それでいて世話焼きで優しくて清楚な彼女。そんな彼女に一番近い存在は隣に住んでいる自分だと思っていた。
そんな彼女を一途に思い続けたのは俺の気持ちは...誰にも負けないと思っていた。
清純な彼女の最初の恋人になるのは...俺だと思っていた。
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『優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ(https://syosetu.org/novel/294060/)』と世界線を共有しています。
「それでは、必要な書類を揃えますので、また後日ご連絡しますね」
無事、花蓮さんと黒沢さんは売買契約を結び、フリマアプリに掲載されていたページにはsold outの文字が表示されている。
「はい、ありがとうございます♪」
「明日にでも書類は準備できますので...ナンバープレートにこだわりが無ければ直ぐにでも名義変更できると思いますよ」
管轄地域が同一なのでナンバープレートが変わらないから、とのことだ。
「ありがとうございます。お金は直ぐに振り込みますね」
「こちらこそありがとうございます。別に急ぎはしませんのでごゆっくりどうぞ。...では、私はこれで失礼します。またお伺いしますね」
「はい、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
美人母娘に見送られ、黒沢さんは帰路に就いたのであった。
「ふぅ...ふふふっ」
「もう...一言相談してくれても良かったでしょ?」
ため息交じりの沙織。
「ごめんね...でも、本当に衝撃的だったの。あの車...可愛くて、綺麗で...あの人の事を思い出しちゃったから」
「まあ...お母さんが良いなら良いんだけど...私も乗せてね?」
「もちろんよ。今度一緒にドライブしましょうね」
なんとも微笑ましい母娘の会話であった。
「ごめんね、魁人君。こんな時間まで付き合わせちゃって...今日もお母さん遅いんでしょう?」
「あ、はい。いつもと一緒だと思います」
スマホに届いた母からのメッセージには、今日は遅番なので帰りが遅くなるという旨が記されていた。
「それならウチで食べちゃいなさい。久しぶりに私がお料理作っちゃうから♪」
「やったー」
腰に手を当てて得意げな表情の花蓮さんと、無邪気に喜ぶ沙織だった。
「あ、ありがとうございます...」
なんだか...久しぶりの海老沢家だ。
沙織がウチに来ることは珍しくないのだが、俺が沙織の家に行くというのは何年ぶりだろうか。
その後は、なんとなく心躍る思いで海老沢家の夕飯にお呼ばれしたのであった。
――――――――――――――――
数日後、今日は休日なので自室にて勉強していた。...しかし、なんとなく気合が入らない。
そんな中、ぼんやりと窓の外を眺めていると―――
「ん?」
軽快な排気音と共に、真っ赤なオープンカーが海老沢家の前に停車した。
「あ...」
運転席からは例の若い男性...近所に住む黒沢さんが姿を見せた。書類を届けに来たのだろうか?
