※この作品はR-18です。

未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版)   作:SIS

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<戦場のひみつ:戦争初期に無責任かつ不適切な対応を繰り返したとして、今現在マスメディアの活動は大幅に制限されており、地方政府の公式放送が民間の主な情報源となっている。これを言論統制、大本営発表と批判するものもいるが、公式放送においては発表できない情報は発表できないとして白塗りで存在は示す事で、一定の理解を市民から得る事に成功している。>



第二十話 腹黒狸の腹の中

 

 

 テントの中は、空調装置が持ち込まれたのかひんやりとしていて、適度な湿度が保たれていた。照明は落とされていて薄暗く、闇の中に無数の機材の光が浮かび上がっている。暗がりでよく見えない人や物をおっかなびっくり避けながら、中央の作戦テーブルに向かう。

 

 作戦テーブルには、ホログラフィックで惑星ザーバンの映像が空中に投射され、それを囲むようにこの隊の指揮官達が肩を並べていた。薄暗がりでよく見えないが、普通の人間の原型をとどめている人間は一人もいなかった。ある者は顔の半分を機械化し、ある者は片腕がまるごとサイボーグ化されており、またある者はシルエットで分かるほどに頭部が肥大化していた。

 

 話に聞いた限りだと、海兵隊は他の陸軍、宇宙軍と異なり、例え幹部候補生でも最前線での勤務が無ければ上層部には上がれないらしい。ここにいるお歴々は、海兵隊の幹部であると同時に、地獄の最前線を生き延びた歴戦の兵士でもある、という事だ。

 

 ごくり、と唾を飲みこむ。流石のアレックスも、本職の海兵隊、それも幹部と肩を並べて戦ったことはない。

 

「アレックス・ウィンザード中尉をお連れしました」

 

「……すまないな、フォンブラウ少佐。本来、君の仕事ではなかろう」

 

「いえ。ウィンザード中尉とは旧知の仲でして。スムーズに話を進めるためにも、私が対応するべきだったかと」

 

「ふ。まあいい。ようこそ、アレックス・ウィンザード中尉。私はこの部隊の指揮を担っている、ガルムズ・V・ミリアルデ准将だ。まあ、陸軍所属の君には私の階級など気にする必要はない。気軽に、ガルムズと呼んでくれたまえ」

 

「はっ、あ、いえ……その、恐れ多いので、ガルムズ准将とお呼びしても……?」

 

 ガルムズと名乗った准将は、常人の倍ほどに膨らんだ頭部を重たげに揺らした壮年の男だ。体はコートでおおわれているが、袖や裾から無数のケーブルが伸びており、あきらかに人間の体型ではなかった。恐らく、体の大半をサイボーグ化している。

 

 あきらかに遥か格上の人間に気軽に呼んでくれ、と言われて流石に躊躇う。おっかなびっくり尋ね返すアレックスに、はっはっは、と准将は体を揺らして笑った。

 

「ははは、済まない。若者をからかうのは老人の趣味みたいなものだと許してくれたまえ」

 

「ガルムズ、相手は怪我人だぞ。趣味の悪い悪戯はやめたまえ」

 

 片腕を機械化したスキンヘッドの大男が、ガルムズ准将を窘める。胸元に下げている勲章からこの男も幹部のようだが、准将とは親しい仲のようだ。笑いをかみ殺す准将に困ったように頭をぺたぺたと生身の左手で叩きながらため息を零した男は、アレックスに向き直り自己紹介をした。

 

「私はヴォルガング・サマーベラス大佐だ。……そう硬くなるな、といっても無理だな。おい、だれか彼に椅子を用意してやれ。怪我人だぞ、全く」

 

 大佐が言うが早いが、闇の中から迅速にパイプ椅子が運ばれてくる。顔もよく見えない誰かに支えられて、椅子に腰を下ろすとじくりと全身の傷が痛み、アレックスは顔をしかめた。

 

「っつ……」

 

「ああ、済まない。大丈夫か?」

 

「ええと、大丈夫です、大佐」

 

