それでいて世話焼きで優しくて清楚な彼女。そんな彼女に一番近い存在は隣に住んでいる自分だと思っていた。
そんな彼女を一途に思い続けたのは俺の気持ちは...誰にも負けないと思っていた。
清純な彼女の最初の恋人になるのは...俺だと思っていた。
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『優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ(https://syosetu.org/novel/294060/)』と世界線を共有しています。
―――――――――――――――――魁人視点
「ふぅ...」
金曜日。辺りはすっかり暗くなり、田舎路線の電車は終電を気にしなくてはならない時間帯だ。
「寒いな...」
気温は低く、夜風にかすかな冬の匂いが混ざっている。
塾からの帰り道はいつもこの時間だ。...もう少し早くても良いのかもしれない。
「...」
そういえば...沙織は指定校推薦の枠を獲得できたらしい。まあ、優等生である彼女であればそれは必然的であろう。それに、沙織の能力を鑑みると合格も可能性が高いだろう。
...ちなみに、予定通りの第一志望校だ。願書も既に提出済みであり、近いうちに選考も行われるらしい。
「...はぁ...」
俺はもう後には引けない。...しかし、先日行われた模試の結果は芳しくなかった。
絶望する程ではないのだが、確実というにはあまりにも心許ない点数であった。
「...」
住宅街の入口。存在感のある黒沢邸だが、玄関灯が点いているだけで人の気配が無い。
...実は、家主の所在は何となく知っている。
「あっ...」
自宅に近づくにつれて、隣家の幼馴染の家も見えてきた。
駐車場には1台の赤いオープンカー。...良かった。今日は黒沢さんは居ないらしい。
「...」
海老沢家に居るものだと思ったのだが...どうやら違うらしい。
ここ最近、黒沢さんは海老沢家に何度も出入りしている。
そして、黒沢さんが訪れない日は沙織も花蓮さんも彼の家を訪れている。
...俺はもう何日も海老沢家の敷居を跨いでいないというのに。
「...」
最近はロクに沙織と会話すらしていないかもしれない。それどころか、もう何日も顔を見ていない気がする。
「今は...」
海老沢家を見上げると、沙織の私室の窓にかけられたカーテンの隙間から光が漏れている。恐らく、彼女は部屋に居るのだろう。
そして、恐らく黒沢さんも―――
「...ただの勉強だ」
そうに違いない。あの沙織が...清楚で初心な沙織が...年上の男と二人きりだからと言って―――
「っ...!」
違う。絶対に違う。
俺は頭を振って余計な考えを霧散させた。
「...はぁ」
とりあえず...今は風呂にでも入ろう。きっと、勉強疲れでマイナス思考になっているんだ。
....................................
「...」
風呂から上がり、遅い夕食を摂った。
自室に戻ると、自然な動作で学習机の前に座った。
「...」
勉強をしよう。そう思うが、どうにも集中できない。
「...」
何となく、窓の外に視線を向けた。
...相変わらず駐車場には赤いオープンカーが1台。
「ふぅ...」
...久々に沙織の声が聞きたい。
「...よし」
そうなればやる事は一つ。
俺は少し長い竹尺を取り出して窓を開けた。
「寒っ...」
夜風が流れ込み、秋というには少し冷たい空気が肌に沁みる。
「よっ、と」
窓から身を乗り出し、沙織の部屋の窓を叩いた。
「...っ...!」
割れないように、傷をつけないように。しかし、気づいてもらえるように。
『...?』
そうしているうちに、淡い色のカーテンがひらりと動いた。
そして...沙織がカーテンの隙間から顔だけ出してこちらを覗いていた。
「っ...!」
笑顔で手を振った。
久しぶりに見た幼馴染の顔は...相変わらず可憐だ。思わず笑みがこぼれてしまう。
『...!』
対して沙織は少し驚いている様子だ。
そして、俺に対して少し待つようにジェスチャーをして、再びカーテンの向こう側へと姿を消した。
「...」
待つこと数分。直ぐに沙織が再びその可愛らしい顔を見せてくれた。
「ご、ごめんね。待たせちゃって...」
申し訳なさそうな少し赤い顔。
彼女はまだ制服のブラウス姿であり、まだまだ就寝の予定ではなさそうだ。
「いや、こっちこそごめんな。急に話しかけて」
「ううん、私は大丈夫だよ。どうしたの?」
胸の前でぎゅっと両手を握っている沙織。その仕草は何とも可愛らしいのだが...一体どうしたのだろうか?寒いのだろうか?
「いや、特に何かある訳じゃないんだが...」
...しまった。特に何も考えずに話しかけてしまった。
「そうなの?」
「っ...」
小首を傾げている沙織。
...ん?