彼は玄関のチャイムを鳴らし、玄関扉の前で待機していた。
すると―――
「沙織...」
玄関からは花蓮さんではなく、その一人娘である沙織が姿を見せた。
ちなみに、俺の部屋は二階の角に位置しており、沙織の部屋と隣同士であると同時に隣家の玄関先も確認することが出来る。
『...』
『...♪』
二人は何やら楽しげに会話している。
...しかし、沙織はなにやら不思議な恰好をしている。
上下を体操服のような服を着ているのだが...サイズが合っていない。多分、中学時代のモノだろう。そして、頭にはバンダナを巻いており、両手にはゴム手袋を装着していた。...体操服のサイズが合っていないせいで沙織の煽情的なボディラインが浮き上がっている。故に思わず見惚れてしまった。
そんなことより...一番不思議なのは片手に蛍光灯を持っているという点だ。
『...?』
『!...』
それが気になったのは黒沢さんも同じらしく、蛍光灯を指さして何か尋ねていた。
沙織は顔を赤くしながら慌てており、あわあわと慌てふためいている。
そして―――
「あっ!」
足を踏み外し、玄関先の段差で転びそうになっていた。
蛍光灯を片手に持っているので非常に危ないシーンだ。
『...!!』
『...!』
...しかし、沙織は転倒することも破片でケガをすることも無かった。
『...!?』
『...?』
黒沢さんが沙織を抱きとめたのだ。
零れ落ちた蛍光灯をキャッチした後、転びそうになっている沙織を身体で抱きとめる。
それは、はたから見ても見事なモノであった。
沙織は顔を真っ赤にしており、黒沢さんは沙織の顔を覗き込むようにして何か尋ねていた。
「...」
黒沢さんは沙織を優しく抱き起し、彼女の全身を確認していた。
沙織はというと...顔を赤くしながらもふわりと微笑んでいる。
...まるで恋する少女のような可愛らしい笑顔であった。
『...?』
『...』
黒沢さんは蛍光灯を指さしながら何か尋ねている。
「え...」
そして...沙織が頷くと同時に二人は家の中に入ってしまったのであった。
...今、海老沢家には沙織と黒沢さんの二人しか居ない。
「...」
嫌な胸騒ぎがする。
...いや、きっと何もないはずだ。黒沢さんは書類を持参したに過ぎないはずだ。こんなことで都度確認していると、それこそ俺が面倒臭い男だと思われてしまう。
「でも...」
でも、気になる。
何年も前から恋焦がれている少女の事なのだ。そんな想い人が知らない男と二人きりだなんて...気にならないワケがない。
「...」
考えた。何度も彼女に電話をかけようかと悩んだ。
...結局、俺は電話出来なかった。どうせ夕飯はいつものようにウチで一緒に食べるはずだ。その時にでも聞けばいい。
しかし...その日、沙織は家から出てこなかった。
............................
あれから数日。平日は普段通り沙織はウチに来るのだが、それでも時々姿を見せない日が増えた。
特に連絡が無いまま来ない事は珍しくないのだが、最近はその頻度が増えている気がする。
更に休日は会えない時間が格段に増えた。
駐車場には赤いオープンカーが停められているのだが、それは花蓮さんの車だろう。
しかし...時折黒沢さんの姿を見かけるのだ。近所なので不思議ではないのだが、どうにも不安になる。
「...よし」
今日は平日。もう学校に行く支度は出来ている。それに、もうすぐ沙織もやってくる。その時にでも話を聞こう。
「あれ?魁人起きてたの?」
普段通り、合鍵で家に入ってきた沙織。...ちなみに俺の親から沙織に渡されている。それほど信用されているのだ。
「ああ。たまたま早く起きたんだ。ご飯も出来てるよ」
ついでに朝食も作っていた。
...まあ、トーストとヨーグルトだけど。
「おお~えらいえらい。ありがとう、魁人」
優しく微笑む沙織だった。
「ほら、食べようか」
「うん。いただきます」
向かい合って座り、朝食に手を伸ばした。
「今日はありがとう、魁人」
マーガリンをトーストに塗りながら沙織が口を開いた。
「...別に大した事はしてないよ。それに、沙織にはいつも作ってもらってるし」
「私こそ大した事はしてないよ~。それに、魁人は受験勉強を頑張ってるんだし」
...確かに受験勉強を頑張らないといけない時期ではある。
しかし、それは沙織も同じこと。もうすぐ推薦入試の試験があるはずだ。
「沙織も入試の対策があるから大変だろ?」
「まあね~だから最近はずっと家に籠ってるの。リモートで勇太さんに小論文の添削してもらったり、時々家に来てもらって面接の練習したりしてるよ~」
トーストをかじりながら語る沙織。
...待て。"勇太さん"って誰だ?
「さ、沙織...勇太さんって誰の事だ...?」
どこかで聞いた覚えはあるが、誰の事か思い出せない。
「あれ?覚えてない?ほら、お母さんに車を売ってくれた人だよ」
花蓮さんの車...あ、黒沢さんの事か。
「ああ、あの人か」
「思い出した?」
名前はあの日一度聞いただけなので覚えていなかった。
しかし、素性を聞けばそれも思い出すことが出来た。
「...え?」
沙織はなんて言った?
