未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
<戦場のひみつ:惑星上の戦いでは後れを取る事が多い人類軍ではあるが、宇宙空間での艦隊戦においては流石に絶対的な優位性を保っている。それでも、とてつもない数で迫る異星生物のオーガニック・シップを全て殲滅する事は叶わず、じわじわと後背に勢力拡大を許してしまっているのが実情である。>
「あの二人、デキてるよね」
消灯前の自由時間。
相部屋のベッドで情報管理手……ネルス・マーディスが本を読んでいると、相方の副砲手……ニーナ・テジレアが唐突にそんな事を口にした。
脈絡のない話題振りだったが、色恋話はネルスも好きだ。パタンと本を閉じて会話に応じる。
ベッドの上で魚のように横たわっているニーナに視線を合わせ……いや、あっているのだろうかこれは。後ろ姿なら長くきれいな金髪とメリハリのある出るとこ出てる体型で結構男性士官に誘われる彼女だが、いざ対面すると前髪に隠れ気味の光の無い死んだ魚みたいな目とご対面だ。声をかけた男性士官はもれなくドン引きして引いていくし、こうやって対面してても意識が本当にこっちに向いているのかわからない。戦場で深いトラウマを刻まれた者特有の人間性の希薄化といえよう。
幸い口数は結構多く、そこに彼女の残された人間性を感じるなあ、というのがネルスの感想だった。
「二人って、ヴァディスさんとクズノハさん?」
「そ。あの二人と隊長」
「……まあ、隠せてないしね」
話題の三人の事を回想する。隊長は表向きはそうでもないが、女性二人はなんかもう駄々洩れだった。一応、二人とも隠しているつもりらしいが、バレバレである。
ミリシアはいつかはわからないがかなり最初、下手したらあの最初の訓練後くらいから。クズノハに関しては、ニーナとネルスがそろって医務室送りになって帰ってきたときにはもうそんな感じだった。いやまあ、クズノハに関しては恋愛? なのか少し怪しいが。どっちかというとあれは依存っていうか、肉体関係込みの主従というか。
「あんまり気にしてないね」
「いや、まあ。任務に差し支えるようだとどうかと思うけど、今の所そうでもないし。隊長が線引ききっちりしてるというかな。それだったら、外野がどうこう言う話でもないわ」
少なくとも、隊長の判断力はある程度信用している。多少、自分の身の安全を顧みないというか、真っ先に自分をベットしにいく悪癖はあるけど、無意味に自己犠牲に走るわけでもない。それでもって、関係をもった二人を特にえこひいきする、といった様子は微塵もない。
よく観察するとわかるが、入れ込んでいるのはあくまで女性二人の方だ。関係の主導権はあくまで隊長の方にあって、その隊長がわきまえているから問題ないだろう。
「意外。そういうの嫌いかと思ってた」
「意外ってひどくない? 私をなんだと思ってるの?」
「軍人家系のガチガチエリート」
「あのね……そういう人間だったらそもそもここに来てないでしょ?」
「うん。経歴は聞いてる。なめた真似した男性士官を後方送りにしたって。だからてっきり男嫌いか、恋愛アレルギーなのかと」
「あれは私よりへぼい癖に手を出してきたあっちが悪いのよ。反射的に手が出たというか」
「ふーん。……隊長相手でもそうするの?」
「隊長が手を出してくるの想像できないし、出してきたとして返り討ちは無理ね」
少なくとも射撃訓練も格闘訓練もあの隊長には及ばなかった。惑星総督としての教育を受けていただけあって、座学も完璧。もし隊長がそういう意図で手を出してきたらネルスには抵抗できないだろう。彼が部下に強引にことを迫るのはちょっと想像できないが。
隊長……アレックス・ウィンザード隊長。黒髪黒目の、中肉中背の青年。取り立てて美男子という訳でもないが整った顔をした、まあ平均点はあるといった相貌。あえていうなら、目が優しいのが好みといえば好みだ。その印象は、とにかく誠実で律儀。時折口調がぶっきらぼうになるけども、基本的には部下の事をよく考えてくれている。
ニーナが、長く伸ばした金髪で隠れ気味の目を細めた。
