※この作品はR-18です。

未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版)   作:SIS

22 / 87

<戦場のひみつ:「嘘じゃない、俺は見たんだ! ドロップポッドが減速もせずに砲弾みたいに落ちてきて、粉塵が舞い上がってる中に見た事もないスーツの連中が飛び出してきたんだ! そいつらは異星生物の近接猟兵を瞬く間に全滅させて戦場の奥へ消えていった……本当なんだ!」>




第二十二話 巨獣狩り

 

 

「しっかし考えやがったな。どうりで短時間で基地が落ちたわけだ」

 

「感心してる場合ですか!? どうするんですあんなの!?」

 

 半ば現実逃避で感嘆するアレックスに、やけくそ気味のネルスの突っ込みが飛んだ。件の生体高射砲というか、生物要塞(オーガニックフォートレス)とでもいうべき巨大生物は、レーザーによる掃射の冷却中なのか動く様子はない。が、かといってずっとじっとしているとも思えない。遊撃隊としては何か今のうちに対抗策を考えるべきだろう。

 

 と、その生物要塞へ無数の火線が伸びた。目を向けると、海兵隊の部隊が独自に生物要塞への攻撃を開始したようだ。パワードスーツだからこそ運用できる大口径の機関銃や、強襲車輛の機関砲が巨大な怪物の甲殻に降り注ぎ、さらには虎の子の誘導ミサイルも発射される。迎撃を受ける事もなくまっすぐ伸びていったミサイルは甲殻に着弾、大きな爆炎を咲かせるが……その規模は、巨大な怪物からすると小さな抵抗でしかなかった。

 

 爆炎が晴れるが、その下の甲殻はほとんどダメージを受けていない。現代のCE兵器で突破できないとなると、手持ちの火器では甲殻部分の破壊は不可能、攻撃を加えるだけ無駄と断言していいだろう。集中攻撃を続ければ破壊できなくもないだろうが、時間と弾薬の消費に割に合わない。

 

 そもそも、それまで敵が大人しくしてくれるはずもない。巨大生物は、くわえられた攻撃に反応するようにのっそりと身を蠢かすと、足踏みするように節足を動かした。本人からすると身じろぎした程度だろうが、それでもその巨体だ、地響きが生じただでさえ不安定になっていた地盤が崩れ、崩落し、パワードスーツ隊が翻弄される。

 

 強力なパワードスーツの欠点だ。アシストによって生身のそれと変わらぬように身軽な動きを見せるが、その実重量が数トンを超える事実は変わらない。こういう足元が不安定な場所では、思うように動けない。

 

 そこへ、踏みつぶすように巨大な足が振り下ろされた。流石にそのまま素直に踏みつぶされるほど練度の低い者はいなかったが、不安定な足場での急な回避運動で体勢を崩す者が続出。強襲車輛も無理な退避が祟って廃墟の残骸に乗り上げたりして行動不能になる車輛が出る。そこへ、雑兵の異星生物が群がっていき、突発的な迎撃戦が繰り広げられた。この程度の数に包囲殲滅される事はないが、かといって巨大生物に割く火力は確保できないだろう。事実上、対生物要塞用の戦力として、彼らは使えない事になる。

 

 瞬く間に海兵隊が無力化される様を物陰から眺めながら、アレックスはまだ27式に搭乗しているはずのナックルチームに通信を繋いだ。

 

 本来、アレックス達の仕事は退路確保だが、もはやそんな事をいっている場合ではなくなったとみるべきだろう。

 

「アント1からナックル1へ。緊急事態だと判断するが、指揮系統はこちらのままでいいのか?」

 

『ナックル1からアント1へ。ウォーデン1と連絡が繋がりません。戦闘から脱落した模様。……指揮系統の変更はありません。我々は貴方の指示に従う。……何か考えがあるのですか?』

 

「ある」

 

