※この作品はR-18です。

異種族だらけの貞操観念逆転世界で剣を振る   作:付呂無権左衛門

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本日の投稿 2/2


008_山麓にて-3

 

 デインガグ。正当な評価として、こいつ単体の性能は決して高くない魔物だ。

 見た目こそ凶悪だが、言ってしまえばそれこそ見た目相応。冒険者としてそれなりの場数を踏んだ者、それもパーティーが正面からぶつかればさして苦労する相手でもない。なんなら現地の別の魔物に返り討ちに遭うことまであるし、俺もまだまだ未熟だった頃に二体は斬っている。

 ただ、一つだけ厄介な性質がある。それは奴が「初心者狩り専門」の魔物だということだ。

 なんだよ「異空間に隠れる」って。魔界産の魔物はそういう意味不明な力を持っているものが多いと聞く。デインガグみたいな雑魚ですら、だからな。

 戦闘中に素早く自由自在に異空間へ出入りできるほどのインチキではないが、やはり不意打ちは受けやすい。特に「この一帯にいる」と事前に知っていなければ尚更。知っていたとして、出現の予兆となる音を初めて聞いてすぐに気づき対応できるかも別問題。

 それでいて奴は異空間の中からでもしっかりとこちらを認識しているらしく、基本的には勝てそうと判断した奴の前にしか出てこない。ニギレアが言っていたのはそういうことで、たぶんあいつ自身が狙って遭遇することはほぼ不可能。俺もまた狙われる可能性は低いんじゃね? ということだろう。

 

 さて、どうかなあ。

 そもそも最初に新米の銅級の集まりと言えども5~6人の集団を襲っているわけだし。その時点で、デインガグの存在が確認された場合に有効な討伐方法の「空腹が限界になるまで隠れさせ、多少の不利を押してでも出てくるようになるのを待って、実力者が狩る」が半ば自動で達成されかかっていたとも考えられる。

 昨日の冒険者グループ、あの口ぶりでは死人は出ていないはずだ。つまり件の()()()は、あと一歩のところでご馳走にありつけなかったわけだ。さぞかし苛ついてるだろう。もう我慢は無理なんじゃないか。

 

 金級冒険者ほどの実力者ともなれば肉体に充溢している魔力が銀級以下とは一線を画しているから、魔物から見ても流石にその実力を勘違いしようがない。だが銀級と銅級ぐらいの実力差はハッキリ認識してない気がする。本来は逆立ちしたって勝てない師匠の前にもノコノコと出て来たことがあるぐらいだし。

 まあ、あの時はまだまだガキンチョだった俺が横にいたせいもあるのだろう。だがそう考えれば、今の状況はその時の構図と類似している。

 つい先日冒険者になったばかりで、デインガグ的にはなんの力も感じていないだろうほぼ一般人のアルジェンナ。その横にたとえ自分を容易く斬り殺せる俺がいたとして、それを正確に感じ取れるわけでもなく。

 腹ペコなら、まあもう襲っていいかな~のラインにいる獲物に見えるんじゃないの? ましてや今この森の中には、誰かさんのお節介のおかげでもっと分かりやすく弱そうな銅級はいないんだろ? なーんか作為を感じるな。

 

 パキ――パキ――パキ――。

 

 さて。アルジェンナと肩を並べてしゃがみ込み、草を千切ったり土を指で掘り返したりと何をするでもなく過ごすこと僅か数分。

 乾燥しきった細い木の枝を軽快に踏み鳴らすような音が、背後の空中から聞こえてきた。堪え性なさすぎだろ。俺のチンポか?

 

 アルジェンナ。

 覚悟はできている、と言っていたが、こいつを見ても同じことが言えるだろうか。今夜にでも改めて聞いてみようか。

 

 すでにこちらに気づかれているにも関わらず、やはり自信がついたのか油断しているのか、何も無い空間からのっそりと姿を現す四つ足四つ腕――じゃないな、腕が一本無いじゃん。昨日のパーティーが一矢報いたのか。

 とにかく、体高およそ3メートル。その半分ぐらいは脚の長さゆえだが、いずれにせよ見た目から放たれる圧迫感は中々のものだ。

 昆虫めいた下半身に人型の上半身。赤黒い鋭角な甲殻に全身を覆われた異形の怪物。こちらに向けられた顔面は目、鼻、口と揃っていて通常の生物と共通したパーツ構成ではあるものの、その造形はいかにも「魔物」と呼ぶべき邪悪さが滲み出ていて、自然界のいずれの生命にも比較できるものは存在しない。

