―――――――――――――――――黒沢視点
「ん...」
ふと、目が覚めた。
少し肌寒い秋の夜明けだ。
「ふぁ...ん?」
目の前に広がる景色が自室のモノではない事に気が付く。淡い色合いの小物が多いこの部屋は...ああ、そうだ。
「そうか...昨日はは沙織の部屋で...ん?」
普段は俺の方が早く起きるので、いつも沙織の愛らしい寝顔を見た後、彼女を起こさないようにこっそりとベッドを抜ける。
しかし、今日は少し様子が違う。
「沙織?」
部屋の主が居ない。部屋内を見渡しても姿が見えない。
「うーん...」
ベッドはまだ温かい。恐らくそれほど時間は経過していないはずだ。
「よっ、と」
体を起こし、部屋の中を見渡した。
サイドテーブルには使いかけのコンドームの箱が置いてある。
「少ないな...また買いに行くか」
1箱くらいはストックが欲しいところだ。それとも、お徳用の大箱で買うか?
「...」
実に整頓された部屋だ。沙織の家庭的で几帳面な性格がよく表れている。
「お...」
サイドテーブルには使い込まれた電動マッサージ器も置いてある。普段は引き出しの中に収められているのだが、昨日はこのマッサージ器を大いに活用させて頂いた。
...まあ、沙織は胸が大きいので肩が凝りやすく、本来の使い道であるポルチオ開発だけではなく肩こりの解消にも使われているらしい。
「...逆か」
...まだ寝ぼけているな。
「起きるか」
Tシャツとハーフパンツだけでは少し肌寒い。なので、沙織とお揃いで購入したオレンジ色のパーカーを上から羽織る。
そして、沙織の部屋を出たその時...
「あ、おはようございます、勇太さん...♡」
丁度、沙織も部屋に戻る最中のようだ。
「おはよう、沙織。早いね?」
淡いピンク色のワンピースタイプのパジャマが可愛らしい。細い肩紐に胸元が大きく開いているセクシーなデザインだ。
「はい♪ふふふっ、勇太さんの寝顔、可愛かったですよ...♡」
ふわりと笑顔を浮かべる沙織。お揃いのオレンジ色のパーカーを上から羽織っているけれど、ファスナーを開けているので深い谷間が見えている。
「沙織の寝顔には負けるよ。君は天使なんだから」
「もう...またそんな事言って...」
ほんのりと頬を赤く染めている。
「沙織」
「ぁ...んっ...♡」
赤い頬に手を添えて、桜色の唇と口づけを交わす。
「おはよう、沙織」
「ふふふっ、おはようございます、勇太さん...♡」
吐息が交わる距離で再び挨拶を交わした。
「はぁ...」
蕩けるような笑顔を浮かべていたかと思いきや、急に抱き着いてきて溜息を漏らした。
「どうしたの?」
抱き返しながら尋ねる。
「だって...お昼までには帰っちゃうでしょ...?」
寂しそうな顔で俺を見上げる沙織。
まるで捨てられた子犬のような表情だが、その奥には胸板に押し当てられている二つの大きな果実が主張している。
「よしよし、どうせ近所には居るんだから。いつでもおいで?」
「はい...でも、お母さんが帰ってきたときに誰も居ないと...きっと寂しいと思うんです」
出張から帰宅したその時、愛しい娘が居ないというのも寂しいモノだろう。
「そうだね。だから、俺なんかより花蓮さんを優先してあげるんだよ?」
母親思いの優しい子なので、そんな事は言わずとも理解しているだろう。
「はいっ。...でも、一人じゃ寂しいので、勇太さんにも居て欲しいです」
珍しく少しわがままな沙織ちゃんだ。
「そうしてあげたいのは山々なんだけど...」
「だめ、ですか...?」
潤んだ瞳で俺を見上げる沙織。
「ずっと...うちに居て欲しいのに...」
「...ごめんね。まだ、それは出来ないよ。でも、いつか一緒に暮らそう?」
それなりの覚悟を持って言葉を紡いだ。
「約束、ですよ」
「うん。約束だ」
ぎゅっと抱き合いながら言葉を交わす。
「でも、今日は俺が沙織とお揃いの服でお迎えしたら驚くと思うよ?」
「あ...ふふふっ。確かにそうですね」
先日、魁人君と途中まで一緒にショッピングモールにお出かけした際に購入したモノだ。沙織には少しオーバーサイズなのだが、それは肩や袖の話であり、丈や胸回りだけで言うと丁度良いらしい。
「はぁ...」
今度は俺が溜息を吐いてしまった。