 断言するアレックスに、車内の部下もぎょっとして振り返る。

 

「ああ、言っておくが逃げるが勝ちじゃないからな。あのデカブツをぶちのめす方法に心当たりがある。で、その前に一つ、ミリシア操縦手に確認だ。お前、この基地の敷地と道路の間取り、どれぐらい把握してる?」

 

「全部は無理ですけど、把握してないあたりは全部崩落してるみたいなんで。なんとか」

 

「うし。じゃあ次にクズノハ砲手。27式が最大速度で移動中の射撃、命中率何割ぐらい自信がある? 低めでいってくれ」

 

「ん。えーと……4、5割です」

 

「あの……隊長? 何を?」

 

 うすうす何するかわかりつつも、決定的な思惑が分からないので一同を代表してネルスが訪ねる。

 

「ま、簡単な話だ。7式超重戦車が、二本足だけど本当の意味で歩くことはできなくて静歩行を行ってるのは、まあ知ってるよな?」

 

「ええ、まあ。基礎知識レベルですからね」

 

「んでもって問題。あの、7式よりもさらにくそでっかい巨大生物が、普通に歩いているの、果たして物理的にどう思う? それもみた感じ外骨格だ。俺としては、無茶苦茶無理をして歩いていると思うんだが」

 

 例えば、あの一見やたら多いように見える節足。あれが、可能な限り重量を拡散しようという試みの結果、と見て取る事もできる。当初基地の地下に隠れていたのも、身を隠していたとかではなくて、可能な限り自重による負担を抑える為だった、と考える事もできないだろうか。

 

「……ん。なるほど。足を何本かダメにしてやれば、それだけでも影響は甚大、という事ですね」

 

「じゃあ、狙うとすれば関節部分でしょうか。どれだけ強固な外骨格をもっていても、関節部分だけは限界があります。まああの大きさですから、皮膜もそれなりの厚さと強度があるでしょうけど、甲殻を直接叩くよりは現実的ですかね」

 

「まあ、それでも簡単な話じゃないがな。基地中に敵がいて、崩落で道路が無茶苦茶。おまけに相手は歩いている……つまり射撃ポイントがリアルタイムで変わるわけだ。普通に考えれば無理難題もいいところだが……幸い、うちにはアホみたいに腕のよい操縦手と砲手がいる。あとはまあ、やるかやらないかの問題って訳だ」

 

 無理難題に変わりはないが。それでもアレックスはこのメンツならなんとかなるだろ、と最大限楽観を込めて笑いかけた。

 

「なんせ我々は、誇り高き人類兵士だからな。責務を精々果たさせてもらうさ」

 

 

 

 

 

「ほんじゃ、いきますよー!」

 

 ミリシアの掛け声とともに、27式が急加速する。今まで隠れていた建物から飛び出し、基地内道路へとドリフトで滑り込み、そのまま巨大生物を追う。

 

 巨大生物は当然、こちらに目もくれていない。だが、先ほどまでのように静止してもいない。その巨大の側面を晒したまま、一見ゆっくりと、しかし実際には相当な速度で基地郊外へと移動を開始している。海兵隊の攻撃が、何かの引き金になってしまったのだろうか。

 

 その目的が何かはわからないが、基地内に潜んでいればいいものをわざわざ移動するのだ。放っておいたらロクな事にならないに決まっている。

 

 それを追う27式に、道すがら異星生物が襲い掛かってくる。大半は海兵隊との戦闘に誘引されているようだが、それでも何匹かは目ざとく27式に気が付いたようだ。

 

『排除しろ!』

 

 それを撃退するのは、海兵隊の皆様方の仕事だ。パワードスーツの力で車体にしがみついたまま、片手で機関銃を連射して敵異星生物を寄せ付けない。常人であれば、そのうち腕力がつきて振り落とされてしまうだろうが彼ら彼女らにはその心配はない。不安定な姿勢をものともせず、的確に接近してくる敵戦力を排除する。

