それでいて世話焼きで優しくて清楚な彼女。そんな彼女に一番近い存在は隣に住んでいる自分だと思っていた。
そんな彼女を一途に思い続けたのは俺の気持ちは...誰にも負けないと思っていた。
清純な彼女の最初の恋人になるのは...俺だと思っていた。
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『優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ(https://syosetu.org/novel/294060/)』と世界線を共有しています。
―――――――――――――――――魁人視点
翌朝、俺はかなり早い時間に目が覚めた。
「...」
寝付けなかったワケではない。寧ろよく眠れたと思う。
しかし、どうしても考えてしまう。
―――どうして、沙織は汗をかいていたのか。
―――どうして、沙織はスカートを履いていなかったのか。
―――どうして、沙織のブラウスのボタンがズレていたのか。
―――どうして、沙織はブラジャーを着けていなかったのか。
―――どうして、沙織は俺が声をかける直前まで服を脱いでいたのか。
「...」
そんなことばかりを考えてしまう。
まあ、沙織が家でナニをしようと俺にとやかく言う権利が無い事は理解している。
...しかし、気がかりな事はもう一つある。
沙織はその薄着のまま部屋を後にしたのだ。俺との会話を急に切り上げて、ほんのりと笑みを浮かべたまま、軽い足取りで。
そして、浴室から聞こえてきたのは、実に楽しそうな話し声。
沙織の声しか聞こえなかったのだが、とても独り言とは思えない。
確かに海老沢母娘は非常に仲が良いが、あれほど楽しそうに話しながら一緒に風呂に入るだろうか?...まあ、他所の家庭の事なのでわからないが。
しかし、どうしても脳裏をよぎるのは別の存在だ。
ここ最近で沙織、しいては海老沢家と急激に距離を縮めている隣人―――黒沢勇太という謎の男だ。
「沙織...」
あの純粋な沙織が、どこの馬の骨ともわからない男の毒牙にかかっていないかと心配になる。
しかし、沙織はあの男に惹かれ始めている気がする。以前から薄々感じてはいたが、ここ最近は特にそう思う。
「...」
だが、俺には何も出来ない。
先に想いを伝えようか?...いや、そんな勇気はない。それに、いま告白しても上手くいかない気がする。
「...はぁ」
重い溜息が漏れてしまう。
...考えても無駄だ。少し早いけど起きよう。
―――――――――――――
気まぐれに―――本当に気まぐれに外に出た。
まだまだ物音が遠い早朝、今日は3連休の初日なので実に静かなモノだ。...気晴らしに散歩にでも出かけるか。
「お?」
海老沢家の駐車場には車が停められていない。
「花蓮さん...今日も仕事なのか」
昨日の夜は花蓮さんの車が停められていたはずだが...本当に忙しい人だ。
そんなことを思いつつ、俺は海老沢家の反対方向へと足を運んだ。
「寒っ...」
一応、少し生地の厚いパーカーを着ているが、まだ日が昇りきっていないこの時間はよく冷える。
「...」
幹線道路に面した際、右に曲がるか左に曲がるか考えた。
右に曲がれば市街地、左に曲がれば公園や最寄り駅が近づいてくる。...そして、左手には黒沢氏の自宅がある。
「...」
俺は市街地に背を向けて歩き出した。
...黒沢家は角を曲がってすぐだ。
「あっ...」
黒沢家の駐車場には黒いミニバン1台のみ。
ということは、黒沢氏は自宅に居ないという事。そして、海老沢家の駐車場も空だ。という事は―――
「ふぅ...」
―――やはり、俺の心配は杞憂に終わったという事だ。
こんな朝早くから居ないという事は、恐らく昨日から黒沢氏は不在なのだろう。やはり、昨日の沙織の話し相手は花蓮さんなのだ。駐車場の赤いオープンカーはやはり花蓮さんの車なのだ。
「...よし」
実に気分が良い。昨日から感じていた焦りが嘘のように消え去った。
踏み出す足がなんと軽い事か。
今なら勢いで沙織に告白してしまいそうだ。
「~♪」
鼻歌を歌いながら少し走り出してしまった。
ああ...なんということか。世界はこんなにも美しいなんて。
「そういえば...」
昨日、黒沢氏が海老沢家に居なかったという事は、やはり...昨日、沙織は一人エッチをしていたのだろう。
「...んふ」
我ながら気持ち悪い笑みが漏れてしまった。
...昨日の沙織の姿が瞼の裏に焼き付いている。
すらりと伸びる白い素足、清楚イメージとはギャップのある大人っぽい下着、薄いブラウスに透ける豊満な乳房。緩いボタンの隙間から見える深い谷間。
彼女は服をはだけて、あの大きな乳房を揉みしだきながら電動マッサージ器を局部に押し当てていたのだ。あの可愛らしい相貌を快楽で歪ませながら、あの可愛い声で喘ぎながら...!
