未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
<戦場のひみつ:宇宙海兵隊は宇宙から星へ、星から宇宙へ強襲を行う軍である。異星生物との戦争において重要な存在であり、もともと大きな権限を与えられていたがそれでも人類群を三分するほどの存在ではなかった。宇宙軍の不甲斐なさから政治的な支援を受け、勢力を大きく拡大した経緯がある。>
「~~♪」
荒野を疾走する、27式。流れていく風景を車長席から見渡しながら、アレックスは持ち込んだクッションの位置を調整して席に座りなおした。
27式の居住性は話に聞いていたよりずっと良かった。何年か前に、居住性の軽視が結果的に兵士の能力発揮の妨げになっており、全体としては決して無視できないレベルの戦力低下になっている、という軍事レポートが提出されてから配備される車輛の改良が進んでいたと聞いていたが、実際に最新鋭機種に乗れば明確だった。
まず車内に照明がある。次にスポットクーラーがある。サスペンションが利いていて振動もそんなに感じない。
ほかにも上機嫌なミリシアの鼻歌が聞こえてくる事からわかるように、静穏性も遮音性にも優れている。最新鋭=高性能の図式を体現していると言えよう。
ただ問題もあった。高性能多機能な分、覚えなければならない事が多い。22式は構造が単純で学力の低い兵士でも動かせるようになっていたが、27式はそうではない。今も、イオリやニーナ、ネルスはマニュアル片手に機能を確認中だ。そういうのが必要なかったのは、車輪がついていれば何でも動かせると豪語するミリシアぐらいなものである。
「しかし、22式がスクラップになった時はどうなるものかと思いましたが、こんなに早く次の車輛が来るなんて西方司令部様様ですね、隊長」
「あー……そうだな。うん」
「隊長? なんか不満でも? 運転荒くなってました?」
「そういう訳じゃないんだが、うーん」
部下に言うべきかどうか、しばし悩むアレックス。
移動時間が平和だったせいで、思考をめぐらす余裕があった。そのせいで、まあ色々と思う所ができてしまったのだ。
早く次の車輛が来たのは良い。良いのだが、軍とはそんなにフットワーク軽いものではないはずだ。銃弾一つ、ネジ一つ、上に通さなければ手配できないのが組織というものだ。ましてやそれが戦闘車輛ともなれば。
22式がスクラップになってから一週間弱、そんな短期間に、それも最新鋭の車輛を配備するなんて、西方司令部でもよほどの強権を通さないと無理な話だ。そして、少なくともそれほどの強権を発動するだけの価値は、第77独立遊撃隊には無いとアレックスは見ている。いくら肝いりで設立されたとはいえ、まだ訓練中の実戦に出ていない部隊、実績のない部隊にそれほどの権限を割くとはとても思えないのだ。だが実際に、27式はこうして配備されている。だったら、真相は逆……もっと以前から、27式の配備が進められていたのではないか?
そもそも、最初に配備された22式にも疑問がある。当時も思ったが、たった五人の部隊とはいえ、それでも一般人にはあの車輛は小さすぎるのだ。さらにいえば大分旧式。最前線ではバリバリ消耗されるから生産はそこそこ回っているはずだが、大分ニッチな車輛で、つまりは後方では余りやすい車輛。
そして基地司令部のあのボケナスな対応。
もしかすると、だが。本来第77独立遊撃隊に最初配備されるはずだった車輛はこの27式で、それを上がちょろまかそうとして配備されたのが22式だったのではないか? それが上に報告がいって誤魔化しきれなくなりそうだったから、倉庫にぽっけないないしていた27式を慌てて取り出してきたのではないか?
そう考えると訓練初日に砲弾撃ち込まれた事にも意味合いが出てくる。訓練中の不幸な事故で部隊が壊滅した後、本来配備されるはずだった車輛はどこにいく?
