未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
<戦場のひみつ:海兵隊はパワードスーツ、いうなれば強化装甲服を多用する。それらは人間の動きを機械的に増幅、再現するもので、中にいる人間が男性でも女性でも出力される力は変わらない。その事から最近は女性兵士が増加傾向にあるが、傍目からだと中にいるのが男性か女性か区別がつかない。>
27式が急旋回、急発進。ミリシアのドライブテクニックで一目散にその場を逃げ出す。
だが、アレックスの目は廃墟の向こう、こちらと並走するように疾駆する異形の影を捉えていた。随分と仕事が早い。
「ニーナ副砲手」
「はい?」
「ミサイルに、自己破壊プログラムを入力しておいてくれ。……万が一は、お前に任せる」
「……了解」
自己破壊プログラム。早い話が、自爆だ。搭載されているミサイルは、27式を確実に破壊できる威力がある。なのでそれを真上に発射し、そのまま27式に返ってくるようにすれば、車体と乗員をまとめて苦しむ事なく葬る事ができる。
アレックス自身としては、27式を破壊されてもレーザーガンを手に降車し、最後の瞬間まで異星生物と刺し違えるのもやぶさかではない。だが、それは何の戦略的意味合いももたない、ただの自己満足にすぎない。それに部下をつき合わせ、異星生物の爪で引き裂かれる苦痛と、奴らの餌になる恥辱を味わわせる訳にはいかない。
「隊長……」
「勘違いするな、クズノハ砲手。諦めたわけではない。我々は最後まで戦う。それだけの話だ。お前もそうだろう、ミリシア操縦手」
「あは。いいねたいちょー。最後までちゃんと一緒だって保障されたら俄然やる気あがっちゃう」
「ま、一人で死ぬよりかはな。トップアタックでミサイルぶち込むから、私だけ飛び出して助かる事もまあ無いぞ。な、ネルス情報管理手」
「いやその話まだ覚えてたんですか……」
三つ編みをいじくりながら、ネルスが目を逸らす。その横で、イオリがうーんと首を傾げて、何かに思いついたように声を上げた。
「あ、名前!」
「うん?」
「名前ですよ隊長! なんか気が付いたらみんなの事下の名前で呼んでるじゃないですか! なんで?! 私は上の名前呼びなのに!」
「え、イオリ今言う事それ? ていうか今更?」
「いや、なんでって言われても……」
副砲手や情報管理手を名前で呼んだのは……深い意味はないというか、修羅場くぐる事による距離感の接近と、緊張状態でうっかりというというだけだ(そもそもミリシアに関してはそのあたりの呼び方が大分ゆるくなっている)。それに対しイオリは、あくまで二人きりの時だけ名前を呼んで、みたいな感じで特別扱いを要求されたからであって……。
しかしそれをこの場で言うのもあれだろう。なんていうか、不公平だ。多分。
「まあ、細かい事は気にするな」
「んー。気にするに決まってるじゃないですかー……」
「ほらほら、無駄話は死んでから好きなだけしろ。お客さんがいらっしゃったぞ!」
廃墟の向こうから、続々と黒い影が現れて車輛と並走する。蜘蛛から腹と頭を取り払ったような、足だけが放射状に生えてるような異形の存在が軽快に障害物を乗り越え、27式の周囲を取り囲もうとしてくる。
それに対し、27式の砲塔は即座に旋回。残り少ない機関砲の弾を惜しむように低速で連射し、近づこうとする敵を薙ぎ払う。
さらにマルチランチャーからも、とにかくありったけの弾を放出。グレネードだけでなく、少しでも足止めになればとノイズメーカーや煙幕も打ち込む。
が、多勢に無勢。少しずつ、敵の包囲が狭まっていく。右側面に機関砲を向けていた27式の不意をついて、左側から数体の敵が迫ってくる。とっさにミリシアがハンドルを切り、左側に急速に寄せる。忽ち数体の敵が履帯に巻き込まれて青い肉塊に変じた。
しかし、真後ろから迫ってきていた敵には目が回っていなかった。十分に近づいた敵は、ハエトリグモのような跳躍を見せると、27式の上部装甲にしがみついた。砲塔を回転させて振り落とそうとするが、それを巧みにやりすごし、車長席の上部までたどり着いた敵が、その肢にそなわった鋭い爪を振り下ろした。
ガッ! という音ともに、車内に火花が降り注いだ。見上げれば、敵の爪が装甲を貫通し、先端をのぞかせている。そのままギャリギャリとのこぎりのように、装甲をくり抜こうとする。車内に悲鳴が上がった。
