それでいて世話焼きで優しくて清楚な彼女。そんな彼女に一番近い存在は隣に住んでいる自分だと思っていた。
そんな彼女を一途に思い続けたのは俺の気持ちは...誰にも負けないと思っていた。
清純な彼女の最初の恋人になるのは...俺だと思っていた。
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『優柔不断は切り捨てろ:周りの美少女は全員他人のモノ(https://syosetu.org/novel/294060/)』と世界線を共有しています。
―――――――――――――――――魁人視点
沙織のお見舞いに行った日から何日経っただろうか。
あの後、俺は一度も病室に足を運んでいない。
何度かメッセージのやり取りはしたのだが、なかなか病院まで行く勇気が無かった。
「今日...退院なのか」
俺が悩んでいる間に、沙織の入院期間が終わってしまった。
メッセージでも確認したのだが、昨日、病院から戻った花蓮さんからもその話を聞いた。
何でも、花蓮さんは今日の仕事を休めないらしく、代わりに黒沢さんが沙織を迎えに行くらしい。
「...」
まさか、海老沢母娘と黒沢さんがそこまで親しい仲だとは思いもしなかった。
花蓮さんが車を購入したのはそんなに前の話だろうか?
「...よし」
俺も病院に行こう。
幸い、まだ朝のニュースが放送されている時間だ。時間の余裕は有る。
俺は財布と新品のスマホを手に取り、自宅を飛び出した。
.....................
二駅隣の総合病院。既に日が昇っているので汗が止まらない。
「ふぅ...」
思いのほか時間がかかってしまったので仕方ないか。時間は既に10時が近い頃だ。
「...」
衝動的に家を飛び出してみたモノの、いざ沙織と対面して何を話せば良いのだろうか?
退院おめでとうと言えば良いのだろうか?
...わからない。長い付き合いだというのに、今更になって何を話せば良いのか迷っているなんて。
「あれ...?」
今日は日曜日なので一般外来はお休みだ。なので、病院の駐車場にはお見舞いで訪れた家族等の車が停まっているのだが...その中に赤いオープンカーは居なかった。
駐車されているのは、軽自動車が数台と大型のミニバンが一台だ。
「黒沢さん...来てないみたいだな」
あの赤いオープンカーは見当たらないので間違いないだろう。何故か少しだけ安心した。
...この焦燥感の正体は何なのだろう。
「...よし」
覚悟を決めて時間外の入口に向かう。
「...あれ...?」
その時、楽しげな話し声が聞こえてきた。
どういう訳か、俺は建物の影に隠れてしまった。
...話し声は二人分だ。静かな病院の駐車場なので会話の内容まで何となく聞こえてくる。
『そういえば...魁人君は何回かお見舞いに来たの?』
男性の声だ。
「え...」
会話の中に俺の名前が登場している。
『いえ、魁人は一回だけです。多分...気を使ってくれたんだと思います』
女性の声。
...間違いない。この声は沙織と黒沢さんだ。
でも...どうして?駐車場に黒沢さんの車は無かったはずだ。
「...!」
建物の影から駐車場を盗み見ていると、二人並んで歩いて来る沙織と黒沢さんの姿が確認できた。
「...」
何となく...二人の距離が近い気がする。
見知った間柄なので不思議ではないのかもしれないが、それにしても二人の距離は近い。手と手が触れ合うほどの距離だ。
『......♡』
『...?』
段々と距離が離れ、二人の会話が聞こえなくなってきた。
それに、沙織は黒沢さんの耳元に口を寄せて囁いている。
『...?』
沙織と黒沢さんは見つめあいながら言葉を交わしている。
『...?』
黒沢さんが何か尋ねている。
『...♡』
「...!」
沙織のその表情は...今まで見たことが無かった。
『...』
何か言葉を返している黒沢さん。
「え...?」
そして...二人は大型のミニバンに乗り込んだのであった。
「...」
俺は...走り去る車を見送る事しか出来なかった。
...きっと、なんてことはないはずだ。
あの二人は家族同士の付き合いだ。そうに違いない。
今日も、きっと兄に甘える妹のようなモノに違いない。沙織はおそらく買い物に行きたいとでも言ったのだろう。
きっと...そうに違いない。
今日は間が悪かっただけだ。とにかく帰ろう。こんなところに居ても何も進歩しないのだから。
「...」
そう自分に言い聞かせながら、俺は来た道を歩き出した。
「...」
色々な事を考えた。
...沙織と黒沢さんのやけに親しげな距離感のこと。
...沙織が黒沢さんに耳打ちしたこと。
...沙織が今まで見たことが無いような
いくら考えても、最後に残るのは頬を染めながらはにかむ沙織の事だけ。
とにかく気になって気になってしょうがない。