「降下部隊の連中から話は聞いたぞ。猟兵級とナイフ一本で切り結んでいたそうだな。仕方ないとはいえ無茶をする。しかし、我々海兵隊は勇敢な兵士を尊敬する。会えて光栄だ、中尉」

 

「あ、はい。光栄です……」

 

「ウィンザード中尉、大佐の片腕は猟兵級との戦闘で切り落とされたものだそうだ。ガルムズ准将は、戦闘中に頭部に傷を受け、生命維持のためにバイオコンピューターを繋がれた。ここにいる方々は皆、異星生物との最前線で死の淵をさまよった経験のある方々ばかりだ」

 

「言われてしまったが、そういう事だ。同じ経験をしたが故の親近感というのを感じてしまっていてな。馴れ馴れしくてすまない」

 

「い、いえ……」

 

 言いながらも、アレックスは紹介された人物の階級に目を白黒させていた。准将に、大佐? 紹介されなかった後一人も、おそらくはそれに近い立場のものだろう。

 

 おかしい。陸軍の査察に海兵隊がついてきているのは、まあ護衛だったりもののついでだったりするんだろう、と納得していた。だが、准将やら大佐が付いてきているのでは話が違う。いくら海兵隊が現場重視といえど、そんな、子供のお使いのような任務に出てくるはずがない。

 

「ふむ。体温の上昇に発汗、脳活動の活発化……我々の階級に疑問を抱いている、というところかね? 何故幹部が、査察の護衛などという小さな任務に出ているのか、と」

 

「?!」

 

「ははは、済まない、見えてしまったものでね。この頭は無駄にデカいわけではなくてな、高い演算解析能力を機械的に付与してある。顔を見れば相手が何を考えているのか、おおざっぱに判別できてしまうのさ」

 

「それを作戦指示に使うのではなく覗き見に使うなら立派に伊達だぞ、ガルムズ」

 

「そう怒るな、ヴォルガング。中尉はなかなか頭が回るようだ、腹の探り合いなどという無意味な時間の浪費は避けるべきだろう?」

 

「ふん。まあいい、中尉、君の想像した通りだ。我々は本来、そこの少佐の護衛で来ていた訳ではない。むしろ、少佐が我々についてきていたのだ。理由は、わかるな?」

 

「……それは、その」

 

 脳裏をよぎるのは、そもそもこの状況に至るまでの経緯。杜撰すぎる基地の防衛体制その他もろもろの疑惑。

 

「もしかしなくても、強制査察とか、そういう……?」

 

「ああ。一歩間違っていれば降下対象は君達だったかもしれんな。ふ、それはそれで我々は基地の無能どもに感謝せねばならぬか? 君を相手にしていれば、我々の強襲兵にも少なくない犠牲が出ていたかもしれぬ」

 

「は……はは……ははは……」

 

 笑っていいのかこれ!? と内心アレックスも思うが、しかし実質笑うしかない話だった。陸軍、宇宙軍、海兵隊はそれぞれ別勢力のようなものとはいえ、一歩間違っていたら同士討ちになっていたとか聞かされても反応に困る。

 

 流石に少佐がフォローに入った。

 

「そんな事になったら、流石に私が止めに入っていたから心配する事はないよ、中尉。だけど准将クラスを動かすほどに問題が深刻視されていたのも事実だ」

 

「その通りだな。あくまで相互監視のために、少佐は同行していた。……結果的には、それが最善だったようだ。一般的な戦力では、この状況に対応できなかったかもしれぬ。戦力に余裕があったからこそ、救難信号に降下部隊が即応できた。そうでなければ、重要な情報をもっているであろう生存者をむざむざ死なせる所だった。確か獅子勲章を三つだったか? そういう天命の元に生まれたのだろうな。ご愁傷様である」

 

「ど、どうも……」

 

 どう反応するのが正解なのかそろそろわからなくなってきたアレックスである。

 

「はい、無駄話はそこまで。ウィンザード中尉、君の把握している限りで、現状に至る経緯を説明してほしい」

 

「わかりました、では、まず私が偵察任務を引き受けたところから……」

 

 

 

