未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
<戦場のひみつ:情報管理手は、かつて装填手と呼ばれていたポジションである。装填の自動化が進み本来の業務を行う機会が減った一方で、装備の電子化が進んだことで通信設備や無人機銃といった装備を操作する事が増えていったため、いつしか名前が置き換わっていった。役割としてはなんでも屋に近いが、高度な情報処理に触れる事もあるためそれなりに高い教育レベルが求められる。>
カウントダウン。3,2,1……不意に、砂の盛り上がりが途切れる。急に深度を下げた? だが勢いからしてタイミングは同じはず。
「いまだ!」
合図に合わせて、車体上部のランチャーから複数の手のひら大の物体が、放物線を描いて撃ちだされる。時限信管は1秒。射出されて砂につくかつかないかのタイミングで目を閉じる。直後、瞼越しでもはっきりとわかる白い閃光と、耳をつんざく高周波音が轟いた。
聴覚で今まさに地上の様子をうかがっていた生き物が、それをまともに浴びて無事でいられるとは思わなかった。
砂原が突如、沸騰したかのように爆発する。至近距離でそれに巻き込まれた偵察隊の車輛が、あおりを受けて転倒する。
天をつんざくのは、水柱ではなく砂柱。その砂色の滝の中から、赤茶色の巨体が雪崩を打って倒れこんだ。腹の底に響くような地響きをもたらしながら砂原に巨体を横たえたそれは、すぐに体を起こし、天を覆うような異様を露にした。
岩のような質感の、赤茶色の細かくひび割れたリング状の甲殻。それが幾重にも連結されて円筒をなし、その先端には無数の牙が並ぶ、牙しかない口。
一言でいえば砂虫。だがサイズが尋常ではなかった。
「でかいな」
だが感想をいっている場合ではない。アレックスは機銃のアイアンサイトに巨大砂虫を捕らえると、フルオートで引き金を引いた。
車載機銃は、歩兵の携行するそれとは威力も反動もけた違いだ。うなりを上げて撃ちだされた大口径の機銃弾は、しかし砂虫の頑強な甲殻に阻まれる。はじかれるとまではいかないが、大半が甲殻に埋まるものの抜けていないようだ。撃ち続ければ可能性はあったかもしれないが、数秒の射撃で弾が底をついてしまう。
「ちっ。情報管理手、あの化け物の情報は何かわかるか?」
「こ、この星にあんな巨大生物の存在は人類の進出以降確認されていませんっ。強いて言えば、現住生物のザーバンミルワームに似ている気もしますが、あれはどれだけ大きくなっても50㎝ぐらいが限界です! あんな人を丸のみにできるようなサイズに成長するはずがありません!」
「まあそうだよな。じゃあなんだろうな、あれ」
天を衝く異様を見上げる。巨大砂虫は機銃掃射もものともせずに、しばしふらふらとそびえたっていたが、爆音の衝撃から立ち直ったのだろう。頭の向きを変え、再び砂に潜り始める。
偵察隊の車輛は動けそうにない。
結局ここでも貧乏くじを引くことになったわけか、とアレックスは苦笑すると、気持ちを切り替えて指示を出した。
「操縦手、できるだけ派手に発進しろ! すまんな、みんなで貧乏くじを引く!」
「了解」
任務中は常にクールなミリシアの返事と共に、22式が急速発進する。それだけでは足りないと困るので、アレックスは車体の装甲をレーザーピストルの銃床でガンガンと叩いた。
砂虫が潜りながら体を捩る。その動きから標的が変わったのを見て取って、アレックスは一旦、車内に戻った。
通信越しに偵察隊の車長が声を上げる。
『おい、遊撃隊の! どうするつもりだ!?』
「どうするつもりって、あんたら動けないでしょ。こっちなら追いつかれずに逃げ切れるかもしれないから、そちらは本隊に連絡を頼みます。仮想敵部隊をやったの、多分アイツだ。もう訓練とかいってる場合じゃない」
