未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
第二部開始時点での登場人物紹介
・アレックス・ウィンザード中尉
本作の主人公。普通だったら全滅している戦場を三度生き延びた悪運なのか強運なのかよくわからない星の下にいる。また、彼が向かう先では大抵大変な事が起きる。
独立遊撃隊を率いる事になったが、正直手綱を握れないままトラブルに見舞われなんとかやっている。その過程で部下とねんごろな中になったが、本人は半分楽しみつつ半分メンタルケアのつもりでやっている。
人間離れした反応速度と対応力と精力の持ち主。防御力は人並み。
・ミリシア・ヴァディス二等兵
ウェーブのかかったブラウンの髪に、緑色のアーモンドアイが特徴の女性兵士。均整の取れたスタイル。以前の部隊で慰み者にされていたが本人も色事は割と好きだったのでそんなに引きずっておらずわりと乗り気。色々きっかけになる。一見すると物憂げでミステリアスだが、内面はかなり執着するタイプ。これまでがさつな関係ばかりだった為、ちゃんと相手をしてくれる主人公に滅茶苦茶入れ込む。
役職は操縦手。
・イオリ クズノハ二等兵
黒髪ロングに、青い瞳の女性兵士。全体的にいささか慎ましやかな体系だが、それが良い。以前の部隊にいた恋人と死に別れている。一人では生きていけないタイプの弱い人間なので常に依存先を探しているが、死に別れた恋人への義理立てもあって一人でいるため、情緒不安定。押されるとコロリと行くが、アレックスは常識人かつわきまえているため、周りの干渉がないと押しに行かない。
表向きは普通に振る舞うが、依存した相手には嫌われまいと何でも言うことを聞くタイプ。
役職は砲手。
・ネルス マーディス二等兵
長い黒髪を三つ編みにした、紫色の瞳の女性士官。バランスよく肉付きの良いスタイル。軍人としてきっちりしておりプライドが高く自身の能力も非常に高くそこに自負があるタイプ。女性であるというだけで軽んじられてきたが、己の能力で生き残ってきた。一方で線引きもきっちりするタイプで男性に壁を作ることはなく、部隊長になった主人公に特に含むことはない。
役職は機銃手兼情報管理。
・ニーナ テジレア二等兵
難易度B 金髪ロングに、じとっとした碧眼をいつも半眼にしている女性兵士。胸も尻も大きい。捕虜を取らないはずのエイリアンの捕虜になった経緯から、身体に異常がないと判断されつつも部隊をたらいまわしにされてきた(上もなんらかのマーキングがされているのでは? と独立部隊に押し付けた)。以前の仲間とは仲が良かったのに自分だけが生かされ屈辱的な思いをしたからか、根暗で陰鬱な性格だがエイリアンには異常な敵意を向ける。あんまり楽しくいきたいとか己の欲求に重きを置いてないタイプなので、部隊長いいなーと思いつつもなかなかアピールに移さなかった(過去形)。
役職は副砲手。
植民惑星ウィンザード。
惑星の大半が寒冷地帯であり、そのほとんどがツンドラ地帯で構成されている極寒の惑星である。春も夏も短く、一年の大半は氷と雪に閉ざされている不毛の地……と思いきや、その天候に適応した動植物が豊富に存在し、多少厳しいのは事実だが意外と人間が住むには快適な星だったりする。
また若い惑星であるからか地下活動も活発で、地震も頻繁におきるが地熱エネルギーも豊富であり、そこら中に温泉が噴き出してもいる。その源泉を熱源に、人々はそれなりに豊かな生活を送っていた。
その惑星ウィンザード唯一の空港に、一機の輸送機が飛来した。
漆黒の機体に、黄金の装飾。年に数度使われるかどうかという寂れた空港に似合わない、権力を示す威圧的なデザインの輸送船は、上級軍事将校の搭乗を指し示すものだ。
慌てて身なりを整えたであろう空港スタッフがタラップの前に集まり、ぎこちなく最敬礼の構えで搭乗者を出迎える。
のっそりと、搭乗口から姿を現す客人。身分を示す黒いトレンチコート、バリバリに決めたスーツに、オールバックで撫でつけた色の抜け落ちた白髪。皺だらけの顔には長年の苦労と戦傷が刻み込まれており、片目は機械化され、反対側の目には丸眼鏡をかけている。そして腰には、彼らの職務を象徴する大口径のハンドガンが吊り下げられていた。ジャッジメント……プラスティックアーマーを容易く貫通する実弾銃。
壮年の政治将校は、ギロリと立ち並ぶスタッフをねめつけると、低い声で語り掛けた。
「ご苦労」
「はっ!」
「……そう肩肘を張るものではない。あくまで今回は私的な訪問だ。軍人ですらない民間人に向ける銃は持ち合わせていない。諸君らが背信者でない限りはな」