その全てが俺の股間によく響く。俺は、この世界で一番最初にあの四肢を好きに出来る権利に最も近い男なのだ。沙織が身体を開いてくれる最初の男になれるかもしれないのだ!
「よし...よぉしっ!」
思わず雄叫びを上げてしまう。
幸い、俺の他に歩道を歩いている人は居ない。もし、今の俺の奇行を見られていたら、きっと不審者情報が地域の回覧板に載る事になるだろう。
「♪」
しかし、そんな事はどうでも良いのだ。
今の俺には...沙織が居るのだから!
「お?」
スキップ交じりの軽い足取りで歩いていたところ、いつの間にか少し遠い最寄りのコンビニに辿り着いていた。
「うーん...」
今は気分が良いので、少しお高いサンドウィッチでも食べたい気分だ。
「よし」
食べよう。今の俺は最強だ。
俺はスキップしながら自動ドアをくぐり抜けた。
そして、レジの横を通り抜け、真っすぐに壁際の冷蔵陳列棚へ向かう。
「さぁて」
何を食べようか。
レジの店員から視線を向けられている気がするけれど、今はそんな事どうでも良い。今はとても気分が良いからな!
この和牛入りのお高いサンドウィッチにしようか、はたまた贅沢に内容量が盛られた大盛のサンドウィッチにしようか、そんな事を考えていたその時―――
「か、魁人...?」
まるで鈴の音が鳴るような、柔らかく透き通る声が聞こえてきた。
「.........え?」
その声の主を、俺はよく知っている。
「お、おは、よう...」
そこには...俺の天使、もとい幼馴染の海老沢沙織が立っていた。ワンピースタイプのパジャマにオレンジ色のパーカーという、なんともラフな恰好だ。
...しかし、なんとも気まずそうな様子だ。
「おはよう、沙織。早いな」
俺は笑顔で挨拶を返した。
「えっと、そう...だね」
そわそわと落ち着かない様子の沙織。
...少し冷静になれば気が付いた。今の俺は完全に不審者だ。
「わ、悪い...ちょっとはしゃいでた」
「あ、えっと...そう、なんだ」
一応、弁明はしたのだが、それでも沙織の態度はどこか他所他所しい。
「えっと...沙織も朝ごはんを買いに来たのか?」
「そう、だね。そんなところ」
この時間にそれ以外の目的で来る事があるのだろうか?...いや、あり得るか。コンビニなのだから。
「...っ...」
しかし、それにしても何やら落ち着かない様子だ。
それに、左手に持っている商品を隠しているように見える。...これでは万引きを疑われるのではないだろうか?
「沙織、その手に持っているのは―――」
何だ?と聞こうとした。しかし、俺は沙織の奥から歩いてくる人物に視線を奪われてしまった。
「おや?おはよう、魁人君。早いね」
そこに立っていたのは、Tシャツにハーフパンツ、その上からオレンジ色パーカーを着ている黒沢氏であった。...まるで沙織とペアルックかのようだ。
「......え?」
間抜けな声が漏れてしまった。
「っ...」
気まずそうに視線を逸らす沙織。
「く、黒沢、さん...どうして...」
晴れやかな気分が一瞬にして陰り、足がガクガクと震えてきた。
ドクドクと心臓が跳ねる音が聞こえて、額には脂汗が滲み始めた。
「どうしてと言われてもね...買い物だよ?沙織と一緒に」
当然のように、さも普段からしているように、それが当たり前かのように、沙織の頭を撫でながら答える黒沢氏。
沙織も特に嫌がっている様子は無い。
ただただ、申し訳なさそうにこちらを見ている。
「こ、こんな...朝、早くに...?」
「うん。あ、別に最初から沙織と一緒というワケではないよ?コンビニに向かっている途中で拾ったんだ」
自然と状況を説明する黒沢氏。
「そうなのか?」
沙織にも尋ねてみた。
「う、うん。私の方が早く起きたから...あ、朝ごはんを買いに出掛けていたの」
「なるほど...」
...え?