今すぐにでも電話を掛けたいのだが、どうしてもその勇気が出ない。
そんなことをしている内に駅に到着してしまった。さすがに電車の中では電話を掛ける事が出来ない。
「...よし」
電車が到着するまでの十数分。今がチャンスだ。
俺は真新しいスマートフォンを取り出し、数少ない電話帳の登録番号の中から沙織の番号をタップした。
「...」
呼び出し中の音声がやけに長く感じる。
『もしもし?』
3コール目が終わる前に電話口から声が聞こえてきた。いつも通りの綺麗な声だ。
「も、もしもし?お、俺だけど...」
まるで詐欺の切り口のような喋り出しをしてしまった。
『魁人だよね?ふふふっ...オレオレ詐欺みたいになってるよ』
けらけらと笑う沙織。...確かに自分でもそう思った。
「ご、ごめんごめん」
『ふふふっ。どうしたの?何か用事?』
優しい声色で尋ねてくれる沙織。
「い、いや...大したことじゃないんだ。ただ...今、何してるのかなって思ったんだ。今日退院だろ?」
それとなく...聞けたと思う。
『そうだよ~。もう病院を出たところ』
さらりと答える沙織。
「そ、そうだよな」
『...』
相槌を打ったのだが、沙織からは何の返答も無かった。
「さ、沙織?」
通話が切れたのではないかと不安に駆られ、彼女の名前を呼んでしまった。
『...何でもない。どうしたの?』
良かった...聞こえているようだ。
「い、いや...ち、ちなみに、今は何処に居るんだ?帰ってきてるのか?」
それとなく、今の居場所を探ってみた。
『あー...えっと、今は買い物に来てるよ』
曖昧な答えだった。
「買い物?」
『うん。ドラッグストア』
その割には周囲の音が聞こえない。...しかし、コレは沙織のスマートフォンのノイズキャンセリング機能が優秀という事もあり得る。
それに...誰と来ているかという事は答えなかった。
「本当に?」
故に...追及するような事をしてしまった。
『本当だけど...どうしたの?あ...ひょっとして私が何か約束忘れちゃってた?』
そんな俺を責めるでもなく、沙織は不安そうな声で俺に尋ねてきた。
...醜い嫉妬心で沙織を責めるような口調になってしまった自分が情けない。
「い、いや...そういうワケじゃないんだ。ただ、ちょっと聞きたかっただけだから気にしないでくれ」
『そ、そう?...あ、ごめん。また後で掛けなおすね』
「あ、ああ」
そう言って慌てた様子で電話を切った沙織。
「...」
通話終了の画面。沙織の名前の下には、カップラーメンが完成しない程の通話時間が記されている。
「あっ...」
退院おめでとうの一言も言えてない事に気が付いた。しかし、今更もう一度電話を掛けるワケにもいかない。
「買い物...ただの買い物...のはずだ」
その後、沙織からの着信は無かった。
痺れを切らして12時過ぎくらいに電話をかけたのだが、ゴソゴソと一定のリズムのノイズが聞こえた後に切れてしまった。恐らく歩いている最中に擦れて勝手に通話を開始してしまったのだろう。
それ以降は...いくら電話をかけても反応が無かった。
結局、メッセージが返ってきたのは20時を過ぎた頃であった。
―――――――――――――――――――――
沙織の退院から1週間。今日は月曜日だ。
今朝...沙織はウチに来なかった。
登校するにはまだ少し早い時間だ。しかし、沙織はこの時間にはもうウチに来ている。
「...よし」
今日は俺が起こしに行こう。
生憎、俺は海老沢家の合鍵は持っていないのだが、この時間なら花蓮さんがまだ出勤前なので入れてもらえるはずだ。
「...」
一応、海老沢家の駐車場を確認してみた。...駐車場にはナンバープレートが"・・50"の赤いオープンカーが停められている。
よし。まだ花蓮さんは出勤前だな。
「っ...!」
ベッドから飛び起きて、バタバタと身支度を整えた。
そして、家を飛び出して隣家まで走る。
何度か躓きそうになるのだが、何とか海老沢家の玄関前に到着した。
「か、魁人君!?どうしたの?」
「はぁ...はぁ...お、おはようございます、花蓮さん」
がむしゃらにダッシュしていたので、玄関前に立つ花蓮さんに気が付かなかった。
「お、おはよう。どうしたの?何かあったの?」
心配そうにのぞき込んでいる花蓮さん。
...確かに、朝早くから駆け込んできた男子高校生は不自然だよな。
「い、いえ...特には...」
スーツ姿の花蓮さん。やはり出勤前らしい。
...しかし、よく見ると何も持っていない。今から出勤するというワケではなさそうだ。
「さ、沙織は...まだ寝てますか?」
「あ、ううん。もう起きてるわよ。ひょっとして沙織を起こしに来てくれたの?」
どうやら寝坊しているというワケではないらしい。
「あ...は、はい」
...そういえば、花蓮さんはどうしてこんな朝早くに外に出ているのだろう?
