それでいて世話焼きで優しくて清楚な彼女。そんな彼女に一番近い存在は隣に住んでいる自分だと思っていた。
そんな彼女を一途に思い続けたのは俺の気持ちは...誰にも負けないと思っていた。
清純な彼女の最初の恋人になるのは...俺だと思っていた。
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『優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ(https://syosetu.org/novel/294060/)』と世界線を共有しています。
―――――――――――――――――魁人視点
何となく...沙織との距離感を感じながら過ごした一週間。
明日は待ちに待った土曜日だ。
金曜日の授業は終わり、あとはホームルームも終わり、後は家路に就くだけとなっている。
とはいえ、今は受験生の身。家に居てもやることは受験勉強だ。...最近は何となく手についていないというのはナイショだ。
「魁人、帰ろ?」
いつも通り誘ってくれた沙織。その姿に少しだけ安心しつつ、肯定の返答を返すのであった。
他所のクラスの生徒だというのに、沙織は自然と俺のクラスでも馴染んでいる。...俺と一緒にいる事が自然な風景になっているのかもしれない。
「そうだな。帰ろうか」
クールぶっているが、内心は幸福感と優越感に満たされていた。
学園のアイドルといっても過言ではない沙織からの誘いだ。一年生の頃は所謂学園カースト上位に位置するサッカー部の男子生徒からも羨望の視線を向けられることもあった。最近ではこの日常に慣れた様子だが、今でもたまにそのような視線を感じる事が有る。
「...」
「...」
変化したものといえば...最近は俺たちの会話が減った事だろうか。
まあ、長い時間を一緒に過ごしてきたので今更特に話すこともないというのも事実だ。それに、去年は一緒に帰る機会が少なかった気もする。
...このままではいけない。ここは一つ、沙織を遊びにでも誘うべきだろう。明日は塾もないから遊べるはずだ。
「な、なあ...沙織」
茶色のローファーを片手に持つ沙織に問いかけた。
「なあに?」
靴を履きながら沙織は答えてくれた。
「その...明日、なんだが...暇か?」
「明日...うーん...」
何か用事でもあったのだろうか...?
「その...良かったらどこか出かけないか?」
「お出かけかぁ...」
少し困った様子を見せる沙織。
...駄目だ。ここで粘らないと関係に亀裂が入ったままになる。
「その...この前のお詫びというか、今度こそキチンと一緒に出掛けたいんだ」
いつの間にか必死になって沙織を誘っていた。
「うーん...どうしても明日じゃないとダメ...?」
困り果てた様子で尋ねる沙織。
「そう...だな」
優しい沙織を困らせている。冷静になればそんな事は分かるのだが、今の俺はそんな事さえ気が付かなかった。
「そっか...その、お出かけするのは良いんだけど...」
「良いのか!?」
思わず大きな声を出してしまった。
「っ...!」
ビクンと跳ねる沙織の細い身体。
少し怯えた様子の彼女を見て慌てて謝った。
「わ、わりゅい...」
慌てたせいで噛んでしまった。
「ふふっ...でも、一つだけお願いがあるの」
「お願い?」
「それはね―――」
―――――――――――――――――――――
翌日。
俺は目一杯おしゃれをした...つもりだ。
「...よし」
玄関の鏡で何度も髪型をチェックする。...意味のない事かもしれないけれど、確認せずにはいられないお年頃なので仕方ない。
「...行くか」
そして、いつもの運動靴を履いて玄関扉を開いた。
「あ、魁人...」
外に出ると、沙織は海老沢家の玄関前に立っていた。
彼女の服装は、薄い紫色...ラベンダーカラーというのだろうか?とにかく淡い色合いに肩が出ているトップスに、下は白い生地に青い花柄というフレアスカートを着ていた。足元は少しヒールが高い靴だ。全体的に清楚な雰囲気の有る服は沙織によく似合っている。
「お、おはよう、沙織」
「うん、おはよ~」
ひらひらと手を振る沙織。
「...」
ふわりと微笑む彼女に思わず見惚れてしまった。
