※この作品はR-18です。

未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版)   作:SIS

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<戦場のひみつ:過酷な環境において資源は貴重である。特に宇宙空間を拠点として長期滞在する訓練戦艦などは、物資の枯渇に備えて有機物分解槽などを備えている。ただ、基本的に老廃物やごみを分解するために存在しているもので、人間の死体などを処理する事は普通に禁止されている。本来は。>




第十一話 立ち込める不穏

 

 

 水遊びで、隊員達のコンディションは明らかに調子をあげていた。皆てきぱきと後片付けをすませ、ぴちりと軍服を着こなして訓練に戻る。各車輛から一人ずつ歩哨を交代でたたせながら、澄み切った青い空の下、即席の塹壕の底でアレックスは内心イライラを抱えていた。

 

 塹壕の居心地が悪いわけではない。塹壕は深く掘った穴にビニールシートを引いた簡素なものだが、砂が時折上から落ちてくる事を除けばひんやりとしていてそれなりに過ごしやすい。

 

 ただずっと、腑に落ちない違和感がずっと付きまとっているのだ。

 

 それを感じてか、部下達もあまり声をかけてこない。隣で、車内から持ち出した書類相手に格闘している情報士官ぐらいが話しかけてくる程度だ。

 

「隊長。期限になりました、情報の確認をお願いします」

 

「ああ」

 

 言われて、蝋で封された命令書を手に取る。その表面に記載されている開示時刻があっているのを確認して、封を切る。

 

 実戦でも、開封する期限を定めた命令書は珍しくない。表向きの任務とは別の特殊任務の開示であったり、指令所側で状況の変化を予測してサブプランを用意していたり、色々だ。酷い時には「囮ご苦労。その場で可能な限り戦って死ね」みたいな事が書いてあったりもするが、今回はあくまで訓練だ。

 

 本当に偶然、状況の推移頼りでは密度の高い訓練は受けられない。意図的に仮想敵側とかち合うようなプランが組んであって、おそらくはその段取りを指揮官だけには伝える、ぐらいの事は当然の段取りだ。そして予想通り、開封された命令書にもその手の事が書いてあった。

 

「……おかしいな」

 

 だが、内容と状況がかみ合わない場合はどうすればいいのか。

 

 予定では、そろそろ仮想敵側の偵察部隊と遭遇する手はずになっている。それに対し、発見されずにやりすごしつつその動向を本隊に伝達する訓練になっているはずが、その肝心の敵偵察部隊を発見できていないでいる。

 

 勿論、こちらが下手を打って一方的に発見され、監視されているという可能性もある。だがその場合、仮想敵側が攻撃をしかけてくる手はずになっている。何も起きていないのはおかしい。あちら側が訓練内容を無視しているのか、あるいは通達ミスがあったのか?

 

 今回は訓練だ。トラブルは起こりえるし、深刻に考えるほどの話ではないかもしれない。

 

 しかし。ずっと警鐘を鳴らし続ける自分自身の勘を、アレックスは無視する事ができなかった。

 

「情報管理手。少し他部隊の車長と話がしたい、繋いでくれ」

 

「了解しました」

 

 数秒の後、骨振動装置に着信音。少し離れた所で塹壕に潜んでいる二人の車長と通信がつながった。

 

『こちら第一偵察班。どうした、遊撃隊の』

 

「こちら第77独立遊撃隊。少し話がしたい。時限開示されたスケジュールはもうチェックしたか?」

 

『こちら第二偵察班。ちょうどいい、こちらも気になっていたところだ。今の所、それらしき敵影は発見できていない』

 

『同じく』

 

「こちらもだ。私としては、何らかのトラブルが発生しているのではないかと考慮する。ついては、計画に無いが能動的に仮想敵部隊の索敵を行いたいと具申する。いかがか」

 

 能動的に偵察する。つまり、オアシスを拠点に待ち構えるのではなく、想定されている仮想敵部隊の移動ルートを直接見に行く、という事だ。勿論訓練の趣旨からはずれる行いだが、もし敵仮想部隊に想定していないトラブルが起きている場合、それに対処できるのは今、自分達だけだ。

 

 しばしの沈黙の後、他の班も肯定的な返事を返してくる。

 