 

「……敵生物要塞、射程圏内に入ります。砲手、ターゲットの情報入力が完了しましたので照準装置に反映します。手前からα、β、γと呼称」

 

「ん。了解」

 

 ネルスの操作で、イオリの覗く照準ディスプレイ内の情報が更新される。今回のターゲットは、敵生物要塞の右側面の足三対。最低でもそれだけ行動不能にすれば、敵を無力化できるという算段だ。確証はないがこの状況、5本も10本もへし折るのは完全に不可能だ。ここはネルスの計算を信じるしかない。

 

 本来、巨大生物の関節部分、なんていう極めて限定された標的設定は用意されていないが、この短時間にネルスがプログラムを書き換えて適合させてくれたようだ。これで随分やりやすくなる、とイオリは内心彼女の情報処理能力に感嘆した。

 

「ニーナ副砲手もミサイルの誘導準備を進めておいてくれ。万が一、敵関節部の強度が想像以上だった場合、ミサイルによる攻撃を敢行する」

 

「了解。……最初からはだめ?」

 

「機関砲で済めば、ミサイルは別の使い道がある。とっておいてくれ」

 

「はーい」

 

「操縦手から報告! 次の角を曲がった先でいい感じのコースに出るから、そこで一本、やっちゃって!」

 

「ん。砲手了解」

 

「了解した。ナックル1、聞こえているな? 振り落とされるなよ?」

 

『我々に構わず、存分に』

 

「3,2,1。行きます!」

 

 ミリシアがハンドルを切り、27式が建物の陰から開けた場所へ滑り込む。すぐさま逆方向にハンドルを切り返し、ドリフトを決めながら車体正面をターゲットへと向ける。流石のドライビングテクニックで、ほとんど照準の調整の必要なく、ターゲットαが照準ディスプレイの正面に運ばれたのを見て、イオリがぺろりと舌を嘗めた。

 

 これで外すようでは砲手失格だ。微調整を行って、引き金を引く。

 

 唸りを上げる大口径機関砲。軽戦車程度なら貫通する徹甲弾が、折りたたまれた皮膜で保護される外骨格の関節へと叩き込まれた。

 

 青白い鮮血が被弾箇所から噴き出した。

 

「命中確認!」

 

 戦果を待たず、すぐさま27式は建物の陰へと退避する。追いかけるよりも身を隠す事を優先し、速度も落とした。今の攻撃に効果があるにしろないにしろ、身を晒していては危険である。勿論隠れていては戦果も確認しづらいが、今回は幸い、文字通り別の目がそれをチェックしてくれる。

 

『ナックル1からアント1へ! 敵生体要塞の姿勢が……!』

 

「アント1からナックル1へ。報告は簡潔明瞭に頼む」

 

『失礼しました! 敵生体要塞、ターゲットαの崩壊を確認! 歩行肢が一つ機能不全を起こしたことで、生体要塞の姿勢が崩れました! なおも移動は継続中ですが、速度は低下した模様!』

 

「……よし! すくなくともこの攻撃は有効か」

 

 ならばあと二本、同じことを繰り返せばいい。だが、効果があったなら、敵もこちらに警戒を払うだろう。次の攻撃は危険を伴う。

 

「ミリシア操縦手、次の攻撃ポイントは?」

 

「この先100m先に、幅の広い道路が横切ってるけど……ネルス?」

 

「海兵隊から送られてきた映像を解析しました。憶測ですが、速度は2割ほど下がっているようです」

 

「だったら先行して待ち構えるってのはどうでしょう、隊長?」

 

「だな。別に後ろから追いかけて番号順に撃破しなければいけない事もない。効率的にいこう」

 

「ん。臨機応変に柔軟に対応、ですね」

 

「その言い方だとただのいきあたりばったりに聞こえるからやめてほしいかな……」

 