「私の方がって...どういう意味だ?」
まるで一緒に寝ていたかのような言い方ではないか。
再び尋ねようとしたところ、黒沢氏が沙織の前に立ちはだかる。
「今日は朝から一緒に面接の練習と大学の下見に行く予定なんだよ。本当は俺が迎えに行こうとしていたんだけど、沙織が早起きさんだからね」
さらりと説明する黒沢氏。嘘を吐いている様子は無い。沙織の様子は...黒沢氏の後ろに居るので分からない。
「そう...なんですね」
釈然としないが、それを否定できるほどの根拠もない。
「そうそう。あ、沙織、ちょっと電話してくるから、魁人君の分も一緒に払ってあげて?魁人君、好きなのを選んで良いからね」
そう言って沙織に5000円札を渡す黒沢氏。
「ありがとう、勇太さん...♡」
ほんのりと頬を染めながら黒沢氏を見上げる沙織。
「あ、ありがとうございます」
その笑顔は、胸が締め付けられるほど、可愛かった。
しかし、その笑顔は...俺に向けられていない。
「外で待ってるよ、沙織」
「う、うん」
先ほどの他所他所しい態度は軟化したものの、それでもほんのりと頬が赤い。
「魁人、そういう事だから、その...私が言うのも変だけど、好きなのを選んで?」
「そ、そうだな」
俺は...一番安いミックスサンドを手に取った。
「それでいいの?」
「あ、ああ。好きなんだ、コレ」
本当は和牛入りの豪華なサンドウィッチを買おうとしていた。でも...選べなかった。
まるで施しを受けているような気分なので、俺の小さなプライドが許さなかった。
「美味しいよね。私はレタスサンドが大好き」
ほんのりと笑顔を見せる沙織。しかし、相変わらず左手は隠している。
「あ、ああ...」
パタパタとサンダルの音が聞こえる程に軽い足取りでレジへと向かう沙織。その左手には―――
「え...?」
何も持っていなかった。
それに、沙織の服はどちらもポケットが無さそうなデザインなので当然ながら隠すところは無い。
「どうしたの?」
くるりとこちらに振り返る沙織。
サラサラの黒髪がふわりと舞い、甘くいい香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
「な、なんでもない」
「そう?」
不思議そうな顔で小首をかしげる沙織。
そして、再び前を向いたと思いきや、更にもう一度こちらに振り返った。
「他にも買うモノがあるから、魁人は外で待ってて?」
「あ、ああ」
何か日用品を買うのだろう。俺は素直に言う事を聞いて外へと向かった。
「あれ?お金足りなかった?」
それと同時に、黒沢氏が店内に戻ってきた。
「あ、ううん。大丈夫足りる...と、思う。あ、魁人、すぐに行くから大丈夫だよ」
自信がなさそうな様子の沙織だ。
「ああ。待ってる」
その言葉に従い、店内を後にした。
「...」
外から二人を観察していると、黒沢氏は買い物カゴを沙織に渡していた。
そして、店内をしばらく歩き回り、日用品コーナーに立ち寄った。
すると、二人はしゃがみこんで何かを物色し始めて、何やら商品を一つ手に取り、カゴの中に入れていた。
そんな様子を見ていたその時、ふとある事に気が付いた。
「沙織...あんな恰好で家から歩いてきのか...?」
あのワンピースは、恐らくパジャマだ。今まで着ている姿を見たことは無いけれど、普段着にも見えるが、何となく...そんな気がする。
それに、化粧も全くしていない。まあ、沙織はメイクせずとも絶世の美少女だが。
「...」
それはともかく、あの緩いサンダルで歩いて来たのだろうか?
