※この作品はR-18です。

東方河童異聞   作:伝説の肥大したデブりし者★

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四話

 

度々起こされる異変という名の騒動に因って、幻想郷の地理環境は時折変化を見せる。

幾つか事例はあるが、安寧の約束された箱庭にこそ必要な『刺激』という名目がある以上、変化が微弱過ぎても大き過ぎてもいけない。絶妙なバランスを保つ必要があり、その点において幻想郷は近年比較的安定していると言えるだろう。

 

少なくとも、今はまだ。

 

 

 

──それは、八月に入ったばかりの事......。

 

人里離れた辺境の、更にその奥。結界によって隔離された幻想郷の僻地に、河童達の住処はあった。

山中に穿たれた大きな横穴は、彼等が長い年月を掛けて構築した巣穴だ。天然の洞窟を利用した住居は、高度なテクノロジーにより極度に改造・改築され、近代的で無機質なデザインに纏められている。内部は幾つもの区画に別れており、効率的かつ機能的な設計により、河童達の生産活動は加速度的に向上されていった。幻想郷の河童は、その大半が技術者・研究者である。彼等は高度な技術力と知識を有し、その飽くなき研究意欲を以て幻想郷の経済を下支えしている。

 

岩盤を掘削して造られたそれらの最奥に、一際広大な空間があった。

 

地下ではあるが天井は高く設けられており、やたらと高性能な空調設備すら完備されているような擂り鉢状の大ホールである。各所に埋め込まれた巨大な照明灯は、坑内全体を柔らかな煌めきで満たすと同時にある程度の範囲まで光が降りてくるようになっており、視覚的、体感的に広さを錯覚させる。

ホールの中央部には円卓が置かれて、その机上を空中投影された全天モニターによって埋め尽くされている。数々の情報を示す大小様々なデータが自動でスクロールし、目まぐるしく切り替わっていく様は圧巻だ。

円卓を取り囲むように並んだ擂り鉢は、玄武の沢の民がひしめき合って座している。

 

「──それでは、次の議題に移ります」

 

司会役の河童が場を取り仕切り、会議の進行を進めていく。

幻想郷中の河童、山童一族が集結して様々な議題について討議を行う定例会議。

元来享楽的な面の多い彼らは、何かにつけて集まっては発明を自慢したり、只騒いでみたり、宴会を開くだけのために結集する事が多いが、当然真面目な話し合いも行われる。

例えば、世界に翻る異形達との勢力争い。或いは幻想郷の経済活動における諸問題や技術開発の進捗など、様々な問題が山積する中で如何にして平和と発展を維持するのか。その方策を練る為の場である。

 

定例会議は月に一回、開催場所を変えて行われているが、今回は河童達の住処である地下大ホールにて執り行われていた。

 

ドームの天井を支配する幾つもの映像が投影され、リアルタイムで各地域の情報が共有されているようで、出席者達はそれらを興味深げに眺めつつ議論を交わしていた。

円卓に座すのは、各部門を代表した重役達である。河童の里を束ねる氏族長に、部門長や技術者・研究者といった面々が勢揃いしている......代表者として発言力はあるものの、会議には全人口が参加する直接民主議会制が取られているため、彼等は発言権こそあれど決定権は無い。

 

「我が同胞たる諸君!我々を取り巻く脅威について最新の情勢を報告したい」

 

声を張り上げたのは、重役の一人である河童の女だった。彼女は表向きの荒事を担当する機動部隊の長であり、戦闘用に改造された防水服に身を包んでいた。

長い髪を纏め、気の強そうな美貌を昂然と向けるその立ち居振る舞いには堂々たるものがあった。唯一、抉れたような痛々しい傷痕が美しい顔立ちに似合わぬ物々しさを添えており、遠目にも伺える苛烈な印象に拍車をかけている。

 

「我が隊は予てより、情報部と連携を取って脅威の早期発見・対処に注力して来た。事実、コレらが要らぬ諍いを増長してきた事もまた言明しておこう」

 

各席の間に浮遊した無数のホログラムが次々と切り替わり、幻想郷の地図が投影されると共に、様々な情報が表示されていく。

 

「幻想郷は狭い箱庭だ。時代に取り残された妖怪の楽園。だが、その性質は不変ではない」

 