「はっ!」
おそらく、政治将校なりの気遣いだったと思われる。語りかけた言葉に、しかしスタッフは元々青い顔からさらに血の気をひかせてガチガチのあり様だった。
政治将校はしばし言葉に迷うように沈黙していたが、何を言っても逆効果と判断したのだろう。黙ってタラップを歩み降りる。スタッフが進み出て、彼の荷物を受け取った。
「……ガル総督の元まで案内してくれたまえ」
「ははっ」
総督の家は、この星の頂点に立つもののそれとは思えないほど質素なものであったが、品の良い落ち着きのある邸宅ではあった。政治将校がここを訪れるのは三度目になるが、前回からは数年を経ている。だが、よく手入れをされている邸宅は、何年さかのぼっても変わらぬように見えた。
「よく来てくれた、友よ」
惑星ウィンザードの総督であるガル・ウィンザードは、そういって朗らかに微笑んで旧友を迎え入れた。熊のように毛深くガタイのいい男だが、笑うと一層猛獣を思わせる。笑みというのは、本来威嚇的なものだったな、と政治将校は聞いた話を思い返した。
そのガルの隣で、年若い女が赤子を抱いて微笑んでいる。ガルと同じ黒い髪に青い瞳。彼女の事を、政治将校もまた知っていた。前回あった時はまだ幼さの抜けない子供であったが、今は”母”としての顔を持った立派な女性に成長していた。
「リリーナどの、お久しぶりでございます」
「モシンガナ叔父様も、お久しぶりです。ほら、ルー。お爺ちゃんのお友達よ」
「うー?」
幼子はくりくりとした黒い瞳でじっとモシンガナを見つめてくる。その純粋無垢な瞳は、血生臭い人生を送ってきた政治将校にはいささか直視しかねる。それとなく目を逸らすが、子は興味深そうにじっと目を離さなかった。
「リリーナ。私はモシンガナと話があるから、お前は奥でルーの面倒を見ていてくれ」
「はい、わかりました」
政治将校に頭を下げて、邸宅に戻るリリーナ。そんな彼女を見送り、政治将校……モシンガナは感慨深そうにつぶやいた。
「時が流れるのは早いものだ。あの幼子が母親にか……。男か? 女か?」
「男だ。これでウィンザードも安泰、と言えればよいのだが」
「……父親は?」
「アレックスだ。息子が徴兵される時に種を強請ったそうでな。それが的中、だったらしい」
「そうか。まあ、この星とお前が健在であれば、シングルマザーであってもさほど苦労はしまい。見たところ、よい親をやれているようだ」
「娘からしたら、最愛の兄にして夫の残した唯一の宝だからな……。逆に子離れできるか心配だ」
「今からそんな事を言ってどうする? 何年先の話だ」
「そうだがなあ……」
渋い顔をするガル。事情を知るものとして気持ちはわからないでもないが。
本来であったら、リリーナの隣には最愛の夫の姿があったはずだ。義理の兄にして婚約者、アレックス・ウィンザード。彼にリリーナが燃えるような情愛を抱いていたのは保護者の周りでは周知の事実だった。モシンガナも何度か顔を合わせたが実直かつ誠実な青年で、彼が成長しウィンザードを継ぐ日を楽しみにしていた。
それだけに、彼が突如として徴兵された時の衝撃は言葉にならない。
最も、それを言うなら親であるガル夫婦の怒りと悲しみはどれほどのものか。特に奥方は憤慨のあまり政治将校そのものをひどく嫌悪し、今やたとえ誰であろうと政治将校であるというだけで顔を合わせようともしない。今も、旧知の仲であるモシンガナを出迎えにすら出てこないが、それをとがめる気にはとてもなれなかった。
「……息子は、今も生きているのか?」
「聞いた話だと、相当にしぶといな。すでに隻眼の獅子勲章を三つ、今は西方司令部のお眼鏡にかなって独立遊撃隊を率いて、それでまた惑星が陥落するような戦闘に巻き込まれたらしい。質の悪い女神にでも魅入られているようだ」
「ああ……少しわかる。息子は昔から運が良いようで悪いというか、差し引きマイナスになるような目にばかりあっていたからなあ……」
心当たりが多くあるようで、遠い目をするガル。高次元視座理論によって運命や宿命が一定の理論的根拠を持つようになった今では、あまり笑い話にもできない。
「まあ、これ以上立ち話もなんだ。中に入ってくれたまえ」
「そうだな。邪魔しよう」
「盗聴器の類はない。安心して喋ってくれ」
客間にモシンガナを案内し、ガルはそう告げた。思わず苦笑するモシンガナ。
「お前な。私が政治将校としってそれを言うのか。場合によってはただではすまんぞ?」
「今回は私用で来ているんだろう?」
「それはそうだがな」
気心の知れた関係だからこそのやりとり。
