それでいて世話焼きで優しくて清楚な彼女。そんな彼女に一番近い存在は隣に住んでいる自分だと思っていた。
そんな彼女を一途に思い続けたのは俺の気持ちは...誰にも負けないと思っていた。
清純な彼女の最初の恋人になるのは...俺だと思っていた。
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『優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ(https://syosetu.org/novel/294060/)』と世界線を共有しています。
―――――――――――――――――魁人視点
あれから更に数日...今日は待ちに待った秋祭りだ。
「...」
俺は今、海老沢家の玄関を前にしてそわそわしながら腕時計を眺めていた。
「おかしいところは...無いよな?」
今日の為に服は一式新調した。
お店の人や友人に相談しながら選んだので間違いないはずだ。
そして今、秋祭りを共に過ごす約束をしている幼馴染...沙織が浴衣に着替えている最中だ。
先ほど彼女からメッセージが届き、もうすぐ準備が終わるという旨の内容が記されていた。
「お?」
そんなことを考えていたところ、パタパタと足音が聞こえてきた。
「お待たせ。ごめんね、遅くなって」
玄関から姿を見せた彼女は―――白をベースに薄い水色のグラデーションカラーの生地に美しい朱色の金魚が描かれているモノであった。シンプルで夏らしい涼し気なデザインだが、それを沙織のような美人が着ると素晴らしい衣装に見える。
髪も一つにまとめられており、白いうなじが色気を醸し出していた。
「どうしたの?」
不思議そうに小首を傾げている沙織。
「ぁ...い、いや...なんでも、ない...」
ここで気の利いた言葉の一つも出てこない自分が情けない。
「ふふふっ...どうしてそんなに緊張してるの?別に魁人と私の仲じゃない」
そう言ってけらけらと笑う沙織。
普段の可憐な優等生とも、友人に見せる愛らしい彼女でもない、リラックスした自然体の海老沢沙織。こんな姿を見れるのは花蓮さんの他に俺しか居ないはずだ。
「あれ?魁人、その服...」
あ...良かった。気が付いてくれた。
「うん、下ろしたて」
「やっぱりそうだよね。うん似合ってるよ」
...少し安心した。
「そ、そろそろ行くか」
「...」
...何故か真顔でじっと俺を見つめる沙織。その行為の意図が読めない。
「沙織?」
「...なんでもない。行こ?」
そう言いながら一歩足を踏み出す沙織。
あまり動きやすい服装とは思えないが、沙織の身のこなしは軽やかであり、和装を着慣れていることが窺い知れた。
「ああ...そうだな」
俺も沙織に続いて駅の方を目指した。
「魁人は久しぶりだよね?」
後ろを振り返りながら沙織が尋ねた。主語が無いがおそらく秋祭りの事だろう。
「そうだな。昔、沙織と一緒に行ったのが最後だ」
もう随分と前の事だ。
「他の人と一緒に行かなかったの?彼女とか居なかった?」
「それはお前が良く知ってるだろ...」
俺は今まで彼女なんて出来た事は無い。
...ずっと沙織を想っているのだから。
「そんなこと知らないよ~私は魁人のお母さんじゃないんだから」
軽い口調で返されてしまった。...冗談だと思われたらしい。
「冗談だよ。居ないぞ、今までずっと」
それなら俺も軽い口調で返すことにしよう。
「そうなの?意外...魁人優しいからモテそうなのに」
別にモテようとは思わない。沙織だけが分かってくれるのならば他に何も要らない。
「そんなこと―――」
と、言いかけたところで沙織の視線が別の方向を向いていることに気が付いた。
「勇太さーん!」
沙織は満面の笑顔で手を振っている。
彼女の視線の先には、例のオープンカーの元の持ち主、黒沢氏が庭先で洗車していた。―――深いメタリックレッドのオープンカーを。
「こんにちは、沙織。それと...魁人君だったかな?」
「あ、はい...」
名前を憶えられていた。
俺は沙織の口から何度も聞いているので覚えているが、直接会話をしたのは数回程度だ。
「ああ、それなら良かった。ひょっとして秋祭りに行くの?」
沙織に視線を向けて尋ねている。
「そうですよ~。ねえ、勇太さん...その...」
沙織は少し恥ずかしそうに黒沢さんを見つめている。
「うん。良く似合ってる。沙織は黒髪が綺麗だから白い浴衣が良く似合うね。可愛いよ、凄く」
スラスラと沙織の浴衣姿を褒める言葉が出てきた。
...なんとも気障な人だ。
「ぁ...えへへ...ありがとうございます...♡」
ふんにゃりと頬が緩んでいる沙織。
...どうやら彼女的には大満足の返答らしい。
「いえいえ。二人で行くの?」
そんな沙織に微笑み返しながら会話を続ける黒沢さん。
「あっ...それは...その...そう、なんです」
何故か歯切れの悪い返事を返す沙織。
...何か都合が悪いのだろうか?