「ああくそ!」
救援が来るまで開ける事はないと誓った頭上のハッチのロックを開き、アレックスがビームピストル片手に身を乗り出す。眼前で装甲を切り開く作業に夢中になっている敵は隙だらけで、容易く処理できた。急所を打ち抜かれた敵はきゅっと体をひきつらせて絶命する。あとは装甲に爪を突き刺したままの足をレーザーの照射で焼ききって、残った体を蹴落とした。
地に落ちて、ゴロンゴロンと転がってバラバラになる残骸。が、それを踏み越えるようにして、さらに数匹の敵が追いすがってくる。
そしてそれらが一斉に跳躍。空中で一匹にレーザーを当てて脱落させるが、3匹の敵がそのまま車上に飛び乗ってくる。
声帯が無い怪物が無言のまま爪を振りかざして襲い掛かってくる。とっさにピストルを盾に一撃を受け止めるが、それでピストルがバラバラになってしまう。その隙をついて、二匹目が覆いかぶさるようにとびかかってきた。体の中心にある怪物の口が、生肉を求めてガチガチと牙を鳴らしているのが見えた。そこに、アレックスはひるむことなく抜き放ったナイフを突き刺す。さらに捩じって、傷を押し広げてトドメを刺す。
即死した死体を跳ねのけて、車上で二匹の敵とそのまま格闘する。ここにきてアレックスを強敵と認識したのか、怪物達は早急に攻め立てず距離を置いて爪で切りかかってくる。それをナイフで払い、受け止め、応戦するアレックス。だが、次第に生傷が増えていく。
何度目かの攻撃を受け止めた時、ついにナイフに限界がきた。乾いた音を立てて、ナイフが半ばから砕け散る。
ここまでか。アレックスは判断し、部下に叫んだ。
「……数秒稼ぐ! 自己破壊を実行しろ……!」
部下を苦しませないための挺身。例え自分の体がバラバラにされようと、ミサイルの自己破壊が完了するまでの時間、敵を車内に突入させないための決死の覚悟。
それに答えたのは、しかし部下ではなかった。
首元の通信機に入電。
『そのまま動くな』
「?!」
男とも女とも知れない若い声。驚いて動きを止めたアレックスの目の前、こちらの事情など知らずに襲い掛かる怪物が、次の瞬間、木っ端みじんにはじけ飛んだ。一拍おいて、もう一体も見えない何かに砕かれて飛び散る。
数秒遅れて、遠くから甲高い銃声が轟いた。
「……え?」
『こちら宇宙海兵隊所属、203降下猟兵大隊所属、ドゥルガー1。第77独立遊撃小隊へ、よく耐え抜いた。後は我々に任せろ』
不意に影が差し、アレックスは頭上を見上げる。上空を、巨大な翼をもったガンシップが通り過ぎていく。その軌跡上に咲き誇るのは、いくつもの落下傘。ぶら下がっているのは人でも車でもない、鋼鉄の肉食獣。
「宇宙海兵隊の……強襲装甲殻……」
陸軍、宇宙軍に続き人類軍を三分する勢力の一つ、宇宙海兵隊。敵地への強襲任務を主とする彼らは、他の軍では採用されないような特殊な兵器をいくつも運用している。
強襲装甲殻もその一つ。四本の足を持った、まるで獣のようなシルエットを持ったその兵器は、もともとは歩兵に随伴する兵站運搬用ロボットだった。だが戦争が続くにつれ、その運搬力を生かして支援用の武装を施し、歩兵の足になるようになり、それにつれてどんどん巨大化していた。今では全高5mにもなるほどのサイズまで肥大したそれは、動輪や無限軌道でも踏破不可能な起伏に満ちた戦場を難なく踏破し、搭載された重機関砲で戦線を支援し、体の中に歩兵を収納して運搬する事が可能な上、脚部の高性能なショックアブソーバーにより空挺戦車では不可能な条件での空輸を可能としている。それゆえ、大気圏突入からそのまま敵上空に突入する事が多い海兵隊で採用されていた。
それが、10以上の数で次々空から降ってくる。途中で落下傘を切り離し自由落下に入った強襲装甲殻は、搭載された機銃で着地地点の敵を制圧しながら着地。腹ばいになるように足を屈伸させて衝撃を吸収し、しばらくの硬直の後に何事もなかったかのように歩き出す。その内部から出撃するのは、重装甲のパワードスーツに身を包んだ海兵達だ。柔軟性を犠牲にし防御力と火力を最優先としたそれらのスーツは、服というよりロボットに近く、かつて宇宙に進出する以前の人類が使っていたという原始的な宇宙服を思い起こさせる。内部を見通す事のできない真っ黒なバイザー越しに兵士達は己の敵を見定め、右腕に搭載した重レーザー砲で敵強襲部隊を蹴散らしていく。