 アレックスとイオリの寸劇を流しながら、車輛は再び速度を上げる。生物要塞からは少し距離を置いたので、通り過ぎていく倉庫や鉄塔の合間に巨大生物の姿が見える。攻撃情報が共有されたのか、脚部を狙って海兵隊からの攻撃が行われているようだが、見たところ効果は薄い。それでも確かに、地響きの間隔は長く、遅くなっていて、たちまちのうちに27式は巨大生物を追い抜いて道の先に回り込んだ。

 

 その先に、異星生物の先兵級、猟兵級が群がってくる。何らかの意思疎通手段によって自分達の切り札が損傷を受けた事、それをやったのがアレックス達である事を把握しているのだろうか、先ほどまでの散発的な襲撃と違い、明確な敵意と目標意識を感じさせる攻撃に見える。

 

 再び海兵隊が対応するが、次々と波状攻撃を仕掛けてくる敵を捌ききれない。ついに迎撃の弾幕を抜けて、一匹の猟兵級が27式の上部装甲に取りついた。

 

『失礼します!』

 

 即座にナックル1が持ち場を離れ、27式の上部に飛び乗る。頭上に重量物が衝撃に車内で悲鳴が上がり、衝撃で27式の車体が弾んだ。その不安定な状況でナックル1は巧みに姿勢を維持し、パワーアームで猟兵級を即座に握りつぶした。そこに、次々と敵がとびかかってくる。ナックル1は持ち場に戻る事もできずに、その場での応戦を強いられた。機関銃を打ち、アームで薙ぎ払う。その度に27式の車体が揺れ、フラフラと蛇行する車輛をミリシアがなんとか制御する。

 

「ナックル1、どうにかして下がれないか!? 車輛がひっくり返る、っていうかこのままだと機関砲も使えない!」

 

『それは、山々、なんですが! 敵も、そうはさせないつもりの、ようで!』

 

 切迫したナックル1の会話の合間に、破砕音や殴打の音、機関銃の銃声が混じる。ナックル1とて下がりたいがとても下がれない様子。もちろんナックル1を無理に下げても、今度は27式の上部装甲がくり抜かれておしまいだ。どうしようもない。

 

「……やむを得ん! 副砲手、ミサイルの準備!」

 

「りょーかい」

 

 車体がこれだけ激しくぶれている上に、肝心の機関砲正面にはナックル1が立ちふさがって獅子奮迅のあり様だ。即座に誘導弾の攻撃に切り替える。ランチャーは砲塔側面にあるので、ナックル1が発射時に気を付けていれば巻き込む心配はない。

 

『ナックル2からアント1へ! こちらのスーツの赤外線観測データをそちらに送る、ミサイル誘導の助けにならないか?』

 

「情報手、どうだ」

 

「ありがたいです! データ諸入力はこちらで行いますので、とにかく情報! ください!」

 

「……ミリシア操縦手! 逢引の予定ポイントは破棄、とにかくミサイル発射可能な体勢を維持できるか?」

 

「頭の上で大立ち回りされてる状況じゃ、むーりー! です! 数秒でいいから、ちょっと静かにしてもらわないと!」

 

『そんな事言われても! ええいくそ、他の海兵隊を無視して全員こっちに来てませんかこれ!? この! 寄るな!』

 

「……他の海兵隊の突撃車輛はどうした?! まさか全滅した訳でもあるまい!」

 

 こちらに敵戦力が集中しているというなら、逆にこちらが囮になって海兵隊に攻撃してもらうのもありだろう。そのつもりで声を上げたが、返事は思わしくない。

 

『こちらナックル2! 他の部隊は一応健在ですが、必要な攻撃力、という意味合いでは相当に消耗しています! こちらの突撃車輛の機関砲は口径不足で、生物要塞の関節部分に通じなかったようです! 誘導弾も、使い果たしている部隊がほとんどで、あの巨大生物要塞を攻撃可能な位置にいて、攻撃力を保持しているのは我々だけです!』