「...そっか。それなら...ちょっと待ってね」
黒沢さんは一度家の中に戻った。
「な、なあ...沙織」
「なあに?」
くるりと振り返る沙織。
俺は先ほどから気になっていることを尋ねた。
「どうして...黒沢さんは花蓮さんの車を洗ってるんだ?」
この車は花蓮さんのモノであるはずだ。ここ最近で花蓮さんが休みの日に見ていたので間違いない。
それがどうして彼の家に...
「あ、これはね...お母さんのクルマじゃないの。よく似てるけど、勇太さんのクルマ」
「え?」
でも、ナンバープレートも最近目にしているモノと同じはずだ。
海老沢家で何度も見た車は一桁のナンバープレートだ。特徴的なので見間違えるハズもない。
「よく似てるけど、ちょっと違うらしいよ。あと、ナンバープレートも微妙に違うの。お母さんのクルマは"・・50"の二桁で、勇太さんのクルマは"・・・5"で一桁」
え...?そうなのか...?
「そ、それなら...ここ最近沙織の家に停まっていた車って...」
「ここ最近なら勇太さんかなぁ...面接の練習とか付き合ってもらってたの。それに、お母さんは仕事で夜が遅かったし」
と、話している間に黒沢さんが戻ってきた。
「お待たせ、沙織。これを持っていきなさい」
そう言って黒沢さんは腕時計を沙織に手渡した。
「スマートウォッチだよ。何かあればこの画面が割れるくらい力いっぱい押すんだ。内蔵スイッチが反応して自動通報されるようになってる。...まあ、試作品だから俺にしか通報されないけどね。無いよりマシだよ」
どうやら改造されているらしい。
「あ、ありがとうございます...でも、どうして?」
ぎゅっとスマートウォッチを胸に抱きしめながら尋ねている。
「そんな事...沙織が心配だからに決まってる。それに...最近はあの秋祭りに良い噂を聞かないからね」
どうやら沙織が語っていた不良の話は有名らしい。
「...ありがとうございます、勇太さん...♡」
ふわりと微笑みながら返す言葉。
それは...黒沢さんを全面的に信用し切っている表情であった。
「まあ、魁人君も一緒だから大丈夫だとは思うけどね。とにかく、気を付けて楽しんでおいで」
「はい!ありがとうございますっ」
「あ、ありがとうございます...」
沙織と違い、俺は何とも釈然としない気分だ。しかし、俺たちはそのままお祭りの会場に向かったのであった。
―――――――――――――――――――――
駅を通り過ぎて15分程の距離。
田舎なので広い公園が整備されており、そこで大規模なお祭りが開催されている。
「おお...賑わってるな」
少し離れた地域に住んでいる同級生や同年代の学生が多い印象だ。とはいえ、親子連れや大人のカップルも多い。
「今年も大盛況だね~」
特に驚いた様子の無い沙織。
しかし、それはつまらなそうという意味ではなく、ニコニコと上機嫌な様子であった。
...しかし、黒沢さんから預かったスマートウォッチがあまり浴衣には似合っていない。
「沙織、その...」
「なあに?」
不思議そうに小首を傾げている沙織。
美しい装飾の浴衣に、スタイル抜群の黒髪美少女。和装が良く似合っているが、少し武骨なデザインのスマートウォッチが強烈な違和感を感じさせる。
「そのスマートウォッチなんだけど...」
「うん」
「ちょっと...違和感あるな。その、浴衣だと...な」
やんわりと、沙織の気分を害さないように。
「あー...和装とデザインが合わないって事?」
俺の言いたいことを察してくれたらしい。
「まあ...うん」
外して欲しいとは言わないが、一度感じた違和感拭いきれなかった。
「言いたいことは分かるけど...でも、安全には変えられないから。ごめんね?」
どうして謝るのだろうか?誰も悪くないというのに。
「いや、別に良いんだ。ただ、ちょっと思っただけで」
「...そんなことより、ほら行こ?私お腹空いちゃった」
一転して明るい表情の沙織。
「あ、ああ」
人込みに気圧されながらも、なんとか沙織の後について行くのであった。
......................