『それはそうだが! それじゃお前たちが危険だ!』
「貴方達を見殺しにしても順番が遅くなるだけなんでね。じゃあ、あとはよろしく」
『待っ……!』
通信を強制的に遮断する。
残念ながらこれ以上話をする余裕はない。背後からは、砂煙を巻き上げて巨大砂虫が追いかけてきている。
「総員傾注。これより、我々は独力であの虫を駆除する。作戦プランの提案があるものは発言せよ」
「た、隊長。逃げるんじゃ……」
「いくらミリシアでもいつまでも逃げられる訳じゃない。逃げられるとしてもそれは最後の手段だ。手っ取り早くぶっ殺せるならそれがいい。副砲手、どう思う? 副砲の重レーザーでアイツを仕留められるか?」
訓練用に模擬弾と空砲しかもってきていない主砲と違い、副砲はレーザー兵器である事から出力調整で訓練から実戦まで対応できる。現時点では22式最大の攻撃手段だ。
だが、副砲手の返事には力が無い。
「無理です、隊長。当てれば殺せますが、不可能です。副砲はほぼほぼ固定で、あんな動き回る相手は狙えません」
「操縦手の意見は?」
「ドライバーの意地がありますからね、なんとしても当ててやりますよ。でも流石に逃げながらは無理です」
「ふむ」
返ってきた意見はおおむねアレックス自身の想定の範疇だ。
「わかった。逆に言えば、奴の動きを予測可能かつ動きを止めた状態を作れれば、問題なく仕留められるんだな?」
「そんな事できるんです?」
「奴は地下から獲物を襲う時、動きが止まる。その状況を車輛前で作り出せばいい。ちょっと考えがある、可能かどうか意見を聞きたい」
皆に、脳裏に描いていた作戦を通達する。
作戦内容を聞いた反応は皆同じだった。つまり、ドン引き。
「正気ですか?」
ミリシアにまでこう言われる始末である。
「他に手段があったらそうしたいがな。代案は絶賛募集中だ。私も死にたくない」
「……そういわれると、他に思いつかないですが……」
クズノハが渋い顔で手を口にあてて考え込む。副砲手からも否定的な意見があがった。
「流石に隊長が死にますよ、それ」
「だがどう転んでも戦果は出せる」
「それは認めますが……」
つまり、アレックス自身の身の安全を除けば、誰も文句のつけようのない作戦だという事だ。
「残念ながらこれ以上問答している時間が惜しい。それよりミリシア、作戦の鍵は君にかかっている。ポイントは抑えているな?」
「やれって言われるならやりますけど。車体にも無茶苦茶反動がかかるんで、チャンスは一度しかありませんよ。ついでにやった後はもう逃げ切れないと思います。……まあそれはいいんですけど」
「良くないよミリシア?!」
「イオリ、そういうけど逃げる必要があるときって失敗した時じゃん? そしたら隊長も高確率で死んでるでしょ? そこは一蓮托生という事で……」
「……まあ、確かにそれならいいけどさ。失敗した時の事を考えても仕方がないよ。とりあえずぶっ殺せばいいんだしさ……」
副砲手がぼそっと賛同するが、発言内容はしごく問題がある。仲が良さそうでそうでもないなあこのメンツ……と改めてアレックスが頭を抱えた。自分がいなくなったら即座に空中分解しそうである。隊長として死ねない理由が増えてしまった。
「まあそういう事だから、腹をくくれ。ミリシア、頼むぞ」
「了解」
告げて、ミリシアがハンドルを切る。向かう先は、砂漠に連立する砂丘、その中でも特に大きくて高い奴だ。アレックスは車長席頭上のハッチを開放し、外へと半身を乗り出した。灼熱の日差しと、走行中の風を肌で感じる。
作戦の重要なポイントは三つ。
まず、一時的に砂虫からこちらの存在を隠蔽する必要がある。