手ぶらである事から、今から出勤するという事ではないだろうし...
「わざわざありがとうね~。ごめんなさいね、昨日は夜遅くまでおしゃべりしちゃったから...」
退院してまだ数日だ。積る話もあるのだろう。
「そうなんですね...」
「沙織と勇太くんは私が寝た後もお話ししてたみたいなのよ~。だから少し寝坊しちゃったみたい」
...え?
「く、黒沢さんと...?」
どういうことだ...?
黒沢さんとおしゃべり?夜中まで?
「そう♪昨日は勇太君も呼んで一緒にご飯食べたの。お酒も飲んでたから昨日は勇太君には泊ってもらったんだけど、ついさっき帰っちゃったのよ。どうせなら朝ごはんも食べて欲しかったんだけど...お仕事が有るから行っちゃったの」
残念...と、話している花蓮さん。しかし、先程の話が衝撃的過ぎて話しが殆ど頭に入ってこなかった。
「そうだ。魁人君、せっかくなら朝ごはん食べていかない?私はもう出勤するんだけど、沙織も起きてるから一緒に食べちゃって♪」
「あ、ありがとう...ございます」
ぎこちない返事しかできない。
「ふふふっ...良かった。勇太君の分も作ってたから困ってたのよ~」
...俺は黒沢さんの代わりらしい。
そんなことを花蓮さんが考えていない事は分かっているのだが、どうにもモヤモヤする。
しかし、沙織と二人きりになれるチャンスだ。逃すワケにはいかない。
「じゃあ、私はそろそろ行くわね」
「あ、は、はい」
玄関扉を開き、カバンやジャケットを手に取る花蓮さん。
...どうやら出勤の準備は済ませてあるらしい。
「ふふふっ...いってきまーす」
ヒラヒラと手を振り、赤いオープンカーに乗り込む花蓮さん。
そして、軽快なエンジン音を響かせながら走り去るのであった。
「...よし」
俺は海老沢家の敷居を跨ぎ、家の中に入った。
「お、お邪魔します...」
沙織は何処にいるのだろう?
リビングだろうか?
「...あれ?」
通路を歩く途中、記憶の中に無い本棚が通路の途中に置いてある。
「いつの間に...あっ」
これ...俺が組み立ての手伝いをお願いされていた本棚だ。
高さが有るから手伝って欲しいと沙織に言われていたのだが...俺が面倒くさがって後回しにしていた。
「そういえば...」
以前に話していた気がする。...黒沢さんに手伝ってもらったという事を。
「...」
何となく...居心地が悪い。
昔から出入りしているので、この家の勝手はよく分かる。言わば第二の自宅のような感覚であった。
しかし...なんだろう、この違和感は。
そんな事を思いながらリビングの扉を開いた。
「あれ...?」
しかし、そこに沙織は居なかった。
何処にいるのだろうか?
「沙織?」
再び廊下で声をかけてみるのだが...反応が無い。
ひょっとして...二度寝か?