そして上空では、空挺部隊を投下しおえた強襲輸送機……“コスモホーク”が、迫りくる敵輸送生物の迎撃に入っていた。搭載されたミサイルと、機首の機銃を用いて、次々と敵を撃墜していく。一定の速度で直進する事しかできない輸送生物は、縦横無尽に飛び回るコスモホークの前ではただの的でしかない。無数に存在したはずの輸送生物はたちまちのうちに撃墜され、その中身を乾いた大地にぶちまけていった。
そんなもはや一方的ともいえる戦闘を、アレックスは27式の上からぽかーんと眺めていた。ゆるゆると速度を落とし、27式が停車する。その横に、一人のパワードスーツがノシノシと歩いてきた。バイザーの不透過処置を解除し、素顔を露にする。頬に傷の入った、中年の白人兵士。
「第77独立遊撃隊の方々で間違いありませんな?」
「あ、ああ……」
突然の状況の好転に、茫然としたまま血を拭う事なく答えるアレックス。そんな彼に小隊長らしき男は苦笑を浮かべると、いつの間にか周辺に集っていた他の海兵隊に手を上げて指示をだした。
「よし。お前ら、彼らを護衛しろ。私はそのまま、連中を駆逐する。アレックス中尉、護衛の指示がありますので、貴方がたはそれに従い、この場を離脱していただきたい」
「りょ、了解した……。いや、しかし何故こんなに早く?」
「色々と事情がありましてね。西方司令部の査察官の護衛も兼ねて、近隣に来ていたのですよ。間に合ってよかった」
にっこりと笑うと、小隊長は再びバイザーを不透明処置に切り替えると、数名の部下を引き連れてその場を離れた。残された3名ほどのパワードスーツが、27式の横に集まる。
「我々が護衛しますので、ご安心を。我々が先導しますので、ついてきてください」
言って、移動を開始するパワードスーツ。鈍そうな見た目に反し、スラスターを併用したその動きは異様に速い。慌ててアレックスはミリシアに指示を出した。
「ついていけ。見失うなよ」
ブォン、とエンジンを吹かして27式が発進する。精魂尽き果てて、ぼんやりとその様子をハッチから見守るアレックス。と、不意に誰かが彼の足を掴み、車内に引きずり込んだ。バタン、とハッチが閉鎖される。
「わ、だ、誰だいきな「隊長のバカ! おたんこなす!」……そんな怒る事ないんじゃないかなあ」
とびついてきたイオリを抱き留めて、困ったように苦笑するアレックス。が、残念ながら、部隊に彼に同調してくれる人間はいなさそうだった。運転に専念してるミリシアを除く全員がお怒りの様子で、普段ぼやっとしているニーナまでが機嫌悪そうに眉を潜めて睨みつけていた。
「隊長? 最後のアレ、何?」
「あ、アレって何のことかな? ハハハハ……」
「誤魔化さないで」
「はいっ」
底冷えのする唸り声に姿勢を正す。本気で怒っている。
「それは確かに、同じ部隊の一員として一蓮托生、死ぬときは一緒、みたいな事はいったよ? 言ったけど? それと自分だけ肉壁になるのは違うんじゃない?」
「い、いや、でもミサイルで自己破壊行ったら皆爆死するから最終的に一緒かなって……」
「黙って?」
「はい」
失言だった。部隊員が隊長に使う口調ではなかったが火に油を注いだ自覚があるので大人しく従う。イオリはというと胸元でぐしゅぐしゅ泣いているし、ネルスはニコニコしているが額に青筋が浮いている。何だろうこの地獄、私ってばそんな酷い事したかな、と思うが、客観的に見てアレックスも同じ立場だったら、まあ怒るだろう。うん。自己犠牲は過ぎた時はもう文句いう相手がいないから黙るしかないが、今回みたいに生き延びてしまった場合はもう滅茶苦茶文句言われる責任がある。
ミリシアは? ミリシアは私の味方だよな? と視線をめぐらすが、運転席の彼女は先導する海兵隊から目を逸らさず振り返りもしない。少なくとも敵じゃないよね、と思っていたアレックスに、短くミリシアは告げた。
「隊長」
「はい」
「言いたい事山ほどあるんですけど、あとで。逃げないでくださいね」
「……はい」
味方はいなかった。
海兵隊に先導されて一行が向かったのは、廃墟から数十キロ離れた荒野の一角だった。地図の上では何もない場所だが、今やそこには無数の海兵隊の降下艇が軒を連ねていて、即席の反撃拠点を形成していた。仕事が早い。