「なるほど。結構隊長の評価高いね。二股してるのは気にならない?」
「恋愛とは違うからね、戦場の男女は。明日にも死ぬかもしれない、って時に貞節だのなんだの言い出せる人はそりゃいるだろうけど、理屈じゃない事ぐらいわかるわよ。そもそも隊長の出自考えれば、愛人の一人や二人、価値観としては当然なんじゃない?」
「おお、おおらか」
「おおらかっていうか……ああいう、存続に責任が生じる家の男の人って、褥の術を教育されるものだし、一般人とは恋愛観が根本的に違うのよ」
別にその事に嫌悪を感じる事もない。文字通り違う世界の話なのだ。それを顧みてみれば、二股していても誠実だという印象は変わらない。見てる限りでは関係をもった二人に対しても、そうでないネルスにも、彼は一人の人間として誠実に受け答えする事を心掛けている。
「じゃあ、脈あり?」
「なんでそうなるのよ……。いや、隊長がダメって訳じゃないけど……すでに二人抱えてるし。ヴァディスさんもクズノハさんもあの入れ込みっぷりだと譲ってくれなさそうだし、流石に三人目は優先順位下がるだろうしね」
「打算塗れ」
「うるさい。そういう貴方はどうなのよ」
「私? んー、隊長はいいなー、とは思うけど……やりたい事があるから、ダメかな」
「やりたい事?」
「異星生物の連中を、一匹でも多く殺すこと」
平坦で冷ややかな口調なのはいつも通りだったが、そこには明確な殺意がこもっていた。
「他の皆は鏖にしたくせに、私だけ手を出さずに生かすなんて嘗めた真似をした連中を、一匹でも多くぶち殺してやる。それが最優先だから、隊長に割く時間はないかな」
「そう……」
別に、異星生物に復讐を誓う士官は珍しくもなんともない。ありふれた話だ。その中で、ニーナはまだ意思疎通ができるしマシな方だ。復讐にのめりこむあまり、部隊の仲間を危険にさらす事をなんとも思わなくなって背中を撃たれる兵士だって、見た事がないわけじゃない。ただ、生きている限り殺し続ける、などという誓いは非効率で、ネルスとしては好きじゃない。どうせなら何万匹殺す、それまでは絶対に死なない、とかの誓いの方がよっぽど建設的じゃないかと思うが、それは敢えて口に出さなかった。
それこそ、復讐は効率の話ではないからだ。
「まあ、でも。ネルスも他人事じゃない、かも」
「?」
「……私の。見立てだと。多分あの二人、隊長に夜は全く歯が立たない感じだと思うから、そのうち二人から増援のお誘いがあるかもしれない。覚悟はしといた方が、いいんじゃないかな」
「……それはちょっと。流石に退廃的なんじゃないかな……?」
そういう関係になるとしても、もうちょっと夢のあるきっかけじゃないと嫌である。
別に夜景の見えるレストランで食事をして、その場で花束を渡されて……とまでは望まないが、やっぱこう、それなりのシチュエーションぐらいは用意してほしい。
「高望みかなあ……」
「考えてる事が大体わからないでもないけど。関係進めておくなら今のうちだと思う。実戦でたらそれどころじゃないでしょ。処女のまま死にたいなら別にいいけど」
「う゛っ。ちょ、ちょっと考えさせて……」
◆◆
「偵察任務ですか。訓練ではなく?」
「そうだ。アレックス・ウィンザード中尉」
訓練基地司令部。
話があると呼び出されたアレックスは、そこで基地の重鎮と作戦指揮テーブルを囲んでいた。居合わせた幹部は皆老齢の将官。胸元にじゃらじゃらと勲章を品なくぶら下げているが、皆痩せこけて青白い顔をしている。ザラガ司令官と違って、前線にでたら数日も持たなさそうだな、というのがアレックスの感想だった。
そんな彼らから言い渡されたのが、突然の実戦任務である。さらに、自分の階級が聞きなれないものになっている事に、アレックスは眉を潜めた。
「私が中尉ですか?」
「そうだ。まさか文句はあるまい?」
「いえ、はい。了解いたしました」
吐き捨てるように言う幹部に、表面上は礼節をもって答える。階級っていうのはそんな簡単に上がったり下がったりするものではないはずなのだが。正式な辞令も聞いていない。