証拠はない、陰謀論のようなものにすぎない。だがザーバンに来てから、目に見える基地の風景がどんどん疑わしい物になっていくのは事実ではあるのだ。それがどこからどこまで人為的なものなのかは、また考察の余地があるが。
「……いや。まだ確証がないから言わないでおく。私が言ったらお前ら信じるからな」
「その言い方だともう大分証拠はあるんじゃないです? ゲロっちゃいましょうよ、隠し事は無しですってば」
「確証がないっつってるだろうが」
気を許しているのだろうが、なんかウザ絡みするようになったなコイツ……と半目をミリシアに向ける。当の本人はそんな視線を向けられてるにも関わらず、上機嫌でハンドルを手繰っている。最新鋭の車輛のハンドリングは、彼女のお気に召したようだ。
「まあいい。全員、マニュアル読みながらでいいから聞いてくれ。出発前に確認した通り、今回の任務は正体不明の落着物とその周辺の調査だ。まず大丈夫だと思うが絶対はない。最悪、白兵戦が生じる事も考えて任務に当たってくれ。調査に当たっては、私とネルス、ニーナが降りて直接対象を調べる。操縦手と砲手は万が一に備えて車内で待機していてくれ。また作戦中、降車した人員はそれぞれコールサインでやり取りする。いいな。もし危険に遭遇したら、私に連絡いれている暇があれば各自の判断で対応しろ。自分自身の生存が最優先だ」
「了解しました」
「ん。了解」
「私はお留守番かあー」
「ん。そりゃ操縦手が降りてたらいざって時動けないから仕方ないよ……。ミリシアは白兵戦いけるほうなの?」
「自慢じゃないけどクソ雑魚ナメクジ」
「ナメ……? 自信があるって事?」
「……砲手と操縦手は絶対に車輛から降りるなよ? いいか? 振りじゃないからな、絶対に生身で敵勢力とやりあおうとか考えるなよ? いいな?」
頭痛のタネが増えたアレックスだった。
まる一日半走り続けて、アレックス達は目的地へと到着した。ターゲットを丘一つはさんだ反対側で、歩兵装備のアレックス達が降車する。
戦闘を想定し、プラスチックアーマーやヘルメットの上からハンドグレネードや無線装置、ポシェットをゴロゴロと身にまとっている。手にはそれぞれ愛用のレーザーガンを抱きかかえ、万全の戦闘態勢だ。
「こちら、アント1からマザー1へ。これより任務を開始する」
『マザー1了解』
即興ででっち上げたコードネームで互いを呼び合う。通信状態は良好、問題はない。
「もう一度言っておくが、私達に何かあったら司令部に直電しろ。余所者扱いで司令部とのホットラインが接続されていなくても、緊急報告の類だったらあっちも流石に聞く耳を持つはずだ」
『……了解しました』
「安心しろ。私もこんな所で死ぬ予定はない。いくぞ、アント2、アント3」
「了解」
部下を引き連れて先に進む。すでにここは戦場と心得、互いにフォローし合いクリアリングしながら先に進む。先頭はアレックス、真ん中がニーナ、殿がネルスだ。訓練成績を見るに、ネルスは部隊でアレックスの次に戦闘慣れしている。逆に聊か攻撃的で先走りやすいとみているニーナは真ん中において、勝手に動けないようにする。現状では落ち着いているようだが……。
「こちらアント1からマザー1へ。標的を目視した。これより接近する」
『マザー1、了解。……お気をつけて』
「ああ」
丘の向こう、大地に刻まれたクレーターを目の当たりにして、緊張に唾をのむ。
クレーターの底からはいまもなお煙がくすぶっていて、衝突時のエネルギーを物語っている。しかし想定よりも大分クレーターが大きい。ミッションの説明ではせいぜい、直径4m前後の小飛来物によるクレーターだと説明されていた。だが実際に確認したのは、どう小さく見積もっても10m以上ある。すなわち、落着物も想定以上の質量を保っている恐れがある。不確定要素だ。というか偵察衛星で確認しただろうになんでこんな初歩的なミスをするのか。もしかすると事前情報全部適当では?
周辺の地形は、砂漠化していない荒野地帯。黄色くくすんだ荒れ地と岩が、見渡す限り林立している。まばらに存在する梢も、乾燥に耐えるためか葉の大部分が棘のように変化していて、とても風光明媚とはいいがたい。
それでも、自然の風景ではある。しかし今はクレーターのせいで、その自然の情景からすら外れてしまっている。気のせいだろうか、周辺の生物の気配も希薄に感じる。もともとザーバンの野生動物を目にする事は稀ではあるが、それを踏まえても、この落着物を恐れて逃げ去ってしまったかのように、生き物の気配を感じない。
周辺の安全を確認し、淵からクレーターを覗き込む。掘り返されたすり鉢状の陥没部の底に、煙を上げる異物の存在を確認した。同時に、鼻をつく異臭の存在も。