アレックス達の27式が接近すると、作戦準備で走り回っていたり集まっていた人員が一斉にこちらを目を向け、道を譲るように散開する。遠巻きに観察される中で、ついに燃料が尽きてゆっくりと減速した車輛が停止した。
『どうしましたか? ……ああ、燃料切れですか。手配しますので、皆さまこちらでお待ちください』
「いいのか? なんか道の真ん中だけど」
『仕方ありませんので。それと今連絡がありました、査察官がこちらに向かっているそうです。このまま待機しておくようにと』
「え、ちょっと待ってくれ。流石に上官を歩かせるわけには」
『そういう形だけの礼儀は海兵隊では不要です。いいから、負傷者はこちらでお待ちください。いいですね?』
誘導していた海兵隊員は有無を言わせずアレックスを黙らせると、一人が足早に燃料の手配に向かい、残りは27式のそばに佇んだ。手持無沙汰になったアレックス達は衆目の視線に身をさらす気にもなれず、そのまま大人しく車内で査察官を待つ事にした。
「ん。そういえば、査察官については何か聞いているのですか?」
アレックスの足元に座り込んでいたイオリが、パタンと医療キットを片付けながら問うた。移動中、アレックスの手当てをつきっきりでしてくれた砲手に、包帯でぐるぐる巻きのアレックスは首を振った。
「いんや、流石にそこまでは聞いてない。上層部に知り合いもほとんどいないしな。……それはそれとして、これはちょっと包帯巻きすぎじゃない?」
「ズバズバ切られておいて何を。いいから大人しくしてて。傷が開く」
「ん。鎮痛剤効いてるからって調子に乗らないでくださいね。座席に縛り付けますよ」
「はい……」
あきれ返った顔でニーナとイオリが釘をさす。実際問題、戦車の装甲を切り裂く爪と切り結んで何発かかすめてるんだから、割と重症である。縫い合わせる技量がないので、今は緊急用のパッチシールで無理やり傷口を塞いでいるが、それで十分なはずもない。状況が改善したら後方の軍病院でちゃんとした治療が必要だ。
まあ、アレックスに自覚はないが、部下達の間ではもうこの人は出鱈目な無茶をする、という認識が完全に共有されているのもあり、むしろ動けないように包帯ぐるぐる巻きにされている、というのもあるのだが、当然その事を彼女たちは口にしないしアレックスも気が付かなかった。
「そういえば天井に穴あいちゃったけどこれどうしましょう?」
「アルミテープでも貼っておく? 雨漏れ対策ぐらいにはなるでしょ」
「ん。この星に雨ってめったに降らないけど……」
「海兵隊に頼んでごっそり装甲変えちゃいましょう。強酸でもかけられたら大変です」
「あ゛ー。考えたくないねそれ……」
「いくら海兵隊でも27式の予備装甲なんてある?」
「最悪溶接してもらいましょ。そういう役職の人がいたはずです」
「あー、見たことある見たことある。バッラバラのバギーをその場で溶接修理して走らせてたー」
「え、嘘でしょ……?」
味方と合流して安心したのか、口数が増える部下達。鬱屈としているよりはマシだが、これでもまだ安全地帯とはいいがたいのでもうちょっと緊張感あってもなー、と思うアレックスだが口には出さない。藪蛇とわかってつつく趣味はないからだ。
「あ、隊長。なんか陸軍の軍服着てる人が来ましたよ。あれ、査察官じゃない?」
「お、マジか。どれどれ」
ミリシアの声に覗き窓から確認するアレックス。次の瞬間、彼は思わず腰をうかせて天井に頭を強かに打ち付けた。
「いつつつ……いやまずっ! お前ら降りろ、敬礼! 早く!」
わたわたと車内から這い出し、包帯ぐるぐる巻きのまま転がり落ちるように降車するアレックス。なんだなんだとぞろぞろと這い出して来る部下を後目に、アレックスはこちらにむかってくる上司にピシリと型にはまったような敬礼を返した。
そんなアレックスの様子に、彼はにこやかに笑みを浮かべて敬礼を返した。
「やあ、久しぶりだね」
「秘書官どの……?!」
片手をあげて、気軽に挨拶してくるその人物。
アレックスと同じ黒髪黒目の、しかし整った顔立ちのイケメン士官。
ザラガ西方司令の秘書を務めている人物が、何故か戦地となった訓練惑星の地に立っていた。
「あ……まさか、査察官って秘書官どの!?」
「ははは。そういう事になるかな。それと、今は司令の秘書業務からは離れている。いいね?」