とはいえ今急停止してエンジンを消した所で、普通に砂虫はかぶりついてくるだろう。そんな都合よく急に音は消せない、先ほど狙われなかったのはエンジンを消していた事に加え他の車輛のエンジン音がしたからだ。また騒音で目くらましならぬ耳くらましをしたところで、現在進行形で追いかけている相手の位置情報まで見失うほど頭が悪い、とは決めつけない方が良い。
さらに第二のポイントは、砂虫の方に車輛正面を向ける事だ。副砲は正面にむけて固定されているため、追ってきている砂虫を撃つには180度旋回する必要がある。当然、そのためにはエンジンをまわしている必要があり、第一関門と明確に矛盾する。
この問題を解決するために利用するのが、高い砂丘だ。
「ターボかけます。めちゃ揺れると思うから、しっかりしがみついてて!」
ミリシアの警告と同時に、ぐん、と車輛が加速する。エンジンに負担をかける、燃焼剤追加投入によるターボブースト。もともと快速の車輛が、さらに加速する。みるみるうちに、砂丘が迫る。
「ランチャー、セット。射出します!」
そして、クズノハがノイズメーカーをはじめとするデコイを射出。ただし今度は、グレネードの起爆時間を一秒ずつずらしている。それを砂丘の向こうに連続で放ち、その放物線を追うように22式も砂丘を駆け上がり……そのまま砂丘をジャンプ台にして宙を舞った。
自動車よりもはるかに重い車体が跳躍する。一時的な無重力感に、内臓が浮く異様な感触。その中で、ミリシアは即座にクラッチを切り替え、停止にそなえエンジンの回転を落とす。
そして着地……その瞬間、大量に放ったデコイの第一陣が、一斉にさく裂した。
車輛が砂漠に着地する音と、無数の爆音が入り混じって砂漠に響く。追ってきていた砂虫は、突然起きた不協和音にのたうち、いくつもの砂柱を上げた。
さらに、第二陣のデコイが炸裂。その騒音に紛れて、ミリシアはハンドルを切り、慣性でドリフトを決めた。180度とはいかなかったものの、大きく車体を旋回させる。直後、エンジンを完全に停止させる。
アレックスは内心で彼女のドライビングテクニックを褒めたたえた。想定以上だ。
今、砂虫は一時的にこちらを見失い、さらに車輛は真後ろとはいかないものの、向きを変える事に成功している。
あとは最後、三つ目のポイント。
いかにして砂虫の行動を予測し、動きを封じるか。
そのためにアレックスは身を乗りだし、22式の車上に立ち上がった。
……砂虫の姿は見えない。先ほどのように、びっくりして地上に飛び出したりはしなかったようだ。虫の頭でも、短期間の間の出来事なら慣れもあるだろう。
だが確実にいる。今は砂の中に身を潜めて、地上の騒音が引くのを待っているだろう。
だから、そこに獲物の存在を示してやれば、奴は必ず食いついてくる。
「……」
腹はくくった。いつもの事だ。
アレックスはそのまま車体から飛び降り、まっすぐ22式の正面を走り出した。
地面の砂は焼けた鉄板のようで、さらにきめの細かい砂が足を奪おうとする。だがそれにけっつまずいては一貫の終わりだ。足を止める事無く、全力の一歩手前の速力で走る。
と、足裏を通じて感じる砂の動き。
「来た!」
ぞわ、と少し離れた場所で砂が盛り上がる。それは様子をうかがうよにアレックスを遠巻きにぐるりと旋回し、そして急速に近づいてくる。
「そうだ、こっちに来い! 来やがれ!」
走ったところで、振り切れるものではない。どんどん近づいてくる。
と。不意に、砂の盛り上がりが沈んで消えた。
さっきもみた。捕食の前兆。今奴は、下から獲物に食らいつくために、深く潜っている……タイミングも、先ほどと同じ。
「副砲手、撃てっ!」
<戦場のひみつ:銃剣はほとんどの部隊で使われていない。基本的に銃剣が有用な環境で、人類が異星生物と白兵戦を行う事になった場合勝ち目が全くないからである。そのような白兵戦に持ち込まれた場合は、ピストルあたりを乱射して距離を取る事が推奨されている。とはいえ、一部の部隊では銃剣を採用している場合もある>