「魁人?どうしたの?そんなにぼーっとして...あ、ひょっとして私の顔に何か付いてる?」
少し慌てた様子で手鏡を取り出す沙織。
「あ、いや、その...大丈夫、ゴミとかは付いてないぞ」
「そうなの?...良かったぁ」
安堵したように微笑む沙織。
...そんな事を気にする女の子らしいところがなんとも可愛らしい。
「...」
「...」
それぞれの家の玄関先で待機しているという、なんとも奇妙な時間だが...これには理由がある。
というのも―――
「あっ」
沙織が声を上げた。
彼女の視線の先を追うと...ラージサイズの高級ミニバンがこちらに向かっていた。
「...」
御覧の通り、今日は二人きりのお出かけではない。
ミニバンは海老沢家の前に停車して、運転席から男性が下りてきた。
「ごめんね、二人とも。こっちの車の予定じゃなかったからちょっと準備に時間かかっちゃって」
磨かれた明るいブラウン革靴に、濃い色のデニムと淡いクリーム色のシャツを着た黒沢さんであった。
「いえいえ。私もついさっき出てきたばかりですから♪」
パタパタと黒沢さんの元まで駆け寄る沙織。
「それなら良かった」
そんな彼女に優しく微笑みかける黒沢さんであった。
「そ、その...勇太さん...」
何か言いたげな様子で黒沢さんを見つめる沙織。
「うん。良く似合ってるよ。でも、水色のワンピースも似合っていたから安心してね?」
「ふふふっ...私も最後まで悩んじゃいました。もう...勇太さんってばどっちも似合うっていうから...♡」
何やら俺には分からない話題で盛り上がる二人。
「えっと...二人とも昨日も会っていたのか?」
今日の為に一緒に服を選んでいたのだろうか?
「あ、ううん。普通にリモートだよ。カメラ越しに服選びを手伝ってもらったの」
ビデオ通話ということか...なるほど。
「しょうがないよ。沙織は何を着ても可愛いんだから」
さらりとクサいセリフを吐く黒沢さん。
「もう...ふふふっ♡」
沙織も満更でもない様子だ。
「...」
何とも言えない疎外感を感じている。
...駄目だ。今日は沙織と仲直りする為に誘ったのだから...俺が頑張らなくてはならない。
「よし、とりあえず出発しようか」
「はい♪」
黒沢さんは運転席に乗り込み、自然な流れて沙織は助手席に乗り込んだ。
「は、はい」
俺も慌てて車に駆け寄り、後部ドアのドアノブをジーちゃんの家の軽バンと同様に勢いよく引いた。
「あぇっ?」
しかし、スライドドアは中途半端に開いた状態で電子音響いていた。
とてもじゃないが人間が入れる隙間ではない。
...まさか壊してしまったのだろうか?
「あ、ちょっと待ってね」
黒沢さんが天井のボタンを操作すると、再び電子音が響きながらゆっくりとスライドドアが開いた。
「電動だからボタン一つで開くんだよ。便利でしょ?」
「あっ...は、はい...」
顔から火が出そうだ...
そうか、これが電動スライドドアなんだ。ウチの車はセダンだし、ジーちゃんの軽バンは勢いよく開いて勢いよく閉めないと締まらないので、この大きさのスライドドアなら同様だと勘違いしていた。
「よし。シートベルトは締めた?」
「はーい♪」
「は、はい」
明るく返事をする沙織。
「さて...今日は何処に行きたかったの?」
黒沢さんがルームミラー越しに尋ねてきた。
「あ...えっと...」
まずい...出かける事ばかり考えていたので、ロクにデートプランを考えていない。
「...」
「魁人君?」
何も語らない沙織と、不思議そうに振り返る黒沢さん。
「しょ、ショッピング、とか...ですかね」
苦し紛れの返答。
何となく、デートならショッピングモールで十分だと思っていた。
「ショッピングかぁ...この辺りならショッピングモールかな。沙織はそこでも良い?」
「はい。ふふふっ...多分、今の私ならどこでも楽しんじゃいます♪」
なんとも可愛らしい返事であった。
...そんなことを俺も言われてみたい。
「あ、そうだ...勇太さん、秋物をそろそろ買いたいので、一緒に選んでもらっても良いですか?」
「もちろん。いくらでも付き合うよ」
黒沢さんは車を発車させながら沙織の問いかけに応えている。
そして、そんな二人の会話を聞いている内に、いつの間にやら車は県道を走っていた。
「勇太さんはお洋服買わないんですか?」