 それが今、俺たちを完全に獲物と見なして、食欲を剥き出しにして目の前に立った。

 ……だいたいシンプルにキモいんだよなぁ。魔界産の魔物。

 

 剣を抜く。

 俺が扱う剣は、些か特殊な代物だ。いわゆる通常サイズの片手剣よりも大きく、しかし一般的に両手持ちで運用される大剣よりは小さい、片手で扱うことも主要な選択肢とした大剣……あえて分類するなら「軽大剣」とでも呼ぶべきもの。地球の歴史にある剣で言えば「クレイモア」が近いかもしれない。

 師匠から授けられたこの軽大剣はリーチの長い得物でありながら、時にはその軽さを生かして敵手を翻弄し、あるいは懐に潜り込むような戦法も取りやすい。

 

 一呼吸。

 

「悪禍、虚無、絶え無き崩壊――巡れ車輪、終われ哀歌」

 

 魔術の起句を口の中で溶かして、走り出す。

 それはいわゆる詠唱、自己暗示の類。この世の理に対して自らの意志を示し、塗り潰すための儀式。

 魔術の発動において必須ではないが、その精度と強度を格段に上昇させてくれるものだ。

 

 俺が起動したのは、シンプルな強化魔術。

 魔力が齎す極めて根源的な恩恵。魔術の素養を持つ者が、あるいは持たざる者であっても、全ての冒険者が遍くクラスの恩恵によって扱えるようになる力。

 強化の具合は鍛錬次第だが、幸いにして俺は前者の才ある側であり、師匠にもみっちり仕込まれている。

 その力を全身に、そして握った剣の先に至るまで張り巡らせる。

 

「ィィィィイイ!」

 

 甲高い鳴き声と共に、こちらを迎え撃つように振り下ろされる三本腕。

 ――ご多分に漏れず、雑。

 だがまあ、駆け出し冒険者相手にはこれで十分な脅威だ。実際、直撃を許せば鉄製の鎧ぐらい簡単に粉砕する速度と威力だし、仮に今のアルジェンナであれば反応もできず受けることになるだろう。

 

 ただでさえ狙いの甘い打ち下ろしを、体を回転させながら確実に避ける。

 地面を弾けさせるに留まったその三本腕が次の行動に移るよりも速く、こちらはわざわざ下げてくれた首の根元、その節に、お返しとして遠心力も乗せた一振りを滑り込ませた。

 

「キ――」

 

 何か声を上げようとしたデインガグの頭が胴体から離れ、終了。虫のような見た目ではあるが、人型が混ざっているせいなのか頭を失った身体が勝手に動き出すようなことはない。

 一拍遅れて四本の脚の力が完全に抜け、どうっと音を立てて巨体が倒れた。

 あとは……。

 

「……」

 

 指の動きでアルジェンナを呼ぶ。

 

「――は、はいッ!」

 

 呆けていたようだったが、再起動が早い。一瞬過ぎて逆に混乱する間も無かったのかもしれんな。

 念のため辺りの様子を確認したあと、駆け寄ってきたアルジェンナの耳元で指示を出す。

 

「この頭に向かって攻撃魔術を放て」

 

 デインガグは頭だけとなっても、まだこの短時間であれば生きている。無駄にしぶとい奴らだからね。

 とはいえ、放っておいてもそのまま死ぬことはたしか。そんな状態の魔物にトドメだけ刺したところで冒険者の経験値的に大した差は無いが……ゼロではない。また、単純にアルジェンナの感覚を少しずつでも慣らす目的もある。

 

「はいっ!」

 

 ピクピクと目と口を痙攣させているデインガグの頭に向けてアルジェンナが両手を構えると、ちょうど人間の頭ほどの大きさの水球が生成された。

 一瞬の溜めのあと、そのまま撃ち出し――。

 

「えぇい!」

 

 ――たかと思いきや、気合の入った掛け声と共に腕を振り上げるアルジェンナ。その動きに合わせて水球がデインガグの頭上へと飛び上がり、そのまま空中で静止する。そして勢いよく振り下ろされる、彼女の腕。追従して水球もまた垂直に落下した。