戦場で何度も嗅ぎ分けた匂い。レーザーが、異星生物の甲殻を焼いたときの匂いに似ていた。
油断していたつもりも、甘くみていたつもりもないが。ここにきて、自身の警戒度が上昇したのを自覚する。
「アント1からマザー1へ。標的は、推定異星生物残留物から、確定に変更。これから接近し、危険性の有無を調査する。……アント2、ついてこい。アント3はここに残って警戒を続けてくれ」
クレーター周辺は土が盛り上がっていて、内部の傾斜とあわせて中に入れば外が見えない。万が一に備え、ネルスを警戒に残す。
内部に足を踏み入れ、傾斜を滑り降りる。数メートル下れば、すぐに底だ。一度振り返るが、ここからではネルスの姿も見えない。また、深く掘り返されたからか、それとも熱の影響か。中心部分では土の色が黒く変色している。
その中心に、ぐずぐずに崩れた何かの塊が鎮座していた。
ナイフを取り出し、レーザーガンのバレルに取り付けて簡易銃剣を組み立てる。それを突きつけるようにしながら、慎重に物体へと近づいた。
近づけば近づくほど、鼻をつく異臭が濃くなる。それを我慢しながら再接近し、落下物の状況を確認する。
大きさは直径1m前後。紫色の分厚い甲殻とその下部組織で構成されている。何か巨大な構造体の砕けた破片、といった所だろうか。組織むき出しで大気圏突入時の断熱圧縮に耐えられるはずがないから、突入後上空で砕けて飛散した一部分、という事だろうか。憶測ではあるがその場合、周辺一帯の広範囲に同様の落着物が存在する可能性がある。ミッションの前提が悉く覆っている、何のためのブリーフィングだ馬鹿馬鹿しい。
煙こそ上がっているが、表面は煮えたぎるような熱はすでに去っているようだ。油のような生体由来の可燃物が、今もぐずぐずと燃え残っている。
熱にさらされたプラスチックのような甲殻表面に、銃剣を突きつける。見た目に反しすでに冷えて硬度は戻っているらしく、硬い手ごたえが返ってくる。
「アント2、フォローしろ」
「了解」
背後でニーナがレーザーガンを構える。アレックスは突き立てた銃剣をのこぎりのように動かして、甲殻の表面を切り裂いた。
どろり、と青い体液が断面からあふれ出してくる。傷口を押し開いて、内部を確認する。
「……無数の卵巣……の残骸か。これが再突入殻だったのはほぼ間違いないな」
傷口から除く内部には、無数の水疱のようなぶつぶつがつぶれてぐちゃぐちゃになった組織構造が見て取れた。落下の衝撃で弾けたのだろう、ひどく痛んでいてどれも機能しているようには見えない。だが、これが再突入殻であるというのが大きな問題だ。さっきも考えたように、これと同様の破片が周辺に散らばっている可能性は大きい。その中に、生きている卵があれば大変な事になる。
「……ある意味目的は達成したな。マザー1、聞こえるか」
『マザー1よりアント1へ。聞こえています。何か?』
「ただちにコードを使って司令本部に緊急連絡をしろ。異星生物の破壊工作員がこの惑星に侵入した可能性が非常に高い」
『了解しました』
通信を切り、少し考え込む。カバーの必要がなくなって、レーザーガンを下ろしたニーナが首を傾げた。
「隊長、どうする?」
「任務中はアント1と呼べ、アント2。……とにかく、もう少し周辺を調査だ。他に破片がないかだけでも最低限確認する」
「了解。……この破片は? 卵は死んでるみたいだけど、全部調べた訳じゃないよね。放置するんです?」
「そんなこたあない。当然焼却処理だ。必要な油はもってきてるな?」
「もちのろんです」
手際よくニーナが油を撒いて焼却準備を始める。
その様子を傍らに、念のためもう少し破片の周辺を観察していたアレックスは、ふと気になる痕跡を見つけて目を細めた。
破片の傷口からは青い血液が染み出している。だが、それより以前に染み出した血が、周辺の土壌にしみこんでいる形跡があった。
……砕けた直後だったら出血も多かっただろうし、それ自体は不思議ではない。だが、今しがた流れ出した青い血液は土にしみこむよりも早く凝固が始まり、乾きかけのペンキのように堆積している。その両者の違いが、少し気になった。
「これは……」
しゃがみこんで調べようとした瞬間。
ピィィ、という微かな音がアレックスの鼓膜を震わせた。
聴力検査を思わせる微かな低音。しかし、兵士が決して聞き逃してはいけない音でもある。
レーザーガンの発射音だ。
この場にいる人間は三人。アレックスと、ニーナと、あと一人。
ネルス情報管理手。
「アント3! 応答しろ、何があった!」
『ッ! ッ!! た、隊長……が、っ!』
通信の向こうは返答は不明瞭だ。通信が妨害されているというより、会話の相手がしゃべっていられない、そんな反応。
「アント2、ついてこい!」