「うーん...平日はスーツだし休みの日は普段着ばっかりだからね。多分、2年以上おしゃれ目的の服は買ってないかも」
「そうなんですか?それはいけませんね!」
変な口調になる沙織。おどけているのだろうか。
「ははは、どうしたのその喋り方。ちょっと面白いけど」
「ふふふっ...♡」
...楽しげな会話だ。割入る隙が無い。
「でも、それなら最近の流行とか追えてないんじゃないですか?」
「うーん...あんまりファッションにこだわりが無いからなぁ...頑丈で品が有れば良いと思ってるよ」
「確かに勇太さんのお洋服って生地が良いですよね。ずっと触りたくなっちゃいます」
そう言いながら沙織は黒沢さんに手を伸ばした。...しかし、右手を宙に浮かせたまま静止した。
「あ、あの...触っても大丈夫ですか?」
恐る恐ると言った具合で尋ねる沙織。
「大丈夫だよ。ほら」
黒沢さんは宙に浮いたままの沙織の右手を優しく握った。
「ぁ...」
ゆっくりと絡み合う指と指。
沙織は頬をほんのりと赤く染めながらその手を見つめていた。
「あっ...こ、これだと服に触れませんっ...!」
しかし、直ぐに慌てた様子で絡み合っている手と手を解いたのであった。
「それもそうだね。ほら、どうぞ」
黒沢さんはセンターコンソールに左腕を置き、沙織はそんな黒沢さんの腕に手を伸ばしていた。
「あ...やっぱりこの服も肌触りが良いですね」
「うん。結構お気に入りの一枚なんだよ。あんまり私服を着る機会が無いから長持ちするんだ」
「なるほど...」
ふむふむと納得している様子の沙織。
「沙織はどんな服が欲しいの?」
「うーん...アウターとかスカートはまだ着れるんですけど、トップスが少しサイズが合わなくなっちゃって...結構捨てちゃったりフリマで売ったりしちゃったんですよね。あ、カーディガンも穴が開いちゃったので買いなおしたいです」
スラスラと予定を口にする沙織。元々ショッピングに行く事を予定していたのかもしれない。
「あっ...そ、それと...」
車が信号停車したその時、沙織が頬を赤くしながら何か言いかけている。
「ゆ、勇太さん...」
くいくいと黒沢さんの袖を引く沙織。
「うん?」
沙織の口元に耳を寄せる黒沢さん。
「(新しい下着...勇太さんに選んで欲しいです)」
「...!」
何か小声で耳打ちする沙織。内容は聞こえないのだが、黒沢さんは一瞬だけ驚いた表情を浮かべた後、静かに頷いたのであった。
「...」
会話に参加できない...
服なら最近はそれなりに興味がある。少しでも自分を良く見せたいし、流行に敏感な男であることをアピールしたい。
「そうだ。沙織、俺はそんなに服の流行りには疎いけど...それでも大丈夫?」
「ふふふっ...平気ですよ。実は...さっきはあんなこと言いましたけど、私も服の流行はあんまり気にしてないんです。ある程度の流行は友達との話題作りで勉強しますけど、自分の服となると、やっぱり似た系統のデザインばっかりになっちゃいます」
それに...と、沙織は続けた。
「私は...その...ゆ、勇太さんに選んでもらった服を着たかっただけ...ですので」
段々と小さくなる声。
最後の方は後部座席まで聞こえなかった。
「それなら...気合い入れて選ばないとね」
黒沢さんはチラリと沙織に顔を向けて微笑みかけていた。
「ぁ...えへへ...♡」
何とも甘い空気が漂う車内。
後部座席の俺は荷物か何かだと思われているのではないだろうか?
少し不貞腐れながらそんな事を思っていたのだが、幸いなことに車はショッピングセンターに到着したのであった。
しかし―――
「うわぁ...今日は多いなぁ...」
困った様子で呟く黒沢さん。
「ごめんなさい...私がショッピングしたいだなんて言ったから...」
「沙織は何も悪くないよ。まあ、これくらいは想定済みだから大丈夫さ。でも、二人は大丈夫?先に降りる?」
先に降りて沙織と二人きりでショッピング...それも良いかもしれない。
「じ、実は...その...」
沙織は何か恥ずかしそうな様子で言葉を詰まらせている。
「沙織?...あ、ごめん、気が回らなくて。じゃあ、二人とも後で合流しようか」
「こ、こっちこそごめんなさい...っ」
「...?」
一体どうしたのだろうか?