 アレックスの話はそう長くはならなかった。そもそもがジェットコースターみたいな勢いで状況が悪化していったので、時間的にもそう長い話でもない。それを要約すればなおさらの事だ。

 

 しかしそれでも十分だったようで、話を聞き終えた幹部と少佐は、そろって頭を抱えて唸っていた。

 

「……いや本当に本当か……。確かに最初から27式を送ったんだが……もしかして他の備品も届いてなかった? 何も聞いてない?」

 

「え? 初耳です」

 

「うぉお……そうか……」

 

「陸軍の不祥事だから我々には有難い話なのだが……そういう次元を超えていて頭が痛いぞこれは……」

 

「陸軍のみの話ではないだろうな……宇宙軍でも同じような話があるのではないか? というか、我々も他人事ではなかろう。軍内の査察を厳にせねば……」

 

 後処理を想像したのだろう。お偉い方一同、お通夜ムードである。

 

 アレックスが考えていた疑惑は大体大当たりだったらしい。ただ、実際に処理する事になる上層部の気苦労はアレックスとは質が違うのだろう。ちらほら、物騒なキーワードが出てきて肝が冷える思いだ。なんでこんな事になっているのだろうね?

 

「いっそ根こそぎ吹き飛ばして粛清するか……? いや異星生物相手にはそれは悪手だな……」

 

「流石にあの規模の基地を丸ごと粛清すると戦力の穴あきが尋常ではないぞ。とはいえ、汚染人員を一人一人調べて排除するのも骨が折れるぞこれは……」

 

「いや本当申し訳ない、うちの連中が……」

 

「しょうがないだろう、人類軍全体の問題でもある」

 

 ゴホン、とガルムズ准将が咳払いをし、空気を改める。

 

「ありがとう、ウィンザード中尉。おかげで状況が把握できた。……我々はこれから具体的な作戦内容を決めるので、君は治療を受けたまえ。長話になってしまったが、君の負傷も軽んじていいものではない」

 

「話している間に車いすを用意させた。君は少し休みたまえ」

 

 意見を述べる暇もなく、手際よく車いすに座らされ、司令室を後にする。

 

 とりあえず、失言一つで文字通り首が飛ぶ空間から一刻も早く脱出したかったので助かる。が、上層部が自分達をどのように扱うのか想像すると既に今から頭が痛い。

 

 ロクな扱いはされないんだろうなー、と経験則で想像するアレックスだった。

 

 

 

 アレックスが退室した後の指令室。

 

 ぼそり、とフォンブラウ少佐がつぶやいた。

 

「どうやら彼の除染は必要ないようですね」

 

「うむ。少し言葉を選んではいたが、概ね正常な判断能力を有していると思われる」

 

「それが基地内で孤立していたからなのか、基地内でも汚染は限られていたのか、はこれから調べてみないとわからんがな」

 

「……彼の部下達についてはどうしますか?」

 

「継続して監視調査をすればよかろう。……ここは戦場だ、不幸な事などいくらでも転がっている」

 

「了解しました」

 

「とはいえ、流石に西方司令のお眼鏡に適った者達だ。例の件に関与しているとは思えんが」

 

「念のため、という事です、大佐。潔白を証明するのは無駄なコストではありません」

 

「その通りだ。完璧なる白、という保証は何にも勝る」

 

 

 

 

 

 

 手当を受けて病室の個室(気遣いとかじゃなくて情報漏洩対策だろうけども)に転がされたアレックスだったが、部下との再会は割合すぐに訪れた。1時間もたたない内に、ぞろぞろとミリシア達が連れ立って病室にやってきたのだ。

 

「たいちょー!」

 

「ここではやめろ」

 

 笑顔でハグしに来るミリシアを片手で牽制(他の部隊員は勿論、看護兵の目もある)。ミリシアはダメっぽいなと判断してイオリに目をむける。

 

「クズノハ砲手、27式は?」

 

「ん。改修作業が行われているところです。海兵隊との協働作戦になるので、それにあわせて改造するんだとか。一応、情報管理手が見張ってます」

 

「ふむ? どのぐらい話を聞いてる?」

 

