※この作品はR-18です。

未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版)   作:SIS

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<戦場のひみつ:異星生物は極めて多彩な生態系から構成されるが、大多数は棘皮生物に似た体構造を持った戦闘生物で構成されている事が多い。これは彼らの簡素かつ頑強な耐構造が生物兵器として高く評価されているからとされるが、詳細はよくわかっていない。>



第十七話 デンジャラス・ピクニック

 

 

 レーザーガンを構えてニーナが前にでた。

 

「隊長。私が殿を務めます、離脱を」

 

「越権行為だぞ、アント2。それを決めるのは貴様じゃない」

 

「しかし」

 

「そもそも、だ。貴様はもう少し、同僚を信頼しろ。ほら、来たぞ」

 

 ヴォオオオオン、というエンジン音。ヒトデ達もそれを聞きとがめたのだろう、包囲しているアレックス達に向かってこずに、周辺を見渡すような動きをする。ちなみに、ヒトデの目は肢の先にある、と聞いたことがあるが、こいつらはあくまでヒトデっぽいだけだ。目が果たしてどこについているのか、本当に目があるのかは知らないが……だとして、目前に迫った“ソレ”を目の当たりにして、どう思ったのか。

 

「伏せろ!」

 

 二人の部下に飛びつくようにして地面に引き倒す。

 

 直後、飛び込んできた鉄塊が、ドリフトしながら包囲網の一角を挽肉にした。哀れな犠牲者の肉片が、雨のように周辺に飛び散る。そのさなか、青い血と肉片で履帯回りをぐちゃぐちゃに汚した27式が、回転式砲塔をめぐらせる。備わった機関砲が、低い唸り声を上げながら回転を始めた。

 

 無慈悲極まりない対地掃討。何匹いたかわからないヒトデは、一瞬のうちに消し飛んだ。いくら生命核を損傷しなければほぼ不死身といっても、機関砲の一撃を受ければ躰のどこにあたっても即死だ。凄まじい運動エネルギーは一瞬で肉体の全身に波及し、血液を逆流させ細胞を弾けさせ骨を砕く。人間でも異星生物でも関係ない。問答無用で風船のように弾けて、それで終いだ。

 

 まさにイレイザーの名の通り。

 

 ヴヴン、と機関砲が回転を落とす。カラカラカラ……と減速する砲の前には、異星生物はもはや一匹たりとて残っていなかった。

 

 一瞬の掃討劇に、アレックスは称賛の言葉を述べた。

 

「見事だ、クズノハ砲手。ミリシアも」

 

『いやいやいや呑気言わないでください隊長。こっちは心臓止まるかと思ったんですよ!』

 

『とにかく無事ですか隊長? 無事ですね? 無茶して怪我とかしてませんよね?』

 

「ああ、無事だ。おかげさまでな」

 

「隊長ばっかりじゃなくてこっちの心配もしてほしいんだけど」

 

「ぎえー。隊長、重い。潰れる……」

 

「おっとこっちも失礼」

 

 押しつぶされていた二人に手を貸して立ち上がらせる。ぱんぱんと服についた土を払い落としてやると、ネルスが微妙な顔をした。

 

「? どうした?」

 

「いえ、なんでも……」

 

「ネルス。あんまり意識すると疲れるだけだと思う」

 

「そうね……」

 

『気持ちはわかるけどー。次が湧いてくるまえに早く乗ってね』

 

「言われるまでもない。ほら、さっさと乗った乗った」

 

 ちゃきちゃきと全員で27式に搭乗。異星の血と肉でべとべとになった車上にちょっと足を滑らしそうになるとか、フル装備のままだと車内を移動する際色々ひっかかるとかのトラブルはあったが、3分もかけずにすぐに全員が中に乗り込む。

 

「ミリシア、事前の後退地点まですぐに移動。他は全員で周辺警戒」

 

「了解」

 

「隊長、移動しながらでいいので少し報告が。重要な話です」

 

「なんだ?」

 

「……基地司令部に通信がつながりません」

 

 一瞬、言われた言葉の意味が理解できなかった。

 

「なんだと?」

 

「通信設備の不備や、コードの間違いではありません。単純に、通信がつながらないのです。何らかの通信妨害を受けているか、あるいは受信側が存在しないか、のどっちかです」