「あ、見て見てあのお店!」
沙織の視線の先には、チーズたこ焼きと大きく書かれた出店があった。
「あれは...前に沙織が好きだと言ってたお店?」
去年のお祭りで食べて気に入ったと話していた。
「食べる?」
「うん!」
即答だった。余程好きだったのだろう。
そんな彼女を微笑ましく思いながら二人並んで出店のに向かった。
「いらっしゃい!おっ?お嬢ちゃん今年も来てくれたのか?」
少し強面のおじさんがたこ焼きをくるくると焼きながら尋ねた。
「はい!今年も来ちゃいました♪」
どうやら何度も来たことがあるらしい。それに、沙織の容姿は目立つので覚えられやすいという事もあるのだろう。
「嬉しいね~今年も3パック買っていくかい?」
8個入りを3パック...凄い量だ。
「こ、今年は1パックで良いですよ~」
「そうかい?...ん?」
おじさんは不思議そうな顔で俺を見た。
「嬢ちゃん、去年の連れはもう少し―――」
「お、おじさん!これいくらですか!?」
おじさんの質問を遮るように沙織は値段を尋ねた。
「あー...まあ、若いうちは色々あるよな。500円だけど...ほらオマケだ!1個の値段で良いぞ!」
そう言いながらおじさんはニカっと笑いながらたこ焼きを2パックよこしてくれた。
「そ、そんな...」
遠慮しようとしている沙織だが、おじさんはそれでも2パックのたこ焼きを強引に手渡した。
「良いんだよ。美人な嬢ちゃんにオマケだ!」
「そんな美人だなんて...えへへ...」
ふんにゃりとはにかむ沙織。...可愛いな。
その後、沙織はおじさんに500円玉を手渡した後にたこ焼きを受け取ったのであった。
「どこで食べよっか?」
「うーん...座れるところが良いな」
自販機でコーラを2本買いながら考えた。
奥にベンチが並んでいるけれど...同じ考えの人が多いので既に満席だろうなぁ...
「とりあえず奥の方に行こうか」
「そうだね」
たこ焼きを2パック抱えた沙織と、コーラを2本抱えた俺。
お互いに手渡せば良いのに、なんとなく声をかけずにそのまま歩く。
そして、出店が途切れてベンチが見えて来たのだが―――
「おお...」
「多いね...」
やはり、ベンチは既に満席状態だ。
さて...どうしたものか。
「あっ...そうだ」
「?」
公園の裏に小高い丘があるのだ。
その頂上に位置するところに古びたお寺があるのだが、その一角にこれまた古いベンチがある。
公園からは少し行きにくい場所に入口がある為、そこなら人が少ないのではないだろうか?
「もう少し奥に行っても良いか?」
「うーん...」
何か悩んでいる様子だ。
...本音を言うと、少し下心もある。
確実に二人きりになれるし、丘の上ならこの後に打ち上げられる花火も見やすいはずだ。そんなロマンティックなシチュエーションなら...ひょっとすると...
「でも、もう座れる所も無いぞ?」
「そう、だよね...」
何故か渋る沙織。
俺は焦りから彼女をせかしてしまう。
「ほら、良いから行くぞ」
「あ...う、うん...」
ぎゅっとスマートウォッチを握る沙織。
...何か握っていないと不安なのだろうか?
――――――――――――――――
「おっ?やっぱり誰も居ないな」
案の定、ここまで来ると祭囃子は遥か彼方に聞こえる程に静かであった。
「そう...だね」
何か不安そうな様子の沙織。
スマートウォッチを握ったままキョロキョロと辺りを見渡している。
「そこに座ろう」
公園を一望できるベンチを指さした。
「う、うん」
祭りに来て直ぐの軽やかな足取りとは大違いの慎重な足運びだ。
「よっ...と」
少しもどかしさを感じながらも、先にベンチに腰かけて沙織を待つ。
「...」
沙織は少し間を空けて静かに腰かけ、俺との間にたこ焼きを置いた。
「ほら」
そんな彼女にコーラを手渡す。
「うん...ありがと」
ぎこちない表情だ。
...ここは一つ笑いでも取るか。
「そういえば―――」
と、話題を振ろうとしたその時だった。
「こんばんは、おねーさんw」
「お?たこ焼き?俺にも分けてよw」
突然、両脇から若い男が現れた。
一人は沙織の直ぐ隣に座り、もう一人は俺のたこ焼き奪い取った。
肌は浅黒く、髪は汚い金髪に見える。
派手なシャツを着ており、見るからにマトモな人間には見えない。
「な、何ですかいきなり...!」
一気に警戒態勢を取る沙織。
緊急連絡の為か、沙織はスマートフォンを手に握っていた。
「そんな怖い顔しないでよ~」
「怪しいモノではありません!ってか?w」
更にもう二人、背後から現れた。
この二人も両脇の二人と同じく、肌が浅黒く柄が悪そうな見た目だ。
「ダメだよ~?こんな