階級が上がるというのは本来嬉しい事のはずが、ここ最近の事を考えると素直に喜べない。恐らく口封じか、これから言い渡される任務の前払いといった所だろう。つまりそれ相応に厄介な任務だ。
「任務内容を伺っても?」
「そうだな、我々も忙しい。貴様にやってほしいのは、ザーバン地表に落着した不審物の調査だ」
「先日、惑星の自動対空防御システムが起動した。それによって惑星に接近していた不審物が破壊されたのだが、その一部が大気圏を突破して地表に落着したと報告があった。本来なら大した問題ではないが、先日の一件がある。念のため、独立遊撃隊である貴様らに調査を命じる」
突っ込みどころ満載である。アレックスはひきつりそうになる表情筋を全力で制御するのに集中しなければならなかった。
まず、自動対空防御システムが起動するような状況で、対象を不審物呼ばわりしてるのが不味い。それはつまり惑星の衛星軌道上に侵入されたという事で、対空監視は何やってんのだとか普通のデブリとかがそんな所に潜り込んできたらそれが別口の問題だとかもうこの時点で突っ込みどころが三つ、四つある。
さらにその破片が大気圏を突破した? 人間が居座る事が可能な程度に大気があるザーバンの重力圏につかまったら、大抵の物は燃え尽きるか小破片だ。それがはっきりと地表に落着したのを追跡できる程度に残っているとか、それはもともとがかなり大きかったか耐熱性のある物質だったという事になる。先日の件を踏まえなくても、まともな司令部だったら状況証拠から異星生物の再突入殻と判断して厳戒態勢、偵察任務なんて悠長な事を言わずに即座に追撃部隊を出撃させるのがセオリーだ。流石に破片一つ見逃したから深刻な問題になりました、なんてのは考えにくいが、それとこれとは別の話である。
というか独立遊撃隊にまかせる任務ではない。こういうのは司令部と常時ホットラインで繋がっている精鋭部隊の仕事だ。
コイツらマジかよという内心の絶叫を表面上抑え込めたのは奇跡だった。
「任務、謹んで拝領いたします。しかし、我が隊は先日のトラブルで車輛を喪失しております。今のままでは任務の遂行は不可能です」
「問題ない。先日、西方司令部から貴様の隊あてに27式掃討戦車が輸送されてきている。車輛を拝領し次第出撃しろ」
「はっ 了解いたしました」
これ以上喋ってボロが出る前に、アレックスは迅速に退室した。
「アイツらマジかよ」
部隊の元に戻って、開口一番アレックスは愚痴った。とにかく愚痴った。憤懣ここに極まれりというやつだ。
「まあまあ、隊長、落ち着いて。ね?」
「ん。でも気持ちは痛いほどわかりますよ……」
両隣で、ミリシアとイオリがそれぞれアレックスの機嫌を宥める。人目があるのでちょっと距離を置いてはいるが、まあ自分の女に宥められていつまでもイライラしているほどアレックスは恥知らずではない。こほん、と咳を一つついて、気分を切り替える。
その様子を見て、ニーナとネルスも胸を撫でおろす。普段温厚な人がイライラしていると落ち着かないというより不安になる。
落ち着いたところで、部隊一同、目の前で行われている搬入作業に目を向ける。
基地の整備員が、一台の戦車を隊のガレージに運び入れている。22式に比べると大型の車体。ただ車体上部には太い主砲ではなく、回転式銃身を持った二連の機関砲と、ミサイルランチャーと思しきボックスが備わった砲塔が備え付けられている。最新の主力戦車である25式のフレームを流用し、対歩兵支援を想定した装備を施された最新の支援車輛、27式掃討戦車、通称“消しゴム(イレイザー)”だ。
番号からわかるように、かなりの新鋭機種だ。対装甲を想定した大口径主砲こそないが、その機関砲による殲滅力でマップから敵影をそれこそ消しゴムのように消していくという事で兵士から信頼を持ってイレイザーと呼ばれている。新鋭兵器がそのような評価を受けている事からも、その性能が伺えるという話だ。
「まあそういう訳で我が隊の新しい車輛が来たわけだが。なんかいきなり車種変わったけどミリシア操縦手は行けそうか?」
「まあ全然。これぐらいならヨユーヨユー」
「クズノハ砲手は?」