『こちら第一班。その提案に賛成する。万が一、人命に係わるトラブルが発生していないとも限らない』

 

『こちら第二班。賛成だ。どのみちこのままでは訓練にはならないからな。だが、本隊にはどうする? 通達だけしておくか?』

 

 言われて少し考える。通常なら話を通しておくのが良いが、動いた結果何もありませんでした、仮想敵部隊がちょっと遅れていただけです、とかだったりすると、大山鳴動して鼠一匹、悪戯に騒ぎを起こしたとして処罰もあり得る。そのあたりは本隊の指揮官の性格で判断するのだが、あいにくアレックスはそこまで詳しくはない。

 

 判断しかねて口ごもるアレックスだったが、第一班の車長がフォローに入ってくれた。

 

『いや、これぐらいなら通達しない方が心象は良いだろう。偵察任務には多少のアドリブはつきものだ。それでいいな、遊撃隊』

 

「感謝する。……よし。全員、車輛に戻れ! 操縦手も聞こえたな、歩哨は中止して帰ってこい」

 

『了解』

 

◆◆

 

 

 決断してからの行動は早かった。

 

 迅速にその場の全員が車輛に搭乗、移動しながら歩哨を回収して足を止める事なく目的地に向かう。万が一を考えて、訓練であってもここからは実戦の心づもりだ。

 

 副砲手の運転でミリシアと合流。装甲に駆け上がる彼女の手を引いて車内に引き入れ、操縦手を交代するのを見守りながら、アレックスは直射日光の下、双眼鏡片手に周囲の確認を行う。

 

 異常が起きている事を前提に行動しているのだから、ここからは一分一秒たりとて気を抜けない。見れば他の車輛も車長が身を乗り出し、厳戒態勢で走行している。

 

「隊長。指示された情報を入力して、捜索対象の仮定存在座標を割り出しました」

 

「見せてくれ」

 

 情報管理手から手元の端末に送られてきた情報に目を通す。これは時限書類に書いてあった、仮想敵部隊の予定侵攻ルートなどのタイムスケジュールと、敵陣地、車輛の移動速度等を元に捜索範囲を絞り込ませたものだ。予測としてトラブルが発生した時刻を何段階かで分けており、それを元に捜索すれば無駄足を減らせるはずだ。仮にこの範囲で何も見つからなかったとしても、それは想定ルートを仮想敵部隊が通らなかった、という反証になる。

 

「同行する部隊への情報の共有は?」

 

「指示通り済ませました」

 

「よし。とはいえあちらとこちらでは指揮権が厳密には異なる。やり方でもめないように、あっちとは連絡を密にしておいてくれ」

 

「了解しました」

 

 やり取りを終えて監視に戻る。

 

 遮る物のない直射日光の洗礼に、汗が噴き出してくるかのようだ。だがそれとは裏腹に、背筋の悪寒が止まらない。

 

 経験上、不味い事が起きている時の感じだ。まあ、そうやって事前になんとなく旗色の悪さが分かった所で、どうする事もできないのだが。実戦では逃げれば銃殺刑だ。結局の所、この感覚自体は生き残るのに役にたった事がない。

 

 だが、今は違う。責任はあるがそれに伴う実権も与えられている今なら、この悪寒をただやり過ごすのではなく、立ち向かう事だって出来る。

 

「……!」

 

 砂原の水平線に、チカリと何かの反射光が見えた気がした。

 

 蜃気楼は、あんな光り方はしない。金属片か鏡に反射したような輝き。

 

「発見した。進路修正、2時。同行する隊にも伝えろ」

 

 

◆◆

 

 

「こいつは……」

 

 発見した痕跡に接近し、肉眼でその様子を確認したアレックスは、思わず、内心を口につぶやいてしまった。

 

 発見されたのは、仮想敵部隊のものと思われる、その車輛の一部だ。

 

 全容は見渡せない。何故なら、その大半が砂中に没し、辛うじて地上に残されたフロントの一部が、太陽光をはじいているだけだからだ。

 

 露出した部分はひどく傷つき、塗装が剥げて金属の下地がむき出しになっている。銀色の擦過痕は、この車輛が以前から各座していた残骸ではないという事を如実に物語っている。

 

 嫌な予感が的中しすぎである。

 