「し、失礼しました」
「よし。それじゃあ、君の部下達に紹介してくれないか? 先ほどから、鳩が豆鉄砲を食ったような視線を向けられて、いささか居心地が悪いんだ」
「はっ。傾注! こちらはザラガ西方司令の直属の部下でいらっしゃる、グレイヤード・フォンブラウ少佐だ。失礼のないように」
アレックスの言葉に、そろって部下達が敬礼を返す。西方司令直属、というのは流石に脛傷もちでも姿勢をただす肩書だ。
直立不動の姿勢で敬礼をする部下達に、フォンブラウ少佐は苦笑して「楽にしてくれたまえ」と返し、アレックスに視線を戻した。
「しかし、アレックス中尉は本当、トラブルに事欠かないね。訓練惑星でのトラブルの処理に来たつもりが、そのまま前線指揮を執る事になるとは思わなかったよ。ああ、かしこまらなくていい。むしろ助かった。君の警告がなければ、ノコノコ的になりに来るところだった」
「と、言いますと、本船のほうは」
「最寄りの衛星の裏に隠してある。そこから揚陸艇を出したから救援が遅れた。よくこの寡兵で耐え忍んでくれた」
「いえ、兵士の責務ですので……」
「ふふ。君達がそう謙遜しては、信号すら出せなかった他の大多数の兵士の立場が無いな。まあとにかく、君達が無事でよかった。……本来なら、母艦に下がってもらって休養してもらいたいところだが、済まない。現地の兵士の話は貴重だ。申し訳ないが、作戦会議と奪還作戦に協力してもらいたい」
「構いません。むしろこちらから願いたいところです」
「ありがとう。……そういう事だから、君達の隊長を少し借りるよ。27式は私の手の者が修復するから、君達は少し休んでいてくれたまえ」
フォンブラウ少佐のそばに控えていた者達が、指示もなしに動き出す。彼らは手慣れた様子で27式の破損状態をチェックすると、通信でどこかに連絡を入れ始めた。
おずおずとミリシアが部下を代表して訪ねてくる。
「隊長、その、私たちは……」
「少佐の部下なら信用できる。彼らの指示に従ってくれ。私は少佐と少し話をしなければならないらしい」
「わかりました。その……お気をつけて」
「ははは。大丈夫さ、お前たちこそ問題を起こすなよ」
「は、はい……」
すっかり委縮してしまっているミリシアに笑みを返し、フォンブラウ少佐に続いてその場を離れる。ミリシア達は所在なさげにアレックスを目で追っていたが、そこに少佐の部下達が語り掛け、近くのテントに案内された。そうこうする間に、人垣をわって現れたレッカー車が、27式を引きずってどこかに運んでいく。
「君の事だから心配はしていなかったが、部下達とはずいぶん良好な関係のようだね。うらやましいよ。信頼のある部下ほど頼もしいものはない」
「恐縮です。ですが、私も彼女たちもまだまだです」
「だからそう謙遜する必要はないと思うんだが……」
困ったようにフォンブラウ少佐が頬をかく。
「まあいい、まず状況を知りたい。幕僚の方々にも現場の声を聴かせてやってくれ」
「……え? 少佐? まさかこのまま司令部に行くのですか?」
この格好で? と尋ねるアレックスに、フォンブラウ少佐は心底申し訳なさそうに眉を潜めた。
「いや、本当にすまない。君の怪我が決して軽傷ではないのはわかっているんだが、時間が惜しいんだ。話が済み次第、最先端の治療を施すから少し耐えてくれたまえ」
「そうじゃなくてですね。いやその、私、中尉ですよ? おまけにその、汚れてますし……包帯ぐるぐる巻きですし……」
「なんだ、そっちの事か。海兵隊の皆さんはそんな事を気にしないよ。むしろ、状況を伝えるのにこれ以上ない話だ」
「ええ……?」
いいのかなあ、と思いながらフォンブラウ少佐に案内され、アレックスは司令本部のテントの幕をくぐった。門番の兵士が包帯ぐるぐる巻きで血だらけのアレックスの姿を見て一瞬目を剥いたが、即座に敬礼を返した。それにアレックスもぎこちなく敬礼を返す。
「こちらだ。皆さん、お待ちかねのようだ」
<戦場のひみつ:兵士の噂にあがる超人兵士は海兵隊の事と誤認される事があるが、実際には全く別物だと考えられる。噂に上がる超人兵士の活躍を聞く限りでは、反応速度は人間のそれを越えており、またその動きはいくらパワードスーツを装着していても中の人間が耐えられない。噂の部隊が本当に存在するのなら、だが。>