でも、これはこれで好都合だ。お言葉に甘えて先に行かせてもらおう。
「わかりました」
俺と沙織は車列が動いていない隙を突き、一足先にショッピングモールに向かったのであった。
そして、本館までの長い距離を歩いてきたその時。沙織が何やら慌てた様子であっと声を上げた。
「ご、ごめん、魁人。カバン忘れちゃった。ちょっと取ってくるね」
沙織の格好を見ると、確かに今朝まで持っていた可愛らしいデザインのカバンを持っていない。
「黒沢さんにお願いすれば良いんじゃないか?」
どうせ後から合流できるのだから。
「でも...スマホもカバンの中にあるの。魁人は勇太さんの電話番号知らないでしょ?」
それもそうか。特に合流する場所も決めて無いので、電話で連絡を取る必要がある。
「今ならまだ勇太さん見つけられると思うから...ごめんね」
「ああ。気をつけてな」
「う、うん!」
そう言うと、沙織は立体駐車場の方向...ではなく、トイレの案内看板の方へと歩いて行った。
「...あっ」
そういうことか。
沙織はトイレに行きたかったのだ。普段の沙織であれば、あの場では黒沢さんが車を停めるまで一緒に過ごすだろう。そんな優しいところが俺も好きになったのだから。
しかし、生理現象なら仕方ない。また、『トイレに行きたい』と言えない奥ゆかしさも可愛らしいところだ。
「どうするかな...」
駐車場まではそれなりの距離がある。それまでの時間を潰すとなれば...
「ゲーセンでも行くか」
丁度良いことに今は好きなアニメとのタイアップを行っているゲームがある。そのゲーム自体も友人と一緒にハマっていたモノなので、練習がてらプレイしに行くことにしよう。
....................................
「ああクソっ!」
思わず悪態を吐いてしまう。
それほどゲームに熱中していた。
「両替しないと...」
そろそろコインが無くなってしまう。俺は勢いのままに付近の両替機に1000円札をねじ込んだ。
ジャラジャラとコインが排出される姿を見ていたその時、ふと沙織のことが頭をよぎる。
...今何時だ?あれからどれくらい時間が経った?
慌てて時間を確認しようとスマホを探すものの―――
「あれ?」
ポケットに入っていない。財布は持っているが、スマホはどこにも見当たらない。
「まさか...」
先ほどまで遊んでいた筐体に置き忘れたのだろうか。
そう思いながらゲーム筐体まで戻るが、そこにも見当たらない。
「やばい...」
どうしたものか...そうだ。受付に聞いてみよう。
俺はコインゲームの付近に設置してあるサービスカウンターのところまで早足で向かった。...場所なら先ほどトイレに行った際に確認している。
そして、人混みをかき分けながら何とかカウンターへと辿り着いた。
「す、すみません」
「はい、どうされました?」
ゲームセンターのロゴがプリントされたTシャツを着ているスタッフさんに声をかけた。
「あの...スマホの忘れ物ありませんでしたか?」
「スマホですね。少々お待ちください。えっと...」
スタッフさんは何やらパソコンを操作しながら確認している。
「あ、3つほど届いていますね。機種やケースの特徴を教えていただけますでしょうか?」
「えっと、ケースは無くて、機種は―――」
スマホの機種名や特徴を説明した。
「あっ、その機種でしたら先ほど届いていますね。お持ちしますので少々お待ちください」
スタッフさんはそう言いながらバックルームに向かった。
「ふぅ...」
安堵のため息が出る。...よかった。まだ新品だというのに紛失してしまうなんて...これからは気を付けないと。
「お待たせしました。こちらのスマホでお間違いないでしょうか?」
スタッフさんが大事そうに抱えてきたスマホは、紛れもなく俺のスマホであった。
「それです。ありがとうございます」
「見つかって良かったです」
笑顔で手渡された。
顔認証でロックを解除されたので間違いなく俺モノだ。
「ちなみにどこにありましたか?」
「そこのトイレですよ。トイレは忘れ物が多いのでお気を付けください」