「……んと。拠点奪回と、敵高射砲の破壊作戦を行う為に、海兵隊の斥候部隊が今動き回っていると。作戦が決まり次第、基地の構造をよく知る者として海兵隊の先導を我々が担う事になる、という旨の話を聞いています」

 

「なるほど。私も大体そういう感じの話を聞いている。というか、そっちの方が詳しい話を聞いてるみたいだな」

 

 まあ私はこの通り病人扱いだったからな、と包帯でぐるぐる巻きの右手を掲げるアレックス。

 

 痛みの方は大分引いている。鎮痛剤を打たれたのもあるが、傷口は接合剤でほぼ塞がっている。バイオテクノロジーの真髄によって生み出された促成細胞で傷口を文字通り復元する最先端治療だ、陸軍の野戦病棟じゃまず受けられないハイテク治療。海兵隊様様といったところだろうか。まあこちらは、任務内容が任務内容で、手足の一本二本失うのはいつもの事らしいし、これぐらいの設備がないと人員はすり減る一方だろう。

 

 まあ、別に治療が早いのは良い事ばかりではないが。おかげで、入院して間もないのに作戦に駆り出されてしまう訳だし。

 

 が、手当を見て、イオリは不愉快そうに眉をしかめた。後ろで話に参加していなかったニーナも前髪の下からこちらを批判するような視線を向けてくる。牽制する片手とじゃれていたミリシアさえも、空気の変化を読み取ったのか遊ぶのをやめて、じっとりとした批判の視線をよこしてきた。

 

 背筋に冷や汗が流れる。わかる。これは、お説教の時間だ。

 

「ん。ところで隊長。そもそも、その怪我についてなんですが」

 

「い、いやいやいや。そのな? あそこで私が体を張ったから、海兵隊の救援が間に合ったわけでしてな?」

 

「そういう話をしてるんじゃないって事ぐらい、隊長わかってるよね?」

 

「いや、その」

 

「……私は別に。隊長の女じゃないけどさ。……流石にあれは傷つくよ。結局、私達は“お姫様”扱いって事じゃん。一緒に死ぬ同僚じゃなくてさ」

 

「う」

 

 イオリ、ミリシアにお小言を受けた上で、ニーナに痛い所をつかれて思わず呻く。

 

 まあつまり、そういう事だ。一人で無茶したのを責めている訳ではない。その方向だったら、責められる筋合いはない。彼女らが怒っているのは、死ぬときは一緒、と約束しておきながら部下に痛い思いをさせたくないという利己的な納得を優先させて一人で死ににいったその不誠実さだ。

 

 アレックスの視点では、それは部下に、愛する人に対する誠意であり、痛みを一身に引き受ける献身ではあったが、当然その理屈が通るなら、彼女たちの視点も受け入れなければならない。

 

 こっちが理不尽と思うなら、あっちも理不尽だと思っているのだ。ここで大人しく怒られておくのが、大人の対応というものだろう。

 

「ん。……まあ、この話はこれぐらいにしておきましょうか。結局助かった訳ですし」

 

「私は納得してないけどね。あと数秒、海兵隊の援護射撃が遅れてたら、私達だけ助かってた訳だし。それこそ最悪」

 

 ミリシアからじっとりと光の無い視線を向けられてアレックスの額に冷や汗がぽつぽつと浮かぶ。その路線で責められるのは想定してなかった。男と女、の価値観でそこを責められると、こう、困る。土下座以外に選択肢がない。

 

「そこは。ベッドの中で心行くまで話せばいいと思う。……ここで話す話題じゃない」

 

「ま、それもそっか。ニーナもこの件は部外者だもんね」

 

「ん。ていうかバレてたんだね……」

 

「……今はね」

 

「「えっ」」

 

 一同、ぎょっとしてニーナに視線を向ける。が、彼女は自分の爆弾発言をまるで意に介せず、顎をしゃくって話を促した。

 

「それで。数時間後にはもう動きそうな感じだけど。隊長はどうするの?」

 

「どうって、動かん訳にもいかんだろう。隊長だからな」

 

