない。この世界特有の事情が絡んでくる話である。

 

 魔物を素材として作られた防具は、元となった魔物の強さと魔力量に比例して、物理的な実存に寄らない防御力を装備者に提供する。簡単に言えば防具の性能に応じた「魔術的なバリア」が装備者の肉体全体を守るのだ。なんでもアリか?

 いや、もちろん限度はあるし、物理的に存在している部位で防御したほうが圧倒的に硬いが。それでも、極端な例を挙げると、ただの純粋な鉄製の鎧と超強力な魔物(ドラゴンなど)の素材から作られた下着同然の鎧(ビキニアーマー)とで比較した時、前者の胴体をちょうど両断する一撃を後者の剥き出しの腹に打ち込んでも余裕で耐えられてしまうのだ。

 防御力、つまり「防具の力」がそのように担保されるこの世界では、物理的な身軽さが重要視されがちだ。

 

 それを踏まえ、先ほどのニギレアの言葉少なな質問を完全に翻訳するとこうなる。

 「その兜は特に強力でもなさそうだし、全身鎧でもないのに、リスクとリターンが見合ってなくない? それなりの防具を用意できる実力があるのに、何故そんな不便なものだけ被っているの?」と。

 

 そういうお前こそガチガチに首から下を金属製鎧で固めてるじゃねーかと言いたくなるところだが、彼女の場合はつまりそれだけ性能が良い防具なのだろう。ゴーレム系から採った魔力系金属類かな。自前で素材を用意したにしても、買うだけの資金力があるにしても、どっちだとしても怖いわ。

 ドラゴン素材のビキニアーマーを例にすると、それは端材とかで作るやつ。だとしてもバカ高いだろう。ましてやドラゴン素材をふんだんに使ったガチガチの防具があれば、まあ世界最強の領域であることは間違いない。

 

 さて、まあヘルムについて何かしら突っ込まれた時の回答は、テンプレートが用意してある。領都(セルン)で被っていた設定の詳細だ。

 

「……ユウヤ様は、以前の戦いで顔を大きく負傷されて、その傷を隠しておいでなのです。また、喉も同じく傷められており、人前で声を出すことを避けられています。ゆえにこうして、私が代わりに応対しております」

 

 食らえ、悲劇の真実開帳攻撃!

 本当にそういったハンディキャップを背負っている者も世にはいるだろうことを想像すれば多少の心苦しさもあるが、俺の身の安全が最優先だ。

 

「ですからユウヤ様のヘルムは、戦いとはまた別の理由で、どうしても必要なのです」

 

 新米冒険者ユウヤがヘルムの奥に隠していた悲しい設定(秘密)を語るアルジェンナの表情は本当に辛そうで、奴隷の身とは言え信頼している主人の恥を語ることに心を傷ませている――という演技が実に完璧だった。まさか昨日からの仲だとはとても思えない。

 多才な女だ。サイコーだぜ、アルジェンナ。

 

 ぶっちゃけニギレアの質問には答えてるようで答えてないのだが、別のインパクトを与えて話題を逸らす詐術の基本である。

 

「……ごめん」

 

 隣で聞いているだけでもバツの悪そうだったドロテに肘で突かれ、こちらも予想外の回答がされて呆気に取られていた様子だったニギレアがぽつりと謝る。

 大丈夫だ、気にしていない。――そんな感情を乗せて、軽く頷いておく。

 完璧な演技を魅せたアルジェンナの手前、俺の大根演技でボロが出ないか少しばかり心配だが、まあこれぐらいなら大丈夫だろう。

 

「あー……まあ、困ったことがあったら気軽に相談しろよ! ニギレアだけじゃなくて、アタシも力になるから」

 

 ほれ行くぞ、と、ニギレアを引っ張って去っていくドロテの言葉にも、嘘は無いように思えた。

 そして、新人を助けたいという気持ちも本心だろうに、地雷を踏んでしまったと気落ちしているニギレアの後ろ姿は、それでもデカかった。

 騙してしまって悪いが、死活問題なのでな。しかし、気の良い奴らだな。冒険者なんてもっと酒! 金! 男! で、実際は酒以外をろくに手に入れられないどうしようもない連中だと思ってたし、そう聞いていたが。師匠が隠居してから数年で何か事情が変わったのだろうか。それともあの二人が特別なだけか。