河童の女の言葉に呼応するようにして、地図上に幾つもの光点が現れる。それらは幻想郷内の各所に点在しており、中には人里から離れた山中にも見受けられる。

 

「この十数年の間、妖怪の賢者が“異変”とする勢力紛争は顕著な増加傾向を示しており、即ち幻想郷にやって来る、或いは眠っていた存在が一処に集い始めたことを意味する。新たな勢力は秩序を壊さぬよう周囲との関係性を求められる訳だが、その調整は容易なものではない」

 

女の言葉に呼応して地図上の光点が動き出し、不規則に動き出す。

 

光点の動きは一定の法則性を持ち始め、やがて一箇所に集い始める。

 

その中心には、人間の里があった……。

 

「当然ながら、妖怪が存在するには人間の“畏れ”が必要不可欠。人を滅ぼさず、程々に振る舞いながら他勢力との共存共栄を模索せねば早々にこの世界は崩壊してしまうジレンマに直面する」

 

河童の女は淡々と語りながら、手元の資料に目を落とす。そこには各勢力の動向が纏められており、中でも人里における人口推移や経済活動に関するデータが記載されているようだ。

 

「だが、その点我々は古来より人間との深い関係を構築し、盟友として確固たる立場を築いている。“血の変革”も、妖怪の賢者が主導したものと聞き及んではいるが、我々は暗黒時代を乗り切り今に至るのだ。事実、人里の経済には金融部のたかねが辣腕を振るっていて、テクノロジーとインフラ全般に絶大な影響を与えている。まずはその功績について、此処にいる本人に賛辞を送りたい」

 

そこで河童の女は満足げに押し黙ると、円卓の隅に座る山童──山城たかねに目線を移した。

 

人間界の席次がそうであるように、高度に組織だって行動する妖怪にも目上目下という序列意識がある。大抵の場合、それには家柄や氏族の特性が大きく関与する訳だが、河童の一族についても例外では無い。

古来より日本独自の集団文化をもって発展してきた彼等も当初は父系制を踏襲しており、部下を持たぬ若い衆は決して重んじられはしなかったし、その統制組織の運営は主に男性に任されてきた歴史がある。

 

 

......結論から言えば、種族そのものの存亡に関わる大事件の発生によって殆ど不可逆な組織再編を余儀無くされた。

例えば河童の集まりに山童であるたかねが同席しているのには理由があって、経済活動において非常に重要な役割を担う彼女を排除する事は単に不都合が多いからというのもあるが、互いに幻想郷の被支配階級に位置する一種族である以上、手を取り合うのが当然であり必然なのだ。

利用しあう関係というのも間違いとは断じれないけれど、距離を置いて現状維持などとは言っていられない位に追い込まれてもいる。

 

元々は一つの種族であった彼等が、種を維持する為に融和施策へと転換するのは自然の流れだった。

議場に集まった同胞の視線が己に集中するのを察して、たかねは義務的に表情を作る。容貌にある程度の自信があるたかねとしては、常に余裕を崩さず泰然としている事が重要だ。

客先で行うような表層ばかりの薄い微笑みは、今となっては一蓮托生となった河童たちへの礼節のようなものだろうか?

 

「同胞よ、感謝を。我々山城コンツェルンの事業拡大と今日の繁栄があるのは、種を越えた理解と協力あってこそ」

 

内心の情動などおくびにも出さずに、優美に微笑んで見せた。一見打算も裏表も無いように見えるが、それは彼女が被った仮面に過ぎない。美しさに潜む本性を知る者は少ないし、また知る必要は無いだろう。

利用出来る内は差し出した手を握り込んでいても、価値が無くなれば容赦なく反対の手に握った凶器を振り下ろす。

 

欲しいモノは何であろうと、どのような手を使おうとも手に入れたいが道理だ。

 

それが精々あぶく銭で解決出来るなら安上がりなのだ......なのだが、目下の処たかねが最も欲するものは金では取りようがないと来ている。

 

(にとりったら......会合にも出ないで何処で油売ってるのかしら)

 

寂しさと一抹の怒りを覚え、軽く頬を膨れっ面にした。それで許してしまうあたり、彼女に対する愛情は確かなのだろうけれど。

 

溜息を吐くと新鮮な空気が胸一杯に浸透してきて思わず深呼吸を繰り返す自分に気付いて閉口するたかねなのだった。

 

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