「ん。怪我人に有無を言わさず戦わせるほど、今の軍に余裕が無いとは思わないですけど……」

 

「いやまあ、少佐殿から頼まれてるっていうか、釘を刺されててなあ。ちょっと疑われてる節もあるから、ここは無理するタイミングかな」

 

「あー、それ言われると、ですね。隊長、色々とタイミングが良すぎですからね……。こう、持ってる、ってやつですね」

 

「まったくもって有難くないが」

 

「それはそれとして怪我人の隊長を乗せるぐらいなら私ハンドル握りませんが」

 

「そこをなんとか」

 

 むすー、とベッドの横でふてくされるミリシア。イオリとニーナに視線で救援を求めるが、苦笑いと無表情で拒絶された。仕方ないな、とアレックスはため息をついて、ミリシアの肩に手を回して抱き寄せた。ぼふ、と胸元に彼女を抱きしめる。

 

「心配させたのは悪かったし、裏切って悪かった。頼むよ、ミリシアにしか頼めないんだ。今更他のドライバーに命を預ける気にはなれないって」

 

「……むー。仕方ないですね。言っておきますけど、毎度この手でどうにかしようと思わないでくださいね」

 

「わかってる」

 

 しぶしぶ、といった感じで機嫌を直すフリをするミリシアに、苦笑して付き合うアレックス。ここが個室でよかった。いや、個室だからこういう悪ふざけをしたのだろうけど、ミリシアも。

 

 チラリとニーナに目を向けるが、彼女は興味ありません、といった感じの無反応無表情だった。三人の関係を把握した上で口をだすつもりはないらしい。……先ほどのぽろっともらした一言が気にはなるが。

 

「…………」

 

「な、なんだクズノハ砲手?」

 

「ん。いえ。別に」

 

 口調が全然、別に、という感じではなかった。なんか怒っている。もしかして同じことをしてほしいのだろうか。

 

「本当に。なんでも。ありませんから。それより、数時間以内に動くであろう次の作戦ですが、海兵隊の打撃部隊と協働して動く、というのは聞いていますか? 同じ部隊で活動する、というレベルじゃなくて、パワードスーツの一小隊が我々の直接の指揮下に入るそうです」

 

「……なんだって?」

 

 

 

 

「初めまして、第77独立遊撃隊の皆さん。今回、皆さんと協働作戦を行わせていただく事になりました第23海兵遠征旅団所属、第103GCE所属ナックル小隊と申します。どうかよろしくお願いいたします」

 

 そう告げて敬礼をするのは、全身を装甲で覆ったパワードスーツの打撃部隊の小隊長。声は変声機を通しているらしく、男か女かわからない。

 

「よろしく、小隊長。……一ついいかな?」

 

「はっ、なんでしょう」

 

「これから一緒に作戦に臨むんだ。変声機を通さない声で話がしたいんだが……」

 

「申し訳ありませんが、海兵隊の規則でして。それは出来かねます」

 

「規則?」

 

「ええ。我々は特に損耗度の高い任務に従事する部隊でありますが、他部隊と連携する際、窮地にいる者の性別で他部隊の行動に影響を及ぼしてしまうというケースがありまして……。それを防ぐために、例え任務を共にする部隊相手でも、隊員の性別をはじめとする個人情報の開示は原則禁止されているのです」

 

 窮地にある中で、弱者を切り捨てる……という話は、実の所そう多くはない。女性兵士をかばうためにこぞって男性兵士が殿をつとめて戦死し、普通よりも損耗率が増えた……なんていう話の方が、実は割と多い。

 

 窮地において人間の本性が出る、なんていうのは戯言もいいところだが、極限環境で弱者を食い物にする者がいればその逆もいるという事だろう。海兵隊なんていうのは消耗前提の過酷な任務を主とするのだから、そういった極限状況でのトラブルにはよく晒されるのだろう。パワードスーツの着用者には、女性が多いという噂だ。

 

「言いたいことはわからないでもないが……」

 

「申し訳ありませんが、ご納得していただくしか」

 

「まあしょうがない。名前ぐらいは教えてくれるんだろう? じゃないとさすがに不便だ」

 