 

「驚きましたね」

 

 隣合わせに座ったあと、曖昧に濁された言葉を溢すアルジェンナに頷きを返した。

 実際ぶったまげたよ。こうして改めて落ち着くと恐怖が足先からジワジワと登ってくるようだ。

 

 

 ニギレア、あれが善性の存在だったから良いものの、そうでなければ。あるいは、俺が男だと知られていたら。他人の目があるからと無意識に油断してしまっていたのか。

 別に、冒険者だからって絶対に他者への危害を加えられないというわけではないのに。

 

「――ご主人様」

 

 外套の上から、アルジェンナが手を重ねてきた。

 ……少し、驚いた。思えば彼女の方からこうして何かアクションを取ってきたのは初めてだ。昨日も、今日の朝も、結局性処理は俺が主導で始めていたし。

 いや、そもそも出会ってまだ一晩しか経っていないのだから、新しいことなど次々あって然るべき。奴隷と主人、そのある意味ではシステマチックな関係に安堵しすぎていたのかもしれない。

 

「私が必ずお守りします」

 

 ――――馬鹿たれい。守らなきゃならないのは俺なんだよ。主人と奴隷だぞ? 連邦法を知らんのか?

 けど。気持ちはありがたく貰っておくし、別のところでは甘えさせてもらうよ。そこは今さらだしな、マジで。

 とりあえず擬似的に命の危機を感じたのと、こうして女が身を寄せてきているからか、股間にパワーが溜まってきてしまったのだが、どうしよう……。

 

 

○○○

 

 

 間もなく昼時。俺とアルジェンナはパインスラーグ山脈、麓の森の中にいた。

 結局、昼飯にマトモなものを作って食うのは断念した。ニギレアの隠密の手段が不明であり、不意に近付かれでもしたら察知できなさそうだったからだ。

 付き合わせるアルジェンナには悪いと思うが……クソッ、視線を向けたら乳の膨らみが……揉みてぇ……挟みてぇ……。だー、クソクソクソ……。

 

 今は森の浅瀬をぶらつきつつ、食事なり調薬なりに使用できるものを見つけ、アルジェンナにレクチャーしている。

 植生は俺が師匠と暮らしていた山とそう変わりなかったから、教えられることは多い。

 あとは適当な魔物を見つけられればと思うが、そちらは今のところ本腰は入れていない。

 

 

 アルジェンナのことを思えば、魔物との遭遇もそう楽観できるものでもないのだが、一応の対策として森に入った時に外套を交換している。

 俺の外套はそこそこの魔物素材が用いられており、一般人に毛が生えた程度の冒険者が装備していても、少なくともこの辺りに出没する魔物から3分間ほどタコ殴りにされたところで命に別状はない……はずだ。これがあるからニギレアは余計にヘルムが気になったんだろうな。

 まだ金には余裕があるし、早めにアルジェンナ用の装備も買っとくか。でもあんまり実力不相応の装備とか着けてると面倒くさそう……だけど、それこそ命には代えられん……が、その観点からも却って逆効果の可能性も……ウーン。

 お。

 

「このキノコは食用にできる。採っておけ」

「はい。……――――すん」

 

 あ、こいつ、しゃがむのに合わせてさり気なく外套の匂いを、俺の匂いを嗅ぎやがった! こ、このドスケベ女がぁああああ! 俺が今どんな思いで……いや言ってないし、悟らせちゃいないが! そりゃ命の危険もある場所で肝心の命綱がムラムラしているとか余計な不安を与えるだけだからね、隠し通すよたりめーだろ。そういうもんだと最初に説明したから察してはいるかもしれないが。

 ていうか、冷静に考えたら消臭剤の匂いだろ、それ。はー無駄なえっちムーブご苦労さん。いやそうとも気づかずに純粋に俺の体臭を求めていると考えたら……あっ、あっ、上から見ると谷間が、膝との間に挟まれて……。

 

 クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 どうにか目を離し、周囲の警戒に意識を割く。

 そうだよ、まずこうしなきゃだろ……クソボケ性獣め……いつまでソロ気分だ……。

 反省しつつ、アルジェンナに背中を向け――――飛び跳ねた。

 

「ッ!??!?!!?」

「あっ」

「ご主人様!?」

 

 こッ、こッ、こッ、このボケェ~~~~~~~~!!!!!