小論文の添削?面接の練習?あまつさえそれを彼女の家にて二人きりで?
「どうしたの?」
不思議そうに小首を傾げている沙織。
「さ、沙織...そういうのは学校の先生に頼むモノじゃないのか?」
「先生にもやってもらってるよ~。でも、先生って忙しいからお休みの度にお願いしてると申し訳ないでしょ?だから先生は学校に行ってる間だけ。お休みの日は勇太さんと一緒に練習してるの」
確かに学校の先生は多忙であるという話はニュースで聞いた。
でも...黒沢さんも普通に働いているはずだ。それに、素人より受験対策としては慣れているはずの学校教師の方が適任なのではないだろうか?
「く、黒沢さんは小論文や面接が得意なのか?」
「うん。前働いていた職場で似たような仕事を担当してたみたい。今は違う仕事らしいけど、それでも凄く教えるのが上手なの」
楽しげに語る沙織。その表情に何か隠しているような気配は無い。
どうやら本当に入試対策をしているだけのようだ。
「それに、勇太さんって結構頼りになるんだよ?」
「どんなところが?」
...気になる。彼の何が沙織を夢中にさせているのか。どうすれば沙織の関心を俺に向けさせる事が出来るのか。
「お母さんの車のメンテナンスもそうだけど、日曜大工とかも得意なの。ほら、前に魁人にお願いしてた事あったでしょ?」
「あ...えっと、電球を替えたり、本棚を組み立てたりしたい...とか?」
そういえば、少し前にお願いされていた気がする。
...でも、面倒で後回しにしていた。
「うん。魁人忙しいから勇太さんに手伝ってもらったの。...本当はほとんどやってもらったんだけどね」
えへへ...と恥ずかしそうにはにかむ沙織。
...その表情は可愛らしいけれど、俺の心境は激しくかき乱されていた。
「そ、そうか...」
そう答えるのが精一杯だった。
「うん。だから私の事はもう気にしないで、魁人は受験勉強に集中してね!」
屈託のない笑顔。沙織は純粋に俺の事を思ってくれているのだ。
..."もう魁人には何も頼まないから"と聞こえたは俺の勝手な解釈のはずだ。
「そう...か。ありがとう」
何とか声を絞り出したのであった。
――――――――――――――――――
とある平日、放課後のひと時の事だった。
「ねえ、今年の秋祭りどうする?」
「え~どうしようかな~...でも、なんか最近良い噂聞かないよ?」
「そうなの?」
「うん...なんか、タチが悪い不良がウロウロしてるって...」
「え~...」
という会話が聞こえてきた。
...そうか。もうそんな時期なのか。
秋祭りとは、自治体主催の地域のお祭りだ。
内容としては出店が立ち並ぶ一般的なお祭りだ。
また、秋祭りとは言うがまだまだ暑い日が続き、実際は夏祭りに近いモノだ。
この学園は遠方から通学している生徒が少なく、殆どが地域のお祭りに馴染みがあるのだ。
なのでこの時期はお祭りを誰と行くかという話題が良く聞こえてくる。
「...」
かく言う俺もそのうちの一人だ。
俺は小さい頃に両親や沙織と訪れたきりであり、今回は久々に沙織を誘って行こうかと画策している。
「...よし」
身支度を整え、隣のクラスを目指した。
廊下に出ると、既に昇降口を目指す生徒で溢れており、人波をかき分けながら隣のクラスに足を運んだ。
「えっと...」
人が疎らの教室を見渡し、後ろの方に数人の女子生徒を見つけた。
その中でも一際目立つ美貌の持ち主の元を目指す。
「沙織」
「あ、魁人。もう帰る?」
俺は何も用事が無い。しかし、沙織は大丈夫なのだろうか?
「俺は大丈夫だよ。沙織は?」
「私も大丈夫だよ~。じゃあ帰ろっか」
と、にこやかに答える沙織。
友人たちに笑顔で手を振り、既に整えられていた通学カバンを肩にかけた。
「...」
白いブラウスに灰色のチェック柄のスカートが良く似合っている。
この学園の制服を一番着こなしているのは沙織なのではないだろうか?