「どうしたの?」
心配そうに小首を傾げている沙織。
「離れたくない...」
細い身体をぎゅっと抱きしめた。
「ぁ...よしよし...ふふふっ♡」
沙織が背中を撫でてくれた。
「今日の勇太さんは甘えん坊さんですか~?」
少し離れると、柔らかい笑顔で頭を撫でてくれた。
「うーん...そうかも」
それなりに年下の女の子に甘えるという情けない姿なのだが、沙織の母性には時折甘えてしまう。
「ふふふっ...大丈夫大丈夫。よしよし...♡」
相変わらず柔らかい手で頭を撫でてくれている。
「ありがとう、沙織」
特に落ち込んでいるという自覚は無いけれど、なんとも心の奥底から満たされている気分だ。
「ふふふっ...勇太さんは時々甘えん坊さんになっちゃいますよね」
「...仰る通りです」
故に、沙織に甘えてしまうのだ。
―――――――――――――――
「朝ごはんは何が食べたい?って言いたいところなんだけど...ごめんなさい、ご飯炊くの忘れちゃって...」
えへへ...と申し訳なさそうに笑う沙織。
「昨日は勉強の後にそのままエッチして寝ちゃったからね~」
勉強が終わるや否や沙織を押し倒して乱れに乱れたモノだ。致し方ない。
「勇太さんがケダモノさんになっちゃいましたからね」
「お互い様だよ、沙織」
しかし、どうしたモノか。昨夜の激しい運動のせいでお腹は空いている。
「コンビニにでも買いに行こうか」
まだ早い時間なのでスーパーは開いていない。
まあ、俺の家で済ませても良いけれど...それも少し面倒だ。
「そうですね。私、お財布取ってきます」
「大丈夫だよ。俺が出すから」
泊めてもらったのだからこれくらい当然の事だ。
「でも...」
「良いから。何でも買ってあげる」
育ちの良い沙織は遠慮がちな性格なのだが、それ故に何でも買い与えたくなる。
「もう...ありがとうございます、勇太さん...♡」
それに、この笑顔が見れるのだから多少の出費は気にならないというモノだ。
「...あ、そうだ」
「?」
ふと、コンドームの残量の事を思い出した。
「沙織、ちょっとお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
「はい?」
俺は、沙織の耳元でその"お願い事"を囁いた。
「え...?」
一瞬、表情が固まる沙織。そして、みるみるうちにジトっとした目つきに変貌する。
「...勇太さんのえっち」
「そうだね」
その通りだ。
「もう...わかりました。準備してきますから先に待っていてください」
呆れながらも何だかんだで言う事を聞いてくれるらしい。
「ありがとう、沙織」
「もう...」
....................
俺は財布とスマホだけを持ち、車のエンジンを始動した。
沙織は玄関を施錠すると、沙織は左手で裾を押さえながらこちらに向かってきた。
「お、お願いします、勇太さん...」
少しぎこちない様子の沙織。
「よし、行こうか」
沙織がシートベルトを締めた事を確認した。...あ、そうだ。
「冷えるでしょ?シートヒーター入れるね」
助手席のシートヒーターを3段階調整のうち2段階目に合わせた。...コンビニまでは暖房が効く前に到着するだろうけれど、シートヒータは比較的すぐに温かくなるはずだ。
「...勇太さんのせいですよ」
ジトっとした視線を向けられている。
「そうだね。でも―――」
俺は身を乗り出して、沙織の股の間に手を割り入れた。
「ひゃっ!?」
可愛らしい悲鳴が聞こえた。そして、指先にはわずかに濡れた感触が伝わる。
「―――沙織も興奮してるでしょ?」
「っ...」
沙織は顔を真っ赤にして小さく頷いた。
...そう、沙織は今、下着を穿いていない。そして―――
「こっちも、ちゃんと外して来たんだね?」
パーカーの上から豊満な乳房を優しく揉みしだく。
「んっ...だって、勇太さんが...そういうから...っ...♡」
甘い声を漏らす沙織。
「ん...良い子だ」
「んぅ...もう...本当に変態さんなんだから...」
頬を膨らませる沙織。しかし、それでもいう事を聞いてくれる辺り、本当に良い子だ。
「お互い様だよ」
「...勇太さんが調教したんですよ?」
...確かにその通りだ。