「申し訳ありませんが、個人情報の開示は原則禁止されています。私の事はコールサインであるナックル1とお呼びください」

 

「そうか……」

 

 こう取り付く島もないのではどうしようもない。感情も人間味も感じられないバイザー相手への談話は諦めて、アレックスは今回作戦を共にする海兵隊の一同をぐるりと見渡した。

 

 全員、やや緑色がかかったライトグレーの装甲でがっちり全身を固めている。サイズも大きく、2mは間違いなく超えている。生身の人間からすると、ほとんど巨人だ。打撃部隊というだけあって、運動性より防御力や攻撃力を重視しているようだ。

 

 上半身は可動部の少ない丸みを帯びた装甲で構成されており、一見すると関節の位置なども人間のそれと異なっているように見える。まあパワードスーツだし、別に必ず腕をアームに通していないといけないという事もない。胴体にパイロットの全身を収めているのだろう。

 

 そして主武装もそのアームらしい。全員がその右腕に大口径の機関砲を装備しており、左手はそれそのものが二回りほど右腕より大きい。これで敵を殴ったり握りつぶしたりするのだろうか。

 

 そんなパワードスーツが全部で六人。それが今回、アレックスの指揮下に入る海兵隊の戦力だ。

 

 ……勿論、全てを真に受けている訳ではない。おそらく監視も半々だろうな、とアレックスは読んでいる。

 

「しかしナックル1。君達は我々の27式に搭乗して敵地突入を担うと聞いているが、その図体では車内に収まらないだろう? どうするんだ?」

 

「問題なく。こちらの改造で27式の車体にグリップを溶接させていただきました」

 

「……グリップ?」

 

 言われて27式に目を向けると、なるほど。車体後方に、取っ手のようなものがいくつか増設してある。一見するとはしごの出来損ないのようにも見える。

 

 納得して、視線を戻す。

 

「……あれでどうするんだ??」

 

「掴まって移動します」

 

「タンクデサントかよ!? 正気か!?」

 

「おお、その概念をご存知なんですか。物知りでいらっしゃいますね」

 

「そりゃ私みたいな立場の人間は勉強するよ! 歴史的な愚挙の一例としてな?!」

 

 タンクデサントというのは、人類がまだ地球という一惑星に収まっていたころ、ある北方の軍事国家で運用された……その、極めて無意味に人命を損耗する思慮の浅い戦術である。

 

 浸透戦術の一つとして考案されたその戦術は、戦車の外部に兵士を乗せて運搬する事で、敵陣突破後速やかに敵地制圧に移れるように考案されたものだ。理屈でいえば確かに間隙なく制圧に入る事で敵の反撃を封じる事ができ、その点では有用だったといえるが、前提条件が完全に狂っていると言わざるを得ない。敵戦車を迎撃するような防御陣地に、兵士達は大した防護もなく戦車にしがみついて突撃するのだ。そもそも戦車が重装甲化したのは、敵地からの迎撃に耐える為であり、そんな砲撃が飛び交う中でただ戦車にしがみついているだけの兵士など、何かのついでに死んでいくだけだ。

 

 一応、有用な戦術であったのは違いない。だが、何をどう考えても支払うコストとリターンが釣り合わなさすぎて、世紀の愚策だったというのが今現在の解釈だ。

 

「まあ、落ち着いてください。我々の場合は事情が違うのです、決して考えなしにやっている訳ではありません」

 

「いや、そりゃそうだろうが……」

 

「まず、我々はパワードスーツを着用しております。スーツの防御力は車輛の正面防御には劣りますが、それでも至近弾の爆発程度はものともしません。可能な限り車輛後方につかまりますので、直接照準で攻撃される危険性も薄いです」

 

「いやそうだが、そういう敵陣突撃するなら、専用の車輛とかあるんだろ? 別に私達につきあってくっついて突入しなくても……」

 

「あー……いや、あるにはあるんですが……」

 

「?」

 

「需要と供給が釣り合ってなくて……投入できる機数が少ないんです……。足回りがすごく壊れるし……。それで仕方なくタンクデサントはじめまして……」

 