 

 まあ、仕方ない話である。そもそもパワードスーツを着用しているとはいえ、それでも彼らは歩兵に過ぎない。巨大生物要塞なんていう、戦艦に等しい対象を破壊できる装備など、限られていて当然の話だ。車輛の火力不足についても、そもそもアレックス達の27式は新型の部類だ。それに比べて海兵隊の車輛は何十年という運用実績があり、見方によっては旧型もよい所であり、長年の運用で任務に応じて火力も最適化されている。生物要塞を相手にするのはそもそもの仕様外なのだ。

 

『一つ提案が! 我々ナックル小隊全員で一度降車し、防御陣形を取るのはどうでしょうか。その場合、車輛も足を止める事になり、これ以上の追撃は難しくなるかもしれませんが……』

 

「……可能かどうかもわからない三撃目よりも、今できる攻撃を優先するという事か」

 

 ナックル2の提案を受けて思考をこねる。足を止めれば、この状況。確実に包囲されて追撃は不可能になる。だが、現状でもじり貧だ。このままでは二本目への攻撃もままならない。

 

 これが一般兵なら、それが愚策でも上の命令に従うものだが、アレックス達は独立遊撃隊、自分で考えて天秤を傾けなければならない。そして当然、場合によっては責任も生じる。

 

「…………」

 

 思ったよりも決断に手間取り、アレックスは自分で自分に少し吃驚した。答えは決まっているのだが、その結果生じうる負債を考えると、部下達の顔がどうしても過ってしまう。少し情を抱きすぎたかな、と彼はこっそりと自嘲した。

 

 そんな彼に助け船を出すようにナックル1の通信が入った。

 

『こちら、ナックル1! フロントライナーとして、アント1に、提言! ふんっ! 攻撃すべきです! せぇいっ! 貴方達第77独立遊撃隊の英雄的活躍は、うおりゃぁ! 我々が保障します!』

 

『こちらナックル2。ナックル1に同意。そもそもです、戦場において、たった一輛の攻撃車輛の英雄的行動が戦局を左右する事について、その責を問う方がおかしいのです。戦場の勝敗を決定するのは、英雄ではなく個々の兵士の奮戦であるのですから』

 

「……感謝する。ミリシア操縦手、ミサイル有効射程内で車輛の足を止めろ」

 

「了解しました」

 

 27式がゆっくりと速度を落とし、停車。ここぞとばかりに全方位から群がってくる異星生物の前に、降車したパワードスーツ隊が壁となって立ちはだかる。

 

『ようやく地に足をつけて戦えるぜぇ』

 

『我々を容易く抜けられると思わないことですね!』

 

 これまで車輛にしがみついての迎撃に専念していたナックル2以下の海兵隊が、これまでの鬱憤を晴らさんとばかりに群がってくる異星生物をちぎってはなげ、ちぎってはなげ。

 

 27式の上で獅子奮迅の活躍を見せ装甲を青い返り血に染め上げたナックル1は、ようやく足を止める隙を得て、機関銃で味方を支援し、時折抜けてくる猟兵級を拳で薙ぎ払う。

 

 ようやく、ミサイルが発射できる程度に車体が落ち着いた。

 

 勿論、彼らの優勢がいつまでも続くはずがない。稼いだ時間で、ニーナは迅速にミサイルの発射準備を整えた。

 

「隊長、準備できた。いけるよ」

 

「よし。万が一にも仕留めそこなうと事だ、全弾発射しろ」

 

「りょうっかい」

 

「ナックル1にも伝達。ミサイルを発射する、巻き込まれるなよ!」

 

『了解しました』

 

「……撃ちます!」

 

 砲塔の左右にあるランチャー、計四つのミサイルが、僅かな間隔を置いて射出される。一瞬だけ落下したそれらはロケットモーターに点火、炎の尾を引いてまっすぐ空へと駆け上がっていく。異星生物に占拠された基地に、火の星が昇っていく。