惑星総督と政治将校。一見、あまり縁のなさそうな二人だが、しかし十年来の付き合いでもある。きっかけは、総督を継ぐために学業に励んでいたガルが、講義のために招かれたモシンガナと大学でたまたま同じベンチで食事をしたというもの。互いの素性を知らず、人類のこれからと異星生物との戦争について語り合った二人は、その場で年の離れた友人になった。以降、直接顔を合わせる事こそ少ないものの、メールでのやりとりがずっと続いていた。
「……まあいい。本題に入ろう」
「ああ」
「早速だが、例の異常な増税。あれを、中央政府は把握していなかった」
「やはりか……」
「だが、しかし。法に反してもいなかった。あの増税はしかるべき手続きを通して行われた正当な徴税、という事になっている」
「そんな馬鹿な。あれは明らかに異常な税率だった。到底正気とは思えない」
「それは私も同意見だ。それで調べてみたのだが、あの年の前後、他の宙域でも同じように異常な増税が行われていた痕跡があった。それらを私の手の者で調査したのだが、やはりおかしな事に異常は見当たらなかった。つまり、こうなってくるとだな。異常が無いのが異常、という事になる」
「そんな事があり得るのか?」
「当然あり得てはならない。だがこれが事実となると……税の手続きを行った何者かが、異常な増税を正当なものとして処置した、という事になる。深刻な反逆行為だ。中央政府の威厳にも関わる。……が、その方向で調べていても、難航していてな」
「難航? そこまでわかっていたら、すぐに下手人はわかるのではないか?」
「私もそう考えた。だが、一連の処理を行った誰もが、その異常を認識していないのだ。まるで催眠でもかけられていたかのように、手続き内容に不備があった事を認識していない」
「そう言い訳しているのではないか?」
「本気で調査しての結論だ。そんな浅はかな考えで我々の尋問を潜り抜けられるものか。終いには、尋問にあたった者達にも異常が取り沙汰されてな。今現在、この案件はA級案件として取り扱われている」
「……どういう事だ?」
「わからぬ。だが星見の連中の話では、根はもっと深いところにあるようだ。幸い、本件に関わった政治将校モドキどもは背信に自覚があったらしいのでな。捕らえて全員尋問中だ。何か情報が得られるかは怪しいが」
「……奴らか。あんなのがのさばっているようでは政治将校の品位も落ちるばかりだろうに」
「まっっったくだ」
吐き捨てるようにモシンガナも同調した。ただでさえ、政治将校はその責務の血生臭さから嫌われているが、それでも人類軍の統率を維持するための必要悪として存在している。それなのに、その特権を悪用するようなものが出てきては、政治将校という役割そのものの立場がゆらぐ。その責務故に与えられた特権なのだ。それが揺るがされては、ひいては人類軍の規律も揺らぎかねない。
モシンガナとて、同じ人類に向ける銃など持ちたくはない。だが、異星生物との戦争においては、人権をないがしろにし、逃げる者の背を撃ってでも、兵士達を前に向かわせなければならない。人類軍の後退はそれすなわち人類の生存圏の後退であり、兵士が1m後ろに退けば数億人の人命が脅かされる。人権を、尊厳を、命を投げ捨ててでも、戦わねばならない時代が今なのだ。
それが分かっていない者がいる。彼らこそ、逃亡者にも劣る真の背任者であり、死すべき邪悪に他ならない。彼らの尋問に、一切の情けも容赦も、何らかの権利も認めない。
「戦線の拡大につれ、数の限られる前線勤務者だけでは足りなくなり、専門学校の卒業生を採用する流れが生まれたが……やはり、根本的にその判断が間違っていたようだ。前線に出たくない資産家や上流階級出身の者ばかりが集まり、結果的に特権意識を振りかざす愚者ばかりが揃っている。そればかりが今回の一件の原因ではないが、無視できない要素でもある。近々、大規模な粛清が行われるだろう。……だがやはり、その結果による前線の混乱は避けられないだろう」
「ままならぬものだな」
「本当にな」
しばしの沈黙が流れる。
やがて、耐えがたい沈黙を終わらせるように、ガルは恐る恐る彼にとっての本題を切り出した。
「それで、だ。息子は、今どの戦線に……?」
「ふ。その程度なら機密に掠りもせぬよ。あまり私を悪者にしないでくれ、ガル。……西方戦線の最前線の一つ、デュートリオンⅢだ」
<戦場のひみつ:惑星ウィンザードは凶暴な現住生物が生息している事でも有名である。そのため、惑星の治安維持のためにそれらを狩る猟師は兵士としても極めて高いスキルをもっている事が多い。このように植民惑星によっては、出身者が特殊なスキルを備えており、それをどう生かすかが上官の能力の見せどころである。>