「なるほど...ありがとうございました」
スタッフさんにお礼を言い、サービスセンターを立ち去ろうとした。
「あれ?坂本?」
聞きなれた声だ。恐らく俺を呼んでいるのだろう。
「え?」
振り返ると、そこには学園でいつもつるんでいる友人が3人立っていた。
「やっぱり坂本じゃん。どうしたのそんなにオシャレして」
彼らも普通に遊んでいたのだろう。ちなみに、先ほどまで遊んでいたゲームを一緒にプレイしている仲だ。
「まあ、ちょっと...な」
さて...なんと説明したものか。
「まさか...デートか!?」
茶化した様子で軽口を叩く友人。
「俺たちが寂しく男同士で遊んでいるってのに...!」
「おのれ坂本め...!」
半分冗談、半分殺意の込められた視線を浴びる。
...なんとなく、優越感だ。
「ふっ...まあな」
本気ではないことは理解しているので、こちらも軽い口調で返す。
「このヤロー...で?相手は誰なんだ?学園の子か?」
最初に声をかけてきた奴が肩を組みながら訪ねてきた。
「それは...その...」
さて...どうしたものか。誤魔化した方が良いのだろうか。
「もったいぶるなよお前~」
他の連中も参戦してくる。
...よし。どうせみんな俺と沙織は仲が良いことを知っているんだ。話しても問題ないだろう。
「さ、沙織だよ」
問題無いとは思うが...少し恥ずかしいな。茶化してくれると良いんだが...
「え?」
「沙織って...海老沢沙織?」
しかし、帰ってきた反応は少し予想外なモノであった。
「あれ?海老沢さんって確かサッカー部の先輩と付き合ってなかったか?」
「は?」
どういうことだ?沙織が誰と付き合ってるって?
「あ、それ俺も聞いたことあるわ。3年のサッカー部のエースだった人でしょ?」
「え?は?」
3年生のサッカー部のエース...俺も顔くらいは知っている有名人だ。...女癖が悪いことでも有名だ。
「でも、あれ噂でしょ?サッカー部じゃ誰もあの先輩に逆らえないから、後輩に見張らせて部室に連れ込んでヤってるみたいな尾ひれが付いてる変な話だったよ」
...よかった。どうやらただの噂らしい。
「マジだって。去年は学園の外で待ち合わせして手を繋いで帰ってたらしいぞ」
...見間違えだ。絶対に見間違えだ。
「っていうか、海老沢さんならさっき見たけど...」
二人が言い合っていると、三人目が口を開いた。
「マジで?マジで海老沢さんとデートしてるのか?」
良かった...やっと信じてもらえる。
「うん。でも...海老沢さん、男の人と一緒だったよ?距離近かったし、その人が彼氏なんじゃない?」
「サッカー部の先輩?」
「ううん。もっと大人の人。なんか、楽しそうにその男の人の服選んでたよ」
多分、黒沢さんだ。
「ということは、お前、まさか...そういう分かりやすい嘘を吐くということは、俺たちに隠れてゲームの特訓でもしてたのか!?」
斜め上の推察だが、それを否定して、"その二人と一緒に出掛けているだけだ"と言えば良いというのに―――
「ば、バレちまったらしかたねぇな!」
と、咄嗟に誤魔化してしまった。
しかし...気になる事もある。
沙織は俺に何も言わずに黒沢さんと店を回っているのだろうか?律儀な彼女がそんなことをするとは思えない。
そう思い、スマホを確認してみると―――
「あっ!」
「ん?」
思わず声を上げてしまった。
もう1時間以上経っている...それに、沙織からは何度も着信が入っていた。
そして、最後にはメッセージが入っていた。
『勇太さんとお店を回っています。帰りに合流するときは電話してね』
と、書かれている。
...しまった。せっかく沙織と出かける口実を作ったというのに...自分からその機会をふいにしてしまった。
「おい、坂本。どうせ一人なんだろ?早く行こうぜ」
友人たちは既に目的のゲーム機に向かうつもりだ。
どうしたものか...ここで友人の誘いを断らないとダメだ。
「ああ、わかったよ」
ダメだと...分かっていたはずなのに。
俺は...そのまま友人たちと一緒にゲーム機の方まで歩いて行ってしまった。