 バイザーごしで分かるほど明らかに目をそらして言うナックル1。

 

 それで察した。

 

 多分、タンクデサントは海兵隊でも一般戦術じゃない。この連中が独自に始めて、なんか変な戦果を挙げて上も持て余している。んで、別部署の同じく持て余されてる部隊にくっつけちまおう、という話ではないだろうか、これ。

 

 根拠はアレックスの軍歴。海兵隊と何度か戦場を共にしたが、タンクデサントやらかす部隊は見たことがない。そりゃあパワードスーツを装着しているから、生身の兵士よりよっぽどマシなんだろうけど、それでも危険な行為には変わりない。結果を出したから評価しない訳にはいかないけど、軍としてはそんなやり方が普及しても困る。だから特殊部隊という名目で隔離しよう、というのはまあ、よくある話だ。

 

「まあいいや……。まあお前らのやり方には文句は言わないけど、運ぶのはこっちだ。作戦中はこちらの指示にちゃんと従ってもらう。こっちが頭で、お前らが腕。それでいいな?」

 

「指揮権の所在についてはこちらも納得しております。問題はありません」

 

「それならいいんだけどな」

 

 正直、変な戦術を使う部隊の指揮官をどれだけ信用するべきか、判断に困る。とはいえそれはあちらから見てもそうだろう。独立遊撃小隊なんて、愚連隊の言いかえみたいなものである。お互いに譲歩するべきところは譲歩しなければ、信頼以前の問題だろう。あとはそう、お互いに信がおけないなら、上官がいかなる人物かで判断する。海兵隊は少佐を、アレックスはあの准将や大佐を。彼らの紹介した人物だ、そう悪い物ではないだろう、そう信じるしかない。

 

 とにもかくにも、顔合わせは終わった。

 

 話の流れを見て取ったのだろう、ミリシアが副官の顔でアレックスの横に並ぶ。

 

「打ち合わせの方はよろしいでしょうか?」

 

「ああ。そうだな」

 

「では隊長はこちらに。隊長はまだお怪我が癒えてないのですから、可能な限り安静にしておくべきです。海兵隊の方も、よろしいですね?」

 

「はい。お時間頂き、ありがとうございました」

 

「では」

 

 儀礼的に敬礼を交わし、ミリシアはちょっと強引にアレックスの肩を支えてその場を後にする。引きずられるように車輛に運ばれながら、アレックスは困惑に目を白黒させた。ミリシアらしくないというか、海兵隊との間の話をとにかく中断させたい、みたいな空気が見て取れたからだ。

 

「な、なんか気に入らない事があったか?」

 

「いえ。別に。……いえ、ひとつありますね。重要な事です」

 

「な、なんだ?」

 

「あの人達、女性ですね。間違いない」

 

「……はい?」

 

 斜め上の発言に、ぽかんとするアレックス。

 

 女性、と言われても、一体何を根拠に。変声機を通した声は判別がつかないし、パワードスーツをまとっている以上体型もわからない。想像したように、手足を胴体に纏めているならなおさらの事だ。

 

 しかし、ミリシアがこういうからには、何かしらの根拠があるのだろう。だがしかし、それで彼女が不機嫌になる理由が分からない。

 

「そ、そうか。女性か……でもそれでなんで不機嫌な訳?」

 

「不機嫌という訳じゃありません。いいですか隊長、彼女たちとは必要以上に会話をしたり、親しくしないでくださいね?」

 

「え、いや、本来別の管轄の相手だし、そりゃそうだけど……。一緒に任務に臨むんだし、友好を深めておくのは……」

 

「い い で す ね?」

 

「はい」

 

 光の無い瞳に見返されて、一も二もなく返答するアレックスだった。

 

 






<戦場のひみつ:猟兵級は兵士が戦場で目視したくない異星生物の一つである。走るヒトデとも称される彼らの爪は異常な鋭さを誇り、単純な装甲厚で防ぐのは不可能とされる。反応速度も人間のそれを越えているとされ、基本的に兵士が一対一で戦えばサイコロステーキの山ができるだけである。>

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