一応、最寄りのコンビニではあるが、歩くとそれなりの距離がある。俺も普通にスニーカーを履いている。
「そういえば...」
ラフな恰好といえば、黒沢氏もそうだ。一応、足元はスニーカーを履いているけれど、それは車を運転するからだろう。
「あ...」
そんな事を考えていると、いつの間にか沙織がレジに向かっていた。
「え?」
不思議なことに、沙織がレジの目の前に立っており、黒沢氏は斜め後ろに立ってその様子を見ている。
「...」
レジに立っているのは若い男性の店員だ。彼は無表情でカゴの中身をスキャンしていたのだが、一つの商品を手に取ったその時、一瞬目を見開いて沙織と黒沢氏を見ていた。
沙織の表情は見えないけれど、少しうつむいているようにも見える。黒沢氏はいたって自然な表情だ。少し笑みを浮かべているくらいだ。
しかし、それ以上は何も反応せずに再び商品をスキャンして、ビニル袋に商品を入れ始めた。
沙織は少しうつ向いたまま、レジにお金を投入していた。そして、釣銭とレシートを黒沢氏に手渡している。
そして、沙織にレジ袋を受け取るように促し、沙織は店員からレジ袋を受け取っていた。
「...え?」
沙織と黒沢氏がこちらに向かってきた。
俺の視線は沙織に釘付けだった。もちろん沙織が魅力的だからという事も理由の一つだが、もう一つの理由は...パーカーのファスナーが下ろされている事だ。
「お、お待たせ、魁人」
顔を真っ赤にしている沙織。胸元を片手で隠しているが、パジャマ故に胸元が緩いので、パーカーの隙間から深い谷間が見えている。
「お、おう...」
恥ずかしいなら隠せばいいのにと思いつつ、やはりその胸元に視線を吸い寄せられてしまう。
「沙織、パーカーのファスナーが落ちてるよ?」
黒沢氏はごく自然に沙織の後ろから抱き着くようにして手を回し、ファスナーを上まで上げた。
「むぅ...」
頬を膨らませて黒沢氏に振り返る沙織。しかし、再びこちらに振り返る頃には表情を戻していた。
「か、魁人はコレだよね?」
沙織はミックスサンドと温かい緑茶を取り出した。
「お、お、俺のは...コレ、だけ...だ」
動揺して言葉が出ない。
「これも受け取って欲しい。ミックスサンドだけだと喉が渇くでしょ?」
笑顔で緑茶を手渡す黒沢氏
「...あ、ありがとう、ございます」
俺は...大人しく受け取った。
「それではこれで。沙織、行こうか」
「う、うん。魁人、またね」
小さく手を振る沙織。
「あ、ああ」
くるりと向きを変えて、ピッタリと並んで赤い車へと歩いていく沙織と黒沢氏。
その際...見えてしまった。―――レジ袋から透けて見える、黒い長方形の箱を。
「..............え?」
いや...勘違いだ。そんなわけない。きっと何かの見間違いだ。
「っ...!」
俺は慌てて店内に駆け込み、先ほど二人がしゃがみこんでいた日用品コーナーへ全力疾走した。
「うわっ!?」
足が滑り、思い切り転んでしまった。
「いってぇ...」
「だ、大丈夫スか...?」
怪訝そうな表情でこちらを見ている店員。
「だ、大丈夫です」
顔から火が出そうだ。...あれ?
「...」
良く磨かれた床で滑ったのかと思いきや、二人がしゃがみこんでいた辺りに、何か液体がこぼれている...ように見える。
「なんだコレ...?」
俺が踏んでいない謎の液体を触ると、指から糸が引くほどの粘質があるヌルヌルとした液体であった。
「...わからん」
とりあえず、陳列棚を見よう。
「あ...あぁ...っ」
陳列棚には、パッケージに"LL"と描かれている長方形の箱が並べられていた。
やはり...レジ袋に入っていたのは―――