 

「司令部以外の基地への通信は」

 

「いくつか試しましたが、ダメでした。直後、こちらも異星生物の襲撃を受けて、それ以上の事は試していませんが」

 

「襲ってきたのは全員撥ねて始末しましたー」

 

「そうか……」

 

 予想外の展開に、しかし動揺を部下に見せまいと振舞う。顎に手を当てて、情報を整理する。

 

「戦車大隊のトラブル仲間への連絡は?」

 

「ダメですね。基地一帯の通信が妨害されていると考えた方がよさそうです」

 

「確か。異星生物の中に、けっこうな強度の通信妨害を行える種がいたな……。そいつが星に侵入していたのか?」

 

「ああ、確かシダ系の植物みたいな見た目の奴でしたね。でもあの種は、成長に時間がかかる上に肉体的には貧弱です。落着物の落下想定時刻や規模から考えても存在しているとは……」

 

 ネルスが素早く記憶から該当種を索引してきて、しかしあり得ないと否定する。それにアレックスは首を振った。基地との通信が途絶えるというあり得ないが起きているのなら、あり得るのだ。

 

「だったら前提が違うんだ。そもそも遭遇した敵自体、今回落下した再突入殻だけの規模じゃない」

 

「え……」

 

「恐らく、もっと以前から。少しずつ戦力をこの星に投入してた。通信障害だけ、という見方は危険だ。最悪、基地はすでに落とされているとみるべきだ」

 

 根拠はある。

 

 異星生物が侵入し、軍を形成した惑星は生態系が狂う。ごく少数の絶滅危惧種が突如として異常増殖したり、中間層の被捕食者と捕食者が逆転したり、バイオマス量に顕著な変化が現れる。

 

 この星でも今思えば前兆はあった。惑星固有種の異常な巨大化と凶暴化。さらに本能で動いているとしか思えないのに、友釣りのような高度な戦略も行っていた。

 

 これは異星生物、もしくはその影響を受けた生物によくみられる特徴だ。あまりにも極端な変化だったから気が付かなかったが、状況が危険なレベルで侵攻していたからこその変化だったのだろう。

 

 個々、あるいは群体でみれば本能のままに生きているようにしか見えないのに、全体で見れば高度な戦略的判断を下しているとしか思えない理不尽な存在。それが、人類が長年抗い続けている仇敵なのだ。

 

 そしてアレックス達が奇襲を受けたように、十分な数の敵個体が地下から基地に襲撃をしかけたら。あのゆるみきった防衛体制だ、下手をうてば一溜まりもない。

 

 流石にネルスが顔色を変える。

 

「まってください。それが本当なら、この星の自動防衛システムがまともに機能していなかった事になります。それが事故であれ故意であれ、人類に対する甚大な背任行為になります! 最悪、惑星住人全員が処理対象に……!」

 

「あー、まあ、うん。そうなるだろうなあ……。まあ、とりあえずは現状をどうにかする事を考えよう。大丈夫、落ち着け。言っただろう、私達は独立遊撃隊だ。こういう時、一蓮托生してやる義理もないさ。私達が義理立てするのは西方司令部だけでいい」

 

「で、でも……」

 

「いいから、な? 呼吸を整えるんだ、そう、いい子だ。なあに、こないだの事件の事もあって、こっちに西方司令部の息がかかった査察官が向かっている。彼がついでに私達の保障もしてくれるさ。大丈夫、な?」

 

「は、はい……。すいません。取り乱しました。隊長の言う通りです……」

 

「……でもそれやばくない?」

 

 ぼそりとミリシアがつぶやいたのに、車内の全員が反応する。

 

「だって今、基地が落ちたか落ちてないかはともかく、通信障害受けてて異星生物の攻撃を受けてる可能性大でしょ? そこに査察官がのこのこやってきたら、最悪異星生物に撃ち落されない? そしたら流石に詰むんじゃない? 不味くないです?」

 

「あ゛ー……」

 

 言われてみればまさにその通りだ。思わずアレックスは頭を抱えた。

 

「たたた、隊長。どうしましょう。どうしましょう!」

 