「それもそうだね」
「もう...ほら、行こ?」
確かにそうだ。これ以上アイドリングさせるのはご近所さんの迷惑になりそうだ。
俺は沙織に促されるままに車を発進させたのであった。
―――――――――――
「あ...」
コンビニに向かう途中で、沙織が何かに気が付いたらしい。
「どうしたの?」
信号停車中なので、沙織の方を見て尋ねる。...ちなみに、今は国道を右に出て最初のコンビニを出た後に、反対方向のコンビニへと向かっている途中だ。
どうしてコンビニを梯子しているのかというと...最初の店舗には"とある商品"が置いていなかったのだ。故に、最初の店舗で朝食だけを購入して、今は他の店舗へと向かっている次第だ。
「あの、アレって...」
沙織の視線の先を追うと...なんだアレ。
「アレは...魁人君...か?」
「多分...そうだと思う」
こんな早朝にご機嫌なスキップしている知り合いを見れば、誰でも似たようなリアクションを取るだろう。
「随分と...ご機嫌だね」
それにしても...なんだか久々に彼の姿を見た気がする。
「何か良いことでもあったのかな...?」
窓を開けると鼻歌でも聞こえてきそうなテンションだ。
「模試の点数が良かったとか?」
「うーん...魁人ってそういうところ冷めてるんですよね...」
確かにそのような印象はある。
「まあ、ご機嫌なのは良い事だよ」
「そうですね。あ、でも昨日も少し機嫌が良かった気がします」
そういえば、昨日は風呂に入る前に魁人君と話していたな。
「そうなんだ?」
「はい。...でも、ごめんなさい。ちょっと下着とか見られちゃったかもしれないです」
申し訳なさそうな様子の沙織。
「俺は大丈夫だけど、沙織は大丈夫?恥ずかしくなかった?」
沙織は俺のせいで確実に変態化しているけれど、無闇矢鱈に露出したい癖があるワケではない。
「見られちゃったかも、って思うと...少し恥ずかしかったです。でも...」
何やら言いよどむ沙織。
「沙織?」
視線を前方から逸らさずに尋ねる。
「その...勇太さん以外の男の人に見られちゃった事が、少し嫌でした」
「...そっか」
...嬉しい事を言ってくれるモノだ。
そう話しているうちにコンビニに到着した。
「さて、と。ココには置いてるかな?」
駐車場の端の方に車を停めて、沙織の方に向き直る。
「多分...ココには置いています。その...い、一回、買った事がある、から...っ」
沙織は顔を赤くしながら答えた。
「このコンビニで買ったの?」
「っ...」
コクンと頷く沙織。
「その...昨日使ったのはこの店舗で買いました」
そういえばそうだ。昨日使用した"アレ"は俺が購入したモノではなかった。
「そっか。それなら安心だね」
「...っ...」
沙織は顔が赤いまま頷いた。
「行こうか、沙織」
「...っ...はい...」
俺が先に車を降りて、助手席に回った。
「大丈夫、外からは見えないよ」
「あ、ありがとうございます...」
沙織の足が見えないように覆い隠す。
...沙織のパジャマは丈が短いので、油断すると"見えてしまう"。
「よいしょ、っと」
スラリと長い脚を伸ばすと、透き通るような白い肌の美脚が見えてしまう。
「ほら、捕まって?」
「は、はい」
沙織は左手で裾を押さえながら、右手で俺の腕に捕まる。
「よっ、と」
「っ...」
車高の低い愛車から沙織を引き抜いて、そのまま抱き寄せた。
「だ、大丈夫ですか?見えてませんか?」
心配そうに胸元から俺を見上げる沙織。
「大丈夫、見えてないよ」
本当は際どい所まで見えていた。具体的に言うと、少し濡れた内ももが見えていた。
「ホントかなぁ...」
尚も心配そうな沙織。
「大丈夫、俺にしか見えてないよ」
「やっぱり見えてるじゃないですか...もう...っ」
顔を真っ赤にしている沙織。
...しかし、俺にしか見えていないというのは本当だ。
助手席側が壁面に向かうようにして駐車してあるので、透視能力でもない限り見えはしない。
「本当に変態さんなんだから...下着を外して来いだなんて」
そう、今、沙織はワンピースタイプのパジャマの下に下着を着けていないのだ。
「でも、ちゃんと言う事を聞いてくれるところが大好きだよ、沙織」