「ん。滅茶滅茶大丈夫です。27式は最新鋭のデータリンク機能や標的自動追尾機能とかあるって聞いてるんですけどそのあたりのマニュアルあります?」
「お、おう……」
二人そろって乗り気である。旧式化していた17式と違い、27式は最前線でも配備数が少ない最新鋭機種だ。二人がやる気を刺激されるのもわかる。
「隊長……これ、副砲っぽいものがないんですけど……私はどうなるんで……?」
「ん? ああ、情報管理手と一緒にミサイルの制御をやってもらう予定だ。安心しろ、仕事はちゃんとある」
「ミサイル? ……やった」
「電子化が進んでいるようです。私の仕事は減りそうで増えてますね」
概ね、部下達の評価は上々のようだ。
実際、あのまま22式にのっているよりはこちらの方が生存は見込めそうだ。第77独立遊撃隊はその任務上、小回りが利いてかつ打撃力のある車種が向いている。22式も悪くなかったが、無理な小型化で標準的な体格揃いの隊では狭苦しかったし、防御力にも不安があった。火力においても、重レーザーは魅力的だがあれはそもそも障害物破砕が主目的の射角がほぼ皆無な代物だ。たまたまこの間は状況を作り出して活躍したが、そうそううまくいくばかりではない。
その点、この27式は性能的に問題ない。速力もあるし、装甲も十分。内部スペースは多少弾薬に圧迫されるとはいえ十分に確保されているし、22式より体を伸ばせる。火力に関しては言うまでもなく、敵歩兵のみならず軽装甲であれば敵機甲戦力も駆逐できる機関砲に、重装甲の敵でも破壊できるミサイルを備えている。遊撃隊が敵主力重機甲戦力を相手にする事は普通ないので、いささかオーバーキルなぐらいである。
弾薬の補給に今後気を遣う事になる可能性はあるが、あらゆる状況に対応可能で部隊の規模や任務内容に沿った装備だ。あえて問題点を穿り出すとすれば、まだ前線でも配備数の少ない新型なので、実戦証明が足りておらず想定外のトラブルに見舞われる可能性がある程度の話だろう。……もしかすると独立遊撃隊なんて胡乱な小隊にこんな最新兵器が回されてきたのはそのあたりを狙っているのだろうか? それを踏まえてもまあ、豪華な話だ。
が、それを差し引いても、任務内容には頭が痛くなる。
まず基地の上層部にまるで緊張感がない。これが最大の問題だった。
「……ところで、情報管理手。連中とは連絡がついたか?」
「はい。言われた通り、先日訓練を共にした偵察班第一班、および第二班の車長に今回の一件について話を通しておきました。……あちらもそれなりに深刻にとらえたようで、母体の戦車大隊にも話をしておくと」
「それならいいんだが……」
「……よくわからないんですが、彼らに話を通すことに何の意味が? いくら戦車大隊とはいえ、司令部に意見を通すほどの権限はないでしょうし、隊長もそれを期待しているようには見えませんが」
「まあ、最悪の最悪に備えての話だ。こういう一手が、悪夢が現実になったような時に助けになる事がなくもない」
「ん。隊長ー、正直疑問なんですけど。そんなヤバい任務受けてよかったんです? 遊撃隊としての裁量で避けてもよかったんじゃ」
「流石に司令部からの直接命令は拒否するのが難しい。それにヤバいからこそ、直接自分で対応した方がよいってのもある」
「そういうものですか?」
「……まあ実際の所、問題を軽視しすぎているのと、事実的な脅威度はまた別の話さ。大気圏を突破してきたところで破片には変わりないんだ。この規模の基地を脅かすような戦力であるとは考えにくい、っていうのが常識的な考えさ。それなら慣らしにはちょうどいいだろう?」
内心納得がいっていないのを自分でも隠せている気はしないが、そういう事にしてアレックスは話をまとめた。
「とりあえず急いで準備してくれ。一時間後には出る」
<戦場のひみつ:人類軍は大きく分けて三つの軍に分けられている。陸軍、宇宙軍、そして海兵隊である。宇宙軍はかつて海軍と空軍に分かれていた歴史から、統合された今でも内部で相容れない派閥同士の抗争が続いている。そのため近年は、海兵隊がその権限を増し独自に作戦行動を取る事が増えてきている。>