 

 どうにかあたりますように、とミリシアは操縦席からその軌跡を眺めた。

 

 どうかあたってください、とイオリは両手を合わせて祈った。

 

 まあなんとかなるといいね、とニーナは座席に身を預けた。

 

 あたるとかあたらないとか考える暇もなくネルスは情本端末に目を走らせていた。

 

 きっとうまくいく、とナックル1はミサイルの軌道を目で追った。

 

 そしてアレックスは、当たった時と当たらなかった時の立ち回り両方に意識をめぐらせていた。

 

 三者三様の希望と期待をのせて、ミサイルが巨大生物に向かう。

 

 廃墟の陰から舞い上がるミサイルに、巨大生物は明らかな反応を見せた。まるでミサイルを防ぐように、無数の節足を戦慄かせる。発射されたミサイルのうち二つは、頑丈極まりない甲殻に阻まれて空しく花火と化した。

 

 残る二発は、弧を描いて左右からターゲットに迫る。着弾位置がややずれながらも、同時に着弾。挟み込むように、爆発が巨大生物の節足、その関節で爆炎が上がった。

 

 わかりやすい悲鳴は上がらない。巨大生物も多くの異星生物の例にもれず、声帯をもたなかった。それでも、同じ生き物として通じるモノが無いわけではない。明らかに苦痛を感じさせる、無言の叫喚をアレックス達は確かに感じた。

 

 黒煙の中で、巨大な節足がぐらりと傾ぐ。それはそのまま、崩れ落ちるように倒れこんだ。半ばで砕かれた関節からは、間欠泉のように青い血が迸って、忽ち周囲を青色に染め上げていく。

 

 ぐらり、と生物要塞が姿勢を崩す。致命的なピースを抜かれたジェンガのようにその巨体が破綻を迎え……しかし。その一歩手前で踏みとどまった。

 

 バランスは崩された。生物要塞も無理をしている。その証拠に、傾いたバランスを必死に抑え込もうとする節足は軋み、甲殻はクラックが入り、関節からは血が滲んでいる。だがそれでも倒れない。

 

 一手、足りなかった。

 

「……ちっ」

 

 舌打ち一つでその現実を受け入れ、アレックスは模索する。ミサイルは撃ち尽くした。この事に後悔はない、もし出し惜しみしていればこの攻撃すら通らなかった可能性は大きい。それでもやはり予定通り、三本目の破壊が必要だ。

 

 見たところ、残された足に相当な負荷がかかっている。これまでよりは破壊に必要な火力は少ないだろう。だが、その程度の火力すら今は絞り出せない。

 

 何か手はないか? 廃墟を倒壊させる、あるいは大型車輛でも探してきて突っ込ませる? あるだろうか、そう都合よく。それよりは、主砲が運用可能な状態で放棄された戦闘車輛を探してきて一発にかける方が現実的ではないか? 幸いパワードスーツ隊の協力もある、人力はなんとかなるはずだ。

 

 とにかく、攻撃は失敗した。すぐにここを離れなければならない。周囲で奮戦している海兵隊にその事を通達しようとした、その時だった。

 

『……ちら、ガガッ、連隊所属……ガガッ! 聞こえ……か、第7……ザッ』

 

「?」

 

 不意に、通信機にノイズが入った。一瞬、空電かと思ったが、単語らしきものを聞き取ってアレックスは意識を集中させた。

 

 

 





<戦場のひみつ:伝説的な活躍をした兵士の物品が、遺物として兵士達の間でお守りのように扱われる事もある。爆心地で生き延びた兵士のドッグタグ、白兵戦で制圧級を打倒した兵士の銃剣の切っ先などが有名。こういったものは基本的に軍によって回収されるが、黙って所持し続ける者が後を絶たない。>



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。