「...勇太さんのえっち」
何度聞いたか分からない言葉だ。しかし、何度聞いても良いモノだ。
「でも、上は外して来いだなんて言ってないよ?」
沙織は就寝する際にナイトブラを着けて眠るのだが、どうやらソレも脱いできたらしい。
「だ、だって...下着を脱いで来いっていうから...」
「うん。パンツだけね」
「うぅ...」
大きな瞳を潤ませる沙織。
「ごめんごめん。冗談だよ。...でも、本当に脱いでくれて嬉しいよ」
「ふんっ...もう勇太さんなんて知りませんっ」
抱き着いたままふいっと顔を反らす沙織。
...なんとも可愛らしい拗ね方だ。
「ごめんね、沙織...どうしたら許してくれる?」
「あっ...じ、自分で考えてくださいっ」
一瞬、申し訳なさそうな顔を浮かべたのだが、何とか拗ね顔を維持した。...人の良さが出ているな。
「沙織」
「ぁ...んっ...♡」
頬に手を添えて、軽く唇を重ね合わせた。
「ん...これで許してくれる?」
「んぅ...も、もう少し、ですっ」
沙織はそのまま頷きかけたのだが、何とか踏み留まる。
「そっか...それなら―――」
「ひゃっ!?」
沙織を強く抱き寄せて、耳元で囁いた。
「...続きは二人きりで、ってことかな?」
「...それで許してあげます♡」
甘い声で囁く沙織。...何とか納得してもらえたようだ。
「さ、行こうか」
「は、はい」
沙織と手を繋いでコンビニへと向かう。
「...っ...」
沙織は少し不安そうな様子だ。
「温かい飲み物でも買おうか」
「そう、ですね」
沙織のお腹が冷えてしまうからな。
「...あっ」
しまった。沙織に夢中で肝心な事を忘れていた。
「沙織、ちょっとお金下ろしてくるよ」
先ほどのコンビニで現金を切らしてしまったのだ。
「あ、は、はい」
俺は沙織を飲み物コーナーに残し、店内の反対側にあるATMに向かった。
そして、生活費の口座から現金を引き出していたその時―――
「ふん♪ふん♪ふぅぅぅん♪♪」
野太い鼻歌と、ドタバタとスキップする音と共に男が店内に侵入してきた。
「え?」
ギョッとした様子の店員さんの視線の先には、先ほど歩道で見かけた人物が立っていた。
「さぁぁぁてっ!!」
大声で独り言を発しながらレジ横の食品コーナーに立つ不審者...もとい、海老沢家の隣人である魁人君。
「か、魁人...?」
沙織の声はよく通る声質なので、小さな声でも聞こえる。
...完全に怯えた声色だ。
「...行くか」
沙織が怯えている。それなら今すぐにでも助けに行かなければならない。
「えぇっ!?」
驚いた声を上げる魁人君。...テンションが高いので声量がいつもの5割増しだ。
「お、おは、よう...」
沙織の声が少し震えている。
「おはようっ!沙織っ!!早いなぁっ!!!」
尻上がりに声のボリュームが増していく魁人君。店員さんが完全に不審者を見る目で彼を見ている。
「えっと、そう...だね」
助けを求めるように俺を見る沙織。
...早く行こう。完全に怯えている。
「わ、悪いっ!...ちょっとはしゃいでたぁっ!!」
少し声のボリュームが抑えられた。しかし、それでもそれなりにうるさい。
「あ、えっと...そう、なんだ」
とんちきな幼馴染の様子に怯えつつも、なんとか冷静さを取り戻しつつある沙織。しかし、それでも警戒心を緩めていない。
「えっと...沙織も朝ごはんを買いに来たのかぁぃっ!?!?」
店内に響き渡る魁人君の声。少し上ずっているその声は彼の上機嫌さが良く伝わる。まあ、朝から沙織のような美女に出会えたら誰でもテンションが上がるだろうな。
「そう、だね。そんなところ」
朝食は既に購入している。しかし、これから買う予定のモノを教えるわけにはいかず、沙織はそれを誤魔化していた。
「...っ...」
今にも泣きそうな表情で助けを求めている。
「沙織ぃっ!!その手に持っているのはぁっ―――」
まるで万引きGメンが容疑者を確保する際の口上のような彼の言葉を遮り、沙織を庇うように後ろに立つ。
「おや?おはよう、魁人君。早いね」
「.........え?」
"血の気が引く"とは、きっと今の彼の事を言うのだろう。
ハイテンションな不審者はあっという間に勢いを失うのであった。