「...」
何というか...沙織の服に少し違和感がある。沙織はいつもブラウスの上にクリーム色のカーディガンを着ているはずだ。案外寒がりなので、この時期はパジャマを着ていても上から何か羽織っているハズなのに...今日は薄いブラウス一枚だ。
「沙織、悪い...寒かったか?」
窓を開けているのだから寒いに決まっているじゃないか。俺は何を聞いているんだ。
「え?うーん...今はそんなに寒くないかなぁ...」
「ん?」
珍しいな...沙織は寒がりだと思っていたのに。
「あ...さ、さっきまでストレッチしてたから、かな?」
少し慌てた様子で取り繕う沙織。...別に怪しむつもりは無かったのに、そんな態度をされては邪推してしまう。
「...まあ、沙織も溜まるよな」
...しまった。思わず口に出てしまった。
「溜まるって...何が?疲れとか?」
不思議そうな顔で小首を傾げている沙織。良かった...沙織が純粋で。
「ま、まあ、そんなところだ。ところで...その、受験対策は...順調か?」
まるで思春期の娘に対して距離感がつかめない父親のような聞き方だ。
「ふふふっ...順調だよ。勇太さんにも教えてもらってるし、先生も完璧だから大丈夫だよって言ってくれたし」
ふわりと微笑む沙織。...そうか。沙織は順調なのか。
「...そうか」
「魁人は?順調?」
優しい笑顔で尋ねる沙織。...純粋な質問だ。
「まあ...ボチボチかな」
「そっか...魁人も頑張ってるんだね」
柔らかい笑みを浮かべて、窓の淵に手をかける沙織。
「...っ...」
沙織はブラウスのボタンを一つ外しており、その隙間から白い肌が見えていた。それに、ボタンの隙間から深い谷間が見えていた。
「さ、沙織...その...ん?」
谷間が見えている事を指摘しようとしたのだが、他の違和感に気が付いてしまった。
「?」
小首を傾げている沙織。
「なあ...こんなこと言って変態だと思わないで欲しいんだが...その...」
「なあに?」
不思議そうな顔だ。
「その...ブラウスのボタン、ズレてないか?」
襟に違和感を感じるので注視したところ、一番上のボタンが余っている。几帳面な沙織らしくないミスだ。それは...まるで慌てて服を着たような―――
「えっ!?」
慌てた様子で自分の服装を確認する沙織。
「!?」
その際...見えてしまった。ブラウスの隙間から見える、ほっそりとしたお腹と、黒いレースで装飾されたショーツと...大きな乳房の南半球が。
「さ、沙織!?」
「ご、ごめんね。全然気が付かなかった...っ」
顔を真っ赤にしている沙織。...さすがにこれ以上は指摘できなかった。...話題を変えよう。
「い、いや...そ、それにしても...す、スタイル良いよな、沙織って」
「えっ?あ、ありがとう...?」
...余計に困惑させてしまった。
「それに...その、珍しいな、その髪型」
「あっ...そ、そうだね」
髪を耳にかけながら視線を逸らす沙織。
いつもはポニーテールにしてまとめられている髪が解かれており、いつもより少し大人っぽい。
「そ、その髪型も―――」
似合っている、そう言いかけたその時、沙織のスマートフォンから通知音が聞こえてきた。
「あっ...」
スマホを手に取り、画面を確認している沙織。
ほんのりと笑みを浮かべた後に再び顔を上げた。
「あ、ご、ごめんね魁人。何か言いかけてなかった?」
「いや...何でもないんだ」
柔らかい笑みを浮かべている沙織。...俺は言葉を飲み込んでしまった。
「そっか。ごめんね、お風呂の準備が出来たみたいだから...また、学校で」
「あ、ああ」
明日からは三連休なのだが、その間は俺と会うつもりが無いらしい。
「じゃあ、おやすみ」
「ああ...おやすみ、沙織」
ふわりと笑みを残して、沙織は窓を閉めてしまった。
「...」
残されたのは秋の終わりを感じさせる冷たい夜風と、中途半端に手を振っている哀れな男が一人。
「はぁ...」
哀愁交じりのため息を漏らしても誰も文句を言わないだろう。
「...」
聞きたい事は多々ある。
...どうしてブラウスのボタンがズレているのか。
...どうして髪を解いているのか。
...どうしてブラジャーを着けていないのか。
...どうしてそんなにセクシーな下着を身に着けているのか。
.........どうしてスカートを履いていないのか。
「...っ...」
嫌な想像ばかり膨らんでいく。
...違う。沙織は一人でシていたんだ。そうに違いない。
「...」
その時、海老沢家の1階の一室に電灯が灯った。あれは...浴室だ。何度も行き来しているので位置は覚えている。
『...♪』
『...』
『...♡』
微かに声も聞こえてくる。
多分...沙織が入浴しているのだろう。
「...っ...」
思い起こされるのは先日訪れた早朝の海老沢家の出来事。風呂上がりで下着姿の沙織が脳裏に焼き付いている。
...きっと、あの下着の下には―――
「...何を考えてるんだ...俺は...」
バカな妄想に耽る自分を恥じた。
『...っ♡』
『っ...』
耳を澄ませると相変わらず風呂場から声が微かに聞こえている。
「...え?」
風呂場から...声?それは少しおかしな話だ。
沙織は独り言が多いというワケではない。考えられる事は、誰かと通話でもしながら風呂に入る事かもしれないが...先程、沙織はメッセージを確認した後にスマホを窓辺に置いてカーテンを閉めていた。今でもカーテンの隙間から彼女のスマートフォンが見えている。
ということは...
残された可能性といえば...
「...あっ」
何を馬鹿な事を考えていたんだ。
今、海老沢家に黒沢さんは居ないではないか。
ということは...珍しく沙織が花蓮さんと一緒にお風呂に入っているということだ。
「...」
...年頃の娘と一緒に風呂に入るだろうか?
それはそれで不思議なのだが、それ以外に考えられない。
「...まあ良いか」
何とも気が抜けてしまった。今日はもう寝ることにしよう。