 狙い過たず、アルジェンナの攻撃はデイガングの頭を叩き潰す……まではいかず、少し歪めさせただけだが、十分にトドメとはなった。

 

「……はぁっ、はぁ……。い、いかがでしょう……?」

 

 こいつ、やっぱりセンスあるな……。

 水を扱う魔術の攻撃性能は、他の自然現象を励起するタイプの魔術と比べて低い部類だ。水それ自体に加害性が低いため、取り分け初歩の頃は単純な質量攻撃として用いるしかないからである。そのため、作り出した水の形を維持して硬度を保ち、それを更に高速で衝突させることで運動エネルギーによるダメージを狙うことになる。

 ――とは説明済みだったが、効率よくダメージを与えるために真上から落とすというアレンジは彼女独自のものだ。というより、まだそこまでの運動制御ができると俺が思っていなかった。魔術師になったばかりの冒険者なんて普通は取りあえず正面に撃ち出すのが関の山らしいし。うーん、鍛錬計画に修正が必要か? もう起句の設定辺りもしちゃっていいかもな。

 

 こちらを窺うアルジェンナを言葉で褒める代わりに、剣を握っていない左腕で彼女の頭を撫でる。いや、凄いよほんと。

 

「えへへ……」

 

 撫でられるがままにだらしなく相好を崩すアルジェンナの姿は、非常に股間にキた。狩った魔物の血を見て鎮静とか保って3秒でした。

 一応、今生においては向こうがしっかりと歳上で、彼女の俺に対する入れ込みはそういう部分から来ているのもあるんじゃないかと思ってるが、こっちもこっちでなんか随所に幼さを感じちゃうんだよな。奴隷と主人の関係と、ある意味での師弟関係だからか。アルジェンナ側の要因としても、教育や生活水準の影響があるのかもしれんけど。

 

 まあ、なんであれ。これだけの魔術の制御力があるなら、やはり問題なさそうだなー。――アナル洗浄。

 今夜は覚悟しとけよこの無防備ドスケベ女が。

 

 

○○○

 

 

 デインガグの脚を掴んで引きずりながらキャンプ地へ向かっている途中、タイミングよくニギレアが冒険者数名を連れてやってきた。

 運ぶのを手伝ってくれるそうだ。

 

 やーっぱどっかで見てやがったな、お前。

 デインガグが俺たちを狙う可能性が高いと踏んで、釣り餌にしてくれやがったのだろう。金級の三位ともあろう者が、俺が気付く程度のことを見逃すはずもないのだから。こちらが自力で対処できればそれで良し、できなければ割って入るつもりだったか……そんなところだろう。

 ぼうっとした振る舞いは演技――でもなく間違いなく素でもあるんだろうが、見せている顔だけが全てでもない。そういう当たり前の話だ。

 

 妙に興味を抱かれているのは尋常じゃなくストレスだが、まあ今日のところは全て目を瞑ってやる。いいさ、このストレスは全てムラムラに変えてアルジェンナにぶつけるのだ。

 それに恐らく気になっていたのは銀級相当の力が本当にあるか、という点だろう。もう特別に絡まれることはない……はずだ。

 

 デインガグの死体はギルドの出張所で丸っと金に替えた。アルジェンナの防具は街で既製品を買う予定だから、その足しになればよい。

 もう少しゆっくりしていけよ~というドロテからの誘いとニギレアからの視線をやんわりとやり過ごし、俺たちはそそくさと帰路についた。顔に傷がある設定が効いたな。そうでなければ強引に酒場にでも連れ出されていたかもしれない。備えあれば憂いなし……!

 

「乗ってくかい?」

 

 町の外縁にて。辻馬車の運転手に声をかけられ……朝の計画を崩し、利用することにした。

 肉体的にはなんてこたないが、精神的にはだいぶ疲れた。その疲労成分の8割ぐらいはニギレア由来であるが。彼女はこの町を根城にしているらしいから、領都(セルン)では自分の背後を気にしなくてもいい……はずだ。いや、しなくていい、のだ。ちょっと疑心暗鬼すぎる、自意識過剰すぎるぞ俺、冷静になれ。

 

 それにアルジェンナを少し休ませておきたい。――今夜、お前にはまだ大仕事が残ってるからな。そう伝えると、彼女は馬車が動き出してすぐに寝息を立て始めた。

 うーむ。いつか睡眠姦もやってみよっかな!