「魁人?帰らないの?」
「あ、ああ...今行くよ」
不思議そうな顔をしている沙織に続いて教室を後にした。
.....................
「まだまだ暑いね~」
「そうだな...」
パタパタと手で顔を仰いでいる沙織。
美しい黒髪はポニーテールにされており、少し汗ばんだ白いうなじが見えている。
「...」
沙織はどのような瞬間を切り取っても絵になる。
それは学校側も分かっている事らしく、沙織の写真が載った学校のパンフレットがネットオークションに出品されて問題になった事もある程だ。
「な、なあ...沙織」
「なあに?」
バス停までの短い道のり。幸いな事に他の生徒の姿は無い。
「今年の秋祭り...沙織は誰かと行く予定があるのか?」
なんとも控えめな問いかけだ。
「うーん...」
沙織は何やら考えている様子だ。
...しまった。既に誰かに誘われていたか?
そういえば...前に誘った際にも友達と行く予定だと話していたことがある。ひょっとすると今年もその限りなのかもしれない。
「ごめん...先約があるなら良いんだ」
「あ、ううん。今年は違うんだけど...まだ考えて無かったから。魁人は?」
「俺は...その...」
口籠ってしまった。
何をしているんだ...早く誘わないと。
「魁人?」
沙織は不思議そうに顔を覗き込んでいる。
「さ、沙織、今年は...その...一緒に行かないか?」
「それは別に良いけど...大丈夫?私なんかと一緒に回ってもつまらないんじゃない?」
普段から一緒に居るからという意味だろうか?
それなら愚問だ。俺は沙織と会話するだけでいつも楽しいのだから。
「そんなことは無い。ただ...その...久々に沙織と一緒に行きたいんだ」
「うーん...」
沙織の反応は微妙なモノだった。
「...ごめん。無理にとは言わない」
「あ、ううん。魁人と行きたくないとかそんな事は無いんだけど...ほら、聞いたことあるでしょ?ここ数年の秋祭りの噂...」
そういえば...クラスの女子が何か話していた気がする。
「えっと...不良がどうとか...って話?」
「うん...お祭りは楽しみなんだけど、ちょっと不安かも」
特に沙織のような美人は狙われるのではないだろうか...?
...でも、どうしても俺は沙織と一緒にお祭りを回りたい。
「それなら...あまり遅くならないように帰るならどう?」
「うーん...それなら...良いよ」
なんとも微妙な返事ではあるが、どうやら了承してくれたらしい。
「ありがとう...うれしいよ、沙織」
「あ、うん。私もお祭り自体は楽しみだから。...ふふふっ、去年も出てたチーズたこ焼きの出店に行きたいなぁ」
チーズたこ焼き...確かに気になる。
「俺も食べてみたいな」
「でしょ?でも...毎年同じお店が出るとは限らないんだよね~。4年くらい前に食べた焼きそば屋さんも好きだったけど、最近は出てないんだよね」
随分詳しいな...さすがは毎年参加している事はある。
「今年は出てると良いな」
「うん♪あ、そうだ。今年は浴衣買わないと...」
そう呟く沙織。
...しかし、以前に浴衣姿でお祭りに行く彼女を見た気がする。
「浴衣持ってなかったか?」
「あ、うん。有るには有るんだけど...去年のお祭りで破れちゃって」
「まじか...」
アレってそんな簡単に破れるモノなのか...?
「それなら...今度買いに行く?」
さりげなく誘う事が出来たはずだ。
「うーん...大丈夫だよ。ゆっくり選びたいし」
「そ、そうか...」
「うん。ふふふっ...当日までのお楽しみ、だよ?」
少しいたずらっぽく笑う沙織。
...うん。可愛い。
「それなら...楽しみにしてるよ」
「はーい♪」
よし。ひとまずはお祭りに誘うことが出来たぞ。
...もう、今回のお祭りで告白すべきだろうか?
...わからない。