「いいから落ち着け、最悪の事態を想像するのに能力を使うな。あー、くそ。外部が異常を察知するまで隠れてようと思ったがそうもいかないかぁ。しょうがない、危険を冒してでも通信を試みるしかないか」

 

「お言葉ですが隊長、基地への通信手段は全て試しましたが……」

 

「ああ、違う違う。通信するのは基地じゃない。直接、惑星の外部に通信を送る。勿論、この車輛の通信設備じゃむりだ。ブースターを備えた中継基地がいる」

 

 ブースター……惑星間の通信を可能とする通信の増幅装置だ。当然、機甲兵器程度には装備されておらず、ある程度の大きな施設にしかない。

 

「そんなの、基地以外にこの惑星にありますか?」

 

 惑星ザーバンは、人類の居住に適さない軍事基地のみが存在する惑星だ。一般市民の居住区やそれに関するインフラは当然存在しない。普通の植民惑星ならそこら中に立っていてもおかしくない通信基地が、この惑星には極端に少ないのだ。

 

 だがアレックスには心当たりがある。

 

「トラブった時に口封じされたら困るからな。事前に、この惑星の調査段階で設置された拠点の通信設備をリストアップしてある。備えあればなんとやら、だ」

 

「さすが隊長。隻眼の獅子勲章三つもちは伊達じゃないって事ですね」

 

「褒めてるのはわかるんだが素直に喜べんぞそれ。まあともかく、手段はある。問題は通信後の私達の身の安全だ」

 

「確か、ブースターを用いた通信は、異星生物を引き寄せてしまうんですよね。戦争初期はそのせいで多数の開拓惑星が侵攻を受けたと聞きます」

 

「ああ。どれだけの戦力がこの星に侵入しているかわからないが、少なくとも我々単独で対処できる数じゃあないだろう。ある程度時間が稼げる拠点を選定する必要がある。その中で、知ってる限りで一番マシなポイントに向かう。ミリシア、今から言うポイントに迎え」

 

「了解しました」

 

「さあ。楽しい楽しい籠城戦の時間だ」

 

 

 

 

 

 

 一行が向かったのは、惑星開拓時の調査拠点の一つだ。広い荒野のど真ん中に設置されたその設備は記録上では放棄されてから随分と立っている。

 

 それでもアレックスがここを選んだのは、その特徴的な成立経緯故だ。

 

「墜落した宇宙船がそのまま基地になった、ですか」

 

「ああ。ザーバンは元々居住に適さないし地下資源にも乏しかったから、発見されて周辺に人類の生存圏が成立しても長い事無視されてきた惑星だった。それが変わったのが、異星生物の攻撃で損傷していた輸送船の墜落だ。墜落した船の救助活動の過程で、軍高官がこの惑星の地形が訓練にちょうどいい所に目をつけて訓練基地としての入植がはじまったのさ」

 

「……前から気になっていたんですけど、訓練にちょうどいい、ってどのあたりが?」

 

「基地の外に出たら野垂れ死ぬぐらいに環境が厳しいとこと、一般市民が入植してないとこ。脱走しても行くところがなくて戻ってくるしかないし、戻らなかったら死ぬしかない。管理する側からすると楽だろ?」

 

「ああ……。脱走兵の夜盗化はどこでも問題ですからねえ……」

 

 廃墟を遠くに見ながら、そんな会話を車内で交わす。

 

 近づけば、なるほど。廃墟と見えていたのは、墜落の衝撃で半壊したであろう宇宙船の残骸だという事がわかる。そのふもとに、廃材から建造したであろう簡易居住区が、今は住まうものもなく放置されている。

 

 迎えるもののいないゲートの封鎖を突き破り、人の居ない道路を走る。現住生物もここには用事がないのか、生きている者の影一つない、ここは見捨てられた場所だった。

 

「こんなところがあったんですねぇ」

 

「でもなんでここを? 何もないっていうんじゃ、他の場所とそうそう変わらないんじゃないですか? 防衛設備もなさそうですし」

 

「何いってるんだ。目の前にあるじゃないか」

 

「え?」

 

「宇宙船の残骸。まさかこの程度の損傷で設備が全部死んでるとか思ってないだろうな? 我々の使ってるレーザーガンの耐久性と稼働時間がいくつか知ってるか? それと同じ基準で作られたレーザー砲を装備してるんだぞ、あれ」