 

 もうマジで逸早くニギレアから距離を取って、アルジェンナで気持ちよく射精することしか考えられない。一周回ってなんか吐き気がするな。

 フフフ、お前のケツ穴が壊れるのが先か、俺の頭が壊れるのが先か、勝負だ。意味不明だよボケ。

 

 

○○○

 

 

「うーん……」

「どうした?」

 

 好物の蜂蜜酒で満たされたジョッキを片手に持ったまま、あまり口をつけることもせずに何事かを考えているニギレアに対して、ドロテが問うた。

 

「なんでもない」

「……そうかぁ?」

「うん。…………うーん……」

 

 なんかはあるだろ、と、つい口に出したくなったドロテは、この気の良い友人が何も考えていないような顔をして意外とクレバーな思考を持っていることもよく知っている。

 ユウヤが予想したとおり、ニギレアは決してただお人好しなだけの女ではない。善性の存在であることは確かだし、他人に話すつもりもないくせに考え事をしている様子を誤魔化すことを考えない程度にはマイペースではあるが。

 

 ――ま、アタシらには関わりないことなんだろ。

 ある種の信頼からそう判断したドロテは、エールを持って別のテーブルに、特に今日は割りを食わされてしまっていた銅級たちのケアを兼ねて冷やかしに向かった。

 

「うーん」

 

 一人残されたニギレアは、唸り続ける。

 何かが引っかかっている。今日知り合った同業者、ユウヤのことだ。何かが変だった。()()の振る舞い、事情、実力、それらについてではない。でなければ、なんだろう。

 

 ニギレアは金級だ。その領域に登りつめる才覚を持つ者が、大よそ共通して備えている能力の一つに「勘の鋭さ」があり、彼女もまた例外ではない。その勘が何かを訴えている。

 勘、無意識における複合的な知覚情報と言い換えてもよいだろう。

 その勘も、知らないことに対しては上手く働かない。ただ「どこかに『未知』があったぞ」と、かりかりと指で優しく掻くように刺激してくるだけだ。

 何か――何か取っかかりがあれば、引きずり出せそうな。目の前をちらちらと揺らめいて、挑発を受けているような。

 

「なんだろう……ね?」

 

 ようやく蜂蜜酒を口に運ぶ。もやもやを押し込むように喉を慣らしていると、すぐに空になってしまった。

 

「おかわり」

「はいよ」

 

 店主が酒を注ぐところ、その手つきをなんとはなしに眺めて――「あ」

 

「ん、どうかしたか?」

「――なんでもない。おかわり、ありがとう」

 

 そう言ってから、ニギレアはぐるりと酒場を見渡す。

 フィルダン(人族)、11人。よく見れば、違う。

 オドゥ(牙の種族)、1人。ちょっと似てるけど、違う。

 ザーレクス(蜥蜴人)、2人。トログリム(子鬼族)、1人。シャラクク(猫系獣人)、1人。当然違う。

 

 初めて声をかけた時。翻った外套の下に見えた体、露出していた前腕。

 それらが、()()()()()()()()()のだ。それなりに長く生きて、その半分以上をこの生業で過ごしてきて。

 初めて見た()()()だった。

 

「……不思議」

 

 喉を潤す蜂蜜酒の甘さ。

 緩んだ頬は、それゆえか。

 

 未知は大好きだ。解き明かし、切り拓くものだから。

 未知は放っておけない。でなければ、彼女の証が金の輝きを示すことはなかったのだから。

 

 冒険者。この世でただ一人が、本当の意味で彼女たちを指してそう呼んでいる。確かにそれは一面の真実を捉えた表現であろう。

 

 

○○○

 

 

【ある差異について】

 どこかの誰かは「鍛えまくったら男も女も一緒だろ」と、いつか考えたという。

 擦り切れた朧気な記憶の中に、磨き上げられた肉体を誇示する品評会(女性部門)の光景が残されていたからだ。

 しかし、どれだけ同じように肉体を鍛えたとしても、人間の雌雄には骨格という根本的な差異が存在する。 

 そもそも、一部の特殊な例外を除いて、戦いに身を置く者が筋肉量を極度に肥大させることはない。

 

 






明日もたぶん2話投稿。
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