「そうそう。だから俺たちと一緒にあそぼーよw」
4人はあっという間に俺と沙織を取り囲み、ニタニタと下品な笑みを浮かべていた。
「け、結構です!魁人、行こ」
沙織は少し震えながらも、ベンチから立ち上がろうとした。
「まあまあ、そう焦らずにw」
「きゃっ!?」
強引に沙織を押さえつける男。
小柄な彼女は成す術が無い。
「あれ?よく見たらおねーさん可愛いね。どこから来たの?」
「こんな冴えない男じゃなくてさぁ、俺たちと遊ぼ―よw」
俺の悪口を言われているのだが、何も言い返す事が出来ない。
「け、結構です!どいてください!け、警察呼びますよ!?」
震える声で叫ぶ沙織。大柄な男に囲まれて怖いだろうに、それでも気丈に振舞っている。
「警察呼びますよ~だってさw」
「怖い怖いw」
しかし、男たちにその脅しは効かないらしい。
...今更になって思い出した。
こいつ等...最近噂になっている不良だ。暴走族とかヤクザが関わっているという話もある程の危ない連中らしい。
「よっ、と」
男の一人が沙織のスマホを取り上げた。
「あ、か、返してください!」
沙織が手を伸ばすが、男の反射神経に追いつかずに取り返すことが出来ない。
それどころか、沙織が伸ばした右手を掴んで自由を奪ってしまった。
「はははっwおねーさん小さいから届かないじゃんwでも...ここは大きいねぇ...」
下品な笑みを浮かべて、沙織の胸に触る男。
「や、やめてっ!!」
沙織は顔を真っ青にしながらもなんとか抵抗している。
「おいおい。彼氏ならボーっとしてないで何とかしてみろよw」
不良の一人がこちらに視線を向けた。
「べ、別に彼氏ってわけじゃ...」
俺は今更何を言っているんだろう...
「は?彼氏じゃねえの?wじゃあ引っ込んでろよw」
「ぐっ...!」
ドン!と体を押され、情けなく倒れこんでしまう。
「魁人っ!」
今にも泣きそうな顔で俺を呼ぶ沙織。
「沙織...っ...」
情けないほど小さな声しか出ない。
「へぇ...沙織ちゃんっていうのか」
「沙織ちゃん、こんなやつ放っておいて楽しもうよw」
沙織を4人で取り囲む不良共。
「や、やめて...っ...お、大きな声出しますよ...!」
震える声で抵抗する沙織。
しかし、不良共はそれを軽く笑い飛ばしたのであった。
「ははっw無駄だってwこんな山奥で叫んでも誰にも聞こえねーよw」
「それに、下はお祭りなんだぞ?仮に沙織ちゃんの声が聞こえても誰も気にしねーよw」
「ぁ...」
その事実に気が付いたのか、沙織の表情が絶望に染まる。
「あれあれ?どうしたのかな?w大きな声出してみろよw」
「それとも、えっちの時は大きな声が出ちゃうって意味だったのか?w」
沙織を煽る男たち。
...俺は...俺に出来ることは...っ...!
そうだ...!
「っ...!」
ゴソゴソとポケットを漁り、俺のスマホを取り出した。
ガタガタと震える指でロックを解除しようとするも、中々上手くいかない。
「ん?」
しまった...!気づかれた!
「オラぁっ!!」
そう思った頃には時すでに遅く、俺は腕を蹴り上げられていた。
「ぐあっ...!」
腕ごと蹴り飛ばされ、宙に舞ったスマートフォンは不良の足元に着地した。
「ったく...情けねぇガキは大人しくしてろ...よっ!!」
不良は黄色いブーツのかかとで俺のスマホを思い切り踏み潰した。
「あっ...」
バキッ!!と音を立てながら砕けるスマートフォン。あれでは助けも呼べない...
「魁人!!」
沙織の悲痛な声が響く。
しかし、その声も深い森の中に掻き消えているのだろう。
祭りの喧騒でさえ遥か彼方に聞こえるのだ。俺たちの小さな悲鳴など容易にかき消されてしまうだろう。
「っ...」
どうしようもない。
もう...俺に出来ることは無い。
俺はただ...何年も思い続けている初恋の幼馴染がレイプされる姿を眺める事しかできない。
「おいおいもう諦めたのかよwこの前ヤった中学生カップルの彼氏の方が頑張ったぞw」
やっぱり...こいつ等は俺たちの他にも...
「あの彼氏は傑作だったなぁw彼女がヤられてる横でボコボコにしてやったときの顔が最高だったぜw」
悍ましい事をあたかも笑い話のように話す不良共。
「なんてことを...っ...」
顔を青ざめつつも、何とか不良共を睨みつけている沙織。
しかし、その足はガクガクと震えている。
「そんな怖い顔しないでよw今から気持ち良くしてやるからさw」
「ひっ...」
もう沙織は限界が近い。
強気な表情は崩れかけ、今にも泣きだしてしまいそうだ。
「良いからこっちにこい...よっ!!」
男は沙織の細腕を掴み、力任せに引き寄せた。