 

 アレックスはぽんぽんと、発射回数数万発ともいわれる兵士の相棒をたたいて見せた。

 

 

 

 

 

 宇宙船の残骸に乗り込み、メインサーバーに接続すればすぐに状態は把握できた。流石にほとんどの生活インフラは劣化して使い物にならなかったが、軍事設備……レーザー砲とその専用動力炉、通信設備は長年放置されていたにも関わらず稼働可能な状態をとどめていた。異星生物との戦争が開始して以来、軍部が偏執的なまでに追及した冗長性と耐久性、整備の簡易化はここでも兵士を救う事になった訳だ。

 

 照準システム等には流石に問題があったため、27式に制御を繋ぐ。ネルスが船の兵装システムの掌握と制御を行っている間に、通信設備を立ち上げるのはアレックスの仕事だ。幸い、故郷の開拓で使われていたのと似たシステムだった為、多少の故障や損傷も修復でき、システムの起動は問題なく行われた。

 

 問題は、この後だ。

 

「さて。あとはボタン一つで外部に救難信号を送れる状態になった訳だが、どうだ。防衛の方はなんとかなりそうか?」

 

 車輛に残って防衛設備の制御にいそしんでいるはずのネルスに連絡を繋ぐ。返ってきたのは概ね期待通りの返答だった。

 

『27式のデータリンクが思わぬ形で役に立ちそうです。宇宙船のレーザー砲とのリンクが構築できましたので、活用できます。ただ流石に無理はきかないとは思います』

 

「そこはまあ理解している。他は?」

 

『ミリシア操縦手が武器庫から大量のターレットを発見したので今順次設置中です。レーザー系の武装は多くがまだ使えますね。ただ実弾は流石にダメっぽかったです。錆錆に腐ってました』

 

「あー、そっかあ。誰にも文句言われずに実弾撃ち放題かと思ったんだがなあ。他は?」

 

『流石に時間と人員が足りないですね。宇宙船の主砲がどれだけ仕事をするか次第だと思います』

 

「そうか……。ふむ」

 

 つまり、人事は尽くされた。あとは天命にまかせるのみ、という状況である。

 

 起動スイッチを前に、腕を組んでしばし考える。時計を見れば、それなりの時間が経過している。一応、基地への通信は定期的に続けているが、いまだに反応がないので最悪のケースを想定すべきだろう。

 

 やはり、外部への通信を試みなければならない。

 

 そしてこのスイッチを入れたら、もはや後戻りはできない。なるようになるに、まかせる他は。

 

『隊長。ヴァディスさんとクズノハさん、ニーナも車輛に戻ってきました。……あとは隊長の判断次第です』

 

「そうか。わかった。……よし!」

 

 覚悟を決めて、スイッチに触れる。

 

「作戦を開始する。全員、必ず生き延びるぞ。いいな」

 

 カチリ。

 

 その意味とは裏腹に、スイッチの感触はごく軽かった。

 

 電源が入り、通信設備が稼働を開始する。惑星間通信ブースターが機能し、にわかに周辺の温度が上昇する。

 

 通信内容はすでに設定を打ち込んでいる。汎用的な、異星生物の侵攻を意味するアラート信号と、救難信号。これで近隣の軍が状況に気が付き動いてくれるはずだ。

 

 だが同時に、このブースターの周波数は異星生物を引き寄せる。この広い宇宙で、信号が十分に行き届くには数時間ぐらいはほしい。その間、通信装置を守らなければならない。

 

 アレックスはすぐにその場を離れ、部下の元へ向かった。雪崩を打って押し寄せてくるであろう異星生物に歩兵で対処するのは愚の骨頂だ。27式というおあつらえ向きの車輛もあるのだし、そちらで徹底抗戦する。

 

 車輛に戻り、飛び乗ってハッチを閉鎖する。救援がくるまで、これを二度と開くことはないだろう。

 

 





<戦場のひみつ:兵士の基本装備はレーザー兵器だが、実弾の使用を許可された者もいる。そういった人物は射撃能力が一定以上と評価され、かつ一定の階級にある者達である。そのため実態として、実弾銃は、その性能よりもむしろ勲章としての意味合いが強い。>


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