ありえる...花蓮さんは夜更かしをしていたと話していた。
「という事は...」
自室だろう。それに、着替え中であれば声かけに反応が有る筈だ。
「...」
二度寝であれば起こさないといけない...という大義名分で階段を上る。
そして、真っ直ぐに沙織の部屋を目指す。
「沙織...?」
ゆっくりと扉を開いた。
そこにはスヤスヤと寝息を立てる幼馴染の姿が―――
「あれ?」
―――居なかった。乱れたベッドはもぬけの殻であり、部屋の中はしっかり者の沙織にしては珍しく散らかっていた。
パジャマや下着がベッドの下に散らばっており、ゴミはさすがにゴミ箱にまとめられているモノの、丸めたティッシュやウエットティッシュのようなものが大量に詰め込まれている。
「...」
そういえば...沙織の部屋には久々に入るな。
記憶の中にある沙織の私室は、もう少し女児感が残っていた。しかし、この部屋は...所謂"女性の部屋"というモノに近い...気がする。他に知っている女性の部屋が花蓮さんの私室しかないのでわからないけれど。
「...?」
あまり長居するのは悪いと思い、部屋を出ようとしたその時...机の上に置いてある長方形の箱が目に入った。
黒い箱に紫色の装飾が施してあるその箱は、"M size"と記されていた。
「え...」
それは、紛れもなく...使いかけのコンドームであった。
「あれ?魁人?」
その時、背後から声を掛けられた。
「っ...!!」
飛び上がるほど驚いてしまった。
「ど、どうしたの?...というか、私の部屋で何してるの...?」
驚いた表情の沙織。...少し怪訝そうな様子でもある。
「あ...い、いや...何でもないん...だぇっ!?」
現在の沙織の姿を見て更に驚いてしまった。そのせいで変な声が出た。
「え?本当にどうしたの?大丈夫?」
そう尋ねている沙織は...上は下着が透けている薄いシャツに、下はミントグリーンのショーツ以外何も身に着けていないという煽情的な恰好であった。少し濡れた髪を拭いていることから、おそらくシャワーでも浴びていたのだろうと推察できる。
「す、すまん!直ぐに出る!」
目を逸らしながら答えた。
「え?あっ...この格好のこと?ふふふっ...別に魁人なら見られても平気だよ~」
大したことでは無いかのように笑う沙織。
「そ、そうなのか?」
チラチラと沙織...とその身体を盗み見る。
「うん。別に魁人と私の仲だし」
...信頼されているのだろうか。
それにしても...やはり沙織はスタイルが良い。
シミ一つ無い滑らかな白い肌に、Tシャツの上からでも分かる豊かな乳房。腰は細く、お尻は丸く形が良い。白い肌にミントグリーンの下着が沙織の清楚さを際立たせている。
「そ、そんなにじっと見られたらさすがに恥ずかしいよ...」
白い肌をほんのりと紅潮させている。...そんな姿も可憐で愛らしい。
「わ、悪い...ん?」
ふと、沙織の太ももに視線が吸い寄せられた。...他にも色々と視線が奪われそうになるのだが、それよりも気になる点がある。
「どうしたの?」
椅子に腰かけながらドライヤーを準備していた沙織。
「あ...いや、その...ソレなんだが」
こちらに椅子を向けた沙織。
俺は彼女の脚を指差した。そこには...なにやら虫刺されのような赤い痕が付いている。
「え?...あっ...」
沙織も俺が指さす"ソレ"に気が付いたらしい。
「あっ...こ、これは...っ...」
脚を閉じて反対に身体を向けた沙織。なにやら動揺している様子だ。
...ただの虫刺されだろうにどうして動揺しているのだろうか?
「それ...虫刺されだろ?珍しいところを刺されてるな」
「え...?あ...う、うん。そうなの。...気をつけなきゃ」
何故か安堵の表情を見せる沙織だった。
「そ、そうか...じゃあ、リビングで待ってるぞ」
俺は一言残して部屋を後にした。
「あ、う、うん。直ぐに行くね」
沙織は内股気味に立ち上がり、少し慌てた様子で部屋の扉を閉めたのであった。
「...」
"魁人と私の仲だし"か...やはり、俺は沙織に信用されている。
「...よし」
学園のアイドルである彼女からの信頼。俺は他の男子生徒に対する優越感を抱きながら、海老沢家のリビングにて朝食を食べさせてもらったのであった。
それにしても、内腿の付け根なんて珍しいところを蚊に刺されるなんて...沙織は案外鈍感なのかもしれない。