 やっぱり出てきたじゃねぇか!!!!! ボケ!!!!! アホ!!!!! 

 やめろそれ(後ろに立つな)ッ!!!!!

 

「ニギレア様……!? ぉ、音も無くっ、背後に現れないでくださいッ!」

 

 よく言ったアルジェンナ! その通り!

 

「ご、ごめん……ね? 急いでて……。声をかけようと思ったら、ちょうど……」

 

 なんで急いでるのに逆に音が消えるんだよ。まさかテレポート能力とか言わねーだろうな……。

 

「なぜ、急いでいるのに逆に静かなのですか……」

 

 素晴らしい。俺たち以心伝心だな、アルジェンナ。

 ――つーか、声をかけようと思ったって本当か? ニギレアが纏っているとろ~んとした空気感と、初手でジャンプスケア(びっくりどっきり)を食らってる衝撃に流されて自然と受け入れかけていたが、果たしてこの状況、自然か?

 勢いに流されていた俺の感覚がにわかに冷え込み始め、さり気なく体勢を変えたのに気づいているのか気づいていないのか、ニギレアが口を開いた。

 

「あの、さっき伝え忘れちゃって。昨日、大怪我した子たちを襲った魔物、まだ見つかってなくて……」

 

 ああ、なるほど……。

 この辺の魔物の分布情報を基に想像はしていたが、確定させられるなら助かる話だ。

 

 要件は分かった。警戒も解く。

 そもそも俺が気を張ったところで、目の前の金級が悪意を持っていたならこの状況の時点で詰みなのだ。

 だから、とりあえず目的がハッキリしたのなら、いい。

 

「どのような魔物なのですか?」

「デインガグって魔物……分かる? それの、はぐれ(・・・)

 

 あー、マジか。現実的な想定の中でも、一番イレギュラーなパターンじゃねーの、それ。

 アルジェンナが「ご存知ですか?」とこちらの反応を窺ってきたので、頷きを返しておく。

 

「うん。ユウヤが銀級ぐらい強くて、デインガグのことも知ってるなら、大丈夫だと思う。それに、そもそも姿を現さないかもしれないけど……他の銅級の子たちは、しばらく森に入らないように言ってあるから……二人も一応、気をつけて……ね?」

 

 それだけ。と、言い残してニギレアは去っていった。やはり、音は無い。

 ……なんつーか、ほんと、ただただ親切な奴だな。ちょっと眩しいくらいだ。

 

「ご主人様……」

 

 とりあえず、少しだけ不安そうにしているアルジェンナの気を和らげるためにも、まあそこまで心配することはないって話をしておくとしよう。

 

 

○○○

 

 

【デインガグ】

 境界の向こう側、魔界に生息する魔物。

 八脚(ヤツアシ)の女王と呼ばれる魔王アデラー・ナーデが支配する一帯に、その眷属として群れを成す、最下層の兵士階級。

 能力の特性と存在の小ささゆえに「もつれの狭間」から人間界へ紛れ込むことがままあり、そうしてはぐれ個体が生まれる。

 

 四本の足を備えた昆虫めいた身体に、四本の腕を備えた人型の上半身が生えている。

 それは一見するとカストロイド(虫系亜人)の一部、特にアラクネア(蜘蛛型種)部族にも似た外見であるため、

 彼女たち(虫系亜人)がかつては魔物の一種として迫害されていた原因の一端となった。

 

 周囲に豊富な草木がある環境では一時的に異空間へ身を隠す力を持ち、そこから自身より弱い獲物を見つけると積極的に襲いかかる。

 しかし能力の使用は非常にエネルギー効率が悪く、飢餓状態が進行するにつれて判断力の低下が顕著となる。

 また、異空間から姿を現す際には空気を割るような特徴的な音を立てるため、事前に存在を感知することはさほど難しくない。

 運悪く、あるいは運良くはぐれ個体から獲物と見做された冒険者にとっては、登竜門的な存在でもある。

 

 






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