 間違いなく、流砂に飲まれた、なんていう状況には見えない。

 

『なんだあれは。仮想敵部隊の車輛なのか? 一台だけ?』

 

『周辺を探索しろ。生存者はいないか?』

 

 無線に同じく困惑する車長達の声が飛び交う。それには一言も返さず、アレックスは顎に手をあてて考え込んだ。

 

 何が起きたか、ではない。

 

 “自分達がどうすればいいのか”、である。

 

 すでにここは死地だ。

 

「隊長、どうしますか? もう少し接近しますか?」

 

「止めろ」

 

「隊長?」

 

「これ以上接近するな、停車しろ。情報管理手、この車輛に確か音源センサーはあったな? 感度最大で周辺を索敵しろ。急げ」

 

「えっ?」

 

 困惑の声が上がるも、すぐに車輛は停止。ミリシアが判断したのだろう、言われずともエンジンも落とされる。だが、隣をいく車輛に危険を察した様子はない。アレックスは喉元の通信装置を抑えながら声を張り上げた。

 

「こちら第77独立遊撃隊から偵察小隊各員へ。ただちに停車しろ、これは“友釣り”だ! 俺たちは罠にひっかかった!!」

 

『なっ……』

 

「音源センサーに感あり……下です! 隊長、何か大きな物が下から……!」

 

「落ち着け! 報告は簡潔明瞭に、だ。標的はどの車輛だ?」

 

「これは……我が隊ではありません。隣接する偵察小隊のいずれかに……!」

 

 脳裏に閃きに似た速度で思考が走る。

 

 敵は正確に偵察小隊を狙っている。遊撃小隊ではなく、偵察小隊の方をだ。その選択条件は何だ。おそらく観測手段によるもの。

 

 地下の何かが地上をどうやって認識しているのか。流石に目視ではあるまい。常識的に考えれば手段は二つ。一つは電気、一つは音だ。そしてエンジンを切ったアレックスの小隊には目もくれず、他の小隊の車輛にむかったとなれば……。

 

「音か……! 砲手、ノイズメーカー、いやなんでもいい、とにかく音を立てる弾をマルチランチャーにセットしろ! 操縦手、エンジンを再起動!」

 

 いいんですか? と振り返った視線で問うてきた彼女に強く頷き返す。直後、エンジンのかかる轟音が車内に響く。

 

「情報管理手、状況を」

 

「アンノウン、進路変わらず。偵察車輛、全速で後退を始めました。彼我の速度差計算……ダメです、逃げ切れません」

 

「だろうな」

 

 肉眼でも友軍を確認。危機的状況を理解したのか、なりふり構わず全速力で後退する偵察小隊の後を追うように、細かな砂が吹きあがって靄になったようなものが尾を引いている。恐らく地下にいる何かが地上へ上がりつつ偵察小隊を追っている痕跡だろう。両者の距離は徐々に近づいてきている。どうみても逃げ切れない。

 

「ミリシア、一つ確認だ。お前だったら逃げ切れるか?」

 

「バックじゃなきゃ余裕」

 

「砲撃手より。マルチランチャーの弾頭切り替えました」

 

「何を装填した?」

 

「ん。ランチャー4つにそれぞれ、ノイズメーカー二つ、時限信管1秒のグレネード一つ、鎮圧用グレネード一つ」

 

「合図したら全部発射しろ。照準は適当でいい」

 

 指示を告げて、砲塔の機銃に手をかける。主砲と違ってこちらは訓練でも実弾を装填している。その代わり弾数が少ない。

 

 アイアンサイトで偵察小隊を追う痕跡の頭を追いかける。深度が浅くなってきているのか、移動に合わせて砂が盛り上がり、何か巨大な物が砂の中を動いているのが見て取れる。

 

 段々と、それが偵察車輛に近づいていく。頭の中で速度差をいれてタイミングを計る。

 

 カウントダウン。3,2,1。

 

「いまだ!」






<戦場のひみつ:ターボレーザーは、本来要塞や宇宙艦船に搭載される、高出力光学兵器である。重レーザーを入力源にして、さらなる高出力レーザーを発振するこの装備は、きわめて設備が巨大になる事から採用される事も稀である。陸戦部隊の機甲戦力では、唯一7式のみが採用している事で有名。>




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