答えを待たずにクレーターを駆け上がる。重装備が災いし、足が土に取られてほんの少しだけ手間取った。
その僅か数秒の間に、再びレーザーガンの発射音。
『アント3! こっちに飛び込め!』
返事はない。だが、聞こえているはずだと確信した。
直後、クレーターのふちの盛り上がりを飛び越え、ネルスが姿を見せた。……彼女のプラスティックアーマー、その右肩の装甲が失われている。その下の軍服も、すさまじい力で引きちぎられたような有様で、白い肌が無防備にのぞいていた。苦痛に歪んでいた彼女の視線がアレックスと交差する。浮かぶのは、安堵と、恐怖。
その彼女の後方。ネルスを追うようにして、異形がのっそりと姿を見せた。
予想はしていた。それに死ぬほど見慣れた存在でもある。
だが、ここで遭遇していい相手ではなかった。
「異星生物!」
一言でいうと、直立するヒトデだ。白っぽい肌をした、五本脚のヒトデが、そのうち2本の足を使って走っているような、そんな訳の分からない生き物。
異星生物の中でも、歩兵に該当する種族だ。
飛び込んできたネルスを左手で抱き留める。そして追ってくる異星生物だが、しかし距離が近い。狙って撃つ暇はないし、レーザーではこの質量は止められない。そしてこいつらの腕力? 脚力? は人間一人、捩じってちぎるぐらいの事は訳がない。捕まったら終わりだ。
だから、アレックスはためらいもせず、銃剣をつけたままのレーザーガンを投げ槍のように投擲した。女性一人を片手に抱きしめているというハンデはあるが、そのぐらいなら訳はない。
銃剣の切っ先が、狙いたがわず歩くヒトデの躰の中央部、急所である核を違わず打ち抜いた。飛び込んできたのとは反対側に衝撃でヒトデがそりかえった。
「少し失礼」
一声かけて、抱き留めているネルスの懐からレーザーピストルを拝借する。のけぞって動きを止めたヒトデに、連続で照射。レーザーがヒトデを打ち抜き、ジジジジジッ! と肉の焼ける不快な音を立てた。
ビクン、とのけぞったままヒトデの五指が痙攣する。そのままぐしゃりと崩れ落ちたヒトデの絶命を確認する。こいつらは中心の生命核が弱点で、それ以外がどれだけ傷つこうと活動を停止しない。例え五肢を引きちぎっても、生命核が無事なら数日あれば完全に再生してしまう。
完全な絶命を確認してから、アレックスは腕の中のネルスに声をかけた。
「大丈夫か?」
「…………。はっ! すすす、すいません、隊長。助かりました!」
「怪我は?」
「不意を突かれて肩アーマーを引きちぎられたぐらいです。はい。今の所痛みは感じません。はい」
「そうか。……よかった。すまん、軽率だった。こんな事態になるとは」
「あ、いえ。その。……隊長、その、ちょっと強く抱きしめられると痛いといいますか、なんていうか、その」
「おっと、すまん」
そういえば抱きかかえたままだった。ネルスを手放して一人で立たせる。が、腰が抜けてしまったのか、すぐにふらつくのをまた支える。
「ダメじゃないか、無理するな。実戦経験があっても、不意の遭遇戦だったんだ。意地を張る必要はない。むしろ逃げずによく戦った。政治将校もサムズアップものだぞ」
「す、すいません。で、でも、そういう事じゃなくって……」
「あの。鉄火場で。イチャイチャしないでほしいんだけど」
「ち、違うっ!」
ニーナのジト目に、ネルスが顔を真っ赤にする。ならいんだけど、と興味なさそうに流して、ニーナはヒトデの死骸に目を向けると、突き刺さったままのレーザーガンを引き抜いた。さらに傷口に向けて、引き金を引く。
ズビビビ、と死骸を炭化する作業にいそしむニーナに、アレックスが眉をしかめる。
「そいつは死んでる。無意味にバッテリーを消耗するのはよせ」
「……失礼しました」
照射はやめたが、今度は死骸を念入りに砕き始めるニーナに、やめろとは言わずにアレックスは肩を落とした。憎しみがあるのはかまわないが、せめて効率的にやれ、と言いたい。
「とにかく異常事態だ、私達単体であたるのはばかげてる。早々に撤退……できたら、いいかな」
「た、隊長……。さ、さっきもですね、こうやって地面から……」
「先に聞いとくべきだったな……」
周辺の地面が、もこもこと隆起する。ぶるぶると身体を振って土を振り払うのは、今しがたしとめたヒトデと同種の生命体だ。
しかも数が多い。ざっとみて10体以上。それがアレックス達を取り囲むように、続々と地面の下から姿を見せつつある。
<戦場のひみつ:ブレインストリーミングは、究極の尋問方法である。生きた人間の脳をスキャナーにつなぎ、脳内の情報を全てデータ化するこの方法で得た情報は、自白以上の確かな証拠として扱われる。なお、スキャニングされた人間の脳は機能を失う為、事実上の処刑でもある。>